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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1249568
審判番号 不服2009-24107  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-07 
確定日 2012-01-05 
事件の表示 特願2003-397286「弾性表面波フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月16日出願公開、特開2005-159835〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成15年11月27日の出願であって、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年12月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】
圧電基板上に、複数の櫛形電極を励振する弾性表面波の伝搬方向に沿って近接配置すると共に、これら櫛形電極列の両側に反射器を配置し、前記複数の櫛形電極相互間の音響結合によって発生する複数の振動モードを利用する縦結合多重モード弾性表面波フィルタにおいて、
前記櫛形電極の電極指とバスバーの間にダミー電極指を設け、
前記櫛形電極のピッチにて規定される波長をλとすると、前記ダミー電極指の長さが0.2λ?3λの範囲に規制されていることを特徴とする縦結合多重モード弾性表面波フィルタ。」

ただし、本願発明の「ダミー電極指」の長さは、本願発明の対象物である「弾性表面波フィルタ」が製造される前の段階で決定されるべきものであって、該「弾性表面波フィルタ」が製造された後に何らかの規制を受けるようなものでないことは明らかであるから、上記請求項1で使用されている「前記ダミー電極指の長さが0.2λ?3λの範囲に規制されている」という表現は、「本願発明の弾性表面波フィルタには、ダミー電極指の長さが0.2λ?3λの範囲内のもののみが含まれ、ダミー電極指の長さが当該範囲から外れるものは含まれない。」といった事項を規定した表現であると解した。

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-314366号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0022】
【発明の実施の形態】〔実施の形態1〕本発明の第1の実施の形態について図1ないし図7に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】本発明にかかる弾性表面波フィルタは、圧電基板としての回転YカットX伝搬LiTaO_(3) 基板上に、複数のインターディジタルトランスデューサ(IDT)電極、およびこれを挟持するように配置される反射構造体を有する共振子を備える、縦結合共振子型の弾性表面波フィルタ(縦結合型フィルタ)であり、上記IDT電極が有する複数の電極指の先端と、それに対向する電極端子(バスバー)との間のギャップ長Gを、弾性表面波の波長をλとしたときに、0.3λ≧Gの関係が成立するように設定するものである。
【0024】また、本発明にかかる弾性表面波装置は、上記構成の弾性表面波フィルタを備えるものである。
【0025】具体的には、たとえば、図2に示すように、本実施の形態における縦結合型フィルタ1は、複数のIDT電極3…と、一対のリフレクタ(反射器)4・4とからなる弾性表面波共振子5(以下、単に共振子とする)が、LiTaO_(3) 基板2上に二つ形成された構成となっている。なお、リフレクタの代わりに、反射端面を用いても構わない。すなわち広義の反射構造体が用いられておればよい。
【0026】上記共振子5は、3個のIDT電極3a・3b・3cが隣接配置されており、この両端に一対のリフレクタ4・4が配置されている構成となっている。3個のIDT電極3a・3b・3cが配置されている方向は、上記縦結合型フィルタ1における弾性表面波の伝搬方向に沿った方向である。また、リフレクタ4・4は、上記IDT電極3a・3b・3cを挟持するように配置されているため、IDT電極3a・3b・3cの配置方向と同様、弾性表面波の伝搬方向に沿って配置されていることになる。
【0027】本実施の形態では、上記3個のIDT電極3a・3b・3cのうち、IDT電極3a・3cの一端は接地されており、IDT電極3bには信号端子7が設けられている。
【0028】上記縦結合型フィルタ1において、共振子5・5が配置されている方向は、上記弾性表面波の伝搬方向に直交する方向(縦方向)である。そして、共振子5・5の間は、それぞれのIDT電極3a・3b・3cの間で、接続部6により縦続接続されている。そのため、上記構成の縦結合型フィルタ1は、いわゆる2段構成となっている。なお、上記接続部6は、段間の整合がとれるように、櫛歯状電極で形成された結合容量が、上記IDT電極3と電気的に並列となるように接続される構成となっていてもよく、特に限定されるものではない。
【0029】なお、上記縦結合型フィルタ1の構成としては、上記2段構成に限定されるものではない。たとえば、共振子5を一つのみ設けて接続段数を1段としたもの、すなわち単段構成のものであってもよく、共振子5…を3個以上設けたもの、すなわち3段以上の多段構成のものであってもよい。また、各共振子5・5の間、すなわち段間の接続方法も、上記方法に限定されるものではなく、他の接続方法に変えてもよい。
【0030】図2では、個々のIDT電極3a・3b・3cを模式的に図示しているが、これらIDT電極3…の構成をより具体的に図示すると、図1に示すように、互いに対向する一対のバスバー(電極端子)31・31と、各バスバー31から対向方向に向かって延長される複数の電極指(励振電極指)32…とを有する構成となっている。上記複数の電極指32…は、それぞれ交叉されて、互いに噛み合わせられたような形状となっている。」

「【0039】本発明では、さらに、図3に示すように、IDT電極3は、さらに、上記対向方向に向かって突き出しており、相手方のバスバー31から延長される上記電極指32に対向するように形成される複数のダミー電極指33…を有していてもよい。すなわち、ダミー電極33は、バスバー31から、非励振領域であるギャップ領域30に対して突出するように形成されていることになる。
【0040】このように、上記電極指32に対向するダミー電極指33を設けると、後述する実施例から明らかなように、上記平坦性の悪化をより一層確実に回避でき、過剰狭帯域化現象の発生をより効果的に防止することが可能となっている。
【0041】なお、ダミー電極指33が有る場合のギャップ長Gは、図3に示すように、電極指32の先端から、それに対向するダミー電極指33の先端までの間隔を指すものとする。それゆえ、ダミー電極指33の長さは、上記ギャップ長GおよびIDT電極3のサイズなどによって適宜選択される設計事項であり、特に限定されるものではない。」

上記各記載事項を引用例の図面と技術常識に照らせば、引用例には、以下の発明(以下、「引用例記載発明」という。)が記載されているといえる。
「 圧電基板上に、複数の櫛形電極を励振する弾性表面波の伝搬方向に沿って近接配置すると共に、これら櫛形電極列の両側に反射器を配置した縦結合弾性表面波フィルタにおいて、
前記櫛形電極の電極指とバスバーの間にダミー電極指を設けた、
縦結合弾性表面波フィルタ。」

3.対比
本願発明と引用例記載発明を対比すると、両者の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「 圧電基板上に、複数の櫛形電極を励振する弾性表面波の伝搬方向に沿って近接配置すると共に、これら櫛形電極列の両側に反射器を配置した縦結合弾性表面波フィルタにおいて、
前記櫛形電極の電極指とバスバーの間にダミー電極指を設けた、
縦結合弾性表面波フィルタ。」である点。

(相違点1)
本願発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」は、「複数の櫛形電極相互間の音響結合によって発生する複数の振動モードを利用する縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」(以下、単に「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」と呼ぶ。)であるのに対し、引用例記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」は、「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」であるとは限らない(引用例には、その図2に示される「縦結合弾性表面波フィルタ」が「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」であることの明示的記載がない)点。

(相違点2)
本願発明の「ダミー電極指」の長さは、「櫛形電極のピッチにて規定される波長をλとして、0.2λ?3λの範囲」であるのに対し、引用例記載発明の「ダミー電極指」の長さは、「櫛形電極のピッチにて規定される波長をλとして、0.2λ?3λの範囲」であるとは限らない点。

4.当審の判断
(1)(相違点1)について
以下の事情を勘案すると、引用記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」を「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」とすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
ア.「複数の櫛形電極相互間の音響結合によって発生する複数の振動モードを利用する縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」自体は、引用例の段落【0005】に従来の技術の例として示されている「縦結合二重モード弾性表面波フィルタ」をはじめとして当業者には広く知られているものである。
イ.引用例記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」を上記「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」とすることが有用な場合があることは当業者に自明である。
ウ、引用例記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」を上記「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」とすることができない理由はない。

(2)(相違点2)について
以下の事情を勘案すると、引用例記載発明ないしは引用例記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」を「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」としたものにおいて、「ダミー電極指」の長さを、「櫛形電極のピッチにて規定される波長をλとして、0.2λ?3λの範囲」(以下、「範囲A」と呼ぶ。)に含まれるものとすることも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
ア.引用例の段落【0041】の記載からも明らかなように、引用例記載発明の「ダミー電極指」の長さをどの程度とするかは、設計事項として当業者が適宜決定し得た事項であり、またその事情は、引用例記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」を「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」としたものにおいても変わらない。
イ.以下の事実によれば、当業者は、引用例記載発明ないしは引用例記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」を「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」としたものを具現化する際、「ダミー電極指」の長さを上記「範囲A」内の値とすることも当然に試みると考えられる。
(ア)前置報告書で審査官が指摘するように、引用例の段落【0051】には、引用例の実施例の「ダミー電極指」の長さが約2λである旨の記載がある。
(イ)平成21年4月2日付けの拒絶理由通知書に「引用文献2」として引用された特開2003-198317号公報(以下、「引用文献2」と呼ぶ。)の段落【0057】には、「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」についてではないものの、引用例記載発明に用いられているのと同様のダミー電極指を有する櫛形電極を使用するものについて、当該櫛形電極に設ける「ダミー電極指」の長さを「λ?4λ」とする旨の記載がある。
ウ.引用例記載発明ないしは引用例記載発明の「縦結合弾性表面波フィルタ」を「縦結合多重モード弾性表面波フィルタ」としたものを具現化する際の「ダミー電極指」の長さとして上記「範囲A」内の値を採用できない理由はない。

(3)本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、当業者が容易にすることができる選択にしたがって構成されるものが当然に有するであろう効果の域を出るものとはいえず、本願発明の進歩性を根拠付けるに足りるものとはいえない。

(4)まとめ
以上によれば、本願発明は、引用例記載発明、周知の技術、及び引用例や引用文献2に例示される数値、に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例記載発明、周知の技術、及び引用例や引用文献2に例示される数値、に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-07 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-11-22 
出願番号 特願2003-397286(P2003-397286)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 崎間 伸洋  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 甲斐 哲雄
飯田 清司
発明の名称 弾性表面波フィルタ  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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