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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1250318
審判番号 不服2010-28165  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-13 
確定日 2012-01-10 
事件の表示 特願2007-223588「ポリシリコン成形体の汚染および破壊のない試験法および欠陥のないポリシリコン成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月13日出願公開、特開2008- 58314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成19年8月30日を出願日(パリ条約による優先権主張2006年8月30日,ドイツ)とするものであり,平成22年8月6日付けで拒絶査定がされ,これに対し同年12月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成22年12月13日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論
平成22年12月13日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)本願補正発明
本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1を,特許請求の範囲の請求項1として,「ジーメンス反応器中で珪素含有ガスまたは珪素含有ガス混合物の熱分解およびCVD堆積により製造された,3mm?300mmの直径および10mm?4500mmの測定長さを有するポリシリコン成形体の材料欠陥を汚染がなく,破壊がなく試験する方法において,ポリシリコン成形体に超音波を照射し,その際,気泡のない水を使用して超音波の結合を噴射水技術により行い,この場合,水は,7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含であり,超音波をポリシリコン成形体の通過後に超音波受信器により記録し,こうしてポリシリコン中の材料欠陥を検出することを特徴とするポリシリコン成形体の材料欠陥を汚染がなく,破壊がなく試験する方法。」とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。

(2)補正要件(限定的減縮)について
上記請求項1についての補正は,補正前の「水が完全脱塩されており」を「水は,7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含であり」とするものであり,「水」の「完全脱塩」の程度を「7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含」と限定するものといえるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,上記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)独立特許要件(進歩性)について

ア 刊行物1およびその記載事項
本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である,特開2004-149324号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(以下,下線は当審において付記したものである)。

(ア-1)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,シリコン単結晶の製造原料に適した多結晶シリコンロッド,特にCZ法によるシリコン単結晶製造プロセスにおけるリチャージに適した多結晶シリコンロッド,及びそのロッドの製造方法,並びにそのロッドの製造に使用されるシリコン芯材に関する。
【0002】【従来の技術】従来より,半導体デバイスの素材であるシリコン単結晶は,工業的にはもっぱらCZ法により製造されている。CZ法によるシリコン単結晶の製造では,まず石英ルツボ内で塊状の多結晶シリコンを加熱溶融してシリコンの原料融液を形成する。次いで,その原料融液にシリコンの種結晶を漬け,これを回転させながら引き上げることにより種結晶の下方にロッド状のシリコン単結晶を育成する。
【0003】ここにおけるシリコン単結晶の製造原料としては,シーメンス法により製造された多結晶シリコンがもっぱら使用されている。シーメンス法による多結晶シリコンの製造では,周知のとおり,ベルジャーと呼ばれる反応炉に棒状のシリコン芯材を立て,炉内を所定雰囲気に保持した状態で,シリコン芯材を通電により1000℃前後に加熱する。そして,この状態で反応炉内にクロルシラン類と水素ガスを導入する。これにより,シリコン芯材の表面にシリコン結晶が析出し,円柱形状の多結晶シリコンロッドが製造される。」

(ア-2)「【0008】シーメンス法で製造された多結晶シリコンロッドをロッド状のまま使用するリチャージにおいては,高温に加熱された炉内を多結晶シリコンロッドが降下する際に,そのロッドが割れるという問題がある。即ち,高温に加熱された炉内を多結晶シリコンロッドが降下する際に,炉内構造に起因する温度分布の違いにより大きな熱応力が生じるため,多結晶シリコンロッドに歪みや,微小な傷,鬆(す)と呼ばれる空洞などがあると,これらが起点になって割れが生じ破断に至るのである。その結果,多結晶シリコンロッドの破片がルツボ内の融液に落下し,融液を飛散させたりルツボを破壊するなど,引上げ操業が不能となるような大きな被害が生じることになる。」

(ア-3)「【0014】本発明の目的は,熱処理によらずにリチャージでの割れを防止できる多結晶シリコンロッド及びその製造方法を提供することにある。本発明の別の目的は,その多結晶シリコンロッドの製造に使用されることにより,熱処理によらずにリチャージでの割れを防止できるシリコン芯材を提供することにある。
【0015】【課題を解決するための手段】本発明者らは,以前より,シーメンス法で製造される多結晶シリコンロッドに多発する鬆(す)と呼ばれる欠陥に着目していた。これは,図1に示すように,円柱形状の多結晶シリコンロッド1中に,長手方向に連続的,断続的に生じる直径が数mm以下の細長い空洞状の欠陥3である。この空洞状の欠陥3は,超音波探傷法により非破壊的に検査することができる。超音波探傷法とは,図4に示すように,検体に超音波を照射し,その反射により欠陥の位置と大きさを測定する方法であり,多結晶シリコンロッド1に適用することにより,鬆(す)と呼ばれる空洞状の欠陥3の位置及び大きさを非破壊的に検査することができる。
【0016】本発明者らは,リチャージにおける多結晶シリコンロッド1の割れが,必ずしも内部残留応力に依存しない傾向があることから,その割れの一因をロッド内部の物理的な欠陥,とりわけ鬆(す)と呼ばれる空洞状の欠陥3に求め,欠陥3の分布状況を超音波探傷法により直径130mm×長さ1000mmの製品について詳細に調査した。その結果,以下の事実が判明した。なお,製品内のシリコン芯材2は10mm角である。」

(ア-4)「【0029】シーメンス法による多結晶シリコンの製造では,ベルジャーと呼ばれる反応炉5を開放し,炉底部上の支持具を兼ねる電極6に所定本数のシリコン芯材2をセットする。シリコン芯材2は,多結晶シリコンからなる細長い棒体であり,従来は図8(a)に示す断面が四角形(正方形)のものが使用されていた。これに対し,本実施形態では,図8(b)に示す断面が五角形のものや図8(c)に示す断面が六角形のもの,図8(d)に示す断面が八角形のもの,図8(e)に示す断面が円形のものなどを使用する。シリコン芯材2の太さは,要求される機械的強度,通電抵抗等の特性によって決められ,従来と断面積がほぼ同じになるようにすれば問題はない。
【0030】炉底部上にセットされた所定本数のシリコン芯材2は,2本を1組としてブリッジ10により門型に組み合わされ,電極6を介して電源7と接続される。
【0031】シリコン芯材2のセットが終わると,反応炉5を閉じ,炉内を真空引きする。その後,水素ガス或いは不活性ガスにより炉内を加圧置換する。炉内の雰囲気置換が終わると,炉内にセットされた所定本数のシリコン芯材2を同時に通電加熱する。この状態で,クロルシ
ラン類と水素の混合ガスを原料ガスとして炉内に供給する。これにより,シリコン芯材2の表面へのシリコン結晶の析出が開始される。
【0032】析出シリコンが所定量に達し,シリコン芯材2が所定径まで成長すると,炉内への原料ガスの供給を停止する。また,電極6への通電を停止する。このようにして,円柱形状の多結晶シリコンロッド製品が製造される。図7中の8は原料ガスを炉内に供給するガス供給管,9は反応に使用された後のガスを炉外へ排出するガス排出管である。原料ガス中のクロルシラン類は,SiCl4 (四塩化珪素),SiHCl3 (トリクロロシラン),SiH2 Cl2 (ジクロロシラン),SiH3 Cl(モノクロロシラン)をいい,これらを単独又は混合で使用することができる。」

(ア-5)「【0039】製造された各100本の多結晶シリコンロッドに対して,超音波探傷法により鬆(す)についての欠陥検査を実施した。検出された欠陥数を図9に示す。従来から使用されている断面が四角形のシリコン芯材の場合,多数の欠陥が検出され,3mm以上の比較的大きな欠陥も存在するが,五角形ではそれらが激減した。六角形では欠陥が更に減り,3mm以上の比較的大きな欠陥は検出されなかった。八角形及び円形では欠陥は全く検出されなかった。」

イ 対比・判断
刊行物1の記載事項(ア-1)?(ア-5)を総合すると,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。

「シーメンス法で製造される多結晶シリコンロッド1に生じる鬆と呼ばれる空洞状の欠陥3の検査方法であり,直径130mm×長さ1000mmの円柱形状の多結晶シリコンロッド1に超音波を照射し,その反射により空洞状の欠陥3の位置及び大きさを非破壊的に検査する検査方法。」(以下,「刊行物1発明」という。)

そこで,以下に本願補正発明と刊行物1発明を対比する。

(ア)本願補正発明の「ポリシリコン成形体」とは,発明の詳細な説明における「【0001】本発明は高純度多結晶シリコンの破壊のない材料試験法に関する。【背景技術】【0002】以下にポリシリコンと記載する高純度多結晶シリコンは・・・」,「【0006】本発明の課題は,技術水準に関して記載された欠点を有しない,多結晶シリコン成形体の材料欠陥を破壊なしに試験する方法を提供することである。【課題を解決するための手段】【0007】 前記課題は,多結晶シリコン成形体に超音波を照射し,ポリシリコン成形体が通過後に超音波受信機により超音波を記録し,これによりポリシリコン中の材料の欠陥を検出する方法により解決される。」(下線は当審により付記したもの。以下同様。)の記載から,「多結晶シリコン」よりなる成形体を意味するものと理解される。
さらに,本願補正発明の「ポリシリコン成形体」は,直径を有するさまざまな形状のものを含むものといえ,発明の詳細な説明における「【0036】本発明の方法により円筒形および円錐形のポリシリコン成形体をFZ溶融法のために材料欠陥位置について検査できる。更に棒もしくは棒断片(例えばカットロッド,後で挿入された棒等)をFZまたはCZ溶融法のために材料欠陥位置について検査できる。」から,その一つとして円筒形が想定されていることが把握される。
また,シーメンス法が,シーメンス反応器中で珪素を含有したガスの熱分解およびCVD堆積によって結晶を製造する手法であることは,特開2006-36628号公報における「【0002】従来の高純度多結晶シリコンの製造方法は,シーメンス法およびモノシラン法が主流である。これらの方法は,密閉反応炉の底部に設けたノズルから原料シランガスを,高温の反応炉内に供給し,炉内に設けた固体のシリコンロッド表面(シリコン種棒または芯材)上に原料ガスを熱分解あるいは水素還元して析着・成長させ,多結晶シリコンを製造するものである。使用する原料シランガスは高度に精製した式ClnSiH4-n(n=0から4の整数)で示されるクロロシラン類で,モノシラン,トリクロロシラン,テトラクロロシラン単独あるいはこれらの混合物が使用されているが,シーメンス法ではトリクロロシラン(n=3)が,モノシラン法ではモノシラン(n=0)が主である。これら原料ガスを高温下で熱分解または水素還元して得られるシリコンは,炉内に前もってセットされているシリコン種棒(以下,Si種棒という)と同一組成のため,中心部から外周部まで均質・高純度である。このものは半導体工業に必須な純度を有しているため,半導体級多結晶シリコン(SEG・Si)と呼ばれている。」,特表2003-522716号公報における「【0002】【従来の技術】広く利用されている従来のポリシリコン生産方法の一つに,化学的蒸着(CVD)リアクタ内でポリシリコンを蒸着することによる方法があり,シーメンス法と呼ばれている。この方法では,ポリシリコンは,「スリムロッド」と呼ばれる高純度の細いシリコンロッドにCVDリアクタ内で蒸着される。・・・」の記載から明らかである。
そうすると,刊行物1発明の「シーメンス法で製造される多結晶シリコンロッド」であり「直径130mm×長さ1000mmの円柱形状の多結晶シリコンロッド」と,本願補正発明の「ジーメンス反応器中で珪素含有ガスまたは珪素含有ガス混合物の熱分解およびCVD堆積により製造された,3mm?300mmの直径および10mm?4500mmの測定長さを有するポリシリコン成形体」とは,「ジーメンス反応器中で珪素含有ガスまたは珪素含有ガス混合物の熱分解およびCVD堆積により製造された,130mmの直径および1000mmの測定長さを有するポリシリコン成形体」である点で一致する。

(イ)本願補正発明の「ポリシリコン成形体の材料欠陥」に関して,発明の詳細な説明には「【0008】・・・多結晶シリコン中で超音波が直線的に拡大するが,界面で,材料欠陥(例えば亀裂,空洞,または穴)の場合に見られるように,および多結晶シリコンの移行部分でも空気に反射する。材料欠陥の主要拡大が超音波の拡大方向に垂直にポリシリコン中に延びる場合に,材料欠陥が最もよく位置を測定できる。従って有利に本発明の方法の経過中にすべての面のポリシリコン成形体の放射が行われ,これによりポリシリコン成形体中の検出された材料欠陥の位置の正確な汚染のない,破壊のない確認が可能である。」と説明されている。これを参酌すると,上記「材料欠陥」は,超音波の反射を生じさせる界面を形成するような空洞状の欠陥を意味するものであることが理解され,刊行物1発明の「鬆と呼ばれる空洞状の欠陥」はこれに含まれるものといえる。
また,本願補正発明において,「ポリシリコン成形体」を「破壊」なく「試験」するための具体的な手法は特定されていない。上記の「破壊」についての具体的な説明は,発明の詳細な説明に背景技術として「【0003】・・・このために一般に音響試験とも呼ばれる音響的共鳴分析を使用する。その際ポリシリコン成形体を,例えば軽くハンマーでたたくことにより外部から刺激し,これにより得られる本来の固有の共鳴が当業者にポリシリコン成形体の材料特性に関する表現を与える。・・・共鳴分析の他の欠点はポリシリコン成形体が試験の際に損傷することである。例えば表面の剥離またはポリシリコン成形体の破壊を生じることがある。・・・」と記載されているのみである。そうすると,上記「破壊」とは,ハンマーを用いた接触式の試験方法において生じるものであるが,超音波を用いた非接触式の試験方法においては生じないものであると解釈することができる。
そうすると,刊行物1発明の「超音波」を用いた「多結晶シリコンロッドに生じる鬆と呼ばれる空洞状の欠陥」を「非破壊的に検査する検査方法」と,本願補正発明の「ポリシリコン成形体の材料欠陥を汚染がなく,破壊がなく試験する方法」とは,「ポリシリコン成形体の材料欠陥を破壊がなく試験する方法」である点で共通する。

(ウ)刊行物1発明の「多結晶シリコンロッド1に超音波を照射」する工程と,本願補正発明の「ポリシリコン成形体に超音波を照射し,その際,気泡のない水を使用して超音波の結合を噴射水技術により行い,この場合,水は,7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含」である工程とは,「ポリシリコン成形体に超音波を照射」する工程である点で共通する。

(エ)本願補正発明における,超音波受信器により記録される「ポリシリコン成形体の通過後」の超音波が,ポリシリコン成形体内部で反射された超音波を意味するものであることは,発明の詳細な説明の「【0010】超音波透過法において,多結晶シリコンを超音波送信機と受信機の間に配置する。・・・材料欠陥はポリシリコンへの界面により減少したまたは欠如した信号として示される。欠陥の深部測定はこの方法では不可能である。従って超音波測定のこの変形が原則的に使用可能であるが,本発明により有利に以下に記載されるインパルス・エコー法を使用する。・・・【0011】インパルス・エコー法において,超音波の送信機および受信機として超音波試験ヘッドを使用する。・・・超音波インパルスは超音波試験ヘッドからポリシリコン成形体に放射され,完全にまたは部分的に反射後,同じ超音波ヘッドにより記録され,受信機インパルスに方向転換する。【0012】送信インパルス,後の壁のエコーおよび場合により欠陥エコーが電子的に記録され,その際反射される超音波のそれぞれの経過時間により材料欠陥の深部測定が可能である。」,「【0024】有利に計算装置で反射された超音波の信号評価を行う。・・・」,「【0046】超音波試験ヘッド(12)はインパルス・エコー法で運転する。それぞれの超音波試験ヘッド(12)は・・・インパルスを送信し,反射された信号を受け取る。」との記載から明らかである。
また,刊行物1発明は,反射された超音波を受信器により記録する工程を当然に有するものといえる。
そうすると,刊行物1発明の「その反射により空洞状の欠陥3の位置及び大きさを非破壊的に検査する検査方法」と,本願補正発明の「超音波をポリシリコン成形体の通過後に超音波受信器により記録し,こうしてポリシリコン中の材料欠陥を検出することを特徴とするポリシリコン成形体の材料欠陥を汚染がなく,破壊がなく試験する方法」とは,「超音波をポリシリコン成形体の通過後に超音波受信器により記録し,こうしてポリシリコン中の材料欠陥を検出することを特徴とするポリシリコン成形体の材料欠陥を破壊がなく試験する方法」である点で共通する。

以上より,本願補正発明と刊行物1発明とは,
「ジーメンス反応器中で珪素含有ガスまたは珪素含有ガス混合物の熱分解およびCVD堆積により製造された,130mmの直径および1000mmの測定長さを有するポリシリコン成形体の材料欠陥を破壊がなく試験する方法において,ポリシリコン成形体に超音波を照射し,超音波をポリシリコン成形体の通過後に超音波受信器により記録し,こうしてポリシリコン中の材料欠陥を検出することを特徴とするポリシリコン成形体の材料欠陥を破壊がなく試験する方法」である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)「ポリシリコン成形体」の大きさについて,本願補正発明においては,「3mm?300mmの直径および10mm?4500mmの測定長さ」と数値範囲が特定されるのに対して,刊行物1発明においては「直径130mm×長さ1000mm」とされる点。

(相違点2)「ポリシリコン成形体」を「試験する方法」が,本願補正発明においては「汚染がなく,破壊がなく試験する方法」と特定されるのに対して,刊行物1発明においては「汚染がなく」試験することについては特定されていない点。

(相違点3)「ポリシリコン成形体に超音波を照射」する工程が,本願補正発明においては「気泡のない水を使用して超音波の結合を噴射水技術により行い,この場合,水は,7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含」であるのに対して,刊行物1発明においては,このような特定がされていない点。

以下,上記相違点について検討する。相違点2および3は関連するものであるので,まとめて検討する。

(相違点1について)
刊行物1発明である検査方法は,様々な形状の多結晶シリコンロッドに対して適用可能であるといえ,3mm?300mmの直径および10mm?4500mmの測定長さを有するものに対して適用することも,当業者が適宜行い得ることである。

(相違点2および相違点3について)
刊行物1発明は,被検査体である多結晶シリコンロッド表面における音響結合方法を具体的に特定するものではないが,超音波検査に際して,検査精度の観点および超音波の特性から,被検査体表面における音響結合を考慮することは当業者が当然に行うことである。そして,そのための手法として,噴射水を介して音響結合を図る手法,および,被検査体を水中に浸漬配置して音響結合を図る手法は,下記文献における記載事項のとおり本願優先日前における周知技術である。
特開2005-77196号公報の【請求項1】,【0024】,【0025】,【0026】には「被測定物の寸法測定や内部欠陥の探傷を非接触で行う超音波式測定装置において,被測定物の超音波送受信部に対向した表面に向けて斜めに水を噴射するノズルを備え,噴射水を用いて水柱を形成し,超音波を水柱中に伝播させること,またその際,水柱内に気泡が混入するのを防止すること」が記載され,特開平2-184752公報の特許請求の範囲,3頁右下欄9行?4頁左上欄7行,4頁左下欄4?6行には「細長い丸管または丸棒の如き検査対象物体の溶接部等の超音波検査装置において,探触子側から検査対象の物体の方に超音波伝達液を噴射するノズルを用いることにより,ノズル39のノズル口39aから噴射される水50で探触子24の超音波射出部と探傷する溶接部の間を満たすこと,また噴出する超音波伝達液内に気泡が発生しても,液流で直ちに除去されるので,気泡による探傷検査への妨害も最少にすることができること」が記載され,特公平7-104430号公報報の3欄11?15行,5欄48行?6欄28行には「棒状及び管材等の溶接部超音波探傷検査において,被検材12が配置される内装水槽27に循環水を注水すること,循環水はフィルタ4及び純水製造装置5で一定水準の水に浄化し,また脱気すること」が記載されている。
さらに,上記文献に記載されているとおり,音響結合に用いる水として,気泡がなく,浮遊物を含まないより純水に近いものを選択することは,検査精度の観点から当業者であれば当然に考慮することである。
また,上記純水の純度などの特性は,検査条件に応じて最適化されるものといえるが,純水の特性として「7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗」が格別なものではないことは,例えば,特開平11-128924号公報の【0001】,【0013】,【0014】に「半導体製造などの電子産業分野,医薬用水関連分野などで用いられる,ホウ素濃度を大幅に低減し,比抵抗を高めた純水又は超純水の製造に適した純水製造装置」において「混床型イオン交換装置を通過して得られた純水の水質」として「pH7.02,比抵抗17.86MΩ・cm」のものが例示されるとおりである。

また,本願補正発明において,「ポリシリコン成形体」を「汚染」なく「試験」するための具体的な手法は特定されていない。これに関して,発明の詳細な説明には,背景技術として「【0003】・・・このために一般に音響試験とも呼ばれる音響的共鳴分析を使用する。・・・更にポリシリコン成形体はそれぞれの試験でハンマーでたたくことにより接触し,汚染され,引き続く洗浄工程が強制的に必要である。」,「【0004】ポリシリコンの他の破壊のない試験法は目による検査である。・・・【0005】前記の2つの破壊のない試験法はポリシリコン成形体が試験者により補助手段を使用して方向転換することが該当する。この補助手段,例えば手袋は2つの試験の間に汚れ粒子を負荷することがあり,試験の際にポリシリコン成形体の汚染を生じ,引き続く洗浄工程が強制的に必要になる。」と記載され,背景技術である接触式の検査において,被検査体の汚染が生じ,これに伴い洗浄工程が必要であったことが記載されている。さらに発明の詳細な説明には,本願補正発明の実施に関して,「【0016】結合剤媒体として飲料水を使用した試験の後に,ポリシリコン表面に以下の表面金属値が得られることが試験により示された。・・・【0017】この結果,全部の試験された材料を引き続き更に洗浄しなければならない。」,「【0018】意想外にも,気泡のない,完全脱塩水を使用して超音波結合を行うことができる。結合剤媒体として完全脱塩水(pH7.0以下,抵抗=18メガオーム,浮遊物質不含)を使用した試験の後に,ポリシリコン表面に以下の表面金属値が得られることが試験により示された。・・・【0019】従って完全脱塩水の使用によりポリシリコン成形体の付加的な後洗浄を節約できる。」と記載され,音響結合材として完全脱塩水を用いることにより洗浄が不要となることが記載されている。これらの記載から,非接触式の超音波検査を選択すること,音響結合材として,pH7.0以下,抵抗=18メガオーム,浮遊物質不含と定義される完全脱塩水を選択することにより,「ポリシリコン成形体」を「汚染」なく「試験」することが実現可能であると解釈できるが,これらの選択が当業者にとって容易であるのは,上述のとおりである。
さらに,超音波検査において用いる音響結合材として,検査後の洗浄が不要となるような材を選択することも,特開平5-142215号公報に「【0016】接触媒質としては,研削油又は研削油と共通の成分からなるものを使用すれば,洗浄や分別回収の煩わしさがないので好都合である。」と記載され,特公平1-23731号公報の12欄26?29行に「(3)接触媒質を水に替える 媒質を水に置換えることができれば,探傷後の後処理(洗浄)が不要となるため,工期短縮の効果は大きい。」と記載されるように,格別なことであるとはいえない。
そうすると,刊行物1発明において,音響結合のために周知の手法である噴射水技術を用いるよう想到すること,その際,気泡のない水であり,7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含の水を用いることは,当業者であれば容易になし得ることである。そしてこれにより,多結晶シリコンロッドの非破壊検査が,実質的に汚染のない状態で実現可能となることは明らかである。

(本願補正発明の効果について)
本願補正発明の有する効果は,刊行物1の記載事項および周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお,請求人は審判請求書において,浸漬技術と噴射水技術において得られた測定データを提示して,両者における信号強度値を比較することにより,浸漬技術に比べた噴射水技術の利点を主張している。しかしながら,本願明細書には,「【0021】超音波結合は噴射水技術または浸漬技術で行うことができる。噴射水技術において超音波結合は有利に噴射水を使用して行い,噴射水が超音波ヘッドをポリシリコン成形体の表面と気泡がなく結合する。浸漬技術において全部の試験を水中で行う,超音波ヘッドが試験体の表面と同様に気泡がなく結合する。」として,浸漬技術および噴射水技術のいずれにおいても気泡なく音響結合が可能であることが記載されており,上記測定データや浸漬技術に比べた噴射水技術の利点については記載されていない。そもそも,浸漬技術および噴射水技術のそれぞれにおいて,試験装置の構造上の違いや試験条件に応じて信号強度値に差が生じるのは当然であり,請求人が示した上記測定データのみをもって,噴射水技術の利点を認めることはできない。そして,上記「(相違点2および相違点3について)」で検討したとおり,浸漬技術および噴射水技術はいずれも周知の手法であるのだから,試験条件に応じていずれかの技術を選択することは当業者が適宜行うことにすぎない。
さらに,請求人は審尋に対する回答書において,引用文献に記載された「純水」と本願発明1の「完全脱塩水,即ち7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含である水」とは,技術的意義の上で明確に区別できると主張している。しかしながら上記「(相違点2および相違点3について)」で検討したとおり,音響結合材として試験条件に適した特性のものを選択することは,当業者が適宜行うことであり,より純度の高い水を選択することも,検査精度の観点から当業者であれば当然に行うことである。

(4)小括
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成22年12月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし9に係る発明は,平成22年7月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「ジーメンス反応器中で珪素含有ガスまたは珪素含有ガス混合物の熱分解およびCVD堆積により製造された,3mm?300mmの直径および10mm?4500mmの測定長さを有するポリシリコン成形体の材料欠陥を汚染がなく,破壊がなく試験する方法において,ポリシリコン成形体に超音波を照射し,その際,気泡のない水を使用して超音波の結合を噴射水技術により行い,この場合,水が完全脱塩されており,超音波をポリシリコン成形体の通過後に超音波受信器により記録し,こうしてポリシリコン中の材料欠陥を検出することを特徴とするポリシリコン成形体の材料欠陥を汚染がなく,破壊がなく試験する方法。」

1 刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1の記載事項は,前記「第2 2(3)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2(3)」で検討した本願補正発明における「水」の「完全脱塩」の程度についての「7.0以下のpHおよび0.5メガオーム以上の抵抗を有し,浮遊物質不含であり」との限定事項を省くものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-05 
結審通知日 2011-08-10 
審決日 2011-08-30 
出願番号 特願2007-223588(P2007-223588)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 横井 亜矢子
信田 昌男
発明の名称 ポリシリコン成形体の汚染および破壊のない試験法および欠陥のないポリシリコン成形体  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 星 公弘  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 久野 琢也  
代理人 高橋 佳大  
代理人 篠 良一  
代理人 二宮 浩康  

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