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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21H
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21H
管理番号 1249608
審判番号 不服2008-18121  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-16 
確定日 2012-01-06 
事件の表示 特願2002- 66178「衛生用紙」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月26日出願公開、特開2002-371494〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成10年10月20日に出願した特願平10-334881号の一部を平成14年3月11日に新たな特許出願としたものであって、平成20年6月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月17日付けで手続補正がなされ、その後、当審において平成23年5月12日付けで拒絶理由が通知され、同年8月8日付け手続補正書及び同年8月10日付け意見書が提出されたものである。

第2 当審が通知した拒絶理由
当審が平成23年5月12日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「(1)平成20年7月17日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(2)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(3)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(4)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

理由(1)について
平成20年7月17日付けでした手続補正により、請求項1および明細書【0008】に「その500g当たりの亜鉛の含有量が、18μg以上である」との事項が追加された。しかし、願書に最初に添付した明細書又は図面には、そのような事項は記載されていない。上記記載において「500g」が「500m^(2)」の誤記であるとみても同様である。
請求人は、上記補正の根拠として、願書に最初に添付した明細書の【0025】の記載を挙げるが、同記載は、「吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙」についての亜鉛含有量を示唆するものではあっても、「吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙」を発明特定事項としない「衛生用紙」についての亜鉛含有量を示すものではない。

理由(2)、(3)について (省略)

理由(4)について
・請求項 1
・引用文献等 1-7
・備考 (省略)

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平7-324038号公報
2.登録実用新案第3032802号公報
3.特開平9-316786号公報
4.特開平4-182480号公報
5.登録実用新案第3033497号公報
6.特開平9-10111号公報
7.特開平9-38184号公報 」

第3 当審の判断
1.当審が通知した拒絶理由の(1)について
(1)平成23年8月8日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「缶入り又はインスタントティー製造時に排出される緑茶、ウーロン茶又は紅茶の茶殻又はこれら二種以上の茶殻の浸出液の乾燥物と、缶入り又はインスタントティー製造時に排出される緑茶、ウーロン茶又は紅茶の抽出残留廃液又はこれら二種以上の抽出残留廃液の乾燥物の混合物とを含有し、その500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上であり、水分含有量が5重量%以下であり、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害することを特徴とする衛生用紙。」
と補正された。

(2)本件補正により、請求項1に記載された発明について、衛生用紙500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上である旨の技術事項が導入された。そこで、当該技術事項が、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内のものであるかにつき検討する。

当初明細書等の段落【0025】に次の記載が認められる。
「【0025】本発明において、吸水性の第一紙層部は少なくとも一枚の薄葉紙から形成されるが、吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙への、一種以上のお茶抽出残留廃液及び/又は一種以上の茶殻の浸出液の塗布量は、例えば、薄葉紙500m^(2) 当たり、お茶の抽出残留廃液又は茶殻の浸出液で2乃至3リットルであり、好ましくは、2.3乃至2.8リットルである。本発明において、例えば、お茶残留廃液及び/又は茶殻の浸出液は、茶殻に対して10倍以下好ましくは5倍以下の常温水又は常温を越える温度の加熱水で浸出して製造する。この浸出液100g中のお茶成分の一である亜鉛の量が0.9μg以上、好ましくは5μg以上であるのが好ましい。」

上記記載は、吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙への浸出液の塗布量については、例えば、薄葉紙500m^(2) 当たり2乃至3リットルであることを示しているものの、吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙以外の衛生用紙について、浸出液の塗布量を示すものではない。詳述すれば、「吸水性の第一紙層部」について、当初明細書等に、次の記載がある。
「【0011】本発明の衛生シーツは、上面を透水性の不織布層部で形成し、下面をプラスチック製の不透水性膜層部で形成し、前記透水性の不織布層部の下面に接して吸水性の第一紙層部を設け、前記プラスチック製の不透水性膜層部の上面に接して吸水性の第二紙層部を形成し、前記第一及び第二紙層部間に、高吸水性樹脂及び吸水性材料粉からなる混合物層を含むか、または、高吸水性樹脂と吸水性材料粉の混合層及び吸水性材料粉層を含む吸水性層部を設けて形成されている。したがって、本発明の衛生シーツは、前記プラスチック製の不透水性膜層部上面に接して前記吸水性の第二紙層部が配置され、該吸水性の第二紙層部の上に前記吸水性層部が配置され、該吸水性層部の上に前記吸水性の第一紙層部が配置され、該第一紙層部の上に前記透水性の不織布層部が配置された断面構造に形成することができる。」
上記記載によれば、「吸水性の第一紙層部」とは、「衛生シーツ」の構成要素であって、該「衛生シーツ」は、(透水性の不織布層部/吸水性の第一紙層部/吸水性層部/吸水性の第二紙層部/プラスチック製の不透水性膜層部)の順に積層された構造を有するものである。
そうすると、段落【0025】には、上記のような特定の積層構造を有する「衛生シーツ」の構成要素である「吸水性の第一紙層部」を形成する薄葉紙を前提に、当該薄葉紙への浸出液の塗布量が記載されていると理解されるのであり、吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙以外の衛生用紙への浸出液の塗布量までが開示されていると理解することはできない。

よって、浸出液100g中の亜鉛の量が5μg以上であるのが好ましいと記載されていることを勘案しても、段落【0025】の記載は、吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙以外の衛生用紙について、亜鉛の含有量を開示するものではない。

これに対し、本件補正後の請求項1には、衛生用紙が、吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙である旨の記載は無いから、結局のところ、本件補正により、吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙以外の衛生用紙についても、その500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上である旨の技術事項が導入されたこととなる。そして、当該技術事項が、当初明細書等の段落【0025】に記載されていないことは、上記のとおりである。また、その他に、当初明細書等に上記技術事項を記載する部分は見当たらないし、当初明細書等の記載を総合しても、上記技術事項を導くことはできない。

請求人は、平成23年8月10日付け意見書において、
「拒絶理由の理由1で言う「吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙」は、本願発明の衛生用紙を形成する薄葉紙に他なりません。したがいまして、拒絶理由の理由1に言う「吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙」についての亜鉛含有量は、「衛生用紙」についての亜鉛含有量を示すものであります。」
と主張するが、以下のとおり失当である。
「吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙」は、「衛生用紙」の一実施形態であるといえる。しかし、一実施形態についての亜鉛含有量が開示されたとしても、それは、他の実施形態についての亜鉛含有量を示すものではない。よって、「衛生用紙」の一実施形態である「吸水性の第一紙層部を形成する薄葉紙」についての亜鉛含有量が開示されたとしても、他の実施形態を含む「衛生用紙」についての亜鉛含有量が開示されているとはいえない。

したがって、本件補正により導入された、衛生用紙500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上である旨の技術事項は、当初明細書等に記載されておらず、また、当初明細書等の記載を総合しても導くことができない。

(3)さらに、本件補正により、請求項1に記載された発明について、衛生用紙が、水分含有量が5重量%以下であり、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害する旨の技術事項が導入された。

請求人は、「水分含有量が5重量%以下であり」は、当初明細書等の段落【0022】の記載に基き、「連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害する」は、当初明細書等の段落【0009】、【0041】、【0045】、【0047】の記載に基くと主張する。
しかし、当初明細書等の段落【0022】には、
「【0022】本発明において、衛生シーツの使用時において、緑濃菌、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、レジオネラ菌、ポツリヌス菌等の細菌の増殖を避けるために、衛生シーツは、水分が10重量%以下、好ましくは7重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下に乾燥され、・・・(以下略)・・・」
と記載され、衛生シーツの水分含有量が5重量%以下であることは記載されているものの、衛生用紙の水分含有量が5重量%以下であることは記載されていない。
また、段落【0006】に、
「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、缶入りお茶やインスタントティーの製造時に大量に排出されるウーロン茶の茶殻の浸出液が、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、レジオネラ菌及び連鎖球菌の増殖を72時間以上に亙って阻害することを発見し、また緑茶の茶殻からの浸出液が、黄色ブドウ球菌、レジオネラ菌及び連鎖球菌の増殖を72時間に亙って阻害することを発見し、さらにまた、紅茶の茶殻の浸出液が、黄色ブドウ球菌及び連鎖球菌の増殖を72時間に亙って阻害することを発見し、これらウーロン茶の茶殻からの浸出液、緑茶の茶殻からの浸出液又は紅茶の茶殻からの浸出液を含浸後、乾燥したシーツが、何れも緑膿菌、黄色ブドウ球菌、レジオネラ菌及び連鎖球菌の増殖を72時間以上に亙って阻害することを発見し、本発明に至った。」
と記載され、ウーロン茶及び緑茶の茶殻からの浸出液や、ウーロン茶、緑茶、紅茶の茶殻からの浸出液を含浸後、乾燥したシーツが、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害することは記載されているものの、衛生用紙が、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害することは記載されていない。
更に、段落【0041】、【0045】、【0047】は、いずれも、衛生シーツを前提とした実施例について記載したものであって、衛生用紙が、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害することは記載されていない。
なお、段落【0009】には、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害するとの記載は無い。

したがって、本件補正により導入された、衛生用紙が、水分含有量が5重量%以下であり、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害する旨の技術事項は、当初明細書等に記載されておらず、また、当初明細書等の記載を総合しても、上記技術事項を導くことはできない。

(4)したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.当審が通知した拒絶理由の(4)について
(1)本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年8月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「缶入り又はインスタントティー製造時に排出される緑茶、ウーロン茶又は紅茶の茶殻又はこれら二種以上の茶殻の浸出液の乾燥物と、缶入り又はインスタントティー製造時に排出される緑茶、ウーロン茶又は紅茶の抽出残留廃液又はこれら二種以上の抽出残留廃液の乾燥物の混合物とを含有し、その500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上であり、水分含有量が5重量%以下であり、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害することを特徴とする衛生用紙。」

(2)引用文献
ア.当審の拒絶の理由に引用された特開平7-324038号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【請求項2】 截断した黄蓮から抽出した抽出液の濃縮液又は濃縮乾燥した粉末エキスからなる黄蓮抗菌剤を付着又は含浸させてなることを特徴とする抗菌紙。」

「【0001】
【産業上の利用分野】従来生薬剤として使用された薬草である黄蓮を抗菌剤として人間の日常生活に利用せんとするものである。」

「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、薬草である黄蓮を適宜の大きさに截断し、これに適宜量の水を加え常温で適宜時間放置した後加温して湯煎抽出を行い、冷却後濾過して抽出液を分取し、更にこれを濃縮して濃縮液を得る。又濃縮液を定温乾燥機で乾燥し乾燥エキスを得る。この濃縮液又は乾燥エキスを保存し抗菌剤として使用する。抗菌剤として使用する場合は、濃縮液又は乾燥エキスを水溶液となし、これを和紙又は洋紙等適宜用途に応じた紙に適宜の手段で滲潤乾燥して抗菌紙となし、当該抗菌紙を使用してサルモネラ菌や大腸菌等の増殖拡散防止のための紙製品とする。」

「【0013】
【実施例】次に本発明抗菌剤の利用の実施例について述べる。まず第一の実施例は、本発明黄蓮抗菌剤を、前記試験例で有効と認められた濃度で使用目的に応じた紙に付着又は含浸させた抗菌紙とする。そして当該抗菌紙をもってキッチン用又はテ-ブル用各種ペ-パ-又は紙オムツ、又は壁紙、又は各種の食品包装紙、又は食品包装用容器等々として利用可能である。又更には病院等で使用する衛生用紙製品としても利用可能である。抗菌剤の用紙への付着又は含浸の手段は別に特定されるものではなく、付着又は含浸後は乾燥したる後(用途によっては乾燥しないで)それぞれの目的に従って製品化して使用する。」

これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「黄蓮の抽出液の乾燥物を含有し、サルモネラ菌や大腸菌等の増殖拡散を防止する、キッチン用又はテ-ブル用各種ペ-パ-等又は病院等で使用する衛生用紙製品として利用可能な抗菌紙。」

イ.当審の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3032802号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている

「【請求項1】柔軟で吸水性のある耐水紙に、茶抽出物であるカテキンの溶液濃度が50?1000ppm、茶抽出物であるサポニンの溶液濃度が300?5000ppmである水溶液をおしぼりの原反重量に対して1.5?2.5倍含浸させ、水分の蒸発を防ぐために透湿性のない材料で包装したことを特徴とする使い捨て紙おしぼり。」

「【0007】
茶の抽出成分であるカテキンは、黄色ブドウ球菌、ビブリオ菌、ボツリヌス菌等に対して抗菌作用が強く、インフルエンザウイルスに対する不活性作用を併せ持ったものであり、且つアンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン等の悪臭を化学的に消臭する性能を有している。
【0008】
このカテキンの水溶液を、おしぼり用の原反に含ませたものを使うと、防水包装した紙おしぼりの使用までの保存期間中、黴や菌類の繁殖を抑制できることや、使用に際して消毒や消臭を兼ねた汚れ除去が可能となった。」

ウ.当審の拒絶の理由に引用された特開平9-316786号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている

「【請求項1】繊維製品を、カテキン類またはその属性体を含む染液と接触させた後、媒染剤を含む媒染液と接触させることを特徴とする染色繊維製品の製造法。」

「【0012】本発明は、このような背景下において、固着のための吐酒石を用いることなく、製造工程的にも有利で、しかも自然感ある独特の色調を有し、多種の色調を得ることが可能で、染着性が良好で、染色堅牢度も高く、かつ抗菌・抗ウイルス性・抗アレルギー性などの生理活性を有するため健康にとっても好ましい染色繊維製品を製造する方法を提供することを目的とするものである。」

「【0016】本発明における繊維製品としては、原繊維、糸、パイル、綿状物、織布、編布、不織布、植毛布などがあげられる。そのほか、紙製品、木製品なども本発明に言う繊維製品に含まれる。」

「【0019】カテキン類またはその属性体としては、モノマー状のものやオリゴマー状のものが用いられる(テフラビンも含まれる)。本発明において用いるカテキン類またはその属性体として特に重要性の高いものは、カテキン類またはその属性体の濃度を高めた茶由来のカテキン製剤である。」

エ.当審の拒絶の理由に引用された特開平4-182480号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている

「[従来の技術]
茶葉中に多く含まれているカテキン類はポリフェノール化合物であり、フラバノールの一種である。・・・(中略)・・・これらの茶カテキン類には、抗酸化作用、抗菌作用、その他強力な生理活性作用があることが知られている。」(1頁右欄7行?16行)

オ.当審の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3033497号公報(以下、「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている

「【0004】
・・・(中略)・・・
また、緑茶の中には水や湯に不溶又は難溶の成分が多くあり、蛋白質、脂質、ビタミンA,B2 ,C,Eや繊維、カテキン類などの重要な成分の多くがお湯を注いで呑む浸出液にはあまり含まれず、捨てられてしまうことになる茶がらの中にこそ多く含まれていることが見直されるようになった。」

カ.当審の拒絶の理由に引用された特開平9-10111号公報(以下、「引用文献6」という。)には、以下の事項が記載されている

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】日常飲まれている緑茶(日本茶)には、各種ビタミン、カルシュウム、カリウム、リン、鉄分、カフエイン、抗酸化栄養のカテキン等の栄養分及び食物繊維等が含まれており、健康飲料として有益である。
【0005】前記栄養分の一部は、湯茶にとけ込んで飲まれて体内に摂取されるが、多くが茶殻に残され、特に、食物繊維等は体内に取り入れられることなく捨てられている。」

キ.当審の拒絶の理由に引用された特開平9-38184号公報(以下、「引用文献7」という。)には、以下の事項が記載されている

「【0004】
【作用】茶殻、酵母発酵粕を糞尿に添加すると、アンモニアの発生量を抑制するため、消臭効果がある。茶殻や酵母発酵粕に含まれるアンモニア、揮発性脂肪酸などの発生を抑制する有効成分については、未だ充分明らかでないが、茶殻ではこれに約6%含有するカテキン類、酵母発酵粕では、これに含有するマンナンオリゴ糖によるものと思われる。」

(3)対比
引用発明の「黄蓮の抽出液」と、本願発明の「缶入り又はインスタントティー製造時に排出される緑茶、ウーロン茶又は紅茶の茶殻又はこれら二種以上の茶殻の浸出液」は、「抗菌作用を有する浸出液」との限度で一致する。
引用発明の「サルモネラ菌や大腸菌等の増殖拡散を防止する」と、本願発明の「連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害する」は、「菌の増殖を阻害する」との限度で一致する。
引用発明の「キッチン用又はテ-ブル用各種ペ-パ-等又は病院等で使用する衛生用紙製品として利用可能な抗菌紙」は、本願発明の「衛生用紙」に相当する。
よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「抗菌作用を有する浸出液の乾燥物を含有し、菌の増殖を阻害する衛生用紙」

[相違点1]
本願発明は、「缶入り又はインスタントティー製造時に排出される緑茶、ウーロン茶又は紅茶の茶殻又はこれら二種以上の茶殻の浸出液の乾燥物と、缶入り又はインスタントティー製造時に排出される緑茶、ウーロン茶又は紅茶の抽出残留廃液又はこれら二種以上の抽出残留廃液の乾燥物の混合物とを含有」するものであるのに対し、引用発明は、「黄蓮の抽出液の乾燥物を含有」するものである点。

[相違点2]
本願発明は、「500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上」と特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がなされていない点。

[相違点3]
本願発明は、「水分含有量が5重量%以下」と特定されているのに対し、引用発明は、このような特定がなされていない点。

[相違点4]
本願発明は、「連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害する」のに対し、引用発明は、「サルモネラ菌や大腸菌等の増殖拡散を防止する」ものである点。

(4)判断
ア.相違点1について
引用発明が、黄蓮の抽出液の乾燥物を含有させているのは、その抗菌作用に着目し、これを利用した抗菌紙を得るためである。
一方、茶に含まれる成分であるカテキンが抗菌作用を有することは、引用文献2?4に示されるように周知であり、更に、カテキンを紙製品に適用してその抗菌作用を利用することも、引用文献2、3に示されるように周知である。
そうすると、引用発明において、黄蓮の抗菌作用を利用することに代えて、カテキンの抗菌作用を利用した抗菌紙を得ようとすることは、当業者が容易に着想しえたことである。
そして、引用文献5?7に示すように、カテキン等の成分が茶殻にも含まれていることは周知であり、加えて、缶入りお茶等の製造時に大量の茶殻や茶殻に含有される抽出残留廃液が廃棄物として排出されることも明らかであるから、カテキンとして、そのように排出される茶殻や抽出残留廃液に含まれるカテキンを利用することは、当業者が容易に想到しえたことである。
したがって、引用発明の黄蓮の抽出液の乾燥物に代えて、缶入り又はインスタントティー製造時に排出される茶殻の浸出液の乾燥物と抽出残留廃液の乾燥物の混合物を含有させることにより、相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。

イ.相違点2について
本願明細書には、亜鉛の抗菌作用について記載が無く、衛生用紙500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上の場合と100μg未満の場合について抗菌作用を比較した記載も無いから、「500m^(2)あたりの亜鉛の含有量が100μg以上」と特定した点に格別の技術的意義は見出せない。
そして、上記「相違点1について」で検討した、引用発明の黄蓮の抽出液の乾燥物に代えて、缶入り又はインスタントティー製造時に排出される茶殻の浸出液の乾燥物と抽出残留廃液の乾燥物の混合物を含有させるにあたり、含有量を増やせば、お茶成分の一である亜鉛の含有量も増えることとなる。
よって、相違点2に係る本願発明の構成は、相違点1に係る本願発明の構成とするにあたって、上記混合物の含有量を当業者が適宜に設定することにより、容易に想到しえた設計事項にすぎない。
なお、茶殻の浸出液の成分濃度が低いとしても、十分な量の抽出液を濃縮乾燥することにより必要量の乾燥物が得られるから、相違点2に係る本願発明の構成とすることの妨げになるものではない。

ウ.相違点3について
本願明細書の記載を参酌しても、「水分含有量が5重量%以下」と特定した点に格別の技術的意義は見出せない。
一方、引用文献1に、「抗菌剤の用紙への付着又は含浸の手段は別に特定されるものではなく、付着又は含浸後は乾燥したる後(用途によっては乾燥しないで)それぞれの目的に従って製品化して使用する。」(【0013】)と記載されているとおり、引用発明は、乾燥して製品とする場合を含んでいる。
そうすると、相違点3に係る本願発明の構成は、引用発明の抗菌紙を乾燥したものとし、その乾燥の程度を当業者が適宜の水分含有量で規定した程度の設計事項にすぎない。

エ.相違点4について
引用発明は、菌の増殖を阻害する抗菌紙であるところ、菌の増殖を阻害する程度については、有効成分の含有量を調整する等により、当業者が適宜に調整すべき設計事項である。
このことは、上記「相違点1について」で検討した、引用発明の黄蓮の抽出液の乾燥物に代えて、缶入り又はインスタントティー製造時に排出される茶殻の浸出液の乾燥物と抽出残留廃液の乾燥物の混合物を利用する場合も同様であって、上記混合物の含有量を調整することにより、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及びレジオネラ菌の増殖を72時間以上に亘って阻害することができると認められる。
よって、相違点4に係る本願発明の構成は、相違点1に係る本願発明の構成とするにあたって、上記混合物の含有量を適宜調整することにより、当業者が容易に想到しえた設計事項にすぎない。

(5)小括
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-26 
結審通知日 2011-10-18 
審決日 2011-10-31 
出願番号 特願2002-66178(P2002-66178)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (D21H)
P 1 8・ 121- WZ (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 利直亀ヶ谷 明久常見 優  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 豊島 ひろみ
紀本 孝
発明の名称 衛生用紙  
代理人 滝口 昌司  

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