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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1250420
審判番号 不服2009-13419  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-27 
確定日 2012-01-12 
事件の表示 特願2003-356282「薄膜磁気ヘッド、これを用いた磁気記録装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年5月12日出願公開、特開2005-122818〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年10月16日の出願であって、平成20年10月22日付けで通知した拒絶理由に対して平成21年1月8日付けで手続補正がなされたが、同年3月27日付けで拒絶すべきものである旨の査定がされ、これに対して、同年7月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされた。
その後、当審において平成22年11月30日付けで前置報告書(特許法164条第3項)の内容を利用した審尋をしたところ、平成23年2月18日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年7月27日付け手続補正についての却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕

平成21年7月27日付け手続補正を却下する。

〔理 由〕

1.補正の内容
平成21年7月27日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前(平成21年1月18日付で手続補正)に、
(a)「【請求項1】
書き込み素子を含む薄膜磁気ヘッドであって、
前記書き込み素子は、第1のヨーク部と、第1のポール部と、第2のポール部と、第2
のヨーク部と、ギャップ膜と、コイルとを含んでおり、
前記第1のポール部は、媒体対向面側において、前記第1のヨーク部の前記一面上に突設され、上端が縮小された幅を有しており、
前記第2のポール部は、前記第1のポール部の前記上端と、前記ギャップ膜を介して、同一幅で対向しており、
前記第2のヨーク部は、前記媒体対向面側が前記第2のポール部に連続し、その反対側である後方側が、バックギャップ部により、前記第1のヨーク部と結合されており、
前記コイルは、前記第1のヨーク部の前記一面上で、前記バックギャップ部の周りを、
渦巻き状に周回しており、
さらに、前記第1のポール部は、複数のポール片を積層して構成され、そのうちの前記ギャップ膜と隣接するポール片は、幅方向の両側において、前記第2のポール部の幅に合わせてエッチングされ、エッチングによって生じた凹部の底部に残部が存在し、前記残部は、膜厚がポール片根元部に近づくにつれて増大するように、その表面が傾斜面となっている、
薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載された薄膜磁気ヘッドであって、
前記コイルは、第1のコイルと、第2のコイルとを含み、
前記第1のコイル及び前記第2のコイルは、前記第1の磁性膜の前記一面上に形成された第1の絶縁膜の面上で、前記バックギャップ部の周りを、渦巻き状に周回し、一方が、
他方のコイルターン間のスペースに、第2の絶縁膜を介して嵌め込まれ、同一方向の磁束を生じるように接続されている薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】 請求項1又は2の何れかに記載された薄膜磁気ヘッドであって、
前記コイルは、コイルターン間のスペースが、無機絶縁材料によって埋められており、
前記コイル及び前記スペースを埋める前記無機絶縁材料は、無機絶縁材料でなる第3の絶縁膜によって覆われており、
前記第3の絶縁膜は、表面が平坦化されており、
前記第1のポール部は、第1のポール片と、第2のポール片と、第3のポール片とを含み、
前記第1のポール片は、前記第1のヨーク部の端によって構成されており、
前記第2のポール片は、一面が前記第1のポール片に隣接しており、
前記第3のポール片は、一面が前記第2のポール片の他面に隣接しており、
前記第2のポール片は、前記他面が、前記第3の絶縁膜の平坦化された平面と、同一位置になるように平坦化されており、
前記第3のポール片は、前記他面が、前記第3の絶縁膜の平坦化された平面に設けられた第4の絶縁膜の表面と同一位置になるように平坦化されており、
前記ギャップ膜は、前記第3のポール片の他面に隣接している、
薄膜磁気ヘッド。
(【請求項4】以下略)」
とあったところを、

(b)「【請求項1】
書き込み素子を含む薄膜磁気ヘッドであって、
前記書き込み素子は、第1のヨーク部と、第1のポール部と、第2のポール部と、第2のヨーク部と、ギャップ膜と、コイルとを含んでおり、
前記第1のポール部は、媒体対向面側において、前記第1のヨーク部の前記一面上に突設され、上端が縮小された幅を有しており、
前記第2のポール部は、前記第1のポール部の前記上端と、前記ギャップ膜を介して、同一幅で対向しており、
前記第2のヨーク部は、平面状であって、前記媒体対向面側が前記第2のポール部に連続し、その反対側である後方側が、バックギャップ部により、前記第1のヨーク部と結合されており、
前記コイルは、前記第1のヨーク部の前記一面上で、前記バックギャップ部の周りを、渦巻き状に周回しており、
前記第1のポール部は、第1のポール片と、第2のポール片と、第3のポール片とを含み、
前記第2のポール片は、一面が前記第1のポール片の一面に隣接しており、
前記第3のポール片は、一面が前記第2のポール片の他面に隣接しており、
前記第2のポール片は、前記他面が、回りを埋める絶縁膜の平坦化された平面と、同一位置になるように平坦化されており、
前記第3のポール片は、前記他面の一部が、前記絶縁膜の平坦化された平面に設けられた他の絶縁膜の表面と同一位置になるように平坦化され、かつ、平坦化された面の幅方向の両側において、前記第2のポール部の幅に合わせてエッチングされ、エッチングによって生じた凹部の底部に残部が存在し、前記残部は、膜厚がポール片根元部に近づくにつれて増大するように、その表面が傾斜面となっており、
前記ギャップ膜は、前記第3のポール片の前記平坦化された面に隣接している、
薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載された薄膜磁気ヘッドであって、
前記コイルは、第1のコイルと、第2のコイルとを含み、
前記第1のコイル及び前記第2のコイルは、前記第1の磁性膜の前記一面上に形成された第1の絶縁膜の面上で、前記バックギャップ部の周りを、渦巻き状に周回し、一方が、
他方のコイルターン間のスペースに、第2の絶縁膜を介して嵌め込まれ、同一方向の磁束を生じるように接続されている薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2の何れかに記載された薄膜磁気ヘッドであって、
前記コイルは、コイルターン間のスペースが、無機絶縁材料によって埋められており、
前記コイル及び前記スペースを埋める前記無機絶縁材料は、無機絶縁材料でなる第3の絶縁膜によって覆われており、
前記第3の絶縁膜は、表面が平坦化されている、薄膜磁気ヘッド。
(【請求項4】以下略)」
と補正することを含むものである。
なお、請求項4ないし17については、記載上変更がないので、摘記を省略した。

2.本件補正の適否
本件補正は、概略、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項のうち、
「前記第1のポール部は、第1のポール片と、第2のポール片と、第3のポール片とを含み」の点、及び
「前記第2のポール片は、一面が前記第1のポール片に隣接しており、
前記第3のポール片は、一面が前記第2のポール片の他面に隣接しており、
前記第2のポール片は、前記他面が、前記第3の絶縁膜の平坦化された平面と、同一位置になるように平坦化されており、
前記第3のポール片は、前記他面が、前記第3の絶縁膜の平坦化された平面に設けられた第4の絶縁膜の表面と同一位置になるように平坦化されており、
前記ギャップ膜は、前記第3のポール片の他面に隣接している」の点を、一部文言の修正を加えて、請求項1に加入したものに相当し、したがって、請求項1、及び同請求項を引用する請求項2については、補正前の請求項にあった「第1のポール部」に限定を加えるものと解することができる。
しかしながら、本件補正後の請求項3は、前記請求項1に加入された事項を記載上削るのみならず、
「前記第1のポール片は、前記第1のヨーク部の端によって構成されており」
との特定事項まで削除しているので、同請求項において引用する請求項1又は2に記載された特定事項を考慮しても、本件補正前の請求項3にあった特定事項を限定したものと認めることができない。
すなわち、本件補正前の請求項3に記載された「薄膜磁気ヘッド」は、前記第1のヨーク部の端によって構成された「第1のポール片」、「第2のポール片」、及びギャップ膜に隣接する「第3のポール片」の3つのポール片で構成されたヘッドに限定されることが明らかであるのに対し、本件補正後の請求項3は、単に「第1のポール片」、「第2のポール片」、及びギャップ膜に隣接する「第3のポール片」を有していればよいのであって、「第1のポール片」が「第1のヨーク部の端によって構成され」ているものに限定されるわけでもなく、また、第1ないし第3の各ポール片以外のポール片を有するものも含まれることが明らかであるからである。
また、請求項3についての補正事項は、不明瞭な記載の釈明、又は誤記の訂正に当たらないことも明らかである。
すると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものと認めることができない。

3.本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成21年7月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成20年10月22日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.補正の内容 (a)」に、本件補正前の【請求項1】として掲げたとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-242610号公報(平成15年8月29日公開、以下「引用例1」という。)には、エアーベアリング面を規定するように積層された誘導型薄膜磁気ヘッド素子を具える薄膜磁気ヘッドに関し、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(ア)「【0036】さらに本発明による薄膜磁気ヘッドは、基板と、この基板によって支持され、エアーベアリング面を規定するように積層された誘導型薄膜磁気ヘッド素子を具える薄膜磁気ヘッドであって、前記誘導型薄膜磁気ヘッド素子が、前記基板上に、エアーベアリング面から内方に延在するように形成された磁性材料より成る下部ポールと、この下部ポールの一方の表面上に、前記エアーベアリング面からスロートハイト零の基準位置まで延在するように形成された磁性材料より成る下部トラックポールと、前記下部ポールの一方の表面上に、前記エアーベアリング面から離れた位置においてバックギャップを構成するように形成された磁性材料より成る橋絡部と、前記下部ポールの一方の表面上に、下部ポールとは反対側の表面が前記下部トラックポールの表面と同一面となるように形成された薄膜コイルと、前記下部トラックポールおよび薄膜コイルの平坦な表面の上に平坦に形成された非磁性材料より成るライトギャップ膜と、このライトギャップ膜の、前記下部トラックポールと接触する側とは反対側の表面に形成され、前記下部トラックポールと整列する上部トラックポールが一体的に形成されているとともに前記橋絡部と接触するように形成された磁性材料より成る上部ポールと、を具え、前記薄膜コイルが、所定の間隔を置いて形成されたコイル巻回体を有する第1の薄膜コイル半部と、この第1の薄膜コイル半部の順次のコイル巻回体の間に、第1の薄膜コイル半部のコイル巻回体と自己整合的に形成されたコイル巻回体を有する第2の薄膜コイル半部と、これら第1および第2の薄膜コイル半部の順次のコイル巻回体間のスペースを埋めるように形成された層間絶縁膜とを有し、前記第1および第2の薄膜コイル半部の最内周のコイル巻回体の端部を他の部分の幅よりも広くし、これら端部と前記バックギャップの橋絡部との間に前記層間絶縁膜よりも厚い絶縁膜設けたもの。」

(イ)【0040】さらに本発明による薄膜磁気ヘッドにおいては、前記下部トラックポールおよび上部トラックポールをRIE(Reactive Ion Etching)により自己整合的に形成し、前記第2の非磁性材料膜の、前記上部トラックポールの表面と同一面に平坦化された表面とは反対側の表面を、前記ライトギャップ膜を越えて前記第1のポール側へ延在させてトリム構造を形成するのが好適である。また、前記薄膜コイルは、前記上部トラックポールと第2の非磁性材料膜との同一面に平坦化された表面に形成するのが好適である。また、上部トラックポールは、FeN、FeCo、CoNiFe、FeAlNまたはFeZrNで形成し、下部トラックポールは、FeN、FeCo、CoNiFe、FeAlN、FeZrNまたはNiFeで形成するのが好適である。この場合、CoNiFe、FeCo、NiFeはメッキ膜として形成し、FeN、FeCo、FeAlNおよびFeZrNはスパッタ膜で形成することができる。

(ウ)「【0054】次に、再生用のGMRヘッド素子と記録用の誘導型薄膜磁気ヘッド素子を磁気的に分離して再生用GMRヘッド素子の再生出力中のノイズを抑圧するためのアルミナより成る分離膜39を約0.15?0.3μmの膜厚に形成した後、記録用ヘッド素子の下部ポール40を2.0?2.5μmの膜厚に形成する。この下部ポール40は、NiFe(80%:20%)やNiFe(45%:55%)、あるいはCoNiFe(64%:18%:18%)のメッキ膜で形成したり、FeAlN, FeN, FeCo, FeZrNなどのスパッタ膜で形成できるが、本例ではFeNのスパッタ膜で形成する。」

(エ)「【0058】次に、図14A,14Bに示すように、フォトレジストマスク146を除去した後、NiFe膜147をマスクとしてイオンミリングを施し、シード層145の露出した部分を除去する。さらに、NiFe膜147をマスクとして、BCl2 ガス雰囲気中で、50℃の温度でRIEを施してアルミナ絶縁膜144を除去した後、BCl2 、Cl2 などの塩素系ガス雰囲気中で、200℃の温度でRIEを行い、磁性材料膜143を選択的に除去して上部トラックポール43を形成する。さらにRIEを続けて上部トラックポール43の下側以外のライトギャップ膜42を除去し、さらにその下側にある下部ポール40を、その厚さの一部分に亘って選択的に除去してトリム構造を形成する。このRIEによりアルミナ絶縁膜41の表面が露出される。」

(オ)「【0094】図47?60は、本発明による複合型薄膜磁気ヘッドの第7の実施例の順次の工程を示す断面図および平面図である。本例は、薄膜コイルの、下部ポールおよび上部ポールで囲まれる部分の最外周および最内周のコイル巻回体をCu-CVDあるいはCu-メッキで形成し、その幅を他のコイル巻回体の幅よりも広くして抵抗値を下げ、発熱を軽減したものである。さらに本例では、ライトギャップ膜の下側に、下部ポールと接触するように下部トラックポールを設け、2層の上部トラックポールと合わせて3層構造のトラックチップ部を構成したものである。
【0095】本例においても、上述した第1の実施例と同様に、読み出し用の磁気抵抗型薄膜磁気ヘッド素子を形成した後、図47に示すように、上部シールド膜38およびアルミナより成る分離膜39を形成した後、FeNより成る磁性材料膜40を1.0から2.0μmの膜厚に形成する。さらにこの磁性材料膜40の上に、FeNより成る磁性材料膜をスパッタリングにより1.5μmの膜厚に形成し、さらにその上にFeCoより成る磁性材料膜をスパッタリングにより1.0μmの膜厚に形成した後、この上側の磁性材料膜の上にフォトリソグラフィによって金属またはアルミナより成るマスクを形成し、このマスクを使ってその下側の磁性材料膜をエッチングして帯状の磁性材料膜212を形成し、さらにエッチングを続けて同じく帯状の磁性材料膜213を形成する。このマスクはエッチングされてなくなるので、図示されていない。またその他の形成方法として磁性材料膜40の上にフォトリソグラフィーで選択的に電解メッキ法を使ってCoNiFeより成る磁性材料膜213を1.5μmの膜厚に形成し、さらにその上にCoFeより成る磁性材料膜212を1.0μmの膜厚に形成しても良い。後述するように、磁性材料膜213は下部トラックポールを構成するものであり、磁性材料膜212は磁性材料膜40と共に下部ポールを構成するものである。また、磁性材料膜212を形成するのと同時にバックギャップにおける第1の橋絡部44aが形成され、磁性材料膜213を形成するのと同時に第2の橋絡部44bが形成される。
【0096】次に、表面全体にアルミナより成る絶縁膜214を0.2μmの膜厚に形成した後、Cuより成るシード膜を50nmの膜厚に形成し、その上に所定の形状のレジストマスクを形成した後、電解メッキにより第1の薄膜コイル半部215を2.5?3.0μmの膜厚に形成し、レジストマスクを除去し、露出したシード層を除去した様子を図48に示す。ただし、図面では薄膜コイル半部215の底部に形成されているシード層には符合を付けていない。このとき、後に配線に対するコンタクト部を構成する最内周のコイル巻回体の端部215aの幅は広くする。また、本実施例においては、薄膜コイルの、下部ポールおよび上部ポールによって囲まれる部分においては、最外周のコイル巻回体および最内周のコイル巻回体を後に形成する第2の薄膜コイル半部で構成し、さらにそれらの幅が他の部分の幅よりも広くなるように間隔を設定する。すなわち、トラックポールを構成する磁性材料膜212、213の端面と第1の薄膜コイル半部215の最外周のコイル巻回体との間のスペースの幅W1およびバックギャップを構成する橋絡部44a、44bの端面と最内周のコイル巻回体との間のスペースの幅W2を、順次のコイル巻回体間のスペースの幅W3よりも広くする。本例では、薄膜コイル半部215のコイル巻回体の幅が0.3μmの時、W1=W2=0.4μm、W3=0.3μmとし、最外周および最内周のコイル巻回体の幅をそれ以外のコイル巻回体の幅よりも0.1μmだけ広くするが、本発明においては、この差は0.1?0.3μmとすることができる。また、薄膜コイルの、下部ポールおよび上部ポールによって囲まれる領域以外のコイル巻回体の幅を広くするために、橋絡部44a、44bの、エアーベアリング面側とは反対側のスペースの幅W4は、上述した幅W1,W2およびW3よりも広くする。ただし、図面ではこれらの幅の比率を正確に表すものではなく、大小関係を示すものである。
【0097】上述したように、W1、W2>W3とする理由は以下の通りである。上述したように第1の薄膜コイル半部215を形成する際にはレジストマスクを使用するが、その位置がずれる可能性がある。例えば、レジストマスクがエアーベアリング面側にずれると、磁性材料膜212、213の端面と第1の薄膜コイル半部215の最外周のコイル巻回体との間のスペースの幅W1は狭くなり、レジストマスクがエアーベアリング面とは反対側にずれると、バックギャップを構成する橋絡部44a、44bの端面と第1の薄膜コイル半部215の最内周のコイル巻回体との間のスペースの幅W2が狭くなる。このようにスペースの幅W1あるいはW2がミスアライメント等で狭くなると、後に形成される第2の薄膜コイル半部のコイル巻回体の幅が狭くなり、抵抗値が所定の値よりも高くなってしまう。特に、最外周のコイル巻回体は、その長さが他のコイル巻回体に比べて長いので、その幅W1が狭くなると抵抗値が非常に高くなり、発熱する恐れがある。このようにエアーベアリング面に近い部分での発熱は、熱膨張によってポールチップが外側に膨らんで記録媒体と接触するポール突出(pole protrusion)の問題が起こる恐れがある。上述したように、W1、W2>W3とすることによって、第1の薄膜コイル半部215を形成する際のレジストマスクの位置のずれがあっても、第1の薄膜コイル半部の最外周および最内周のコイル巻回体の幅が所定の幅よりも狭くなることがなくなり、上述したポール突出の問題を有効に解決することができる。さらに、第1の薄膜コイル半部215を形成する際に、その最外周および最内周のコイル巻回体と磁性材料膜213および橋絡部44aとの間の距離が長くなると、フォトリソグラフィの露光時にこれらの磁性材料膜および橋絡部からの反射が少なくくなるので、フォトリソグラフィが容易かつ正確となるという利点もある。
【0098】次に、図49に示すように、表面全体にアルミナ絶縁膜216を0.1μmの膜厚に形成した後、薄膜コイル形成領域を覆うようにレジスト膜217を選択的に形成する。このアルミナ絶縁膜216はCVDによって形成するのが好適である。すなわち、ウエファを収容したCVDチャンバを1?2Torrの減圧状態に保ち、100?400°Cの温度で、Al(CH3 )3 またはAlCl3 と、H2 O, N2 , N2OあるいはH2 O2 とを交互に断続的に噴射し、ケミカル反応によって堆積形成するアトミックレイヤー法で形成するのが好適である。本例では、1.5Torrに減圧し、温度を250°Cに保ったチャンバに、水蒸気(H2O)とAl(CH3 )3 を約1秒間に1回の割合で噴射させて減圧アルミナ-CVD絶縁膜216を形成する。このような減圧アルミナ-CVD絶縁膜216は、良好な絶縁特性を有するとともに優れたステップカバレージを有している利点がある。その後薄膜コイル形成領域を覆うフォトレジスト膜217を3?4μmの厚みで形成する。
【0099】次に、図50に示すように、全体の上にアルミナ絶縁膜218を3?4μmの膜厚に形成した後、コイル上のアルミナ絶縁膜218の凸部をCMPすることでフォトレジスト膜217が露出するように研磨した様子を図51に示す。図51に示すように、バックギャップを構成する磁性材料より成る橋絡部44a、44bと第1の薄膜コイル半部215の最内周のコイル巻回体との間にアルミナ絶縁膜218を残してある。また、エアーベアリング面側にもアルミナ絶縁膜218が残っている。
【0100】さらに、図52に示すようにフォトレジスト膜217をウエットケミカルエッチングによって除去した後、図53に示すようにCu-CVD膜219を1.5?2.5μmの膜厚に形成する。次に、CMPを施して図54に示すように、第1の薄膜コイル半部215、磁性材料膜214、第2の橋絡部44b、アルミナ絶縁膜218を露出させて平坦な表面とする。このCMPによって、第1の薄膜コイル半部215の間にアルミナ-CVD絶縁膜216を介して第2の薄膜コイル半部220が自己整合的に形成される。本例では、上述したように、W1、W2>W3としたので、第2の薄膜コイル半部220の最外周のコイル巻回体220aおよび最内周のコイル巻回体220bの幅は、その他のコイル巻回体の幅よりも広くなっている。また、図54には示していないが、第2の薄膜コイル半部220の最内周のコイル巻回体220bの、コンタクト部を構成する端部の幅を広くしてある。本実施例においては、第2の薄膜コイル半部220を上述したようにCu-CVD膜で形成したが、上述した実施例と同様に、第2の薄膜コイル半部を第1の薄膜コイル半部と同じCu-メッキ膜で形成することもできる。
【0101】次に、図55に示すように、第2橋絡部44bと、第1および第2の薄膜コイル半部215および220の最内周のコイル巻回体の端部を覆うようにフォトレジストマスク221を選択的に形成した後、ライトギャップ膜を構成するアルミナ絶縁膜222を0.1μmの膜厚に形成する。
【0102】次に、図56に示すように、上部トラックポールを構成するために、FeCoまたはFeNより成る磁性材料膜223を1.0μmの膜厚に形成し、さらにその上にCoNiFeより成る磁性材料膜224を2?3μmの膜厚で所定のパターンに形成する。その後、このCoNiFeより成る磁性材料膜224をマスクとして、BCl2 、Cl2などの塩素系ガス雰囲気中で、200℃の温度でRIEを行い、下側のFeNまたはFeCoより成る磁性材料膜223を所望のパターンにエッチングして上部トラックポールを形成する。
【0103】また磁性材料膜223,224を形成するのと同時に、第1の薄膜コイル半部215の最内周のコイル巻回体の端部と第2の薄膜コイル半部220の最外周のコイル巻回体の端部とを電気的に接続するための第1のジャンパ配線と、第2の薄膜コイル半部220の最内周のコイル巻回体の端部を、外部回路に接続するための接点パッドに接続するための第2のジャンパ配線とを、磁性材料膜223,224と同じ磁性材料で形成する。すなわち、図57に示すように、一端が第1の薄膜コイル半部215の最内周のコイル巻回体の端部215aに形成されたコンタクト部215bと接触し、他端が第2の薄膜コイル半部220の最外周のコイル巻回体220aの端部220cに形成されたコンタクト部220dと接触する第1のジャンパ配線226と、一端が第2の薄膜コイル半部220の最内周のコイル巻回体220bの端部に形成されたコンタクト部220dと接触する第2のジャンパ配線227を形成する。これらのジャンパ配線226および227は、アルミナ絶縁膜222の上に形成されることになるが、図57ではこのアルミナ絶縁膜は省略してある。また、第1の薄膜コイル半部215の最外周のコイル巻回体の端部215cは、これと一体的に形成された第3の配線215dによって第1の接点パッドまで導かれている。さらに、第2のジャンパ配線227の他端は、第1の薄膜コイル半部215と同時に形成された第4の配線228のコンタクト部228aとアルミナ絶縁膜222に形成した開口を経て接触しており、この第4の配線228は第2の接点パッド位置まで延在している。
【0104】上述したように、第1および第2の接点パッドは、薄膜コイルの両端にそれぞれ接続されることになるが、第3および第4の接点パッドは、GMR素子の電極膜36に接続されることになる。また、上述したように、第1および第2のジャンパ配線226および227を、上部ポールを構成する磁性材料膜を形成するのと同時に形成しているので、バックギャップを構成する橋絡部44a,44bと第1および第2の薄膜コイル半部215および220の最内周のコイル巻回体の端部との間に、層間絶縁膜よりも膜厚の厚いアルミナ絶縁膜218を形成することにより、第1および第2のジャンパ配線226および227が橋絡部44a,44bに接触して電気的に短絡するのを有効に防止することができる。
【0105】その後、薄膜コイル形成領域を覆うようにフォトレジストパターンを形成するか、あるいはトラックポール部に開口を有するフォトレジストパターンを形成した後、イオンミリングでアルミナ絶縁膜222をエッチングしてライトギャップ膜225を形成し、磁性材料膜213を選択的に除去して下部トラックポールを形成し、さらにその下側の磁性材料膜212を、その厚さの一部分に亘って選択的に除去してトリム構造を形成した様子を図58および59に示す。また、上述したフォトレジストパターンに形成した開口を図59では仮想線で示してある。最後に、図60に示すように、全体の上にアルミナより成るオーバーコート膜230を形成する。」

(カ)「【0108】さらに、ポールチップ部の上部トラックポールを第1および第2のトラックポールの積層構造で形成した実施例や、ポールチップ部を、下部トラックポールと上部トラックポールの積層構造で形成した実施例においては、これらを構成する磁性材料膜は平坦な表面に平坦に形成されているので、エッチングにより正確に所定のパターンに形成できる。しかもこれらのトラックポールはセルフアライメントで形成されているので、0.1?0.3μmの狭い幅を有するトラックポールを正確にかつ安定して得ることができる。また、これらのトラックポールは、飽和磁束密度が高い磁性材料であるFeNやFeCoで形成しているので、薄膜コイルで発生される磁束が飽和することなく、微細構造として形成されたトラックポールを有効に流れるので、磁束のロスが少なく、高い面記録密度を有する記録媒体が必要とする大きな磁束を有効に発生することができる能率の高い誘導型薄膜磁気ヘッドが得られる。」

(キ)また、図47ないし図60を参照。図57には、第1の薄膜コイル半部215の最内周の端部215bと最外周の端部215cと、第2の薄膜コイル半部220の最外周の端部220cが図示されている。

(ク)図58B,図60Bには、ライトギャップ膜225に隣接する磁性材料膜212の幅が、下部ポール40に隣接する磁性材料膜213の幅より幅狭であることが図示されている。また、ライトギャップ膜225に隣接する磁性材料膜212の幅は、磁性材料膜223,224及びライトギャップ膜225の幅と同一であることが図示されている。

(ケ)上記明細書の摘記部分と図面とを突き合わせてみると、実施例7に関し、212及び213の番号が付されて表記される磁性材料膜部分について、【0095】段落の、
(i)「この上側の磁性材料膜の上にフォトリソグラフィによって金属またはアルミナより成るマスクを形成し、このマスクを使ってその下側の磁性材料膜をエッチングして帯状の磁性材料膜212を形成し、さらにエッチングを続けて同じく帯状の磁性材料膜213を形成する。このマスクはエッチングされてなくなるので、図示されていない。またその他の形成方法として磁性材料膜40の上にフォトリソグラフィーで選択的に電解メッキ法を使ってCoNiFeより成る磁性材料膜213を1.5μmの膜厚に形成し、さらにその上にCoFeより成る磁性材料膜212を1.0μmの膜厚に形成しても良い。」
との記載は図47ないし図60の各図面に整合するが、同段落の
(ii)「後述するように、磁性材料膜213は下部トラックポールを構成するものであり、磁性材料膜212は磁性材料膜40と共に下部ポールを構成するものである。また、磁性材料膜212を形成するのと同時にバックギャップにおける第1の橋絡部44aが形成され、磁性材料膜213を形成するのと同時に第2の橋絡部44bが形成される。」
との記載、及び【0105】段落の、
(iii)「磁性材料膜213を選択的に除去して下部トラックポールを形成し、さらにその下側の磁性材料膜212を、その厚さの一部分に亘って選択的に除去してトリム構造を形成した様子を図58および59に示す。」との記載は、212と213とが各図面とも整合せず(212と213が逆)、同様に前記(i)の記載とも整合しない。
各図面に付された番号が一貫していることを重視して、各図面及び前記(i)の記載を正しいものとし、前記(ii)及び(iii)は、番号212と213が入れ替わった誤記と解する。

上記(ケ)の点も考慮の上、上記摘記事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、特に図47ないし図60でその製造工程が示される実施例7として、薄膜磁気ヘッドについて次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「記録用の誘導型薄膜磁気ヘッド素子を具える薄膜磁気ヘッドであって、
誘導型薄膜磁気ヘッド素子が、下部ポールと、下部トラックポールと、橋絡部と、薄膜コイルと、ライトギャップ膜と、上部トラックポールと、上部ポールと
を具え、
下部ポールは、エアーベアリング面から内方に延在するように形成され、
下部トラックポールは、下部ポールの一方の表面上に、エアーベアリング面からスロートハイト零の基準位置まで延在するように形成され、
橋絡部は、下部ポールの一方の表面上に、エアーベアリング面から離れた位置においてバックギャップを構成するように形成され、
薄膜コイルは、下部ポールの一方の表面上に形成され、所定の間隔を置いて形成されたコイル巻回体を有する第1の薄膜コイル半部と、この第1の薄膜コイル半部の順次のコイル巻回体の間に、第1の薄膜コイル半部のコイル巻回体と自己整合的に形成されたコイル巻回体を有する第2の薄膜コイル半部と、これら第1および第2の薄膜コイル半部の順次のコイル巻回体間のスペースを埋めるように形成された層間絶縁膜とを有し、
ライトギャップ膜は、下部トラックポールおよび薄膜コイルの平坦な表面の上に平坦に形成され、
上部ポールは、ライトギャップ膜の、下部トラックポールと接触する側とは反対側の表面に形成され、下部トラックポールと整列する上部トラックポールが一体的に形成されているとともに橋絡部と接触するように形成され、
さらに、下部トラックポールは、下部ポールに接触する磁性材料膜とライトギャップ膜に隣接する磁性材料膜で形成され、ライトギャップ膜に隣接する磁性材料膜は上部トラックポールと同一幅にエッチングされ、同一幅となっている
誘導型薄膜磁気ヘッド素子を具える薄膜磁気ヘッド。」

3.対比
(1)本願発明と刊行物発明とは、「薄膜磁気ヘッド」に関する発明である点で共通する。
(2)刊行物発明の「記録用の誘導型薄膜磁気ヘッド素子」は、本願発明の「書き込み素子」に相当する。
(3)刊行物発明の「誘導型薄膜磁気ヘッド素子」に具えられる「下部ポール」、「下部トラックポール」、「上部トラックポール」、「上部ポール」、「ライトギャップ膜」、及び「薄膜コイル」は、それぞれ本願発明の「第1のヨーク部」、「第1のポール部」、「第2のポール部」、「第2のヨーク部」、「ギャップ膜」、及び「コイル」に相当する。
(4)刊行物発明の「エアーベアリング面」は、本願発明の「媒体対向面」に相当する。
(5)刊行物発明の「下部トラックポール」が、「下部ポールの一方の表面上に、エアーベアリング面からスロートハイト零の基準位置まで延在するように形成され」ていることは、本願発明の「第1のポール部」が「媒体対向面側において、第1のヨーク部の一面上に突設され」ていることに相当する。
(6)さらに刊行物発明の「下部トラックポール」が、「下部ポールに接触する磁性材料膜とライトギャップ膜に隣接する磁性材料膜で形成され」ている点は、本願発明の「第1のポール部」が「複数のポール片を積層して構成され」ていることに相当する。
(7)さらに刊行物発明の「下部トラックポール」が、「ライトギャップ膜に隣接する磁性材料膜は上部トラックポールと同一幅にエッチングされ、同一幅となっている」ことは、本願発明の「第1のポール部」が、「上端が縮小された幅を有しており」及び「そのうちの前記ギャップ膜と隣接するポール片は、幅方向の両側において、前記第2のポール部の幅に合わせてエッチングされ」ていることに相当するとともに、本願発明の「第2のポール部は、前記第1のポール部の前記上端と、前記ギャップ膜を介して、同一幅で対向しており」にも相当する。
(8)刊行物発明の「上部ポールは、ライトギャップ膜の、下部トラックポールと接触する側とは反対側の表面に形成され、下部トラックポールと整列する上部トラックポールが一体的に形成されているとともに橋絡部と接触するように形成され」の点は、本願発明の「第2のヨーク部は、前記媒体対向面側が前記第2のポール部に連続し、その反対側である後方側が、バックギャップ部により、前記第1のヨーク部と結合されており」の点に相当する。
(9)刊行物発明の「薄膜コイル」が「下部ポールの一方の表面上に形成され、所定の間隔を置いて形成されたコイル巻回体を有する第1の薄膜コイル半部と、この第1の薄膜コイル半部の順次のコイル巻回体の間に、第1の薄膜コイル半部のコイル巻回体と自己整合的に形成されたコイル巻回体を有する第2の薄膜コイル半部と、これら第1および第2の薄膜コイル半部の順次のコイル巻回体間のスペースを埋めるように形成された層間絶縁膜とを有し」と特定されるところ、コイル巻回体が「橋絡部」を最内周にして渦巻いている(図57参照。)ことは明らかであるから、本願発明の「コイル」が「第1のヨーク部の一面上で、バックギャップ部の周りを、渦巻き状に周回して」いることに相当する。

以上のことから、刊行物発明と本願発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
〈一致点〉
「書き込み素子を含む薄膜磁気ヘッドであって、
前記書き込み素子は、第1のヨーク部と、第1のポール部と、第2のポール部と、第2のヨーク部と、ギャップ膜と、コイルとを含んでおり、
前記第1のポール部は、媒体対向面側において、前記第1のヨーク部の前記一面上に突設され、上端が縮小された幅を有しており、
前記第2のポール部は、前記第1のポール部の前記上端と、前記ギャップ膜を介して、同一幅で対向しており、
前記第2のヨーク部は、前記媒体対向面側が前記第2のポール部に連続し、その反対側である後方側が、バックギャップ部により、前記第1のヨーク部と結合されており、
前記コイルは、前記第1のヨーク部の前記一面上で、前記バックギャップ部の周りを、
渦巻き状に周回しており、
さらに、前記第1のポール部は、複数のポール片を積層して構成され、そのうちの前記ギャップ膜と隣接するポール片は、幅方向の両側において、前記第2のポール部の幅に合わせてエッチングされている、
薄膜磁気ヘッド。」

〈相違点〉
第1のポール部のギャップ膜と隣接するポール片を、本願発明は「エッチングによって生じた凹部の底部に残部が存在し、残部は、膜厚がポール片根元部に近づくにつれて増大するように、その表面が傾斜面となっている」と特定するのに対して、刊行物発明は「上部トラックポールと同一幅にエッチングされ、同一幅となっている」点。

4.当審の判断
相違点について検討する。
引用例1の段落【0058】には、第1の実施例に関して、ライトギャップ膜の下部ポールが、その厚さの一部分に亘って選択的に除去したことが記載されている。同様の構造は、図24にも示されている。同図において、下部ポール40は、上部ポール43及びライトギャップ膜42と同じ幅に所定の厚さまで選択的にエッチングされた様子が示されている。
記録用の薄膜磁気ヘッドにおいて、ギャップ膜と隣接する層が、エッチング処理されて、エッチングによって生じた凹部の底部に残部が存在し、膜厚が根本部に近づくにつれて増大するような磁極部の形状とすることは、例えば、特開2001-60307号公報【0053】段落の「下部磁極層8の第2の部分8bを選択的に0.3μm程度エッチングして、図5(b)に示したようなトリム構造とする。」、特開2002-367114号公報【0003】段落の「図1に示すように、第2の磁性層3をマスクとしたドライエッチングにより、第1の磁性層1の、第2の磁性層3と対向する部分1Aを矢印D方向に掘り下げて、第2の磁性層3と、第1の磁性層1の、第2の磁性層3と対向する部分1Aの幅とを等しくすることにより、書き込み磁極部10をトリム状に形成する深さ方向のミリング工程とを含む。そして、同じくドライエッチングにより、このような書き込み磁極部10の幅を図2に示すように全体的に矢印W方向に削減して、書き込み磁極部10の幅を規定する幅方向のミリング工程とを含む。」、及び特開2003-36506号公報【0046】段落の「本発明の薄膜磁気ヘッドにおいては、図5(a)に示した下部磁極先端部の形状のように、下部磁極先端部の上端面28にテーパー角αを付与することも出来る。図15にテーパー角αによる磁界強度の変化を示す。下部磁極先端部高さLp2hは1.4μmとした。その他の形状は図11の場合と同じである。下部磁極先端部の上端面にテーパー角を付与した場合には上部磁極先端層から下部磁極先端部端部への漏洩磁束が減少するため磁界強度が増加する。」等にて周知の技術事項にすぎない。
本願発明においては、「第1のポール部」について、単に「複数のポール片を積層して構成され」と特定されるにすぎす、前記複数のポール片それぞれの特性、機能等特段の技術事項が特定がされているわけでもなく、一方で、刊行物発明の誘導型薄膜磁気ヘッド素子の、下部ポールに接触する磁性材料膜とライトギャップ膜に隣接する磁性材料膜で形成された下部トラックポールにおいて、ライトギャップ膜に隣接する磁性材料膜をエッチングする際に、エッチングによって生じた凹部の底部に残部が存在してはならない特段の理由もないことからすると、当該残部を、膜厚が上の磁性膜根元部に近づくにつれて増大するように、その表面が傾斜面となっている形状とすることは、引用例1の段落【0058】、図24等複数の実施例において記載される構造、及び周知技術を参照することにより、当業者が容易に想到しうることである。

そして、上記相違点によって本願発明が奏する効果についても、刊行物発明及び周知技術から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。

以上のことからすると、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-05 
結審通知日 2011-08-10 
審決日 2011-09-01 
出願番号 特願2003-356282(P2003-356282)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 572- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 眞  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 関谷 隆一
早川 学
発明の名称 薄膜磁気ヘッド、これを用いた磁気記録装置及びその製造方法  
代理人 阿部 美次郎  
代理人 阿部 美次郎  

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