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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1250655
審判番号 不服2010-28310  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-14 
確定日 2012-01-19 
事件の表示 特願2004-316319「切替機、切替方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月18日出願公開、特開2006-127252〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年10月29日の出願であって、平成22年6月25日付けで手続補正がなされたが、平成22年9月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年12月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がなされたものである。


2.平成22年12月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年12月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。(下線は、補正された部分を表すために当審が付した。)

「 【請求項1】
コンソール側のポートに接続したUSBデバイスを、ホスト側の複数のポートに接続した複数の電子装置に選択的に接続する切替機であって、
前記USBデバイスと接続し、前記USBデバイスと信号の送受信を行うUSBホスト回路と、
前記複数のポートに対応して複数設けられ、対応するポートに接続した電子装置にUSBデバイスとして認識されて接続し、該対応する電子装置と信号の送受信を行う複数のUSBエミュレーション回路と、
前記複数のUSBエミュレーション回路のうちの選択されたUSBエミュレーション回路と、前記USBホスト回路とを接続し、前記USBデバイスから送られた信号を前記選択されたUSBエミュレーション回路に送ることにより、前記選択されたUSBエミュレーション回路に接続した電子装置を前記USBデバイスによって操作可能とする制御回路とを有し、
前記USBホスト回路は、前記USBデバイスとの接続経路において過電流が発生し、前記USBデバイスから過電流発生の通知を受けた場合に、受け付けた過電流発生の通知を前記制御回路には通知せず、前記選択されたUSBエミュレーション回路と該選択されたUSBエミュレーション回路に接続した電子装置とに過電流の発生が伝わらないようにし、
前記複数のUSBエミュレーション回路は、前記USBデバイスが前記USBホスト回路から取り外されても、それぞれのポートに接続した電子装置との接続状態を維持することを特徴とする切替機。」

(2)本件補正の検討
本件補正は、「前記USBホスト回路は、・・・(中略)・・・過電流が発生した場合に」とあったところを、「前記USBホスト回路は、・・・(中略)・・・過電流発生の通知を受けた場合に」とする補正を含んでいる。

そこで、過電流発生についての発明の詳細な説明を参照すると、第0060段落には、「また、図6に示すように、Over Currentが発生した場合にも、USBホストコントローラ回路2が処理を行い、CPU6に通知しない。よって、サーバにOver Currentによる処理が発生せず、負荷がかからないと共に、USB装置エミュレーション回路3との接続が保たれるため、Over Currentによる影響を与えずに安定した動作を提供できる。尚、Over Currentに限らず、USBに関わるエラーやUSBデバイスの予期しないエラー、不具合等も同様にサーバに処理させることなくUSBホストコントローラ回路2が処理を行うため、サーバに安定した動作を提供できる。」との記載がある。
当該記載によれば、何らかの方法でUSBホストコントローラ回路がOver Currentすなわち過電流を検知していることは読み取れるものの、USBホストコントローラ回路が別の装置から過電流発生の通知を受けることは記載されていない。
第0061段落には「Over Currentが発生した場合には、Over Current発生を通知するためのLEDを設けるか、複数の色で点灯可能なLEDを使用して一色をOver Currentに割り当てる等して、使用者にOver Currentの発生を知らせる。」との記載があるが、当該記載はUSBホストコントローラ回路が過電流の発生を検知した後の事を述べていると認められ、USBホストコントローラ回路に対して過電流発生の通知があるということは記載されていない。
第0062段落の「さらに、OSD回路7により、USB装置の状態を表示させるようにすることで、正常動作の状態、Over Current状態、USB装置の設定状態、および、USB I/F10のポート状態を使用者に知らせることができる。」との記載、及び、第0063段落の「また、Over Current等のエラー処理についても、サーバに負荷をかけず、安定した動作を提供することができる。」との記載も、USBホストコントローラ回路に対して過電流発生の通知があるということを記載したものではない。

図6には、USBキーボードからUSBホストコントローラ回路に向かって、「Over Current」と書かれた矢印が記載されている。
しかし、この矢印が「Over Current」という情報の「通知」の流れであるのか、「Over Current」という事象の発生の流れであるのか、あるいはそれ以外の流れであるのかを特定できるような記載はない。
一方、USB規格によれば、ハブからホストコントローラへの過電流の通知が規定されているものの、デバイスからハブへの過電流の通知は規定されていない。
よって、図6の矢印は、USBデバイスであるUSBキーボードからUSBホストコントローラへ過電流の通知を意味しているものとはいえない。

したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの、であるとは言えない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成22年12月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年6月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
コンソール側のポートに接続したUSBデバイスを、ホスト側の複数のポートに接続した複数の電子装置に選択的に接続する切替機であって、
前記USBデバイスと接続し、前記USBデバイスと信号の送受信を行うUSBホスト回路と、
前記複数のポートに対応して複数設けられ、対応するポートに接続した電子装置と接続して該対応する電子装置と信号の送受信を行う複数のUSB装置エミュレーション回路と、
前記複数のUSBエミュレーション回路のうちの選択されたUSBエミュレーション回路と、前記USBホスト回路とを接続し、前記USBデバイスから送られた信号を前記選択されたUSBエミュレーション回路に送ることにより、前記選択されたUSBエミュレーション回路に接続した電子装置を前記USBデバイスによって操作可能とする制御回路とを有し、
前記USBホスト回路は、前記USBデバイスがエラー状態となった場合、又は前記USBデバイスとの接続経路において過電流が発生した場合に、前記エラー状態又は前記過電流の発生を前記制御回路には通知せず、前記複数のUSBエミュレーション回路は、それぞれのポートに接続した電子装置との接続状態を維持することを特徴とする切替機。」


(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である国際公開第03/042844号(以下、単に「刊行物」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(ア)
BACKGROUND [0002] A single-user or multi-user keyboard-video-mouse ("KVM") switch system is a signal switch that allows a single user or multiple users to share just a single keyboard, video device and mouse, or multiple sets of keyboards, video devices and mice.

〈当審訳〉
背景 [0002] シングルユーザまたはマルチユーザ対応のキーボードビデオマウス(「KVM」)スイッチシステムは信号スイッチであり、このスイッチによりシングルユーザまたはマルチユーザは1セットのキーボード、ビデオデバイス及びマウス、または複数セットのキーボード、ビデオデバイス及びマウスを共有することができる。

(イ)
[0003] A problem with current KVM switches is that if a USB peripheral, such as a printer, is connected to the switch, data flow is interrupted to that peripheral when the switch is changed.

〈当審訳〉
[0003] 現在のKVMスイッチの問題は、プリンタのようなUSB周辺機器がスイッチに接続されるとスイッチの切り替え時にその周辺機器へのデータフローが妨害されることである。

(ウ)
[0004] Universal Serial Bus (USB) is a communications architecture that gives a personal computer (PC) the ability to interconnect a variety of devices using a simple cable. The USB is actually a two-wire serial communication link that runs at either 1.5 or 12 megabits per second (Mbps). USB protocols can configure devices at startup or when they are plugged in at run time. These devices are broken into various device classes. Each device class defines the common behavior and protocols for devices that serve similar functions.

〈当審訳〉
[0004] ユニバーサルシリアルバス(USB)は通信アーキテクチャであり、このアーキテクチャによりパーソナルコンピュータ(PC)は種々のデバイスを簡単なケーブルを使用して相互接続する機能を有することができる。USBは実際は2線シリアル通信リンクであり、このリンクは1秒当たり1.5または12メガビット(Mbps)で動作する。USBプロトコルはスタートアップ時または実行時のプラグインの際にデバイスをコンフィギュレーションする。これらのデバイスは種々のデバイスクラスに分割される。各デバイスクラスは同様な機能を提供するデバイス群の共通動作及びプロトコルを定義する。

(エ)
[0007] What is needed is a KVM switch that is also a peripheral sharing switch, which would allow all the computers connected to the switch to share any USB peripheral devices without interruption of data flow to that peripheral when the switch is changed, and which would switch the KVM channels and peripheral channels to a common computer or to different computers either asynchronously or synchronously.

〈当審訳〉
[0007] 必要とされるものは、周辺機器の共有を可能にするスイッチでもあるKVMスイッチであり、このスイッチによりこのスイッチに接続される全てのコンピュータは、スイッチ切り替え時に周辺機器へのデータフローを妨害することなく任意のUSB周辺デバイスを共有することができ、しかもKVMチャネル及び周辺機器チャネルを1つの共通コンピュータ、または種々のコンピュータに非同期で或いは同期して切り替えることができる。

(オ)
[0031] With reference to Figure 4, the signal switch 10 comprises a central processing unit ("CPU") 30 for managing the signal switch 10. A USB hub switch module 32 is connected to the CPU 30 and is configured to communicate with a plurality of computer systems 12 through first output ports 34. The USB hub switch module 32 is also configured to communicate with peripheral devices 20 through output ports 36. In Figure 4, four connections are shown between first output ports 34 and the USB hub switch module 32, but this is by way of example only. The number of connections will equal the number of computer systems 12 for which the signal switch 10 is configured.

〈当審訳〉
[0031] 図4を参照すると、信号スイッチ10は信号スイッチ10を管理する中央処理装置(「CPU」)30を備えている。USBハブスイッチモジュール32は、CPU30に接続され、第1出力ポート34を通して複数のコンピュータシステム12と通信するように構成される。USBハブスイッチモジュール32はまた、出力ポート36を通して周辺デバイス20と通信するように構成される。図4において、第1出力ポート34とUSBハブスイッチモジュール32との間に4本の接続が示されているが、これは単なる例示に過ぎない。接続の本数は、コンピュータシステム12の数に等しくされるであろうし、それらのコンピュータシステムのためにスイッチ10は構成される。

(カ)
[0033] The USB hub switch module 32 is a bridge between peripheral devices 20 and computer systems 12 and allows the signal switch 10 to connect each of a plurality of computer systems to one or more than one peripheral device. Construction of a circuit suitable as a USB hub switch module is well known in the art with reference to this disclosure. In one preferred embodiment, the USB hub switch module includes 4 USB hubs and matrix analog switches which are controlled by CPU firmware. Texas Instruments(R) manufactures USB Hub chips that are suitable for this module, and the module can be constructed using Application Specific Integrated Circuit (ASIC) design methodology.

〈当審訳〉
[0033] USBハブスイッチモジュール32は周辺デバイス20とコンピュータシステム12との間のブリッジであり、このモジュールにより信号スイッチ10は複数のコンピュータシステムの各々を一つ以上の周辺デバイスに接続することができる。USBハブスイッチモジュールとして適切な回路の構成は、本開示に関して、この技術分野で周知である。1つの好適な実施形態においては、USBハブスイッチモジュールは4つのUSBハブ、及び、CPUファームウェアにより制御されるマトリクス構造のアナログスイッチを含む。Texas Instruments(登録商標)はこのモジュールに適したUSBハブチップを製造し、このモジュールは特定用途向け集積回路(ASIC)設計手法を使用して構成することができる。

(キ)
[0034] A USB device control module 38 for controlling signals is connected to the CPU 30 and the USB HUB switch module 32. The USB device control module 38 comprises USB device chips that are used to emulate the console devices, such as first keyboard 16 and first mouse 18, for the first output ports 34. In other words, by having a USB device chip emulate console devices attached to a first computer system, actual console devices may be switched to a second or different computer system, leaving any channels between the first computer system and peripherals connected, any data flow in such channels uninterrupted, and the first computer system still processing as if the actual console devices, now emulated, were still connected. These chips are controlled by CPU 30 firmware. One device chip is required for each computer system 12. Construction of a circuit suitable as a USB device control module is well known in the art with reference to this disclosure.

〈当審訳〉
[0034] 信号制御用のUSBデバイス制御モジュール38はCPU30及びUSBハブスイッチモジュール32に接続される。USBデバイス制御モジュール38は複数のUSBデバイスチップを備え、これらのチップは第1キーボード16及び第1マウス18のようなコンソールデバイスをエミュレートするために用いられる。換言すれば、USBデバイスチップに第1コンピュータシステムに取り付けられたコンソールデバイスをエミュレートさせることにより、実際のコンソールデバイスを第2または別のコンピュータシステムに切り替えても、第1コンピュータシステムとそれに接続される周辺機器との間の全てのチャネルをそのまま維持し、そのようなチャネルのいかなるデータフローも妨害されず、そして、第1コンピュータシステムは、今やエミュレートされている実際のコンソールデバイスが依然として接続されているかのように、処理を続行することができる。これらのチップはCPU30ファームウェアにより制御される。1つのデバイスチップが各コンピュータシステム12毎に必要となる。USBデバイス制御モジュールとして適切な回路の構成は、本開示に関して、この技術分野では周知である。


(ク)
[0036] Referring to Figure 4, the CPU 30 comprises a first memory 40 for storing a management program 42 for managing the operation of the signal switch 10.

〈当審訳〉
[0036] 図4を参照すると、CPU30は、信号スイッチ10の動作を管理するための管理プログラム42を記憶するための第1メモリ40を備える。

(ケ)
[0037] A USB host control module 44 is configured to communicate with a plurality of console devices and is connected to the CPU 30. Construction of a circuit suitable as a USB host control module is well known in the art with reference to this disclosure. The USB host control module 44 itself comprises a root hub 46 for communicating with one or more than one console devices or downstream hubs, through third output ports 48. The root hub is a USB compatible hub, which is well known in the art with reference to this disclosure.

〈当審訳〉
[0037] USBホスト制御モジュール44は複数のコンソールデバイスと通信するように構成され、そしてCPU30に接続される。USBホスト制御モジュールとして適切な回路の構成は、本開示に関して、この技術分野では周知である。USBホスト制御モジュール44はそれ自体がルートハブ46を備え、このハブにより第3出力ポート48を通して1つ以上のコンソールデバイスまたはダウンストリームハブと通信する。ルートハブはUSB互換ハブであり、本開示に関して、この技術分野では周知である。

(コ)図4(Fig. 4)では、信号スイッチ10が、CPU30、USBハブスイッチモジュール32、第1出力ポート34、USBデバイス制御モジュール38、USBホスト制御モジュール44及び第3出力ポート48を備えており、USBハブスイッチモジュール32とUSBデバイス制御モジュール38とが4本の線で接続されていることが記載されている。

以上の刊行物の記載によれば、刊行物には、次の発明(以下、「刊行物記載発明」という。)が記載されていると認められる。

「CPU30、USBハブスイッチモジュール32、第1出力ポート34、USBデバイス制御モジュール38、USBホスト制御モジュール44及び第3出力ポート48を備えている信号スイッチ10であって、
USBハブスイッチモジュール32は、CPU30に接続され、第1出力ポート34を通して複数のコンピュータシステム12と通信するように構成され、
信号制御用のUSBデバイス制御モジュール38はCPU30及びUSBハブスイッチモジュール32に接続され、
USBデバイス制御モジュール38は複数のUSBデバイスチップを備え、
これらのチップは第1キーボード16及び第1マウス18のようなコンソールデバイスをエミュレートするために用いられ、
USBデバイスチップに第1コンピュータシステムに取り付けられたコンソールデバイスをエミュレートさせることにより、実際のコンソールデバイスを第2または別のコンピュータシステムに切り替えても、第1コンピュータシステムは、今やエミュレートされている実際のコンソールデバイスが依然として接続されているかのように、処理を続行することができ、
CPU30は、信号スイッチ10の動作を管理するための管理プログラム42を記憶するための第1メモリ40を備え、
USBホスト制御モジュール44は複数のコンソールデバイスと通信するように構成され、CPU30に接続され、
USBホスト制御モジュール44はそれ自体がルートハブ46を備え、このハブにより第3出力ポート48を通して1つ以上のコンソールデバイスまたはダウンストリームハブと通信し、
該ルートハブはUSB互換ハブである、
信号スイッチ10。」

(2)対比
本願発明と刊行物記載発明とを以下で対比する。

刊行物記載発明の「コンピュータシステム12」は、本願発明の「電子装置」に相当する。
刊行物記載発明の「第1出力ポート34」は、これを通して複数のコンピュータシステム12と通信するためのものであるから、本願発明の「ホスト側の複数のポート」に相当する。
刊行物記載発明の「第3出力ポート48」は、これを通してコンソールデバイスと通信するためのものであるから、本願発明の「コンソール側のポート」に相当する。
刊行物記載発明の「コンソールデバイス」は、本願発明の「USBデバイス」に相当する。

刊行物記載発明の「信号スイッチ10」は、「実際のコンソールデバイスを第2または別のコンピュータシステムに切り替え」て用いるためのものである。それに加えて、上記摘記事項(ア)及び(エ)に鑑みれば、本願発明と刊行物記載発明とは、「コンソール側のポートに接続したUSBデバイスを、ホスト側の複数のポートに接続した複数の電子装置に選択的に接続する切替機」である点で一致する。

刊行物記載発明の「USBホスト制御モジュール44」は、「複数のコンソールデバイスと通信するように構成され」ているのであるから、本願発明の「前記USBデバイスと接続し、前記USBデバイスと信号の送受信を行うUSBホスト回路」に相当する。

刊行物記載発明の「USBデバイス制御モジュール38」は、「複数のUSBデバイスチップを備え、これらのチップは第1キーボード16及び第1マウス18のようなコンソールデバイスをエミュレートするために用いられ」るものであり、「USBデバイスチップに第1コンピュータシステムに取り付けられたコンソールデバイスをエミュレートさせることにより、実際のコンソールデバイスを第2または別のコンピュータシステムに切り替えても、第1コンピュータシステムは、今やエミュレートされている実際のコンソールデバイスが依然として接続されているかのように、処理を続行することができ」るものである。
よって、刊行物記載発明の「USBデバイスチップ」は、本願発明の「USBエミュレーション回路」に相当し、本願発明と刊行物記載発明とは、「複数設けられ、対応するポートに接続した電子装置と接続して該対応する電子装置と信号の送受信を行う複数のUSB装置エミュレーション回路」を有する点で一致する。

刊行物記載発明の「CPU30」は、本願発明の「制御回路」に相当する。

すると、本願発明と刊行物記載発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「コンソール側のポートに接続したUSBデバイスを、ホスト側の複数のポートに接続した複数の電子装置に選択的に接続する切替機であって、
前記USBデバイスと接続し、前記USBデバイスと信号の送受信を行うUSBホスト回路と、
複数設けられ、対応するポートに接続した電子装置と接続して該対応する電子装置と信号の送受信を行う複数のUSB装置エミュレーション回路と、
制御回路とを有することを特徴とする切替機。」である点。

〈相違点1〉
本願発明では、複数のUSB装置エミュレーション回路が「前記複数のポートに対応して複数設けられ」ているのに対し、刊行物記載発明では、複数のUSB装置エミュレーション回路(刊行物記載発明の用語では「USBデバイスチップ」)が「複数のポートに対応して」設けられたものかどうかが明らかではない点。

〈相違点2〉
本願発明の制御回路は、「前記複数のUSBエミュレーション回路のうちの選択されたUSBエミュレーション回路と、前記USBホスト回路とを接続し、前記USBデバイスから送られた信号を前記選択されたUSBエミュレーション回路に送ることにより、前記選択されたUSBエミュレーション回路に接続した電子装置を前記USBデバイスによって操作可能とする」という機能を持っているのに対し、刊行物記載発明の制御回路(刊行物記載発明の用語では「CPU30」)がそのような機能を持っているのか否かが明らかではない点。

〈相違点3〉
本願発明では、「前記USBホスト回路は、前記USBデバイスがエラー状態となった場合、又は前記USBデバイスとの接続経路において過電流が発生した場合に、前記エラー状態又は前記過電流の発生を前記制御回路には通知せず、前記複数のUSBエミュレーション回路は、それぞれのポートに接続した電子装置との接続状態を維持する」という動作を行うが、刊行物記載発明では、USBデバイスがエラー状態になった場合又はUSBデバイスとの接続経路において過電流が発生した場合を想定しておらず、そのような場合の動作が規定されていない点。

(3)判断

(3-1)相違点1について
上記摘記事項(オ)には、「USBハブスイッチモジュール32はまた、出力ポート36を通して周辺デバイス20と通信するように構成される。図4において、第1出力ポート34とUSBハブスイッチモジュール32との間に4本の接続が示されているが、これは単なる例示に過ぎない。接続の本数は、コンピュータシステム12の数に等しくされるであろうし、それらのコンピュータシステムのためにスイッチ10は構成される。」とある。
これによれば、第1出力ポート34とUSBハブスイッチモジュール32との間の4本の接続は、例示として4つのコンピュータシステム12が接続していることを意味していると解され、この例の場合、第1の出力ポートも4つのUSBポートから成っていると解される。

また、上記摘記事項(コ)によれば、「USBハブスイッチモジュール32とUSBデバイス制御モジュール38とが4本の線で接続されている」のであり、これは、例示として4つのコンピュータシステム12が接続されているからであると解される。

そして、上記摘記事項(キ)によれば、USBデバイス制御モジュール38に含まれている複数のUSBデバイスチップは、「1つのデバイスチップが各コンピュータシステム12毎に必要となる」ものである。

以上によれば、刊行物記載発明は、コンピュータシステム12毎に、ポートが用意され、かつ、USBデバイスチップが用意されるものであるから、刊行物記載発明は、事実上、USBデバイスチップを「複数のポートに対応して複数設け」ている。

したがって、この相違点は実質的な相違点ではない。

(3-2)相違点2について
刊行物記載発明は「実際のコンソールデバイスを第2または別のコンピュータシステムに切り替え」るものであるが、刊行物記載発明の「USBハブスイッチモジュール32」、「USBデバイス制御モジュール38」及び「USBホスト制御モジュール44」は、いずれも周知技術に属するものであるから(上記摘記事項(カ)、(キ)及び(ケ)を参照)、これらのみでコンソールデバイスの実際の接続先であるコンピュータシステムを切り換えることが不可能なのは、明らかである。

よって、刊行物記載発明が、キーボード等のコンソールデバイスの接続先のコンピュータシステムを切り換えるためには、USBホスト制御モジュール44が受けたコンソールデバイスからの信号を、現在の接続先であるコンピュータシステムに選択的に転送するという制御が必要となるのは明らかである。

刊行物記載発明の「CPU30」は、「信号スイッチ10の動作を管理するための管理プログラム42を記憶するための第1メモリ40を備える」ものであり(上記摘記事項(ク)を参照)、USBハブスイッチモジュー32のアナログスイッチとUSBデバイス制御モジュール38のUSBデバイスチップを制御しており(上記摘記事項(カ)及び(キ)を参照)、かつ、CPU30は上記のモジュール全てに接続しているのであるから、刊行物記載発明において、CPU30がUSBホスト制御モジュール44からのコンソールデバイスの信号を、選択的にUSBデバイス制御モジュールのどれかに受け渡す制御を担うものは、CPU30であると認められる。
そして、そのような制御は周知の電子回路技術にて実現可能である。
してみれば、刊行物記載発明のCPU30に、「前記複数のUSBエミュレーション回路のうちの選択されたUSBエミュレーション回路と、前記USBホスト回路とを接続し、前記USBデバイスから送られた信号を前記選択されたUSBエミュレーション回路に送ることにより、前記選択されたUSBエミュレーション回路に接続した電子装置を前記USBデバイスによって操作可能とする」ような制御を担わせることは、当業者が容易になし得たことである。

(3-3)相違点3について
刊行物記載発明のUSBホスト制御モジュール44及びそれに含まれるルートハブ46は、周知のものである(上記摘記事項(ケ)を参照)。

USB規格では、USBホストコントローラは、システムに唯一存在し、最上流に位置するものである。よって、USBホストコントローラは、別のUSBホストコントローラと通信をすることは元来は想定されていない。

USBホストコントローラ間の通信について刊行物記載発明を見ると、上記(3-2)で述べたとおり、刊行物記載発明では、コンピュータシステムにコンソールデバイスを選択的に接続させるために、USBホスト制御モジュール44からの信号のうち、必要なものをUSBデバイス制御モジュールに受け渡している。この場合、USBホスト制御モジュール44の信号は、コンピューターシステムのUSBホストコントローラに伝送される。
一方で、刊行物記載発明は「USBデバイスチップに第1コンピュータシステムに取り付けられたコンソールデバイスをエミュレートさせることにより、実際のコンソールデバイスを第2または別のコンピュータシステムに切り替えても、第1コンピュータシステムは、今やエミュレートされている実際のコンソールデバイスが依然として接続されているかのように、処理を続行することができ」るものであるから、実際のコンソールデバイスが切り換えられたという通知は、USBホスト制御モジュール44からコンピュータシステムのUSBホストコントローラには伝送されない。

以上に鑑みると、刊行物記載発明のUSBホスト制御モジュール44からの信号は、コンピュータシステム側に伝送しないのが規格どおりの普通の動作であって、切換器としての目的を達するために必要な信号のみがコンピュータシステム側に伝送されるものであると認められる。

刊行物記載発明は、実際にはコンソールデバイスが接続されていなくとも、コンピュータシステムにコンソールデバイスが接続しているように振る舞うものであるから、コンソールデバイスに不調があったとしても、それをコンピュータシステムに通知する必要性は必ずしも存在しない(コンソールデバイスに不調があっても、それが回復するまでコンピュータシステムにはあたかもコンソールデバイスが接続されているかのように見せかけていても構わない)。
加えて、コンソールデバイスとの接続経路における過電流の発生は、コンソールデバイスが接続されているポートで対処可能な不具合であり、コンピュータシステムの力を借りなければ対処出来ない不具合ではない。
してみると、コンソールデバイスとの接続経路における過電流の発生をコンピュータシステム側に伝送するか否かは、コンソールデバイスにおける過電流の発生をコンピュータシステム側で管理することにどの程度のニーズがあるかに応じて、当業者が適宜決定すべき事項に過ぎない。
また、過電流の発生を通知しないとした場合に、過電流の発生の通知をどこで遮断するかも、設計的事項である。

したがって、刊行物記載発明において、「前記USBホスト回路は、前記USBデバイスがエラー状態となった場合、又は前記USBデバイスとの接続経路において過電流が発生した場合に、前記エラー状態又は前記過電流の発生を前記制御回路には通知せず、前記複数のUSBエミュレーション回路は、それぞれのポートに接続した電子装置との接続状態を維持する」という動作をさせることは、刊行物記載発明から容易になし得る。

(3-4)効果について
また、本願発明の構成によって生じる効果も、上記刊行物記載発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のもので格別顕著であるとはいえない。

(3-5)
上記(3-1)から(3-4)のとおり、本願発明は、刊行物記載発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物記載発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-16 
結審通知日 2011-11-22 
審決日 2011-12-05 
出願番号 特願2004-316319(P2004-316319)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 561- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 佳弘  
特許庁審判長 大野 克人
特許庁審判官 安久 司郎
丸山 高政
発明の名称 切替機、切替方法及びプログラム  
代理人 片山 修平  

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