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審決分類 審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1249669
審判番号 不服2008-27421  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-28 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2003-532629「新規なシクロオキシゲナーゼ変異体とその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月10日国際公開、WO03/29411、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534279〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2002年(平成14年)9月28日(パリ条約による優先権主張2001年9月28日,米国;2002年4月15日,米国;2002年4月16日,米国;2002年9月16日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成19年8月2日付で特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたが,平成20年7月28日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年10月28日付で拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同年11月18日付で特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ,さらに同年11月19日付で再び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

第2 平成20年11月18日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年11月18日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 平成20年11月18日付の手続補正
(1)本件補正により,特許請求の範囲の請求項1,9及び10は,平成19年8月2日付の,
「【請求項1】
a)配列番号:1に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
b)配列番号:3に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
c)配列番号:4に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
d)配列番号:6に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
e)配列番号:10に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
f)配列番号:11に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
g)配列番号:12に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,及び
h)配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子
からなる群から選択される単離された核酸分子。」
「【請求項9】
配列番号:2,5,14,15もしくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチドからなる群から選択される単離又は組換えられたポリペプチド。」及び
「【請求項10】
非相同のアミノ酸配列をさらに含む請求項9に記載のポリペプチド。」から,
「【請求項1】
配列番号:1,配列番号:4,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12,及び配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子からなる群から選択される単離された核酸分子。」
「【請求項9】
請求項1に記載の核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドからなる群から選択される単離又は組換えられたポリペプチド。」及び
「【請求項10】
請求項9に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。」に補正された。

(2)本件補正により,特許請求の範囲の請求項2,15及び16は,平成19年8月2日付の,
「【請求項2】
a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子,及び
b)配列番号:5に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子,
c)配列番号:14に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子,
配列番号:15に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子,及び
配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子
からなる群から選択される単離された核酸分子。」
「【請求項15】
a)試料を,核酸分子と選択的にハイブリッドを形成する核酸のプローブ又はプライマーと接触させ,次いで
b)上記核酸のプローブ又はプライマーが試料中の核酸分子と結合して請求項1又は2に記載の核酸分子が試料中に存在することを検出するかどうかを確認する
ことを含んでなる請求項1又は2に記載の核酸分子が試料中に存在することを検出する方法。」及び
「【請求項16】
試料がmRNA分子を含み,そして試料を核酸プローブと接触させる請求項15に記載の方法。」から,
「【請求項2】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子,及び配列番号:5に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子,からなる群から選択される単離された核酸分子。」
「【請求項15】
a)試料を,核酸分子と選択的にハイブリッドを形成する核酸のプローブ又はプライマーと接触させ,次いで
b)上記核酸のプローブ又はプライマーが試料中の前記核酸分子と結合して前記核酸分子が試料中に存在することを検出するかどうかを確認する
ことを含んでなる請求項1又は2に記載の核酸分子が試料中に存在することを検出する方法。」及び
「【請求項16】
前記核酸プローブまたはプライマーと結合する核酸分子が,mRNA分子である請求項15に記載の方法。」に補正された。

(3)本件補正により,特許請求の範囲の請求項18及び19は,平成19年8月2日付の,
「【請求項18】
a)ポリペプチド又はそのポリペプチドを発現する細胞を試験化合物と接触させ,次いで
b)そのポリペプチドが試験化合物と結合するかどうかを確認する
ことを含んでなる請求項9に記載のポリペプチドに結合する化合物を同定する方法。」及び
「【請求項19】
a)試験化合物/ポリペプチドの結合の直接検出による結合の検出,
b)競合結合検定法を利用して行う結合の検出,及び
c)活性検定法を利用して行う結合の検出
からなる群から選択される方法で,試験化合物のポリペプチドとの結合が検出される請求項18に記載の方法。」から,
「【請求項18】
a)ポリペプチド又はそのポリペプチドを発現する細胞を試験化合物と接触させ,次いで
b)そのポリペプチドが試験化合物と結合するかどうかを確認する
ことを含んでなる請求項9に記載のポリペプチドに結合する化合物を同定する方法。」及び
「【請求項19】
a)試験化合物/ポリペプチドの結合の直接検出,
b)競合結合検定法,及び
c)活性検定法
からなる群から選択される方法で,試験化合物のポリペプチドとの結合が検出される請求項18に記載の方法。」に補正された。

(4)本件補正により,特許請求の範囲の請求項28は,平成19年8月2日付の,
「【請求項28】
化合物が非ステロイド抗炎症化合物である請求項27に記載の選択阻害剤。」から,請求項22?27の削除を伴い,請求項22として,
「【請求項22】
請求項9に記載のポリペプチドを非ステロイド抗炎症剤と接触させることを含む,前記ポリペプチドの活性阻害方法。」に補正された。
なお,平成19年8月2日付の特許請求の範囲の請求項27は,
「【請求項27】
COX-3又はPCOX-1aの活性を選択して阻害する選択阻害剤であって,COX-3又はPCOX-1aの遺伝子産物の活性を選択して阻害する化合物を含有する選択阻害剤。」というものである。

(5)本件補正により,特許請求の範囲の請求項30は,平成19年8月2日付の,
「【請求項30】
COX-3又はPCOX-1aの活性を選択的に阻害する選択阻害剤であって,COX-3又はPCOX-1aの遺伝子産物の活性を選択して阻害する非ステロイド化合物を含みそしてCOX-3又はPCOX-1aの遺伝子産物の活性を選択して阻害する非ステロイド化合物の性能が,
a)COX-3又はPCOX-1aを発現しCOX-1又はCOX-2を発現しない遺伝子工学的に処理された細胞を上記化合物と接触させ次いでその細胞を予め定められた量のアラキドン酸に暴露し,
b)COX-1又はCOX-2を発現しCOX-3又はPCOX-1aを発現しない遺伝子工学的に処理された細胞を上記化合物と接触させ次いでその細胞を予め定められた量のアラキドン酸に暴露し,
c)アラキドン酸の,そのプロスタグランジン代謝産物への変換を測定し,次いで,
d)上記化合物に暴露された各細胞によって変換された変換アラキドン酸の量を,上記化合物に暴露されなかった対照細胞によって変換されたアラキドン酸の量と比較して,COX-3又はPCOX-1aの活性を阻害しCOX-1又はCOX-2の活性を阻害しない化合物を同定する,
ことによって測定される選択阻害剤。」から,請求項22?27,29の削除を伴い,請求項23として,
「【請求項23】
請求項9に記載のポリペプチドの活性を選択的に調節する化合物の同定方法であって,下記ステップを含むもの,
a)前記ポリペプチドを発現するが,COX-1又はCOX-2を発現しない遺伝子工学的に処理された第1の細胞を評価対象の化合物と接触させ次いでその細胞を予め定められた量のアラキドン酸に暴露し,
b)COX-1又はCOX-2を発現するが,前記ポリペプチドを発現しない遺伝子工学的に処理された第2の細胞を上記化合物と接触させ次いでその第2の細胞を予め定められた量のアラキドン酸に暴露し,
c)アラキドン酸のプロスタグランジン代謝産物への変換を前記第1及び第2の細胞で測定し,次いで,
d)上記化合物に暴露された前記第1及び第2の細胞によって変換されたアラキドン酸の量を,上記化合物に暴露されなかった対照細胞によって変換されたアラキドン酸の量と比較する。」に補正された。

(6)本件補正により,特許請求の範囲の請求項31は,平成19年8月2日付の,
「【請求項31】
a)COX-1変異体をコードするDNAをトランスフェクトしてCOX-1変異体を発現する細胞を調整し
b)前記細胞を無傷又は破壊された状態で試験化合物と接触させ,次いで
c)COX-1変異体の活性が試験化合物の存在下減少又は増大するかを確認し,前記COX-1変異体の活性が減少又は増大することは試験化合物がCOX-1変異体の活性を調節していることの指標であって,
前記COX-1変異体が,COX-3,PCOX-1a,hCOX-3(cs1),hCOX-3(cs2)及びhCOX-3(cs3)からなる群から選択されることを含んでなるCOX-1変異体の活性を調節する化合物の同定方法。」から,請求項22?27,29の削除を伴い,請求項24として,
「【請求項24】
請求項9に記載のポリペプチドの活性を選択的に調節する化合物の同定方法であって,下記ステップを含むもの,
a)前記ポリペプチドを発現する細胞を調整し
b)前記細胞を無傷又は破壊された状態で試験化合物と接触させ,次いで
c)前記ポリペプチドの活性が試験化合物の存在下減少又は増大するかを確認し,前記活性が減少又は増大することは試験化合物が前記ポリペプチドの活性を調節していることの指標であると判断する。」に補正された。

2 目的要件違反について
(1)上記補正(1)は,補正前の請求項9に係る発明を特定するために必要な事項である「配列番号:2,5,14,15もしくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド」を,「請求項1に記載の核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド」に変更するものである。補正後の請求項1には,「配列番号:1,配列番号:4,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12,配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子」が記載され,配列番号:2及び5のアミノ酸配列は,配列番号:1及び4のヌクレオチド配列によりコードされるものであるから,結局のところ,この補正は,「配列番号:14,15もしくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド」に代えて,「配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12及び配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド」を追加するものであると認められる。
そこで検討すると,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12はそれぞれ,大脳皮質由来のヒトCOX3,肺細胞由来のヒトCOX3,エキソン10を欠失した肺細胞由来のヒトCOX3をコードするヌクレオチド配列であり,配列番号:13は,これら3つの配列をまとめた共通ヌクレオチド配列である。一方,配列番号:14,15もしくは16のアミノ酸配列は,配列番号:13に示される共通ヌクレオチド配列によってコードされる,異なる読み取り枠に対するアミノ酸配列である(段落【0007】【0049】)。
そして,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12のヌクレオチド配列は,配列番号:13の共通ヌクレオチド配列と全く同じものではないから,共通ヌクレオチド配列がコードする配列番号:14,15もしくは16のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列をコードするものである。特に,配列番号12は,エキソン10を欠失しているため,共通ヌクレオチド配列とは明らかに異なるものであり,配列番号:14,15もしくは16のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列をコードするものである。
したがって,補正後の請求項9は,補正前の「配列番号:14,15もしくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチド」に代えて,これとは異なる,「配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12及び配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチド」を含むように拡張されているから,上記補正(1)は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また,この補正が,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものではないことも明らかである。
したがって,上記補正(1)は,補正の目的要件を満たしていない。

(2)上記補正(1)は,補正前の請求項10に係る発明を特定するために必要な事項である「請求項9に記載のポリペプチド」を,「請求項9に記載のポリペプチドをコードする核酸分子」にその内容を変更するものである。
これは,新たな核酸分子を特許請求するものであり,請求項の数を増加させる補正に該当する。そして,ポリペプチドを核酸分子に変更する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではないし,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものでもない。
したがって,上記補正(1)は,補正の目的要件を満たしていない。

(3)上記補正(2)は,補正前の請求項16に係る発明を特定するために必要な事項である「試料がmRNA分子を含み,そして試料を核酸プローブと接触させる」を,「前記核酸プローブまたはプライマーと結合する核酸分子が,mRNA分子である」に変更するものである。
すなわち,補正前の請求項16では,「核酸プローブ」を接触させるものであったのに対し,補正後の請求項16では,「核酸プローブまたはプライマー」を結合させるものに変更されており,「プライマー」が択一的記載の要素として追加されているから,この補正は,特許請求の範囲を拡張するものである。
したがって,上記補正(2)は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。そして,この補正が,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものではないことも明らかである。
したがって,上記補正(2)は,補正の目的要件を満たしていない。

(4)上記補正(3)は,補正前の請求項19に係る発明を特定するために必要な事項である,
「a)試験化合物/ポリペプチドの結合の直接検出による結合の検出」を,「a)試験化合物/ポリペプチドの結合の直接検出」に,
「b)競合結合検定法を利用して行う結合の検出」を,
「b)競合結合検定法」に,
「c)活性検定法を利用して行う結合の検出」を,
「c)活性検定法」に変更するものである。
この補正により,「による結合の検出」,「を利用して行う結合の検出」という文言が削除されたが,このような文言が冗長な表現であるとして拒絶の理由が通知されていたわけではないから,上記補正(3)は,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものではない。
また,補正後の請求項19にも「試験化合物のポリペプチドとの結合が検出される」という文言があるから,a)?c)の3つの方法を利用して「結合の検出」が行われることは明らかであり,補正の前後で発明の内容に変更があったとも認められない。したがって,上記補正(3)は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
さらに,このような補正が,請求項の削除,誤記の訂正を目的とするものではないことも明らかである。
したがって,上記補正(3)は,補正の目的要件を満たしていない。

(5)上記補正(4)は,補正前の請求項28に係る発明を特定するために必要な事項である,「化合物が非ステロイド抗炎症化合物である・・・選択阻害剤」を,「非ステロイド抗炎症剤と接触させることを含む・・・活性阻害方法」に変更するものである。
また,上記補正(5)は,補正前の請求項30に係る発明を特定するために必要な事項である,「COX-3又はPCOX-1aの活性を選択的に阻害する選択阻害剤」を,「請求項9に記載のポリペプチドの活性を選択的に調節する化合物の同定方法」に変更するものである。
両者とも「剤」という物を「方法」に変更するものであり,このような発明のカテゴリーを変更する補正が,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものではないことは明らかである。
したがって,上記補正(4)及び(5)は,補正の目的要件を満たしていない。

(6)上記補正(6)は,補正前の請求項31に係る発明を特定するために必要な事項である,「a)COX-1変異体をコードするDNAをトランスフェクトしてCOX-1変異体を発現する細胞を調整し」を,「a)前記ポリペプチドを発現する細胞を調整し」に変更するものである。
この補正により,「COX-1変異体をコードするDNAをトランスフェクトして」という文言が削除されたが,COX-1変異体を発現する細胞を取得する方法は,DNAをトランスフェクトする方法に限られないから,前記文言の削除は,それ以外の方法で行う態様を含むように,特許請求の範囲を拡張するものである。
したがって,上記補正(6)は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また,この補正が,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものではないことも明らかである。
よって,上記補正(6)は,補正の目的要件を満たしていない。

3 小括
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

上記のとおり,平成20年11月18日付の手続補正は補正却下されたので,次に,平成20年11月19日付の手続補正について検討する。

第3 平成20年11月19日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年11月19日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 平成20年11月19日付の手続補正
(1)本件補正により,特許請求の範囲の請求項1,9及び10は,平成19年8月2日付の,
「【請求項1】
a)配列番号:1に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
b)配列番号:3に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
c)配列番号:4に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
d)配列番号:6に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
e)配列番号:10に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
f)配列番号:11に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
g)配列番号:12に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,及び
h)配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子
からなる群から選択される単離された核酸分子。」
「【請求項9】
配列番号:2,5,14,15もしくは16のアミノ酸配列を含むポリペプチドからなる群から選択される単離又は組換えられたポリペプチド。」及び
「【請求項10】
非相同のアミノ酸配列をさらに含む請求項9に記載のポリペプチド。」から,補正後の,
「【請求項1】
配列番号:1,配列番号:4,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12,及び配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子からなる群から選択される単離された核酸分子。」
「【請求項9】
請求項1に記載の核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドからなる群から選択される単離又は組換えられたポリペプチド。」及び
「【請求項10】
請求項9に記載のポリペプチドであって,前記ポリペプチドが配列番号:2又は配列番号:5であるポリペプチド。」に補正された。

(2)本件補正により,特許請求の範囲の請求項18及び19は,平成19年8月2日付の,
「【請求項18】
a)ポリペプチド又はそのポリペプチドを発現する細胞を試験化合物と接触させ,次いで
b)そのポリペプチドが試験化合物と結合するかどうかを確認する
ことを含んでなる請求項9に記載のポリペプチドに結合する化合物を同定する方法。」及び
「【請求項19】
a)試験化合物/ポリペプチドの結合の直接検出による結合の検出,
b)競合結合検定法を利用して行う結合の検出,及び
c)活性検定法を利用して行う結合の検出
からなる群から選択される方法で,試験化合物のポリペプチドとの結合が検出される請求項18に記載の方法。」から,補正後の,
「【請求項18】
a)ポリペプチド又はそのポリペプチドを発現する細胞を試験化合物と接触させ,次いで
b)そのポリペプチドが試験化合物と結合するかどうかを確認する
ことを含んでなる請求項9に記載のポリペプチドに結合する化合物を同定する方法。」及び
「【請求項19】
a)試験化合物/ポリペプチドの結合の直接検出,
b)競合結合検定法,及び
c)活性検定法
からなる群から選択される方法で,試験化合物のポリペプチドとの結合が検出される請求項18に記載の方法。」に補正された。

(3)本件補正により,特許請求の範囲の請求項31は,平成19年8月2日付の,
「【請求項31】
a)COX-1変異体をコードするDNAをトランスフェクトしてCOX-1変異体を発現する細胞を調整し
b)前記細胞を無傷又は破壊された状態で試験化合物と接触させ,次いで
c)COX-1変異体の活性が試験化合物の存在下減少又は増大するかを確認し,前記COX-1変異体の活性が減少又は増大することは試験化合物がCOX-1変異体の活性を調節していることの指標であって,
前記COX-1変異体が,COX-3,PCOX-1a,hCOX-3(cs1),hCOX-3(cs2)及びhCOX-3(cs3)からなる群から選択されることを含んでなるCOX-1変異体の活性を調節する化合物の同定方法。」から,請求項22?30の削除を伴い,補正後の請求項22として,
「【請求項22】
a)前記ポリペプチドを発現する細胞を調整し
b)前記細胞を無傷又は破壊された状態で試験化合物と接触させ,次いで
c)前記ポリペプチドの活性が試験化合物の存在下減少又は増大するかを確認し,前記ポリペプチドの活性が減少又は増大することは試験化合物が前記ポリペプチドの活性を調節していることの指標であって,
前記ポリペプチドの活性を調節する化合物の同定方法。」に補正された。

2 目的要件違反について
(1)上記補正(1)は,上記「第2 2(1)」で検討したのと同様のものであり,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当しない。
したがって,上記補正(1)は,補正の目的要件を満たしていない。

(2)上記補正(1)は,補正前の請求項10に係る発明を特定するために必要な事項である「非相同のアミノ酸配列をさらに含む請求項9に記載のポリペプチド」を,「請求項9に記載のポリペプチドであって,前記ポリペプチドが配列番号:2又は配列番号:5であるポリペプチド」に変更するものである。
補正前のポリペチドは,例えば,配列番号:2のアミノ酸配列を含むポリペプチドにおいて,非相同のアミノ酸配列をさらに含むものである。一方,補正後のポリペプチドは,「前記ポリペプチドが配列番号:2・・・であるポリペプチド」と特定されているように,非相同のアミノ酸配列を含まず,配列番号:2そのものからなるポリペプチドである。
してみると,前者は非相同のアミノ酸配列や配列番号:2以外のアミノ酸配列を含む点で,後者よりも長い異なるポリペプチドであるから,上記補正(2)は,発明の内容を変更する補正であり,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,請求項の削除,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれを目的とするものにも該当しない。
したがって,上記補正(1)は,補正の目的要件を満たしていない。

(3)上記補正(2)は,上記「第2 2(4)」で検討したのと同様のものであり,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,請求項の削除,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当しない。
したがって,上記補正(2)は,補正の目的要件を満たしていない。

(4)上記補正(3)は,上記「第2 2(6)」で検討したのと同様のものであり,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,請求項の削除,誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当しない。
したがって,上記補正(3)は,補正の目的要件を満たしていない。

3 小括
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本願発明について

平成20年11月18日付の手続補正,及び平成20年11月19日付の手続補正はいずれも上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成19年8月2日付で手続補正された特許請求の範囲の請求項1?52に記載された事項により特定されるものであり,そのうち請求項1,31及び48に係る発明(以下,「本願発明1」等という。)は,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
a)配列番号:1に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
b)配列番号:3に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
c)配列番号:4に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
d)配列番号:6に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
e)配列番号:10に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
f)配列番号:11に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,
g)配列番号:12に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子,及び
h)配列番号:13に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子
からなる群から選択される単離された核酸分子。」

「【請求項31】
a)COX-1変異体をコードするDNAをトランスフェクトしてCOX-1変異体を発現する細胞を調整し
b)前記細胞を無傷又は破壊された状態で試験化合物と接触させ,次いで
c)COX-1変異体の活性が試験化合物の存在下減少又は増大するかを確認し,前記COX-1変異体の活性が減少又は増大することは試験化合物がCOX-1変異体の活性を調節していることの指標であって,
前記COX-1変異体が,COX-3,PCOX-1a,hCOX-3(cs1),hCOX-3(cs2)及びhCOX-3(cs3)からなる群から選択されることを含んでなるCOX-1変異体の活性を調節する化合物の同定方法。」

「【請求項48】
a)各々治療剤に関連する複数の基準発現プロファイルを提供し,
b)被検者から得た核酸を提供し,
c)その核酸を請求項42,43,44,45,46,又は47のうちのいずれか一つに記載のアレーに接触させ,
d)上記核酸が複数のアドレスの各アドレスに結合するのを検出して被検者の発現プロファイルを提供し,
e)上記被検者の発現プロファイルに最も類似している基準プロファイルを選択して治療剤を選択する
ことを含んでなる治療剤の選択方法。」
ここで,請求項48で引用される,例えば,請求項42は,
「【請求項42】
複数のアドレスを有する基質を含むアレーであって,前記複数のアドレスのうちの少なくとも一つのアドレスがCOX-1変異体の核酸又は前記COX-1変異体の核酸のフラグメントに特異的に結合できる捕獲プローブを備えているアレーであって,前記COX-1変異体が,COX-3,PCOX-1a,hCOX-3(cs1),hCOX-3(cs2)及びhCOX-3(cs3)からなる群から選択されるアレー。」というものである。
なお,「hCOX-3」は,ヒト由来のCOX-3を表す(段落【0007】)。

第5 原査定の理由

1 特許法第36条第6項第1号違反
原査定の拒絶の理由の1つは,本願は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり,平成19年3月28日付の拒絶理由通知には,具体的に次のように記載されている。
「本願の発明の詳細な説明には,COX-3を昆虫細胞で発現させアセトアミノフェン等幾つかのNSAIDに対する阻害試験を行い,COX-1及びCOX-2と比べて感受性の違いがあることは記載されているものの(特に,表1,図13),PCOX-1については機能が何ら具体的に記載されていない。また,一般にタンパク質においてアミノ酸を欠失,置換等した場合の効果を予測することは困難であるという本願出願当時の技術常識を勘案すると,PCOX-1の何らかの機能が公知であったとも認められない。
そうすると,PCOX-1を含む請求項1-13,18-20に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,請求項1-13,18-20に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。」

また,平成20年7月28日付の拒絶査定には,具体的に次のように記載されている。
「上記拒絶理由通知書でも指摘したとおり,PCOX-1はCOX1変異体であり,一般にタンパク質においてアミノ酸を欠失,置換等した場合の効果を予測することは困難であるという本願出願当時の技術常識,及び,単に公知のタンパク質と類似のモチーフを持つことをもって,何ら具体的な結果の記載されていないPCOX-1が,PIOXと同様に,脂肪酸オキシゲナーゼ活性を有するものとは認められず,上記主張は採用できない。
してみると,PCOX-1を含む請求項1-50に係る発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので,請求項1-50に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。」

2 特許法第36条第6項第2号違反
原査定の拒絶の理由の1つは,本願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものであり,平成20年7月28日付の拒絶査定には,具体的に次のように記載されている。
「請求項31,38-42,45,49に記載のCOX-1変異体とは,具体的にいかなる塩基配列のものを意味しているのか不明確である。同項を引用する他の請求項についても同様である。」

3 特許法第29条第1項柱書違反
原査定の拒絶の理由の1つは,この出願の請求項に係る発明は,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないというものであり,平成20年7月28日付の拒絶査定には,具体的に次のように記載されている。
「請求項48,50の「治療剤の選択」は医師の行う医療行為であるから,依然として特許法第29条第1項柱書の規定により,特許を受けることができない。」

第6 特許法第36条第6項第1号について

1 本願明細書の記載
(ア)「本発明は,新規な哺乳類シクロオキシゲナーゼ(COX)ポリペプチドをコードする新規な核酸及びその使用方法に関する。本発明はさらにCOXの活性を調節する化合物及びこのような化合物を同定する方法に関する。」(段落【0001】)
(イ)「シクロオキシゲナーゼの活性を調節する化合物及びこのような化合物の同定法の開発に対する要望が増大している。したがって,分子レベルで,既存の抗炎症医薬の有効性を試験し及び可能性がある抗炎症剤の有効性を評価する方法の改良法並びにこのような方法に使用する試薬が要望されている。」(段落【0006】)
(ウ)「シクロオキシゲナーゼのアイソザイムは,医薬として重要な治療剤の例えばアスピリン,イブプロフェン及びナプロキセンを含む非ステロイド系抗炎症医薬(NSAID)の細胞標的である。本発明は新規なCOX-1変異体の酵素を提供するものである。脂肪酸オキシゲナーゼの活性は,シクロオキシゲナーゼによるプロスタグランジン,トロンボキサン,ヒドロキシー及びヒドロペルオキシ脂肪酸の産生が主要なものであり,そして病原体誘発性脂肪酸オキシゲナーゼ(PIOX)と呼称される,植物中の酵素の類縁グループによって共有されている。現在のデータは,PIOX様酵素が自然に広く見られることを示している。PIOXはヒドロペルオキシ脂肪酸とその誘導体を生成する。したがって,本発明のCOX-1変異体は,PIOXと同様に,脳及び他の組織の中で,重要な酸素化脂肪酸由来のメッセンジャーを合成するために必要な重要なアミノ酸残基を含んでいる。」(段落【0039】)
(エ)「COX-1変異体の1例として,そのアミノ末端にイントロン-1が挿入されているのに加えて重要な(219個のアミノ酸)が欠失しているのを示すPCOX-1aがある。この酵素は,ヘムに結合し,ペルオキシダーゼ活性を有しそしてPIOX類と同様に脂肪酸を酵素化する構造モチーフをもっている。このことは,COX-1及びCOX-2とは異なり,PCOX-1aがシクロペンタンリングを含有するプロスタグランジン類などの産物を産生しそうにないことを意味する。というのは,このような産物が生成するには,脂肪酸と,PCOX-1aには欠失している疎水性残基との相互作用が必要だからである。代わりに,PCOX-1aはPIDX類と同様に脂肪酸のモノ酵素化されたヒドロペルオキシ誘導体又はヒドロキシ誘導体を生成するようである。」(段落【0210】)
(オ)「COX一次構造の膜結合ドメインのカルボキシ末端側に触媒ドメインがあり,このドメインはそのタンパク質の80%(約480個のアミノ酸)を構成し二つの明白な酵素活性部位を含有している。その第一部位はペルオキシターゼ(POX)活性部位である。COXアイソザイムの全触媒ドメインは球形で二つの明白な絡みあったローブ(lobe)をもっている。これらローブの界面は,ペルオキシダーゼ活性部位が配置されそしてヘムが結合されている該酵素の上面(すなわち前記膜から最も離れている面)に浅いクレフトをつくっている。上記ヘムの配位は,ヒツジCOX-1のHis388を含む鉄-ヒスチジン結合によって行われる。また,プロトポルフィリン間の他の重要な相互作用が起こり,PGG2を配位する際に機能する特異的アミノ酸が確認されている。ヘム結合の形態は,PGG2及び他の過酸化脂質と相互に作用するペルオキシダーゼ活性部位の開放クレフトに暴露されたヘムの一方の側の大部分を残している。」(段落【0145】)
(カ)「PCOX-1aは,COX-3タンパク質の,エキソン5?8に相当する触媒ドメイン中の219個のアミノ酸が欠失していることを除いてCOX-3と同一である。PCOX-1aは,アラキドン酸からプロスタグランジン類をつくることができないことによって分かるように,検出可能なシクロオキシゲナーゼ活性を欠いている。その欠失部分は,COX-1とCOX-2に形成されている構造へリックスHE,H1,H2,H3,H5及びH6の一部を含んでいる。これらへリックスのうちのH2とH5は,コアペルオキシダーゼの触媒部位の一部を形成している。PCOX-1は,H2とH5を欠いているので検出可能なペルオキシタダーゼ活性を欠いている可能性が大きい。このように,PCOX-1は,ペルオキシダーゼ活性を欠いている植物のPIOX酵素類及びギューマノミセス・グラミニス(Gaeumannomyces graminis)のリノレエートジオールシンターゼ(LDS)に類似している。しかしこれらの酵素は,機構がシクロオキシゲナーゼのオキシゲナーゼ活性に類似している脂肪酸オキシゲナーゼの活性を有し,COX-1とCOX-2に見られるのと類似の配列を含有している。図14は,PIOX類とLDSを有するCOX-1とCOX-2の共通配列由来のH2,H5及びH8(Tyr385と近似ヒスチジンを含有するへリックス)のアラインメントを示す。」(段落【0247】)
(キ)「シクロオキシゲナーゼのペルオキシダーゼ活性は,シクロオキシゲナーゼの反応に使用されるタンパク質ラジカルをつくる必要があるが,連続するペルオキシダーゼ活性は連続するシクロオキシゲナーゼ活性に対して不可欠なものではない。シクロオキシゲナーゼは,一回のペルオキシダーゼ反応によって活性化された後,基質の酵素化反応を触媒し続けることができる。というのはチロシンラジカルが各酵素化反応の後,再生されるからである。また,シクロオキシゲナーゼに対するこの活性化機構はPIOX類とLDSによって働くようである。シクロオキシゲナーゼの活性部位のチロシンと近似ヒスチジンはPIOX類とLDS内に保存されている。これらの酵素は,シクロオキシゲナーゼと類似していることから,COXに類似した反応機構をもっていると考えられる。したがって,これらの酵素類は,検出できないけれどもシクロオキシゲナーゼ類を活性化してオキシゲナーゼ活性を生成するのに十分な低レベルのペルオキシダーゼ活性を保持しているようである。」(段落【0248】)
(ク)「COX-1とCOX-2にシクロオキシゲナーゼ活性を得るためにペルオキシダーゼ活性部位の代謝回転(turnover)は一回しか必要でないので,PCOX-1タンパク質中に,それらタンパク質を活性化するのに十分な残留ペルオキシダーゼ活性がある。しかし,我々はPCOX-1aがシクロオキシゲナーゼ活性をもっていないことを示した。PIOX類との比較に基づいて,PCOX-1タンパク質が,PIOX類の脂質オキシゲナーゼ活性に類似の脂質オキシゲナーゼ活性を保持している可能性がある。PCOX-1タンパク質の基質が何であるか確認するにはさらなる試験が必要である。」(段落【0249】)

2 当審の判断
本願発明の課題は,シクロオキシゲナーゼ活性を調節する化合物及びその同定方法の開発を視野に入れて,新規な哺乳類シクロオキシゲナーゼ(COX)ポリペプチド(COX-1変異体)をコードする核酸分子を提供することである(上記記載事項(ア)(イ)(ウ))。このような課題を解決するためには,前記核酸分子がコードするポリペプチドの活性を理解し,利用することが不可欠であり,発明の詳細な説明において,そのような活性が明らかにされている必要がある。そして,本願発明1に記載された核酸分子の1つは「配列番号:4に記載のヌクレオチド配列を含む核酸分子」というものであり,これは,イヌ由来のPCOX-1aのcDNAヌクレオチド配列であるから(段落【0010】),本願発明の課題が解決されていると認めるためには,PCOX-1aの活性が発明の詳細な説明に基づいて理解できることが必要である。
ところが,原査定の拒絶の理由では,PCOX-1aの活性が理解できないと判断されているので,以下,その点について検討する。

(1)シクロオキシゲナーゼ活性について
PCOX-1aは,COX-3のエキソン5?8に相当する触媒ドメイン中の219個のアミノ酸が欠失したものであり(図11),それ以外のアミノ酸はCOX-3と同一のものである(上記記載事項(カ))。なお,イヌ由来のCOX-3は全長で633個のアミノ酸からなるものである(配列番号:2)。
一般に,全長の3分の1に相当するアミノ酸が失われ,しかも触媒ドメインを構成する大部分のアミノ酸が失われれば,元の活性を保持していないと考えるのが自然である。したがって,PCOX-1aは,COX-3活性を保持するものではない。実際,発明の詳細な説明には,PCOX-1aが,COX-3と異なり,アラキドン酸からプロスタグランジン類を合成することができず(図12),検出可能なシクロオキシナーゼ活性は失われていると記載されている(上記記載事項(カ))。
したがって,PCOX-1aがシクロオキシゲナーゼ活性を有するものでないことは明らかである。

(2)ペルオキシダーゼ活性について
発明の詳細な説明によれば,COXの触媒ドメインには,シクロオキシゲナーゼ活性のほか,ペルオキシダーゼ活性が含まれていると記載されている(上記記載事項(オ))。
しかし,発明の詳細な説明には,PCOX-1aで失われている部分は,COX-1とCOX-2に形成されている構造へリックスHE,H1,H2,H3,H5及びH6の一部を含むものであり,これらへリックスのうち,H2とH5はコアペルオキシダーゼの触媒部位の一部を形成しているので,H2とH5を欠いているPCOX-1aは,検出可能なペルオキシタダーゼ活性を失っている可能性が高いと記載されている(上記記載事項(カ))。
したがって,PCOX-1aは,シクロオキシゲナーゼ活性だけでなく,ペルオキシダーゼ活性も失っているものと認められる。

(3)脂肪酸オキシゲナーゼ活性について
発明の詳細な説明には,COX-1変異体が,PIOX(病原体誘発性脂肪酸オキシゲナーゼ)と同様に,重要な酸素化脂肪酸由来のメッセンジャーを合成するために必要なアミノ酸残基を含んでいること(上記記載事項(ウ)),PCOX-1aにはヘムが結合し,ペルオキシダーゼ活性を有し,PIOX類と同様に,脂肪酸を酸素化する構造モチーフを有し,脂肪酸がモノ酸素化されたヒドロペルオキシ誘導体等を生成すること(上記記載事項(エ))が記載されている。
しかし,このような記載はすべて推論であり,実際に,PCOX-1aが脂肪酸オキシゲナーゼ活性を有し,ヒドロペルオキシ誘導体等を生成したことは,発明の詳細な説明において何ら具体的に記載されていない。
他方,発明の詳細な説明には,植物のPIOX酵素類と,COX-1及びCOX-2とは,H2,H5及びH8(385位のチロシンと近似のヒスチジン)という構造モチーフを有する点で共通するものがあることは示されているが(図14),上記のとおり,PCOX-1aはH2及びH5を欠くものであるから,植物のPIOX酵素類とは全く構造が異なるものであり,脂肪酸オキシゲナーゼ活性を有している蓋然性が高いとは認められない。
また,H2とH5を欠いているPCOX-1aにおいては,ヘムポケット周辺の環境が元のCOX3のものと変わっていることが予想され,H2にある遠位グルタミン及びヒスチジン(ヘムに配位すると認められるもの)も失われているから,H8にある活性部位チロシン及び近位ヒスチジンのみで,実際にヘムが結合するかどうかは予測がつかないものである。仮にヘムがPCOX-1aに結合するとしても,ヘムタンパク質には,血中タンパク質,酸化還元酵素,電子伝達系に関わるタンパク質等,様々な活性を有するものがあるから,ヘムが結合するというだけで,PCOX-1aが脂肪酸オキシゲナーゼ活性を有するとは認められない。
さらに,発明の詳細な説明には,1回のペルオキシダーゼ反応によって活性化された後は,チロシンラジカルが酸素化反応後によって再生されることになるので,PIOX類は低レベルのペルオキシダーゼ活性を持つようであり,PCOX-1aにも十分な残留ペルオキシダーゼ活性があるとも記載されているが(上記記載事項(キ)(ク)),これはPCOX-1aがPIOX類と同様に脂肪酸オキシゲナーゼ活性を持つという前提でなされた推論であり,上記のとおり,PCOX-1aは脂肪酸オキシゲナーゼ活性を有する蓋然性が高いとは認められないから,PCOX-1aが残留ペルオキシダーゼ活性を有するものであり,ヒドロペルオキシ誘導体等を生成するものであるとは認められない。

(4)その他の活性について
上記のとおり,PCOX-1aは219個のアミノ酸が失われたものである。このように多くのアミノ酸が失われたタンパク質の欠失体について,元の活性とは別に,具体的にどのような活性を有するのかを予測することは通常困難であり,実際に試験して活性を確認してみなければわからないといえるものである。したがって,PCOX-1aについても同様に,どのような活性を有するかは実際に試験してみなければわからないと認められる。
さらに,PCOX-1aが何らかの酵素活性を持つのであれば,基質が何であるのかが特定される必要があるところ,発明の詳細な説明には,PCOX-1aの基質が何であるのか確認するにはさらなる試験が必要であると記載されており(上記記載事項(ク)),基質が不明である点も,PCOX-1aが具体的にどのような酵素活性を持つのか理解することを困難にしている。

以上のとおり,発明の詳細な説明には,PCOX-1aの活性が具体的に開示されておらず,本願出願時の技術常識を参酌しても,その活性を当業者が理解できるとは認められないから,本願発明1の範囲まで,発明の課題が解決できることを当業者が認識することはできない。したがって,本願発明1は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって,本願は,本願発明1について,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

第7 特許法第36条第6項第2号について

本願の請求項31には,「前記COX-1変異体が,COX-3,PCOX-1a,hCOX-3(cs1),hCOX-3(cs2)及びhCOX-3(cs3)からなる群から選択される」と記載されている。
しかし,本願明細書の段落【0224】【0226】等にあるように,COX-3,PCOX-1aは,本願で初めて同定された,イントロン1を含む新規な核酸分子であり,本願出願時の技術常識を参酌しても,その具体的な構造(例えば塩基配列)を当業者が理解できるものではない。
また,本願出願時の技術常識を参酌すると,COX-1変異体,すなわち,COX-1のスプライシングバリアントには,様々なものが本願出願前に知られており(Archives of Biochemistry and Biophysics, 1995, Vol.316, No.2, pp.856-863,The Journal of Biological Chemistry, 1992, Vol.267, No.15, pp.10816-10822,Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 2000, Vol.278, pp.G820-G827,Carcinogenesis, 2001 Jun., Vol.22, No.6, pp.869-874),本願のCOX-3又はPCOX-1aを,既知のCOX-1変異体と区別して記載するためには,その塩基配列によって特定することが必要であると認められる。
したがって,塩基配列によって特定されていない,本願発明31の「COX-1変異体」は,化学物質として十分に特定して記載されていないから,本願は,本願発明31について,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第8 特許法第29条第1項柱書について

本願の請求項48には,「a)各々治療剤に関連する複数の基準発現プロファイルを提供し,b)被検者から得た核酸を提供し,c)その核酸を請求項42・・・のアレーに接触させ,d)上記核酸が複数のアドレスの各アドレスに結合するのを検出して被検者の発現プロファイルを提供し,e)上記被検者の発現プロファイルに最も類似している基準プロファイルを選択して治療剤を選択することを含んでなる治療剤の選択方法。」と記載されている。
ここで,上記「被検者」が人間を意味することは明らかであり,使用するアレーにヒト由来のCOX-3が含まれることからみても,そのことがうかがえるものである。
また,被検者の発現プロファイルは,被検者毎に異なるものであり,複数ある基準発現プロファイルと全く同じものでないことは,「最も類似している基準プロファイル」という文言からみても明らかである。
そして,それぞれ異なる被検者の発現プロファイルと,複数ある基準プロファイルとを比較して,最も類似している基準プロファイルを選択することは,医師等の専門的な知識に基づく判断を必要とするものであり,しかも,選択された基準プロファイルに基づいて,どのような治療剤を用いるか,すなわち治療計画が具体的に選択されることになるから,上記発明特定事項は,医療行為そのものを特定していると認められる。
したがって,本願発明48は,「人間を手術,治療又は診断する方法」に該当し,産業上利用することができる発明に該当しないから,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。

第9 むすび

以上のとおりであるから,本願は,本願の請求項1,31に係る発明について,特許法第36条第6項第1号,同条同項第2号に規定する要件をそれぞれ満たしておらず,本願の請求項48に係る発明は,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。そして,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-09 
結審通知日 2011-08-10 
審決日 2011-08-25 
出願番号 特願2003-532629(P2003-532629)
審決分類 P 1 8・ 14- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福間 信子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 内田 俊生
引地 進
発明の名称 新規なシクロオキシゲナーゼ変異体とその使用方法  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  

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