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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K |
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管理番号 | 1250636 |
審判番号 | 不服2010-13501 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-06-21 |
確定日 | 2012-01-19 |
事件の表示 | 特願2006-149436「二輪車用交流発電機」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日出願公開、特開2007-325330〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成18年5月30日の出願であって、平成22年3月17日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成22年3月23日)、これに対し、平成22年6月21日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出され、当審により、平成23年5月6日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成23年5月10日)、これに対し、平成23年7月6日付で意見書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年6月21日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「回転軸と一体に回転する回転子と、前記回転軸に固定されてベルトで駆動されるプーリと、前記回転子の外周に配置される固定子と、前記回転子を回転自在に保持するとともに前記固定子を保持するプーリ側のフロントフレームおよび反プーリ側のリアフレームと、前記フロントフレームに設けられて内輪が前記回転軸に取り付けられた軸受けとを備え、 前記フロントフレームは前記回転軸に沿った向きに開口した通風用の吸入窓を有し、 前記プーリは、前記内輪と軸方向に一体固定される円板状のボス部と、前記ボス部から軸方向に沿って延在する円筒状のベルト溝部とを有し、 前記プーリが前記フロントフレームよりも車両進行方向に沿って前側に取り付けられ、 前記プーリの最大径φAと前記吸入窓の外径φBとの比φA/φBを85%以下とし、 前記ボス部の外径φCは、前記プーリの最大径φAよりも小径であるとともに前記吸入窓の内径φD以下であり、 前記吸入窓に対して前記プーリの最大径φAを有する部位よりも近い位置に前記ボス部が配置されていることを特徴とする二輪車用交流発電機。」 3.引用例 これに対して、当審の拒絶の理由で引用された、特開2005-102361号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 1-a「本発明は、車両用交流発電機に係わり、特にエンジンへの取付構造に関する。」(【0001】) 1-b「実施例1に係わる車両用交流発電機1を図1?図3に示す。 車両用交流発電機1(以下、発電機1と呼ぶ)は、図3に示す様に、回転軸2と一体に回転するロータ3(本発明の回転子)、このロータ3の外周に配置されるステータ4、ロータ3とステータ4を内部に収容するフロントフレーム5とリヤフレーム6、リヤフレーム6の外側に配置される外付け部品(後述する)、外付け部品を覆う保護カバー7等より構成される。 回転軸2は、フロントフレーム5より突出する一方の端部にプーリ8が取り付けられ、このプーリ8にエンジン(図示せず)の回転力が伝達されて回転する。 ロータ3は、回転軸2に固定されるポールコア3aと、このポールコア3aに巻線される界磁コイル3bを有し、この界磁コイル3bに励磁電流が供給されて磁界を発生する。 ステータ4は、フロントフレーム5とリヤフレーム6との間に支持されるステータコア4aと、このステータコア4aに巻線されるステータコイル4bを有し、ロータ3の回転により発生する回転磁界を受けてステータコイル4bに交流電圧が誘起される。 外付け部品は、リヤフレーム6より突出する回転軸2の他端側に設けられたスリップリング2aに摺接して、ロータ3の界磁コイル3bに励磁電流を供給するブラシ9と、ステータ4から出力される交流電圧を直流電圧に変換する整流装置10と、整流された直流電圧を適正値に制御するレギュレータ11等の電気関係の部品である。 これらの外付け部品を覆う保護カバー7には、通気用の開口部(図示せず)が複数カ所形成されている。 フロントフレーム5とリヤフレーム6は、それぞれ軸受12、13を介して回転軸2を支持すると共に、両者の開口部同士が軸方向に組み合わされて、複数本のスタッドボルト14により締め付け固定されている。 このフロントフレーム5とリヤフレーム6は、例えばアルミニウム製で、ダイカスト法により製造され、それぞれ軸方向の壁面に複数の吸気窓15が形成され、軸方向から径方向にかけて湾曲するフレーム肩部の壁面に複数の排気窓16が形成されている。 フロントフレーム5とリヤフレーム6の内部には、ポールコア3aの軸方向両側にそれぞれ冷却ファン17(図3参照)が取り付けられており、この冷却ファン17がロータ3と共に回転すると、吸気窓15と排気窓16を介してフロントフレーム5及びリヤフレーム6の内部が通気されることにより、界磁コイル3bやステータコイル4b等の発熱部品が冷却される。 また、リヤフレーム6の外側に配置される外付け部品は、冷却ファン17の回転により、保護カバー7に形成された開口部より外気が導入されて、その外気により冷却される。」(【0018】-【0022】) 1-c「これにより、図1に実線矢印で示す様に、排気窓16(特にエンジンブラケット18側に設けられる排気窓16)より排出された熱風が前記空間Sに籠もることはなく、スムーズに外部に排出されるため、排気窓16より排出された熱風が、吸気窓15から再び発電機1の内部へ吸い込まれることが少なくなる。その結果、冷却性が大幅に改善されるため、発電機1内部の温度上昇を抑制でき、冷却を必要とする各部品(界磁コイル3b、ステータコイル4b、ブラシ9、整流装置10、レギュレータ11等)の寿命低下を防止できると共に、初期の出力性能を維持できる。」(【0030】) 上記記載及び図面に基づけば、プーリはベルトによって駆動される。 上記記載及び図面に基づけば、軸受12、13はボールベアリングで、内輪が回転軸に取り付けられている。 上記記載及び図面に基づけば、プーリは、軸受の内輪と軸方向に一体固定される円板状のボス部と、前記ボス部から軸方向に沿って延在する円筒状のベルト溝部とを有している。 上記記載及び図面に基づけば、プーリの最大径は吸気窓の外径より小さいから、プーリの最大径φAと吸気窓の外径φBとの比φA/φBを100%未満とし、ボス部の外径φCは、前記プーリの最大径φAよりも小径であるとともに前記吸気窓の内径φD以下であり、前記吸気窓に対して前記プーリの最大径φAを有する部位よりも近い位置に前記ボス部が配置されている。 上記記載事項からみて、引用例1には、 「回転軸と一体に回転するロータと、前記回転軸に取り付けられてベルトで駆動されるプーリと、前記ロータの外周に配置されるステータと、軸受を介して前記回転軸を支持するとともに前記ステータを内部に収容するフロントフレームおよびリアフレームと、フロントフレームに設けられて内輪が前記回転軸に取り付けられた軸受とを備え、 前記フロントフレームは軸方向の壁面に複数の吸気窓が形成され、 前記プーリは、前記内輪と軸方向に一体固定される円板状のボス部と、前記ボス部から軸方向に沿って延在する円筒状のベルト溝部とを有し、 前記プーリが前記フロントフレームより突出する回転軸の一方の端部に取り付けられ、 前記プーリの最大径φAと前記吸気窓の外径φBとの比φA/φBを100%未満とし、 前記ボス部の外径φCは、前記プーリの最大径φAよりも小径であるとともに前記吸気窓の内径φD以下であり、 前記吸気窓に対して前記プーリの最大径φAを有する部位よりも近い位置に前記ボス部が配置されている車両用交流発電機。」 との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 同じく、当審の拒絶の理由に引用された特開平1-240738号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 2-a「第1図は本発明の補機駆動機構を搭載した自動二輪車の一部を切欠した側面図であり、同図中1は車体(フレーム)を示す。」(第3頁左上欄2?4行) 2-b「第2図は上記補機駆動機構10を車両の前方(第1図中左側)から見た要部正面図である。」(第3頁右上欄16?17行) 2-c「補機駆動機構10は、前記クランクプーリ19のプーリ溝19aに巻回された両歯型のタイミングベルト101、上記両バンク14a、14bの夫々のカム軸20a、20bの端部に固設されたタイミングベルト用のカムプーリl02a、102b、後述する冷却水ポンプ21の回転軸21aに固設され前記タイミングベルトの背面が巻回される被駆動プーリ103、該被駆動プーリと同一軸上で一体に回転する駆動プーリ104、前述した発電機9の回転軸9aに一体に回転可能に固設された発電機プーリ105、前記駆動プーリ104のプーリ溝104aと前記発電機プーリ105のプーリ溝105aとに巻回された片歯型駆動ベルト106、及び、タイミングベルト101と駆動ベルト106(注:「105」は誤記)とを夫々背面より押圧するベルトテンショナ107、108とから成る。」(第3頁左下欄11行?右下欄5行) 2-d「更に図示の実施例では、発電機9をクランク軸18の中心線に対し冷却水ポンプと同一の側、即ちクランク軸より左バンク寄りに配する構成にし、車両の進行方向に対し後側に偏寄した左バンク14b側のハウジング15bの前面(第3図のハウジング15の下端面)と、タイミングベルト101が配されている平面(第3図の破線で示すタイミングベルト位置)との間に当該発電機9を駆動するための駆動ベルト106を配している(第3図の破線で示す駆動ベルト位置)。」(第3頁右下欄14行?第4頁左上欄3行) 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ロータ」、「ステータ」、「吸気窓」は、それぞれ本願発明の「回転子」、「固定子」、「吸入窓」に相当する。 その機能をも考慮すると、引用発明の「軸受を介して回転軸を支持するとともにステータを内部に収容するフロントフレームおよびリアフレーム」は、本願発明の「回転子を回転自在に保持するとともに固定子を保持するプーリ側のフロントフレームおよび反プーリ側のリアフレーム」に相当し、引用発明の「フロントフレームは軸方向の壁面に複数の吸気窓が形成され」は、本願発明の「フロントフレームは回転軸に沿った向きに開口した通風用の吸入窓を有し」に相当する。 引用発明の「車両用交流発電機」と、本願発明の「二輪車用交流発電機」は、共に「交流発電機」である。 したがって、両者は、 「回転軸と一体に回転する回転子と、前記回転軸に固定されてベルトで駆動されるプーリと、前記回転子の外周に配置される固定子と、前記回転子を回転自在に保持するとともに前記固定子を保持するプーリ側のフロントフレームおよび反プーリ側のリアフレームと、前記フロントフレームに設けられて内輪が前記回転軸に取り付けられた軸受けとを備え、 前記フロントフレームは前記回転軸に沿った向きに開口した通風用の吸入窓を有し、 前記プーリは、前記内輪と軸方向に一体固定される円板状のボス部と、前記ボス部から軸方向に沿って延在する円筒状のベルト溝部とを有し、 前記ボス部の外径φCは、前記プーリの最大径φAよりも小径であるとともに前記吸入窓の内径φD以下であり、 前記吸入窓に対して前記プーリの最大径φAを有する部位よりも近い位置に前記ボス部が配置されている交流発電機。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 本願発明は、プーリがフロントフレームよりも車両進行方向に沿って前側に取り付けられるのに対し、引用発明は、プーリがフロントフレームより突出する回転軸の一方の端部に取り付けられる点。 〔相違点2〕 本願発明は、プーリの最大径φAと吸入窓の外径φBとの比φA/φBを85%以下としているのに対し、引用発明は、プーリの最大径φAと吸入窓の外径φBとの比φA/φBを100%未満としている点。 〔相違点3〕 本願発明は、「二輪車用」交流発電機であるのに対し、引用発明は、「車両用」交流発電機である点。 5.判断 相違点1、3について 内燃機関で駆動される二輪車には、通常交流発電機が搭載されている。 本願発明も、引用発明と同様に、プーリがフロントフレームより突出する回転軸の一方の端部に取り付けられており、また、引用例2にも示されるように、二輪車(「自動二輪車」が相当)に用いられる車両用交流発電機(「発電機9」が相当)を、プーリ(「発電機プーリ105」が相当)がフロントフレーム(「発電機9のハウジング」が相当)よりも車両進行方向(「車両の進行方向」が相当)に沿って前側に取り付けられた構成とすることは、二輪車用交流発電機の分野において周知の事項である。 そうすると、引用発明において、交流発電機を二輪車用とし、プーリを上記周知の事項に基づいてフロントフレームよりも車両進行方向に沿って前側に取り付けることは、当業者が容易に考えられたものと認められる。 相違点2について 本願発明の二輪車用交流発電機は吸入窓から空気を吸い込み、吐出窓から空気を排気しており、引用発明も同様に、吸入窓(「吸気窓」)から空気を吸い込み、吐出窓(「排気窓」)から空気を排気しており、この点は、車両用交流発電機・二輪用交流発電機において周知の事項(必要が有れば、特開2005-287123号公報の図1、実願昭59-16789号(実開昭60-132168号)のマイクロフィルムの第1図等参照)である。 この様な空気の流れで交流発電機内を冷却する際に、当該空気の流れの上流、即ち吸入窓の外部に、当該空気の流れを遮るものが有れば、当然に冷却効果が落ち、当該障害物の存在を避けねばならないから、引用発明において、冷却効果を高めるために、プーリの外径側に露出させる吸入窓の面積を十分に確保すること、即ち、プーリの最大径φAと吸入窓の外径φBとの比φA/φBを小さくすることは、当業者が当然に考慮すべき事項であり、吸入窓の面積を十分に確保するために上記比φA/φBの数値を85%以下とすることも任意であり、上記比φA/φBの数値を特に85%以下とする際に、格別な技術的困難性を伴うものとも解されない。 そうすると、引用発明において、冷却性を高めるとの課題の基に、上記比φA/φBを85%以下とするは、当業者が適宜なし得ることと認められる。 なお、請求人は、平成23年7月6日付意見書において、 「従って、引用文献1は排気に着目した発明であり、本願発明のように吸気に着目した発明でないため、比φA/φBを85%以下にする技術的な動機付けが存在しない。」 と主張するが、 上記したように、交流発電機において、吸入窓から空気を吸い込み、吐出窓から空気を排気することは、周知の事項であり、当該空気の流れを考慮しなければならないことは、上述のとおりであるから、請求人の主張は根拠が無く採用できない。 そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び上記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.むすび したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-11-21 |
結審通知日 | 2011-11-22 |
審決日 | 2011-12-05 |
出願番号 | 特願2006-149436(P2006-149436) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H02K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安食 泰秀 |
特許庁審判長 |
堀川 一郎 |
特許庁審判官 |
仁木 浩 神山 茂樹 |
発明の名称 | 二輪車用交流発電機 |
代理人 | 加藤 大登 |
代理人 | 井口 亮祉 |
代理人 | 伊藤 高順 |
代理人 | 碓氷 裕彦 |