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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C21C |
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管理番号 | 1250395 |
審判番号 | 不服2010-9097 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-04-28 |
確定日 | 2012-01-11 |
事件の表示 | 特願2004-251514「減圧下における溶融金属の精錬方法及び精錬用上吹きランス」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日出願公開、特開2006- 70285〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年8月31日の出願であって、平成21年7月31日付けで手続補正がなされ、平成22年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年4月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成22年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定 【補正の却下の決定の結論】 平成22年4月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 【決定の理由】 [1]手続補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲について、次の(1-1)とあるのを次の(1-2)とする補正事項を有するものである。 (1-1) 「【請求項1】 その先端にラバールノズルが設置された上吹きランスを用い、大気圧よりも低い圧力の雰囲気下において溶融金属に向けて酸素含有ガスを吹き付けて溶融金属を酸化精錬するに際し、前記上吹きランスとして、ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)が下記の(1)式を満足するラバールノズルが設置された上吹きランスを用い、雰囲気圧力が40kPa以下13.3kPa以上のときに前記酸化精錬を開始し、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えないことを特徴とする、減圧下における溶融金属の精錬方法。 De/Dt<2.5……(1) 【請求項2】 前記上吹きランスは複数個のラバールノズルを有し、そのうちの少なくとも1つのラバールノズルが前記(1)式を満足することを特徴とする、請求項1に記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項3】 前記溶融金属は溶鋼であり、前記酸化精錬は溶鋼中の炭素を除去するための脱炭精錬であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項4】 前記酸化精錬の開始時における溶鋼中炭素濃度は0.05質量%以上であることを特徴とする、請求項3に記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項5】 前記酸化精錬は、雰囲気圧力が13.3kPa以下のときに精錬を終了することを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項6】 その先端にラバールノズルが設置された、当該上吹きランスからの酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が40kPa以下13.3kPa以上の雰囲気下において溶融金属に向けて酸素含有ガスを吹き付けて溶融金属の酸化精錬を開始し、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えない酸化精錬を行うための精錬用上吹きランスであって、前記ラバールノズルは、ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)が下記の(1)式を満足すること特徴とする、減圧下における溶融金属の精錬用上吹きランス。 De/Dt<2.5……(1) 【請求項7】 前記溶融金属は溶鋼であり、前記酸化精錬は溶鋼中の炭素を除去するための脱炭精錬であることを特徴とする、請求項6に記載の減圧下における溶融金属の精錬用上吹きランス。」 (1-2) 「 【請求項1】 その先端にラバールノズルが設置された上吹きランスを用い、大気圧よりも低い圧力の雰囲気下において溶融金属に向けて酸素含有ガスを吹き付けて溶融金属を酸化精錬するに際し、前記上吹きランスとして、ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)が下記の(1)式に示すように2.0未満であるラバールノズルが設置された上吹きランスを用い、雰囲気圧力が40kPa以下13.3kPa以上のときに前記酸化精錬を開始し、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えないことを特徴とする、減圧下における溶融金属の精錬方法。 De/Dt<2.0……(1) 【請求項2】 前記上吹きランスは複数個のラバールノズルを有し、そのうちの少なくとも1つのラバールノズルが前記(1)式を満足することを特徴とする、請求項1に記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項3】 前記溶融金属は溶鋼であり、前記酸化精錬は溶鋼中の炭素を除去するための脱炭精錬であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項4】 前記酸化精錬の開始時における溶鋼中炭素濃度は0.05質量%以上であることを特徴とする、請求項3に記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項5】 前記酸化精錬は、雰囲気圧力が13.3kPa以下のときに精錬を終了することを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の減圧下における溶融金属の精錬方法。 【請求項6】 その先端にラバールノズルが設置された、当該上吹きランスからの酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が40kPa以下13.3kPa以上の雰囲気下において溶融金属に向けて酸素含有ガスを吹き付けて溶融金属の酸化精錬を開始し、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えない酸化精錬を行うための精錬用上吹きランスであって、前記ラバールノズルは、ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)が下記の(1)式に示すように2.0未満であることを特徴とする、減圧下における溶融金属の精錬用上吹きランス。 De/Dt<2.0……(1) 【請求項7】 前記溶融金属は溶鋼であり、前記酸化精錬は溶鋼中の炭素を除去するための脱炭精錬であることを特徴とする、請求項6に記載の減圧下における溶融金属の精錬用上吹きランス。」 [2]本件補正の適否 上記補正事項は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?7について、「ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)」が、2.5未満であったのを、補正後は2.0未満と限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。 そこで、補正後の前記請求項1?7に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」?「本願補正発明7」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 <独立特許要件についての検討> [2-1]刊行物及び刊行物の主な記載事項 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された「特開平6-340912号公報」(以下、「刊行物1」という。)、には、次の事項が記載されている。 (1a)「【0001】 【産業上の利用分野】この発明は、ステンレス鋼のVOD精錬における酸素吹精方法に関し、特に脱炭酸素効率を低下させることなく、スプラッシュの発生を抑制し、生産性、経済性を高めるステンレス鋼のVOD精錬の酸素吹精方法に関する。」 (1b)「【0002】 【従来の技術】低炭素ステンレス鋼を溶製する方法の一つとして、電気炉でC 0.3?0.6 重量%まで予備脱炭し、Cr還元後除滓した粗ステンレス溶鋼に酸素を上吹きして真空脱炭するVOD精錬が行われる。」 (1c)「【0013】本発明の実施に用いる多孔ノズルランスは、転炉で常用されているのと類似のランスでよい。すなわち、ノズル孔数nは3または4、ランス中心軸とノズル中心軸とがなすノズル傾斜角度θは6°?7°である。また各ノズルはラバール型ノズルであり、ノズル出口マッハ数M2 は2?3である。」 (1d)「【0017】【表1】 ランスNo. 1 2 3 4 ノズルスロート径(mm) ・・ ・・ 14 ・・ ノズル出口径(mm) ・・ ・・ 26 ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 酸素流量(Nm^(3)/hr) 2000 」 (1e)「【0026】 【実施例】・・・多孔ノズルランスは前述の表1に示すランス No.3の14mmφ4孔ノズルランスを用いた。なお、比較例は表1に示す26mmφ単孔ノズルランスを用いた。 【0027】粗ステンレス溶鋼75tを受鋼し、流量2000Nm^(3)/hrで酸素を溶鋼面に上吹きし、真空容器内の真空度を 100torrに保持して真空脱炭を行った。」 [2-2]刊行物1に記載された発明 ア)刊行物1の(1b)の「低炭素ステンレス鋼を溶製する方法の一つとして、電気炉でC 0.3?0.6 重量%まで予備脱炭し、Cr還元後除滓した粗ステンレス溶鋼に酸素を上吹きして真空脱炭するVOD精錬が行われる。」との記載、(1a)の「この発明は、・・・特に脱炭酸素効率を低下させることなく、スプラッシュの発生を抑制し、生産性、経済性を高めるステンレス鋼のVOD精錬の酸素吹精方法に関する。」との記載、及び、(1c)の「本発明の実施に用いる多孔ノズルランスは、転炉で常用されているのと類似のランスでよい。・・・各ノズルはラバール型ノズルであり、ノズル出口マッハ数M2 は2?3である。」との記載によれば、刊行物1には、脱炭酸素効率を低下させることなく、スプラッシュの発生を抑制し、生産性、経済性を高めるステンレス鋼のVOD精錬の酸素吹精方法に用いるノズルランスとして、「先端にラバール型ノズルを有し、溶鋼に酸素を上吹きして真空脱炭精錬を行うための溶鋼の真空脱炭精錬用上吹きノズルランス。」が、記載されているといえる。 そして、(1d)の「ランスNo.3 ノズルスロート径(mm);14 ノズル出口径(mm);26 ・・・ 酸素流量(Nm^(3)/hr);2000」との記載、及び、(1e)の「【実施例】・・・多孔ノズルランスは前述の表1に示すランスNo.3の14mmφ4孔ノズルランスを用いた。・・・。粗ステンレス溶鋼75tを受鋼し、流量2000Nm^(3)/hrで酸素を溶鋼面に上吹きし、真空容器内の真空度を100torrに保持して真空脱炭を行った。」との記載によれば、前記「溶鋼の真空脱炭精錬用上吹きノズルランス」は、「溶鋼に酸素を上吹きする真空脱炭精錬中の真空容器内の真空度を100torrに保持して用いるノズルランスであり、ノズルの出口径が26mm、スロート径が14mmである、溶鋼の真空脱炭精錬用上吹きノズルランス。」であるといえる。 そうすると、刊行物1には、溶鋼の真空脱炭精錬用上吹きノズルランスとして、次の発明が記載されているといえる。 「先端にラバール型ノズルを有し、溶鋼に酸素を上吹きする真空脱炭精錬中の真空容器内の真空度を100torrに保持して用いる溶鋼に酸素を上吹きして真空脱炭精錬を行うための溶鋼の真空脱炭精錬用上吹きノズルランスであって、ラバール型ノズルの出口径が26mm、スロート径が14mmである、溶鋼の真空脱炭精錬用上吹きノズルランス。」(以下、「刊行物1発明1」という。) イ)また、刊行物1の前記(1a)?(1d)の記載によれば、刊行物1には、前記刊行物1発明1に係る、先端にラバール型ノズル上吹きノズルランスを用い、溶鋼の真空脱炭精錬中の真空容器内の真空度を100torrに保持して溶鋼の真空脱炭精錬を行うことが記載されているから、刊行物1には、溶鋼の真空脱炭精錬方法として、次の発明が記載されているといえる。 「先端にラバール型ノズルを有する上吹きランスを用い、溶鋼に酸素を上吹きして真空脱炭精錬するに際し、前記上吹きランスとして、ラバール型ノズルの出口径が26mm、スロート径が14mmであるラバール型ノズルを有する上吹きランスを用い、溶鋼に酸素を上吹きする真空脱炭精錬中の真空容器内の真空度を100torrに保持する、溶鋼の真空脱炭精錬方法。」(以下、「刊行物1発明2」という。) [2-3]本願補正発明についての当審の判断 (1)本願補正発明6と刊行物1発明1との対比・判断 本願補正発明6と刊行物1発明1とを対比すると、刊行物1発明1の「ラバール型ノズル」及び「酸素」は、本願補正発明6の「ラバールノズル」及び「酸素含有ガス」に相当する。 また、本願明細書の「【0020】第7の発明に係る減圧下における溶融金属の精錬用上吹きランスは、第6の発明において、前記溶融金属は溶鋼であり、前記酸化精錬は溶鋼中の炭素を除去するための脱炭精錬である」との記載によれば、刊行物1発明1の「溶鋼」、「真空」、「真空度」及び「脱炭精錬」は、本願補正発明6の「溶融金属」、「減圧下」、「雰囲気圧力」及び「酸化精錬」または「精錬」に相当し、刊行物1発明1の「溶鋼の真空脱炭精錬用」は、本願補正発明6の「減圧下における溶融金属の精錬用」に相当する。 そうすると、本願補正発明6と刊行物1発明1とは、 「その先端にラバールノズルが設置された、溶融金属に向けて酸素含有ガスを吹き付けて溶融金属の酸化精錬を行うための、減圧下における溶融金属の精錬用上吹きランス。」である点において一致し、以下の点において一応相違する。 相違点1;本願補正発明6は、ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)が2.0未満であるのに対し、刊行物1発明1は、ラバール型ノズルの出口径が26mm、スロート径が14mmである点。 相違点2;本願補正発明6は、上吹きランスからの酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が40kPa以下13.3kPa以上の雰囲気下であり、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えないのに対し、刊行物1発明1は、溶鋼に酸素を上吹きする真空脱炭精錬中の真空容器内の真空度を100torrに保持する点。 以下、上記相違点1、2について検討する。 相違点1について 刊行物1発明1は、ラバール型ノズルの出口径が26mm、スロート径が14mmであるから、そのノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)は、1.86となり、ノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)を2.0未満とする本願補正発明6と一致する。 したがって、相違点1は、実質的なものとすることはできない。 相違点2について 刊行物1発明1において、「溶鋼に酸素を上吹きする真空脱炭精錬中の真空容器内の真空度を100torrに保持して用いる」とは、酸素含有ガスの吹き付け開始時から酸化精錬終了時に至るまでその雰囲気圧力を100torrとすることをいうものであり、酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が100torrであり、酸化精錬終了時の雰囲気圧力も100torrであって、酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えないものであるといえる。 これに対し、本願補正発明6は、酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が40kPa以下13.3kPa以上の雰囲気下とするものであるから、酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が13.3kPaであることを含み、また、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えないというものであるから、酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が13.3kPaであった場合に、精錬終了時に13.3kPaを超えない、すなわち、13.3kPaである場合を含むものである。 さらに、本願補正発明6が、かかる雰囲気条件を含むことは、本願明細書の発明の詳細な説明の【0036】の「酸素ガスの上吹きによる溶鋼脱炭時の鉄飛散は、雰囲気圧力が100torr(13.3kPa)より低くなると増大し始め、70torr(9.3kPa)以下で激しくなることが分かった。この結果から、鉄飛散の観点からは酸素吹錬の初期から中期までの雰囲気圧力が100torr(13.3kPa)以上の領域が好ましく、鉄飛散を低減するためには、酸素吹錬の中期から末期までの雰囲気圧力が低い領域において動圧を下げる必要のあることが分かった。」との記載、及び、【0037】の「これらをまとめると、脱炭効率を最適化するためには、100torr(13.3kPa)以上の雰囲気圧力の高い側で酸素ジェットの動圧を高め、地金付着を抑制するためには、100torr(13.3kPa)以下の雰囲気圧力の低い側で酸素ジェットの動圧を下げる必要のあることが分かった。」との記載が、少なくとも精錬終了時に雰囲気圧力を100torr(13.3kPa)とすることを除外していないことからも明らかである。 そして、前記【0036】、【0037】の記載によれば、本願補正発明6でいう、13.3kPaとは、100torrをいうのであるから、刊行物1発明1における酸化精錬開始時、及び、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は、本願補正発明6の酸化精錬開始時、及び、酸化精錬終了時の雰囲気圧力に一致するものといえる。 したがって、相違点2は、実質的なものとすることはできない。 したがって、本願補正発明6は、刊行物1発明1であるから、特許法第29条1項3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (2)本願補正発明1と刊行物1発明2との対比・判断 本願補正発明1と刊行物1発明2とを対比すると、刊行物1発明2の「ラバール型ノズル」、「酸素」、「溶鋼」、「真空」、「真空度」及び「脱炭精錬」は、前記「(1)本願補正発明6と刊行物1発明1との対比・判断」において記載したとおり、「ラバールノズル」、「酸素含有ガス」、「溶融金属」、「減圧下」、「雰囲気圧力」及び「酸化精錬」または「精錬」に相当し、刊行物1発明2の「溶鋼の真空脱炭精錬方法」は、本願補正発明6の「減圧下における溶融金属の精錬方法」に相当する。 そうすると、本願補正発明1と刊行物1発明2とは、 「その先端にラバールノズルが設置された上吹きランスを用い、大気圧よりも低い圧力の雰囲気下において溶融金属に向けて酸素含有ガスを吹き付けて溶融金属を酸化精錬する、減圧下における溶融金属の精錬方法。」である点において一致し、以下の点において一応相違する。 相違点3;本願補正発明1は、ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)が2.0未満であるのに対し、刊行物1発明2は、ラバール型ノズルの出口径が26mm、スロート径が14mmである点。 相違点4;本願補正発明1は、上吹きランスからの酸素含有ガスの吹き付け開始時の雰囲気圧力が40kPa以下13.3kPa以上のときに酸化精錬を開始し、酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気圧力を超えないのに対し、刊行物1発明1は、溶鋼に酸素を上吹きする真空脱炭精錬中の真空容器内の真空度を100torrに保持する点。 しかしながら、上記相違点3、4は、それぞれ、前記「(1)本願補正発明6と刊行物1発明1との対比・判断」において記載した、相違点1、2と同内容のものであるから、 いずれの相違点も前記「(1)本願補正発明6と刊行物1発明1との対比・判断」において記載したとおり、実質的な相違点ではない。 したがって、本願補正発明1は、刊行物1発明2であるから、特許法第29条1項3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 [2-4]むすび 以上のとおり、前記補正事項を有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [2-5]請求人の主張について 請求人は、意見書、審判請求書、回答書において、発明の詳細な説明の【0007】の「場合によっては100torr(13.3kPa)を越えるような比較的高い圧力の雰囲気で脱炭処理を開始し、10torr(1.3kPa)近傍の低い雰囲気圧力で脱炭処理を終了することも発生し、脱炭処理中における雰囲気の圧力変動幅は極めて大きくなっている。また、脱炭処理時間の短縮を目的として酸素ガスの供給量(以下、「送酸速度」と記す)を増大させた場合には、溶鋼浴面の酸素ジェットのエネルギーが増大し、鉄飛散、地金付着などの操業阻害をもたらすことになる。」との記載に基づき、本願発明は、100torr(13.3kPa)を越えるような比較的高い圧力の雰囲気で脱炭処理を開始し、10torr(1.3kPa)近傍の低い雰囲気圧力で脱炭処理を終了することを前提とする発明であるから、真空度がほぼ一定の状態で真空脱炭精錬を実施する刊行物1発明は、精錬末期には10torr(1.3kPa)近傍の低い雰囲気圧力となる本願発明とは異なる操業形態である旨の主張を行い(意見書の3頁下から10行?4頁4行、4頁23行?31行;審判請求書の7頁14行?28行、8頁20行?29行;回答書の5頁下から3行?12行、7頁5行?17行を参照。)、さらに、回答書(7頁23行?8頁2行)にて、「「酸化精錬終了時の雰囲気圧力は酸化精錬開始時の雰囲気を超えない」の意味は、本願明細書の文面から、「酸化精錬開始時に比較して、酸化精錬末期には雰囲気圧力が相対的に低くなる」ことであることが明らかでありますから、審査官の上記ご指摘は、牽強付会であると考えます。」と述べるが、前記[1]の(1-2)の特許請求の範囲のいずれの請求項においても、「100torr(13.3kPa)を越えるような比較的高い圧力の雰囲気で脱炭処理を開始し、10torr(1.3kPa)近傍の低い雰囲気圧力で脱炭処理を終了する」ことや「酸化精錬開始時に比較して、酸化精錬末期には雰囲気圧力が相対的に低くなる」ことは、発明特定事項とはされておらず、むしろ、前記[2-3]の相違点2についての検討において記載したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(【0036】、【0037】)によれば、刊行物1発明の精錬終了時の雰囲気圧力を100torr(13.3kPa)とすることを除外せず、これを含むことを意図しているものと解せられるから、請求人の前記主張が理由のあるものであるということはできない。 第3 本願発明についての審決 [1]本願発明 平成22年4月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成21年7月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1、6に係る発明(以下、「本願発明1」、「本願発明6」という。)は、前記「第1 【決定の理由】[1](1-1)」の【請求項1】、【請求項6】に記載されたとおりのものである。 [2]原査定の理由の概要 原審における拒絶査定の理由の概要は、本願の請求項1?7に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない、というものである。 刊行物1;特開平6-340912号公報 [3]刊行物の主な記載事項及び刊行物1発明の認定 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開平6-340912号公報)の主な記載事項は、前記「第2 【決定の理由】[2-1]」に記載したとおりである。 また、刊行物1発明1、及び、刊行物1発明2は、前記「第2 【決定の理由】[2-2]」に記載したとおりである。 [4]当審の判断 前記「第2 【決定の理由】[2-3]」の「(1)」及び「(2)」において、その特許独立特許要件を検討した本願補正発明6及び本願補正発明1は、前記「第2 【決定の理由】[2]に記載したとおり、それぞれ、本願発明6及び本願発明1において、「ラバールノズルの出口径Deとスロート径Dtとの比(De/Dt)」を「De/Dt<2.5」から「De/Dt<2.0」に特定するものであるから、発明を特定するために必要な事項を限定するものである。 そして、このように発明を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定的に減縮した本願補正発明6及び本願補正発明1が、それぞれ、刊行物1発明1及び刊行物1発明2であることは、前記「第2 【決定の理由】[2-3]」の「(1)」及び「(2)」に記載したとおりであるから、本願発明6及び本願発明1についても、前記「第2 【決定の理由】[2-3]」の「(1)」及び「(2)」に記載したと同様の理由により、刊行物1発明1及び刊行物1発明2であるといえる。 [5]むすび 以上のとおり、本願発明6及び本願発明1は、それぞれ、刊行物1発明1及び刊行物1発明2であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 したがって、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-10-18 |
結審通知日 | 2011-10-25 |
審決日 | 2011-11-21 |
出願番号 | 特願2004-251514(P2004-251514) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C21C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 猛 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
野田 定文 山本 一正 |
発明の名称 | 減圧下における溶融金属の精錬方法及び精錬用上吹きランス |
代理人 | 落合 憲一郎 |