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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1249435
審判番号 不服2011-3944  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-22 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2004-233528「RFID用タグを内蔵したセンサ付軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月23日出願公開、特開2006- 52767〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成16年8月10日の出願であって、平成22年11月12日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

【2】平成23年2月22日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年2月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の特許請求の範囲の請求項1

平成23年2月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置される転動体とを含む転がり軸受と、
前記外輪と前記内輪のいずれか一方に設けられるセンサハウジングと、
前記センサハウジングに設けられて、前記外輪と前記内輪のいずれか一方の回転を検出するセンサ部と、
前記センサハウジングに設けられて、前記センサ部の検出信号が与えられる電気回路が配置された基板と、
前記基板に接続され、前記電気回路の出力信号を外部に出力する電線と、
前記基板に設けられ、前記転がり軸受の製造に関する情報および前記センサ部の性能に関する情報の少なくともいずれかを記録し、前記いずれかの情報を非接触で出力するRFID用タグと、
前記基板とともに前記RFID用タグをモールドする樹脂とを備え、
前記基板は、前記電気回路と前記RFID用タグとを前記樹脂でモールドすることにより一体化し、電気部品としてユニット化されていることを特徴とする、RFID用タグを内蔵したセンサ付軸受。」
と補正された。(なお、下線は平成21年10月26日付けの手続補正からの補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である基板とRFID用タグとの関係について、「前記基板とともに前記RFID用タグをモールドする樹脂とを備え、前記基板は、前記電気回路と前記RFID用タグとを前記樹脂でモールドすることにより一体化し、電気部品としてユニット化されていること」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は、次のとおりである。

刊行物1:特開2002-213472号公報
刊行物2:国際公開第02/101675号

(1)刊行物1(特開2002-213472号公報)の記載事項

刊行物1には、「回転センサ付き軸受」に関し、図面(特に、図1)とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「【0015】図1(A)は実施形態の回転センサ付き軸受の回転センサ部分および外輪回り止め構造部の要部正面図を示し、図1(B)は要部拡大断面図を示す。図1(A),(B)において、1は軸受で、内輪2と、外輪3と、これらの内輪2と外輪3との間に転動自在に配置された複数個の転動体4と、これらの転動体4を所定ピッチで転動自在に収容する保持器5とで構成されている。前記外輪3の外径面は軸受ハウジング6の内径面に嵌め合いによって装着してある。7は回転センサで、前記内輪2の外径面に装着されている磁気エンコーダ等のエンコーダ8と、前記外輪3の内径部に装着された芯金9と、芯金9に圧入によって固定されたセンサハウジング10と、このセンサハウジング10の内部に組み込まれたセンサ11と、このセンサ11で検出した電気信号を処理する回路を組み込んだ回路基板12と、この回路基板12から回転速度(回転数)を外部に取り出す電線13とで構成され、センサハウジング10の内部はポリウレタン、エポキシ等の熱硬化性樹脂(図示省略)でモールドされている。……」

上記記載事項(ア)及び図面(特に、図1)の記載を総合すると、刊行物1には、
「内輪2と、外輪3と、これらの内輪2と外輪3との間に転動自在に配置された複数個の転動体4とを備える軸受1と、
前記外輪3の内径部に装着された芯金9と、芯金9に圧入によって固定されたセンサハウジング10と、
このセンサハウジング10の内部に組み込まれたセンサ11と、
このセンサ11で検出した電気信号を処理する回路を組み込んだ回路基板12と、
この回路基板12から回転速度(回転数)を外部に取り出す電線13とで構成される、回転センサ付き軸受。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2(国際公開第02/101675号)の記載事項

刊行物2には、「BEARING WITH DATA STORAGE DEVICE(データ保存装置を有するベアリング)」に関し、図面(特に、FIG.2)とともに次の事項が記載されている。(なお、翻訳文は、パテントファミリー文献の特表2004-538428号公報を参照した。)

(イ) 「1. In a bearing having an inner race, an outer race, a plurality of rolling members disposed between said inner race and said outer race, and a cage to maintain a desired spacing between said rolling members; the improvement comprising a pocket formed in a surface of said bearing and a self-contained transponder assembly received in said pocket; said transponder assembly containing data unique to the individual bearing containing said transponder assembly; said self- contained transponder assembly comprising a housing, a memory chip on which said data is encoded and an antenna capable of detecting electromagnetic signals, said memory chip and antenna being contained in said transponder assembly housing; said transponder assembly and said bearing pocket being sized such that an upper surface of said transponder housing does not extend above said bearing surface.
2. The bearing of claim 1 wherein said data is chosen from the group consisting essentially of at least one measured physical property unique to said bearing, product identification data, inspection and maintenance data, condition monitoring data, inventory information data, and combinations thereof.
3. The bearing of claim 1 wherein said transponder is an RF tag.」(第11ページ第2?21行)
(翻訳文:「【請求項1】
内部レース、外部レース、前記内部レースと前記外部レースとの間に配置された複数の回転部材、及び前記回転部材間に所望の空間を保持すべくケージを有するベアリングにおいて;
当該ベアリングの表面に形成されたポケット、及び、前記ポケットに受け入れられた自己含有型中継器組立品を備え;
前記中継器組立品は、該組立品を有する個々のベアリングに独自のデータを有し;
前記自己含有型中継器組立品は、ハウジング、前記データがコード化されたメモリーチップ、及び電磁信号を検知することができるアンテナを備えており、前記メモリーチップ及びアンテナは、前記中継器組立品ハウジングに設けられており;かつ
前記中継器組立品及び前記ベアリングポケットは、前記中継器ハウジングの上部表面が前記ベアリングの表面を超えて延びていないような寸法に仕上げられている;
ことを特徴とする、ベアリング。
【請求項2】
前記データは、前記ベアリングに特有の少なくとも一つの測定された物理的特性、製造識別データ、検査データ、管理データ、条件モニタリングデータ、在庫情報データ、及びこれらの組合せのみから本質的になる群から選択されていることを特徴とする請求項1に記載のベアリング。
【請求項3】
前記中継器は、RFタグであることを特徴とする請求項1に記載のベアリング。」)

(ウ) 「Referring now to FIG. 2, a bearing 12 of the present invention has an inner race in the form of a cone 13, an outer race in the form of a cup 15, rolling elements in the form of tapered rollers 17, and a cage 18 which maintains the proper spacing between adjacent rollers 17. Although the invention is shown as part of a tapered roller bearing, the invention can be incorporated with any type of bearing. The centers of the inner and outer races 13 and 15 respectively lie along an axis X' which is the axis of rotation for the bearing 12. The inner race 13 has an end face 19 located in a plane perpendicular to the axis X'. Formed within the end face 19 of the inner race 13 is a pocket or chamber 21. The chamber 21 defines a first side 23, a second side 24, a third side 25 and a fourth side 26. The chamber 21 is recessed to a depth D (FIG. 4) sufficient to hold a suitable RF tag 28 such that the upper surface 29 of the RF tag 28 is positioned at or below the surface of the end face 19 of the inner race 13. The chamber 21 may be formed contemporaneously with manufacture of the inner race 13 or may be formed in an existing inner race using a point tool or other suitable machining or forming device. Further, the chamber 21 can be formed on other surfaces as well. For example, the chamber 21 can be formed on the outer surface of the cup or outer race 15.
Referring now to FIGS. 2-4, in the preferred embodiment of the present invention, a suitable transponder, preferably a radio frequency identification (RFID) tag 28 is secured into the chamber 21. In this preferred embodiment, the RFID tag 28 is one commonly called a "coffin" tag, due to its unique shape, and the chamber 21 is sized and shaped to receive the RFID tag. However, the chamber 21 may be formed in any suitable shape, based upon the ease of formation, space considerations, type and shape of the RF tag used, and the like. It is to be understood that other shaped and sized tags could be used in the practice of the present invention, and that the preferred coffin tag is merely illustrative. The RFID tag 28 may be secured in the chamber 21 by any acceptable method, including potting, gluing, or entrapping, for example. Preferably, the RFID tag 28 is potted in chamber 21 to a depth sufficient to secure the RFID tag 28 in position at or below the surface 19 of the inner race 13. Additionally, the chamber 21 is sized to allow for some clearance (i.e., approximately 1/16") between the RFID tag and the chamber walls to aid the RF signal in getting out of the chamber.」(第6ページ第11行?第7ページ第15行)
(翻訳文:「【0014】
図2を参照すると、本発明のベアリング12は、コーン13の形状にて内部レースを有しており、カップ15の形状にて外部レースを有しており、傾斜ローラー17の形状にて回転要素を有しており、かつ、近接するローラー17間の空間を適切に保持しているケージ18を有している。本発明は、傾斜ローラーベアリングの部品として示されているが、本発明は、いかなるタイプのベアリングをも組み込むことが可能である。内部レース13及び外部レース15の中心のそれぞれは、ベアリング12の回転軸に存在する軸X’に配列している。内部レース13は、軸X’に垂直な平面に配置された端部フェース19を有している。内部レース13の端部ベース19内に形成されているのは、ポケット又はチャンバー21である。チャンバー21は、第一面23、第二面24、第三面25、及び第四面26を定義している。チャンバー21は、適切なRFタグ28を保持するのに十分な深さD(図4)にて凹所形成されており、RFタグ28の上部表面は、内部レース13の端部フェース19の表面、あるいはその下部に配置されている。チャンバー21は、内部レース13の製造者により同時に形成されてもよく、あるいは、存在する内部レースに、ポイントツール又はその他の適切な機械加工又は形成装置を使って形成されてもよい。さらに、チャンバー21は、同様のその他の表面に形成されてもよい。例えば、チャンバー21は、カップ又は外部レース15の外部表面上に形成されてもよい。
【0015】
図2から4を参照すると、本発明の好適実施例において、適切な中継器(transponder)、好ましくは無線ID(RFID)タグ28が、チャンバー21内部に固定されている。この好適実施例において、RFIDタグ28は、その独特の形状ゆえ、一般的に、「コフィン(Coffin)」タグと呼ばれており、チャンバー21は、RFIDタグを受け入れるような寸法に仕上げられ、形成されている。しかしながら、チャンバー21は、使用されるRFタグの形成の容易性、空間的な考慮、タイプ及び形状やこれらと同種のものに基づいて、種々の適切な形状に形成されてもよい。RFIDタグ28は、例えば、ポッティング(potting)、膠状付け(gluing)、エントラッピング(entrapping)などの種々の許容可能な方法によりチャンバー21に固定されてもよい。好ましくは、RFIDタグ28は、チャンバー21に、内部レース13の表面の位置、又はそれよりも下方の位置にRFIDタグ28を固定するのに十分な深さにてポッティングされる。追加的に、チャンバー21は、かかるチャンバーからRF信号が出力されるのを補助すべく、RFIDタグとチャンバー壁との間を一定のクリアランス(つまり、約1/16インチ)に寸法に仕上げられる。」)

(エ) 「Referring to FIG. 5, in the preferred embodiment of the present invention a charge cap 35 is associated with the EEPROM chip 32. An antenna 36, preferably a ferrite coil antenna, is provided. This arrangement allows for data to be stored in the RFID tag 28, including product identification, manufacturing measurements. Additionally, bearings are sometimes refurbished after a period of use. The RFID tag 28 may store information about such refurbishing, and may include additional measurements made after such refurbishing. Optionally, a sensor may be added to the bearing, either as a part of the RFID tag, or as a separate component associated with the RFID tag. The sensor may determine operating conditions, either continuously or at predetermined intervals, and may optionally record operating conditions to which the bearing is exposed. Examples of operating conditions are current bearing temperature, load, vibration, and the like. The tag, when interrogated, would then transmit a bearing operating value corresponding to the measured bearing operating condition. Additionally, inventory information can be stored in the RFID tag.」(第8ページ第23行?第9ページ第7行)
(翻訳文:「【0021】
図5を参照すると、本発明の好適実施例において、チャージキャップ35は、EEPROMチップ32に関連づけられている。好ましくはフェライトコイル型アンテナであるアンテナ36が設けられている。この配置は、RFIDタグ28にデータを保存することを可能にしており、その、物性値には、製品識別、製造測定などが含まれる。加えて、ベアリングは、時折、使用後において、再研磨される。任意で、かかるベアリングに、RFIDタグの部品として、あるいは、RFIDタグに関連づけられた分離した部材として、センサーを加えてもよい。かかるセンサーは、連続的あるいは所定の間隔の両方にて制御条件を決定してもよく、任意で、かかるベアリングが曝露される制御条件を記録してもよい。制御条件の例は、現在のベアリング温度、ロード(load)、振動、及びこれらに類似のものなどがある。タグが照会された際、その後、測定したベアリングの制御条件に対応するベアリングの制御値を送信する。加えて、在庫情報をRFIDタグ中に保存してもよい。」)

(オ) 「Numerous variations will occur to those skilled in the art in light of the foregoing disclosure. For example, alternative AIDC methods may be employed, as are known in the art or to be developed in the art. Although the chamber 21 is shown on the inner race in the illustrative example shown, it will be appreciated, that, depending on the type of bearing, the chamber 21 can be formed on other external surfaces of the bearing as well. Further, other manufactured products, in addition to the illustrative anti-friction bearing, may be used in the practice of the present invention. The transponder may be attached to the bearing but removable by the consumer of the bearing, making location of the tag less important. For example, the tag may be attached to the cage; or, it may be glued, screwed, or otherwise secured to an internal, non-contact surface of the bearing, such as the outer diameter surface of the large (or thrust) rib or the outer race, etc. The transponder may be encoded with only a serial number, such that the serial number may be associated for identification of a unique bearing and a database that contains physical properties of that particular bearing. These examples are merely illustrative.」(第10ページ第10?27行)
(翻訳文:「【0027】
前述の開示の観点において、当業者には、種々の変法を生じさせるだろう。例えば、本技術分野にて公知、又は、本技術分野にて開発されるものとして、代替的なAIDC方法を使用してもよい。チャンバー21は、示された図示例において内部レース上に示されているが、ベアリングのタイプに依存して、チャンバー21は、同様にベアリングの他の外部表面上に形成されてもよいということを理解されるだろう。さらに、図示した耐摩耗性ベアリングに加えて、本発明の実用例において、その他の製造品を使用してもよい。かかる中継器を、かかるベアリングに結合してもよいが、ベアリングの使用者によって取り外し可能であるので、タグの位置はそれほど重要ではない。例えば、このタグは、ケージに結合されてもよいし;大型リブ(又はスラストリブ(thrust rib))または外部レースの外部径表面などの、ベアリングの内部の、非接触表面に、接着されても、ねじ締めされても、あるいはその他の固定手段により固定されてもよい。かかる中継器は、シリアル番号のみにてコード化されてもよく、このシリアル番号は、特定のベアリングの物理的特性を有するユニークなベアリング及びデータベースの識別のために関連づけられていてもよい。これらの例は、単に説明のためのものである。」)

3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「内輪2」は本願補正発明の「内輪」に相当し、以下同様に、「外輪3」は「外輪」に、「これらの内輪2と外輪3との間に転動自在に配置された複数個の転動体4」は「前記外輪および前記内輪の間に配置される転動体」に、「を備える」は「を含む」に、「軸受1」は「転がり軸受」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「センサハウジング10」は、外輪3の内径部に装着された芯金9に圧入によって固定されたものであるので、本願補正発明の「前記外輪に設けられるセンサハウジング」に相当する。
更に、引用発明の「このセンサハウジング10の内部に組み込まれたセンサ11」は、内輪2の回転を検出するものと認められるので、本願補正発明の「前記センサハウジングに設けられて、前記内輪の回転を検出するセンサ部」に相当する。
更に、引用発明の「このセンサ11で検出した電気信号を処理する回路を組み込んだ回路基板12」は本願補正発明の「前記センサハウジングに設けられて、前記センサ部の検出信号が与えられる電気回路が配置された基板」に相当し、以下同様に、「この回路基板12から回転速度(回転数)を外部に取り出す電線13」は「前記基板に接続され、前記電気回路の出力信号を外部に出力する電線」に、「で構成される」は「を備え」に、「回転センサ付き軸受」は「センサ付軸受」に、それぞれ相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「外輪と、内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置される転動体とを含む転がり軸受と、
前記外輪に設けられるセンサハウジングと、
前記センサハウジングに設けられて、前記内輪の回転を検出するセンサ部と、
前記センサハウジングに設けられて、前記センサ部の検出信号が与えられる電気回路が配置された基板と、
前記基板に接続され、前記電気回路の出力信号を外部に出力する電線とを備えた、センサ付軸受。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明は、
「前記基板に設けられ、前記転がり軸受の製造に関する情報および前記センサ部の性能に関する情報の少なくともいずれかを記録し、前記いずれかの情報を非接触で出力するRFID用タグと、
前記基板とともに前記RFID用タグをモールドする樹脂とを備え、
前記基板は、前記電気回路と前記RFID用タグとを前記樹脂でモールドすることにより一体化し、電気部品としてユニット化されていることを特徴とする、RFID用タグを内蔵した」センサ付軸受であるのに対して、
引用発明は、そのようなRFID用タグを内蔵していない回転センサ付き軸受である点。

4.当審の判断

(1)相違点について

刊行物2の上記記載事項(ウ)及びFIG.2の記載を参酌すると、ベアリング12の内部レース13の端部フェース(審決注:翻訳文には、「端部ベース」との記載もある。)19内に形成されたチャンバ-21内部に、無線ID(RFID)タグ28が固定される旨が記載されており、上記「ベアリング12」は、上記相違点に係る本願補正発明の「転がり軸受」に相当し、また、上記「無線ID(RFID)タグ28」は、上記相違点に係る本願補正発明の「RFID用タグ」と同様に、情報を非接触で出力するものと認められる。また、刊行物2の上記記載事項(イ)の【請求項2】には、「前記データは、前記ベアリングに特有の少なくとも一つの測定された物理的特性、製造識別データ、検査データ、管理データ、条件モニタリングデータ、在庫情報データ、及びこれらの組合せのみから本質的になる群から選択されていること」と記載されており、上記「データ」は、上記相違点に係る本願補正発明の「前記転がり軸受の製造に関する情報および前記センサ部の性能に関する情報」に相当する「情報」を含むものと認められる。よって、刊行物2記載の上記「無線ID(RFID)タグ28」は、上記相違点に係る本願補正発明の「前記転がり軸受の製造に関する情報および前記センサ部の性能に関する情報の少なくともいずれかを記録し、前記いずれかの情報を非接触で出力するRFID用タグ」に相当する。
ところで、刊行物2の好適実施例においては、上記記載事項(ウ)及び図2に記載のように、ベアリング12の内部レース13の端部フェース19内に形成されたチャンバ-21内部に、無線ID(RFID)タグ28が固定されるものであるが、刊行物2の上記記載事項(オ)には、「チャンバー21は、示された図示例において内部レース上に示されているが、ベアリングのタイプに依存して、チャンバー21は、同様にベアリングの他の外部表面上に形成されてもよいということを理解されるだろう。さらに、図示した耐摩耗性ベアリングに加えて、本発明の実用例において、その他の製造品を使用してもよい。かかる中継器を、かかるベアリングに結合してもよいが、ベアリングの使用者によって取り外し可能であるので、タグの位置はそれほど重要ではない。例えば、このタグは、ケージに結合されてもよいし;大型リブ(又はスラストリブ(thrust rib))または外部レースの外部径表面などの、ベアリングの内部の、非接触表面に、接着されても、ねじ締めされても、あるいはその他の固定手段により固定されてもよい。」と記載されており、無線ID(RFID)タグ28の設置箇所は、内部レース13の端部ベース19内に形成されたチャンバ-21に限定されるものではなく、ベアリング12の適宜の箇所に設けられることが示唆されている。
また、刊行物2の上記記載事項(エ)には、「任意で、かかるベアリングに、RFIDタグの部品として、あるいは、RFIDタグに関連づけられた分離した部材として、センサーを加えてもよい。かかるセンサーは、連続的あるいは所定の間隔の両方にて制御条件を決定してもよく、任意で、かかるベアリングが曝露される制御条件を記録してもよい。制御条件の例は、現在のベアリング温度、ロード(load)、振動、及びこれらに類似のものなどがある。タグが照会された際、その後、測定したベアリングの制御条件に対応するベアリングの制御値を送信する。」と記載されており、無線ID(RFID)タグ28は、センサーと関連させて設けることができる旨が示唆されている。
更に、転がり軸受において、基板を含む複数の部品を、樹脂でモールドすることにより一体化し、電気部品としてユニット化することは、本願出願前に周知の技術である(例えば、特開2004-36863号公報(以下、「周知例」という。)の段落【0058】、【0059】及び図10には、加速度センサ2aは、圧電素子を用いた小型の加速度センサと信号処理回路とを、基板42に実装した状態で、ホルダ40a内にモールドすることにより、回転検出センサ3cと一体化したセンサユニット31aとする旨が記載されている)。
そうすると、引用発明の回転センサ付き軸受と刊行物2記載のベアリング12とは、転がり軸受という共通の技術分野に属するものであり、しかも、刊行物2には、無線ID(RFID)タグ28の設置箇所は、ベアリング12の適宜の箇所に設けられること、及び、無線ID(RFID)タグ28は、センサーと関連させて設けることができる旨が示唆されているから、引用発明の回路基板12に刊行物2記載の無線ID(RFID)タグ28を設けることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、上記のように、引用発明の回路基板12に刊行物2記載の無線ID(RFID)タグ28を設けるに際して、刊行物1の記載事項(ア)に、「センサハウジング10の内部はポリウレタン、エポキシ等の熱硬化性樹脂(図示省略)でモールドされている」との記載があること、及び、転がり軸受において、基板を含む複数の部品を、樹脂でモールドすることにより一体化し、電気部品としてユニット化することが、上述のとおり、本願出願前に周知の技術であることを考慮すれば、引用発明の回路基板12と刊行物2記載の無線ID(RFID)タグ28とを樹脂でモールドすることにより、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)作用効果について

本願補正発明が奏する作用効果は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術から当業者が予測できる程度のものである。

(3)まとめ

本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成23年2月22日付けで提出した審判請求書の請求の理由において、「本願発明のように1つの基板に電気回路とRFID用タグとを実装して樹脂でモールドするためには、何れかの引用文献にそのための動機付けや示唆がされていてしかるべきである。」(「4.本願発明と、引用文献1、2-1,2-2の組み合わせとの対比」「3)」の項を参照。)と主張するともに、当審における審尋に対する平成23年8月8日付けの回答書において、刊行物1,2及び周知例のいずれにも、「センサ部用電気回路配置基板上にRFID用タグを備えること」(「(3)前置報告書でご指摘された引用文献について」「4)」の項を参照。)、及び、「基板上に実装したRFID用タグを樹脂でモールドして一体化すること」(「同」「5)」「c)」の項を参照。)は、記載されておらず、示唆すらされていない旨を主張している。
しかしながら、上記「4.(1)相違点について」で説示したとおり、刊行物2には、無線ID(RFID)タグ28は、ベアリング12の適宜の箇所に設けられること、及び、無線ID(RFID)タグ28は、センサーと関連させて設けることができる旨が示唆されているし、また、刊行物1の記載事項(ア)に、「センサハウジング10の内部はポリウレタン、エポキシ等の熱硬化性樹脂(図示省略)でモールドされている」との記載があること、及び、転がり軸受において、基板を含む複数の部品を、樹脂でモールドすることにより一体化し、電気部品としてユニット化することが、上記周知の技術であることを考慮すれば、審判請求人が主張する「本願発明のように1つの基板に電気回路とRFID用タグとを実装して樹脂でモールドするため」の動機付けや示唆は、十分に存在していたものと解される。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成23年2月22日付けの手続補正は上記のとおり却下され、また、平成22年6月29日付けの手続補正は前審において却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成21年10月26日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪および前記内輪の間に配置される転動体とを含む転がり軸受と、
前記外輪と前記内輪のいずれか一方に設けられるセンサハウジングと、
前記センサハウジングに設けられて、前記外輪と前記内輪のいずれか一方の回転を検出するセンサ部と、
前記センサハウジングに設けられ、前記センサ部の検出信号が与えられる電気回路が配置された基板と、
前記基板に接続され、前記電気回路の出力信号を外部に出力する電線と、
前記基板に設けられ、前記転がり軸受の製造に関する情報および前記センサ部の性能に関する情報の少なくともいずれかを記録し、前記いずれかの情報を非接触で出力するRFID用タグを備える、RFID用タグを内蔵したセンサ付軸受。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び2とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、基板とRFID用タグとの関係についての限定事項である「前記基板とともに前記RFID用タグをモールドする樹脂とを備え、前記基板は、前記電気回路と前記RFID用タグとを前記樹脂でモールドすることにより一体化し、電気部品としてユニット化されていること」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定的に減縮した本願補正発明が、上記【2】3.及び【2】4.に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物1及び2に記載された発明並びに上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2ないし5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2011-10-28 
結審通知日 2011-11-01 
審決日 2011-11-14 
出願番号 特願2004-233528(P2004-233528)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
P 1 8・ 575- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 川上 溢喜
特許庁審判官 常盤 務
倉田 和博
発明の名称 RFID用タグを内蔵したセンサ付軸受  
代理人 森下 八郎  
代理人 伊藤 英彦  
代理人 吉田 博由  

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