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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H |
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管理番号 | 1250390 |
審判番号 | 不服2009-22439 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-11-17 |
確定日 | 2012-01-11 |
事件の表示 | 特願2003-278833「シード層を有する共振器」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 64786〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成15年7月24日(パリ条約による優先権主張2002年7月30日、米国)の出願であって、平成21年1月16日付けで拒絶理由通知がなされ、同年6月22日付けで手続補正がなされたが、同年7月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成21年6月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。) 「基板上に製造された共振器であって、 シード層の部分と、 前記シード層上の底部電極と、 前記底部電極上の圧電部分と、 前記圧電部分上の頂部電極と、 前記頂部電極を覆う不活性材料からなる保護層と、 を備える共振器。」 3.引用例 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-76824号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 A.「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は圧電薄膜共振子、フィルタおよび電子機器に関し、特にたとえば携帯電話や通信機器などの高周波用の電子機器に用いられるフィルタや共振器に用いられるダイヤフラム型の圧電薄膜共振子などに関する。」 B.「【0011】 【発明の実施の形態】 【実施例1】図1はこの発明にかかる圧電薄膜共振子の一例を示す断面図解図である。図1に示す圧電薄膜共振子10はSi基板12を含む。 【0012】Si基板12の上には、薄膜としてのAlNを主成分とするAlN圧電薄膜14、下層電極16a、圧電薄膜としてのAlNを主成分とするAlN圧電薄膜18および上層電極16bが、その順番に形成される。この場合、AlN圧電薄膜14は、Si基板12の上面全面に形成される。下層電極16aは、AlN圧電薄膜14の上面において中央部を含む部分に形成される。AlN圧電薄膜18は、AlN圧電薄膜14の中央部を含む部分に対応して、AlN圧電薄膜14および下層電極16aの上面に形成される。上層電極16bは、AlN圧電薄膜14の中央部を含む部分に対応して、AlN圧電薄膜18の上面に形成される。また、この場合、AlN圧電薄膜14および18は、スパッタリングやCVDなどの成膜法で形成される。下層電極16aおよび上層電極16bは、スパッタリングや蒸着などの成膜法で形成される。 【0013】Si基板12には、AlN圧電薄膜14の中央部に対応する部分を裏面から異方性エッチングやRIE(Reactive Ion Etching)などの手段で除去することによって、空洞20が形成される。 【0014】図1に示す圧電薄膜共振子10では、図4に示す従来の圧電薄膜共振子6と比べて、SiO_(2) 薄膜7がAlN圧電薄膜14に置き換えられているので、音速の異なる材料の境界での反射がほとんどなくなり、良好な共振特性が得られる。また、図1示す圧電薄膜共振子10では、図4に示す従来の圧電薄膜共振子6と比べて、ヤング率の温度係数がAlNと同符号でAlNより大きい値を持つSiO_(2) 薄膜7がAlN圧電薄膜14に置き換えられているので、良好な共振周波数の温度特性が得られる。さらに、図1に示す圧電薄膜共振子10では、図4に示す従来の圧電薄膜共振子6と比べて、SiO_(2) 中よりAlN中のほうが音速が大きいため、同一周波数を得る場合に、SiO_(2) 薄膜7より膜厚の厚いAlN圧電薄膜14を用いることができ、機械的強度を増すことができ、素子の割れなどによる不良を低減することができる。 【0015】 【実施例2】実施例2では、実施例1と比べて、たとえばArと窒素との混合ガスを用いるスパッタリング法によって、AlN圧電薄膜14および18が、内部応力が零応力程度の薄膜に形成される。この場合、たとえば0.5Pa未満の低ガス圧領域でAlN圧電薄膜を形成すると圧縮性の強い応力が発生するが、0.5Pa?1.2Paの高ガス圧領域でAlN圧電薄膜を形成すると零応力程度の薄膜が得られる。 【0016】実施例2では、実施例1の作用効果を奏するとともに、内部応力の強いSiO_(2) 薄膜を有することで生じていたSi基板の反りから発生する素子の割れなどによる不良を低減することができる。 【0017】 【実施例3】実施例3では、実施例2と比べて、たとえばArと窒素との混合ガスを用いるスパッタリング法によって、AlN圧電薄膜14が、内部応力が零応力程度でかつSi基板12の厚み方向にC軸配向した薄膜に形成される。この場合、たとえば窒素ガスの流量比を20%?30%程度にすることによって、零応力程度でC軸配向した薄膜を形成することができる。また、下層電極16aは、たとえばAuやAlなどSi基板12の厚み方向に(111)優先配向しやすい面心立方構造を有する金属材料でたとえば蒸着法などの方法で形成される。 【0018】実施例3では、実施例2の作用効果を奏するとともに、次の作用効果も奏する。AlN圧電薄膜18のC軸配向性は、下層電極16aの配向性に大きく影響される。実施例3では、AlN圧電薄膜14をC軸配向した薄膜とし、下層電極16aに(111)優先配向しやすくAlNのC面とマッチングのよい金属材料を用いることによって、良好な(111)配向性を示す下層電極16aが得られ、下層電極16a上に形成されるAlN圧電薄膜18のC軸配向性も向上するため、良好な圧電性が生じ、さらに良好な共振特性が得られる。」 ここで、段落【0017】,段落【0018】及び図1に記載されたAlN圧電薄膜14は、配向させた薄膜として形成され、それによって、良好な配向性を有する下層電極16aが得られ、さらにAlN圧電薄膜18の配向性も向上させるという効果が得られるものであるから、当該AlN圧電薄膜14は、一般的に言うところの「シード層」に相当するものであると認められる。 よって、上記A,Bの記載及び関連する図面を参照すると、引用例には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例記載の発明」という。) 「基板上に製造された共振子であって、 シード層の部分と、 前記シード層上の下層電極と、 前記下層電極上の圧電薄膜と、 前記圧電薄膜上の上層電極と、 を備える共振子。」 4.対比 本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明における「共振子」,「下層電極」,「圧電薄膜」,「上層電極」は、それぞれ、本願発明における「共振器」,「底部電極」,「圧電部分」,「頂部電極」に相当する。 よって、本願発明と引用例記載の発明とは、次の点で一致し、また、相違するものと認められる。 (一致点) 本願発明と引用例記載の発明とは、ともに、 「基板上に製造された共振器であって、 シード層の部分と、 前記シード層上の底部電極と、 前記底部電極上の圧電部分と、 前記圧電部分上の頂部電極と、 を備える共振器。」 である点。 (相違点) 本願発明は、「頂部電極を覆う不活性材料からなる保護層」を備えるものであるのに対し、引用例記載の発明は、そのようなものではない点。 5.判断 そこで、上記相違点について検討する。 (相違点について) 頂部電極を覆う不活性材料からなる保護層を備える共振器は、例えば、特開平1-157108号公報の第1図及びその説明や、特開昭63-187714号公報の第1図及びその説明等に見られるように、周知技術にすぎない。 したがって、引用例記載の発明を、頂部電極を覆う不活性材料からなる保護層を備えるものとすることは、当業者が適宜実施できたことである。 なお、請求人は、平成22年4月7日付けの手続補正書にて、引用例記載のAlN圧電薄膜14は、この引用例の段落【0014】における「図1に示す圧電薄膜共振子10では、図4に示す従来の圧電薄膜共振子6と比べて、SiO_(2) 中よりAlN中のほうが音速が大きいため、同一周波数を得る場合に、SiO_(2) 薄膜7より膜厚の厚いAlN圧電薄膜14を用いることができ、機械的強度を増すことができ、素子の割れなどによる不良を低減することができる。」という記載事項から明らかなように、機械的強度を増すことを目的とするものであるから、本願発明のシード層には該当しないものと解される旨を主張している。しかし、AlN圧電薄膜14に機械的強度を増す作用があることは、当該AlN圧電薄膜14がシード層に相当するか否かを考える材料にはならないし、引用例記載の発明におけるAlN圧電薄膜14は、その上に形成される薄膜の配向性を制御するものでもあり、このようなものを一般的にシード層と言うから、この主張は採用されない。 (本願発明の作用効果について) そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明及び周知技術から当業者が容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-10 |
結審通知日 | 2011-08-16 |
審決日 | 2011-08-29 |
出願番号 | 特願2003-278833(P2003-278833) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H03H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 和志 |
特許庁審判長 |
長島 孝志 |
特許庁審判官 |
小曳 満昭 甲斐 哲雄 |
発明の名称 | シード層を有する共振器 |
代理人 | 森本 聡二 |
代理人 | 有原 幸一 |
代理人 | 溝部 孝彦 |
代理人 | 河村 英文 |
代理人 | 深川 英里 |
代理人 | 西山 清春 |
代理人 | 松島 鉄男 |
代理人 | 古谷 聡 |
代理人 | 中村 綾子 |
代理人 | 吉田 尚美 |
代理人 | 奥山 尚一 |