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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1249591 |
審判番号 | 不服2010-25213 |
総通号数 | 146 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-09 |
確定日 | 2012-01-05 |
事件の表示 | 特願2003-337061「半導体ウェハ及びこれを用いた半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-108943〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年9月29日の特許出願であって、平成22年5月6日付けで手続補正がなされたが、同年8月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである(以下、平成22年11月9日付けの手続補正を「本件補正」という。)。 第2 本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成22年5月6日付け手続補正後のもの。)の 「 基板と、 前記基板上に形成された剥離層と、 前記剥離層上に形成された半導体エピタキシャル層とを有し、 1?50%の濃度のフッ酸液により前記剥離層を溶解して、前記半導体エピタキシャル層を前記基板から分離するように構成された半導体ウェハであって、 前記剥離層は、AlAsからなり、 前記剥離層の厚さが20nm以上200nm未満である ことを特徴とする半導体ウェハ。」 を、 「 GaAs基板と、 前記GaAs基板上に形成された剥離層と、 前記剥離層上に形成され、Al_(x)Ga_(1-x)As層を含む半導体エピタキシャル層とを有し、 1?50%の濃度のフッ酸液により前記剥離層を溶解して、前記半導体エピタキシャル層を前記基板から分離するように構成された半導体ウェハであって、 前記剥離層は、AlAsからなり、 前記剥離層の厚さが20nm以上100nm未満である ことを特徴とする半導体ウェハ。」 に補正する内容を含むものである。 上記の補正の内容は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「基板」を「GaAs基板」に限定し、同じく「半導体エピタキシャル層」を「Al_(x)Ga_(1-x)As層を含む」ものに限定し、同じく「剥離層の厚さ」を、「20nm以上200nm未満」から「20nm以上100nm未満」に限定するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2 独立特許要件 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (1)引用刊行物の記載及び引用発明 ア 引用刊行物1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-102668号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ゲルマニウム基板、ガリウム砒素基板、またはインジウム燐基板上にAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層とIII-V族化合物半導体層をエピタキシャル成長してメサエッチングするとともに、シリコン基板にIn_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層をエピタキシャル成長し、前記III-V族化合物半導体層と前記In_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層とを貼り合わせた後、前記Al_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層をエッチングして、前記ゲルマニウム基板、ガリウム砒素基板、またはインジウム燐基板を除去する半導体基板の製造方法。」 (イ)「【0002】 【従来の技術】シリコン基板に化合物半導体を形成することで、化合物半導体の優れた受発光特性と高周波特性を兼ね備えた多機能のデバイスがシリコン基板上に構築できる。シリコン基板はGaAs基板やInP基板に比べて機械的強度が高く、デバイス試作プロセスにおける基板の割れ、カケに起因する歩留りの低下を大幅に改善できる。また、安価で大口径のシリコン基板を用いたデバイスは、GaAs基板やInP基板を用いたデバイスよりも、デバイスの製造コストを大幅に低減することができる。このため、化合物半導体をシリコン基板に直接成長する技術や化合物半導体基板をシリコン基板に貼り合せる手法が提案されている。 ・・・ 【0004】また、特開平6-90061号公報や特開平9-63951号公報に示されているように、シリコン基板と化合物半導体基板の表面同志を接合し、異種基板を接合する手法が提案されている。 【0005】ここで、図4を用いて、シリコン基板への化合物半導体エピタキシャル層の転写技術を説明する。 【0006】まず、図4(a)に示すように、ガリウム砒素基板1にガリウム砒素から成るバッファ層2を0.1?2μm程度成長する。 【0007】次に、選択エッチング層としてアルミニウム砒素層3を100?1000Å成長し、デバイスの活性層を含むエピタキシャル層4を成長する。 【0008】次に、図4(b)に示すように、シリコン基板5を接触させて水素ガス中でアニールすることで貼り合わせる。 【0009】その後、図4(c)に示すように、ふっ酸系のエッチング液でアルミニウム砒素層3をエッチングする。これによりデバイスの活性層を含むエピタキシャル層4をシリコン基板5に転写することができる。」 (ウ)「【0018】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。 【0019】図1は、請求項1に係る半導体基板の製造方法の一実施形態を示す図であり、6はゲルマニウム基板、ガリウム砒素基板、またはインジウム燐基板、7はガリウム砒素やインジウム燐等からなるバッファ層、8はGaAs、AlGaAs、InAlGaP、InGaAs、InAlAs、InP、GaAsP、InAlGaAs、またはInAlGaAsPなどのIII-V族化合物半導体から成るデバイスの活性層を含むエピタキシャル層、9はシリコン基板5にエピタキシャル成長されたIn_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層である。 【0020】Si基板上に、直接、GaAsなどのIII-V族化合物半導体を成長する場合と比較して、Ge基板、GaAs基板、InP基板には転位密度の低い(1×10^(4)個cm^(-2)以下)結晶の良好なIII-V族化合物半導体が形成できる。また、AlAsの選択エッチング層を挿入してバッファ層を形成できるのも基板は、Ge基板、GaAs基板、InP基板に限定される。 【0021】まず、周知のMBE法やMOCVD法等の気相エピタキシャル法で、ゲルマニウム基板、ガリウム砒素基板、またはインジウム燐基板6にガリウム砒素やインジウム燐等からなるバッファ層7を成長する。 【0022】その後、選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層3を100?1000Å成長する。この膜厚は、図1(b)に示すメサ領域の幅Wが広い程、厚く設定しないと、後に示す選択エッチングが困難となる。たとえばメサ領域の幅Wが100μmの時は、200Å以上で選択エッチングが可能となる。 【0023】選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層3の成長の後、III-V族化合物半導体から成るデバイスの活性層を含むエピタキシャル層8を成長して、エピタキシャル装置から取り出す。 【0024】その後、図1(b)に示すように、通常のフォトリソグラフィとエッチングで幅Wを持つメサ領域を形成する。この際、エッチングは硫酸/過酸化水素水/水の混合液によるウエットエッチングまたは塩素ガスのプラズマによる気相エッチングで行ない、Al_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層3の側壁が完全に露出するまでエッチングを行なう。 【0025】次に、図1(c)に示すように、In_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層9がエピタキシャル成長されたシリコン基板5と貼り合せ、貼り合せ面を10?50Paの圧力で加圧して、水素雰囲気の200?500℃で30分から数時間のアニールを行なうことで、貼り合せを完了する。 【0026】なお、In_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層9のシリコン基板5へのエピタキシャル成長は、MBE法やMOCVD法による2段階成長法で行う。つまり、850?1000℃でシリコン基板5の表面の自然酸化膜等を除去し、400℃前後に冷却した後に非晶質ガリウム砒素層を100?1000Å成膜する。 【0027】その後、500?600℃に昇温しIn_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層9を成長する。 ・・・ 【0030】次に、図1(d)に示すように、ふっ酸系のエッチング液でAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層3を除去し、デバイスの活性層を含むエピタキシャル層8をIn_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層9を介してシリコン基板5に転写する。」 (エ)「【0031】図2は、請求項3に係る半導体基板の製造方法を示す図である。図2(a)に示すように、ゲルマニウム基板、ガリウム砒素基板、またはインジウム燐基板6にあらかじめ数十?数百μmの溝10を形成しておくと、図2(d)におけるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層3の選択的除去を短時間にかつより均一に行なうことができる。すなわち、エピタキシャル層8または基板6の溝10を通してふっ酸系のエッチング液を供給してアルミニウム砒素層3を選択的にエッチング除去できるため、4インチ以上の大口径基板6でのエピタキシャル層の転写が可能となる。 【0032】図3は、請求項4に係る半導体基板の製造方法を示す図である。図3(c)に示すように、ゲルマニウム基板、ガリウム砒素基板、またはインジウム燐基板6にあらかじめ数十?数百μmの溝‘10を形成しておき、かつあらかじめ溝10が形成されたシリコン基板5にIn_(x)Ga_(1-x)As(0.05≦x≦0.6)層9がエピタキシャル成長された基板と貼り合せることにより、図3(d)におけるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層3の選択的除去を短時間にかつより均一に行なうことができる。すなわち、エピタキシャル層8または基板6の溝10を通してふっ酸系のエッチング液を供給してアルミニウム砒素層3を選択的にエッチング除去できるため、4インチ以上の大口径基板でのエピタキシャル層の転写が可能となる。」 (オ)上記(ア)の請求項1に記載された「半導体基板の製造方法」の発明は、その実施の形態が上記(ウ)及び図1(a)ないし(d)に示されており、これらの記載によれば、引用刊行物1には、「基板上にAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層とIII-V族化合物半導体層をエピタキシャル成長し」た段階の「半導体基板」(図1(a)を参照。)が記載されているものと認められるとともに、該「半導体基板」は、後の工程で、「前記Al_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層」をエッチングして、前記「基板」を除去するものと認められる。 上記(ア)ないし(オ)を総合すると、引用刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ガリウム砒素基板と、 前記ガリウム砒素基板上に、100?1000Åの厚さで成長した選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層と、 前記選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層上に成長した、GaAs、AlGaAsなどのIII-V族化合物半導体から成るデバイスの活性層を含むエピタキシャル層と、を有する半導体基板であって、 前記半導体基板は、後の工程で、前記選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層をふっ酸系のエッチング液でエッチングして、前記ガリウム砒素基板を除去するものである、 半導体基板。」 イ 引用刊行物2 本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-30146号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【0015】次にこれを、50%のバッファードHFに入れる。室温でのバッファードHFのAl_(x )Ga_(1 - x )Asに対する相対的エッチング速度を図3に示してあるが、AlAsのエッチング速度はGaAsに比べて10^(7 )倍大きい。したがって、図1(b)の状態で1μm 厚のAlAs105が選択的にエッチングされて、図1(c)のように上側(第二の積層構造体)と、下側(第一の積層構造体)に分離される。ここで、少しコメントする。n-DBR102やp-DBR104、106、さらに二重共振器層108にはAlAs層が入っているがその厚さはλ/4で実際には830Aしかない。バッファードHFは横方向から侵入してくるが、拡散でエッチング速度が律速されるためにAlAs105以外の薄いAlAs層は事実上、エッチングされない。またされたとしても相対的に少なく、図1(c)のようになることが分かった。」 ウ 引用刊行物3 本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-307863号公報(以下「引用刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【0012】AlO層を形成する工程で、ストライプメサ状の多層膜のAlAs膜の側縁部を酸化する方法は、特に限定はなく、例えば水蒸気酸化法により酸化する。また、空気層を形成する工程で、好適には、残存のAlAs膜をエッチングする際のエッチングでは、GaAsとAlOとの間のエッチング選択比が大きいエッチング液、例えばHF10%水溶液等のHF系エッチャントによるウエットエッチングを施す。」 (2)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「半導体基板」は、本願補正発明の「半導体ウェハ」に相当する。 イ 引用発明の「ガリウム砒素基板」は、本願補正発明の「GaAs基板」に相当する。 ウ 引用発明の「前記ガリウム砒素基板上に、100?1000Åの厚さで成長した選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層」は、本願補正発明の「前記GaAs基板上に形成された剥離層」に相当する。 エ 引用発明の「前記選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層上に成長した、GaAs、AlGaAsなどのIII-V族化合物半導体から成るデバイスの活性層を含むエピタキシャル層」は、本願補正発明の「前記剥離層上に形成され、Al_(x)Ga_(1-x)As層を含む半導体エピタキシャル層」に相当する。 オ 引用発明の「半導体基板」は、「後の工程で、前記選択エッチング層となるAl_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)層をふっ酸系のエッチング液でエッチングして、前記ガリウム砒素基板を除去する」ものであるから、本願補正発明の「1?50%の濃度のフッ酸液により前記剥離層を溶解して、前記半導体エピタキシャル層を前記基板から分離するように構成された半導体ウェハ」と、「フッ酸液により前記剥離層を溶解して、前記半導体エピタキシャル層を前記基板から分離するように構成された半導体ウェハ」である点で一致する。 以上によると、本願補正発明と引用発明とは、 「 GaAs基板と、 前記GaAs基板上に形成された剥離層と、 前記剥離層上に形成され、Al_(x)Ga_(1-x)As層を含む半導体エピタキシャル層とを有し、 フッ酸液により前記剥離層を溶解して、前記半導体エピタキシャル層を前記基板から分離するように構成された、半導体ウェハ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 a.剥離層を溶解するフッ酸液が、本願補正発明では、「1?50%の濃度」であるのに対して、引用発明では、そのような濃度であるか否か明らかではない点(以下「相違点1」という。)。 b.剥離層が、本願補正発明では、「AlAs」からなるのに対して、引用発明では、「Al_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)」である点。 c.剥離層の厚さが、本願補正発明では、「20nm以上100nm未満である」のに対して、引用発明では、「100?1000Å」である点。 (3)判断 上記各相違点について検討する。 ア 相違点1について、 本願補正発明は、「半導体ウェハ」に係る物の発明であって、「1?50%の濃度のフッ酸液により前記剥離層を溶解して、前記半導体エピタキシャル層を前記基板から分離するように構成された」との事項は、単に、該半導体ウェハの使用の態様を示すものと認められる。 そして、本願明細書を見ても、上記事項に関して、 「【0030】 剥離層103がAlAs又はAl_(x)Ga_(1-x)As系材料からなる場合には、エッチング液としてHF(フッ酸)液を用いることができる。HF液の濃度は、通常10%であるが、1%?50%程度の範囲内で適宜選択できる。HF液の濃度を選択する際には、剥離工程においてLEDエピタキシャルフィルム104を支持する支持体の耐性、支持体と半導体層表面との密着性が保持できるかどうかといった条件を考慮して、上限値を適宜決定すればよい。また、HF液の濃度を下げるとエッチング速度が低下するが、HF液の濃度の下限値は、エッチング速度を判断基準にして適宜選択すればよい。」 と記載されており、「1?50%の濃度」のフッ酸液は、本願補正発明において特定される剥離層をエッチングするために、適宜用いることができるものとして示されているに過ぎず、その特定によって、本願補正発明の「半導体ウェハ」の構成、特に、「剥離層」の構成に、何らかの特定ないし限定を付加する事項とも認められない。 してみると、上記のフッ酸液の濃度は、本願補正発明と引用発明との対比において、実質的な差異を生じさせるものではなく、相違点1は、実質的な相違ではない。 なお、AlAsの選択的エッチングに用いられるフッ酸液として、「1?50%の濃度」が、通常用いられる程度の範囲であることは、上記2(1)イ及びウに示したとおり、引用刊行物2及び3の記載事項から明らかであるから、引用発明を使用する際に、フッ酸液として「1?50%の濃度」の範囲内のものを用いることは、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。 イ 相違点2について 引用発明において、「剥離層」(選択エッチング層)は、「Al_(y)Ga_(1-y)As(0.9≦y≦1.0)」であって、組成比がy=1.0の場合において本願補正発明と一致するところ、引用刊行物1の、「選択エッチング層としてアルミニウム砒素層3を100?1000Å成長し」(上記(1)ア(イ)【0007】)、及び「AlAsの選択エッチング層を挿入し」(上記(1)ア(ウ)【0020】)等の記載を踏まえれば、上記組成比の範囲中、特に、y=1.0とすること(すなわち、AlAsとすること)が意図されていることが把握できるから、引用発明において、剥離層をAlAsとし、相違点2に係る本願補正発明の特定事項となすことは、当業者が容易になし得たことである。 ウ 相違点3について 引用発明は、「剥離層」(選択エッチング層)の厚さが、「100?1000Å」(すなわち、「10nm?100nm」)であるところ、引用刊行物には、「この膜厚は、図1(b)に示すメサ領域の幅Wが広い程、厚く設定しないと、後に示す選択エッチングが困難となる。たとえばメサ領域の幅Wが100μmの時は、200Å以上で選択エッチングが可能となる。」(上記(1)ア(ウ)【0022】を参照。ここで、「200Å」は「20nm」である。)ことも記載されており、引用発明において、剥離層の厚さを、「20nm以上100nm未満」の範囲内で適宜設定し、相違点3に係る本願補正発明の特定事項となすことは、当業者が容易になし得たことである。 そして、本願補正発明において、剥離層の厚さを、「20nm以上100nm未満」としたことに、設計的事項の域を超えるような格別の臨界的意義は見いだせない。 (4)小括 以上の検討によれば、本願補正発明は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 むすび 以上のとおりであって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成22年5月6日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1の記載は、上記第2の1において、補正前のものとして示したとおりのものである(以下、補正前の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 2 引用刊行物記載の発明 本願の出願前に頒布された刊行物である、引用刊行物1ないし3の記載事項及び引用発明は、上記第2の2(1)に示したとおりである。 3 対比・判断 上記第2の1によれば、本願補正発明は、本願発明を減縮したものと認められる。 そして、上記第2の2(2)ないし(3)で検討したとおり、本願発明に係る特許請求の範囲を減縮したものである本願補正発明が、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、減縮前の本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおりであって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-09-07 |
結審通知日 | 2011-09-13 |
審決日 | 2011-11-21 |
出願番号 | 特願2003-337061(P2003-337061) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 杉田 翠、芝沼 隆太 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
江成 克己 杉山 輝和 |
発明の名称 | 半導体ウェハ及びこれを用いた半導体装置の製造方法 |
代理人 | 前田 実 |
代理人 | 前田 実 |
代理人 | 篠原 昌彦 |
代理人 | 山形 洋一 |
代理人 | 山形 洋一 |
代理人 | 篠原 昌彦 |