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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1250428
審判番号 不服2009-25236  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-21 
確定日 2012-01-12 
事件の表示 特願2000-125832「ゲームプログラム配信システムおよびそれに用いる装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月11日出願公開、特開2001-340655〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成12年4月26日(特許法第41条の規定による優先権主張:平成12年3月30日)の出願であって,平成21年9月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後,当審において平成23年5月19日付けで拒絶理由通知を行ったところ,同年6月30日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成23年6月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の,請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。)

「第1のアーキテクチャを採用した第1ゲーム機に対して,ゲームプログラム配信装置から双方向情報伝送媒体を介してゲームプログラムを配信するゲームプログラム配信システムであって,
前記ゲームプログラム配信装置は,
前記第1ゲーム機とは異なる第2のアーキテクチャを採用しかつ処理能力の低い第2ゲーム機用の複数のゲームプログラムと,前記第2ゲーム機をエミュレーションさせることにより,前記ゲームプログラムを前記第1ゲーム機で実行可能にするための少なくとも1つのエミュレータプログラムと,前記第1ゲーム機に前記複数のゲームプログラムのゲームタイトルを表示させ,その表示された各ゲームタイトルの中からプレイヤに所望のゲームタイトルを選択させるゲーム選択プログラムとを記憶するプログラム記憶手段,
前記双方向情報伝達媒体を介して,前記ゲーム選択プログラムを第1ゲーム機に送信する送信手段,および
前記第1ゲーム機において選択されたゲームタイトルを示す情報が前記双方向情報伝達媒体を介して返信されたとき,前記ゲームタイトルのゲームプログラムとともに,そのゲームプログラムを前記第1ゲーム機において実行可能にするエミュレータプログラムを前記第1ゲーム機に配信する配信処理手段,
前記第1ゲーム機は,
前記双方向情報伝達媒体を介して送られてきたゲーム選択プログラムを実行して前記各ゲームタイトルを表示する表示手段,
前記表示手段によって表示された前記各ゲームタイトルの中から所望のゲームタイトルを選択する操作を受け付ける選択手段,
選択された所望のゲームタイトルを,前記ゲームプログラム配信装置に返信する返信手段,
前記選択された所望のゲームタイトルが返信された後に,前記ゲームプログラム配信装置から配信されてきたゲームプログラムとエミュレータプログラムのデータを記憶する書込み読み出し可能な不揮発性メモリ,
前記ゲームプログラム配信装置から配信されたエミュレータプログラムに基づいて,配信されたゲームプログラムを実行することにより,前記第2ゲーム機用のゲームを前記第1ゲーム機においてプレイ可能に処理する処理手段を備える,ゲームプログラム配信システム。」

第3 引用刊行物記載の発明
(1)当審の拒絶の理由に引用した,本願の優先権主張の日前である平成10年4月21日に頒布された「特開平10-99544号公報」(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている(下線は当審にて付与)。

(1a)【特許請求の範囲】
【請求項1】 プログラムを格納したROMを接続するためのROMインタフェースを有し使用者に対する画面表示及びキー操作入力を行いながら前記ROMインタフェースを通して入力したゲームプログラムを処理しゲームサービスを提供するゲーム機の前記ROMインタフェースに接続されるとともに、前記ゲームプログラムを格納したホストコンピュータと通信回線を通して接続され、前記ゲーム機から要求されたゲームプログラムを前記ホストコンピュータからダウンロードして保持するとともに前記ROMインタフェースを通して前記ゲーム機に供給することを特徴とするダウンロード装置。
【請求項2】 前記通信回線に接続され前記ホストコンピュータと通信し前記ゲームプログラムを含むデータの送受信を行う回線インタフェースと、前記ゲームプログラムを含むデータを保持し読み出したデータを前記ROMインタフェースを通して前記ゲーム機に出力する書き換え可能な記憶手段と、前記ゲーム機からの要求を受け対応する前記ゲームプログラムを含むデータを前記回線インタフェースを通して前記ホストコンピュータからダウンロードし前記記憶手段に書き込む制御手段とを有することを特徴とする請求項1記載のダウンロード装置。
【請求項3】 請求項1または2記載のダウンロード装置と、
プログラムを格納したROMを接続するためのROMインタフェースを有し使用者に対する画面表示及びキー操作入力を行いながら前記ROMインタフェースに接続された前記ダウンロード装置にゲームプログラムの要求を行い前記ダウンロード装置から入力したゲームプログラムを処理しゲームサービスを提供するゲーム機と、前記ゲームプログラムを格納し通信回線を通して前記ダウンロード装置と接続され要求されたゲームプログラムをダウンロードさせるホストコンピュータとを有することを特徴とするゲームシステム。
【請求項4】 前記ホストコンピュータが前記ゲームプログラムの他にゲームプログラムのメニュー選択用のメニュー画面フォーマットプログラムを持ち、
前記ゲーム機がゲームプログラムのワーク用一時記憶手段を有し、
前記ゲーム機におけるゲームプログラムの要求に先立ち、前記ダウンロード装置により前記ホストコンピュータから前記メニュー画面フォーマットプログラムをダウンロードし前記ワーク用一時記憶手段に書き込み、使用者に対し画面表示を行ってゲームプログラムの選択を可能としたことを特徴とする請求項3記載のゲームシステム。

(1b)【0010】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態例を示すブロック構成図であり、業務用のゲームシステムに適用した例を示す。図1において、既存のゲーム機本体3を内蔵したダウンロード装置2が、通信回線5を通してホストコンピュータ1に接続されている。ホストコンピュータ1は複数種類のゲームプログラム及びそれらの選択用のメニュー画面フォーマットプログラムを持つ。ゲーム機本体3は、本体全体の制御を行うCPU31と、ゲームプログラムのワーク用RAM32とを有し、CPU31及びワーク用RAM32に接続されたバス33a及びその他信号線33b,33cはROM等のゲームプログラムを格納した記憶媒体が接続可能なROMインタフェース33として機能する。CPU31にはまた、外部のディスプレイ41及びキー42から成る操作部4が接続される。ダウンロード装置2は、通信回線5を通してホストコンピュータ1と接続する回線インタフェース部21と、ホストコンピュータ1からダウンロードされるゲームプログラム,メニュープログラムを受信するゲートアレイ(G/A)22と、通信制御やゲームを開始するまでの全体の制御を行うCPU23と、ホストコンピュータからダウンロードされるゲームプログラムを書き込むDRAM24とを有している。ゲートアレイ22,CPU23,及びDRAM24は、相互にバス接続されるとともにROMインタフェース33を通してゲーム機本体1のCPU31及びワーク用RAM32と共通に接続され、ゲーム機本体1に対しあたかもプログラムを格納したROMであるかのように機能する。業務用ゲーム機などのようにダウンロード装置2とゲーム機本体3とを同一基板に上に設けることができる場合はROMインタフェース33は配線パターンで直接接続する構造とすることができる。家庭用ゲーム機などのようにROMインタフェース33にROM交換用コネクタを設けている場合はダウンロード装置2側にも対応するコネクタを設けこれらコネクタにより接続する構造とすることができる。

(1c)【0013】まず、客に遊戯するゲームを選択させるためにメニュー画面を表示する。方法としては、ダウンロード装置2のCPU23の制御により、ホストコンピュータ1からメニュー画面プログラムをダウンロードしてCPU23を介してゲーム機本体3のワーク用RAM32に書き込む(図2のステップS101)。書き込みが終了するとCPU23はゲーム機本体3のCPU31に命令を出す。CPU31はワーク用RAM32のメニュー画面プログラムに従ってメニュー画面を操作部4のディスプレイ41に表示して客にゲームを選択させる(ステップS102)。客がキー42によりゲームを選択すると(ステップS103)、ゲーム機本体3のCPU31はダウンロード装置2のCPU23に選択されたゲームの命令を出す。CPU23はホストコンピュータ1との通信により選択されたゲームのゲームプログラムを要求する(ステップS104)。ホストコンピュータ1から選択されたゲームプログラムをダウンロードするとゲートアレイ22を介してDRAM24に書き込む(ステップS105)。ゲームプログラムのダウンロードが終了するとダウンロード装置2のCPU23はゲーム開始の命令をゲーム機本体3のCPU31に出し、CPU31がDRAM24に書き込まれたゲームプログラムを動作することでゲームが開始される(ステップS106)。ゲームが開始されるとワーク用RAM32はゲームプログラムのワーク用RAMとして使用される。客が操作部4を操作してゲームを実行し、ゲーム終了時点に終了操作を行うと(ステップS107)、ステップS101のメニュープログラム受信処理に戻る。

(1c)の「ホストコンピュータ1からメニュー画面プログラムをダウンロードして」との記載から,ホストコンピュータ1はメニュー画面プログラムを持っていると認められ,キー42によってゲームが選択されることから見て,メニュー画面には「ゲームを示す情報」があると認められる。
そうすると(1a)?(1c),図1,2からみて,引用例1には
「ゲーム機本体3を内蔵したダウンロード装置2にホストコンピュータ1から通信回線5を通してゲームプログラムをダウンロードするゲームシステムであって,
ホストコンピュータ1は,複数種類のゲームプログラム及びそれらの選択用のメニュー画面プログラムを持ち,
前記ダウンロード装置2,ゲーム機本体3および操作部4は,前記ホストコンピュータ1から前記通信回線5を通じてダウンロードしたメニュー画面プログラムに従ってメニュー画面を表示するディスプレイ41を有し,
客がキー42によりメニュー画面のゲームを示す情報を選択すると,ゲーム機本体3のCPU31はダウンロード装置2のCPU23に選択されたゲームの命令を出し,CPU23はホストコンピュータ1との通信により選択されたゲームのゲームプログラムを要求し,
ホストコンピュータ1から選択されたゲームプログラムをダウンロードするとゲートアレイ22を介してDRAM24に書き込み,
CPU31がDRAM24に書き込まれたゲームプログラムを動作することでゲームが開始され,ゲームが開始されるとワーク用RAM32はゲームプログラムのワーク用RAMとして使用される
ゲームシステム。」(以下,「引用発明1」という。)が記載されている。


(2)また,当審の拒絶の理由に引用した,本願の優先権主張の日前である平成10年5月26日に頒布された「特開平10-137447号公報」(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている(下線は当審にて付与)。

(2a)【0005】====機種の異なるゲーム装置間でのソフトの互換性====
ある機種のゲーム装置にはその機種専用のソフトのROMカセットが供給されている。ある機種のゲーム装置用のROMカセットは別の機種のゲーム装置には使えない。ソフトとハードの両面について異機種間の互換性はない。つまり、ある機種のゲーム装置用のROMカセットは、別の機種のゲーム装置にはめ込むことができない。それだけでなく、はめ込み接続用のアダプタを設けて異機種のROMカセットをあるゲーム装置に電気的に接続しても、機種によってゲーム装置コンピュータのアーキテクチャが異なり、それに合せてソフトの記述形式も異なり、他機種のソフトは実行できない。

(2b)【0021】
【発明の実施の形態】
====システム全体の概略====
<基本的な構成> 本形態にあっては、図1に示すように、テレビ利用タイプの64ビットゲーム装置である「NINTENDO64」(第一の種類のゲーム装置A)本体10にケーブル30bを介してコントロールアダプタ(エミュレーション用アダプタ)30を接続する。このアダプタ30に、ディスプレイ一体型8ビットゲーム装置である「ゲームボーイ」(第二の種類のゲーム装置B)用のROMカセット20を装着するとともに、本体10にエミュレーションカセット(エミュレーション用記憶媒体)50を装着する。もちろん本体10には図示しないテレビが接続される。
【0022】<基本的な動作> 本体10に電源を投入すると、カセット内のエミュレーション・プログラムが本体10内に読み込まれてこれが直ちに実行される。この実行によりROMカセット20のゲーム装置B用ソフトがコントロールアダプタ30及びケーブル30bを介して本体10に読み込まれ、これのソフトエミュレーション処理が行われる。この処理により、ゲーム装置B用ソフトがゲーム装置A本体10で実行可能なデータ形式に変換されて実行され、本体10に接続されたテレビにゲームイメージを表示させるとともに、ゲームサウンドをテレビのスピーカから出力させる。プレーヤは、ゲームイメージやゲームサウンドを見聞きしながら、コントロールアダプタ30の各種スイッチ(操作入力部)30aを操作してゲームをプレイするようになっている。

(2c)【0029】<エミュレーションカセット> エミュレーションカセット50は、ゲーム装置A専用ゲームカセットと同じ構造のコネクタを備え、図1に示すように、本体カセット挿入口10aに装着して格納されたエミュレーション・プログラムが読み出されるようになっている。このプログラムはゲーム装置A本体10の64ビットCPUで実行可能なデータ形式で記述されており、前述したように、このプログラムの実行によりソフトをROMカセット20から本体10に読み込み、解釈実行する。このとき後述するように、ソフト自体の解釈実行だけでなく画像データの変換も行う。すなわち、解釈されたソフトの実行によって生成された画像データについて本体10からテレビに表示できるデータ形式に変換する。

(2d)【0032】====エミュレーションしようとするソフトの読み込み====
基本的な動作としては、本体10に電源を投入してゲーム装置A本体10を起動すると、図4のフローチャートに示すように、CPU13は所定のリセット処理を行った(S1)後に初期化の処理を行う(S2)。このときCPU13は、図1のカセット挿入口10aに接続されたエミュレーションカセット50からエミュレーション・プログラムを読み込み、これをRAMに展開し、そのエミュレーション・プログラムを実行する。以後このプログラムのオペレーティングシーケンスに従って本体10が動作する。
【0033】まずコントロールアダプタ30に装着されたゲーム装置B用ROMカセット20からソフトを読み込み、これを本体10のRAMに展開する(S3)。次に展開されたソフトが、ゲーム装置B(「ゲームボーイ」)純正用か、あるいは従来技術の項で説明した「スーパーゲームボーイ」対応のものかを判断する(S4)。次にそれぞれの違いに応じた付加機能を設定し(S5,S6)、後述するようなソフトのエミュレーションをスタートし、そのソフトを解釈し実行する(S7,S8)。

(2e)【0035】====エミュレーション処理====
<ゲーム装置B用ゲームアルゴリズムのエミュレーション> ゲーム装置B用ROMカセット20からコントロールアダプタ30を介して本体10に読み込まれたソフトのデータ形式は、当然ながらゲーム装置Bの8ビットCPUで実行可能なものとなっている。このソフトのアルゴリズムについて、エミュレーション・プログラムが本体10の64ビットCPU13で実行可能なデータ形式にマシンコードを変換し、これを実行することによりゲームを進行させていく。
【0036】<画像データのエミュレーション> エミュレーション処理されたゲームアルゴリズムの実行に伴って画像データが生成されて行くが、この画像データは、ゲーム装置B本体のドットマトリクス形モノクロ液晶ディスプレイに表示されるビットマップ形式のドットデータとなっている。具体的には、輝度やコントラストの度合いを示すビットデータがドット毎に割り振られた形となっており、例えば4階調(2ビット)のデータが液晶ディスプレイで水平方向のドット単位で直列に生成されていく。当然ながら、ラスタスキャン形のテレビに出力するように設計された本体10の内部回路でこのような形式のデータをそのまま扱うことはできない。

(2f)【0046】====実施の別形態====
前述した形態にあっては、ゲーム装置B用ソフトをコントロールアダプタ30を介してゲーム装置B専用ROMカセット20から本体10に読み込んでいた。ここで実施の別形態として、ゲーム装置B用ソフトをエミュレーションカセット50にエミュレーション・プログラムとともに格納しておき、ここから当該ソフトを本体10に読み込むようにする。読み込んだ後は、前述した形態と同様にエミュレーション処理を行ってソフトを実行する。このとき、ゲーム装置B専用ROMカセット20やこれが装着されるコントロールアダプタ30を省略して本体10専用コントローラ40でゲームプレイの操作を行うが、加えてコントロールアダプタ30を本体10に接続し、複数のコントローラで操作を行ってもよい。これにより複数のプレーヤがゲームに参加することができる。

(2g)【0048】
【発明の効果】以上説明したように本発明にあっては、異なる種類のソフトを実行するにあたり、電子データの形態のエミュレーション・プログラムの実行によりソフトをゲーム装置Aで解釈実行する。したがって、従来のように専用プロセッサを中心とした複雑なディジタル信号処理回路をわざわざ用意する必要がなく、大幅なコストダウンが図れる。
【0049】ソフトのデータフォーマット形式や、これに付加される機能、および実際に用いるゲーム装置本体について種々の仕様変更があっても、エミュレーション用プログラムを変更するだけで対応できるので、これが非常に簡単で済み、この点においてもコストパフォーマンスが有利となる。
【0050】第二形式の入出力機器に対応する入力機能を備えるのに加えて、第一形式の入出力機器としても兼用できる入力機能をエミュレーションアダプタが備えるようにすれば、第一の種類のゲーム装置A本来の使い方、すなわち第一形式で記述されて同形式の記憶媒体に格納されたソフトを同形式の媒体結合器から読み取って実行する場合でも、このアダプタを用いて操作入力でき、わざわざゲーム装置A用の入出力機器を接続する必要がない。このアダプタをゲーム装置A専用コントローラと併用すれば複数のプレーヤが同時にゲームを行うことができる。
【0051】さらに、ゲーム装置B用の形式で記述されたソフトをエミュレーション・プログラムとともにゲームA用の記憶媒体に格納するようにすれば、ゲーム装置B用の記憶媒体やこれが装着されるエミュレーション用アダプタを省略できる。したがって最小限の構成でエミュレーション機能を実現できる。


第4 当審の判断
1 本願発明と引用発明1の対比
本願発明と引用発明1を対比すると,
引用発明1の「ダウンロード装置2,ゲーム機本体3および操作部4」は本願発明の「第1ゲーム機」に相当し,
以下同様に,「ホストコンピュータ1」は「ゲームプログラム配信装置」に,
「通信回線5」は双方向に伝送しているから「双方向情報伝送媒体」に,
「ゲームシステム」は「ゲームプログラム配信システム」に,
「ディスプレイ41」は「表示手段」に,
「ダウンロード」は「配信」に,
プログラムの「動作」は「処理」に,それぞれ相当する。

さらに,引用発明1は以下のように本願発明の手段を備えている。
・引用発明1では「ホストコンピュータ1は,複数種類のゲームプログラム及びそれらの選択用のメニュー画面プログラムを持」っているから,ホストコンピュータ1はプログラムを記憶する手段を備えているといえ,引用発明1は本願発明の「プログラム記憶手段」に対応する手段を備えている。
・引用発明1では「メニュー画面プログラム」を「ホストコンピュータ1から通信回線5を通じてダウンロード」しているから,引用発明1のホストコンピュータ1は本願発明の「送信手段」に対応する手段を備えている。
・引用発明1では,ホストコンピュータ1が「ゲームプログラム選択用のメニュー画面プログラムを持ち」,「メニュー画面プログラム」を「ホストコンピュータ1から通信回線5を通じてダウンロード」しているから,引用発明1は本願発明の「ゲーム選択プログラム」に対応する構成を有している。
・引用発明1では「ホストコンピュータ1から選択されたゲームプログラムをダウンロードするとゲートアレイ22を介してDRAM24に書き込」むから,ホストコンピュータ1はゲームプレイ用プログラムを配信する手段を備えているといえ,引用発明1は本願発明の「配信処理手段」に対応する手段を備えている。
・引用発明1では「客がキー42によりメニュー画面のゲームを示す情報を選択すると,ゲーム機本体3のCPU31はダウンロード装置2のCPU23に選択されたゲームの命令を出し,CPU23はホストコンピュータ1との通信により選択されたゲームのゲームプログラムを要求」するから,引用発明1は本願発明の「選択手段」と「返信手段」に対応する手段を備えている。
・引用発明1では「CPU31がDRAM24に書き込まれたゲームプログラムを動作することでゲームが開始され,ゲームが開始されるとワーク用RAM32はゲームプログラムのワーク用RAMとして使用される」から,引用発明1は本願発明の「処理手段」に対応する手段を備えている。

また,引用発明1の構成は以下のように本願発明の構成と共通している。
・引用発明1の「ゲームプログラム」と本願発明の「第1ゲーム機とは異なる第2のアーキテクチャを採用しかつ処理能力の低い第2ゲーム機用の複数のゲームプログラムと,前記第2ゲーム機をエミュレーションさせることにより,前記ゲームプログラムを前記第1ゲーム機で実行可能にするための少なくとも1つのエミュレータプログラム」は,共に「ゲームプレイ用プログラム」である点で共通している。
・第1ゲーム機に設けられる,引用発明1の「DRAM24」と本願発明の「書込み読み出し可能な不揮発性メモリ」は,共に「メモリ」である点で共通している。
・引用発明1の「ゲームを示す情報」と本願発明の「ゲームタイトル」は,共に「ゲーム識別情報」である点で共通している。

したがって,両者は
「第1ゲーム機に対して,ゲームプログラム配信装置から双方向情報伝送媒体を介してゲームプログラムを配信するゲームプログラム配信システムであって,
前記ゲームプログラム配信装置は,
複数のゲームプレイ用プログラムと,前記第1ゲーム機に前記複数のゲームプレイ用プログラムのゲーム識別情報を表示させ,その表示された各ゲーム識別情報の中からプレイヤに所望のゲーム識別情報を選択させるゲーム選択プログラムとを記憶するプログラム記憶手段,
前記双方向情報伝達媒体を介して,前記ゲーム選択プログラムを第1ゲーム機に送信する送信手段,および
前記第1ゲーム機において選択されたゲーム識別情報が前記双方向情報伝達媒体を介して返信されたとき,前記ゲーム識別情報のゲームプレイ用プログラムを前記第1ゲーム機に配信する配信処理手段,
前記第1ゲーム機は,
前記双方向情報伝達媒体を介して送られてきたゲーム選択プログラムを実行して前記各ゲーム識別情報を表示する表示手段,
前記表示手段によって表示された前記各ゲーム識別情報の中から所望のゲーム識別情報を選択する操作を受け付ける選択手段,
選択された所望のゲーム識別情報を,前記ゲームプログラム配信装置に返信する返信手段,
前記選択された所望のゲーム識別情報が返信された後に,前記ゲームプログラム配信装置から配信されてきたゲームプレイ用プログラムのデータを記憶するメモリ,
前記ゲームプログラム配信装置から配信されたゲームプレイ用プログラムを実行することにより,ゲームを前記第1ゲーム機においてプレイ可能に処理する処理手段を備える,ゲームプログラム配信システム。」で一致し,以下の点で相違する。

相違点1
ゲームプログラム配信装置の記憶手段に記憶され,配信処理手段により配信され,メモリに記憶され,処理手段で処理される「ゲームプレイ用プログラム」が,本願発明では,「(第1のアーキテクチャを採用した)第1ゲーム機とは異なる第2のアーキテクチャを採用しかつ処理能力の低い第2ゲーム機用の複数のゲームプログラムと,前記第2ゲーム機をエミュレーションさせることにより,前記ゲームプログラムを前記第1ゲーム機で実行可能にするための少なくとも1つのエミュレータプログラム」であるのに対し,引用発明1では,単に「ゲームプログラム」である点。

相違点2
「選択された所望のゲーム識別情報が返信された後に,ゲームプログラム配信装置から配信されてきたゲームプレイ用プログラムのデータを記憶するメモリ」が,本願発明では「書込み読み出し可能な不揮発性メモリ」であるのに対し,引用発明1では「DRAM」である点。

相違点3
ゲーム識別情報が,本願発明では「ゲームタイトル」であるのに対し,引用発明1では「ゲームを示す情報」であって,タイトルであるかは不明である点。

2 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
<相違点1について>
引用例2には,8ビットのアーキテクチャを用いた「ゲームボーイ」用のソフトをエミュレーション・プログラムとともに格納しておき((2f),(2g)参照),当該「ゲームボーイ」のソフトを,当該エミュレーション・プログラムにより処理することにより64ビットCPUで実行可能なデータ形式に変換して64ビットのアーキテクチャを用いた「NINTENDO64」で実行する点((2a)?(2e),(2g)参照)が記載されている。そして,引用例2の「ゲームボーイ用ソフト」及び「エミュレーション・プログラム」が,相違点1に係る本願発明の「第1のアーキテクチャを採用した第1ゲーム機とは異なる第2のアーキテクチャを採用しかつ処理能力の低い第2ゲーム機用の複数のゲームプログラム」及び「第2ゲーム機をエミュレーションさせることにより,ゲームプログラムを第1ゲーム機で実行可能にするための少なくとも1つのエミュレータプログラム」に相当するから,「第1のアーキテクチャを採用した第1ゲーム機とは異なる第2のアーキテクチャを採用した処理能力の低い第2ゲーム機用のゲームプログラム」と「処理手段によって当該ゲームプログラムを第1ゲーム機においてプレイ可能に処理するエミュレータプログラム」とを一体的にゲームプレイ用プログラムとして扱うことは公知の技術である。
引用発明1は引用例2に記載されたものと同様にプログラムにより動作するゲーム機であるから,引用発明1に用いる「ゲームプレイ用プログラム」として引用例2の上記公知の技術を採用して,「第1のアーキテクチャを採用した第1ゲーム機とは異なる第2のアーキテクチャを採用した処理能力の低い第2ゲーム機用のゲームプログラム」を「処理手段によって当該ゲームプログラムを第1ゲーム機においてプレイ可能に処理するエミュレータプログラム」と共に記憶し,プレイ可能に処理することは当業者が容易に想到したことである。そして,当該採用に際しては,引用発明1ではゲームプログラムは記憶され,配信され,配信後にメモリに記憶されるのであるから,ゲームプログラムをエミュレータプログラムと共に記憶し,配信し,配信後にメモリに記憶することが必要であることは,自明な事項にすぎない。
したがって,本願発明の相違点1に係る構成は,当業者が容易になし得たことである。

<相違点2について>
書込み読み出し可能な不揮発性メモリは当業者の周知技術であり,メモリをDRAMにするか書込み読み出し可能な不揮発性メモリにするかは,使用目的等により当業者が適宜設計する事項である。そして,ゲームプログラム等は電源再投入後の使用が見込まれるから,記憶するメモリを書込み読み出し可能な不揮発性メモリとすることは当業者が容易になし得たことである。

<相違点3について>
引用例1の「メニュー画面プログラム」はゲームを選択するためのプログラムであって,ゲームタイトルでゲームを識別して選択することは普通に行われていることであるから,ゲームを選択させるためにゲームタイトルを表示することは当業者が容易になし得たことである。

そして,本願発明の作用・効果は,引用発明1および引用例2に記載された事項から当業者が予測し得る範囲のものであって,格別なものではない。


3 意見書における請求人の主張について
出願人は平成23年6月30日付意見書において以下のように述べている。
(1)引用発明1では、「ダウンロード装置2,ゲーム機本体3および操作部4」を組み合わせているため、ゲームを開始するためには、ダウンロード装置2のCPU23とゲーム機本体3のCPU31とが連携して動作するためのアルゴリズム(プログラム)が必要になります。これに対して、本願発明の第1ゲーム機は1つのCPU21で動作するため、2つのCPUを連携させるアルゴリズムを必要としません。従いまして、「ダウンロード装置2,ゲーム機本体3および操作部4」は本願発明1の「第1ゲーム機」に相当しません。
(2)引用例1の段落番号【0004】には「フォーマットプログラムをダウンロードして書き込むようにすると上述したゲーム機のコスト上昇という問題が起きる。」と記述されているため、引用例1からゲームプログラムを不揮発性のメモリに記憶させるという発想を持つことができません。また、引用例2では、ソフトとエミュレーション・プログラムとは記憶媒体に記憶されているため、それらのプログラムを改めて不揮発性のメモリに記憶させる必要がありません。従いまして、当業者は、引用例1および引用例2から、本願発明のように配信されたプログラムを不揮発性のメモリに記憶させることを、容易に発想することができません。

しかしながら,以下のように請求人の主張はいずれも採用できない。
(1)について
本願発明の第1ゲーム機がいくつのCPUでどのように動作するかは請求項1に規定されていないから,本主張は請求項の記載に基づいたものではない。
なお,装置を複数のCPUで当該複数のCPUに対応したプログラムで分散して処理するか,1つのCPUで当該1つのCPUに対応したプログラムにより処理するかは当業者の設計的事項である。
(2)について
引用例1の【0004】の記載は,【0003】の「通信制御機能を新たに持たせなければならず,既存のゲーム機が使用できないことなどによりゲーム機の開発,製造コストが上昇する。」との記載,及び【0014】の「ダウンロード装置を設けることにより,既存のゲーム機を変更することなしに,・・・最新のメニュー画面及びゲームプログラムが使用でき,・・・。このように,既存のゲーム機を変更する必要がないので,ゲーム機の開発,製造コストの上昇を抑制することができる。」との記載等を合わせて考慮すると,図1のゲーム機本体3に相当する既存のゲーム機を改造して通信機能を持たせるとコスト上昇という問題が起きることを意味していると認められる。
これに対して,当審では,引用例1の図1におけるダウンロード装置2とゲーム機本体3を合わせたゲームシステムとして引用発明1を認定しているのであるから,当該出願人の主張は採用できない。
また,引用例2のエミュレーション・プログラムは配信されたものではないが,上述するように引用発明1に引用例2に記載の技術的事項を適用することにより,配信とメモリへの記憶が必要となることは自明である。

4 まとめ
したがって,本願発明は,引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-10 
結審通知日 2011-11-16 
審決日 2011-12-01 
出願番号 特願2000-125832(P2000-125832)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇佐田 健二  
特許庁審判長 鈴野 幹夫
特許庁審判官 宮崎 恭
仁科 雅弘
発明の名称 ゲームプログラム配信システムおよびそれに用いる装置  
代理人 山田 義人  

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