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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1250089
審判番号 不服2008-30704  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-04 
確定日 2011-04-07 
事件の表示 特願2005-503117「スクロール表示制御装置及びスクロール表示制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日国際公開、WO2004/079709〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
国際特許出願 :平成16年 3月 5日
(優先日 平成15年3月7日 日本国)
拒絶理由通知 :平成20年 5月21日(起案日)
意見及び手続補正 :平成20年 7月25日
拒絶査定 :平成20年10月29日(起案日)
審判請求 :平成20年12月 4日
手続補正 :平成21年 1月 5日
審尋 :平成22年 3月15日(起案日)
回答 :平成22年 5月17日

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年1月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成21年1月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という)は特許請求の範囲を補正するものである。

2 本件補正の目的
本件補正後の発明は,平成20年7月25日付け手続補正により補正された明細書及び平成21年1月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載並びに図面からみて,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本件補正後発明1」,「本件補正後発明2」などという。)。また,本件補正前の発明は,平成20年7月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載並びに図面からみて,当該手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載されている事項により特定されるとおりのものである(以下「本件補正前発明1」,「本件補正前発明2」などという。)。
本件補正の内容を整理すると,以下のとおりとなる。
(1) 補正事項1
本件補正前発明1,3,11,17及び18を特定するために必要な事項である「再生中の系列情報区間に対応するテキスト区間」を「再生中の系列情報区間に対応するテキスト情報の各単位に応じて時刻が付与されたテキスト区間」と限定して減縮する。
(2) 補正事項2
本件補正前発明1を特定するために必要な事項である「スクロール速度(v)を計算するスクロール速度計算手段(102)」を「スクロール速度(v)を計算し,前記テキスト区間毎にスクロール速度を変化させるスクロール速度計算手段(102)」と限定して減縮する。
(3) 補正事項3
本件補正前発明3を特定するために必要な事項である「スクロール速度計算手段(102)は・・・前記テキストのスクロール速度(v)を計算する」を「スクロール速度計算手段(102)は・・・前記テキストのスクロール速度(v)を計算し,前記テキスト区間毎にスクロール速度を変化させる」と限定して減縮する。
(4) 補正事項4
本件補正前発明11を特定するために必要な事項である「スクロール速度(v)は・・・テキスト量とに基づいて導出される」を「スクロール速度(v)は・・・テキスト量とに基づいて前記テキスト区間毎にスクロール速度が変化するように導出される」と限定して減縮する。
(5) 補正事項5
本件補正前発明17及び18を特定するために必要な事項である「少なくとも現在再生中の映像区間の時間長と・・・スクロール速度(v)を計算するステップ(409)」を「少なくとも現在再生中の映像区間の時間長と・・・スクロール速度(v)を計算し、前記テキスト区間毎にスクロール速度を変化させるステップ(409)」と限定して減縮する。

そうしてみると,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下,単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで,本件補正後発明1について,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か,すなわち,本件補正後発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを以下で検討する。

3 本件補正後発明1
本件補正後発明1は,平成20年7月25日付け手続補正により補正された明細書及び平成21年1月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載並びに図面からみて,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。



テキスト情報(TI)と対応付けられた系列情報(PI)の再生に同期して,対応するテキスト情報(TI)をテキスト表示画面(TW)にスクロール表示する表示制御装置において,
少なくとも現在再生中の系列情報区間の時間長と,前記再生中の系列情報区間に対応するテキスト情報の各単位に応じて時刻が付与されたテキスト区間に属する発言量又は文字数を示すテキスト量とに基づいて,スクロール速度(v)を計算し,前記テキスト区間毎にスクロール速度を変化させるスクロール速度計算手段(102)と,
前記スクロール速度(v)に従って,前記テキスト表示画面(TW)の一定の基準位置において前記テキスト区間に属するテキストをスクロール表示する制御手段(104)とを有することを特徴とするスクロール表示制御装置。

4 引用例に記載の発明
本願の優先日よりも前に頒布された刊行物である特開2002-278974号公報(拒絶理由通知の引用文献1,以下「引用例」という。)には,各図とともに以下の事項が記載されている。
記載事項ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】文字情報にて示される台本に基づく映画,ドラマ,演劇,及び演芸等の映像を表示させる映像表示方法,その方法で表示させる映像を示す映像情報を検索するための映像検索装置,その装置を用いた映像表示システム,その装置を実現するためのコンピュータプログラム,及びそのプログラムを記録してある記録媒体に関し,特に複数の映像の比較及び映像の観賞に適用される映像表示方法,映像検索装置,映像表示システム,コンピュータプログラム及び記録媒体に関する。」
記載事項イ 「【0025】
【発明の実施の形態】以下,本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は本発明の映像表示システムの構成を示すブロック図である。図中10はサーバコンピュータを用いた本発明の映像検索装置であり,映像検索装置10は,インターネット及びLAN等の通信ネットワークNWに接続されている。通信ネットワークNWにはクライアントコンピュータを用いた映像表示装置20が接続されており,視聴者は映像表示装置20を用いて,場面及び登場人物等の状況を説明するト書き並びに台詞等の文字情報にて示される台本に基づいて実施される映画,ドラマ,演劇,及び演芸等の作品の映像を示す映像情報の検索及び視聴をすることができる。
【0026】映像検索装置10は,本発明の映像検索装置用のコンピュータプログラム及びデータ等の情報を記録したCD-ROM等の記録媒体RECからコンピュータプログラム及びデータ等の情報を読み取るCD-ROMドライブ等の補助記憶手段12,並びに補助記憶手段12により読み取られたコンピュータプログラム及びデータ等の情報を記録するHD等の記録手段13を備え,記録手段13からコンピュータプログラム及びデータ等の情報を読み取り,一時的に情報を記憶するRAM14に記憶させてCPU11により実行することで,サーバコンピュータは本発明の映像検索装置10として動作する。さらに映像検索装置10は,通信ネットワークNWに接続する通信手段15を備えている。
【0027】なお記録手段13の記録領域の一部は,映像情報を特定する映像識別情報,台本を示す文字情報,及び台本に基づく映像の経過時間を示す時間情報を対応付けて記録する台本データベース10a,映像識別情報,映像情報,及び該映像情報にて示される映像の経過時間を示す時間情報を対応付けて記録する映像データベース10b,並びに映像識別情報,映像の名称,制作者名,及び配役等の映像の属性を記録する作品データベース10c等の各種データベースとして用いられており,必要に応じて各種データベースにアクセスし,情報の記録/読取処理が行われる。また記録手段13の記録領域の一部を各種データベースとして用いるのではなく,記録手段を備える他の装置を映像検索装置10に接続し,各種データベースとして用いてもよい。なお各種データベースに記録されるレコードは,例えばHTML,SMIL,及びRPM等の形式にて作成された適当な時間分の情報を記録するファイル又はファイルを指示する指示情報を含んでいる。
【0028】さらに作品データベース10cを補助するデータベースとして,俳優経歴データベース,スタッフデータベース,及び作家データベース等の様々な属性に特化した情報を記録するためのデータベースを用いてもよい。
【0029】クライアントコンピュータを用いた映像表示装置20は,CPU21,記録手段22,RAM23,マウス及びキーボード等の入力手段24,CRT及びLCD等の表示手段25,及び通信手段26を備えている。」
記載事項ウ 「【0030】次に本発明の映像表示システムにて用いられる映像検索装置10及び映像表示装置20の映像情報処理を図2に示すフローチャートを用いて説明する。映像の視聴を所望する視聴者は,映像表示装置20を操作して映像検索装置10に接続し,映像の名称及び制作者名等の属性情報を検索条件として,作品データベース10cから所望の映像の映像識別情報を抽出し,抽出した映像識別情報にて特定される映像の所望の場面を視聴すべく,場面,配役,及び台詞等の文字情報を映像表示装置20に入力する。映像表示装置20は,文字情報の入力を受け付け(S101),受け付けた文字情報を映像検索装置10へ送信する(S102)。
【0031】映像検索装置10では,文字情報を受信し(S103),受信した文字情報を検索条件として,台本データベース10aから映像識別情報にて特定される映像の時間情報を抽出し(S104),抽出した時間情報を検索条件として,台本データベース10aから映像識別情報にて特定される映像の台本を示す文字情報を抽出し(S105),更にステップS104にて抽出した時間情報を検索条件として,映像データベース10bから時間情報が示す経過時間に基づく映像を示す映像情報を抽出し(S106),抽出した文字情報及び映像情報を映像表示装置20へ送信する(S107)。
【0032】映像表示装置20では,文字情報及び映像情報を受信し(S108),受信した文字情報及び映像情報に基づく映像を並べて表示させる(S109)。なお時間情報を検索条件として抽出される映像情報及び文字情報は,夫々適当な時間分の情報を記録した複数のファイルとして記録されている場合,必ずしも時間情報が示す経過時間から表示させる必要はなく,検索条件として抽出されたファイルの先頭の経過時間から表示させてもよい。またストリーム配信処理により,ステップS108以降の処理を並行して行ってもよい。
【0033】図3は本発明の映像表示システムにて用いられる映像表示装置20に表示される画像を示す説明図である。中央付近には抽出された映像情報が映像として表示されており,表示されている映像情報の左側に場面,登場人物,及び台詞を含む文字情報が並べて表示されている。表示されている文字情報は,映像情報の時間の経過に伴って下から上へスクロールされ,映像情報と文字情報とが対応した状態で表示される。なお映像情報の下方にも文字情報が表示されている。」
記載事項エ 「【0040】
【発明の効果】以上詳述した如く本発明に係る映像表示方法,映像検索装置,映像表示システム,コンピュータプログラム,及び記録媒体では,映像情報の経過時間を示す時間情報と,映像を示す映像情報及び台本を示す文字情報とを対応させて記録しておき,場面及び登場人物等の状況を説明するト書き並びに台詞等の文字情報に基づいて,所望の映像を抽出し表示させるので,これにより所望の映像情報の検索及び映像の表示を容易にし,また幅広い映像観賞方法を提供することが可能である等,優れた効果を奏する。
【0041】さらに本発明では,映像検索装置をインターネット及びLAN(Local Area Network)等の通信ネットワークに接続するサーバコンピュータにて構築し,クライアントコンピュータとなる映像表示装置にて利用することで,大規模なデータベースを多人数で利用することが可能となる等,優れた効果を奏する。
【0042】また本発明では,映像情報に基づく映像及び文字情報を並べて表示させることにより,映像及び台本を同時に視聴することができ,状況把握を容易にして,今までにない幅広い観賞方法を提供することが可能である等,優れた効果を奏する。
【0043】そして本発明では,複数の映像情報に基づく映像を並べて表示させることで,映像を比較観賞する場合等の様々な用途に適用することが可能である等,優れた効果を奏する。」
記載事項オ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の映像表示システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の映像表示システムにて用いられる映像検索装置及び映像表示装置の映像情報処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の映像表示システムにて用いられる映像表示装置に表示される画像を示す説明図である。」

図3は映像表示装置に表示される画像を示す説明図であるところ,【0029】及び【0032】を参酌すると,図3からは,文字情報及び映像情報が,クライアントコンピュータを用いた映像表示装置20にウィンドウ表示されている様子が見て取れる。

これら記載事項及び各図を考慮して引用例に記載された発明を分説して記載すると,下記のとおりとなる(以下,この発明を「引用発明」といい,また,分説された構成を「構成要件A」などという。)。



A 映像検索装置(10),通信ネットワーク(NW)及び映像表示装置(20)を含み,視聴者は映像表示装置(20)を用いて,場面及び登場人物等の状況を説明するト書き並びに台詞等の文字情報にて示される台本に基づいて実施される映画,ドラマ,演劇,及び演芸等の作品の映像を示す映像情報の検索及び視聴をすることができる映像表示システムであって,
B 映像検索装置(10)は記憶手段(13)を備え,
C 記録手段(13)の記録領域の一部は,映像情報を特定する映像識別情報,台本を示す文字情報,及び台本に基づく映像の経過時間を示す時間情報を対応付けて記録する台本データベース(10a),映像識別情報,映像情報,及び該映像情報にて示される映像の経過時間を示す時間情報を対応付けて記録する映像データベース(10b)等の各種データベースとして用いられており,
D 映像の視聴を所望する視聴者は,映像表示装置(20)を操作して台詞等の文字情報を映像表示装置(20)に入力し,
E 映像検索装置(10)は,文字情報を受信し,受信した文字情報を検索条件として台本データベース(10a)から映像識別情報にて特定される映像の時間情報を抽出し,抽出した時間情報を検索条件として,台本データベース(10a)から映像識別情報にて特定される映像の台本を示す文字情報を抽出し,更に時間情報を検索条件として映像データベース(10b)から時間情報が示す経過時間に基づく映像を示す映像情報を抽出し,抽出した文字情報及び映像情報を映像表示装置(20)へ送信し,
F クライアントコンピュータを用いた映像表示装置(20)は,文字情報及び映像情報を受信し,受信した文字情報及び映像情報に基づく映像を並べてウィンドウ表示させ,
G 映像表示装置(20)には,中央付近に抽出された映像情報が映像として表示され,表示されている映像情報の左側に場面,登場人物,及び台詞を含む文字情報が並べて表示され,
H 表示されている文字情報は,映像情報の時間の経過に伴って下から上へスクロールされ,映像情報と文字情報とが対応した状態で表示され,
I 映像情報の下方にも文字情報が表示され,
J 映像情報に基づく映像及び文字情報を並べて表示させることにより,映像及び台本を同時に視聴することができ,状況把握を容易にした,
K 映像表示システム。

5 対比
本件補正後発明1と引用発明を対比すると以下のとおりとなる。
(1) (スクロール)表示制御装置
構成要件G及びHからみて,引用発明の「文字情報」及び「映像情報」は,それぞれ,本件補正後発明1の「テキスト情報」及び「系列情報」に相当する。また,引用発明は映像情報の左側に文字情報が並べて表示されるものである(構成要件G)ところ,この文字情報が表示される領域は,本件補正後発明1の「テキスト表示画面」に相当する。そして,構成要件Hからみて,引用発明の「映像表示システム」と本件補正後発明1の「(スクロール)表示制御装置」とは,「テキスト情報(TI)と対応付けられた系列情報(PI)の再生に同期して,対応するテキスト情報(TI)をテキスト表示画面(TW)にスクロール表示する表示制御装置」の点で一致する。
(2) 制御手段
構成要件FないしHからみて,引用発明の「映像表示システム」が,文字情報が表示される領域において表示されている文字情報をスクロール表示する制御手段を有することは技術的に見て明らかである。
したがって,引用発明の「映像表示システム」と本件補正後発明1の「(スクロール)表示制御装置」とは,(後述の相違点を除いた)「前記テキスト表示画面(TW)においてテキストをスクロール表示する制御手段(104)」を有する点において共通する。

そうしてみると,本件補正後発明1と引用発明とは,
「 テキスト情報(TI)と対応付けられた系列情報(PI)の再生に同期して,対応するテキスト情報(TI)をテキスト表示画面(TW)にスクロール表示する表示制御装置において,
前記テキスト表示画面(TW)においてテキストをスクロール表示する制御手段(104)を有するスクロール表示制御装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本件補正後発明1は「少なくとも現在再生中の系列情報区間の時間長と,前記再生中の系列情報区間に対応するテキスト情報の各単位に応じて時刻が付与されたテキスト区間に属する発言量又は文字数を示すテキスト量とに基づいて,スクロール速度(v)を計算し,前記テキスト区間毎にスクロール速度を変化させるスクロール速度計算手段(102)」を有し,本件補正後発明1の制御手段(104)は「前記スクロール速度(v)に従って,前記テキスト表示画面(TW)の一定の基準位置において前記テキスト区間に属するテキストをスクロール表示する制御手段(104)」であるのに対し,引用発明はこれらが明らかではない点。

6 判断
引用発明の文字情報は「映像情報の時間の経過に伴って下から上へスクロールされ,映像情報と文字情報とが対応した状態で表示され」(構成要件H)るものであり,また,引用発明の映像表示システムは「映像情報に基づく映像及び文字情報を並べて表示させることにより,映像及び台本を同時に視聴することができ,状況把握を容易にした」(構成要件J)ものであるところ,映像情報と同時に見せるべき文字情報の量が一定でないことは明らかであるから,引用発明において文字情報のスクロールの速度が文字情報と映像情報とが対応するように可変制御されていることは明らかである。そして,スクロール速度を可変制御する方法としては,高々,(1)スクロールする1回1回のタイミングを予め設定しておく方法,(2)シーンや台詞毎に,それに対応する映像情報の時間長及び文字情報の量とに基づいてスクロール速度を計算してシーンや台詞毎にスクロール速度を変化させる方法,程度しか想定し得ないところ,(a)構成要件Iの映像情報と文字情報が対応した状態で表示される点を考慮すると引用発明は少なくとも文字情報の台詞を単位として映像情報と文字情報に時間情報が付与されているものであるから,台詞等毎の時間と文字数が既知である点において(2)の方法に適したものであり,他方,(b)(1)の方法は設定作業が繁雑であるし,構成要件Fに関連し,引用発明は映像表示装置(20)が文字情報及び映像情報に基づく映像を並べてウィンドウ表示させるものであるが,ウィンドウサイズを可変にしたり文字情報を折り返し表示させる場合を想定すると(1)の方法は適さないものである。
また,引用例の図3からは現在再生中の映像の台詞(クソッ!ただの車じゃねぇぜ!)が文字情報を表示する領域の上下方向中央部近傍に表示されるようにスクロールバーが制御される様子が見て取れるから,引用発明は「テキスト表示画面(TW)の一定の基準位置においてテキスト区間に属するテキストをスクロール表示させる」ものである。なお,仮にそうでないとしても,文章をスクロール表示して利用者に読ませる場合において,利用者に読ませる箇所をスクロール領域の中央に配置することは周知慣用技術である(必要ならば,特開2000-172403号公報,特開平7-148025号公報,特開平7-6177号公報,特開2002-190992号公報を参照。)。
そうしてみると,引用発明において,現在再生中の映像に対応する台詞等の文字数と映像の時間長とに基づいて台詞等をスクロールする速度を計算し,台詞等毎に変化するスクロール速度に従って台詞等を表示する領域の上下方向中央部近傍において台詞等をスクロール表示する構成を採用し,本件補正後発明1の構成に至ることは,当業者が容易に想到する事項である。
また,本件補正後発明1の作用効果は,引用発明から当業者が予測できる範囲内のものである。

7 小括
以上のとおり,本件補正後発明1は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
平成21年1月5日付け手続補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成20年7月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載並びに図面からみて,当該手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,下記のものである。



テキスト情報(TI)と対応付けられた系列情報(PI)の再生に同期して,対応するテキスト情報(TI)をテキスト表示画面(TW)にスクロール表示する表示制御装置において,
少なくとも現在再生中の系列情報区間の時間長と,前記再生中の系列情報区間に対応するテキスト区間に属する発言量又は文字数を示すテキスト量とに基づいて,スクロール速度(v)を計算するスクロール速度計算手段(102)と,
前記スクロール速度(v)に従って,前記テキスト表示画面(TW)の一定の基準位置において前記テキスト区間に属するテキストをスクロール表示する制御手段(104)と,
を有することを特徴とするスクロール表示制御装置。

2 引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は,「第2 補正の却下の決定」の「4 引用例に記載の発明」に記載したとおりである。

3 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明1を特定するために必要な事項である(1)「再生中の系列情報区間に対応するテキスト情報の各単位に応じて時刻が付与されたテキスト区間」を「再生中の系列情報区間に対応するテキスト区間」と拡張し,(2)「スクロール速度(v)を計算し,前記テキスト区間毎にスクロール速度を変化させるスクロール速度計算手段(102)」を「スクロール速度(v)を計算するスクロール速度計算手段(102)」と拡張するものである。

そうすると,本願発明の構成要件を全て含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正後発明1が「第2 補正の却下の決定」で述べた理由により引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 小括
以上のとおり,本願発明は引用発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 請求人の主張に対して
請求人は回答書において,本願発明の特徴は請求項8の発明特定事項にあるとの新たな主張をしているが,文章をスクロール表示して利用者に読ませる場合において利用者に読ませる箇所をスクロール領域の中央に配置することは周知慣用技術である(必要ならば,特開2000-172403号公報,特開平7-148025号公報,特開平7-6177号公報,特開2002-190992号公報を参照。)から,請求人の主張を採用することはできない。

第5 むすび
したがって,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-01-26 
結審通知日 2011-02-01 
審決日 2011-02-18 
出願番号 特願2005-503117(P2005-503117)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 亮治  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 樋口 信宏
橋本 直明
発明の名称 スクロール表示制御装置及びスクロール表示制御方法  
代理人 机 昌彦  
代理人 木村 明隆  
代理人 浅井 俊雄  

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