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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1251048
審判番号 不服2008-29866  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-25 
確定日 2012-01-27 
事件の表示 特願2003-530856「ヨコバイエクジソン受容体核酸、ポリペプチド、およびそれらの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 3日国際公開、WO03/27289、平成17年11月 4日国内公表、特表2005-532781〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年2月20日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年9月26日 米国)とする国際出願であって、その請求項1に係る発明は、平成20年6月25日付手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。

「配列番号:1、配列番号:1のヌクレオチド448?1109、配列番号:1のヌクレオチド16?1109、配列番号:1のヌクレオチド214?1109、および配列番号:1のヌクレオチド418?1109から選択された核酸配列を含む単離ポリヌクレオチド。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
(1)引用例2
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前の1997年に頒布された刊行物であるEur. J. Biochem. (1997) Vol. 248, p. 856-863(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(i) 「昆虫の変態は主に2種類のホルモンにより調節されている。そのうち、20-ヒドロキシエクジソン等のエクジステロイドは脱皮過程を誘導し、これに対して幼虫ホルモンは変態を抑制し、このようにして脱皮の性質を決定している。ステロイド類、チロイドホルモン類、レイノイド類、ビタミンD3を含む、発生に関わる多くの調節因子と同様に、エクジステロイド類は、リガンド誘導性の因子として働く核受容体に結合することによって、直接的に遺伝子の転写を制御する。核受容体類は、高度に保存されたDNA結合ドメイン(DBD)とリガンド結合ドメイン(LBD)を有する共通のモジュール構造を擁する転写因子のファミリーに属している。
昆虫においては、そのエクジステロイド受容体は、しばしばエクジソン受容体(EcR)とも呼ばれ、高等双翅目であるDrosophila melanogaster(キイロショウジョウバエ)で、最初にクローニングおよび機能解析をされた。しかしながら、より最近の研究は、活性な受容体がEcRタンパク質と、別の受容体ファミリーメンバーであるUltraspiracle(USP)からなるヘテロダイマーであることを示した。さらに複数のEcRホモログが、他の2種の双翅目すなわちChironomus tentans(ユスリカ)とAedes aegypti(ネッタイシマカ)、および3種の鱗翅目、すなわちBombyx mori(カイコガ)、Manduca sexta(タバコスズメガ)、Choristoneura fumiferana(トウヒノシントメハマキ)から同定された。全ては、強いアミノ酸の相同性を、特にDBDとLBD領域内において共有する。」(第856頁左欄第1行?右欄第8行)

(ii)「T. molitor(チャイロコメノゴミダマシムシ)EcRのゲノムDNAの分離。DBDは核内受容体スーパーファミリーの全てのメンバーにおいて、特に異なる種の相同なタンパク質の間で顕著に、最も保存された特徴を持つ。それゆえ、ショウジョウバエのEcRのcDNAの、DBDとその周辺のアミノ酸をコードする配列を含む、EcoRI-KpnIの637塩基の断片をTenebrio(ゴミダマシムシ)のゲノムライブラリの探索に使用した。約3ゲノム等量に対する低ストリンジェンシーでの探索で3つの陽性クローンを得た。 …(途中省略)… 最終的に0.8k塩基のハイブリダイズするバンドが分離および再クローニングされた。 …(途中省略)… この0.8k塩基のゴミダマシムシのゲノム断片は、ゴミダマシムシのcDNAライブラリの探索に使用された。
ゴミダマシムシのEcRのcDNAの分離。6つの強くハイブリダイズするクローンが、400000プラーク単位の探索から分離された。これらクローンの配列解析により、その5′端が異なる2つのタイプからなることが示された。」(第857頁右欄第40行?第859頁左欄第4行)

(iii)「ゴミダマシムシEcRの推定アミノ酸配列と他の昆虫のEcRの比較は、DBDとLBDの両方における高度な同一性を示した(図2)。 …(途中省略)… そのDBDとLBDはキイロショウジョウバエEcRの各々のドメインに対し、89%と61%のアミノ酸同一性を示し、その他の昆虫EcRの相当するドメインに対しても類似の同一性を示した。」(第859頁右欄第8行?第860頁左欄第1行)

そして、第858頁の図1Aには、チャイロコメノゴミダマシムシEcR(以下、「TmEcR」という。)の全長のcDNA配列とコードされるアミノ酸配列が並記され、DBDとLBDには下線が付記されている。また、第859頁の図2には、ゴミダマシムシと、他の5つの昆虫種(キイロショウジョウバエ、ネッタイシマカ、タバコスズメガ、カイコガ、トウヒノシントメハマキ)のEcRのアミノ酸配列が並記して比較されており、DBDとLBDには下線が付記されている。

(2)引用例3
また、原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前の2001年1月11日に頒布された刊行物である国際公開第01/02436号(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

(iv)「実施例6
L. cuprina(ヒツジキンバエ)エクジソン受容体をコードするcDNAをクローニングしたことが記載され、第93頁のおよびキャラクタリゼーション
増幅プライマーデザインについての論理的説明 プライマーRdna3(配列番号23)およびRdna4(配列番号24)のヌクレオチド配列は、D. melanogaster(キイロショウジョウバエ)およびC. tentansエクジソン受容体のEcRポリペプチドサブユニットのDNA結合ドメインの間において保存されているアミノ酸配列から得た。」(第56頁第9行?第15行)、と記載され、続いて実施例6には、配列番号23および24の一対の縮重プライマーを使用して、PCRによりL. cuprinaのゲノムDNAを増幅して、ヒツジキンバエEcRのDNA結合領域をコードする105塩基のcDNA断片を得たこと、この断片をプローブとしてヒツジキンバエのcDNAライブラリを検索し、ヒツジキンバエのEcRの全長cDNA(配列番号1)を得たことが記載されている。

(3)引用例1
さらに、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1998年に頒布された刊行物であるMol.Cell.Endcrinol. (1998) Vol. 143, p.91-99(以下、「引用例1」という。)には、Locusta migratoria(トノサマバッタ)のEcRをコードするcDNAをクローニングしたことが記載され、第93頁の図1には、トノサマバッタEcR(以下、「LmEcR」という。)の全長のcDNA配列とコードされるアミノ酸配列が並記され、DBDとLBDには下線が付記されている。

3.対比・判断
(1)本願発明
本願明細書の段落【0112】?【0114】には、配列番号:1(1109塩基)について、ミドリヨコバイのエクジソン受容体(以下、ミドリヨコバイエクジソン受容体を「NcEcR」という。)の全長をコードするポリヌクレオチド配列であると記載されており、また、段落【0114】の表1には、NcEcRドメインのうち、DNA結合ドメイン(以下、「DBD」という。)に対応するポリヌクレオチドは、配列番号:1のヌクレオチド16?213であることが示されている。

そして、本願発明は、配列番号:1の核酸配列及び配列番号:1の断片をコードする4つの核酸配列、から選択された核酸配列を含む単離ポリヌクレオチドに係るものであるから、これら本願発明に係る核酸配列のうち、配列番号:1の核酸配列を含むポリヌクレオチド(以下、「NcEcRの全長DNA」という。)である態様の本願発明について、以下検討する。

(2)引用例の記載
上記引用例2記載事項(i)には、種々の昆虫のエクジソン受容体(以下、「EcR」という。)がクローニングされ、それらEcRの間でのDBD及びLBD、特にDBD間の配列相同性が高いことが、引用例2記載事項(ii)には、ショウジョウバエのDBDDNAとその周辺の637塩基からなるcDNA断片をプローブとして、ゴミダマシムシのゲノムライブラリからゴミダマシムシEcRをコードするゲノム断片を取得し、さらに該ゲノム断片をプローブとしてゴミダマシムシのcDNAライブラリから全長のTmEcRcDNAをクローニングしたことが、それぞれ記載されている。そして、得られたゴミダマシムシEcRのDBDは、プローブとして用いたショウジョウバエEcRのDBDと、アミノ酸レベルで89%の同一性を有することが、引用例2記載事項(iii)に記載されている、
また、上記引用例3記載事項(iv)には、2つの昆虫のDBD間でのアミノ酸保存性の高いアミノ酸配列から作製した1対の縮重プライマーを用いて、PCRによりヒツジキンバエのゲノムDNAを増幅してヒツジキンバエEcRのDBD領域のcDNA断片を得て、この105塩基のcDNA断片をハイブリダイゼーションプローブとして、cDNAライブラリからヒツジキンバエEcRの全長cDNAを取得したことが記載されている。

(3)対比
そこでまず、本願発明と引用例2、3又は1に記載された事項を比較すると、両者は、昆虫由来のEcRの全長をコードするポリヌクレオチドである点で共通するが、前者では、昆虫がミドリヨコバイであり、ポリヌクレオチドがNcEcRの全長DNAであるのに対して、昆虫が、引用例2ではゴミダマシムシ、引用例3ではヒツジキンバエ、引用例1ではトノサマバッタであり、それぞれポリヌクレオチドがNcEcRの全長DNAとは異なる点で、相違する。

(4)当審の判断
EcRは、エクジステロイドと結合して昆虫の成長、脱皮に関わる遺伝子の転写を制御する機能を有することから、EcRのアゴニスト活性を有するリガンドが害虫に対する殺虫剤となることを期待して、このアゴニストをスクリーニングするために、各害虫のEcR遺伝子をクローニングしようとすることは、本願優先日前既に自明の技術的課題である。そしてその手段も、昆虫間のEcRのDBD配列の配列相同性の高さに基づき、公知のDBDのcDNA断片をそのままハイブリダイゼーションプローブに用いるか、あるいは、各昆虫間のDBD中でも特に保存されているアミノ酸配列から設計した縮重プローブを用いてPCRにより増幅した標的昆虫のEcRのDBD領域のcDNA断片を、ハイブリダイゼーションプローブに用いて、標的昆虫のcDNAライブラリーをスクリーニングしてEcR遺伝子をクローニングすることは、引用例2及び3にも記載のように本願優先日前既に周知であった。
このような技術水準の下、植物に付く重要害虫として周知のミドリヨコバイのEcR遺伝子をクローニングするために、引用例2の図1Aに記載のTmEcRのDBDのDNA配列、あるいは、引用例1の図1に記載のLmEcRのDBDのDNA配列をハイブリダイゼーションプローブとして用いて、ミドリヨコバイのcDNAライブラリーをスクリーニングすることは、当業者であれば容易に想到し得たことであり、そのようにして、NcEcRの全長DNAは、当業者であれば困難なく取得できるものである。このことは、本願発明のNcEcRのDBDDNAである配列番号:1のヌクレオチド16?213の198塩基からなるDNAと、上記引用例2のTmEcR又は上記引用例1のLmEcRのDBDのDNAは、DNAレベルでそれぞれは79%又は84%一致していることからもうかがえる。
そして、本願明細書には、本願発明のNcEcRの全長DNA自体の奏する効果について、新規な害虫EcRの全長DNAを取得した効果以上の格別な効果があることは記載されておらず、本願発明において奏される効果が、引用例1?3の記載及び上記周知の技術的事項から予測できない程の格別なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用例1?3の記載及び周知の技術的事項から当業者が容易になし得るものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.審判請求人の主張
審判請求人は、平成21年2月20日付審判請求書の手続補正書において、(i)「しかし、本願明細書は、昆虫種間でEcRドメインのアミノ酸配列に有意な差異があることを示しており(表3)、また、引用文献2は昆虫種間でEcRドメインの配列の相同性及び配列長に有意な差異があり、EcRのドメインによって昆虫種間の相同性が異なることを記載しています(859頁右欄8行?860頁左欄28行)。さらに、本願明細書は、CfEcR(ハマキガ科のガの幼虫EcR)及びDmEcR(ショウジョウバエEcR)がL57細胞内において良好なトランス活性化を示すのに対し、ヨコバイエクジソン受容体(NcEcR)はL57細胞内ではトランス活性化が不良であることを記載しています(段落0006、段落0287)。上記のように、エクジソン受容体は、昆虫種間で配列上完全に保存されたドメインを有していても、配列上大きく異なる他のドメインを含むものであり、また、遺伝子発現の効果においても昆虫種間で有意な差異が認められるものであります。」(第2頁第26行?第36行)、及び(ii)「しかも、本願明細書は、NcEcRを用いた遺伝子発現カセットにより、昆虫細胞ばかりでなく、哺乳動物細胞においても遺伝子発現変調系で機能的であることを示しています(実施例2、図2)。本願発明のこのような効果は引用文献1からは予測し得ません。したがって、単にトノサマバッタ(Locusta migratoria)に由来するエクジソン受容体をコードする核酸をベクターにクローニングし、配列を決定したにすぎない引用文献1に基づいて本願発明を想起するのは、当業者であっても到底容易ではありません。」(第2頁第37行?第43行)と主張している。
まず、(i)の主張については、EcRは、昆虫種間で配列上極めて保存されたドメインと配列上さほど保存されていないドメインを含むこと、及び、遺伝子転写活性の効果においても昆虫種間で異なることは、本願優先日前既に周知の技術的事項であり、本願発明のポリヌクレオチドが、他の昆虫由来のものと配列上異なるドメインを含むことは当然予測できることであり、そのような保存されていない領域ではなく、上記3.(4)で記載したとおり、配列保存性の高いDBDに基づいたプローブ又は縮重プライマーを用いることにより、本願発明のポリヌクレオチドは当業者が容易に取得できるものである。
また、EcRは核内でUSPとヘテロ二量体を形成して遺伝子転写を活性化することは、本願優先日前既に周知の事項であり、双翅目のショウジョウバエ由来のL57細胞において、ショウジョウバエEcRが内在性のショウジョウバエUSPとヘテロ二量体を形成してトランス活性化できるのに対して、同翅目であるヨコバイのEcRがL57細胞の内在性ショウジョウバエUSPとヘテロ二量体を形成しトランス活性化できないことは、当業者であれば予測できないこととはいえない。しかも、遺伝子転写のトランス活性化は、EcRだけでなくUSPとヘテロ二量体を形成することが必須であり、トランス活性化が不良であることはNcEcR自体による効果ではないから、本願発明において奏される効果とはいえず、審判請求人の上記(i)の主張は採用できない。
また、上記(ii)の主張についても同様に、哺乳動物細胞における遺伝子発現変調系でNcEcRドメインが機能することについても、それはEcRのみにより奏される効果ではなく、特定の哺乳動物のRXRあるいは昆虫のUSPとのヘテロ二量体が奏する効果であるから、本願発明のNcEcRドメインによって奏される効果であるか不明であり、審判請求人の上記(ii)の主張も採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-02 
結審通知日 2011-09-05 
審決日 2011-09-16 
出願番号 特願2003-530856(P2003-530856)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 引地 進
冨永 みどり
発明の名称 ヨコバイエクジソン受容体核酸、ポリペプチド、およびそれらの使用  
代理人 特許業務法人センダ国際特許事務所  

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