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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1250353 |
審判番号 | 不服2009-6221 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-03-23 |
確定日 | 2011-10-27 |
事件の表示 | 特願2001- 71304「腰椎椎間板ヘルニアの疼痛治療及び/予防剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 9月18日出願公開、特開2002-265356〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成13年3月14日の出願であって,平成21年2月18日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年同月23日),これに対して同年3月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は,平成21年1月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって,次のとおりのものである。 「【請求項1】下記式(2)で表わされるアミノアルコキシビベンジル類,薬学上許容し得るその塩及びそれらの溶媒和物を有効成分とする膨隆型以外の腰椎椎間板ヘルニアの疼痛治療及び/または予防剤。 」(以下,「本願発明」ということがある。) 3.刊行物の記載 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された,本願の出願日前である平成13年2月25日に頒布された刊行物である,金山雅弘他,日本整形外科学会雑誌,Vol.75,No.2,p.S376(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。 (刊1-ア) 「【目的】腰椎椎間板ヘルニアでは脱出した髄核細胞が放出する化学発痛物質が神経根に作用し,座骨神経痛を引き起こすといわれており,セロトニンはこの発痛物質の一つと考えられている。本研究では,腰椎椎間板ヘルニアによる座骨神経痛をもつ症例を対象に,セロトニン(5-HT)拮抗剤(塩酸サルポグレラート)の内服投与による症状の改善度,血中セロトニン濃度と治療効果の関連性について検討することを目的とした。」(本文第1-7行) (刊1-イ) 「【対象・方法】腰椎椎間板ヘルニア症例23例(男17人,女6人,平均年齢40.2歳を対象とした。脊柱管狭窄症の合併,椎間関節の変形・骨棘の形成が著しいもの,糖尿病などの全身代謝疾患,ASOなどの血管病変,腰椎手術歴のあるものは除外した。)(第8-12行) (刊1-ウ) 「塩酸サルポグレラート(300mg/day)を1週間内服投与した。臨床効果は,投与前及び投与後の下肢痛・しびれ,腰痛について,Visual Analog Scaleを用いて行った。」 第13-16行) (刊1-エ) 「【結果】(1)セロトニン拮抗剤の治療効果:VAS (0-100)による評価では,下肢痛は投与前60±30が投与後28±24となり,下肢しびれは投与前45±28が投与後26±23となった。腰痛も投与前45±26が投与後23±23となり,いずれも有意な改善をみた。」(第17-21行) (刊1-オ) 「(2)血中セロトニン濃度と治療効果の関係:VASが投与前の50%以下になったものを著効群,・・・無効群に比べ,著効群では血中セロトニン濃度が有意に低かった。」(第21-26行) 4.引用発明の認定 刊行物の記載事項について検討する。 摘示事項(刊1-ア)には「腰椎椎間板ヘルニアによる座骨神経痛をもつ症例を対象に,セロトニン(5-HT)拮抗剤(塩酸サルポグレラート)の内服投与」と記載され,摘示事項(刊1-ウ)にも「「塩酸サルポグレラート(300mg/day)を1週間内服投与した。臨床効果は,投与前及び投与後の下肢痛・しびれ,腰痛について」と記載されている。さらに,摘示事項(刊1-エ)には「VAS (0-100)による評価では,下肢痛は投与前60±30が投与後28±24となり,下肢しびれは投与前45±28が投与後26±23となった。腰痛も投与前45±26が投与後23±23となり,いずれも有意な改善をみた。」と記載されている。 また,上記摘示事項(刊1-イ)には,腰椎椎間板ヘルニアの患者が被験者である旨は記載されているものの,具体的にどのような型の椎間板ヘルニアに罹患している患者であったかについては明記されていない。 してみると,刊行物1には,具体的な腰椎椎間板ヘルニアの型は不明であるものの,「塩酸サルポグレラートを有効成分とする腰椎椎間板ヘルニアの下肢痛・しびれ,腰痛の治療剤」(以下,「引用発明」ということがある。)が記載されているといえる。 5.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 i)本願発明において,有効成分は「下記式(2)で表されるアミノアルコキシビベンジル類,薬学上許容し得るその塩」とされているが,明細書【0026】,【0027】及び【0039】の記載からみて,「塩酸サルポグレラート」が本願発明の有効成分に対応するものであることは明らかであり,また,引用発明の有効成分も「塩酸サルポグレラート」であるから,本願発明と引用発明とは有効成分に差異はない。 ii)刊行物1に記載されている「腰椎椎間板ヘルニアの下肢痛・しびれ,腰痛」の治療は,本願発明の「腰椎椎間板ヘルニアの疼痛治療」に相当する。 よって,本願発明と刊行物1に記載の発明とは 「下記(2)で表されるアミノアルコキシビベンジル類,薬学上許容し得るその塩を有効成分とする腰椎椎間板ヘルニアの疼痛治療剤」である点において一致し,以下の点において相違する。 (相違点) 本願発明は「膨隆型以外の」腰椎椎間板ヘルニアを適用対象とするものであるのに対し,刊行物1に記載された発明においては「膨隆型以外の」腰椎椎間板ヘルニアを対象とすることが明記されていない点。 6.相違点の検討について 上記摘示事項(刊1-エ)にあるように,刊行物1には腰椎椎間板ヘルニアにおける下肢痛等を改善することが具体的に開示されているうえ,特に特定の類型の腰椎椎間板ヘルニアにおける下肢痛等にのみ有効であることが記載されているわけではない。 そうすると,刊行物1に接した当業者であれば,塩酸サルポグレラートが膨隆型以外の脱出型の腰椎椎間板ヘルニアにおける下肢痛等に対して有効であることは当然期待するものであり,本願出願時において,仮に,腰椎椎間板ヘルニアの類型別に痛みを惹起する機序が異なり,薬剤の有効性が異なることが知られていなかったのであれば,塩酸サルポグレラートの効果が特定の型の腰椎椎間板ヘルニアに限られないと考えるのが自然というべきであり,また,逆に,腰椎椎間板ヘルニアの痛みの機序により薬剤の有効性が異なることが知られていたとしても,引用発明で示された内容では,本願出願時の当業者にとって,塩酸サルポグレラートが膨隆型以外(脱出型等)の腰椎椎間板ヘルニアにおける下肢痛に対して有効ではないと,当然に理解するものであるといった事情があるのならばともかく,そのような事情も見当たらないことから,腰椎椎間板ヘルニアの型について特定されていない引用発明に係る治療剤を,「膨隆型以外」の腰椎椎間板ヘルニアに対しても適用してみることが,当業者にとって格別の困難が伴うものであるとすることができない。 したがって,刊行物1の記載に基づいて,膨隆型以外の腰椎椎間板ヘルニアに対して具体的にその薬効を確認して,疼痛の治療・予防に用いることは,当業者であれば容易になし得ることである。 なお,次のような観点からも,上記相違点については,刊行物1の記載に基づいて当業者が容易になし得たものといえる。 上記摘示事項(刊1-ア)には「腰椎椎間板ヘルニアでは脱出した髄核細胞が放出する化学発痛物質が神経根に作用し,座骨神経痛を引き起こすといわれており,セロトニンはこの発痛物質の一つと考えられている」こと,「本研究では,腰椎椎間板ヘルニアによる座骨神経痛をもつ症例を対象に,セロトニン(5-HT)拮抗剤(塩酸サルポグレラート)の内服投与による症状の改善度,血中セロトニン濃度と治療効果の関連性について検討することを目的とした。」と記載されている。 さらに,上記摘示事項(刊1-オ)には,塩酸サルポグレラートの投与の結果,下肢痛等の症状に対して著効を示した群では血中セロトニン濃度が有意に低かったことが記載されている。 すなわち,刊行物1には,腰椎椎間板ヘルニアでは「脱出した髄核細胞が放出する化学発痛物質」の一つと考えられる「セロトニン」が,神経根に作用して座骨神経痛を引き起こすとの推測の下,セロトニン(5-HT)拮抗剤である塩酸サルポグレラートを投与した際の腰椎椎間板ヘルニア症状の改善度と血中セロトニン濃度との関連性を検討した結果,腰椎椎間板ヘルニアの症状に対して著効を示した群においては血中セロトニン濃度が有意に低かったことが記載されている。 ところで,本願出願時において,腰椎椎間板ヘルニアには,髄核細胞の状況に応じて,大別して「脱出型/突出型」と「膨隆型/非脱出型」との二つのタイプがあることは,当業者にとって周知の事項であった(例えば,請求人が審判請求の理由の補正書とともに提出した参考文献1(近藤泰児,「腰部椎間板ヘルニアの診断と治療」,リウマチ科,23巻4号:324-334頁,2000年発行)のほか,特開平1-70041号公報の第3頁左上欄,国際公開第98/17190号の明細書第2?3頁など参照)。 そうすると,このような技術常識を踏まえた当業者ならば,刊行物1における冒頭部の「…脱出した髄核細胞が…」なる記載を読めば,該刊行物1に記載の試験研究は,「脱出型/突出型」の腰椎椎間板ヘルニアに対して関心が向けられたことに起因するものであって,「膨隆型/非脱出型」に対するものではないと容易に理解するといえるから,このような刊行物1の記載に接した当業者であれば,引用発明に係る治療剤を「膨隆型以外の」腰椎椎間板ヘルニアに対して適用することはむしろ当然になし得たものというべきものである。 したがって,このような観点からも,上記相違点については,刊行物1の記載に基づいて当業者が容易になし得たものである。 そして,本願発明の効果について検討するに,刊行物1記載の発明の効果については,上記摘示事項(刊1-ウ)に「VAS (0-100)による評価では,下肢痛は投与前60±30が投与後28±24となり,下肢しびれは投与前45±28が投与後26±23となった。腰痛も投与前45±26が投与後23±23となり,いずれも有意な改善をみた。」と記載され,摘示事項(刊1-オ)には「VASが投与前の50%以下になったものを著効群」と記載されている。 一方,本願明細書【0040】には 「(結果) (1)塩酸サルポグレラートの治療効果:VAS(0-100mm)による評価では,下肢痛は投与前58±31mmが投与後31±25mmとなり,下肢しびれは投与前45±28mmが投与後31±26mmとなった。腰痛も投与前43±26mmが投与後24±22mmとなり,いずれも有意な改善をみた(p<0.05,paired t-test,図1参照)。 (2)ヘルニアのタイプと治療効果:手術治療を行った19例で,術中所見からヘルニアのタイプを膨隆・突出・脱出・遊離型に分類した。自覚症状が投与前の50%以下に改善したものを著効群,50?75%になったものを有効群,75%以上だったものを無効群とした。膨隆型(n=5)では著効例はなく,有効群が1例,無効群が4例であった。一方,突出・脱出・遊離型(n=14)では著効群が9例,有効群が3例,無効群が2例であった(p<0.05,Chi-squaretest,表-2参照)。」と記載されている。 両者を比較するに,下肢痛・下肢しびれ及び腰痛に関するVASの評価については両者ともほぼ同程度の数値を示しているうえ,摘示事項(刊1-オ)の記載からも明らかなように,刊行物1記載の発明においても,本願発明と同様にVASが投与前の50%以下になる著効例があることが示されている。 すなわち,本願発明と刊行物1記載の発明との効果を対比しても,両者の治療効果の程度に特段の差異は認められない。 よって,膨隆型の腰椎椎間板ヘルニアにおける疼痛には塩酸サルポグレラートが有効でなかったことが本願明細書において明らかになったとしても,上述のように膨隆型以外の腰椎椎間板ヘルニアに塩酸サルポグレラートを適用したことによる治療効果は,刊行物1に記載の発明と差異が認められないのであるから,本願発明の効果が刊行物1から当業者が予測し得ないほど格別顕著なものであるということはできない。 また,審判請求人は,本願発明は非ステロイド系抗炎症剤による治療でも効果が見られなかった症例に対しても有効なものであると主張するが,刊行物1に記載されるように,腰椎椎間板ヘルニアに塩酸サルポグレラートが有効であること自体はすでに公知であるのだから,請求人主張の効果を引用文献1から予測し得ない本願発明の効果として参酌することはできない。 以上のとおりであるから,本願発明は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.むすび 以上のとおり,本願請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないので,その他の請求項に論及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-29 |
結審通知日 | 2011-08-30 |
審決日 | 2011-09-12 |
出願番号 | 特願2001-71304(P2001-71304) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平林 由利子 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
内藤 伸一 田名部 拓也 |
発明の名称 | 腰椎椎間板ヘルニアの疼痛治療及び/予防剤 |
代理人 | 山本 健二 |
代理人 | 小池 順造 |
代理人 | 村田 美由紀 |
代理人 | 高島 一 |
代理人 | 當麻 博文 |
代理人 | 鎌田 光宜 |
代理人 | 田村 弥栄子 |
代理人 | 土井 京子 |