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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1250663
審判番号 不服2011-6324  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-23 
確定日 2012-01-19 
事件の表示 特願2007- 70995号「給湯器」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 2日出願公開、特開2008-232508号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年3月19日の出願であって、平成23年1月14日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、平成23年3月23日に本件審判が請求されるとともに、審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成23年3月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年3月23日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、特許請求の範囲の【請求項1】は、
「【請求項1】
運転容量の可変な圧縮機、冷凍サイクルの向きを切り換える四方弁、水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器、冷媒の流量を調整し減圧する第1の膨張弁、空気と冷媒が熱交換する熱交換器を配管により、この順に接続して冷媒を循環させる冷凍サイクルを構成して水を加熱する給湯器において、
前記圧縮機の吐出側と前記四方弁との間に、前記圧縮機から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検出手段を設け、該圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と、前記プレート式熱交換器によって加熱される水の設定温度から定まる目標凝縮温度との差より圧縮機の運転速度を調整し、
前記プレート式熱交換器の出口側に液冷媒温度を検出する温度検出手段を設け、前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記温度検出手段が検出する液冷媒温度との差より前記第1の膨張弁の開度を調整し、
前記第1の膨張弁と前記熱交換器との間にレシーバを設置すると共に、該レシーバと前記熱交換器との間に第2の膨張弁を設け、さらに前記圧縮機の吐出口側に吐出する冷媒の温度を検出する吐出側温度検出手段を設け、
前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記吐出側温度検出手段が検出する吐出冷媒温度との差による吐出過熱度に基づいて前記第2の膨張弁の開度を調整するようにしたことを特徴とする給湯器。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「目標とする凝縮温度」を「前記プレート式熱交換器によって加熱される水の設定温度から定まる目標凝縮温度」と、同じく吐出する冷媒の温度を検出する「温度検出手段」を「吐出側温度検出手段」と、同じく「飽和凝縮温度と前記温度検出手段が検出する液冷媒温度との差より前記第2の膨張弁の開度を調整する」を「飽和凝縮温度と前記吐出側温度検出手段が検出する吐出冷媒温度との差による吐出過熱度に基づいて前記第2の膨張弁の開度を調整する」と限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-263831号公報(以下「刊行物1」という。)には、冷凍サイクル装置に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【請求項2】 圧縮機、凝縮器、高圧側絞り装置、レシーバ、低圧側絞り装置、蒸発器とを順次接続して冷媒に沸点の異なる2種以上の冷媒からなる非共沸混合冷媒を使用し、前記蒸発器の出口の冷媒の状態が湿り状態で循環する冷凍サイクルと、前記凝縮器の出口の冷媒の過冷却度に相当する過冷却特性を検知する過冷却検知手段と、前記蒸発器と前記圧縮機の間に設けられ、湿り状態である前記蒸発器の出口の冷媒を過熱し目標過熱度に過熱するのに必要な熱交換量を有する再蒸発手段と、前記再蒸発手段にて過熱された後の前記圧縮機の入り口の吸入冷媒の過熱度に相当する過熱特性を検知する過熱検知手段と、前記過熱検知手段により検知された前記過熱度の情報に基づき湿り状態である前記蒸発器出口の冷媒を前記圧縮機の入り口では目標過熱度になるように前記低圧側絞り装置の開口面積を調整し制御する制御手段と、前記過冷却検知手段により検知された前記過冷却度の情報に基づき目標過冷却度になるように前記高圧側絞り装置の開口面積を調整し制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。」
(イ)「【0026】
【発明の実施の形態】発明の実施の形態1.図1は本発明の実施形態1に係わる冷凍サイクル装置の構成を表す図であり、たとえば空気調和機に適応した場合の概略構成を示す図である。図において、1は圧縮機、2は冷房運転時と暖房運転時とで、冷媒の流れを切り替える四方弁、5は冷媒を貯留するレシーバ、8は吸入管、3は室外熱交換器、7は室内熱交換器、4は室外熱交換器3とレシーバ5の間に取り付けられ、その間の圧力または流量を調整する第1絞り装置(冷房運転時の場合は高圧側の絞り装置、暖房運転時は低圧側の絞り装置)、6はレシーバ5と室内熱交換器7の間に取り付けられ、低圧側の圧力または冷媒流量を調整する第2絞り装置(冷房運転時の場合は低圧側の絞り装置、暖房運転時は高圧側の絞り装置)である。
【0027】9は再蒸発手段で吸入管8内の冷媒を過熱する手段、21は圧縮機1の出口圧力(凝縮器の凝縮圧力)を検知する圧力検知手段、22は冷房運転時の室外熱交換器3の出口温度(暖房の場合は入り口温度)を検知する室外熱交温度検知手段、23は冷房運転時の室内熱交換器7の入り口温度(暖房の場合は出口温度)を検知する室内熱交温度検知手段、24は圧縮機1の吸入温度を検知する吸入温度検知手段、25は圧力検知手段21、室外熱交温度検知手段22、室内熱交温度検知手段23および吸入温度検知手段24の検知情報から冷凍サイクルにおける各部冷媒の特性値を演算する演算手段、26はこの演算手段25の演算結果から各調整手段(第1絞り装置4、第2絞り装置6)の開口面積を制御する制御手段である。
・・・
【0029】冷凍サイクル装置の運転状態を図1、図2を用いて説明する。たとえば冷房運転のときは、圧縮機1に吸入された冷媒(イの状態)は圧縮機1で圧縮され(ロの状態)、四方弁2を通って凝縮器として動作する室外熱交換器3に入る。室外熱交換器3で凝縮して液冷媒(ハの状態)となり、第1絞り装置4によって一旦絞られて少し圧力が下がり(ニの状態)、レシーバ5に入り第2絞り装置6によって再び絞られて(ホの状態)、蒸発器として動作する室内熱交換器7に入る。冷媒は室内熱交換器7で蒸発し(ヘの状態)、吸入管8に設けられた再蒸発手段9により過熱され再蒸発して(イの状態)、圧縮機1へ吸入される。ここで、蒸発器として動作する室内熱交換器7の出口の冷媒の状態は湿り状態となるように制御手段25により制御されている。」
(ウ)「【0033】冷凍サイクルの性能(COP)が良い運転状態を目標とするため、制御手段26は凝縮器の過冷却度を目標値に近づけるように高圧側の第1絞り装置4の開口面積を調整し、圧縮機1の吸入冷媒過熱度を目標値に近づけるように低圧側の第2絞り装置6の開口面積を調整する。」
(エ)「【0035】・・・凝縮器の出口冷媒の過冷却度については、圧力検知手段21が検知した圧力での冷媒の飽和温度と室外熱交温度検知手段22が検知した温度との差を演算器25が演算して求める。」
(オ)「【0036】なお、圧縮機1の吸入冷媒の過熱度は、室内熱交換器(蒸発器)7の出口の冷媒温度を検知する温度検知手段(図示せず)および圧縮機1の吸入温度を検知する吸入温度検知手段24がそれぞれ検知した温度との差を過熱度としても良い。・・・
【0037】また、圧縮機1の出口温度を検出する圧縮機出口温度検知手段(図示せず)と室外熱交換器(凝縮器)中央付近の冷媒温度を検知する室外中間温度検知手段(図示せず)がそれぞれ検知した温度との差を過熱度としても良い。すなわち、圧縮機の吐出冷媒の過熱度を吸入冷媒の過熱度と代用しても良い。また、凝縮器出口冷媒の過冷却度を検知する過冷却検知手段として、室外熱交換器(凝縮器)中央付近の冷媒温度を検知する室外中間温度検知手段(図示せず)と室外熱交換器(凝縮器)出口の冷媒温度を検知する室外熱交温度検知手段22が検知した温度との差を過冷却度しても良い。」

・記載事項(イ)の「冷凍サイクル装置」は、その「凝縮器として動作する」「圧力検知手段」が、「圧縮機1の出口圧力(凝縮器の凝縮圧力)を検知する圧力検知手段」であって、図1において圧縮機1の出口と四方弁2との間に記載されたものであるので、圧縮機1の出口と前記四方弁との間に、前記圧縮機1から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検知手段21を設けたものといえる。
・記載事項(イ)の「冷凍サイクル装置」は、その「室外熱交温度検知手段」が、「冷房運転時の室外熱交換器3の出口温度(暖房の場合は入り口温度)を検知する室外熱交温度検知手段」であって、図1において室外熱交換器3の出口側に記載されたものであるので、凝縮器3の出口側に設けたものといえる。

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものということができる。
「圧縮機1、冷媒の流れを切り替える四方弁2、凝縮器3、高圧側の第1絞り装置4、レシーバ5、低圧側の第2絞り装置6、蒸発器7とを順次接続して冷媒に沸点の異なる2種以上の冷媒からなる非共沸混合冷媒を使用し、前記蒸発器7の出口の冷媒の状態が湿り状態で循環する冷凍サイクルにおいて、
冷凍サイクルの性能(COP)が良い運転状態を目標とするため、制御手段26は凝縮器3の過冷却度を目標値に近づけるように高圧側の第1絞り装置4の開口面積を調整し、圧縮機1の吸入冷媒過熱度を目標値に近づけるように低圧側の第2絞り装置6の開口面積を調整するものであって、
圧縮機1の出口と前記四方弁との間に、前記圧縮機1から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検知手段21を設け、
凝縮器3の出口側に室外熱交温度検知手段22を設け、
凝縮器3の出口冷媒の過冷却度については、圧力検知手段21が検知した圧力での冷媒の飽和温度と室外熱交温度検知手段22が検知した温度との差を演算器25が演算して求め、
圧縮機の吐出冷媒の過熱度を吸入冷媒の過熱度に代用する冷凍サイクル。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-125464号公報(以下「刊行物2」という。)には、ヒートポンプ給湯装置に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】圧縮機,凝縮器,減圧装置,蒸発器を備えたヒートポンプユニットにおいて前記凝縮器と前記蒸発器の両方またはいずれか一方の冷媒と水を熱交換する熱交換部を、水流路プレートと冷媒流路プレートと隔壁プレートからなるプレート式熱交換器で構成したことを特徴とするヒートポンプ給湯装置。」
(イ)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は上記課題を解決するために、凝縮器と蒸発器の両方またはいずれか一方の冷媒と水を熱交換する熱交換部に水流路プレートと冷媒流路プレートと隔壁プレートからなるプレート式熱交換器を設けたものである。
【0008】上記発明によれば、水側、冷媒側共に同一形状のプレート材に流路を形成し、小さなプレートサイズでもプレート面全体に複雑な連続した流路形成が可能であるため長い流路が得られ、また複数プレートを積層することによって伝熱面積を確保できる。その結果デッドスペースがなくなり従来より占有領域が極めて少ないコンパクトなヒートポンプユニットを実現することができる。また水側流路と冷媒側流路の熱伝達は、接触面がきれいな隔壁プレート平面部で行なわれるため、接触面のバラツキが小さくでき熱伝達性能の安定化も図ることができる。」
(ウ)「【0020】
(実施例1)
図1は本発明の一実施例におけるヒートポンプ給湯装置の構成説明図である。図10,図11に示す従来例と同等の部品に対しては同一番号を付与し詳細な説明は省略する。ヒートポンプユニットの構成は、従来と同等であるが凝縮器2が図2に示すように、水流路プレート11と冷媒流路プレート12の間と上下に隔壁プレート13を設けた基本ユニットが1つまたは複数積層されたプレート式熱交換器14で構成されている。各プレートは同一形状の銅等の熱伝導率が大きい材質からなり、水流路プレート11と冷媒流路プレート12には流れ方向が互いに対向する流路パターンがプレート面全体に形成され、各プレートには水流路,冷媒流路の出入口にそれぞれ連通する流路口15が設けられている。また、流路パターンの加工は例えば、プレス加工,エッチング加工,コインニング加工等で行われる。
【0021】
次に動作、作用について説明すると、圧縮機1より吐出された100℃近い高温高圧の過熱ガス冷媒は、プレート式熱交換器14内の冷媒流路プレート12に連通する冷媒入口より流入し、冷媒流路プレート12と隔壁プレート13で形成される冷媒流路内で隔壁プレート13を隔てた水流路プレート11内を対向して流れている水を加熱し、その結果冷媒流路プレート12内で凝縮液化した冷媒は減圧装置3で減圧され蒸発器4に流入し、ここで大気熱を吸熱して蒸発ガス化し再び圧縮機1に戻るサイクルで運転されている。一方水側は冷媒側の凝縮熱で加熱され出口付近でさらに高温化し70℃のお湯として貯湯槽5に貯えられる。」

・記載事項(ア)の「凝縮器」は、記載事項(ウ)の「凝縮器2が図2に示すように、水流路プレート11と冷媒流路プレート12の間と上下に隔壁プレート13を設けた基本ユニットが1つまたは複数積層されたプレート式熱交換器14で構成」されたものであるので、「水流路プレート11と冷媒流路プレート12の間と上下に隔壁プレート13を設けた基本ユニットが1つまたは複数積層されたプレート式熱交換器14」といえ、また、「蒸発器」は、記載事項(ウ)の「冷媒流路プレート12内で凝縮液化した冷媒は減圧装置3で減圧され蒸発器4に流入し、ここで大気熱を吸熱して蒸発ガス化し再び圧縮機1に戻る」機能のものであるので、「大気熱を吸熱して冷媒を蒸発ガス化する蒸発器4」といえる。

すると、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が開示されているものということができる。
「圧縮機1、水流路プレート11と冷媒流路プレート12の間と上下に隔壁プレート13を設けた基本ユニットが1つまたは複数積層されたプレート式熱交換器14、減圧装置3、大気熱を吸熱して冷媒を蒸発ガス化する蒸発器4を備えたヒートポンプユニットで構成したヒートポンプ給湯装置。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-16754号公報(以下「刊行物3」という。)には、冷凍サイクル装置に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒートポンプ式冷凍サイクルの能力制御に関する。
【0002】
【従来の技術】・・・
【0003】
一方、ヒートポンプ式加熱器による湯水の沸き上げ温度を貯湯目標温度範囲にするため、冷媒圧力が設定目標圧力になるように冷媒圧縮機の回転速度を制御することにより、加熱対象となる湯水を貯湯目標温度範囲の沸き上げ温度に加熱するのに必要とする加熱力をヒートポンプ式加熱器が出力する状態となるように調整することが上記特許文献に記載されている。
・・・
【0010】
しかしながら、水冷媒熱交換器からの水の温度に基づいてフィードバック制御を行なうと、水冷媒熱交換器のヒートマスが大きいため、給湯水温がハンチングを起こし一定水温を得にくい。」
(イ)「【0027】
図9を用いてヒートポンプ制御の適用対象である温水生成装置(瞬間式ヒートポンプ給湯機)の構成例について説明する。500は温水生成装置の制御装置、400は温水生成装置の制御装置500の中に設けられたインバータモータ駆動手段によって駆動されるモータに直結した圧縮機(密閉型電動圧縮機)、220は室外に設けられる空気熱交換器、230は室外送風機、240は室外送風機を駆動する室外ファンモータ、250は膨張弁であり、室外の熱源側装置200を構成している。
【0028】
110は利用側水熱交換器(水冷媒熱交換器)であり、圧縮機より吐出された高温、高圧の冷媒が流入する。他方、太線矢印のごとく給水が流入し、高温、高圧の冷媒と熱交換し、流出口より温められた温水が流出するようになっていて、利用側装置100を構成している。利用側の水(温水)流路には、種々の温水利用機器、装置が接続されているが、その詳細は本発明の本質ではないので、図示を省略した。
【0029】
温水生成装置の制御装置500は、操作手段510の操作、および、流水路に設けた流水の流量センサ2200などにより、動作し、冷媒圧力測定手段1000、2100、温水生成負荷検出手段(たとえば流出側の温水温度センサ)2000などの入力信号を取り込み、温水生成装置の状態およびヒートポンプ負荷を求め、温水生成装置が最適な状態となるように、室外ファンモータ240、電動圧縮機400を駆動制御する。」
(ウ)「【0038】
具体的には、ヒートポンプに要求されるヒートポンプ負荷(制御目標)を高圧吐出冷媒圧力目標値に変換する高圧冷媒圧力変換手段を設け、変換手段の出力を制御目標(圧力制御目標)に設定する。高圧冷媒圧力検出手段、検出した高圧冷媒圧力と圧力制御目標との圧力偏差検出手段、圧力偏差検出手段の出力に応じたモータの速度指令生成手段を設け、ヒートポンプの状態を上記ヒートポンプの高圧吐出冷媒圧力を圧力制御目標圧力に保つように制御する(以下第1実施例において詳細説明する)。」
(エ)「【0041】
図1は、本発明に係るヒートポンプ式給湯機の制御ブロック図である。特に、ヒートポンプの高圧冷媒圧力制御を説明するブロック図である。図1において、操作手段510は、図7、図8に示したものと同様であり、空調機の場合は、室内温度目標値、温水生成装置の場合は、水冷媒熱交換器110より流出する温水温度目標値の設定値を保持している。制御装置500の中には、制御目標値から制御目標とする高圧冷媒圧力目標値を求めるための高圧冷媒圧力変換手段3000、高圧冷媒圧力目標値と測定圧力との差である圧力制御偏差検出用の加え合わせ点、一定時間毎(たとえば、10秒毎)に動作して、圧力制御偏差を速度指令生成手段3200に伝達するサンプラT1、制御偏差をもとに圧縮機駆動用モータの速度指令信号を生成する速度指令生成手段3200、指令された速度指令に従って圧縮機を駆動するインバータ3500よりなっている。圧縮機400の速度制御結果は、冷凍サイクルの出力となり、冷凍サイクルの状態は、高圧圧力検出手段2100によって検出されるように構成されている。」
(オ)「【0047】
温水生成装置の場合は、案外簡単で、一般に、冷媒と水の熱交換を対向流(冷媒の流れる方向と逆向きに水を流す)の形にするので、(制御目標温度+α)を横軸の値とし、縦軸に、これに対応する飽和冷媒圧力曲線を準備すればいい。αは、水熱交換器の設計上の調整値であり、値的には、ほとんど0度Cに近いものを設定すればいい場合がほとんどである。精度を要求する場合は、空調機の場合と同様に熱交換温度差に相当するものをαに設定すればよい。」

すると、刊行物3には、次の発明(以下「刊行物3記載の発明」という。)が開示されているものということができる。
「インバータモータ駆動手段によって駆動されるモータに直結した圧縮機400、利用側水熱交換器110、膨張弁250、空気熱交換器220を有する瞬間式ヒートポンプ給湯機において、
高圧圧力検出手段2100を設け、ヒートポンプに要求されるヒートポンプ負荷(制御目標)を高圧吐出冷媒圧力目標値に変換する高圧冷媒圧力変換手段を設け、変換手段の出力を制御目標(圧力制御目標)に設定し、
検出した高圧冷媒圧力と圧力制御目標との圧力偏差検出手段、圧力偏差検出手段の出力に応じたモータの速度指令生成手段を設け、ヒートポンプの状態を上記ヒートポンプの高圧吐出冷媒圧力を圧力制御目標圧力に保つように制御するようにした瞬間式ヒートポンプ給湯機。」

3.本願補正発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「冷媒の流れを切り替える四方弁2」は、本願補正発明の「冷凍サイクルの向きを切り換える四方弁」に相当し、以下同様に、「低圧側の第2絞り装置6」は、「第2の膨張弁」に、「圧縮機1の出口」は、「圧縮機の吐出側」に、「圧力検知手段21が検知した圧力での冷媒の飽和温度」は、「圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度」に相当する。
(b)引用発明の「高圧側の第1絞り装置4」は、それが「冷凍サイクルの性能(COP)が良い運転状態を目標とするため、制御手段26は凝縮器の過冷却度を目標値に近づけるように高圧側の第1絞り装置4の開口面積を調整」されるものであるので、本願補正発明の「冷媒の流量を調整し減圧する第1の膨張弁」に相当する。
(c)引用発明の「圧縮機1」と、本願補正発明の「運転容量の可変な圧縮機」とは、圧縮機である点で共通する。
(d)引用発明の「凝縮器3」と、本願補正発明の「水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器」とは、前者が刊行物1記載事項(イ)の「凝縮器として動作する室外熱交換器3」であると共に、後者も本願明細書【0008】に「凝縮器として作用する水と冷媒が熱交換をするプレート式熱交換器10」と記載されているように、凝縮器として作用するものであるので、凝縮器として動作する熱交換器である点で共通する。
(e)引用発明の「蒸発器7」と、本願補正発明の「空気と冷媒が熱交換する熱交換器」とは、前者が刊行物1記載事項(イ)の「蒸発器として動作する室内熱交換器7」であると共に、後者も本願明細書【0011】に「熱交換器9に流れ込んだ冷媒は低温であるため、空気から熱を受け取り、蒸発し低圧低温のガス冷媒となる。逆に、空気は冷却されて低い温度となり吹き出すこととなる。熱交換器9は冷凍サイクルの蒸発器として作用する。」と記載されているように、蒸発器として作用するものであるので、蒸発器として動作する熱交換器である点で共通する。
(f)また、引用発明の「圧縮機1、冷媒の流れを切り替える四方弁2、凝縮器3、高圧側の第1絞り装置4、レシーバ5、低圧側の第2絞り装置6、蒸発器7とを順次接続して冷媒に沸点の異なる2種以上の冷媒からなる非共沸混合冷媒を使用し、前記蒸発器7の出口の冷媒の状態が湿り状態で循環する冷凍サイクル」と、本願補正発明の「運転容量の可変な圧縮機、冷凍サイクルの向きを切り換える四方弁、水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器、冷媒の流量を調整し減圧する第1の膨張弁、空気と冷媒が熱交換する熱交換器を配管により、この順に接続して冷媒を循環させる冷凍サイクル」とは、前者の「順次接続して」が配管によりなされていることが自明であるので、圧縮機、冷凍サイクルの向きを切り換える四方弁、凝縮器として動作する熱交換器、冷媒の流量を調整し減圧する第1の膨張弁、蒸発器として動作する熱交換器を配管により、この順に接続して冷媒を循環させる冷凍サイクルである点で共通する。
(g)引用発明の「室外熱交温度検知手段22」と、本願補正発明の「プレート式熱交換器の出口側」に「設け」た「液冷媒温度を検出する温度検出手段」とは、前者が記載事項(イ)の「冷房運転時の室外熱交換器3の出口温度(暖房の場合は入り口温度)を検知する室外熱交温度検知手段」であるので、凝縮器として動作する熱交換器の出口側に設けた液冷媒温度を検出する温度検出手段である点で共通する。
(h)そして、引用発明の「凝縮器3の出口側に室外熱交温度検知手段22を設け、
凝縮器の出口冷媒の過冷却度については、圧力検知手段21が検知した圧力での冷媒の飽和温度と室外熱交温度検知手段22が検知した温度との差を演算器25が演算して求め」た「凝縮器の過冷却度」を「目標値に近づけるように高圧側の第1絞り装置4の開口面積を調整」することと、本願補正発明の「前記プレート式熱交換器の出口側に液冷媒温度を検出する温度検出手段を設け、前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記温度検出手段が検出する液冷媒温度との差より前記第1の膨張弁の開度を調整」することとは、凝縮器として動作する熱交換器の出口側に液冷媒温度を検出する温度検出手段を設け、圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記温度検出手段が検出する液冷媒温度との差より第1の膨張弁の開度を調整する点で共通する。
(i)引用発明の「圧縮機1、冷媒の流れを切り替える四方弁2、凝縮器3、高圧側の第1絞り装置4、レシーバ5、低圧側の第2絞り装置6、蒸発器7とを順次接続」した構成は、本願補正発明の「前記第1の膨張弁と前記熱交換器との間にレシーバを設置すると共に、該レシーバと前記熱交換器との間に第2の膨張弁を設け」た構成にも相当する。
(j)引用発明の「吐出冷媒の過熱度を吸入冷媒の過熱度」に代用して、「圧縮機1の吸入冷媒過熱度を目標値に近づけるように低圧側の第2絞り装置6の開口面積を調整する」ことと、本願補正発明の「前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記吐出側温度検出手段が検出する吐出冷媒温度との差による吐出過熱度に基づいて前記第2の膨張弁の開度を調整するようにしたこと」とは、吐出過熱度に基づいて第2の膨張弁の開度を調整するようにした点で共通する。

(2)両発明の一致点
「圧縮機、冷凍サイクルの向きを切り換える四方弁、凝縮器として動作する熱交換器、冷媒の流量を調整し減圧する第1の膨張弁、蒸発器として動作する熱交換器を配管により、この順に接続して冷媒を循環させる冷凍サイクルにおいて、
前記圧縮機の吐出側と前記四方弁との間に、前記圧縮機から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検出手段を設け、
前記凝縮器として動作する熱交換器の出口側に液冷媒温度を検出する温度検出手段を設け、前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記温度検出手段が検出する液冷媒温度との差より前記第1の膨張弁の開度を調整し、
前記第1の膨張弁と前記熱交換器との間にレシーバを設置すると共に、該レシーバと前記熱交換器との間に第2の膨張弁を設け、
吐出過熱度に基づいて前記第2の膨張弁の開度を調整するようにした冷凍サイクル。」

(3)両発明の相違点
(ア)本願補正発明は「冷凍サイクルを構成して水を加熱する給湯器」であるのに対して、引用発明は、冷凍サイクルであって、その用途は特定されていない点。
(イ)本願補正発明は圧縮機が「運転容量の可変な圧縮機」であって、「前記圧縮機の吐出側と前記四方弁との間に、前記圧縮機から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検出手段を設け、該圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と、前記プレート式熱交換器によって加熱される水の設定温度から定まる目標凝縮温度との差より圧縮機の運転速度を調整」するのに対して、引用発明は、圧縮機1であって、運転速度を調整について明らかでない点。
(ウ)本願補正発明は凝縮器として動作する熱交換器が「水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器」であるのに対して、引用発明は、凝縮器3である点。
(エ)本願補正発明は蒸発器として動作する熱交換器が「空気と冷媒が熱交換する熱交換器」であるのに対して、引用発明は、蒸発器7である点。
(オ)本願補正発明は「圧縮機の吐出口側に吐出する冷媒の温度を検出する吐出側温度検出手段を設け、
前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記吐出側温度検出手段が検出する吐出冷媒温度との差による吐出過熱度に基づいて前記第2の膨張弁の開度を調整するようにした」ものであるのに対して、引用発明は、圧縮機の吐出冷媒の過熱度を吸入冷媒の過熱度に代用して、圧縮機1の吸入冷媒過熱度を目標値に近づけるように低圧側の第2絞り装置6の開口面積を調整するものである点。

4.本願補正発明の容易推考性の検討
(1)相違点(ア)(ウ)(エ)について
ア.刊行物2記載の発明の「ヒートポンプユニット」は、本願補正発明の「冷凍サイクル」に相当し、以下同様に、「水流路プレート11と冷媒流路プレート12の間と上下に隔壁プレート13を設けた基本ユニットが1つまたは複数積層されたプレート式熱交換器14」は、「水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器」に、「減圧装置3」は、「膨張弁」に、「大気熱を吸熱して冷媒を蒸発ガス化する蒸発器4」は、「空気と冷媒が熱交換する熱交換器」に、「ヒートポンプ給湯装置」は、「水を加熱する給湯器」に相当する。
そうすると、刊行物2記載の発明は、本願補正発明の表現に倣えば「圧縮機、水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器、膨張弁、空気と冷媒が熱交換する熱交換器を備え、冷凍サイクルを構成して水を加熱する給湯器」と言い換えることができる。
イ.そして、刊行物2記載事項(イ)の「コンパクトなヒートポンプユニットを実現する」や「熱伝達性能の安定化」は、引用発明においても望ましいことである。
さらに、特開平11-270919号公報【0001】-【0003】や、特開2000-104940号公報【0011】-【0012】などにも記載されているように、凝縮器を冷媒と水を熱交換させるプレート式熱交換器で構成して冷凍サイクル装置を給湯用途に用いることは一般的に行われていることでもある。
ウ.そうすると、引用発明の冷凍サイクルを刊行物2記載の発明のように、「水を加熱する給湯器」として使用すると共に、同様に、凝縮器として動作する熱交換器を「水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器」とし、蒸発器として動作する熱交換器を「空気と冷媒が熱交換する熱交換器」として構成して相違点(ア)(ウ)(エ)に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点(イ)について
ア.刊行物3記載の発明の「瞬間式ヒートポンプ給湯機」は、本願補正発明の「水を加熱する給湯器」に相当し、以下同様に、「高圧圧力検出手段2100」は、「圧縮機から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検出手段」に、「空気熱交換器220」は、「空気と冷媒が熱交換する熱交換器」に相当する。
また、刊行物3記載の発明の「インバータモータ駆動手段によって駆動されるモータに直結した圧縮機400」は、そのモータが「圧力偏差検出手段の出力に応じたモータの速度指令生成手段を設け、ヒートポンプの状態を上記ヒートポンプの高圧吐出冷媒圧力を圧力制御目標圧力に保つように制御する」ものであって、圧縮機400に直結したモータの速度の変更が、圧縮機400の運転容量を変更することが自明であるので、本願補正発明の「運転容量の可変な圧縮機」に相当する。
また、刊行物3記載の発明の「利用側水熱交換器110」と、本願補正発明の「水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器」とは、水と冷媒が熱交換する熱交換器である点で共通する。
また、刊行物3記載の発明の「膨張弁250」と、本願補正発明の「冷媒の流量を調整し減圧する第1の膨張弁」とは、膨張弁である点で共通する。
また、刊行物3記載の発明の「ヒートポンプに要求されるヒートポンプ負荷(制御目標)」は、刊行物3記載事項(イ)に「温水生成負荷検出手段(たとえば流出側の温水温度センサ)2000」と記載した上で、同じく記載事項(エ)に「操作手段510は、図7、図8に示したものと同様であり、・・・温水生成装置の場合は、水冷媒熱交換器110より流出する温水温度目標値の設定値を保持している。」と記載されているように、温水生成装置の時は、「ヒートポンプ負荷(制御目標)」が、流出側の温水温度目標値で例示されるものであるので、本願補正発明の「プレート式熱交換器によって加熱される水の設定温度」に相当する。
そして、刊行物3記載の発明の「ヒートポンプに要求されるヒートポンプ負荷(制御目標)を高圧吐出冷媒圧力目標値に変換する高圧冷媒圧力変換手段を設け、変換手段の出力を制御目標(圧力制御目標)に設定し、
検出した高圧冷媒圧力と圧力制御目標との圧力偏差検出手段、圧力偏差検出手段の出力に応じたモータの速度指令生成手段を設け、ヒートポンプの状態を上記ヒートポンプの高圧吐出冷媒圧力を圧力制御目標圧力に保つように制御する」ことと、本願補正発明の「該圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と、前記プレート式熱交換器によって加熱される水の設定温度から定まる目標凝縮温度との差より圧縮機の運転速度を調整」することとは、前者の「ヒートポンプ負荷(制御目標)」が「プレート式熱交換器によって加熱される水の設定温度」に相当するものであり、前者が、それを基に求めた「圧力制御目標」と、高圧圧力検出手段2100で「検出した高圧冷媒圧力」との「圧力偏差」を検出して、「モータの速度指令」を生成して、「制御する」ものであるので、両者は、圧力検出手段が検出した圧力に対応した物理量と、熱交換器によって加熱される水の設定温度に対応した目標物理量との差により圧縮機の運転速度を調整する点で共通する。
そうすると、刊行物3記載の発明は、本願補正発明の表現に倣えば「運転容量の可変な圧縮機、水と冷媒が熱交換する熱交換器、膨張弁、空気と冷媒が熱交換する熱交換器を配管により、この順に接続して冷媒を循環させる冷凍サイクルを構成して水を加熱する給湯器において、
前記圧縮機の吐出側に、前記圧縮機から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検出手段を設け、圧力検出手段が検出した圧力に対応した物理量と、熱交換器によって加熱される水の設定温度に対応した目標物理量との差より圧縮機の運転速度を調整する給湯器。」と言い換えることができる。
イ.また、刊行物3記載の発明の「圧力検出手段が検出した圧力に対応した物理量」は「圧力検出手段が検出した圧力」自体である一方、「水の設定温度に対応した目標物理量」は「ヒートポンプ負荷(制御目標)を高圧吐出冷媒圧力目標値に変換」したものであって、「圧力」の偏差を求める制御態様のものであるが、刊行物3図3に目標高圧冷媒圧力と制御目標温度の置換関係が記載されているように、他にも特開2000-39220号公報【0086】に「高圧設定値と低圧設定値を目標値として・・制御するものとしたが、・・冷媒の凝縮温度および蒸発温度を目標値として設定するように構成しても良い。・・・圧力検知機21で検知した高圧検知値を凝縮温度に換算しても良い・・」と記載されているように、飽和凝縮温度と吐出冷媒圧力とが相互に置換可能な物理量であることが、当業者にとって技術常識である事、及び刊行物3の発明も刊行物3記載事項(イ)の「水の温度に基づいてフィードバック制御を行なう」ものを従来技術としており、他にも特開平2-203171号公報第3頁右上欄に「冷媒凝縮温度と・・給湯温度とが異なっている場合には・・圧縮機1の回転数を変化させる。」、特開2000-39220号公報【0086】に「高圧設定値と低圧設定値を目標値として・・制御するものとしたが、・・冷媒の凝縮温度および蒸発温度を目標値として設定するように構成しても良い。」と記載されているように、「温度」の偏差を求める制御態様も周知慣用である事を考慮すると、制御時の比較を、それらのいずれの物理量で行うかは、当業者が適宜選択し得た事項である。
ウ.そして、刊行物3記載事項(ア)記載の「能力制御」ができることは、上記ア.に記載した、引用発明の冷凍サイクルにおいても望ましいことである。
さらに、冷凍サイクルに運転容量の可変な圧縮機を用いて、能力制御を行う事は、一般的に行われていることでもある。
エ.そうすると、引用発明の冷凍サイクルを刊行物3記載の発明のように、運転容量の可変な圧縮機を用いて、能力制御を行う事と共に、同様に、その運転容量の可変な圧縮機の運転容量の制御を「圧縮機の吐出側に、前記圧縮機から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検出手段を設け、圧力検出手段が検出した圧力に対応した物理量と、熱交換器によって加熱される水の設定温度に対応した目標物理量との差より圧縮機の運転速度を調整」するものとし、「該圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と、前記プレート式熱交換器によって加熱される水の設定温度から定まる目標凝縮温度との差より圧縮機の運転速度を調整」する構成として相違点(イ)に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点(オ)について
ア.引用発明は「圧縮機の吐出冷媒の過熱度を吸入冷媒の過熱度に代用する」ものである。
イ.そして、例えば、特開2001-221518号公報【0039】に「圧縮機構(21)の吐出側配管には、吐出冷媒温度を検出するための温度センサ(63)と、吐出冷媒圧力を検出するための圧力センサ(65)とが設けられている。・・・温度センサ(63)及び圧力センサ(65)の検出する吐出冷媒温度及び吐出冷媒圧力により、吐出冷媒の過熱度を検出する」と、特開2002-120546号公報【0097】に「圧縮機吐出冷媒の過熱度は、圧力センサ47により検出される吐出圧PDに基づいて決定される飽和温度と、温度センサ48により検出される吐出温度TDとの温度差により算出できる。」と、特開2006-118788号公報【請求項2】に「吐出温度と吐出圧力の検出値により圧縮機吐出冷媒の過熱度を求める」と記載されているように「圧縮機の吐出冷媒の過熱度」が、「圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度」と「圧縮機の吐出口側に吐出する冷媒の温度を検出する吐出側温度検出手段」で「検出する吐出冷媒温度」との差で表されることは、当業者にとって自明のことである。
ウ.そうすると、引用発明の「圧縮機1の吸入冷媒過熱度を目標値に近づけるように低圧側の第2絞り装置6の開口面積を調整する」際の「吸入冷媒の過熱度」に「圧縮機の吐出冷媒の過熱度」を代用するにあたり、「圧縮機の吐出冷媒の過熱度」として、上記「圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度」と「圧縮機の吐出口側に吐出する冷媒の温度を検出する吐出側温度検出手段」で「検出する吐出冷媒温度」との差で表される値を用いて、相違点(オ)に係る発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(4)総合判断
そして、本願補正発明の作用効果は、引用発明、刊行物2?3記載の発明、及び当業者に周知の事項から当業者であれば予測できた範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2?3記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年3月23日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成22年8月31日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
運転容量の可変な圧縮機、冷凍サイクルの向きを切り換える四方弁、水と冷媒が熱交換するプレート式熱交換器、冷媒の流量を調整し減圧する第1の膨張弁、空気と冷媒が熱交換する熱交換器を配管により、この順に接続して冷媒を循環させる冷凍サイクルを構成して水を加熱する給湯器において、
前記圧縮機の吐出側と前記四方弁との間に、前記圧縮機から吐出する冷媒の圧力を検出する圧力検出手段を設け、該圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と目標とする凝縮温度との差より圧縮機の運転速度を調整し、
前記プレート式熱交換器の出口側に液冷媒温度を検出する温度検出手段を設け、前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記温度検出手段が検出する液冷媒温度との差より前記第1の膨張弁の開度を調整し、
前記第1の膨張弁と前記熱交換器との間にレシーバを設置すると共に、該レシーバと前記熱交換器との間に第2の膨張弁を設け、さらに前記圧縮機の吐出口側に吐出する冷媒の温度を検出する温度検出手段を設け、
前記圧力検出手段が検出した圧力に基づいて算出された飽和凝縮温度と前記温度検出手段が検出する液冷媒温度との差より前記第2の膨張弁の開度を調整するようにしたことを特徴とする給湯器。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1?3とその記載事項は、前記の「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明の構成を全て含むとともに、本願発明の構成に更に限定を付加した本願補正発明が、前記「第2 3.」、「4.」に記載したとおり、引用発明、刊行物2?3記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も本願補正発明と同様の理由により、引用発明、刊行物2?3記載の発明、及び当業者に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-02 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-12-06 
出願番号 特願2007-70995(P2007-70995)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
P 1 8・ 575- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 浩士  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 松下 聡
中川 真一
発明の名称 給湯器  
代理人 高梨 範夫  
代理人 大谷 元  
代理人 安島 清  
代理人 村田 健誠  
代理人 山東 元希  
代理人 小林 久夫  
代理人 小河 卓  

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