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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B |
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管理番号 | 1250299 |
審判番号 | 不服2008-32537 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-12-25 |
確定日 | 2012-01-10 |
事件の表示 | 特願2004-122508「磁気テープ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月 4日出願公開、特開2005-310219〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成16年4月19日に出願したものであって、平成20年8月22日付けの拒絶理由通知に対して同年10月15日付けで手続補正がなされたが、同年11月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月25日付けで拒絶査定不服審判が請求され、平成21年1月14日付けで特許請求の範囲および明細書について手続補正がなされた。 その後、平成22年9月10日付けで前置報告書(特許法第164条第3項)を利用した審尋に対し、回答書が提出され、さらに、当審において、平成23年7月27日付けで拒絶の理由を通知したところ、同年8月24日付けで手続補正がなされたものである。 そして、平成23年8月24日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1は、次のとおりである。なお、検討の便宜上(ア)ないし(エ)の記号を付して分節した。 「【請求項1】 (ア)非磁性支持体の一方の面に、非磁性粉末と結合剤を含む下塗り層を介して、磁性粉末と結合剤を含む磁性層を有し、他方の面に、バック層を有する磁気テープにおいて、 (イ)テープ全体の厚さが4.0?5.4μmで、下塗り層に高級脂肪酸と高級脂肪酸エステルとを含有し、磁性層に融点が70℃以上である脂肪酸アミドを含有し、 (ウ)磁性層の側からn-ヘキサンを用いて25℃で30分間の超音波分散処理により抽出される上記脂肪酸アミドの抽出量が0.5?1.5mg/cm3 であることを特徴とする (エ)磁気テープ。」 2 当審で通知した拒絶理由 当審において通知した拒絶の理由において、補正前の請求項1に関して指摘した事項は、以下のとおりのものである。 「 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 ア 請求項1に係る発明は、製造後の完成された磁気テープの脂肪酸アミドの含有量を、n-ヘキサンを用いて25℃で30分間の超音波処理により抽出して測定することを特徴とするものであって、実質的に、脂肪酸アミドの抽出方法に特徴を有するものと認められるところ、この抽出方法によって特定される磁気テープが、従来の磁気テープと異なるものであるのか否か(磁気テープの脂肪酸アミドの含有量が従来の磁気テープと重ならないものであるかのか否か)を確認をすることができず、物の発明である磁気テープとしての特定が不明確である。 また、かかる抽出方法によって特定される磁気テープは、脂肪酸アミドの含有量を特定するのみであって、作用効果を奏するための前提となる磁気テープが、具体的にどのような材料からなる磁気テープであるのか、あるいはどのような製造方法により製造された磁気テープであるのか特定できないので、この点からも、物の発明である磁気テープとしての特定が不明確である。 よって、請求項1ないし2に係る発明は明確でない。 イ (省略)。 」 3 当審の判断 (特許法第36条第6項第2号に規定する要件(発明の明確性)について) 本願請求項1について、 上記(ア)の部分は、請求項1に記載された発明が、「磁気テープ」に関するものであることを特定するとともに、当該磁気テープに、非磁性支持体、下塗り層、磁性層、バック層の各要素が含まれることを示す記載である。 上記(イ)の部分は、テープ全体の厚さ、下塗り層、磁性層をさらに特定する事項の記載である。 上記(ウ)の部分は、上記(イ)で特定する磁性層について、含有する脂肪酸アミドの抽出条件および抽出量についての記載である。 上記(エ)の部分は、上記(ア)に対応して、請求項1に記載された発明が「磁気テープ」に関するものであることを特定する記載である。 すると、上記(ア)、(イ)及び(エ)は、請求項1に記載された発明が、「磁気テープ」という物の発明であることを示すとともに前記磁気テープに含まれる構成要素を特定する記載である。 そこで、上記(ウ)の、含有する脂肪酸アミドの抽出条件および抽出量と、「磁気テープ」との関係について検討する。 上記(ウ)は、脂肪酸アミドの「抽出量」を、「磁性層の側からn-ヘキサンを用いて25℃で30分間の超音波分散処理により抽出」するという条件下において、「脂肪酸アミドの抽出量が0.5?1.5mg/cm3 」に含まれるものによって、物の発明である「磁気テープ」を特定しようとするものである。 してみれば、上記(ウ)は、脂肪酸アミドの抽出量によって物の発明である「磁気テープ」を特定するものであるが、当該抽出量により物を特定する事項を含む結果、発明の範囲が不明確になるか否かについて以下に検討する。 (A)本願明細書には、ある所定の、下塗り層、磁性層の材料構成、下塗り層、磁性層の形成条件等としたとき、脂肪酸アミドの抽出量がどの程度となるかについて、実施例1ないし実施例9とともに、比較例1ないし比較例7が示されているが、物の発明である「磁気テープ」を特定するための事項として、抽出量の範囲を特定することが、磁気テープの構造、機能、特性等にどのように関連しているのか、記載されていない。そして、脂肪酸アミドの抽出量は、脂肪酸アミドの含有量が同じ場合であっても、例えば磁気テープの下塗り層や磁性層の厚さ等の形成条件等によって異なるものと解され、所定の抽出量を得るために、物の発明である磁気テープが、出願時の技術常識(明細書又は図面の記載から出願時の技術常識であったと把握されるものも含む)を考慮しても、具体的にどのようなもの構造を有することが必要であるのか、明確でない。 したがって、当業者が、出願時の技術常識(明細書又は図面の記載から出願時の技術常識であったと把握されるものも含む)を考慮しても、脂肪酸アミドの所定の抽出量による特定から、物の発明である「磁気テープ」の具体的な事物を想定することができない。 (B)また、脂肪酸アミドの抽出量を、所定の条件下で所定の抽出量とするための磁気テープについては、本願明細書段落【0052】ないし【0069】の【実施例1】ないし【実施例9】において、下塗り層、磁性層の材料構成、下塗り層、磁性層の形成条件等が記載されており、これらの記載に基づいて「磁気テープ」の特定をすることができるものであって、脂肪酸アミドの抽出量による物の特定以外には、明細書又は図面に記載された発明を適切に特定することができないとまではいえない。 よって、本願請求項1の記載では、当該抽出量による特定以外には、明細書又は図面に記載された発明を適切に特定することができないことが理解できるとはいえず、結局、発明に属する具体的な事物を想定することができず、発明の範囲は明確ではない。 (C)さらに、 (C-1)上記(ア)の部分、及び上記(イ)の部分は、出願時において、磁気テープとして周知な構成である(特に(イ)の部分については、例えば、原査定の拒絶理由通知に示された、特開2001-184627号公報(以下「周知例1」という。)(請求項【0006】(磁気テープ(段落【0003】参照)が、厚さ2.5?4.5μmの非磁性支持体と、厚さ0.3?1.5μmの下塗層と、厚さ0.02?0.3μmの磁性層と、厚さ0.2?0.8μmのバックコート層からなる点。このような数値から、テープ全体の厚さが4.0?5.4μmとなるものを含むものである。)、段落【0023】(下塗層には高級脂肪酸と高級脂肪酸のエステルを含有させる点。)段落【0024】(磁性層には強磁性鉄系金属粉に対して0.5?3.0重量%の脂肪酸アミドを含有させる点。なお、滑剤として、融点が70℃以上である脂肪酸アミドを用いることは慣用手段である。))参照。)。)のほか、特開2004-55137号公報(以下「周知例2」という。)(段落【0085】(非磁性支持体を含めた磁気テープ全厚は2.5?7.7μmが好ましい点。)、段落【0089】(下塗層には高級脂肪酸と高級脂肪酸のエステルを含有させる点。)、段落【0090】(磁性層には磁性粉末に対して0.5?3.0重量%の脂肪酸アミドを含有させる点。なお、滑剤として、融点が70℃以上である脂肪酸アミドを用いることは慣用手段である。))を参照。)こと、および、本願明細書の【発明を実施するための最良の形態】における段落【0038】には、磁性層に、「磁性粉末に対して、0.6重量%を超え、3.0重量%以下の脂肪酸アミドを含有させる」ことが記載されており、この含有量は、前記周知な構成の磁気テープにおける含有量とほぼ重複するものであることを考慮すると、 (C-2)請求項1に記載された、上記(ウ)の部分の「磁性層の側からn-ヘキサンを用いて25℃で30分間の超音波分散処理により抽出される上記脂肪酸アミドの抽出量が0.5?1.5mg/cm3 」なる事項でもって「磁気テープ」なる物の発明が技術的に十分に特定されているとはいえず、請求項1の記載に基づいて、的確に新規性・進歩性等の特許要件を判断ができない。したがって、請求項1の記載から発明が明確に把握されるものではなく、特許請求の範囲が有する機能が担保されるとはいえない。よって、この点においても、発明の範囲は不明確である。 (D)したがって、本願請求項1の記載では、発明に属する具体的な事物を理解することができず、発明の範囲は明確ではない。 4 むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-10-26 |
結審通知日 | 2011-11-01 |
審決日 | 2011-11-15 |
出願番号 | 特願2004-122508(P2004-122508) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 谷澤 恵美、蔵野 雅昭 |
特許庁審判長 |
酒井 伸芳 |
特許庁審判官 |
山田 洋一 月野 洋一郎 |
発明の名称 | 磁気テープ |
代理人 | 祢▲ぎ▼元 邦夫 |