ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1250594 |
審判番号 | 不服2009-305 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-01-05 |
確定日 | 2012-01-16 |
事件の表示 | 平成10年特許願第549922号「結腸癌の予防及び治療用のフルクタン含有組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月26日国際公開、WO98/52578、平成13年12月18日国内公表、特表2001-526671〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、1998年5月14日(パリ条約による優先権主張、1997年5月20日、ヨーロッパ特許庁)を国際出願日とする国際出願であって、本願に係る発明は、平成20年8月13日受付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項21,22に係る発明は、次のとおりである。 「21.組成物が機能性食品である、請求項11から16のいずれか一項に記載の組成物。 22.組成物が医薬である、請求項11から20のいずれか一項に記載の組成物。」 そして、請求項21あるいは22に係る発明では、請求項11を引用しているところ、請求項11には、 「11.非ウシ哺乳類における結腸癌の予防及び/又は治療のため組成物であって、少なくとも15の平均重合度を有するフルクタンを含有する、組成物。」 と記載されているから、結局、請求項21,22に係る発明は、それぞれ、以下の発明を含むものである。 「21.非ウシ哺乳類における結腸癌の予防及び/又は治療のための機能性食品であって、少なくとも15の平均重合度を有するフルクタンを含有する、機能性食品。」(以下、「本願発明21」という。) 「22.非ウシ哺乳類における結腸癌の予防及び/又は治療のための医薬であって、少なくとも15の平均重合度を有するフルクタンを含有する、医薬。」(以下、「本願発明22」という。) 2.平成20年4月11日付けの拒絶の理由の概要 (イ)この出願の請求項1?7,10?21に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記(B)1?3の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (ロ)この出願の請求項1?22に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記(B)1?10の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (B) 1.特開平4-311378号公報 2.特開平4-145101号公報 3.特開昭61-231966号公報 4.特開昭60-89427号公報 5.特開平2-172921号公報 6.特開昭63-93729号公報 7.米国特許第5721345号明細書 8.Mol.Immunol.,1986年,Vol.23,No.8,p903-908 9.Biotechnol.Lett.,1997年 1月,Vol.19,No.1,p19-21 10.Crit.Rev.Food.Sci.Nutr.,1993年,Vol.33,No.2,p103-148 なお、拒絶の理由に関し、請求人は、平成21年1月5日受付けの審判請求書に対する平成21年3月19日受付けの手続補正書の「【本願が特許されるべき理由】第1.拒絶理由の指摘について」の項目において、以下の主張をしている。 「審査官は、平成20年4月11日付け拒絶理由通知で指摘する理由2及び3により、本願請求項1?7及び10?21に係る発明は特許を受けることができないと判断されております。しかしながら、備考欄での主張より明らかな通り、その内実は、特許法第29条第2項の規定に基づくものであります。一方、審査官は、平成20年4月11日付け拒絶理由通知の備考欄での主張から明らかな通り、同じ請求項に係る発明について特許法第29条第1項の規定に基づきその特許性を否定しております。よって、審査官は、未だ出願人に提示していない拒絶理由に基づき拒絶査定を行っており、特許法50条に違背するものと思量致します(平成19年(行ケ)10244号参照)。」 そこで、審査官の指摘した拒絶の理由について検討すると、特許法第29条第1項第3号に基づく上記の拒絶理由(イ)については、平成20年4月11日付け拒絶理由通知においては、理由2として記載されていたものであるが、備考欄の記載において、引用される刊行物である引用文献の番号が「1?4」と記載されている点で、引用文献4についての記載が「理由2.」に記載されている「1?3」なる記載及び備考欄の「請求項10、21に記載された機能性食品及び当該食品を含む請求項1?7、11?20が対象とする組成物は(B)1?3に記載されたものである。」なる記載とは整合しないが、少なくとも、引用文献1?3に記載の発明に基づいて新規性を否定する上記(イ)の点の拒絶理由が通知されていることは明らかである。 次に、上記(ロ)の点の拒絶理由に関して検討すると、平成20年4月11日付け拒絶理由通知においては、「理由3.この出願の下記の請求項に係る発明は、・・・下記(B)1?10の刊行物に記載された発明に基いて、・・・特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と記載され、同通知中の備考欄において、請求項1?22を対象として「理由2/(B)1、5?10」と記載され、これに続いて「(B)4?9には、・・・が記載され、(B)10には、・・・が示唆されているから・・・は当業者が容易に想到することである・・・」と記載され、同じ通知中の記載が相互に矛盾したものとなっている。しかしながら、通知中の備考の記載によれば、審査官は、少なくとも引用文献4?10に記載の発明に基づいて請求項1?22に係る発明の中、組成物が医薬である場合の発明について進歩性(特許法第29条第2項)に基づく拒絶の理由を具体的に指摘しており当該拒絶理由が通知されていることは明らかである。また、請求人も、平成20年8月13日受付けの意見書の「I.拒絶理由の要点」において、「3.本願の請求項1から22に係る発明は、・・・引用文献1(当審注:括弧内の記載は省略する。以下のこの文中においては、括弧書き自体の記載も省略する)、引用文献2、引用文献3、引用文献4、引用文献5、引用文献6、引用文献7、引用文献8、引用文献9及び引用文献10に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と記載し、また、同意見書中のIII-2.に「特許法第29条第1項第3号および同条第2項」として、(3)に、「引用文献4から9は、フルクタンの結腸癌への予防及び治療への適用を教示するものではなく、引用文献10は・・・(中略)・・・また、本発明は、・・・を特徴とするものでありますが、上記引用文献の何れにも、このような本発明の特徴については、開示も示唆もなく、加えて・・・顕著な効果を奏することはこれら引用文献から全く予想外のはずであります。よって、本願発明は引用文献1から8(当審注:「8」は「10」の誤記と解される。)に記載の発明によって新規性及び進歩性の何れをも否定されるものではありません。」(なお、下線は当審で付与した。)と記載していることからみて、請求人は、引用文献4?10に記載の発明に基づく進歩性の拒絶理由が通知されていたことを十分認識しており、意見書においても当該認識に基づいて対応したものと解される。 したがって、出願人に提示していない拒絶理由に基づき拒絶査定を行っている点で特許法50条に違背するとする請求人の主張は採用できない。 3.引用例の記載の概要 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4-311378号公報(前述の引用文献1。以下、「引用例A」という。)、特開平4-145101号公報(前述の引用文献2。以下、「引用例B」という。)、特開昭60-89427号公報(前述の引用文献4。以下、「引用例C」という。)、米国特許第5721345号明細書(前述の引用文献7。以下、「引用例D」という。)、Mol.Immunol.,1986年,Vol.23,No.8,p903-908(前述の引用文献8。以下、「引用例E」という。)、Biotechnol.Lett.,1997年 1月,Vol.19,No.1,p19-21(前述の引用文献9。以下、「引用例F」という。)、Crit.Rev.Food.Sci.Nutr.,1993年,Vol.33,No.2,p103-148(前述の引用文献10。以下、「引用例G」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。 1)引用例A (a1)(2頁1欄8?16行) 「【産業上の利用分野】本発明は、β-2,1結合を主成分とするイヌリンタイプの多糖であるポリフラクタンを含有することにより、酸味および苦渋味がなく呈味が改善され、低粘性かつ難消化性の水溶性食物繊維を高濃度で含む飲料等の液状組成物に関する。 【0002】 【従来技術および発明が解決しようとする問題点】近年、消費者の間では、健康指向の増大により、難消化性食物繊維を含む液状食品等の開発が盛んとなっている。」 (a2)(2頁1欄48?同頁2欄3行) 「本発明で使用するポリフラクタンは、主として砂糖のフラクトース残基側にフラクトースがβ-2,1結合により連結したものであり、分子量が5,000?15,000,000、の範囲のものであるが、好ましくは、10,000?10,000,000のものが望ましい。」 (a3)(2頁2欄13?20行) 「【0009】本発明で使用するポリフラクタンは、前述のごとく、それ自体は公知であり、難消化性、腸内においてビフィズス菌の増殖作用があり、便通を良好にする効果が期待される事、血糖負荷試験の結果でも血糖上昇が見られないので、糖尿病患者等への適用を考えられる事、血中や肝臓中のコレステロールや中性脂肪の含量を低下させる作用も期待され、健康食品等への応用も類推されている。」 (a4)(2頁2欄31?34行) 「【0012】本発明に係る飲料等の液状食品等の好ましい態様は、飲料等の液状食品等の重量に対して、1?30重量%、好ましくは、1?15重量%のポリフラクタンを含有することである。」 (a5)(4頁5欄34?40行) 「【0029】〔実施例6〕ドリンクヨーグルト ポリフラクタンを使用して下記の配合量にてドリンクヨーグルトを試作した。配合比(単位;グラム) プレーンヨーグルト;60.0 水;40.0 ポリフラクタン;8.0 アスパルテーム;0.032」 2)引用例B (b1)(【特許請求の範囲】) 「(1)フラクトースポリマーの水分含有量を低下させた後、次いでこれを乾式加熱して加水分解及び/または再重合を起こさせることを特徴とする改質フラクトースポリマーの製造法。・・・ (6)請求項(1)記載の改質フラクトースポリマーを油脂に代替して用いることを特徴とする食品。」 (b2)(2頁左上欄8?13行) 「フラクトースポリマーは・・・ヒトの消化酵素では消化されない難消化性糖質であることが公知である。難消化性糖質を砂糖や油脂等の食品素材と同じように利用することができるならば、肥満、う食の増加または、成人病の予防等に有用である。」 (b3)(3頁右下欄3?13行) 「(実施例1) 分子量約4000(重合度約25)のイヌリン(ダリヤ由来)5gを・・・減圧下(20mmHg)、105℃にて1時間乾燥した。・・・次いでそのまま触媒を加えることなく、190℃にて1時間加熱した。・・・分子量分布の変化はゲル濾過クロマログラフイーではなかった。」 (b4)(4頁右上欄下から2行?同頁左下欄下から1行) 「(実施例6) 下記の配合量に従い、低カロリーバタークリームを試作した。実施例1と同様にして製造した改質フラクトースポリマー50%(W/W)含むペースト、粉糖、バターフレーバーを泡立て器にて2.5分ホイップしたものを30℃にて3分ホイップしたショートニングを加えた。・・・バタークリームを調製した。 ・・・ ショートニング 100g 粉 糖 100g 水 80g 改質フラクトースポリマー 20g レシチン 0.03g バターフレーバー 0.1g」 3)引用例C (c1)(特許請求の範囲) 「桔梗(Platycodon grandiflorum A,DC.)根由来のイヌリン物質を有効成分とする抗腫瘍剤。」 (c2)(2頁左上欄2行?同頁右上欄13行) 「抗腫瘍作用 エールリッヒ癌細胞をマウスの右大腿部または腹腔部に移植して形成せしめた腫瘍、(前者を腹水固形腫瘍といい、後者を腹水型腫瘍という。)に対するイヌリン物質の抗腫瘍効果をみた。 実験条件 実験動物: ・・・雄性マウス・・・ 投薬方法: 後記第1表または第2表に示す投与量になるようにイヌリン物質の生理食塩水溶液を経口(po)または腹腔内( ip )投与した。イヌリン物質は腫瘍細胞移植7日前から移植日までは隔日に1日1回、移植後から観察終了日の前日までは毎日1回投与した。 供試腫瘍細胞: エールリッヒ腹水癌細胞を・・・雄性マウスの腹腔内に接種し、接種後1週間目の細胞を実験に供した。 腫瘍の移植: 腹水固型腫瘍;細胞・・・を含有する生埋食塩水0.2mlを実験マウスの右大腿部皮下に移値した。 腹水型腫瘍;細胞・・・を含有する生理食塩水0.2mlを実験マウスの腹腔部皮下に移植した。 観察期間: 腹水固型腫瘍;30日 腹水型腫瘍;15日 (c3)(2頁左下欄1行?同頁右下欄最下行) ![]() ![]() (c4)(3頁左上欄1行?同頁同欄8行) 「第1表ならびに第2表に示すように本発明の有効成分である桔梗根由来のイヌリン物質の抗腫瘍作用は優れており、その強さの程度はクレスチンと同等また同等以上である。またその毒性は、第3表に示すように極めて低く、ほとんど毒性はないといってよい。従って、本発明の有効成分であるイヌリン物質の安全域は極めて広く抗腫瘍剤として価値ある物質である。」 (c5)(3頁右上欄4行?同頁左下欄10行) 「参考例 1.イヌリン物質の製造 桔梗根の乾燥粉末500gを温水で・・・抽出し減圧ろ過する。 ・・・ これを60℃以下で3時間減圧乾燥して目的とするイヌリン物質80gを得る。 (1) 元素分析:(C_(6)H_(10)O_(5)・1.2H_(2)O)nとして C R 理論値(%) 39.21 6.80 実験値(%) 39.12 6.55 (2) 分子量(ゲルろ過法):2000?6000 (主として3000) (3) 融 点:不明確,約180℃で炭化 ・・・ (7) 物質の性状:白色粉末 」 (当審注:上記において、「ろ過」の「ろ」は、引用例C中では漢字表記されているが、この審決においてはひらがな表記で記載している。) 4)引用例D (d1)(特許請求の範囲の請求項1) 「イヌリン、オリゴフルクトース、およびそれの混合物から成るグループから選択された少なくとも1つの生理的に活性な成分の有効量を投与することからなる、乳癌に感受性の哺乳動物における乳癌を防ぐための方法。」 (d2)(1欄58行?2欄22行) 「P.D.Cooper他、J.Molecul.Immunol.23(8),(1986).p895は、γ-イヌリンという特定の多形形態のダリア由来のイヌリンが補体の第2経路を活性化することを記載している。γ-イヌリンは分子量が8000を超え10000MW(重合度52?65)の重合体として形成され、37℃の希薄懸濁液中で不溶性である。補体第2経路の活性化剤は非特異的な抗腫瘍作用を潜在的に有することが知られている。 そういうものとして、γ-イヌリンの腹腔内投与が黒色腫のネズミの生存期間を延長したことが示された(P.D.クーパー他、Molecul.Immunol.23(8),(1986),p903;当審注:引用例E)が、処置の時期が非常に重要であった。特許出願であるJP60/89427(当審注:特開昭60-89427号公報,引用例C)は、・・・由来のイヌリン抽出物の腫瘍細胞保持マウスへの使用を開示する。 ・・・ 発明の概要 この出願人は、機能性食品あるいは医薬組成物の形態とされたイヌリン、オリゴフルクトース及びそれらの誘導体が乳癌の防止あるいは治療における機能性成分としての価値を有することを今回見出した。より詳細には、これらの機能的な成分は乳房の発癌を負の方向に変調する。 出願人は、それらが乳房の腫瘍の外観の動力学を減速させ、悪性の乳癌の強度とすべての腫瘍の総数を低下させることを示した。」 (d3)(10欄63行?11欄3行) 「・・腫瘍のサイズ、数、および位置は、図5と6で表されるように、触診を使用することで評価され記録された。彼らは腫瘍頻度(1つのグループ内の乳房の腫瘍を有するネズミの数)と総数(1つのグループにおける悪性腫瘍の総数)を与える。これらのデータから、でんぷんの代わりにOF(当審注:オリゴフルクトース)を投与されたラットでは乳房の腫瘍の頻度及び総数が常に低下していることが観察できる。」 (d4)(11欄44?同欄48行) 「上記から、食事へのオリグフルクトースの添加が乳癌における外観の動力学を減速させることによって乳癌の発生を負の方向に調製すると結論づけることができます。頻度は同じに見えるが、乳房における腫瘍強度は低くなった。」 5)引用例E (e1)(903頁要約) 「B16黒色腫細胞を腹腔内投与して1-3日経過したC57BLマウスに腹腔投与された微細分割された不溶性イヌリン(γ-イヌリン)は、マウスの生存時間(MST)を有意に増加させた。γ-イヌリンは・・・有望な補体第二経路(APC)の特異的活性化剤として開発された。その抗腫瘍活性はビトロでもAPC活性に相関する。・・・これらの密接な相関関係と試薬の特異性は、APCの生体内での活性化がマウスモデルにおけるホストの腫瘍防御における重要な最初の段階であることを示している。」 6)引用例F (f1)(19頁要約1?2行) 「4種のZymomonas mobilis株によって生産されるレバンは、スイスアルビノマウスにおける肉腫180とエールリッヒ癌に対して抗腫瘍活性を示した。」 7)引用例G (g1)(104頁右欄下から15?1行) 「食物繊維は、結腸における腫瘍発達に対して負の調整作用を有する可能性があることから、結腸癌に関連して、大いに科学的な注目を集めている。再度述べるが、この効果は確実に使用される繊維のタイプによっており、実験的な条件では、小麦ふすまがはるかに有力な活性製品である。・・・ヒトの結腸癌の防御における食物繊維の役割については良くても賛否両論である。」 (g2)(126頁右欄下から16?14行) 「食物繊維が大腸の腫瘍発達に対し負の調整作用を有するであろうことが一般的に受け入れられている。」 なお、上記引用例D?Gについての摘示事項は、引用例が外国語文献であることから、当審において作成した翻訳文で記載した。 4.引用例Aに記載の発明及び本願発明21と引用例Aに記載の発明との対比・判断 (1)引用例Aに記載された発明の認定 引用例Aの上記摘示事項(a1)?(a5)の記載からみて、引用例Aの実施例6には、「分子量が10,000?10,000,000であるポリフラクタンを含有してなるドリンクヨーグルト。」の発明(以下、「引用例A発明」という。)が記載されていると認められる。 (2)本願発明21と引用例A発明との対比・判断 本願発明21と引用例A発明とを対比する。 引用例A発明の「ドリンクヨーグルト」は、本明細書の7頁25?28行に「本発明による組成物が機能性食品である時は、それは経口投与され、公知の食物のどのような形態であってもよく、例えば、・・・、ノンアルコール飲料・・」と記載されていることからも明らかなとおり、「食品」に相当する形態であって、前記の摘示事項(a1),(a3)の記載にもあるとおり、健康指向の増大により従来から開発が望まれていた難消化性の水溶性食物繊維を高濃度で含むものであって、水溶性食物繊維として、腸内ビフィズス菌の増殖作用、血糖負荷試験で血糖上昇が見られないといった機能も知られるポリフラクタンを含有するものであり、これが本願発明21の「機能性食品」に相当するものであることは明らかである。また、引用例A発明における「ポリフラクタン」と本願発明21の「フルクタン」が同義であること及び引用例A発明における「ドリンクヨーグルト」の摂食対象がヒトであることは当業者に自明の事項である。 そうすると、両者は、「非ウシ哺乳類であるヒトのための機能性食品であって、フルクタンを含有する、機能性食品」で一致し、以下の点で一応相違している。 <相違点1> 本願発明21の機能性食品はフルクタンとして「少なくとも15の平均重合度を有する」ものを含有するのに対し、引用例Aにおいてはフルクタンとして分子量は、10,000?10,000,000のものが好ましく使用される点。 <相違点2> 本願発明21の機能性食品は、「結腸癌の予防及び/又は治療のため」のものであるのに対し、引用例A発明の機能性食品は、かかる目的のためのものではない点。 以下、上記相違点について検討する。 まず、相違点1について検討する。 引用例Aの上記摘示事項(a2)の記載によれば、引用例Aにおいて好ましいとされるフラクタンの分子量は、10,000?10,000,000であり、フラクタン1分子のサッカライド単位をC6H12O6(分子量180)として計算した場合には、重合度は小数点以下を切り捨てても55?55000であるし、実際には、引用例Aのポリフラクタンは、主として砂糖のフラクトース残基側にフラクトースがβ-2,1結合により連結した構造であるから末端部位を除いては主たる1分子のサッカライド単位はC6H10O5(分子量162)であり、より重合度が高いものと解されることから、結局本願発明21のフルクタンと引用例Aのポリフルクタンは、引用例Aに記載される分子量範囲において重複している。 よって、相違点1は実質的な相違点とは認められない。 次に、相違点2について検討する。 相違点2については、本願発明21の「結腸癌の予防及び/又は治療のため」という特定により、同発明が用途発明として引用例A発明に対して新規性を有するかが問題となる。 この点、用途発明は、ある物の未知の属性を発見し、この属性により、当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明と解されるが、未知の属性を発見したとしても、その技術分野の出願時の技術常識を考慮し、その物の用途として新たな用途を提供したといえなければ、請求項に係る発明の新規性は否定される(審査基準第II部 第2章 新規性・進歩性 1.5.2「用途限定が付された物の発明を用途発明と解すべき場合の考え方」及び同例5参照。)。 これを本願発明21についてみると、本願請求項21に記載される所定のフラクタンを含有する特定の組成の機能性食品自体の、「結腸癌の予防及び/又は治療」機能という未知の属性の発見に基づく発明である場合であっても、引用例A発明の「難消化性の水溶性食物繊維」としての機能を発揮することを期待して摂食される機能性食品も、本願発明21の「結腸癌の予防及び/又は治療」機能の発揮を期待して摂食される機能性食品もいずれも食品として利用されるものであるから、「結腸癌の予防及び/又は治療」を目的として摂食される機能性食品が、食品自体として新たな用途を提供するものであるとはいえない。 すなわち、「結腸癌の予防及び/又は治療」を目的として摂食される本願発明21の機能性食品は、これとは異なる機能を期待して摂食される引用例A発明の機能性食品により新規性が否定される。 よって、相違点2も実質的な相違点とは認められない。 なお、「結腸癌の予防及び/又は治療のための」なる記載により、機能性食品自体の組成が区別される可能性があるので、この点について以下に検討する。 本願発明21の機能性食品に関し、本願明細書の8頁2?4行には、「結腸癌に対する予防を提供するのに有効な1日あたりの用量は、・・・好ましくは、体重1kgあたり0.01gから2gの範囲であり、より好ましくは、体重1kgあたり0.05gから0.5gである。」と記載されており、これは体重60Kgのヒトで換算すると、結腸癌の予防目的としてより好ましい範囲は3.0?30gとなるところ、これは、引用例A発明におけるヨーグルトドリンク中のフラクタンの配合量である8.0gと一致する。 してみると、仮に、「結腸癌の予防及び/又は治療のための」なる記載により、機能性食品中のフルクタン含量が暗示的に規定されると解したとしても、本願発明21の機能性食品と引用例A発明における機能性食品とは依然として機能性食品自体として区別されるものではない。. さらに、請求人は、平成21年1月5日受付の審判請求書に対する平成21年3月19日受付けの手続補正書(方式)において、【本願が特許されるべき理由】の「第2」として、用途発明とは、ある物の未知の属性を見出し、この属性に基づき当該物を新たな用途へ適用した点に、その技術的思想の本質が存する発明であること、審査基準に沿った判断を示した判決として参考資料1があるが、審査基準とは異なる考えに基づく判断を示したとして参考資料2も知られ、これは引用文献の用途に関する記載から、その出願当時の技術常識を考慮した上で、当該出願の請求項に記載する用途を認識できたかというシンプル且つクリアーな基準に基づくものであること、参考資料3によれば、欧米での化粧品・食品分野における用途発明の取り扱いは、医薬等の他の分野における用途発明と基本的に異なるものではないこと、医薬分野か食品分野かによって、用途発明の判断基準を分けることは、用途発明の本質並びに特許法第29条第1項及び第2項の基本的解釈に反するものであることを主にあげて本願発明は新規性を有する旨主張する。 しかしながら、請求人があげる参考資料2の判決は、本願発明と引用発明が「異なる種類の製品であると認識されていた」と判断された事例に関するものであり、本件とは事例を異にしているし、本願発明21の「結腸癌の予防及び/又は治療のため」という特定により食品として新たな用途を提供するものと解することができないことはすでに述べたとおりであるから、請求人の主張は採用できない。 したがって、本願発明21は引用例Aに記載された発明である。 5.引用例Bに記載の発明及び本願発明21と引用例Bに記載の発明との対比・判断 (1)引用例Bに記載された発明の認定 引用例Bの上記摘示事項(b1),(b3),(b4)の記載からみて、引用例Bの実施例6には、「改質フラクトースポリマーとして、重合度約25の改質イヌリンを含有してなる食品。」の発明(以下、「引用例B発明」という。)が記載されていると認められる。 (2)本願発明21と引用例B発明との対比・判断 本願発明21と引用例B発明とを対比する。 引用例B発明の「改質フラクトースポリマー」が本願発明21の「フルクタン」と同義であること及び引用例B発明の「イヌリン」が本願発明21の「フルクタン」に相当すること、引用例B発明の食品の摂食対象がヒトであることは当業者に自明の事項である。また、前記摘示事項(b2)の記載にもあるとおり、引用例B発明の食品中の成分である改質フラクトースポリマーは、ヒトの消化酵素では消化されない難消化性糖質であることが公知であり、肥満、う食の増加または、成人病の予防等に有用と解されるものであって、引用例B発明の食品が本願発明21の「機能性食品」に相当するものであることも明らかである。 そうすると、両者は、「非ウシ哺乳類であるヒトのための機能性食品であって、重合度約25のフルクタンを含有する、機能性食品」で一致し、以下の点で一応相違している。 <相違点> 本願発明21の機能性食品は、「結腸癌の予防及び/又は治療のため」のものであるのに対し、引用例A発明の機能性食品は、かかる目的のためのものではない点。 上記相違点について検討すると、すでに、上記「4.(2)本願発明21と引用例A発明との対比・判断」の項目において、相違点2に対する検討で述べた様に、引用例B発明の「難消化性糖質」としての機能を発揮することを期待して摂食される機能性食品も、本願発明21の「結腸癌の予防及び/又は治療」機能の発揮を期待して摂食される機能性食品もいずれも食品として利用されるものであるから、「結腸癌の予防及び/又は治療のための機能性食品」が食品として新たな用途を提供するものであるとはいえない。 したがって、上記相違点は実質的な相違点とは認められない。 そして、「4.(2)」のなお書きでも述べたとおり、摘示事項(b4)に示されるように引用例B発明の食品は、バタークリーム中に例えば改質フラクトースポリマー20gを包含するものであって、本願発明21の機能性食品における好適とされる用量の範囲内のものであり、この点でも本願発明21の機能性食品と引用例B発明における機能性食品とは機能性食品自体として区別されるものではない。. したがって、本願発明21は引用例Bに記載された発明である。 6.引用例Cに記載の発明及び本願発明22と引用例Cに記載の発明との対比・判断 (1)引用例Cに記載された発明の認定 引用例Cの上記摘示事項(c1)?(c5)の記載からみて、引用例Cには、「分子量が主として3000であって、分子量2000?6000を有する桔梗根由来のイヌリン物質を有効成分とする抗腫瘍剤。」の発明(以下、「引用例C発明」という。)が記載されていると認められる。 (2)本願発明22と引用例C発明との対比・判断 本願発明22と引用例C発明とを対比する。 引用例C発明の「イヌリン物質」が本願発明22の「フルクタン」に相当すること、引用例C発明の「抗腫瘍剤」が本願発明22の「癌の・・治療のための医薬」と同義であることは明らかであるし、抗腫瘍剤がヒトを対象とする医薬であることも自明の事項であるから、本願発明22と引用例C発明とは、 「非ウシ哺乳類における癌の治療のための医薬。」 で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本願発明22の癌の治療のための医薬はフルクタンとして「少なくとも15の平均重合度を有する」ものであるのに対し、引用例Cにおけるフルクタンの分子量は主として3000、分子量2000?6000のものである点。 <相違点2> 本願発明22の「癌の治療のための医薬」は、対象疾患が結腸癌に特定されているのに対し、引用例C発明の「癌の治療のための医薬」は、対象疾患が結腸癌に特定されていない点。 以下、上記相違点について検討する。 まず、相違点1について検討する。 引用例Cの上記摘示事項(c5)の記載に基づいて、引用例Cで使用されるフルクタン(イヌリン物質)の主たる分子量とされる3000なる数値と、「元素分析:(C_(6)H_(10)O_(5)・1.2H_(2)O)_( n) 」なる記載に基づいてサッカライド単位を分子量183.6)として計算した場合には、重合度は小数点以下を切り捨てても16であり、本願発明22のフルクタンの重合度と一致する。したがって、相違点1は実質的な相違点とは認められない。 次に、相違点2については、引用例C(摘示事項(c2)?(c4)参照。)には、イヌリン物質が、エールリッヒ癌細胞をマウスの右大腿部に移植して形成せしめた腹水固形腫瘍に対し、抗癌剤として知られるクレスチンと同等または同等以上の抗腫瘍作用を示したこと、及び、ほとんど毒性がなく、安全域が極めて広い物質であることが示されているのであるから、イヌリン物質が、固形癌であって、癌の代表格でもある結腸癌に対しても、同様に抗腫瘍作用を示すことを期待してその作用を確認し、結腸癌の治療のための医薬とすることは当業者が容易になし得ることである。 ここで、請求人は、前記平成21年3月19日受付けの手続補正書(方式)における【本願が特許されるべき理由】の「第2-7.」の「(2)」として、「引用文献4から9は、上記の通り、それぞれ、腹水固形腫瘍、腫瘍細胞V×2及びMeth腫瘍細胞、乳がん、黒色腫、肉腫180及びエールリッヒ癌に対するイヌリン等の適用を教示するものあり、審査官は、これら引用文献の教示からフルクタンの結腸癌の予防及び治療への適用を動機付けると判断しております。しかしながら、腫瘍治療に関する医薬分野における技術常識からすれば、結腸癌に適用される医薬と引用文献4から9に記載の疾患に適用される医薬は通常異なるはずであり、しかも何れの引用文献にもその作用機序に関する教示は全くありません。従って、医薬分野における当業者であれば、引用文献4から9に記載の疾患への適用をもって、本発明ような結腸癌への適用を想起するということは通常有り得ないものと思量致します。」と述べている。 しかしながら、引用例Cにおいては、「抗腫瘍剤」(摘示事項(c1))とのみ記載されており、特定の腫瘍でなければ抗腫瘍作用が期待できないと解すべき記載はないし、むしろ抗腫瘍剤の多くが複数の種類の腫瘍に対し抗腫瘍作用を示すことが技術常識である(例えば、大阪府病院薬剤師会編集「全訂 医薬品要覧」昭和58年11月10日発行、(株)薬業時報社」1086?1089頁及び奥付け参照。)ところ、引用例Cでは、結腸癌と同様の固形癌に対する抗腫瘍作用が具体的に確認されているのである。そして、イヌリンあるいはイヌリンと基本サッカライド構造が一致するオリゴフルクトースが種々の固形癌に対して抗腫瘍活性を示すことが従来から知られていること(引用例D?Fのそれぞれに対応する摘示事項参照。)、引用例Eに記載のとおり、イヌリンの一種であるγイヌリンが、一般的に腫瘍防御のための中心的な役割が示唆されているAPC活性化作用を有することが従来から知られていること(摘示事項(d2),(e1))、一般論ではあるが、食物繊維は、結腸における腫瘍発達に対して負の調整作用を有する可能性があることから、結腸癌に関連して、大いに科学的な注目を集め(摘示事項(g1))、また、大腸の腫瘍発達に対する負の調整作用を有するであろうと一般に認められている(摘示事項(g2))ところ、イヌリンは食物繊維の1種として知られていることもあわせみるに、引用例Cに記載のイヌリン物質を結腸癌の治療のための医薬とする点が当業者に想起し得ないような事項とはいえない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 7.むすび 以上述べたとおり、本願発明21は引用例AまたはBに記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 また、 本願発明22は引用例Cあるいは、引用例C及び引用例D?Gに示される技術的知見に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、他の請求項について検討するまでもなく、本願については拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-18 |
結審通知日 | 2011-08-19 |
審決日 | 2011-09-02 |
出願番号 | 特願平10-549922 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福井 悟 |
特許庁審判長 |
内田 淳子 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 新留 豊 |
発明の名称 | 結腸癌の予防及び治療用のフルクタン含有組成物 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 長沼 暉夫 |
代理人 | 池田 幸弘 |