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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1249713
審判番号 不服2010-9318  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-30 
確定日 2012-01-04 
事件の表示 特願2004-177218「デバッグ方法およびデバッガ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 1月 5日出願公開、特開2006- 3987〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は,平成16年6月15日の出願であって,平成22年1月29日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年4月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成23年2月25日付けで審尋がなされ,これに対して同年4月21日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年4月30日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年4月30日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項のうち,請求項3の記載は次のとおりである。
「複数の命令を有するソースプログラムを記憶した記憶手段を備えたデバッガにおいて,
一つの前記命令で複数の機能を実行する命令,または一つの前記命令で複数のデータを使用する命令に対し,前記命令を前記機能毎および前記データ毎の分割命令に分割するための分割規則を予め記憶した記憶装置と,
前記命令を前記分割規則に基づいて複数の前記分割命令に分割し,前記命令と分割して得た複数の前記分割命令とを対応付けて記憶する記憶装置と,
前記命令が使用する全ての前記データを,前記ソースプログラムから検索して抽出する解析部と,
前記命令を各前記分割命令毎に実行する実行部と,
前記デバッガが有する画面上に,前記命令と,当該命令に対応する前記複数の分割命令と,前記分割命令で使用する前記データとを表示し,かつ,当該データにおける当該分割命令の実行判定結果を明示的に表示する表示部とを有することを特徴とするデバッガ。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲(平成21年12月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲)の請求項のうち,本件補正により補正された請求項3に対応する請求項4の記載は次のとおりである。
「ソースプログラムを記憶した記憶手段を備えたデバッガにおいて,
命令毎に,前記ソースプログラムを複数の処理単位に分割するための分割規則を予め定義し,定義された分割規則に従って前記命令毎にソースプログラムを複数の前記処理単位に分割し,該処理単位毎に分割命令として対応づけるとともに前記分割命令が処理するデータを前記ソースプログラムから抽出する解析部と,
前記命令を各処理単位毎に実行する実行部と,
前記命令と前記処理単位毎に分割された前記分割命令,前記分割命令に使用するまたは処理したデータを表示する表示装置とを有することを特徴とするデバッガ。」
(3)本件補正は,補正前の請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)を次のとおり補正する補正事項を含むものであって,発明特定事項の文言上の表現が異なるものの,いずれも新たな技術的事項を導入するものではなく,実質的に各発明特定事項に限定を付加するものということができ,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題も同一であるから,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
ア 「ソースプログラム」を「複数の命令を有するソースプログラム」とする補正。
イ 「命令毎に,前記ソースプログラムを複数の処理単位に分割するための分割規則を予め定義し,定義された分割規則に従って前記命令毎にソースプログラムを複数の前記処理単位に分割し,該処理単位毎に分割命令として対応づけるとともに前記分割命令が処理するデータを前記ソースプログラムから抽出する解析部」を「一つの前記命令で複数の機能を実行する命令,または一つの前記命令で複数のデータを使用する命令に対し,前記命令を前記機能毎および前記データ毎の分割命令に分割するための分割規則を予め記憶した記憶装置と,前記命令を前記分割規則に基づいて複数の前記分割命令に分割し,前記命令と分割して得た複数の前記分割命令とを対応付けて記憶する記憶装置と,前記命令が使用する全ての前記データを,前記ソースプログラムから検索して抽出する解析部」とする補正。
ウ 「前記命令を各処理単位毎に実行する実行部」を「前記命令を各前記分割命令毎に実行する実行部」とする補正。
エ 「前記命令と前記処理単位毎に分割された前記分割命令,前記分割命令に使用するまたは処理したデータを表示する表示装置」を「前記デバッガが有する画面上に,前記命令と,当該命令に対応する前記複数の分割命令と,前記分割命令で使用する前記データとを表示し,かつ,当該データにおける当該分割命令の実行判定結果を明示的に表示する表示部」とする補正。
2 補正の適否
そこで,補正後の請求項3に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用された,本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開2000-353112号公報(以下,「引用例」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
・「コンパイラが,高水準言語で記述されたソースプログラムを中間言語にコンパイルする際に,前記中間言語の行番号及び前記コンパイラがコンパイル時に自動生成する内部生成変数のシンボル情報をデバッグ情報として生成し記憶手段に格納する手段を備え,デバッグ装置が,前記ソースプログラムのデバッグ実行に際して,中間言語を表示し,前記デバッグ情報を参照して,中間言語でのブレークポイントの設定,ステップ実行,前記内部生成変数の値の参照及び/又は設定を含むデバッグ処理を実行する手段を備えたことを特徴とするプログラム開発支援システム。」(特許請求の範囲の【請求項5】)
・「本発明は,プログラムの開発支援システムに関し,特に,高水準プログラム言語で記述されたプログラムのデバッグ方法に関する。」(段落【0001】)
・「高水準プログラム言語の1命令は,複数の処理を行う複雑な記述が可能であり,ソースプログラムの1命令は中間言語のいくつかの命令に翻訳される。」(段落【0007】)
・「その目的は,基本的な命令の単位である中間言語レベルでブレイクポイントの設定やステップ実行を行うことができるデバッグ方法及びシステムを提供することにある。」(段落【0008】)
・「コンパイラによって生成されるオブジェクトファイルはコードとデータを含んでいる。デバッグ指定してコンパイルを行った場合,さらに変数名などのシンボル情報や,行番号生成手段によって一命令又は複数命令毎に付与される行番号情報といったデバッグ情報が付加される。」(段落【0011】)
・「本発明は,高水準プログラム言語で作成されたソースプログラムのデバッグにおいて,中間言語の1命令(1行)単位にブレイクポイントを設定したり,ステップ実行を行うため,ソースプログラムのプログラム命令に対して生成される中間言語に対する行番号情報をデバッグ情報の中に挿入しておき,端末上に中間言語を行番号情報とともに表示し,この中間言語の行番号情報に基づいて当該プログラムを指定の位置でブレイクしたりステップ実行を行うようにしたものである。」(段落【0012】)
・「これにより,ユーザは中間言語の1命令(1行)単位でブレイクポイントの設定やステップ実行を行うことができるようになる。」(段落【0013】)
・「本発明においては,中間言語に対する行番号情報と同様に,コンパイラが自動生成する内部生成変数に対してもシンボル情報をデバッグ情報の中に挿入しておき,内部生成変数の参照できるようにする。ユーザは,中間結果などの内部生成変数に対しても参照を行うことができるようにしている。」(段落【0015】)
・「本発明は,高水準言語で記述されたソースプログラムを入力し中間言語に翻訳するコンパイラにおいて,デバッグ情報の生成が指定入力された際に,前記コンパイラが前記ソースプログラムの翻訳にあたり,高水準言語の命令に対して生成した中間言語の行番号,及び前記コンパイラが内部で自動生成する内部生成変数のシンボル情報をデバッグ情報として生成する処理は,コンピュータで実行されプログラムでその処理が実現される。」(段落【0016】)
・「またコンピュータ上でソースプログラムをデバッグするデバッガ装置において,ソースプログラムの中間言語の行番号情報及びコンパイラが内部生成した内部変数のシンボル情報をデバッグ情報として入力し,中間言語をその行番号情報とともに端末に表示し,中間言語単位でのブレークポイントの設定とステップ実行,及び前記内部生成変数の値の設定及び参照を可能とする前記中間言語単位でのデバッグ操作を実行する処理は,コンピュータで実行されプログラムでその処理が実現される。これらのプログラムを記録した記録媒体から該プログラムをコンピュータに読み出すか,通信媒体を介して該プログラムを読み出し,コンピュータで該プログラムを実行することで本発明を実施することができる。」(段落【0017】)
・「本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は,本発明の一実施例の構成を説明するブロック図である。図1において,11はソースファイル,12はコンパイラフロントエンド,13は中間言語ファイル,14はコンパイラバックエンド,15はオブジェクトファイル,16はデバッガ,17はデバッガ・ユーザインタフェイス,18は入出力手段である。」(段落【0018】)
・「ソースファイル11は,ユーザが,COBOL,FORTRAN,又はC言語等の所望の高水準言語の文法(シンタックス)にしたがって記述したソースプログラムである。」(段落【0019】)
・「コンパイラフロントエンド12は,ソースファイル11を入力し,字句解析,構文解析,意味解析等を行い,中間言語に翻訳し,中間言語ファイル13を作成する。」(段落【0020】)
・「コンパイラバックエンド14は,中間言語ファイル13をターゲット計算機の機械語(オブジェクトコード)に翻訳してオブジェクトファイル15を作成する。」(段落【0021】)
・「デバッガ・ユーザインタフェイス17は,デバッガとユーザとの間のインタフェイスであり,入出力手段18を通じて指示されたブレイク位置をデバッガ16に伝える。入出力手段18は,データの入力や指示を行うためのキーボード等の入力装置と,デバッガ16の実行結果等を表示するためのディスプレイ等の表示装置とからなる。」(段落【0026】)
・「ユーザはデバッガ・ユーザインタフェイス17などを用いブレイクポイントの指定やステップ実行の指示を行う。ユーザインタフェイス17は,ブレイクポイントの設定には行番号を,コマンドもしくはリストからの選択で指定して行うが,このとき表示されるリスト,およびコマンドで入力する行番号は,ソースプログラム又は中間言語のいずれかに任意に切り換えられる。(段落【0028】)
・「以下に,本発明を適用した具体例に即して説明する。図2は,本発明の一実施例を説明するための図であり,COBOLプログラムのデバッグの例を示す図である。図2において,21はソースプログラムの一部,22はソースプログラム21を展開した中間言語の一部である。また,中間言語22のT#1はコンパイラが内部的に生成した中間結果領域である。」(段落【0032】)
・「このプログラムは,Bの値が1,Cの値が3のとき,BのCに対するパーセンテージを求め変数Aに代入する演算(A=B/C×100)を行っている。COBOLのソースプログラムの演算命令であるCOMPUTE A=B/C×100は,中間言語に翻訳された結果,
COMPUTE T#1=B/C
COMPUTE A=T#1×100
と二つの命令に変換される。」(段落【0033】)
・「本発明によれば,デバッグ時に,中間言語レベルでブレイクポイントの指定やステップ実行を行い,また内部生成変数を参照可能としたため,デバッグ作業を効率化する,という効果を奏する。」(段落【0039】)
イ 以上の記載から,引用例には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。
「コンパイラが,高水準言語で記述されたソースプログラムを中間言語にコンパイルする際に,前記中間言語の行番号及び前記コンパイラがコンパイル時に自動生成する内部生成変数のシンボル情報をデバッグ情報として生成し記憶手段に格納する手段を備え,デバッグ装置が,前記ソースプログラムのデバッグ実行に際して,中間言語を表示し,前記デバッグ情報を参照して,中間言語でのブレークポイントの設定,ステップ実行,前記内部生成変数の値の参照及び/又は設定を含むデバッグ処理を実行する手段を備えたプログラム開発支援システムであって(【請求項5】,【0011】-【0013】,【0015】-【0018】),
デバッグ情報を生成する処理及びデバッグ処理は,プログラムを記録した記録媒体から該プログラムをコンピュータに読み出し,コンピュータで該プログラムを実行するものであり(【0016】,【0017】),
高水準プログラム言語の1命令は,複数の処理を行う複雑な記述が可能であり,ソースプログラムの1命令は中間言語のいくつかの命令に翻訳されるものであり(【0007】),
ソースファイルは,ユーザが所望の高水準言語の文法にしたがって記述したソースプログラムであって,コンパイラは,ソースファイルを入力し,字句解析,構文解析,意味解析等を行い,中間言語に翻訳し,中間言語ファイルを作成し,中間言語ファイルをターゲット計算機の機械語(オブジェクトコード)に翻訳してオブジェクトファイルを作成するものであり(【0016】,【0019】-【0021】),
デバッガの実行結果等を表示するためのディスプレイ等の表示装置を備え,ユーザがブレイクポイントの指定やステップ実行の指示を行うとき表示されるリストは,ソースプログラム又は中間言語のいずれかに任意に切り換えることができる(【0016】,【0026】,【0028】),
プログラム開発支援システム。」
(3)引用例との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「プログラム開発支援システム」は,コンピュータでソースプログラムのデバッグを行うものであり,ソースプログラムであるソースファイルが,記憶手段に記憶されていること及び複数の命令を有することは技術常識であるから,本願補正発明の「複数の命令を有するソースプログラムを記憶した記憶手段を備えたデバッガ」に相当する。
イ 引用発明における「ソースプログラムの1命令」は,複数の処理を行う複雑な記述が可能であり,その1命令は中間言語のいくつかの命令に翻訳されるものであるから,本願補正発明の「一つの前記命令で複数の機能を実行する命令,または一つの前記命令で複数のデータを使用する命令」に相当する。
引用発明の「コンパイラ」が実行する,ソースプログラムであるソースファイルを入力し,中間言語に翻訳し,中間言語ファイルを作成する処理は,例えば,引用例の段落【0033】に記載されているように,演算命令である「COMPUTE A=B/C×100」を,「COMPUTE T#1=B/C」,及び「COMPUTE A=T#1×100」の二つの命令に変換する処理を含むものであることを考慮すれば,中間言語に翻訳する処理が,「命令を機能毎およびデータ毎の分割命令に分割するための分割規則」に基づいて実行されることは明らかである。
また,前記コンパイラによる処理は,プログラムを記録した記録媒体からプログラムをコンピュータに読み出し,実行することによりなされるものであるから,前記「分割規則」は,あらかじめ記憶媒体に記憶されているということができる。
したがって,引用発明は,本願補正発明の「一つの前記命令で複数の機能を実行する命令,または一つの前記命令で複数のデータを使用する命令に対し,前記命令を前記機能毎および前記データ毎の分割命令に分割するための分割規則を予め記憶した記憶装置」を有するといえる。
ウ 引用発明において,ユーザがブレイクポイントの指定やステップ実行の指示を行うときに表示されるリストは,ソースプログラム又は中間言語のいずれかに任意に切り換えることができることから,ソースプログラムと中間言語とが対応付けて記憶されていることは明らかであり,引用発明は,本願補正発明の「前記命令を前記分割規則に基づいて複数の前記分割命令に分割し,前記命令と分割して得た複数の前記分割命令とを対応付けて記憶する記憶装置」を有するといえる。
エ 引用発明の「コンパイラ」は,高水準言語で記述されたソースプログラムを中間言語にコンパイルする際に,前記中間言語の行番号及び前記コンパイラがコンパイル時に自動生成する内部生成変数のシンボル情報をデバッグ情報として生成するものであって,ソースプログラムを入力し,字句解析,構文解析,意味解析等を行い,中間言語に翻訳するものであり,これらの処理のためには,命令が使用するデータをソースプログラムから検索して抽出する必要があることは技術常識であるといえることから,引用発明が,本願補正発明の「前記命令が使用する全ての前記データを,前記ソースプログラムから検索して抽出する解析部」に相当する構成を有することは明らかである。
オ 引用発明の「デバッグ装置」は,ソースプログラムのデバッグ実行に際し,中間言語を表示し,デバッグ情報を参照して,中間言語でのブレークポイントの設定,ステップ実行,前記内部生成変数の値の参照及び/又は設定を含むデバッグ処理を実行する手段を備えることから,引用発明は,本願補正発明の「前記命令を各前記分割命令毎に実行する実行部」を有するといえる。
カ 引用発明におけるディスプレイ等の「表示装置」は,ソースプログラムのデバッグ実行に際して中間言語を表示するものであって,ユーザがブレイクポイントの指定やステップ実行の指示を行うとき,ソースプログラム又は中間言語を表示し,また,デバッガの実行結果等を表示するものであるから,本願補正発明の「表示部」に対応するものである。
以上のことから,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
【一致点】
「複数の命令を有するソースプログラムを記憶した記憶手段を備えたデバッガにおいて,
一つの前記命令で複数の機能を実行する命令,または一つの前記命令で複数のデータを使用する命令に対し,前記命令を前記機能毎および前記データ毎の分割命令に分割するための分割規則を予め記憶した記憶装置と,
前記命令を前記分割規則に基づいて複数の前記分割命令に分割し,前記命令と分割して得た複数の前記分割命令とを対応付けて記憶する記憶装置と,
前記命令が使用する全ての前記データを,前記ソースプログラムから検索して抽出する解析部と,
前記命令を各前記分割命令毎に実行する実行部と,
表示部とを有するデバッガ。」
【相違点1】
本願補正発明の「表示部」は,「前記デバッガが有する画面上に,前記命令と,当該命令に対応する前記複数の分割命令と,前記分割命令で使用する前記データとを表示」するのに対し,引用発明の「表示部(表示装置)」は,命令(ソースプログラム)又は当該命令に対応する複数の分割命令(中間言語),及びデバッガの実行結果等を表示するものである点。
【相違点2】
本願補正発明の「表示部」は,「当該データにおける当該分割命令の実行判定結果を明示的に表示」するのに対し,引用発明の「表示部(表示装置)」は,実行判定結果を明示的に表示する構成を備えていない点。
(4)判断
以下,相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)デバッガにおいて,デバッガにおいて,デバッガが有する画面上,特に同一画面上に,ソースプログラムを含む複数のデバッグ情報を表示することは,例えば,以下の周知例1,2に記載されており,周知の技術であったということができる。
a.周知例1:特開平10-187489号公報
周知例1には,以下のとおり,同一画面に,ソースプログラムとともに,変数名及び変数の値を表示しながらデバッグを行うデバッガが記載されている。
・「ソースプログラムを画面に表示しながらプログラムを実行させ,プログラムのデバッグを行なうための会話型デバッグ装置であって,ソースプログラムの各行に対応して,その行を実行したか否かを示す情報を保持するソースプログラム情報格納手段と,プログラムを実行させるとともに,実行された行の実行に対して実行済みの情報を設定するプログラム実行手段と,ソースプログラム情報に格納されている情報の一部を画面上に表示するソースプログラム情報表示手段と,指定された行数条件を満足する連続する未実行の行を検索し,表示する連続未実行行検索表示手段とを備えた会話型デバッグ装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
・「変数管理テーブル11はオブジェクトプログラム10の中で使用する変数を管理するテーブルで,図3に示すとおり,各々の変数毎に変数名及びその変数が格納される領域のアドレスを対応付けて格納する。変数名及びそれに対応する変数の値は,変数表示ウィンドゥ21内の変数表示領域22に表示される。・・・」(段落【0014】)
・「プログラム管理テーブルの内容は,プログラム管理テーブル表示ウィンドゥ18内のプログラム管理テーブル表示領域19内に表示する。オブジェクトプログラムの元となったソースプログラムの行数が多くて全てを表示できない場合は,その一部のみを表示し,スクロールバー20の操作により表示対象を変更する。・・・」(段落【0018】)
・「デバッグ作業を行なう場合は,マウス5やキーボード4を操作することで,変数の値を変更したり,ブレークポイントの設定や解除を行なうなどして,プログラムの実行条件を整え,プログラムの実行を開始する行を指定して,プログラムを実行する。プログラムを実行すると,実行された行の状態が未実行であった行については,状態が実行済みに変化する。」(段落【0019】)
「・・・ソースコードはプログラム管理テーブルに格納されている他の情報とともに,プログラム管理テーブル表示ウィンドゥに表示される。・・・」(段落【0032】)
b.周知例2:特開平11-161514号公報
周知例2には,以下のとおり,デバッガの表示装置の同一画面上に,メインモジュールのソースコード,子プロセスに対応するモジュールのソースコード,メインモジュールの現在の実行位置における変数値,子プロセスに対応するモジュールの現在の実行位置における変数値等を表示し,デバッグを行うデバッガが記載されている。
・「本発明は,複数のモジュールからなるプログラムのデバッグを行う技術に関し,・・・」(段落【0001】)
・「・・・図1のデバッガ装置は,制御部1と,複数のデバッグ実行処理部2と,データ格納部3と,データ採取処理部4と,表示装置5とを備える。」(段落【0013】)
・「デバッグ実行処理部2はいずれも同じように構成され,制御部1から指示されたプログラムモジュールのソースコードデバッグを行う。デバッグ結果は制御部1を介して表示装置5に表示される。・・・」(段落【0014】)
・「また,制御部1は,各デバッグ実行処理部2から転送されたデバッグ結果を表示装置5に表示する。図3に示すように,表示装置5の表示領域W1には,メインモジュールのソースコードが,表示領域W2には,メインモジュールから起動された子プロセスに対応するモジュールのソースコードが表示される。また,表示領域W3には,画面に表示する情報の選択ボタンや,デバッグの開始・停止指示ボタンなどが表示される。また,表示領域W4には,メインモジュールの現在の実行位置における変数値などが表示され,表示領域W5には,子プロセスに対応するモジュールの現在の実行位置における変数値などが表示される。」(段落【0023】)
(イ)引用発明のデバッガ(プログラム開発支援システム)は,デバッグ情報として,命令(ソースプログラム),分割命令(中間言語),及びデバッガの実行結果を表示するものであるから,命令,複数の分割命令,及び分割命令で使用するデータを含むデバッグ情報を有していることは明らかである。上記のとおり,デバッガにおいて,同一画面上にソースプログラムを含む複数のデバッグ情報を表示することが周知技術であることに鑑みれば,引用発明において,デバッガが既に有している前記デバッグ情報の中から,命令,当該命令に対応する複数の分割命令,及び分割命令で使用するデータを選択し,同一画面上に表示するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。
イ 相違点2について
(ア)画面上の注目箇所を明示的に表示することは,例えば,周知例3,4に記載されているように,あるふれた技術手段であり,特に周知例3の記載から,画面上に,デバッグにおける実行判定結果を明示的に表示することについても,周知の技術であったということができる。
a.周知例3:特開2003-50716号公報
周知例3には,以下のとおり,デバッガにおいて,条件付き命令が条件不成立で実行されなかった箇所の表示方法を変えることが記載されている。
・「本発明の請求項1記載のソフトウエアデバッガは,デバッグ対象のマイコンのプログラムを画面上に表示する際,プログラムの実行停止時の停止アドレスが他のアドレスと区別できるように表示するソフトウエアデバッガであって,プログラムのステップ実行処理を行う際に停止アドレスの命令が条件付き命令かどうかを判定する機能と,命令が条件付き命令であった場合に命令の条件フラグ値を取得する機能と,条件フラグ値の値により条件付き命令が実行されるかどうかを判定する機能と,判定結果に応じて停止アドレスの命令の表示方法を変えて画面に表示する機能とを設けたことを特徴とする。」(段落【0048】)
・「上記の請求項1?3記載のソフトウエアデバッガによれば,条件付き命令が条件不成立で実行されなかった場合に,表示の方法を変えて利用者に提示することができ,利用者が条件付き命令を含んだプログラムの実行の経過を確認しやすいようにできる。」(段落【0051】)
b.周知例4:特開昭63-223931号公報
周知例4には,以下のとおり,デバッガにおいて,現在中断している実行停止行を,他の行と異なる態様で表示することが記載されている。
・「プログラムの制御構造およびデータ構造を図形要素で表記する論理図によるプログラムのデバッグを支援するシステムにおいて,・・・論理図ソースを,その実行ルートが明示される態様で表示する手段を設けることにより,論理図ソースにおける制御の流れを,容易に把握できるようにしている。」(1頁右下欄9行-19行)
・「このデバッグ対象となっている論理図ソースに対し,実行コマンドにより実行を指示すると,・・・実行が停止され,第3図(a)図示のように,ディスプレイのメイン表示エリア26に,論理図ソースの表示がなされる。特に,現在中断している位置である実行停止行27が,他の行と異なる態様で表示される。」(5頁右上欄18行-左下欄5行)
(イ)引用発明のデバッガは,デバッグ情報として,少なくともソースプログラム又は中間言語を表示するものであり,上記のとおり,命令の実行判定等の結果画面上の注目箇所を明示的に表示することが周知技術であったことに鑑みれば,引用発明におけるソースプログラム又は中間言語,すなわち,デバッグ対象のリストが表示された画面に,デバッガの実行結果に命令の実行判定結果を併せて表示することは,当業者が適宜なし得ることである。
引用発明は,命令,複数の分割命令,分割命令で使用するデータ,及び命令の実行判定結果を含むデバッグ情報を有しており,上記のとおり,デバッガが有する画面上に,複数のデバッグ情報を表示することが周知技術であったことに鑑みれば,引用発明において,前記デバッグ情報の中から,上記相違点に係る情報を選択し,画面上に表示するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。
(ウ)また,上記相違点1と相違点2は,いずれも「表示部」に関連するものであるが,画面上の注目箇所を明示的に表示することと,「前記デバッガが有する画面上に,前記命令と,当該命令に対応する前記複数の分割命令と,前記分割命令で使用する前記データとを表示」すること,すなわち,同一画面上に複数のデバッグ情報を表示することとの間に格別の技術的関連性は認められない。したがって,上記相違点1,2に係る構成を総合しても,本願補正発明が奏する作用効果は,引用発明及び周知技術が奏する作用効果から当然に予想できる範囲内のものである。
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反してなされたものであるから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年4月30日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成21年12月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項4に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,同手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて,その請求項4に記載された事項により特定される,前記第2の[理由]1(2)に記載したとおりである。
2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
3 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本願補正発明から,前記第2の[理由]1(3)に係る限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が,前記第2の[理由]2(3)ないし(5)に記載したとおり,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

第4 審尋に対する回答書について
審判請求人は,平成23年2月25日付けの審尋に対する同年4月21日付けの回答書において,特許請求の範囲の補正案を提示しているので,念のため検討する。
同補正案の請求項2に記載された発明は,平成22年4月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された発明から,少なくとも「分割命令」に係る発明特定事項を削除するものであり,平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮(いわゆる限定的減縮)に該当しないなど,同法17条の2第4項各号のいずれを目的とするものでもないことは明らかである。平成21年12月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された発明に対しても同様である。
したがって,回答書に提示された補正案による補正は,平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり,同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものであるから,仮に回答書の補正案のとおり補正されたとしても,本願発明についての審決の結論に変更はない。

第5 まとめ
以上のとおり,本願発明の請求項4に係る発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-28 
結審通知日 2011-11-01 
審決日 2011-11-15 
出願番号 特願2004-177218(P2004-177218)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相崎 裕恒多胡 滋  
特許庁審判長 西山 昇
特許庁審判官 殿川 雅也
山崎 達也
発明の名称 デバッグ方法およびデバッガ  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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