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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1250453
審判番号 不服2011-8002  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-15 
確定日 2012-01-12 
事件の表示 特願2006-252407「電子写真感光体」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月 3日出願公開、特開2008- 76465〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成18年9月19日の出願であって、平成22年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年4月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5にそれぞれ記載された事項によって特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、次のとおりのものであると認める。

「導電性支持体上に電荷発生層、電荷輸送層、保護層をこの順に積層して成る電子写真感光体において、該保護層がパルス発光光源の光照射により反応硬化させた反応硬化膜であることを特徴とする電子写真感光体。」

3 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-345662号公報(以下「引用例」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1)「【請求項1】
支持体上に感光層あるいは感光層及び保護層を有する電子写真感光体において、重合性官能基を有する化合物を重合あるいは架橋することにより形成した樹脂層を持つ表面層であり、かつ該表面層に、形状係数SF-1が140より大きく、かつSF-2が120より大きい非球状のフッ素原子含有樹脂微粒子を含有することを特徴とする電子写真感光体。
…(略)…
【請求項7】
請求項1に記載の非球状のフッ素原子含有樹脂微粒子を含有する感光層あるいは保護層において、該感光層あるいは保護層の少なくとも一つの層が紫外線を照射されることにより形成されることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項8】
紫外線を照射されることにより形成される層が、電荷輸送層あるいは保護層である請求項1および請求項7に記載の電子写真感光体。
…(略)…
【請求項10】
紫外線を照射されることにより形成される層が、連鎖重合性官能基を有する化合物を重合又は架橋することにより硬化した層である請求項1および請求項7?9のいずれかに記載の電子写真感光体。」

(2)「【0001】
本発明は電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置に関し、詳しくは、重合性官能基を有する化合物を重合あるいは架橋することにより形成した樹脂層を持つ表面層であり、かつ該表面層に、形状係数SF-1が140より大きく、SF-2が120より大きい非球状のフッ素原子含有樹脂微粒子を含有する電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真感光体に用いられる材料として有機光導電材料は、その高生産性や無公害性等の利点が注目され、広く用いられるようになってきた。これらの電子写真感光体は、電気的及び機械的特性の双方を満足するために電荷発生層と電荷輸送層を積層した機能分離型の電子写真感光体として利用される場合が多い。一方、当然のことながら電子写真感光体には適用される電子写真プロセスに応じた感度、電気的特性、更には光学的特性を備えていることが要求される。また、繰り返し使用される電子写真感光体にあっては、その電子写真感光体表面には帯電、画像露光、トナー現像、紙への転写、クリーニング処理といった電気的や機械的外力が直接加えられるため、それらに対する耐久性も要求され、具体的には、摺擦による表面の磨耗や傷の発生に対する耐久性、帯電による表面劣化による転写効率や滑り性の低下、さらには感度低下、電位低下等の電気特性の劣化に対する耐久性も要求される。
【0003】
一般に電子写真感光体の表面は薄い樹脂層であり、樹脂の特性が非常に重要である。上述の諸条件をある程度満足する樹脂として、近年アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等が実用化されているが、前述したような特性の全てがこれらの樹脂で満足されるわけではなく、特に電子写真感光体の高耐久化を図る上では該樹脂の被膜硬度は十分高いとは言い難い。これらの樹脂を表面層形成用の樹脂として用いた場合でも繰り返し使用時において表面層の磨耗が起こり、更に傷が発生するという問題点があった。
【0004】
これらの問題点を解決する手段として、硬化性の樹脂を電荷輸送層用の樹脂として用いる試みが、例えば特開平2-127652号公報(特許文献1)等に開示されている。このように、電荷輸送層用の樹脂に硬化性の樹脂を用い電荷輸送層を硬化、架橋することによって機械的強度が増し、繰り返し使用時の耐削れ性及び耐傷性は大きく向上する。しかしながら、このようにして作成した電子写真感光体の表面層の摩擦力は大きく、トナー転写後の感光体面の残留トナー粒子を回収するためのクリ-ニングブレ-ドを有する電子写真装置に該感光体をそのまま設置した場合、クリ-ニングブレ-ドの反転、ブレ-ドエッジ部の欠けなどによるクリ-ニング不良の発生やクリーニングブレードの鳴きなどの問題が生じることがあった。そのため、潤滑剤などを表面層に分散することで表面エネルギーを低下させ、電子写真感光体表面の摩擦力を小さくすることによって、クリーニング不良やブレード鳴きといったクリーニング性は大幅に向上した。
【0005】
しかしながら、近年のプリントスピードの高速化、高PV化、電子写真装置の使用環境の多様化といった、市場動向に対応すべくさらなる検討を進めた結果、削れ性が向上したことにより、繰り返し使用時に表面層に分散した滑剤が電子写真感光体表面に表出しにくくなり、また、表面に滑剤が表出しても、表出した滑剤が表面に長時間留まることができずに離脱してしまう場合があった。また、高温高湿の過酷な環境下では、電子写真装置の使用時に、電子写真感光体表面の摩擦力は微視的に大きくなり易く、さらには、電子写真感光体の表面から滑剤が離脱してしまうことが原因でさらに摩擦力が大きくなり、クリーニング性、ベタ白通紙時のブレード鳴きに対して満足できるものではない場合があり、さらなる検討が必要であった。
【特許文献1】特開平2-127652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述の問題点について考慮されたものであり、高温高湿下での厳しい条件での繰り返し使用時でもクリーニング性が良好で、さらにはブレード鳴きも発生しない電子写真感光体、その電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、支持体上に感光層あるいは感光層及び保護層を有する電子写真感光体において、重合性官能基を有する化合物を重合あるいは架橋することにより形成した樹脂層を持つ表面層であり、かつ該表面層に、形状係数SF-1が140より大きく、SF-2が120より大きい非球状のフッ素原子含有樹脂微粒子を含有することにより
、上記課題が達成されることを見出した。これを利用することにより、従来と比較してより厳しい環境下でもクリーニング性が良好で、ブレード鳴きが発生しない電子写真感光体が提供される。
【0008】
また、本発明に従って、上記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、高温高湿の環境でもクリーニングブレードの鳴きが発生せず、さらには優れたクリーニング性を有し、高性能を有する電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
本発明における表面層の樹脂層形成は重合・架橋反応を利用したものであるが、重合・架橋反応は、放射線、紫外線、熱のいずれも利用することが可能である。すなわち、表面層形成の工程において、塗布した後に重合または架橋し硬化するものであればいずれのものでもかまわない。中でも放射線、紫外線、熱のいずれかを利用した連鎖重合反応による硬化が可能である分子内に不飽和重合性官能基を有する化合物は、反応性の高さ、反応速度の速さ、材料の汎用性等の点から好ましい。また、熱を利用した重縮合反応も好ましく利用できる。本発明における不飽和重合性官能基を有する化合物は、モノマー、オリゴマーあるいはマクロマーのいずれにも限定されない。
【0012】
本発明の電子写真感光体の構成は、支持体上に感光層として電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した構成又は逆に電荷輸送層、電荷発生層をこの順に積層した構成、さらには電荷発生材料と電荷輸送材料を結着樹脂中に分散した単層より構成されるもののいずれの構成をとることも可能である。更に、前記感光層上に表面保護層を形成することも可能である。なかでも、電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した機能分離型の電子写真感光体構成、又は前記電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した機能分離型の感光層上に保護層を形成した構成が好ましい。
【0013】
また、本発明における表面層が電荷輸送層あるいは保護層のいずれの場合においても、両者は硬化後に電荷輸送能を有している必要があるが、前記不飽和重合性官能基を有する化合物が電荷輸送能力を有さない化合物である場合においては、電荷輸送材料や導電性材料の添加により電荷輸送能を確保することが好ましく、一方前記不飽和重合性官能基を有する化合物自体が電荷輸送能を有する場合においては、この限りではない。ただし、表面層の膜硬度や種々の電子写真特性の点からして、後者のような電荷輸送能を有する化合物を使用するのがより好ましい。更に、電荷輸送能を有する化合物の中でも、電子写真プロセスや材料の汎用性の点からして、正孔輸送能を有する化合物が更に好ましい。
【0014】
本発明における感光体の表面層に含まれるフッ素原子含有樹脂微粒子に関して説明する。
【0015】
潤滑剤としてはポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素原子含有樹脂、球状のアクリル樹脂、ポリエチレン樹脂などの粉末や酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどの金属酸化物粉末などが知られている。特に、フッ素原子を多量に含むフッ素原子含有樹脂は表面エネルギ-が著しく小さいので潤滑剤としての効果が大きい。本発明において用いられるフッ素原子含有樹脂粒子としては、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン樹脂、六フッ化エチレンプロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、二フッ化二塩化エチレン樹脂及びこれらの共重合体の中から1種あるいは2種以上を適宜選択するのが好ましいが、特に四フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂が好ましい。表面層や保護層が十分な摩擦力の低下を示すためには、表面層や保護層に5重量%以上のフッ素原子含有樹脂微粒子を含有させる必要があった。表面層を塗布する際に用いられる塗料は、前記フッ素原子含有樹脂微粒子を分散させることにより得られる。分散の方法としては、ボールミル、超音波、ペイントシェーカー、レッドデビル、サンドミルなどの方法が用いられる。
【0016】
本発明における、フッ素原子含有樹脂微粒子は、形状係数SF-1が140より大きく、SF-2が120より大きい非球状のフッ素原子含有樹脂微粒子であるが、市販品のフッ素原子含有樹脂粒子をそのまま用いる以外に、市販のフッ素原子含有樹脂微粒子をペイントシェーカーやサンドミルなどの物理的な力を長時間加えることによって変形させることで得ることも可能である。
【0017】
本発明に用いられる形状係数を示すSF-1,SF-2とは、日立製作所製FE-SEM(S-4700)を用いて拡大し、フッ素原子含有樹脂微粒子を100個無作為にサンプリングし、その画像情報はインターフェースを介してニコレ社製画像解析装置(Luzex3)に導入し解析を行ない、下式より算出し得られた値を本発明においては形状係数SF-1,SF-2と定義した。なお、測定時の拡大倍率は10万倍で行った。
【0018】
SF-1=(MXLNG)^(2) /AREA×(π/4)×100
SF-2=(PERI)^(2) /AREA×(π/4)×100
(AREA:フッ素原子含有樹脂微粒子投影面積、MXLNG:絶対最大長、PERI:周長)
形状係数SF-1は球形度合いを示し、140より大きいと球形から徐々に不定形となる。SF-2は凹凸度合いを示し、120より大きいと表面積の凹凸が顕著となる。なお、SF-1,SF-2ともに真球である場合は100となる。
【0019】
フッ素原子含有樹脂粒子の形状の作用効果としては、表面積の凹凸によって表面樹脂層からのフッ素原子含有樹脂粒子が容易に離脱せず、フッ素原子含有樹脂が表出した後も表面樹脂層に留まることが可能となる。
【0020】
フッ素原子含有樹脂微粒子をペイントシェーカーやサンドミルなどの物理的な力を加えることによって変形させる場合、通常、形状係数SF-1は120?300、SF?2は、105?200となる。本発明においては、SF-1が140、SF-2が120より小さい場合、重合性官能基を有する化合物を重合あるいは架橋することにより形成した樹脂層を持つ表面層から、フッ素原子含有樹脂粒子が離脱する場合がある。そのため、本発明の効果を満足するためには、SF-1が140、SF-2が120より大きい非球状フッ素原子含有樹脂粒子とすることが必要である。なお、市販品をそのまま用いる際にも、前記の形状係数のフッ素原子含有樹脂粒子を用いることが必要である。
【0021】
本発明の電子写真感光体の感光層は、導電性支持体上に形成される。支持体は、導電性を有するものであればよい。例えば、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、亜鉛及びステンレス等の金属や合金をドラム状又はシート状に成形したもの、アルミニウム及び銅等の金属箔をプラスチックフィルムにラミネートしたもの、アルミニウム、酸化インジウム及び酸化錫等をプラスチックフィルムに蒸着したもの、導電性物質を単独又は結着樹脂と共に塗布して導電層を設けた金属、プラスチックフィルム及び紙等が挙げられる。
…(略)…
【0024】
本発明の電子写真感光体が機能分離型の電子写真感光体である場合には、電荷発生層及び電荷輸送層を積層する。電荷発生層に用いる電荷発生材料としては、セレン-テルル、ピリリウム、チアピリリウム系染料、また各種の中心金属及び結晶系、具体的には例えばα、β、γ、ε又はX型等の結晶型を有するフタロシアニン化合物、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、ジスアゾ顔料、モノアゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、非対称キノシアニン顔料、キノシアニン及び特開昭54-143645号公報に記載のアモルファスシリコン等が挙げられる。
【0025】
電荷発生層は前記電荷発生材料を0.3?4倍量の結着樹脂及び溶剤と共にホモジナイザー、超音波分散、ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、アトライター又はロールミル等の方法で均一に分散し、得られた分散液を塗布し、乾燥することによって形成されるか、又は前記電荷発生材料の蒸着膜等、単独組成の膜として形成される。その膜厚は5μm以下であることが好ましく、特に0.1?2μmの範囲であることが好ましい。
【0026】
結着樹脂としては、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂及びエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0027】
次に、電荷輸送層について説明する。本発明において、表面層が電荷輸送層である場合には、電荷輸送層が重合性官能基を有する化合物を重合あるいは架橋することにより形成される層となる。電荷輸送材料としては、ポリ-N-ビニルカルバゾール及びポリスチリルアントラセン等の複素環や縮合多環芳香族を有する高分子化合物や、ピラゾリン、イミダゾール、オキサゾール、トリアゾール及びカルバゾール等の複素環化合物、トリフェニルメタン等のトリアリールアルカン誘導体、トリフェニルアミン等のトリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、N-フェニルカルバゾール誘導体、スチルベン誘導体及びヒドラゾン誘導体等の低分子化合物が挙げられるが、これらを重合あるいは架橋可能な重合性官能基を有する化合物と共に適当な溶剤に分散あるいは溶解させ、先の電荷発生層上に塗布した後、重合あるいは架橋させることで電荷輸送層を形成する。
【0028】
放射線、紫外線、熱のいずれかにより重合・架橋可能な化合物としては、放射線、紫外線、熱のいずれかによりラジカル等の活性点が発生し、重合あるいは架橋することが可能な化合物であればよく、一般的には連鎖重合性官能基を有する化合物が挙げられる。中でも分子内に不飽和重合性官能基を有する化合物は、反応性の高さ、反応速度の速さ、材料の汎用性等の点から好ましく、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基及びスチレン基等を有する化合物が特に好ましい。また、電荷輸送能、好ましくは正孔輸送能を有し、かつ放射線、紫外線、熱のいずれかにより重合・架橋可能な化合物を用いる場合は、それ単独で電荷輸送層を形成、あるいは電荷輸送材料及び電荷輸送能を有さない放射線、紫外線、熱のいずれかにより重合・架橋可能な化合物を適宜混合することが可能である。
さらには、熱を利用した重合・架橋による硬化反応を利用する際には、重縮合が可能なフェノール系化合物や有機金属化合物を用いることができる。
…(略)…
【0031】
本発明において、表面層が保護層である場合には、保護層が放射線、紫外線、熱のいずれかにより重合・架橋することで形成される層となり、この工程により重合又は架橋し硬化する化合物から構成される。この場合、下層である感光層の構成は、電荷発生層及び電荷輸送層をこの順に積層した機能分離型電子写真感光体、電荷輸送層及び電荷発生層をこの順に積層した機能分離型電子写真感光体、あるいは単層電子写真感光体のいずれもが可能であるが、電荷発生層及び電荷輸送層をこの順に積層した電子写真感光体構成が好ましい。
【0032】
この場合、電荷発生層は、前述と同様な方法で形成され、電荷輸送層は、先の電荷輸送材料をスチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂及びエポキシ樹脂等の結着樹脂中に分散あるいは溶解した溶液を用いて形成される。場合によっては、放射線、紫外線、熱のいずれかにより重合・架橋可能な化合物を有する化合物の添加も可能である。保護層は硬化後に電荷輸送能を有している必要があるため、重合・架橋し保護層を形成する化合物自体が電荷輸送能力を有さない化合物である場合においては、前述の電荷輸送材料や導電性材料の添加により電荷輸送能を確保することが好ましい。この場合、電荷輸送材料は、放射線、紫外線、熱のいずれかにより重合・架橋可能な官能基を有しても有さなくてもかまわないが、電荷輸送材料の可塑性による機械的強度の低下を避けるためには、前者が好ましい。導電性材料としては、酸化チタンや酸化錫等の導電性微粒子が一般的ではあるが、その他として、導電性高分子化合物等の利用も可能である。重合・架橋し保護層を形成する化合物自体が電荷輸送能を有する場合においては、この限りではない。本発明においては、表面層の膜硬度や種々の電子写真特性の点からして、後者のような電荷輸送能を有する化合物を使用した表面層が特に好ましい。
【0033】
本発明において各々溶液を塗布する方法は、例えば、浸漬コーティング法、スプレイコーティング法、カーテンコーティング法及びスピンコーティング法等の公知の塗布方法が可能であるが、効率性/生産性の点からは浸漬コーティング法が好ましい。また、蒸着、プラズマCVDその他の公知の製膜方法も適宜選択できる。」

(3)「【0034】
次に、放射線、紫外線、熱による重合・架橋について説明する。
【0035】
本発明における放射線とは、特開2000-66425号公報において開示したものと同様に、電子線及びγ線等が挙げられ、装置の大きさ、安全性、コスト及び汎用性等の種々の点から電子線が好ましい。電子線照射をする場合、加速器としては、スキャニング型、エレクトロカーテン型、ブロードビーム型、パルス型及びラミナー型等のいずれの形成も使用することができる。また、電子線照射により電子写真感光体を形成する本発明においても、電子写真感光体の電気特性及び耐久性能を十分に発現させる上で、電子線の加速電圧と吸収線量が非常に重要なファクターであり、加速電圧は300KV以下が好ましく、最適には150KV以下、また線量は好ましくは1?100Mradの範囲、より好ましくは50Mrad以下の範囲である。加速電圧が300KVを超えたり、線量が100Mradを超えると、電子写真感光体への劣化が起こり易い傾向にあることは該公報において示した通りである。」

(4)「【0036】
本発明における紫外線照射によって重合・架橋反応を行う場合、ラジカルを発生させる光源としては、光開始剤や光鋭感剤の種類により最適なものが選択されるが、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、無電極ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、He-Cdレーザーなどが使用される。また、硬化促進のため光開始剤を用いることが望ましい。光開始剤としては、例えばベンゾフェノン、ミヒラ-ケトン、チオキサントン、ベンゾインブチルエ-テル、アシロキシムエステル、ジベンゾスロベンなどが挙げられる。また、紫外線照射後には加熱処理を行うことも可能である。」

(5)上記(1)、(2)及び(4)から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「電荷発生層と電荷輸送層を積層した機能分離型の電子写真感光体として有機光導電材料を利用した電子写真感光体の表面は薄い樹脂層であり、樹脂の特性が非常に重要であるところ、諸条件をある程度満足する樹脂として、近年アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂を表面層形成用の樹脂として用いた場合でも、繰り返し使用時において表面層の磨耗が起こり、更に傷が発生するという問題点があったので、硬化性の樹脂を電荷輸送層用の樹脂として用いる試みがなされたが、クリ-ニングブレ-ドを有する電子写真装置に該感光体をそのまま設置した場合、クリ-ニング不良の発生やクリーニングブレードの鳴きなどの問題が生じることがあったため、潤滑剤などを表面層に分散することで表面エネルギーを低下させ、電子写真感光体表面の摩擦力を小さくすることによって、クリーニング不良やブレード鳴きといったクリーニング性は大幅に向上したが、削れ性が向上したことにより、繰り返し使用時に表面層に分散した滑剤が電子写真感光体表面に表出しにくくなり、表面に滑剤が表出しても表出した滑剤が表面に長時間留まることができずに離脱してしまう場合があり、また、高温高湿の過酷な環境下では、クリーニング性、ベタ白通紙時のブレード鳴きに対して満足できるものではない場合があり、さらなる検討が必要であったので、高温高湿下での厳しい条件での繰り返し使用時でもクリーニング性が良好で、さらにはブレード鳴きも発生しない電子写真感光体を提供することを目的として、
導電性支持体上に感光層として、電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した機能分離型の感光層上に保護層を形成した構成を有し、
前記保護層が、四フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素原子含有樹脂粒子を含有し、紫外線を照射して、連鎖重合性官能基を有する化合物を重合あるいは架橋することにより硬化して形成した樹脂層である電子写真感光体において、
前記フッ素原子含有樹脂微粒子を、SF-1が140より大きく、かつSF-2が120より大きい非球状のものとして、表面積の凹凸によって表面樹脂層からのフッ素原子含有樹脂粒子が容易に離脱せず、フッ素原子含有樹脂が表出した後も表面樹脂層に止まることが可能となるようにして、厳しい環境下でクリー性が良好で、ブレード鳴きが発生しないようにした電子写真感光体であって、
前記樹脂層を硬化して形成するための紫外線照射する光源として、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプなどの光源を使用した電子写真感光体。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「導電性支持体」、「電荷発生層」、「電荷輸送層」、「保護層」、「電子写真感光体」、「『導電性支持体上に感光層として、電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した機能分離型の感光層上に保護層を形成した構成を有』する『電子写真感光体』」、「光源」、「紫外線を照射」、「重合あるいは架橋」、「硬化」、「樹脂層」及び「重合あるいは架橋しすることにより硬化して形成した樹脂層」は、それぞれ、本願発明の「導電性支持体」、「電荷発生層」、「電荷輸送層」、「保護層」、「電子写真感光体」、「導電性支持体上に電荷発生層、電荷輸送層、保護層をこの順に積層して成る電子写真感光体」、「光源」、「光照射」、「反応」、「硬化」、「膜」及び「反応硬化させた反応硬化膜」に相当する。

(2)上記(1)から、本願発明と引用発明とは、
「導電性支持体上に電荷発生層、電荷輸送層、保護層をこの順に積層して成る電子写真感光体において、該保護層が光源の光照射により反応硬化させた反応硬化膜である電子写真感光体。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願発明では、前記光源が、パルス発光光源であるのに対して、
引用発明では、キセノンランプなどの光源の発光方法が、連続発光なのかパルス発光なのかが明らかでない点。

5 判断
上記相違点について検討する。
(1)紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させるのに用いる光源として、パルスキセノン光源は、本願の出願前に周知であり(以下「周知技術」という。原査定で引用された特開2002-189219号公報(【0098】参照。)、同じく原査定で引用された特開昭62-253609号公報(10頁右下欄5行?11頁左上欄7行参照。)、特開2003-161933号公報(【0144】参照。))、紫外線を照射する光源として、高圧水銀灯などの代わりにパルスキセノン光源を用いると、少ない照射時間で紫外線硬化性樹脂を硬化させることができることも本願の出願前に周知の事項である(以下「周知事項」という。上記特開2002-189219号公報の【0098】の記載及び上記特開2003-161933号公報の【0144】の記載参照。)。

(2)引用発明の「電子写真感光体」において、その「保護層」は、紫外線を照射する光源として、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプなどの光源を使用して、連鎖重合性官能基を有する化合物を重合あるいは架橋することにより硬化して形成した樹脂であるところ、紫外線を照射して化合物を硬化して保護層となる樹脂層を形成する時間を短くするために、引用発明において、化合物を硬化して前記樹脂層を形成するための紫外線を照射する光源として、高圧水銀灯などの代わりに、パルスキセノン光源(本願発明の「パルス発光光源」に相当する。)を用いて、少ない照射時間で紫外線硬化性樹脂を硬化させるようになすこと、すなわち、引用発明において、上記相違点にかかる本願発明の構成となすことは当業者が周知技術及び周知事項に基づいて容易に想到することができた程度のことである。

(3)効果について
ア 本願明細書には、次の(ア)ないし(エ)の記載がある。
(ア)「【発明の効果】
【0014】
本発明により、特性の劣化がなく、耐久性に優れた電子写真感光体を提供することができた。…(略)…
【0016】
連続発光では硬化に3分程度要するが、発光光源にキセノンランプを選択し、その発光方法をパルスにすることで表面層が短時間で硬化することが可能となり約10?20秒で硬化が可能となった。キセノンランプをパルス方式で発光させることで発光させる1回当りの光量が大きいので塗液の開始剤の反応が速くなり硬化に必要とする時間がみじかくなることで硬化速度が速くなり感光体の電荷発生層に与える酸素障害が少なくなることで電特の劣化が抑制される。」
(イ)「【0018】
(光照射装置)
本発明の照射装置はランプ・発信器・充電器・タイミング強制装置からなる。ランプとしてはキセノンランプ・水銀ランプ・メタハラランプ等、UV光が照射可能なランプが使用可能であるが短時間発光に優れたキセノンランプが特に好ましい。例えば岩崎電気社製やキセノン社製がある。これらのランプ発光特性としては例えば、図1に示すように広範囲の波長分布を示すが200?800nmの発光波長分布のなかで最大発光強度を示す波長をピーク波長と定義し、この波長が250?600nmであれば良好に硬化が進行して好ましい。特に好ましくは300?500nmである。尚、図1(a)は本発明に係るパルスキセノンランプの波長分布を示す図であり、図1(b)は連続照射型の高圧水銀ランプの波長分布を示す図である。
【0019】
発信器としては公知のパルス電流発生装置が使用できる。容量は発生する光量に応じて適切な容量を選定すれば良いが高強度の光を得る為には、5μF?100μFで好ましくは10μF?50μFの容量が安定した光量を得る上で好ましい。充電器・タイミング制御装置については発信器を制御できるシステムとして構成されている。ここで発光周波数とは、単位時間当たりに何パルス発光するかを言い本願では1秒当りの発光回数を言う。
【0020】
パルス発光で発生した反応開始成分は短時間で消失することが多く、光照射後ある時間内に次の発光を行うことにより反応開始成分を系内に安定して供給できる為には適正な発光周波数が望ましい。
【0021】
パルスが3パルス/sec未満の場合には他の硬化条件によっては充分に硬化できない場合もあり、120パルス/secを越えるとパルスの発光強度が充分に取れない場合もある為、硬化を充分に達成しつつ、感光体の電位特性低下を抑制する為には3?120パルス/secが好ましく、より好ましくは5?100パルス/secである。」
(ウ)「【0058】
この塗布液を前記電荷輸送層上に浸漬塗布し、キセノンランプを改造したパルスキセノンランプを用い、2.95W/cm^(2)の光強度で、1パルス放射時間を168マイクロ秒/パルスとした。1秒間のパルス回数を3、5、10、100及び120と変化して30秒間照射した電子写真感光体をそれぞれ作製した。比較として、水銀ランプにて0.2W/cm^(2)の光強度で3分間照射した比較の電子写真感光体を作製した。その後120℃、2時間熱風乾燥して、膜厚2.5μmの保護層を作製した。得られた電子写真感光体の評価結果を表1に示す。
【0059】
評価
上記本発明の電子写真感光体及び比較の電子写真感光体をミノルタQMS(MagiColor2300:A4紙16枚/分のプリンター:コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株)社製)に各々装着し、経時の電気特性を測定した。
【0060】
(電気特性を測定)
測定開始時のVo(帯電電位)及びVi(露光電位)及び、35℃、相対湿度 85%の環境で1ヶ月保存した後のVo及びViを測定し結果を表1に示す。
【0061】
尚、Vo及びViの測定は実機内(MagiColor2300)を使用して測定を行った。
【0062】
(硬さの測定)
フィッシャー社製押込み試験機(H100SMC)を使用して押込み荷重(2mN/10秒)をかけて初期と1ヶ月保存後に測定結果を表1に示す。
【0063】
(画像評価)
30℃、85%RH環境下にてドラム20000回転相当実写し、実写終了12時間後の画像を目視評価した。
【0064】
◎:画像流れが全く認められない
○:画像流れがほとんど認められない
△:画像流れがややあるが許容範囲のレベルである
×:画像流れが多く、使用に耐えないレベルである。
【0065】
【表1】


(エ)「【0066】
本発明の電子写真感光体は電気特性の劣化がなく、耐久性に優れていることが判る。」

イ 本願発明による「連続発光では硬化に3分程度要するが、発光光源にキセノンランプを選択し、その発光方法をパルスにすることで表面層が短時間で硬化することが可能となり約10?20秒で硬化が可能となった。」(上記ア(ア)参照。)という効果は、当業者が周知事項(上記(1)参照。)から予測できた程度のものである。

ウ 引用例には、電子線照射により電子写真感光体を形成する場合について、電子写真感光体の電気特性及び耐久性能を十分に発現させる上で、電子線の加速電圧と吸収線量が非常に重要なファクターであり、加速電圧が高すぎたり、線量が高すぎたりすると、電子写真感光体への劣化が起こり易い傾向にあることが記載されているところ(上記3(3)参照。)、引用発明のように、紫外線照射により電子写真感光体を形成する場合についても、電子線照射により電子写真感光体を形成する場合と同様に、電子写真感光体の電気特性及び耐久性能を十分に発現させる上で、紫外線の照射強度や照射時間によっては、電子写真感光体への光劣化が起こる可能性がある程度のことは、電子写真感光体の光劣化という現象を当然に知っている(例.いずれも原査定の理由で引用された特開平4-270363号公報(【0004】の「感光体の光疲労劣化」の記載参照。)、特開平7-234532号公報(【0014】の「熱、オゾン、強光などによりストレスを受け特に中間層が酸化劣化をおこし、電荷の移動あるいは注入が阻止され、残留電位が上昇し感度が低下する」の記載参照。)、特開平8-152728号公報(【0016】の「電荷輸送物質の酸化劣化,光劣化」の記載参照。))当業者が、引用例の上記3(3)の記載から類推して予測できた程度の課題である。
本願明細書に記載されている「電気特性の劣化がなく、耐久性に優れている」(上記ア(エ)参照。)という効果は、上記ア(イ)及び(ウ)の記載からみて、本願発明の「パルス発光光源」について、光源の種類や光源の波長分布等の発光特性と、その光強度、その発光周波数及びその照射時間とを適正に特定したことにより、はじめて奏する効果であるといえる。
しかるところ、本願発明は、パルス発光光源により光照射すること、すなわち、パルス方式で発光させることを特定しているが、その光強度、その発光周波数、その照射時間などは、何ら特定されておらず、光源の種類や光源の波長分布等の発光特性さえも特定されていないので、本願発明の「パルス発光光源」は、キセノンランプ以外のランプを用いてもよく、その発光周波数は3パルス/sec未満でも120パルス/secを超えてもよく、その光強度は2.95W/cm^(2)未満でよく、その照射時間は3分程度要してもよいものであって、これらの条件のものを排除していないものである。
したがって、「電気特性の劣化がなく、耐久性に優れている」という上記効果は、本願発明の効果であるということはできない。

エ 以上のとおりであるから、本願発明の効果は、当業者が引用例の記載事項及び周知事項から予測できた程度のものである。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例の記載事項、周知技術及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例の記載事項、周知技術及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-11 
結審通知日 2011-11-15 
審決日 2011-11-28 
出願番号 特願2006-252407(P2006-252407)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿久津 弘  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 菅野 芳男
小林 英司
発明の名称 電子写真感光体  
代理人 木曽 孝  
代理人 鷲田 公一  
代理人 飯沼 和人  

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