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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200624530 審決 特許
無効2007800042 審決 特許
不服20069599 審決 特許
無効2007800230 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1250206
審判番号 不服2008-18112  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-16 
確定日 2011-12-01 
事件の表示 特願2002-531094「塩酸ドネペジルの多形結晶の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年4月4日国際公開、WO02/26709〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2001年9月17日(優先権主張2000年9月25日、日本国、2000年10月23日、日本国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、以下のとおりのものである。

平成20年 2月19日付け 拒絶理由通知書
平成20年 4月23日 意見書・手続補正書
平成20年 6月13日付け 拒絶査定
平成20年 7月16日 審判請求書
平成20年 8月12日 手続補正書
平成20年 9月19日 手続補正書(方式)
平成20年11月13日付け 前置報告書
平成23年 2月23日付け 審尋
平成23年 4月27日 回答書

第2 本願発明
この出願の発明は、平成20年8月12日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「ドネペジル(化学名:1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン)をエタノールのみに溶解し、塩酸又は塩化水素を加えた後に、内温10?40℃に維持して他の溶媒を加えることなく撹拌し、析出した結晶を濾取、乾燥することにより、下記構造式(式1)で示される塩酸ドネペジル(化学名;1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン・1塩酸塩)の多形結晶(III)であって、
(式1)

粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記表1に示す回折角度にピークを有し、
表1

臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、
波数 559、641、648、702、749、765、786、807、851、872、927、949、966、975、982、1007、1034、1071、1080、1111、1119、1131、1177、1190、1205、1217、1230、1250、1265、1292、1313、1367、1389、1420、1438、1453、1461、1470、1500、1589、1605、1697、2407、2419、2461、2624、2641、2651、2667、2837、2848、2873、2924、2954、2961、2993、3007、3377、3433cm^(-1)に吸収を有する多形結晶、又は、粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記表2に示す回折角度にピークを有し、
表2

臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、
波数558.3, 641.1, 702.4, 748.5, 765.0, 786.1, 807.3, 850.8, 872.0, 926.8, 974.9, 1034.1, 1071.5, 1111.6, 1190.1, 1216.6, 1265.4, 1291.9, 1312.9, 1364.4, 1420.2, 1438.1, 1458.8, 1499.1, 1522.2, 1542.6, 1560.1, 1570.2, 1589.1, 1638.8, 1647.8, 1654.3, 1697.3, 1718.1, 1734.5, 1751.4, 1773.7, 1793.5, 1845.8, 2345.3, 2461.6, 2924.2, 3447.9 cm^(-1)に吸収を有する多形結晶を得ることを特徴とする塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造法。」

第3 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成20年 2月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、その「理由2」は、「2)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。
そして、上記「下記の請求項に係る発明」の一つは、本願発明に相当し、また、「下記の刊行物」とは、特開平10-53576号公報(以下、「刊行物1」という。)である。
そうすると、原査定の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

第4 当審の判断
本願発明は、原査定の理由のとおり、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1.刊行物1の記載事項
刊行物1には、次の事項が記載されている。

(A)「粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記回折角度にピークを有し、
─────────────────
回折角度(2θ、°) 強度(I/I_(0))
─────────────────
6.56 30
9.94 8
13.00 17
15.00 47
15.26 14
15.74 6
16.48 35
17.42 4
18.10 21
18.50 56
19.50 17
20.10 32
20.94 21
21.66 100
22.32 25
22.92 17
23.92 19
24.68 17
26.00 44
27.20 23
28.02 29
28.22 40
28.60 13
─────────────────
臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、波数 559、641、648、702、749、765、786、807、851、872、927、949、966、975、982、1007、1034、1071、1080、1111、1119、1131、1177、1190、1205、1217、1230、1250、1265、1292、1313、1367、1389、1420、1438、1453、1461、1470、1500、1589、1605、1697、2407、2419、2461、2624、2641、2651、2667、2837、2848、2873、2924、2954、2961、2993、3007、3377、3433cm^(-1)に吸収を有することを特徴とする塩酸ドネペジルの多形結晶(III)。」(特許請求の範囲【請求項3】)

(B)「粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記回折角度にピークを有し、
─────────────────
回折角度(2θ、°) 強度(I/I_(0))
─────────────────
6.48 21
9.84 7
12.96 19
14.94 45
15.20 13
16.44 31
18.04 20
18.46 55
19.44 17
20.02 30
20.86 20
21.02 13
21.58 100
22.22 23
22.90 15
23.92 13
24.64 15
25.92 40
26.18 17
27.14 21
28.14 37
28.56 11
29.94 12
─────────────────
波数 558.3, 641.1, 702.4, 748.5, 765.0, 786.1, 807.3, 850.8, 872.0, 926.8, 974.9, 1034.1, 1071.5, 1111.6, 1190.1, 1216.6, 1265.4, 1291.9, 1312.9, 1364.4, 1420.2, 1438.1, 1458.8, 1499.1, 1522.2, 1542.6, 1560.1, 1570.2, 1589.1, 1638.8, 1647.8, 1654.3, 1697.3, 1718.1, 1734.5, 1751.4, 1773.7, 1793.5, 1845.8, 2345.3, 2461.6, 2924.2, 3447.9 cm^(-1)に吸収を有することを特徴とする塩酸ドネペジルの多形結晶(III)。」(特許請求の範囲【請求項27】)

(C)「本発明は、特開昭64-79151号公報の実施例4に開示された、医薬として優れた作用を有する塩酸ドネペジル(Donepezil Hydrochloride、化学名; 1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン・塩酸塩)の安定性に優れた新規多形結晶(I)?(IV)と(V)およびそれらの工業的製造法に関する。」(段落【0001】)

(D)「本発明は、より具体的には、下記化学式で表される塩酸ドネペジルの、
【化2】

粉末X線回折パターンにおけるピークと、臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおける吸収によって特徴付けられる、以下の新規多形結晶(I)?(IV)である。」(段落【0006】?【0008】)

(E)「なお、本発明におけるドネペジルとは、塩酸ドネペジルの遊離体、すなわち1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジンを意味する。」(段落【0032】)

(F)「実施例10 塩酸ドネペジルの多形結晶(II)の製造
ドネペジル 50gをエタノール 200mlに加熱溶解し、室温に戻した後、18%-塩化水素/エタノール 27.3gを加えた。1時間静置後、減圧濃縮し、得られた結晶を風乾して標題化合物の結晶 55.0gを得た。」(段落【0066】)

(G)「実施例21 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 0.5gをアセトン 10mlに加熱溶解し、室温にて撹拌下、濃塩酸 0.13mlを加えた。そのまま撹拌を続け、30分後に、析出した結晶を濾取し、85℃で16時間乾燥して標題化合物の結晶 0.5gを得た。

実施例22 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 0.3gを酢酸エチル 3mlに加熱溶解した。室温にて撹拌下、10%-塩化水素/エタノール 0.79mlを加えた。析出した結晶を濾取し、85℃で3時間、次いで70℃で16時間乾燥して標題化合物の結晶 0.3gを得た。」(段落【0078】?【0079】)

(H)「実施例33 塩酸ドネペジルの多形結晶(I)の製造
ドネペジル 1.0gにエタノール 4mlを加え、40℃で加温溶解後、氷冷した。ここに濃塩酸(0.31g)/エタノール(1ml)溶液を加えた。氷冷下30分間攪拌した後、少量の多形結晶(I)を添加した。同温で30分間攪拌後、析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 0.70gを得た。(水分含量;5.33%)」(段落【0093】)

(I)「実施例59 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル1.0gにエタノール4mlを加え、40℃で加温溶解後氷冷し室温まで戻した。22℃でエタノール1mlに濃塩酸0.31gを加えた溶液を投入し、更に5分後、内温22℃でTBME 30ml投入した。投入途中結晶析出。室温で一夜攪拌した後、濾取・乾燥し標題化合物 1.09gを得た。(水分含量;0.19%)
元素分析値(%) C;69.27 H;7.23 N;3.34 Cl;8.58」(段落【0120】)

(J)「実施例60 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 1.0gに酢酸エチル 9mlを加え、40℃で加温溶解後、氷冷した。ここに5℃で濃塩酸(0.31g)/酢酸エチル(1ml)溶液を加え、室温で30分間攪拌した後、析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 1.08gを得た。(水分含量;0.21%)

実施例61 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 1.0gにアセトニトリル 9mlを加え、21℃で攪拌下ほぼ溶解した。ここに濃塩酸(0.31g)/アセトニトリル(1ml)溶液を加えたところ均一となった。室温で一晩攪拌した後、析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 1.05gを得た。(水分含量;0.05%)

実施例62 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 1.0gにアセトン 9mlを加え、40℃で加温溶解後、氷冷した。内温22℃で濃塩酸(0.31g)/アセトン(1ml)溶液を加えた。室温で一晩攪拌した後、析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 1.08gを得た。(水分含量;0.03%)

実施例63 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 1.0gにアセトン 29mlとイオン交換水 1mlを加え、20℃で溶解後、氷冷した。ここに濃塩酸(0.31g)/アセトン(1ml)溶液を加えた。氷冷下30分間攪拌した後、析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 0.83gを得た。(水分含量;0.56%)

実施例64 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 1.0gにTHF 9mlを加え、24℃で溶解後、氷冷した。ここに濃塩酸(0.31g)/THF(1ml)溶液を加えた。氷冷下30分間攪拌した後、析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 1.09gを得た。(水分含量;0.54%)

実施例65 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 1.0gにDMF 4mlを加え、40℃で加温溶解後、氷冷した。ここに5℃で濃塩酸(0.31g)/DMF(1ml)溶液を加えた。氷冷下30分間攪拌した後、析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 1.08gを得た。(水分含量;0.72%)

(…中略…)

実施例68 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
ドネペジル 2.0gにトルエン 30mlを加え、20℃で溶解した。同温で塩酸ガスを反応容器空間が酸性を示すまで吹き込んだ。アルゴンガスを吹き込んだ後、同温で30分間攪拌した。析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物 2.21gを得た。(水分含量;0.65%)」(段落【0121】?【0129】)

(K)「実施例76?95 塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造
下表に従い、室温にて、塩酸ドネペジル 1.0gを溶媒 10ml中に縣濁し、そのまま一晩撹拌を続けた。析出した結晶を濾取・乾燥して、標題化合物を得た。結果を下表に示す。
──────────────────────
実施例 出発原料 溶媒 収量
──────────────────────
76 多形結晶 (I) メタノール 0.91g
77 多形結晶 (I) エタノール 0.94g
78 多形結晶 (I) 酢酸エチル 0.93g
79 多形結晶 (I) アセトン 0.93g
80 多形結晶 (II) メタノール 0.93g
81 多形結晶 (II) エタノール 0.95g
82 多形結晶 (II) 酢酸エチル 0.95g
83 多形結晶 (II) アセトン 0.94g
84 多形結晶 (IV) メタノール 0.92g
85 多形結晶 (IV) エタノール 0.90g
86 多形結晶 (IV) 酢酸エチル 0.92g
87 多形結晶 (IV) アセトン 0.94g
88 多形結晶 (V) メタノール 0.96g
89 多形結晶 (V) エタノール 0.93g
90 多形結晶 (V) 酢酸エチル 0.97g
91 多形結晶 (V) アセトン 0.92g
92 非晶質 メタノール 0.94g
93 非晶質 エタノール 0.94g
94 非晶質 酢酸エチル 0.92g
95 非晶質 アセトン 0.96g
──────────────────────」(段落【0137】)

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造」として、「ドネペジル1.0gにエタノール4mlを加え、40℃で加温溶解後氷冷し室温まで戻した。22℃でエタノール1mlに濃塩酸0.31gを加えた溶液を投入し、更に5分後、内温22℃でTBME 30ml投入した。投入途中結晶析出。室温で一夜攪拌した後、濾取・乾燥し標題化合物 1.09gを得た」ことが記載されている(摘記(I)、実施例59)。
そうすると、刊行物1には、
「ドネペジル1.0gにエタノール4mlを加え、40℃で加温溶解後氷冷し室温まで戻した後、22℃でエタノール1mlに濃塩酸0.31gを加えた溶液を投入し、更に5分後、内温22℃でTBME 30ml投入し、投入途中結晶析出した後、さらに、室温で一夜攪拌した後、濾取・乾燥し、塩酸ドネペジルの多形結晶(III)1.09gを製造する方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.本願発明と引用発明の対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「塩酸ドネペジル」について、刊行物1には、化学構造式が、



であり(摘記(D))、その化学名は、「1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン・塩酸塩」であると記載されている(摘記(C))。
そして、上記「塩酸塩」は、化学構造式からみて「1塩酸塩」であるから、引用発明の「塩酸ドネペジル」の化学名は、「1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン・1塩酸塩」である。
そうすると、引用発明の「塩酸ドネペジル」は、本願発明の「下記構造式(式1)で示される塩酸ドネペジル(化学名;1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン・1塩酸塩)
(式1)

」に相当する。

また、刊行物1には、「塩酸ドネペジルの多形結晶(III)」について、「粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記回折角度にピークを有し、
─────────────────
回折角度(2θ、°) 強度(I/I_(0))
─────────────────
6.56 30
9.94 8
13.00 17
15.00 47
15.26 14
15.74 6
16.48 35
17.42 4
18.10 21
18.50 56
19.50 17
20.10 32
20.94 21
21.66 100
22.32 25
22.92 17
23.92 19
24.68 17
26.00 44
27.20 23
28.02 29
28.22 40
28.60 13
─────────────────
臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、波数 559、641、648、702、749、765、786、807、851、872、927、949、966、975、982、1007、1034、1071、1080、1111、1119、1131、1177、1190、1205、1217、1230、1250、1265、1292、1313、1367、1389、1420、1438、1453、1461、1470、1500、1589、1605、1697、2407、2419、2461、2624、2641、2651、2667、2837、2848、2873、2924、2954、2961、2993、3007、3377、3433cm^(-1)に吸収を有することを特徴とする」多形結晶であり(摘記(A))、または「粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記回折角度にピークを有し、
─────────────────
回折角度(2θ、°) 強度(I/I_(0))
─────────────────
6.48 21
9.84 7
12.96 19
14.94 45
15.20 13
16.44 31
18.04 20
18.46 55
19.44 17
20.02 30
20.86 20
21.02 13
21.58 100
22.22 23
22.90 15
23.92 13
24.64 15
25.92 40
26.18 17
27.14 21
28.14 37
28.56 11
29.94 12
─────────────────
波数 558.3, 641.1, 702.4, 748.5, 765.0, 786.1, 807.3, 850.8, 872.0, 926.8, 974.9, 1034.1, 1071.5, 1111.6, 1190.1, 1216.6, 1265.4, 1291.9, 1312.9, 1364.4, 1420.2, 1438.1, 1458.8, 1499.1, 1522.2, 1542.6, 1560.1, 1570.2, 1589.1, 1638.8, 1647.8, 1654.3, 1697.3, 1718.1, 1734.5, 1751.4, 1773.7, 1793.5, 1845.8, 2345.3, 2461.6, 2924.2, 3447.9 cm^(-1)に吸収を有することを特徴とする」多形結晶である(摘記(B))と記載されているところ、これらの粉末X線回折パターンのピーク及び赤外吸収スペクトルの吸収は、本願発明で特定されるものと一致する。
そうすると、引用発明の「塩酸ドネペジルの多形結晶(III)」は、本願発明の「下記構造式(式1)で示される塩酸ドネペジル(化学名;1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン・1塩酸塩)の多形結晶(III)であって、
(式1)

粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記表1に示す回折角度にピークを有し、
表1

臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、
波数 559、641、648、702、749、765、786、807、851、872、927、949、966、975、982、1007、1034、1071、1080、1111、1119、1131、1177、1190、1205、1217、1230、1250、1265、1292、1313、1367、1389、1420、1438、1453、1461、1470、1500、1589、1605、1697、2407、2419、2461、2624、2641、2651、2667、2837、2848、2873、2924、2954、2961、2993、3007、3377、3433cm^(-1)に吸収を有する多形結晶、又は、粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記表2に示す回折角度にピークを有し、
表2

臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、
波数558.3, 641.1, 702.4, 748.5, 765.0, 786.1, 807.3, 850.8, 872.0, 926.8, 974.9, 1034.1, 1071.5, 1111.6, 1190.1, 1216.6, 1265.4, 1291.9, 1312.9, 1364.4, 1420.2, 1438.1, 1458.8, 1499.1, 1522.2, 1542.6, 1560.1, 1570.2, 1589.1, 1638.8, 1647.8, 1654.3, 1697.3, 1718.1, 1734.5, 1751.4, 1773.7, 1793.5, 1845.8, 2345.3, 2461.6, 2924.2, 3447.9 cm^(-1)に吸収を有する多形結晶」に相当する。

また、刊行物1には、「ドネペジル」とは、「1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン」を意味すると記載されているから(摘記(E))、引用発明の「ドネペジル」は、本願発明の「ドネペジル(化学名:1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン)」に相当する。

そして、引用発明の「ドネペジル1.0gにエタノール4mlを加え、40℃で加温溶解」する工程は、本願発明の「ドネペジル(化学名:1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン)をエタノールのみに溶解」する工程に相当し、引用発明におけるその後の「氷冷し室温まで戻した後、22℃でエタノール1mlに濃塩酸0.31gを加えた溶液を投入」する工程は、本願発明の「塩酸又は塩化水素を加え」る工程に相当する。
続いて、引用発明では、「更に5分後、内温22℃でTBME 30ml投入し、投入途中結晶析出した後、さらに、室温で一夜攪拌した後、濾取・乾燥」する方法であるところ、上記「室温で一夜攪拌」における「室温」とは、通常「内温10?40℃」程度であるから、引用発明の「更に5分後、内温22℃でTBME 30ml投入し、投入途中結晶析出した後、さらに、室温で一夜攪拌した後、濾取・乾燥」する工程は、本願発明の「内温10?40℃に維持して他の溶媒を加えることなく撹拌し、析出した結晶を濾取、乾燥する」工程とは、「内温10?40℃に維持して撹拌し、析出した結晶を濾取、乾燥する」工程である点で一致している。
そして、引用発明の「塩酸ドネペジルの多形結晶(III)1.09gを製造する方法」は、本願発明の「塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造法」に相当する。
以上によれば、本願発明と引用発明は、
「ドネペジル(化学名:1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン)をエタノールのみに溶解し、塩酸又は塩化水素を加えた後に、内温10?40℃に維持して撹拌し、析出した結晶を濾取、乾燥することにより、下記構造式(式1)で示される塩酸ドネペジル(化学名;1-ベンジル-4-[(5,6-ジメトキシ-1-インダノン)-2-イル]メチルピペリジン・1塩酸塩)の多形結晶(III)であって、
(式1)

粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記表1に示す回折角度にピークを有し、
表1

臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、
波数 559、641、648、702、749、765、786、807、851、872、927、949、966、975、982、1007、1034、1071、1080、1111、1119、1131、1177、1190、1205、1217、1230、1250、1265、1292、1313、1367、1389、1420、1438、1453、1461、1470、1500、1589、1605、1697、2407、2419、2461、2624、2641、2651、2667、2837、2848、2873、2924、2954、2961、2993、3007、3377、3433cm^(-1)に吸収を有する多形結晶、又は、粉末X線回折パターンにおいて、2θで表される下記表2に示す回折角度にピークを有し、
表2

臭化カリウム中の赤外吸収スペクトルにおいて、
波数558.3, 641.1, 702.4, 748.5, 765.0, 786.1, 807.3, 850.8, 872.0, 926.8, 974.9, 1034.1, 1071.5, 1111.6, 1190.1, 1216.6, 1265.4, 1291.9, 1312.9, 1364.4, 1420.2, 1438.1, 1458.8, 1499.1, 1522.2, 1542.6, 1560.1, 1570.2, 1589.1, 1638.8, 1647.8, 1654.3, 1697.3, 1718.1, 1734.5, 1751.4, 1773.7, 1793.5, 1845.8, 2345.3, 2461.6, 2924.2, 3447.9 cm^(-1)に吸収を有する多形結晶を得ることを特徴とする塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造法。」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点」という。)。

(相違点)
塩酸又は塩化水素を加えた後に、内温10?40℃に維持して撹拌し、結晶を析出させるにあたり、本願発明では、「他の溶媒を加えることなく」撹拌するのに対し、引用発明では、「TBME 30ml投入」して撹拌する点

4.相違点についての判断
(1)刊行物1には、塩酸又は塩化水素を加えた後に、塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を析出させる方法として、引用発明の方法以外にいくつかの方法が記載されている。
例えば、実施例21には、ドネペジルをアセトンに溶解し、濃塩酸を加えた後に、他の溶媒を加えることなく、そのまま撹拌を続けることにより、多形結晶(III)を析出させる方法が記載されている(摘記(G))。
同様に、実施例22、60?65、68には、ドネペジルを酢酸エチルやアセトニトリル、アセトンとイオン交換水、THF、DMF、トルエンに溶解し、塩酸又は塩化水素を加えた後に、他の溶媒を加えることなく、そのまま撹拌を続けることにより、多形結晶(III)を析出させる方法が記載されている(摘記(G)、(J))。
これらの実施例によれば、引用発明では、塩酸又は塩化水素を加えた後、多形結晶(III)を析出させるにあたり、「TBME30ml投入」しているものの、多形結晶(III)を析出させるためには、必ずしも、TBMEなどの他の溶媒を加えることが必要というものではなく、上記したアセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、アセトンとイオン交換水、THF、DMF、トルエンなどの様々な溶媒において、「他の溶媒を加えることなく」、そのまま撹拌を続けることによって、多形結晶(III)が析出することが理解できる。

(2)一方、実施例76?95には、多形結晶(III)以外の多形結晶や非晶質の塩酸ドネペジルを溶媒に懸濁し、室温にて一晩撹拌を続けることにより、多形結晶(III)を析出させる方法が記載され(摘記(K))、そのための溶媒として、上記アセトンや酢酸エチルと同様に、エタノールも挙げられている(摘記(K)の実施例77、81、85、89、93)。
これらの実施例によれば、アセトンや酢酸エチルと同様に、エタノール中、室温、すなわち、内温10?40℃に維持して一晩撹拌を続けることによって、多形結晶(III)以外の多形結晶や非晶質が多形結晶(III)に転換したうえで析出することが理解できる。

(3)このように、刊行物1には、ドネペジルに塩酸又は塩化水素を加えた後、「他の溶媒を加えることなく」、多形結晶(III)を析出させるための溶媒として、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、アセトンとイオン交換水、THF、DMF、トルエンという多くの溶媒が記載され、その一方で、多形結晶(III)を析出させるための溶媒として、エタノールのみからなる溶媒も記載されているといえる。
そうすると、これら刊行物1の記載に接した当業者であれば、ドネペジルに塩酸又は塩化水素を加えた後、多形結晶(III)を析出させるにあたり、他の溶媒を加えることなくエタノールのみを用いることに想到することに格別の創意を要したものとはいえない。
しかも、塩酸ドネペジルは、医薬として優れた作用を有する化合物であるところ(摘記(C))、エタノールは、安全性が高く、医薬の分野でも許容される溶媒であることは、当業者の技術常識であるから、実際に医薬用の結晶を製造するにあたって、溶媒としてエタノールを選択することは、当業者が先ず行うことであるとさえいえる。

(4)以上によれば、ドネペジルをエタノールのみに溶解し、塩酸又は塩化水素を加えた後、内温10?40℃に維持して撹拌し塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を析出させるにあたり、引用発明の「TBME30ml投入」する方法に代えて、「他の溶媒を加えることなく」、そのままエタノール中で撹拌して多形結晶(III)を析出させることは、当業者が容易に行うことである。

(5)なお、請求人は、平成20年9月19日に補正された審判請求書の請求の理由4.4-2において、「更に言えば、原審引用文献1(審決注:「刊行物1」と同じ。)の実施例59,67,96-98等に記載された多形結晶(III)を得る方法は、ドネペジル塩酸塩を含む溶液中にTBMEやIPE等の貧溶媒を加える方法であり、一方、実施例77,81,85,89,93等に記載された方法は、多形結晶(III)以外の多形結晶や非晶質の塩酸ドネペジルから、エタノール溶媒を用いて塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を得る方法であり、両者は技術的に区別されるべきものであって、両者を単純に組み合わせること自体、技術的に妥当なこととは言えない。」と主張している。

しかしながら、実施例77、81、85、89、93等に記載された方法が、多形結晶(III)以外の多形結晶や非晶質の塩酸ドネペジルから、多形結晶(III)を得る方法であり、貧溶媒を加える方法とは異なる方法であっても、これらの実施例によれば、エタノールから多形結晶(III)が析出することが理解できることは、上記(2)で述べたとおりである。
そうしてみると、上記(4)で述べたとおり、塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を析出させるにあたり、引用発明の「TBME30ml投入」する方法に代えて、「他の溶媒を加えることなく」、そのままエタノール中で撹拌して多形結晶(III)を析出させることは、当業者が容易に行うことである。
したがって、上記請求人の主張は採用することができない。

(6)また、請求人は、平成23年4月27日の回答書中、A.として下線を付した箇所において、「溶媒がメタノールやアセトンの場合、塩酸ドネペジルの溶解度が低いので一気に析出し、析出する結晶は準安定形のType I(審決注:「多形結晶(I)」と同じ。)やType II(審決注:「多形結晶(II)」と同じ。)である。
溶媒がエタノールの場合、結晶はすぐには析出しない(実施例参照)。しばらく待って析出し始めた結晶が最安定形のType III(審決注:「多形結晶(III)」と同じ。)である、というのは、意外性のある発見と思われる。」と主張している。

しかしながら、刊行物1の実施例21(摘記(G))では、溶媒がアセトンの場合でも多形結晶(III)が析出しているから、上記「溶媒がメタノールやアセトンの場合、塩酸ドネペジルの溶解度が低いので一気に析出し、析出する結晶は準安定形のType IやType IIである」との主張は採用できない。
さらに、刊行物1には、溶媒がエタノールの場合でも、1時間程度の短い時間であれば、多形結晶(I)や(II)が析出することが実施例10、33に示されており(摘記(F)、(H))、一方、室温にて一晩撹拌を続けると多形結晶(III)が析出することは、上記(2)で述べたとおりである。
したがって、上記「溶媒がエタノールの場合、結晶はすぐには析出しない(実施例参照)。しばらく待って析出し始めた結晶が最安定形のType IIIである、というのは、意外性のある発見と思われる。」との主張も採用できない。

5.効果について
本願発明の効果について、この出願の明細書には、「本発明は、ドネペジルから直接に塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を製造できる、より簡便な多形結晶(III)の製造法であり、特に、環境及び作業者の人体に対する安全性に優れ、環境にやさしく且つ低コストで精製効果に優れた塩酸ドネペジルの多形結晶(III)の製造が可能である。」(再公表公報第10頁第18欄第21?26行)と記載されている。

そこで、上記「ドネペジルから直接に塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を製造できる、より簡便な多形結晶(III)の製造法」であるという効果について検討すると、引用発明は、その他の多形結晶を取得することなく直接多形結晶(III)を製造する方法であるから、引用発明も「ドネペジルから直接に塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を製造できる」方法である。
そして、上記4.(1)で述べたとおり、刊行物1には、様々な溶媒において、「他の溶媒を加えることなく」撹拌を続けることにより、多形結晶(III)が析出することが記載されているから、他の溶媒を加えることのない「より簡便な多形結晶(III)の製造法」についても刊行物1には、記載されているといえる。
したがって、本願発明の「ドネペジルから直接に塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を製造できる、より簡便な多形結晶(III)の製造法」であるという効果は、刊行物1の記載及び当業者の技術常識から予測できる効果である。

また、「環境及び作業者の人体に対する安全性に優れ、環境にやさしく且つ低コスト」との効果について検討すると、エタノールが、環境及び作業者の人体に対する安全性に優れ、環境にやさしい溶媒であることは、当業者の技術常識であるから、引用発明において他の溶媒を加えずにエタノールのみを使用することによって、「環境及び作業者の人体に対する安全性に優れ、環境にやさしい」方法となること、また、他の溶媒を用いなければ「低コスト」の方法となることは、当業者が予測し得る効果である。
さらに、この出願の明細書には、実験例(1)として、本願発明の具体例である実施例9と対照実験である対照例1を挙げて、「実施例9で得られた塩酸ドネペジルの多形結晶(III)中の残留溶媒は、安全性にはほとんど問題のないエタノールだけであり、その量も200ppm(0.02%)と極少量であった。一方、対照例1で得られた塩酸ドネペジルの多形結晶(III)中の残留溶媒は、エタノール200ppm(0.02%)とイソプロピルエーテル100ppm(0.01%)であった」こと、また、「実施例9の「ドネペジルから塩酸ドネペジルの多形結晶(III)を製造する工程」で発生した廃棄溶媒量は、エタノール400mlであったのに対し、対照実験(対照例1)では、1250ml(エタノール500mlとイソプロピルエーテル750ml)と多かった」ことが記載されている(再公表公報第10頁第18欄第28行?第11頁第20欄第21行、特に、第11頁第19欄第12?18行及び第34?38行)。
しかしながら、実施例9は、対照例1で使用されているイソプロピルエーテルを使用しない方法であるから、残留溶媒や廃棄溶媒にイソプロピルエーテルが含まれないのは、自明の効果である。
また、エタノールの廃棄溶媒量が、実施例9では400mlであるのに対し、対照例1では500mlであることについてみても、実施例9では、エタノールを320g、すなわち、400ml(再公表公報第10頁第17欄第22行参照)使用し、対照例1では、エタノールを500ml使用しているのであるから、エタノールの廃棄溶媒量が、実施例9では400ml、対照例1では500mlとなるのは、当然の結果にすぎない。
したがって、上記実験例(1)を検討しても、本願発明の「環境及び作業者の人体に対する安全性に優れ、環境にやさしく且つ低コスト」との効果は、刊行物1の記載及び当業者の技術常識から予測できる効果である。

また、「精製効果に優れた」との効果について検討すると、この出願の明細書には、実験例(2)を挙げて、「不純物(0.3%)を添加した実施例8で得られた塩酸ドネペジルの多形結晶(III)では、不純物含量が0.07%まで低下が認められたが、不純物を添加した対照例1で得られた多形結晶(III)では、不純物含量は0.25%であった。塩酸ドネペジル含量も、不純物含量に対応しており、各々、99.86%、99.66%と差異が認められた」と記載されている(再公表公報第11頁第20欄第22行?第12頁第21欄第26行、特に、第12頁第21欄第16?22行)。
しかしながら、実施例8は、「析出開始後、内温20℃で18時間攪拌した後、内温9℃に冷却し、冷却約5時間30分後」に結晶を取得したものであるのに対し、対照例1は、「9分間攪拌した後に、内温20℃でイソプロピルエーテル750mlを加え、室温にて120分間攪拌を続けた後」に結晶を取得したものであるから、実施例8はゆっくりと時間をかけて結晶化させているのに対し、対照例1は急速に結晶化させているものといえる。
そして、結晶化の際、急速に結晶化させるよりもゆっくりと時間をかけて結晶化させた方が、純度の高い結晶が得られることは、当業者の技術常識であるから、実施例8が対照例1よりも不純物含量が少ないことは、自明の効果である。
したがって、本願発明の「精製効果に優れた」との効果は、刊行物1の記載及び当業者の技術常識から予測できる効果である。

さらに、この出願の明細書には、実験例(3)を挙げて、「溶媒の内温(結晶化温度)高くなるほど残留溶媒(エタノール)量は減少し、また、粒度分布の90%体積累積径の増加が認められた」こと、また、「残留溶媒(エタノール)量及び粒度分布のバランスから、攪拌時の溶媒の内温(結晶化温度)は、特に20℃?30℃が望ましい」ことが記載されている(再公表公報第12頁第21欄第27行?第22欄最下行、特に、第12頁第21欄第45?47行及び第22欄第41?43行)。
しかしながら、本願発明の結晶化温度は、内温10?40℃であるのに対して、引用発明の結晶化温度も室温、すなわち内温10?40℃程度であって、両発明の結晶化温度は一致しているから、引用発明の残留溶媒(エタノール)量及び粒度分布は、本願発明と同程度であるというべきである。
しかも、溶媒の内温(結晶化温度)が高くなる程、結晶化がゆっくりと進行し、結晶が大きく成長する、すなわち、粒度分布の90%体積累積径が増加することは、当業者に自明の事項であり、さらに、結晶が大きく成長すれば、そこに付着する溶媒量が減少することもまた当業者に自明の事項である。
したがって、上記実験例(3)を検討しても、本願発明が、刊行物1の記載及び当業者の技術常識からは予測し得ないような優れた効果を奏するものということはできない。

以上のとおりであるから、本願発明の効果は、刊行物1の記載及び当業者の技術常識から予測できる程度のものである。

6.まとめ
したがって、本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-30 
結審通知日 2011-10-04 
審決日 2011-10-17 
出願番号 特願2002-531094(P2002-531094)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 恵新留 素子  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 内藤 伸一
井上 千弥子
発明の名称 塩酸ドネペジルの多形結晶の製造法  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 持田 信二  
代理人 義経 和昌  
代理人 古谷 聡  

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