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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03C |
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管理番号 | 1250253 |
審判番号 | 不服2008-13624 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-05-30 |
確定日 | 2011-12-22 |
事件の表示 | 特願2002-554630「ガラスエッチング組成物及び同ガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月11日国際公開、WO02/53508〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯・本願発明 本願は、2001年12月25日(優先権主張2000年12月27日、2001年9月28日、いずれも日本国)を国際出願日とする国際出願であって、平成20年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年3月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月22日に拒絶査定され、同年5月30日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成23年5月11日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年7月19日に意見書が提出されたものである。 本願の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1?15」といい、これらを総称するときは「本願発明」という。)は、平成20年3月31日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 1?20重量/容量%(以下w/v%とする)のフッ化物に20?80容量/容量%(以下v/v%とする)の水および20?80v/v%の水混和性有機溶媒を加えて液体状としたガラスエッチング組成物に、 親水軟膏、吸水軟膏、マクロゴール軟膏、ヒドロゲル軟膏、リオゲル軟膏、またはこれらの軟膏基材を構成する化合物から選ばれる少なくとも1つの軟膏基材や化合物と、 塩酸、硝酸、硫酸から選ばれる少なくともいずれか1つの無機酸と、を添加したガラスエッチング組成物。 【請求項2】 請求項1に記載のガラスエッチング組成物に安定剤としてショ糖を添加してなるガラスエッチング組成物。 【請求項3】 請求項1ないし請求項2のいずれかに記載のガラスエッチング組成物に界面活性剤を添加してなるガラスエッチング組成物。 【請求項4】 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガラスエッチング組成物に色素を加えて着色してなるガラスエッチング組成物。 【請求項5】 フッ化物がフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素カリウム、フッ化水素アンモニウム、ホウフッ化アンモニウムまたは珪フッ化アンモニウムから選ばれる少なくとも1つの化合物である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のガラスエッチング組成物。 【請求項6】 水が水道水、イオン交換水、蒸留水、純水、地下水、湧水、ろ過水のいずれかまたはそれらの二個以上の混合物である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のガラスエッチング組成物。 【請求項7】 水混和性有機溶媒がグリセリンやメチルグリコール、エチルグリコール、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類やエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類やメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2,3-プロパントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ソルビトール等のアルコール類から選ばれる少なくとも1つの化合物である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のガラスエッチング組成物。 【請求項8】 界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カルシウム、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸塩等のアニオン性界面活性剤やポリオキシエチレンアセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンオレエート、ソルビタンステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等の非イオン性界面活性剤やジメチルアルキルベタイン、アルキルグリシン、アミドベタイン、イミダゾリン、パーフルオロアルキルアミノスルホン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン等の両性界面活性剤およびオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1つの化合物である請求項3ないし請求項7のいずれかに記載のガラスエッチング組成物。 【請求項9】 ガラス表面を洗浄した後、洗浄液を完全に拭き取り、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のガラスエッチング組成物に浸漬するかまたは筆や刷毛やスキジーで塗布してエッチングを行い、ガラス表面を再び洗浄し、ガラス表面に残留したガラスエッチング組成物を除去することを特徴とするガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法。 【請求項10】 請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のガラスエッチング組成物をチューブ、ボールペン、サインペン、マーカーペン、フェルトペンや筆ペンあるいは先端が筆、刷毛やスポンジ状になっている容器、あるいはエアガンスプレー、ハンドスプレーやエアゾルに充填し、直接ガラス表面に塗布または噴霧することにより行うガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法。 【請求項11】 請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のガラスエッチング組成物を軟質のフィルムまたはシートに塗布、積層してシート状複合体を形成し、そのシート状複合体が離型フィルムを介した1枚のシートまたはロール状の巻物であり、直接ガラス表面に接触させることにより行うガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法。 【請求項12】 ガラス表面を洗浄した後、洗浄液を完全に拭き取り、請求項10または請求項11のいずれかに記載の方法によりガラスエッチング組成物をガラス表面に塗布、接触または噴霧してエッチングを行い、ガラス表面を再び洗浄し、ガラス表面に残留したガラスエッチング組成物を除去することを特徴とするガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法。 【請求項13】 ガラス表面のエッチングが必要でない部分には、マスキングを行うことを特徴とする請求項9ないし請求項12のいずれか1項に記載のガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法。 【請求項14】 洗浄液が水、石鹸、家庭用洗剤より選ばれる請求項9または請求項13記載のいずれかに記載のガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法。 【請求項15】 マスキングを、油性ペン、油性絵具、樹脂絵具、アクリル絵具、マスキングテープ、シール、粘着シート、転写シート、紫外線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂フィルム、フォトレジスト法、シルクスクリーン印刷法より選ばれる少なくともいずれか1つにより行う請求項13または請求項14記載のいずれかに記載のガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法。 第2.平成23年5月11日付けで起案された当審からの拒絶理由の概要 平成23年5月11日付けで起案された当審からの拒絶理由は次の事項を含むものである。 1.記載不備について (1)本願の請求項1の記載は下記の点で不明であるから、本願発明1及び請求項1に記載された特定事項を有する本願発明2?15は明確ではなく、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。 (1-1)請求項1の特定事項である「親水軟膏、吸水軟膏、マクロゴール軟膏、ヒドロゲル軟膏、リオゲル軟膏」とは、「親水軟膏、吸水軟膏、マクロゴール軟膏、ヒドロゲル軟膏、リオゲル軟膏」、それぞれの「基剤」のみをいうのか、「基剤に薬効成分が分散したもの」全体をいうのか判然としない。 (1-2)請求項1の特定事項である「またはこれらの軟膏基材を構成する化合物から選ばれる」「少なくとも1つの軟膏基材や化合物」とは、どのようなものをいうのか。「少なくとも1つの軟膏基材や化合物」における「軟膏基材」と「化合物」とはどのように区別されるのか。 (1-3)「ヒドロゲル軟膏」は、ヒドロゲル軟膏基剤と解すると、ポリアクリル酸、トラガント、セルロース誘導体、アルギン酸塩、ポリエチレングリコールなどの物質が含まれ(特開平10-17479号公報の【0003】、特開平7-215846号公報の【0022】、特開平11-209270号公報の【0009】を参照。)、これらの物質はゲル化剤としての機能を有するものも多い。そうすると、「ヒドロゲル軟膏」には、ゲル化剤として用いられるものをも含む広範囲の物質をいうことになり、「ヒドロゲル軟膏」とはどのようなものまでをいうのか不明であり、ゲル化剤との区別も不明である。 (1-4)「リオゲル軟膏」は、リオゲル軟膏基剤と解すると、FAPG基剤(ステアリルアルコール、セチルアルコール等の脂肪アルコールの微粒子をプロピレングリコール中に懸濁したもの:国際公開98/45249号)をさすものと解釈される。「リオゲル軟膏」は、ステアリルアルコール等をプロピレングリコール中に懸濁させてゲル化したものと解釈してよいのか。 (1-5)実施例1?9には、「親水軟膏、吸水軟膏、マクロゴール軟膏、ヒドロゲル軟膏、リオゲル軟膏」は添加されていない。しかし、上記(1-1)?(1-4)での指摘を踏まえると、請求項1?4のいずれか一つ係る発明の実施例ともとれなくもない。これら実施例1?9を実施例として扱っていることは、請求項1の特定事項と齟齬が生じているともとれ、請求項1?8に係るガラスエッチング組成物の組成を不明とするものである。 (2)本願の明細書の記載は、本願発明1の範囲まで拡張(一般化)することはできないから、本願発明1及び本願発明1の特定事項を有する本願発明発明2?15は明細書に裏付けられておらず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないし、当業者が過度の試行錯誤なしに本願発明1を実施することはできないから、本願の明細書の記載は、特許法第36条第4項の規定を満たしていない。 (2-1)実施例10が本願発明1の実施例とすれば、実施例10には、「フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウムまたはフッ化水素ナトリウムから選ばれた少なくとも1つの化合物に、塩酸または硝酸0?10v/v%を含む水0?2容量、プロピレングリコール1?2容量および親水軟膏、ヒドロゲル軟膏またはリオゲル軟膏から選ばれた少なくとも1つの軟膏基材2?8容量を加えて混和し、均一なクリーム状のガラスエッチング組成物を調整する。この時、フッ化物の全体に対する濃度を5?20w/v%になるよう調整する。」と記載されているが、具体的に「フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウムまたはフッ化水素ナトリウム」内のどれをどのくらいの容量(範囲ではなく具体的な数値、以下同様)使ったのか、「塩酸または硝酸」はどのくらいの容量を加えたのか、「親水軟膏、ヒドロゲル軟膏またはリオゲル軟膏」の内のどれを使ったのか開示がなく、実施例としての十分な開示がなされているとはいえない。 また、「吸水軟膏」及び「マクロゴール軟膏」、プロピレングリコール以外の水混和性有機溶媒においても実施例10に記載のものと同様のガラスエッチング組成物が得られるのか具体的な裏付けが示されていない。 (2-2)実施例1?3、5、6、8も本願発明1の実施例とすれば、これらには軟膏(基剤)の添加が記載されておらず、仮に、プロピレングリコールをヒドロゲル軟膏を構成する化合物として添加したというのであれば、水混和性有機溶媒として添加するものが何であるのか不明である。 (2-3)実施例4、7、9も本願発明1の実施例とすれば、これらにはヒドロキシプロピルセルロースが添加されており、これによってゲル化されるが、これは軟膏基剤を添加したものとみなしているととれ、軟膏基剤とゲル化剤を同一視していると解されるから、軟膏基剤の範囲は極めて広範囲となり、これら実施例の記載を含む発明の詳細な説明の記載を基に請求項1に特定される範囲まで発明を一般化できない。 2.進歩性について 本願発明1は原査定で引用文献1として引用された国際公開第00/64828号(以下、「引用例1」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第3.判断 1.記載不備について 請求人は、上記拒絶理由通知の指摘した記載不備に対して明細書を補正せず、平成23年7月19日付けの意見書において「審判官は、軟膏基剤当の組成の特定について、日本薬局方に基づいて規定されるべきとの御主張や、周知のゲル化剤の性能等について縷々述べておられる」と主張するのみであって、上記拒絶理由通知で指摘した記載不備に対して実質的に何らの説明も主張もしていない。 よって、上記拒絶理由通知で指摘した不備は依然として解消しているとはいえず、本願明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は特許法第36条第4項及び同法同条第6項第1号及び第2号の規定を満たしていない。 2.進歩性について 2-1.本願発明1の認定 本願発明1は、上記拒絶理由で指摘したように明確でないが(上記第2.の1.(1)の(1-1)?(1-5)を参照。)、ここでは以下のように、本願発明1を認定する。 「1?20重量/容量%(以下w/v%とする)のフッ化物に20?80容量/容量%(以下v/v%とする)の水および20?80v/v%の水混和性有機溶媒を加えて液体状としたガラスエッチング組成物に、 日本薬局方で規定される親水軟膏、吸水軟膏及びマクロゴール軟膏、並びにヒドロゲル軟膏基剤及びリオゲル軟膏基剤、またはこれらの軟膏及び軟膏基材を構成する化合物から選ばれる少なくとも1つの物質と、 塩酸、硝酸、硫酸から選ばれる少なくともいずれか1つの無機酸と、を添加したガラスエッチング組成物。」 ここでいう「日本薬局方で規定される親水軟膏、吸水軟膏及びマクロゴール軟膏」とは軟膏とあるが軟膏基剤である。なお、この「日本薬局方」は出願時のものである「第13改正日本薬局方」とし、親水軟膏、吸水軟膏及びマクロゴール軟膏の記載に関しては現時点で最新の「第15改正日本薬局方」と実質的に同一内容である。 2-2.引用例1 原査定で引用文献1として引用された国際公開第00/64828号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。 (a)「1.1?10重量/容量%(以下w/v%とする)のフッ化物に20?80容量/容量%(以下v/v%とする)の水および20?80v/v%の水混和性有機溶媒を加えて液体状としたガラスエッチング組成物。」(請求の範囲) (b)「2.請求項1記載の液体状ガラスエッチング組成物にゲル化剤を添加してなるゲル状のガラスエッチング組成物。」(請求の範囲) (e)「5.請求項1ないし請求項4記載のいずれかの組成物に酢酸、クエン酸、リン酸のうちいずれか1個およびそれらの緩衝剤を加えて任意のPH(当審注:「pH」の誤記と認める。)にしてなるガラスエッチング組成物。」(請求の範囲) (j)「10.ゲル化剤がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、トラガントガム、キサンタムガム、ベントナイト、ビーガム、ゼラチン、寒天、ポリアクリン酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、アクリン酸エステル系重合体、イソブチルマレイン酸共重合体、アクリン酸/メタクリル酸共重合体、アクリン酸/マレイン酸共重合体およびこれ等に準ずる物から選ばれる少なくとも1つの化合物である請求項2ないし請求項9のいずれかに記載のゲル状のガラスエッチング組成物。」(請求の範囲) (p)「実施例10 フッ化水素アンモニウムを12w/v%含む水性溶液1容量に食用緑色3号を加えて緑色に着色した後、プロピレングリコール2容量を加えて混和する。この溶液の全量に対して1?10w/v%のヒドロキシプロピルセルロースを加えて撹袢し、均一なゲル状のガラスエッチング組成物を調整する。従ってフッ化水素アンモニウムの全体に対する濃度は4w/v%である。 たとえば、フッ化水素アンモニウム12gに水を加えて溶解し100mlとした後、食用緑色3号を0.5mg加えて緑色に着色した水性溶液にプロピレングリコールを200ml加えて混和し全量を300mlとする。この溶液にヒドロキシプロピルセルロースを10.5g加えて攪拌し、均一なゲル状のガラスエッチング組成物を調整する。従ってフッ化水素アンモニウムの濃度は4w/v%,水の濃度は33.3v/v%、プロピレングリコールの濃度は66.7v/v%、ヒドロキシプロピルセルロースの濃度は3.5w/v%である。 かかるガラスエッチング組成物を用いて次のようにフロスト加工を行う。すなわち、被加工基材として、・・・・・・・平面ガラス、・・・・・・ガラスコップおよび・・・・・・鏡を用いた。このガラス板、ガラスコップおよび鏡を水道水で洗い、水を拭き取り青色の油性ペンを用いて必要な部分にマスキングを行った後、上記のガラスエッチング組成物を筆で塗布しまたはチューブを用いて押し出して塗布し5?10分間放置する。ガラス板、ガラスコップおよび鏡を再び水道水で洗うと、マスキングを施していない表面部分がフロスト加工されたガラス板、ガラスコップおよび鏡が得られた。 ヒドロキシプロピルセルロースの量は、筆を用いて塗布するには全量に対し1?3.5w/v%程度が好ましい範囲であり、ガラスにチューブを用いて押し出して塗布するには4w/v%程度以上が好ましい。ヒドロキシプロピルセルロースの平均粘度は限定されたものではないが150?400mps(2%水溶液,20℃)程度がフロスト加工の濃淡およびその扱い易さの点より見て好まし範囲である。」(12頁26行?13頁25行) (q)「このように本発明の液体状のガラスエッチング組成物は、前記に示したように極めて少量のフッ化物たとえばフッ化水素アンモニウムと化粧品や医薬品に使用されているグリコール類およびグリセリンを含むアルコールと界面活性剤および食料品にも使用されているショ糖からなっており、またゲル状のガラスエッチング組成物は、液体状のガラスエッチング組成物に化粧品や医薬品に使用されているゲル化剤たとえばヒドロキシプロピルセルロースを加えたものであるため、本発明のガラスエッチング組成物は、フッ素系ガラスエッチング剤における最も重要な問題の1つである環境汚染および人体への危険性の問題を解決することができる効果がある。」(15頁15?23行) (r)「また、本発明のガラスエッチング組成物中にはフッ酸が含まれず、また硫酸、硝酸や塩酸等も含まれていないため、ガラス表面に複雑な模様や絵および文字等をエッチングするのに適したシルクスクリーン印刷法やその他の印刷法にも充分適用できる効果を有し、また、マスキングテープ以外にも自作のシールや油性ペン、油性絵具、樹脂絵具およびアクリル絵具を用いてマスキングを行うことにより絵や模様および文字等ガラス表面の1部分にフロスト加工を施すことができる効果を有する。」(15頁24行?16頁3行) (s)「(2)請求の範囲第2項及び請求の範囲第10項の発明によれば、ゲル化剤を添加するためガラスエッチング組成物中のゲル化剤の濃度を変化させることにより、様々な粘度を持つゲル状のガラスエッチング組成物を調整することができると共に、ガラスエッチング組成物のガラス表面に対する接着性が増すことにより優れたフロスト加工面を得ることができる効果を有する。」(16頁15?19行) (u)「(5)請求の範囲第5項の発明によれば、酢酸等および緩衝剤を加えて任意のPH(当審注:「pH」の誤記と認める。)にすることができるため安定した性状となり、使用しやすい効果がある。」(16頁27?28行) なお、(c)、(d)、(f)?(i)、(k)?(o)及び(t)は欠番である。 2-2.引用発明の認定 引用例1の(a)の「ガラスエッチング組成物」は、同(b)及び同(e)の記載によれば、それぞれ、「ゲル化剤」と「酢酸、クエン酸、リン酸のうちいずれか1個およびそれらの緩衝剤」を添加することができるから、引用例1には、 「1.1?10重量/容量%(以下w/v%とする)のフッ化物に20?80容量/容量%(以下v/v%とする)の水および20?80v/v%の水混和性有機溶媒と、ゲル化剤と、酢酸、クエン酸、リン酸のうちいずれか1個及びそれらの緩衝剤を加えて任意のpHにしてなる液体状としたガラスエッチング組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 2-3.対比・判断 本願発明1と引用発明とを対比すると、 引用発明のフッ化物が「1.1?10重量/容量%」は、本願発明1の「1?20重量/容量%」と「1.1?10重量/容量%」で一致しているから、両者は、 「1.1?10重量/容量%(以下w/v%とする)のフッ化物に20?80容量/容量%(以下v/v%とする)の水および20?80v/v%の水混和性有機溶媒を加えて液体状としたガラスエッチング組成物」である点で一致し、次の点で相違している。 相違点A:本願発明1では、「日本薬局方で規定される親水軟膏、吸水軟膏及びマクロゴール軟膏、並びにヒドロゲル軟膏基剤及びリオゲル軟膏基剤、またはこれらの軟膏及び軟膏基材を構成する化合物から選ばれる少なくとも1つの物質」を含有しているのに対し、引用発明では、「ゲル化剤」を含有している点 相違点B:本願発明1では、「塩酸、硝酸、硫酸から選ばれる少なくともいずれか1つの無機酸」を含有しているのに対し、引用発明では、任意のpHにするために、「酢酸、クエン酸、リン酸のうちいずれか1個及びそれらの緩衝剤」を含有している点 そこで、これら相違点について検討する。 ・相違点Aについて (ア)引用例1の(p)には、「ガラス板、ガラスコップおよび鏡を水道水で洗い、水を拭き取り青色の油性ペンを用いて必要な部分にマスキングを行った後、上記のガラスエッチング組成物を筆で塗布しまたはチューブを用いて押し出して塗布し」と記載されているから、引用発明のガラスエッチング組成物は、筆やチューブによってガラスに塗布されるものであるといえる。 (イ)また、引用例1の(s)には、「ガラスエッチング組成物中のゲル化剤の濃度を変化させることにより、様々な粘度を持つゲル状のガラスエッチング組成物を調整することができる」との記載があり、このことは、同(j)から、「ゲル化剤」の一つであるといえる「ヒドロキシプロピルセルロース」に関し、同(p)には、「ヒドロキシプロピルセルロースの量は、筆を用いて塗布するには全量に対し1?3.5w/v%程度が好ましい範囲であり、ガラスにチューブを用いて押し出して塗布するには4w/v%程度以上が好ましい。」と記載されていることからも裏付けられている。 (ウ)上記(ア)と(イ)の検討結果を併せみると、引用例1には、引用発明のガラスエッチング組成物を筆やチューブによってガラスに塗布すべく、ガラスエッチング組成物中のゲル化剤の濃度を変化させ、ガラスエッチング組成物の粘度を調整することが開示されているといえる。 (エ)さらに、引用例1の(q)には、「本発明の・・・・・・ゲル状のガラスエッチング組成物は、液体状のガラスエッチング組成物に化粧品や医薬品に使用されているゲル化剤たとえばヒドロキシプロピルセルロースを加えたものであるため」とあり、ゲル化剤に化粧品や医薬品分野で使用されるものを用いている旨の記載がある。 (オ)ところで、組成物に対しある物性を与えるために特定の物質を含有させるに当たり、この物性の出現の程度を該特定の物質の含有量を調整するか、あるいは含有させる物質を該特定物質に代えた他の物質とするか、さらには、これらを併用して調整するかは適宜選択される技術常識といえるところ、ゲル化剤も軟膏基剤及び軟膏基材を構成する化合物も共に、化粧品や医薬品分野において、粘性を与える物質であることは周知であるから、ゲル化剤の量を変えることに代えて、適宜量の軟膏・軟膏基剤及び軟膏・軟膏基材を構成する化合物を含有させること、すなわち、上記相違点Aに係る本願発明1の特定事項をなすことは、この技術常識に基づいて当業者が適宜なし得ることである。 ・相違点Bについて (カ)引用例1の(u)には、「酢酸等および緩衝剤を加えて任意のpHにすることができるため安定した性状となり、使用しやすい効果がある。」との記載があるから、ガラスエッチング組成物の安定性、使用しやすさのために「酢酸、クエン酸、リン酸のうちいずれか1個及びそれらの緩衝剤」を加えて任意のpHにしているといえる。そして、この「任意のpH」とは、酸性であることは技術常識に照らし明らかである。 (キ)そうすると、任意の酸性のpHにするためには、酸を加えればよいことは明らかであるから、「酢酸、クエン酸、リン酸のうちいずれか1個及びそれらの緩衝剤」に代えて、代表的な酸である「塩酸、硝酸、硫酸から選ばれる少なくともいずれか1つの無機酸」を含有させるようにすることは当業者であれば適宜なし得ることである。 なお、引用例1の(r)には、「硫酸、硝酸や塩酸等も含まれていないため」と記載がされているが、これらの無機酸は強酸であって極めて少量(薄い希釈液)でpHを調整できるし、少量(薄い希釈液)であれば人体等に悪影響を与えることもないから、かかる記載をもって引用例1には硫酸、硝酸や塩酸の使用を避けるような記載があるとまではいえない。 そして、請求人が審判請求書において、特に主張する「軟膏基材を添加することで、ガラスエッチング組成物のガラス表面に対する接着性が増すことにより、優れたフロスト加工面を得ることができる」という効果は、引用例1の(s)の記載をみると格別なものではない。さらに、請求人は、平成23年7月19日付け意見書において「軟膏基材に対してゲル化剤は、エッチング技術の分野においては軟膏基材ほどの有用性を認めることはできません。」と主張するが、この主張を裏付ける客観的な裏付け(データ)は何ら示されていないし、上述のとおり本願発明1にゲル化剤といえるような軟膏基材が含まれる可能性が十分にあるから、この主張を直ちに採用することはできない。 よって、本願発明1は引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4.むすび 以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項の規定を満たしていないし、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないし、さらに、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の平成23年5月11日付けの当審からの拒絶理由について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-10-18 |
結審通知日 | 2011-10-25 |
審決日 | 2011-11-07 |
出願番号 | 特願2002-554630(P2002-554630) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(C03C)
P 1 8・ 121- WZ (C03C) P 1 8・ 537- WZ (C03C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 時田 稔 |
特許庁審判長 |
木村 孔一 |
特許庁審判官 |
小川 慶子 目代 博茂 |
発明の名称 | ガラスエッチング組成物及び同ガラスエッチング組成物を用いたフロスト加工法 |
代理人 | 松尾 憲一郎 |