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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1250707 |
審判番号 | 不服2009-22923 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-11-24 |
確定日 | 2012-01-18 |
事件の表示 | 特願2005-140386「電子装置、薄膜トランジスタ構造体及びそれを備える平板ディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年1月19日出願公開、特開2006-19704〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成17年5月12日(パリ条約に基づく優先権主張 2004年6月30日、大韓民国)の特許出願であって、平成21年3月4日付けの拒絶理由通知に対して同年6月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月13日付けで拒絶査定がなされた。 それに対して、同年11月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成23年1月28日付けで審尋がなされ、同年4月28日に回答書が提出された。 第2.補正の却下の決定 【補正の却下の決定の結論】 平成21年11月24日に提出された手続補正書による補正を却下する。 【理由】 1.補正の内容 平成21年11月24日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?22を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?22と補正するものであり、補正前後の請求項1は各々次のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 層を別にして交互される二層以上の導電層を含む電子装置において、 前記導電層のうち少なくとも何れか一層は、長手方向に沿って幅を別にする幅変動部を備え、前記電子装置は複数の幅変動部を備え、前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成されることを特徴とする電子装置。」 (補正後) 「【請求項1】 層を別にして交互される二層以上の導電層を含む電子装置において、 前記導電層のうち少なくとも何れか一層は、長手方向に沿って幅を別にする幅変動部を備え、前記幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成され、前記電子装置は複数の幅変動部を備え、前記すべての複数の幅変動部での幅変動が、連続的になされることを特徴とする電子装置。」 2.補正事項の整理 本件補正による補正事項を整理すると次のとおりである。 (1)補正事項1 補正前の請求項1の「前記電子装置は複数の幅変動部を備え、前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成される」を、補正後の請求項1の「前記幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成され、前記電子装置は複数の幅変動部を備え、前記すべての複数の幅変動部での幅変動が、連続的になされる」と補正すること。 (2)補正事項2 補正前の請求項4の「前記薄膜トランジスタ構造体は複数の幅変動部を備え、前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成される」を、補正後の請求項4の「前記幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成され、前記薄膜トランジスタ構造体は複数の幅変動部を備え、前記すべての複数の幅変動部での幅変動が、連続的になされる」と補正すること。 (3)補正事項3 補正前の請求項7の「前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成される」を、補正後の請求項7の「前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成され、前記幅変動部での幅変動が、連続的になされる」と補正すること。 (4)補正事項4 補正前の請求項12の「前記すべての複数の断面積が変わる部分は、隣りの導電層との非交差部に形成される」を、補正後の請求項12の「前記すべての複数の断面積が変わる部分は、隣りの導電層との非交差部に形成され、かつ、連続的に断面積が変わる」と補正すること。 (5)補正事項5 補正前の請求項15の「前記すべての複数の断面積が変わる部分は、隣りの導電層との非交差部に形成される」を、補正後の請求項15の「前記すべての複数の断面積が変わる部分は、隣りの導電層との非交差部に形成され、かつ、連続的に断面積が変わる」と補正すること。 (6)補正事項6 補正前の請求項18の「前記すべての複数の断面積が変わる部分は、隣りの導電層との非交差部に形成される」を、補正後の請求項18の「前記すべての複数の断面積が変わる部分は、隣りの導電層との非交差部に形成され、かつ、連続的に断面積が変わる」と補正すること。 3.補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無について検討 (1)補正事項1及び2について 補正事項1及び2により、補正前の請求項1に係る発明及び請求項4に係る発明の発明特定事項である「前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成される」(下線は当合議体が付加したもの。以下同じ。)という事項が、「前記幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成され」と補正されており、補正により「すべての」という限定が削除されているから、補正事項1及び2は、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。 また、補正事項1及び2が、特許法第17条の2第4項のその余のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。 したがって、補正事項1及び2は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たさない。 また、補正事項1及び2により補正された部分は、本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。また、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面をまとめて「当初明細書等」という。)の0024段落に記載されているものと認められるから、補正事項1及び2は、当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、補正事項1及び2は特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たす。 (2)補正事項3について 補正事項3は、補正前の請求項7に係る発明の発明特定事項である「幅変動部」について、「幅変動部での幅変動が、連続的になされる」という技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 したがって、補正事項3は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。 また、補正事項3により補正された部分は、当初明細書の0024段落に記載されているものと認められるから、補正事項3は、当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、補正事項3は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。 (3)補正事項4?6について 補正事項4?6は、補正前の請求項12に係る発明、請求項15に係る発明及び請求項18に係る発明の発明特定事項である「断面積が変わる部分」について、「すべての複数の断面積が変わる部分は、」「連続的に断面積が変わる」という技術的限定を加えるものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 したがって、補正事項4?6は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。 また、補正事項4?6により補正された部分は、当初明細書の0024段落に記載されているものと認められるから、補正事項4?6は、当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。 したがって、補正事項4?6は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。 (4)補正の目的の適否、及び新規事項の追加の有無についてのまとめ 以上検討したとおり、補正事項1及び2は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たさないから、補正事項1及び2を含む本件補正も当然に特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たさない。 本件補正については、以上のとおりであるが、仮に、補正事項1及び2が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び同第4号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、本件補正が特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものであった場合において、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについても一応検討する。 4.独立特許要件について (1)補正後の発明 本願の本件補正による補正後の請求項1?22に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1.の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものである。 (2)引用刊行物に記載された発明 (2-1)本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開2002-268094号公報(以下「引用例」という。)には、図1と共に次の記載がある。 a.「【0001】 【発明の属する技術分野】本技術は液晶表示装置に関するものである。」 b.「【0007】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、電圧を加えてもすべての画素において転移を発生させることは困難であり、実際にはいくつかの転移した画素から、隣接する画素へ、ベンド配向転移が広がって行くことによって、パネル全体の画素が、ベンド配向状態となる。またある画素でベンド配向への転移が発生したとしても、その転移が広がって行く先に、障害物、たとえばTFTには走査信号線、映像信号線などが、通常設置されてあるが、その配線部分が障害となり、ベンド配向への転移の広がりが止まってしまい、ベンド配向の転移が素直に隣の画素まで広がって行かず、パネル内の全画素にベンド配向が起きない部分が発生すると言う問題が発生する。 【0008】ベンド配向への転移が起こらず、スプレイ配向のまま残った画素が存在すると、その画素は表示欠陥となり、ディスプレイとしての表示品位を大きく低下させる。そこで本発明は、パネル内の全画素が、スプレイ配向からベンド配向への転移が発生した後、ベンド配向への転移が容易に安定して広がり、表示欠陥の無いパネルを提供することを目的とする。」 c.「【0009】 【課題を解決するための手段】この課題を解決するために、本発明の液晶表示装置では、パネル内の全画素において、スプレイ配向からベンド配向への転移が、容易に安定して広がることを促進するために、走査信号線、映像信号線及び蓄積容量配線(共通電極)の構造及び配置について特徴をもたせたものである。 【0010】手段としては、走査信号線の幅を一部分細くしくぼみを持たせた構造、走査信号線の膜厚を一部分薄くした構造、走査信号線の断面にテーパーを持たせた構造、映像信号線の幅を一部分細くした構造、映像信号線の膜厚を一部分薄くした構造、映像信号線の断面にテーパーを持たせた構造、蓄積容量配線を走査信号線に沿って配置した構造、蓄積容量配線を映像信号線に沿って配置した構造、蓄積容量配線の幅を一部分細くした構造、蓄積容量配線の膜厚を一部分薄くした構造、蓄積容量配線の断面にテーパーを持たせた構造等である。これらの構造のいずれか、もしくは複数の構造を、パネル内の全画素またはいずれかの画素において用いた本発明の構造により、ある画素のTFTから発生したスプレイ配向からベンド配向への転移が、パネル内の全画素に容易に広がって行くことが出来る。」 d.「【0011】 【発明の実施の形態】以下、本発明による横電界方式のアクティブマトリクス型液晶表示装置の実施例を、半導体スイッチ素子として薄膜トランジスタ(以下、TFT)を用いた場合を例として説明する。 【0012】(実施例1)図1は、本発明の第1の実施例を示したものであり、図1(a)は液晶表示装置の一画素分の平面図である。図1(b)は図1(a)のA-A’部分の断面図を表している。 【0013】図1(a)において、1は走査信号を供給するゲート配線、2は映像信号を供給するソース配線で、前記ゲート配線1との交差部付近に、スイッチング素子として半導体層を有するTFT3が形成されている。また共通配線上に画素電極4の一部が絶縁層を介して重なり、その上層に絶縁層を介して、蓄積容量電極5が形成されている。共通配線と蓄積容量電極は、コンタクトホールにより電気的に接続されており、この構成により、2層構成の蓄積容量部を形成している。以上は、全てアレイ基板上にマトリクス状に形成されてある。 【0014】本実施例における液晶表示装置は、例えば以下のようにして作成することが出来る。まず、アレイ基板となるガラス上に、アルミニウム(Al)を主成分とする第1の導電層をスパッタ法等で成膜した後、フォトリソグラフ法で同一平面上にパターン形成して、ゲート配線1、共通電極と共通配線を得る。次いでCVD法等により、ちっ化珪素(SiNx)等の絶縁層を堆積させた後、a-Si等からなる半導体層をCVD法などで形成する。さらに第1の導電層と同様な工程にて第3の導電層を堆積し、パターニングを行い、蓄積容量電極5を得るとともに、コンタクトホールにより、共通配線との電気的接続を行なう。 【0015】なお、この上にTFT3や電極を保護するための、第4の絶縁層を形成しても良い。導電層として使用する材料は、配線抵抗の低い金属が望ましいが、とくにアルミニウム系金属に限定するものでは無く、また単層膜でも多層膜であってもよい。 【0016】上記のように作成されたアレイ基板とカラーフィルタが形成された基板に、配向膜を塗布し、所定の方向にラビング処理を行ない、基板間に樹脂スペーサを挟んだ状態で、周辺部をシール剤で接着した後、液晶を注入し封止して、液晶パネルを得る。この液晶パネルに駆動回路及び制御回路を接続して液晶表示装置を得る。」 e.「【0017】前記液晶パネルでは、電圧を印加しない初期状態では、液晶分子がほぼ平行に並んだスプレイ配向状態にある。このスプレイ配向状態にある液晶層に比較的大きな転移電圧、例えば25V程度を印加することによってベンド配向へ転移させることが出来る。しかしながら、例えば欠陥等の原因によって全ての画素でベンド配向転移が発生する確率は100%ではない。ここで図1(a)に示すように、ゲート配線1の一部分は他の走査配線部より細いくぼみ部分a、具体的には走査信号線の幅が20μmで形成し、その細いくぼみ部分aは10μmで形成する。この効果として、例えばTFT3部分にて発生した、スプレイ配向からベンド配向への転移が、さらに広がって行く途中で、走査信号線1にぶつかって、転移の広がりがとまりそうになったとしても、走査信号線のくぼみ部分aが10μmと細くなっているため、aの部分よりベンド配向の転移の広がりが、走査信号線を容易に乗り越え、隣の画素まで転移が広がることが出来る。これを繰返すことによってパネル内の全画素において転移が広がることが出来、未転移の画素を残さないため、点欠陥の無い良好なパネルを得ることが出来る。 【0018】なお、くぼみ形状は本実施例の形状に限定されるものではなく、同じ効果を示すものであれば、例えば曲線形状やジグザグ形状等でもよい。」 (2-2)ここにおいて、0017段落の「ここで図1(a)に示すように、ゲート配線1の一部分は他の走査配線部より細いくぼみ部分a、具体的には走査信号線の幅が20μmで形成し、その細いくぼみ部分aは10μmで形成する。」との記載を参酌すると、引用例の図1には、ゲート配線1、及びゲート配線1上に絶縁膜6を介して交差する映像信号線2を含む液晶表示装置において、ゲート配線1は長手方向に沿って幅が細いくぼみ部分aを備え、くぼみ部分aはゲート配線1と映像信号線2とが交差する部分以外に形成され、液晶表示装置は複数のくぼみ部分aを備えた液晶表示装置が記載されているものと認められる。 (2-3)したがって、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ゲート配線1、及び前記ゲート配線1上に絶縁膜6を介して交差する映像信号線2を含む液晶表示装置において、前記ゲート配線1は長手方向に沿って幅が細いくぼみ部分aを備え、前記くぼみ部分aは、前記ゲート配線1と前記映像信号線2とが交差する部分以外に形成され、前記液晶表示装置は、複数の前記くぼみ部分aを備え、前記くぼみ部分aのくぼみ形状は曲線形状である液晶表示装置。」 (3)補正発明と引用発明との対比 (3-1)引用発明の「ゲート配線1、及び前記ゲート配線1上に絶縁膜6を介して交差する映像信号線2」は、層を別にして交互に形成されていることは明らかであるから、補正発明の「層を別にして交互される2層以上の導電層」に相当する。 (3-2)引用発明の「液晶表示装置」が補正発明の「電子装置」に相当することは当業者にとって自明である。 (3-3)引用発明の「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分が、補正発明の「幅を別にする幅変動部」に相当する。 そして、引用発明の「前記ゲート配線1」は、「長手方向に沿って幅が細いくぼみ部分aを備え」ているから、引用発明の「前記ゲート配線1」が、「長手方向に沿って」、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分を備えていることは明らかである。 したがって、引用発明も補正発明と同様に、「前記導電層のうち少なくとも何れか一層は、長手方向に沿って幅を別にする幅変動部を備え」ているものと認められる。 (3-4)引用発明は、「前記くぼみ部分aは、前記ゲート配線1と前記映像信号線2とが交差する部分以外に形成され」という構成を備えているから、引用発明の「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分が、「ゲート配線1」と当該「ゲート配線1」の隣の導電層である「映像信号線2」との非交差部に形成されていることが明らかである。 したがって、引用発明も補正発明と同様に、「前記幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成され」ているものと認められる。 また、引用発明は、「前記液晶表示装置は複数の前記くぼみ部分aを備え」ているから、引用発明も補正発明と同様に、「前記電子装置は複数の幅変動部を備え」ていることは明らかである。 (3-5)以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、 「層を別にして交互される二層以上の導電層を含む電子装置において、 前記導電層のうち少なくとも何れか一層は、長手方向に沿って幅を別にする幅変動部を備え、前記幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成され、前記電子装置は複数の幅変動部を備えることを特徴とする電子装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点) 補正発明は、「前記すべての複数の幅変動部での幅変動が、連続的になされる」ものであるのに対して、引用発明は、「前記くぼみ部分aのくぼみ形状は曲線形状である」点。 (4)相違点についての当審の判断 (4-1)上記の相違点は、次のように分解できるので、その各々について検討する。 (相違点1) 「幅変動部」の形状の特定が、すべての「幅変動部」に対してなされているか否かに関する相違点であって、補正発明は、「前記すべての複数の幅変動部」について形状の特定がなされているのに対して、引用発明は、すべての複数の「幅変動部」、すなわちすべての複数の「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分について形状の特定がなされていない点。 (相違点2) 「幅変動部」の形状に関する相違点であって、補正発明は、「幅変動部での幅変動が、連続的になされる」ものであるのに対して、引用発明は、「前記くぼみ部分aのくぼみ形状は曲線形状である」点。 (4-2)相違点1について 当業者における技術常識から明らかなように、また、引用例の0013段落の「図1(a)において、1は走査信号を供給するゲート配線、2は映像信号を供給するソース配線で、前記ゲート配線1との交差部付近に、スイッチング素子として半導体層を有するTFT3が形成されている。・・・以上は、全てアレイ基板上にマトリクス状に形成されてある。」という記載からも明らかなように、引用発明は、全体にわたって同一のパターンがマトリクス状に形成された構造となっているから、引用発明においても、すべての「前記くぼみ部分a」について、「くぼみ形状は曲線形状」となっている、すなわち、すべての複数の「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分について形状の特定がなされているものと認められる。 したがって、相違点1は実質的なものではない。 (4-3)相違点2について (4-3-1)「曲線」とは「ゆるやかに曲がった線」(株式会社岩波書店 広辞苑第四版第四刷(1994年9月12日発行))という意味であるから、引用発明の「前記くぼみ部分aのくぼみ形状は曲線形状である」とは、「前記くぼみ部分aのくぼみ形状」がゆるやかに曲がった線の形状であることを意味するものと認められる。 そして、「前記くぼみ部分aのくぼみ形状」がゆるやかに曲がった線の形状であれば、「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分での幅変動が、連続的になされていること、すなわち、補正発明のように「幅変動部での幅変動が、連続的になされる」ことは明らかである。 したがって、相違点2も実質的なものではない。 (4-3-2)相違点2については、以上のとおりであるが、仮に、引用発明が、補正発明のように「幅変動部での幅変動が、連続的になされる」ものであるとまではいえず、相違点2が実質的なものであった場合についても一応検討する。 一般に、電子装置において、当該電子装置の配線の幅変動部での幅変動を連続的にすることは、下記周知例1及び2にも記載されているように、当業者において普通に行われてきていることである。 a.周知例1:特開平07-106417号公報 上記周知例1には、図3と共に次の記載がある。 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は複数の配線層を有し、層間絶縁膜を介在して配線が交差する半導体集積回路装置に関し、特に、動作速度の高速化を図る必要のある半導体集積回路装置に適用して有効な技術に関するものである。」 「【0039】図3に示すように、前記配線の交差部分において、信号配線9は、層間絶縁膜7bを介在して、信号配線6と交差する部分において、配線幅が細くなっている。」 そして、図3からは、信号配線9の、幅が太い部分から細い部分へと変わる部分(幅変動部)での幅変動が連続的になされていることが見て取れる。 したがって、上記周知例1には、半導体集積回路装置という電子装置において、配線の幅変動部での幅変動が連続的である構造のものが記載されているものと認められる。 b.周知例2:特開昭64-050441号公報 上記周知例2には、第2図と共に次の記載がある。 「〔産業上の利用分野〕 本発明は半導体集積回路に係わり、特にその内部における回路配線パターンに関する。」(1ページ左下欄9行?11行) 「また、第2図に示すように配線パターンを段階的でなく連続的なカーブによって形成してもよく、このときは更に配線面積を有効に活用することができるので遅延時間の改善に対してもより以上の効果が発揮される。」(3ページ右下欄6行?10行) したがって、上記周知例2には、半導体集積回路という電子装置において、配線の幅変動部での幅変動が連続的なカーブである構造のものが記載されているものと認められる。 (4-3-3)そして、引用例には、「なお、くぼみ形状は本実施例の形状に限定されるものではなく、同じ効果を示すものであれば、例えば曲線形状やジグザグ形状等でもよい。」(0018段落)と記載されているところ、引用発明において、「前記くぼみ部分aのくぼみ形状」として、配線の幅変動部での幅変動が連続的になされる形状を採用したとしても、引用発明が所期の効果を奏することができることは明らかである。 したがって、引用発明において、「前記くぼみ部分aのくぼみ形状」を、補正発明のように「幅変動部での幅変動が、連続的になされる」形状とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (4-3-4)以上のとおりであるから、相違点2は、実質的なものではなく、また、仮に実質的なものであったとしても当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。 (4-4)判断についてのまとめ 以上検討したとおりであるから、補正発明と引用発明との相違点は、実質的なものではく、また、仮に実質的なものであったとしても、周知技術を勘案することにより、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。 したがって、補正発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、また、仮に補正発明が引用例に記載された発明とまではいえないものであったとしても、補正発明は、周知技術を勘案することにより引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)独立特許要件についてのまとめ 本件補正は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しないものである。 5.補正の却下の決定のむすび 本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものではなく、また、仮に本件補正が当該要件を満たすものであったとしても、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明 平成21年11月24日に提出された手続補正書による補正は上記のとおり却下されたから、本願の請求項1?22に係る発明は、平成21年6月24日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2.1.の「(補正前)」の箇所に記載した以下のとおりのものである。 「【請求項1】 層を別にして交互される二層以上の導電層を含む電子装置において、 前記導電層のうち少なくとも何れか一層は、長手方向に沿って幅を別にする幅変動部を備え、前記電子装置は複数の幅変動部を備え、前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成されることを特徴とする電子装置。」 第4.引用刊行物に記載された発明 本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開2002-268094号公報(引用例)には、上記第2.4.(2)に記載したとおりの事項、及び発明(引用発明)が記載されているものと認められる。 第5.本願発明と引用発明との対比 1.引用発明の「ゲート配線1、及び前記ゲート配線1上に絶縁膜6を介して交差する映像信号線2」は、層を別にして交互に形成されていることは明らかであるから、本願発明の「層を別にして交互される2層以上の導電層」に相当する。 2.引用発明の「液晶表示装置」が本願発明の「電子装置」に相当することは当業者にとって自明である。 3.引用発明の「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分が、本願発明の「幅を別にする幅変動部」に相当する。 そして、引用発明の「前記ゲート配線1」は、「長手方向に沿って幅が細いくぼみ部分aを備え」ているから、引用発明の「前記ゲート配線1」が、「長手方向に沿って」、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分を備えていることは自明である。 したがって、引用発明も本願発明と同様に、「前記導電層のうち少なくとも何れか一層は、長手方向に沿って幅を別にする幅変動部を備え」ているものと認められる。 4.引用発明は、「前記液晶表示装置は複数の前記くぼみ部分aを備え」ているから、引用発明も補正発明と同様に、「前記電子装置は複数の幅変動部を備え」ていることは明らかである。 そして、引用発明は、「前記くぼみ部分aは、前記ゲート配線1と前記映像信号線2とが交差する部分以外に形成され」という構成を備えているから、引用発明の「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分が、「ゲート配線1」と当該「ゲート配線1」の隣の導電層である「映像信号線2」との非交差部に形成されていることが明らかである。 したがって、引用発明は、本願発明の「複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成される」に相当する構成を備えているものと認められる。 5.以上を総合すると、本願発明と引用発明とは、 「層を別にして交互される二層以上の導電層を含む電子装置において、 前記導電層のうち少なくとも何れか一層は、長手方向に沿って幅を別にする幅変動部を備え、前記電子装置は複数の幅変動部を備え、前記複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成されることを特徴とする電子装置。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願発明は、「前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成される」ものであるのに対して、引用発明は、すべての「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分が、「ゲート配線1」と当該「ゲート配線1」の隣の導電層である「映像信号線2」との非交差部に形成されていることが特定されていない点。 第6.相違点についての当審の判断 当業者における技術常識から明らかなように、また、引用例の0013段落の「図1(a)において、1は走査信号を供給するゲート配線、2は映像信号を供給するソース配線で、前記ゲート配線1との交差部付近に、スイッチング素子として半導体層を有するTFT3が形成されている。・・・以上は、全てアレイ基板上にマトリクス状に形成されてある。」という記載からも明らかなように、引用発明は、全体にわたって同一のパターンがマトリクス状に形成された構造となっているから、引用発明においても、すべての「ゲート配線1」における、幅が細くない部分から「幅が細いくぼみ部分a」へと幅が変動する部分が、「ゲート配線1」と当該「ゲート配線1」の隣の導電層である「映像信号線2」との非交差部に形成されていること、すなわち、本願発明のように、「前記すべての複数の幅変動部は、隣りの導電層との非交差部に形成される」という構成を備えていることは明らかである。 したがって、本願発明と引用発明との相違点は実質的なものではない。 よって、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第7.むすび 以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-19 |
結審通知日 | 2011-08-23 |
審決日 | 2011-09-07 |
出願番号 | 特願2005-140386(P2005-140386) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L) P 1 8・ 575- Z (H01L) P 1 8・ 57- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河本 充雄 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
市川 篤 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 電子装置、薄膜トランジスタ構造体及びそれを備える平板ディスプレイ装置 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 佐伯 義文 |