• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1249711
審判番号 不服2010-8015  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-15 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2006-273918「脱水システム及び脱水方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月17日出願公開、特開2008- 86972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年10月5日の出願であって,平成21年10月9日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年同月16日)、同年12月14日付けで意見書並びに特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成22年1月8日付けで拒絶査定が起案され(発送日は同年同月15日)、これに対して、同年4月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年5月26日付けで請求の理由に係る手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1-8に係る発明は、平成21年12月14日付けの特許請求の範囲の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「エタノールと水との混合物又はプロパノールと水との混合物から成る被処理流体を、無水物と水とに分離する水分離膜装置を備え、該水分離膜装置又は水分離膜装置に供給される被処理流体の温度監視装置を備え、該温度監視装置で温度を検知し、さらに、上記水分離膜装置の前段に温度調整装置を備え、該温度調整装置を用い、上記温度監視装置で検知された温度に基づいて上記被処理流体の温度を制御し、上記水分離膜装置での分離操作における透過水量の最適化を図るようにした脱水システムであって、上記温度調整装置が熱媒流量コントローラから成り、上記被処理流体が熱交換機を経て上記水分離膜装置に供給され、上記熱媒流量コントローラは、上記被処理流体の温度がその凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持されるように上記熱交換器を流れる熱媒体の流量を制御することを特徴とする脱水システム。」

3.刊行物の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の出願日前である昭和63年11月16日に頒布された刊行物である特開昭63-278522号公報 (以下「刊行物」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「少なくとも2種類の揮発性成分からなる揮発性混合物を蒸留塔及び気体分離膜を用いて分離する方法であって、上記蒸留塔に原料揮発性混合物を供給し、上記蒸留塔の中間段乃至濃縮段から、少なくとも2種類の揮発性成分からなる混合蒸気の一部又は全量を取り出し、取り出した混合蒸気をその構成成分に対して選択透過性を有する気体分離膜の一方の側に供給し、且つその際該気体分離膜の他方の側を減圧に保持することにより、膜透過画分と膜非透過画分とに分離し、該膜透過画分及び/又は該膜非透過画分をそれらの組成に応じて上記蒸留塔の濃縮段又は回収段に返送することを特徴とする揮発性混合物の分離方法。」(特許請求の範囲(1))
(イ)「本発明の分離方法を適用し得る揮発性混合物としては、蒸留塔で分離し得るものであれば特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、アセトン、アセトニトリル、アクリロニトリル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸、石炭酸等の有機物の水溶液、及びアセトンとn-ヘキサンとの混合物、エタノールとアセトンとの混合物、スチレンとエチルベンゼンとの混合物、ベンゼンとアニリンとの混合物等の有機物の混合物を挙げることができる。」(2頁左下欄5-17行)
(ウ)「本発明の揮発性混合物の分離方法を実施するには、先ず、上記揮発性混合物をラインAから蒸留塔1の中間段(中間部)2に供給する。
蒸留塔1の中間段2に供給された揮発性混合物は、蒸留塔1の底部に供給されるスチーム等の熱源により間接加熱され、一部が気化して混合蒸気として 蒸留塔1内を上昇し、残部が混合液として蒸留塔1内を流下する。
次いで、蒸留塔1の中間段2から、揮発性混合物の気化により生成された上記混合蒸気の一部又は全量を、ラインBから過熱器9に移送し、該混合蒸気が凝縮しないように過熱器9で昇温させた後、気体分離膜4の一方の側(-次側)4aに供給し、且つその際該気体分離膜4の他方の側(二次側)4bを減圧に保持することにより、上記混合蒸気中の高沸点物を上記気体分離膜4の二次側4bに選択的に透過させて、上記混合蒸気を高沸点物(膜透過性揮発性成分)に冨んだ膜透過画分と低沸点物(膜非透過性揮発性成分)に富んだ膜非透過画分とに分離する。
この際、過熱器9による再昇温操作と併せて、気体分離膜4に供給される混合蒸気の圧力・温度を該混合蒸気が凝縮しない範囲で高めることにより、膜透過性揮発性成分の気体分離膜4に対する透過量を多くし、気体分離膜4による分離の度合を高めることができる。これらの点を考慮すると、気体分離膜4に供給される混合蒸気の圧力は760?5000mmHg、温度は70?150℃とすることが好ましい。」(2頁右下欄1行-3頁左上欄9行)
(エ)「また、膜透過画分及び膜非透過画分は、両者を必ずしも蒸留塔に返送する必要はなく、例えば、揮発性混合物が有機物水溶液で、膜透過画分が有機物を殆ど含まない水であるような場合には、該膜透過画分は蒸留塔に返送することなく系外に排出しても良い。
また、蒸留塔からの混合蒸気の抜き出し位置は、蒸留塔の中間段乃至濃縮段であれば良く、濃縮部の最上段でも良い。」(3頁右下欄6-14行)
(オ)「実施例1
本実施例は、エタノール水溶液の分離・濃縮に本発明の方法を適用した例で、第1図のフローシートに示す実施態様に従って実施した。
14段のトレイを設けた蒸留塔1の中間段(上から9段目のトレイ)に、ラインAからエタノール濃度30重量%のエタノール水溶液を毎時80Kgで供給した。混合蒸気の抜き出しは、蒸留塔1の原料供給段と同一段から行った。蒸留塔1から抜き出した混合蒸気は、エタノール濃度63重量%、温度85℃であった。この混合蒸気を過熱器9で90℃に昇温させた後、気体分離膜4の一次側4aに毎時80Kgで供給した。」(4頁右下欄8-20行)
(カ)「4.図面の簡単な説明」の記載(5頁左下欄下から2行-右下欄6行)と「本発明の揮発性混合物の分離方法の好ましい一実施態様の概略を示すフローシート」と題された第1図(6頁)には、上記(ウ)(オ)に記載される「本発明の揮発性混合物の分離方法」の「好ましい一実施態様」を実施するための各装置とそれらの接続関係がみてとれ、また、「凝縮器3」、「冷却器5」、「リボイラー8」、「過熱器9」が同一の記号によって表記されていることがみてとれる。

4.当審の判断
4-1.引用発明の認定
刊行物の記載事項について検討する。
(1)上記摘示事項(ア)の記載を以下のようにa)?d)に分節して整理すると、刊行物には
a)少なくとも2種類の揮発性成分からなる揮発性混合物を蒸留塔及び気体分離膜を用いて分離する方法であって、
b)上記蒸留塔に原料揮発性混合物を供給し、上記蒸留塔の中間段乃至濃縮段から、少なくとも2種類の揮発性成分からなる混合蒸気の一部又は全量を取り出し、
c)取り出した混合蒸気をその構成成分に対して選択透過性を有する気体分離膜の一方の側に供給し、且つその際該気体分離膜の他方の側を減圧に保持することにより、膜透過画分と膜非透過画分とに分離し、
d)該膜透過画分及び/又は該膜非透過画分をそれらの組成に応じて上記蒸留塔の濃縮段又は回収段に返送する
ことが記載されているということができる。
(2)上記a)の「少なくとも2種類の揮発性成分からなる揮発性混合物」は、上記(イ)に「本発明の分離方法を適用し得る揮発性混合物としては、蒸留塔で分離し得るものであれば特に制限はなく、例えば・・・エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール・・・等の有機物の水溶液」とあることから、「エタノールと水との混合物又はプロパノールと水との混合物」ということができる。
(3)上記b)について、「上記蒸留塔の中間段乃至濃縮段から、少なくとも2種類の揮発性成分からなる混合蒸気の一部又は全量を取り出し」とあるが、上記摘示事項(エ)には「・・・蒸留塔からの混合蒸気の抜き出し位置は、蒸留塔の中間段乃至濃縮段であれば良く、濃縮部の最上段でも良い。」と記載され、上記(2)から「揮発性成分」は2種類だから、「上記蒸留塔の濃縮部の最上段から、2種類の揮発性成分からなる混合蒸気の一部又は全量を取り出し」ということができる。
(4)上記c)について、上記摘示事項(ウ)には「・・・供給された揮発性混合物は、蒸留塔1の底部に供給されるスチーム等の熱源により間接加熱され、一部が気化して混合蒸気として蒸留塔1内を上昇し・・・揮発性混合物の気化により生成された上記混合蒸気の一部又は全量を・・・過熱器9に移送し、該混合蒸気が凝縮しないように過熱器9で昇温させた後、気体分離膜4の一方の側(-次側)4aに供給し、且つその際該気体分離膜4の他方の側(二次側)4bを減圧に保持することにより、上記混合蒸気中の高沸点物を上記気体分離膜4の二次側4bに選択的に透過させて、上記混合蒸気を高沸点物(膜透過性揮発性成分)に冨んだ膜透過画分と低沸点物(膜非透過性揮発性成分)に富んだ膜非透過画分とに分離する。」と記載される。
すると、「揮発性混合物」の「混合蒸気」は「過熱器9」を経て「気体分離膜4」に供給されるといえる。
また、上記(2)から「揮発性混合物」は「エタノールと水との混合物又はプロパノールと水との混合物」であり、1気圧下で、エタノールの沸点は78.32℃、プロパノールの沸点は1-プロパノールが97.2℃、2-プロパノールが82.40℃、水の沸点が100℃だから、「揮発性混合物」が「エタノールと水との混合物」と「プロパノールと水との混合物」のいずれであっても、「高沸点物(膜透過性揮発性成分)」は「水」であり、「低沸点物(膜非透過性揮発性成分)」は「エタノール」または「プロパノール」であるので、「気体分離膜4」は水を分離する機能を有することから「水分離膜装置」ということができ、該「水分離膜装置」が「揮発性混合物」の「混合蒸気」を「エタノール」または「プロパノール」の「無水物」と「水」とに分離するということができる。
(5)上記d)について、上記摘示事項(エ)には「また、膜透過画分及び膜非透過画分は、両者を必ずしも蒸留塔に返送する必要はなく、例えば、揮発性混合物が有機物水溶液で、膜透過画分が有機物を殆ど含まない水であるような場合には、該膜透過画分は蒸留塔に返送することなく系外に排出しても良い。」と記載されることから、「d)該膜透過画分及び/又は該膜非透過画分をそれらの組成に応じて上記蒸留塔の濃縮段又は回収段に返送する」ことは、必ずしも必要でないことが理解される。
(6)また、上記摘示事項(ア)からは、刊行物に記載されるのは「揮発性混合物の分離方法」の発明であるといえるが、同(ウ)、(オ)、視認事項(カ)には当該方法を実施するための各装置とそれらの接続関係についても開示されるものといえ、これらは全体としてみれば一つの「システム」といえるものである。そして上記(4)の検討から、当該「システム」は「揮発性混合物」から「水」を分離する、すなわち「脱水」のためのものということができる。
(7)上記(1)-(6)の検討結果を総合し、本願発明の記載ぶりに則して表現すれば、刊行物には、
「エタノールと水との混合物又はプロパノールと水との混合物からなる揮発性混合物を、無水物と水とに分離する蒸留塔及び水分離膜装置を備え、揮発性混合物が過熱器を経て水分離膜装置に供給される脱水システム。」(以下、「引用発明」という。)の発明が記載されているといえる。

4-2.本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の「揮発性混合物」は「蒸留塔及び水分離膜装置」によって処理されるから、これは本願発明の「被処理流体」に相当する。
(2)本願発明についてみれば、「図1に示すように・・・蒸留塔1での蒸留操作によって・・・塔頂から留出する留出物の一部は熱交換器7に分岐
し、再度液化して塔頂に戻す。その他の留出物は、熱交換器5を経て、水分離膜装置2に送られる」(【0021】及び【図1】)と記載され、「蒸留塔」が「水分離膜装置2」の前段として使用されている。
したがって、引用発明の「蒸留塔及び水分離膜装置を備え」た「脱水システム」は本願発明の「(蒸留塔及び)水分離膜装置を備え」た「脱水システム」に相当するものといえる。
(3)引用発明の「過熱器」は、上記摘示事項(ウ)に「・・・混合蒸気の一部又は全量を、ラインBから過熱器9に移送し、該混合蒸気が凝縮しないように過熱器9で昇温させた後、気体分離膜4の一方の側(-次側)4aに供給」するとあることから、「揮発性混合物」の「混合蒸気」を「昇温」すなわち「加熱」するものであり、「過熱器9」が「熱交換器」であれば容易に「加熱」し得るものである。
ここで、刊行物に見られるような蒸留塔を用いる装置または方法において、被処理流体の加熱(例えば「リボイラー」)、冷却(例えば「凝縮器」)に、相互の配管内流体の有する熱を互いに利用して加熱または冷却できる熱交換器の使用は技術常識であり、上記視認事項(カ)から刊行物の第1図において「凝縮器3」、「冷却器5」、「リボイラー8」、「過熱器9」が同一の機械記号によって表記されていることが視認されることから、「凝縮器3」や「リボイラー8」と同じ記号で表記された「過熱器9」もまた「熱交換器」であり得るものということができる。
(4)以上から本願発明と引用発明とは
「エタノールと水との混合物又はプロパノールと水との混合物からなる被処理流体を、無水物と水とに分離する水分離膜装置を備え、被処理流体が熱交換器を経て水分離膜装置に供給される脱水システム。」の点(一致点)で一致し、次の点で両者は相違する。

(相違点1)本願発明では「水分離膜装置又は水分離膜装置に供給される被処理流体の温度監視装置を備え、該温度監視装置で温度を検知」するのに対して、引用発明ではそのような特定はなされていない点
(相違点2)本願発明では「水分離膜装置の前段に温度調整装置を備え、該温度調整装置を用い、上記温度監視装置で検知された温度に基づいて上記被処理流体の温度を制御し、上記水分離膜装置での分離操作における透過水量の最適化を図る」ようにしたのに対して、引用発明ではそのような特定はなされていない点
(相違点3)本願発明では「温度調整装置が熱媒流量コントローラから成り、上記熱媒流量コントローラは、上記被処理流体の温度がその凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持されるように上記熱交換器を流れる熱媒体の流量を制御」するようにしたのに対して、引用発明ではそのような特定はなされていない点

4-3.相違点の検討
4-3-1.相違点1、2について
(1)本願発明の「被処理流体の温度監視装置」「温度調整装置」の機能について明細書を参酌すると、「・・・本発明に係る脱水システムでは、温度測定装置3によって、水分離膜の温度を検出する。温度の検出は、留出物自体の温度又は水分離膜の温度を検出することによって行うことができる。・・・気体である留出物の温度が、その凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持されるように、熱交換器5への熱媒体の流量を制御する・・・これによって、水分離膜の膜面積当たりの水透過量を増大させることにより、膜分離性能の向上を図る。
ここで、気体である留出物の温度が、その凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持するのは、図2に示すように、この温度で、極大の脱水効率を得ることができるためである。」(【0022】?【0024】)と記載されている。
これは、「蒸留塔1から気体で供給される」「留出物」すなわち「被処理流体」の温度を、その「凝縮温度」よりも幾分か高い温度にすると、「水分離膜の膜面積当たりの水透過量を増大させ」て膜分離性能を向上でき、「温度測定装置3」すなわち「被処理流体の温度監視装置」で「被処理流体」の「温度を検出」し、当該「検出」した温度に基づいて「温度調整装置」で「熱交換器5」への「熱媒体の流量を制御」して「被処理流体」の温度を制御することで水分離膜装置での分離操作における透過水量の最適化を図ることを意味するものといえる。
(2)一方、引用発明の「過熱器」の機能について、刊行物の上記摘示事項(ウ)には、「混合蒸気の一部又は全量を、ラインBから過熱器9に移送し、該混合蒸気が凝縮しないように過熱器9で昇温させた後、気体分離膜4の一方の側(-次側)4aに供給し・・・混合蒸気を高沸点物(膜透過性揮発性成分)に冨んだ膜透過画分と低沸点物(膜非透過性揮発性成分)に富んだ膜非透過画分とに分離する。この際、過熱器9による再昇温操作と併せて、気体分離膜4に供給される混合蒸気の圧力・温度を該混合蒸気が凝縮しない範囲で高めることにより、膜透過性揮発性成分の気体分離膜4に対する透過量を多くし、気体分離膜4による分離の度合を高めることができる」とあることから、引用発明も、「混合蒸気」の温度を、「該混合蒸気が凝縮しない範囲で高め」た温度にすると、「膜透過性揮発性成分(水)の気体分離膜4に対する透過量を多くし」て「気体分離膜4」による分離の度合を高めることができ、もって「気体分離膜4」での分離操作における透過水量の最適化を図り得ることを意味するものといえる。
したがって、本願発明と引用発明は、共に、「被処理流体」を「水分離膜装置に供給」する前に「熱交換器」で加熱して凝縮させないようにすることで「水分離膜装置」の透過量を大きくして効率を上げるものということができる。
(3)すると、引用発明においては、「過熱器9」で、「混合蒸気」の温度を「混合蒸気が凝縮しない範囲で高める」ためには、「混合蒸気」の温度を検出するための「被処理流体の温度監視装置」と、当該検出温度に基づいて「混合蒸気が凝縮しない範囲」まで加熱するための「温度調整装置」とが必須ということができ、それらは刊行物に直接の記載は無いが、引用発明は当然にこれらを備えているといえるか、仮にいえないとしてもこれらを備えることは容易に成し得るものということができる。
(4)よって、相違点1、2は実質的な相違点ではない、または、仮に相違するとしても、引用発明において技術常識を勘案することで、相違点1、2にかかる本願発明の特定事項を想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。

4-3-2.相違点3について
(1)熱交換器において温度調整のための熱媒流量を調整することは周知技術といえる。(要すれば、例えば特開平9-316180号公報の【0014】?【0016】、【0018】を参照。)
(2)また、上記摘示事項(オ)には、「実施例1」として「蒸留塔1から抜き出した混合蒸気は・・・温度85℃であった。この混合蒸気を過熱器9で90℃に昇温させた後、気体分離膜4の一次側4aに毎時80Kgで供給した」と記載され、「混合蒸気」の「凝縮温度」は不明であるが、「混合蒸気」は「過熱器9」で「85℃」から「90℃」へ「5℃」程度昇温されて「気体分離膜4の一次側4a」に供給されていることが理解される。
(3)本願明細書には「ここで、気体である留出物の温度が、その凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持するのは、図2に示すように、この温度で、極大の脱水効率を得ることができるためである。」(【0024】)と記載されるが、【図2】を見ても、図中に破線で示される縦線が「凝縮温度」であろうとは推測されるが、同図上で縦軸の「膜の透過量」が「極大」となっている横軸のポイントが判然とせず、また、このポイントがある程度明らかになったとしても、横軸の「温度」に目盛りがないことから、破線で示されている縦線の「凝縮温度」と上記ポイントとの差が「5?10℃」であることは見いだせない。
また、本願明細書中には「上記水分離膜は、細孔径10オングストローム以下のシリカ系又はゼオライト系の無機水分離膜が好適である。」(【0009】)、
「また、特許第2808479号記載の無機水分離膜も適用可能である。」(【0017】)とあり、これは【0018】の製造方法で製造される「水分離膜」以外の膜も本願発明に使用できるものと解釈され得るものであり、【0021】以降の「本実施の形態に係る脱水システムにより留出物を脱水する方法の一形態」の説明において、「水分離膜装置」の膜材質が何であるかについての記載は見いだせないことから、【図2】に開示される温度と膜の透過量の特性がどのような膜材質によって達成されるものかも明らかではない。
それゆえ、本願発明の上記温度範囲は、凝縮温度よりやや高い程度の凝縮しない範囲の温度を意味するものにすぎず、「5?10℃」という数値範囲に技術的な臨界的意義は見いだせない。
(4)さらに本願明細書には「・・・このような温度検出と、それに基づく熱媒体の流量の制御は、当業者にとって公知の手法で実施することができる。」(【0023】)と記載されており、「熱媒体の流量の制御」の手法としての「熱媒流量」を調整する「熱媒流量コントローラ」によるものは本願出願前から知られていると出願人自身が認めていると解される記載もある。
(5)すると、引用発明において、熱交換器である「過熱器9」の温度調整を、周知技術である「熱媒流量」の調整によって行うために、「温度調整装置」を、「熱媒流量」を調整する「熱媒流量コントローラ」とし、「被処理流体の温度がその凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持されるように上記熱交換器を流れる熱媒体の流量を制御」するようにすることに格別の困難性は見いだせない。
よって、引用発明において周知技術を勘案することで、相違点3にかかる本願発明の特定事項を想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。

そして上記各相違点に基づく本願発明の奏する作用効果も刊行物の記載及び周知技術から予測できる範囲のものであり格別なものではない。

4-3-3.請求人の主張について
請求人は、審判請求書の請求理由において「熱媒流量コントローラを用い、被処理流体の温度がその凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持されるように熱交換器を流れる熱媒体の流量を制御する特徴(上記1-E?1-G)により、このような応答性の良い温度コントロールを達成」できると主張する。
しかしながら、まず、上記主張の点は、本願明細書中に記載が無い。
また、熱交換器によって被処理流体の温度がその凝縮温度よりも5?10℃高い温度に維持されるようにするために「熱媒流量コントローラ」でない手段による場合の温度コントロールの応答性について、「熱媒流量コントローラ」による場合と比較して論じているわけではないから、「応答性の良い」ことを具体的に裏付ける事実を伴わない「応答性の良い」という表現がどの程度のことを意味するのか判断できない。
よって、熱媒流量コントローラを用いると応答性の良い温度コントロールを達成できるとの上記請求人の主張は採用することはできない。

5.むすび
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-07 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-11-21 
出願番号 特願2006-273918(P2006-273918)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 忠宏  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
小川 慶子
発明の名称 脱水システム及び脱水方法  
代理人 河村 英文  
代理人 松島 鉄男  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ