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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1251139
審判番号 不服2008-11536  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-07 
確定日 2012-01-25 
事件の表示 特願2002-553466「磁気的に発生させた機械的応力を使用して組織を培養する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年7月4日国際公開、WO02/51985、平成16年7月8日国内公表、特表2004-520028〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2001年12月19日(優先権主張 2000年12月22日 2000年12月23日 英国、2001年2月7日 米国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成15年8月27日 手続補正書
平成19年6月27日付け 拒絶理由通知
平成19年12月28日 意見書、手続補正書
平成20年2月4日付け 拒絶査定
平成20年5月7日 審判請求書
平成20年7月22日 手続補正書(方式)


第2 本願発明について
本願の請求項1?19に係る発明は、平成19年12月28日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。なお、平成19年12月28日付け手続補正書による補正後の明細書を「本願明細書」という。

「印加される磁場に応答して力を発生し、組織形成細胞にその力を伝達することができる磁性体が発生する機械的応力に該細胞を暴露することによって、該細胞を機械的に刺激する方法であって、印加される該機械的応力が、印加される該磁場中での該磁性体の直線的な並進運動から引き起こされることを特徴とする方法」


第3 原査定の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された以下の刊行物である引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとするものである。

1.In Vitro, Cell. Dev. Biol. Animal (2000.6) vol. 36, p. 383-386
2.Biophys. J. (1994) vol. 66, p. 2181-2189
3.Eur. J. Physiol. (1998) vol. 435, p. 320-327


第4 刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
本願の優先権主張の日前である平成6年6月に頒布された刊行物であるMichael Glogauer and Jack Ferrier,A new method for application of force to cells via ferric oxide beads,Eur. J. Physiol. (1998) vol. 435, p. 320-327(上記「第3 原査定の拒絶の理由の概要」中の引用文献3と同じ。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「We describe a new method that uses straightforward physics to apply force to substrate-attached cells. In this method, collagen-coated magnetic ferric oxide beads attach to the dorsal surface of cells via receptors of the integrin family, and a magnetic field gradient is applied to produce a force. In this paper we present a complete characterization of the method in a configuration that is easy to use, in which a permanent magnet provides a fairly uniform gradient over a relatively large area. This allows a fairly uniform average force that can be controlled in magnitude, direction, and duration to be applied to a large number of cells. ・・・An upward force applied to fibroblasts by this method produces a measurable time-dependent increase in attachment of cytoskeletal actin filaments to the force application points, and an increase in actin cross-linking. This is accompanied by an actin-dependent retraction of the force-induced upward movement of the dorsal surface of the cells.」(第320頁左欄1?25行)
(当審訳:基質に付着する細胞に力を適用するための直接的な物理作用を用いた新しい方法について記述する。この方法は、コラーゲンを被覆した磁気酸化鉄のビーズを、インテグリン・ファミリーのレセプターを介して細胞の背表面に付着させて、傾斜した磁場勾配により力を生み出すものである。この論文では、永久磁石が、比較的広い領域にわたって、一定の勾配を与えることが可能で、簡単に利用できる配置方法についての特徴を完全に述べるものである。この方法により、大きさ、方向、期間を制御された平均的な力を、均一に、多くの数の細胞に適用することができる。・・・この方法により繊維芽細胞に適用された上向きの力は、力を適用した地点での、細胞骨格のアクチンフィラメントの付着の測定可能で時間依存的な増加、さらに、アクチン架橋の増加を産み出す。これは、細胞の背表面の力によって与えられた上向きの動きに対する、アクチンによる収縮を伴うものである。)

(1b)「Cellular response to mechanical stress is an area of increasing research activity. Of particular interest are questions concerning the systems involved in propagating stress-induced signals into the cell (mechanotransduction), and the mechanisms by which cells alter their function in response to these signals. In vivo, connective tissue cells are attached through receptors in the cell membrane to extracellular adhesion molecules that are bound to the collagen fibre bundles of the extracellular matrix; these connections communicate stress and strain to the cell. It is widely accepted that the cytoskeleton is involved in mechanotransduction [13], and that the cytoskeleton is connected to the extracellular matrix through the integrin family of receptors [26]. 」(第320頁左欄第29?右欄第9行)
(当審訳:機械的な負荷に対する細胞の反応に関する領域は、研究が活発な領域となっている。特に、細胞にストレスを与えるシグナルの伝播に関するシステム(機械的シグナル伝達)や、細胞がこれらのシグナルに応答して機能を変えるメカニズムには、大きな関心がある。生体内では、結合組織細胞は、細胞膜内のレセプターを介して、細胞外マトリクスのコラーゲン繊維束に結合している細胞外接着分子に付着しており、これらの結合は、細胞にストレスや負荷を与える。細胞骨格が機械的シグナル伝達に関与していることや [13]、細胞骨格が、レセプター蛋白質であるインテグリン・ファミリーを介して細胞外マトリクスに結合していること [26]は広く知られている。)

(1c)「We have developed an easy to use method for application of force to the cytoskeleton through integrin receptors (Fig. 1A). In this method, collagen-coated ferric oxide beads attach to the surface of cells via integrin receptors, and a constant (i.e., not time varying) magnetic field gradient that is uniform over a relatively large area is applied to produce a constant force. This force can be quantified and it can be of any duration. Previously, magnetic fields have been used to apply torque to beads attached to receptors on cell surfaces [25, 26], and to apply a timevarying horizontal force to beads attached to receptors [19]. Fluid flow has been used to apply force to cells [6], stretching of the substrate has been used to apply stress and strain parallel to the bottom surface of cells [18], touching by glass micropipette has been used to deform cell surfaces [22, 28], and hypotonic extracellular medium has been used to produce cell swelling [15]. 」(第320頁右欄第9?26行)
(当審訳:我々は、インテグリン・レセプターを介して細胞骨格に力を適用する簡単な方法を開発した(図1A)。この方法では、コラーゲン被覆酸化鉄ビーズを、インテグリン・レセプターを介して細胞の表面に付着して、比較的広い領域において継続的な(時間を変えない)磁場勾配を、一定の力を負荷させるために適用するものである。この力は測定することができるし、また、任意の時間継続することができる。過去には、磁場により、細胞表面のレセプターに付着したビーズにトルクを与えるもの [25, 26]、レセプターに付着したビーズに水平方向の力を与えるもの [19]もある。流体の流れにより、細胞に力を適用したり [6]、基質をのばして細胞の底面に平行なストレスと負荷を与えたり[18]、グラスピペットより細胞表面を変形したり[22, 28]、また、低張力の細胞外の培地により細胞を膨張させるものもある [15].。)

(1d)「

Fig. 1 Schematic diagrams illustrating in A the similarity between force experienced by fibroblasts in vivo and in vitro via our method, and in B the spatial relation between the permanent magnet and the culture dish containing the cells with ferric oxide beads」(第321頁左欄)
(当審訳:図1 Aに示す図は、我々の方法により、in vivo及びin vitroでの繊維芽細胞が受ける力が類似していることを示す。Bに示す図は、永久磁石と、酸化鉄ビーズを有する細胞を含む培養皿との位置関係を示す。)

(1e)「The magnetic force application method characterized in this paper has a number of strengths.The magnitude of the force does not vary with time, and the field gradient of the permanent magnet is uniform over a relatively large area, allowing a uniform average force to be applied to a large number of cells simultaneously.The direction of the net force is well defined, and can be changed by changing the position of the magnet.The magnitude of the force can be quantified, and it can be altered by varying the gradient of the applied magnetic field, or by changing the number of beads per cell.The duration of the force is easily controlled.」(第326頁左欄下から第21?10行)
(当審訳:この論文に示した磁力の適用方法は、色々な強さで行うことができる。力の大きさは時間によって変化することはなく、また、永久磁石の磁場勾配は比較的幅広い範囲にわたって一定であり、多くの数の細胞に同時に一定の平均的な力を与えることができる。磁力線の方向を一定のものとすることができ、磁石の位置を変えることによって変化させることができる。力の強さは測定することができ、適用した磁場勾配を変えたり、細胞1個当たりのビーズの数を変えることによって、変えることもできる。力を与える期間も容易に制御できる。)

(2)刊行物2に記載された事項
本願の優先権主張の日前である平成12年6月に頒布された刊行物であるLouis Yuge and Katsuko Kataoka, DIFFERENTIATION OF MYOBLASTS IS ACCELERATED IN CULTURE IN A MAGNETIC FIELD, In Vitro, Cell. Dev. Biol. Animal (2000.6) vol. 36, p. 383-386(上記「第3 原査定の拒絶の理由の概要」中の引用文献1と同じ。以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「We developed a new cell stimulation method in which magnetic microparticles (MPs) were introduced into the cytoplasm of cultured myoblasts and the cells were cultured in a magnetic field. The differentiation of myoblasts was examined from the viewpoint of their morphology and myogenin production. After exposure to the magnetic field, the cells containing MPs became larger and were elongated along the axis of the magnetic poles. Myogenin, a muscle-specific regulatory factor involved in controlling myogenesis, was formed earlier, and myotubes were seen earlier and more frequently in this group of myoblasts than in the other groups (cells alone without magnetic field, cells containing MPs but without magnetic field, and cells alone with magnetic field). Moreover, we succeeded in differentiation of early muscle cells with striated myofibrils in culture at 0.05 T. The precisely quantitative and stable stimulus induced by a magnetic field developed in the present study offers a new approach to elucidate the entire process of myoblast differentiation into myotubes.」(第383頁の「Summary」)
(当審訳:磁気粒子を培養された筋芽細胞の細胞質に導入し、細胞を磁場下で培養する、新しい細胞の刺激方法を開発した。筋芽細胞の分化について、形態学的な観点、ミオゲニンの産生の観点から、調べた。磁場への接触の後、磁気粒子を含む細胞は大きくなり、磁極の軸に沿って広がった。ミオゲニン、すなわち筋形成制御因子は早い段階で形成され、筋管細胞は、他のグループの細胞(磁気粒子を含まず磁場なしで培養した細胞、磁気粒子を有するが磁場なしで培養した細胞、磁気粒子を含まず磁場で培養した細胞)に比べて、このグループの筋芽細胞で、より早い段階から多く認められた。さらに、0.05Tの磁場で培養した場合に、筋線のある筋原繊維を有する筋肉細胞の早い段階での分化に成功した。この研究における、磁場を用いることによる正確な量の安定した刺激は、筋芽細胞の筋管細胞値の分化の前プロセスを解明するための新しいアプローチとなる。)


第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1の上記摘記事項(1c)には、「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズを、インテグリン・レセプターを介して細胞の表面に付着して、比較的広い領域において継続的な(時間を変えない)磁場勾配を、一定の力を負荷させるために適用する」ことが記載されているから、刊行物1には、「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズを、インテグリン・レセプターを介して細胞の表面に付着して、比較的広い領域において継続的な(時間を変えない)磁場勾配を、一定の力を負荷させるために適用する方法」の発明(以下「引用発明」という)が記載されているといえる。

2 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「磁場勾配」、「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズ」は、本願発明における「磁場」、「磁性体」に相当するといえる。また、引用発明の「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズ」は、印加された「磁場勾配」に応答して力を発生するものであり、「磁場勾配」に応答して力を発生して、「細胞」を機械的に刺激しているものであるから、本願発明と同様に、「印加される磁場に応答して力を発生し、細胞にその力を伝達することができる」ものといえる。また、引用発明における「細胞」は「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズ」が付着されているから、「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズ」が発生する力に暴露されているといえる。そして、引用発明の方法は、本願発明と同様に、「該細胞を機械的に刺激する方法」であるといえる。

したがって、両者は、
「印加される磁場に応答して力を発生し、細胞にその力を伝達することができる磁性体が発生する機械的応力に該細胞を暴露することによって、該細胞を機械的に刺激する方法」
という点で一致するが、以下の点で相違する。

相違点1:機械的に刺激される対象となる細胞について、本願発明では、「組織形成細胞」であるのに対し、引用発明では明らかではない点。

相違点2:印加される機械的応力について、本願発明では、「印加される磁場中での磁性体の直線的な並進運動から引き起こ」すものであるのに対し、引用発明では明らかでない点。

3 判断
(1)相違点1について
刊行物1の上記摘記事項(1a)の「この方法により繊維芽細胞に適用された上向きの力は、力を適用した地点での、細胞骨格のアクチンフィラメントの付着の測定可能で時間依存的な増加、さらに、アクチン架橋の増加を産み出す。これは、細胞の背表面の力によって与えられた上向きの動きに対する、アクチンによる収縮を伴うものである」という記載からみて、引用発明の方法は、「繊維芽細胞」に適用され得るものであり、筋肉の組織を形成するタンパク質であるアクチンフィラメントの付着の増加や、アクチン架橋の増加に関わることが記載されている。
また、上記摘記事項(1b)の「生体内では、結合組織細胞は、細胞膜内のレセプターを介して、細胞外マトリクスのコラーゲン繊維束に結合している細胞外接着分子に付着しており、これらの結合は、細胞にストレスや負荷を与える。細胞骨格が機械的シグナル伝達に関与していることや、細胞骨格がレセプター蛋白質であるインテグリン・ファミリーを介して細胞外マトリクスに結合していることは広く知られている。」という記載からみて、引用発明の方法は、「組織形成細胞」である「結合組織細胞」に適用することも意図しているといえる。
さらに、刊行物2の上記摘記事項(2a)には、筋芽細胞に磁気粒子を導入して、磁場を与えることにより、筋原繊維を有する筋肉細胞への早い段階での分化がなされることが記載されている。
そうすると、引用発明において、磁性体を用いて機械的に刺激する対象となる細胞を、「組織形成細胞」とすることは当業者が容易に想到し得たことといえる。

(2)相違点2について
本願発明における「磁性体の直線的な並進運動」について、本願明細書の段落【0013】の「応力を印加する方向は、印加する磁場中の磁性体の直線的な並進運動(liner translational motion)(勾配のため、粒子は磁気的にブロックされる必要がない)または回転運動(印加する磁場による粒子の磁化ベクトルの角度のため、磁気的にブロックされた粒子でなければならない)に起因する」との記載、段落【0027】の「本発明者らは、z軸(垂直)方向に印加される磁場における磁性粒子/流体/材料の並進運動(translational motion)に関心があり」との記載、段落【0037】の「強力な磁場勾配は、ナノ粒子に磁石方向に向けられる並進運動を生じ」との記載、及び本願の図1からみて、「磁性体の直線的な並進運動」には、磁性粒子が磁石に対して直線的に引き寄せられる動きを含むものといえる。
一方、引用発明においても、刊行物1の上記摘記事項(1d)の図1A及び図1Bの記載からみて、細胞表面に付着した「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズ」は磁石に向かって、直線的に引き寄せられるように動くものといえる。
したがって、本願発明と引用発明とでは、この点について実質的な相違はない。

請求人は、平成20年5月7日付けの審判請求書に対する平成20年7月22日付け手続補正書において、刊行物1である「引用例3」について、「引用例3には、実験期間中において磁場を変化または振動させること、直線的な並進運動から機械的な応力を細胞に与えること(上記特徴1-B)が記載されておりません。」と主張している。
しかしながら、「実験期間中において磁場を変化または振動させること」については、本願発明は、特許請求の範囲の記載として「・・・印加される該機械的応力が、印加される該磁場中での該磁性体の直線的な並進運動から引き起こされる・・・」としているのみで、「実験期間中において磁場を変化または振動させること」は何ら規定しないから、この主張は、特許請求の範囲の記載の主張に基づくものとは認められない。また、「直線的な並進運動から機械的な応力を細胞に与えること」については、上述したとおり、引用発明においても、磁性粒子が磁石に対して直線的に引き寄せられる動きをしているといえるから、「直線的な並進運動から機械的な応力を細胞に与える」ものといえる。

仮に、本願発明が「実験期間中において磁場を変化または振動させること」を意図しているとしても、刊行物1の上記摘記事項(1e)には、引用発明の磁力の適用方法について、磁力線の方向を変化させたり、磁力の強さを変化させたり、磁力を与える時間を変化させることが記載されおり、また、細胞に機械的刺激を与えるために磁力の印加方法を調節することは、培養を目的とする細胞や組織の種類に応じて当業者が適宜なし得る程度のことといえる。
したがって、引用発明において、「実験期間中において磁場を変化または振動させること」も、当業者が適宜になし得たこととといえる。
(この点について、例えば、D. Kaspar, W. Seidl, C. Neidlinger-Wilke, A. Ignatius and L. Claes,Dynamic cell stretching increases human osteoblast proliferation and CICP synthesis but decreases osteocalcin synthesis and alkaline phosphatase activity,Journal of Biomechanics(2000.1)vol.33,p.45-51の第45頁の「Abstract」には、「The cell activity of human-bone-derived cell cultures was studied after mechanical stimulation by cyclic strain at a magnitude occurring in physiologically loaded bone tissue. Monolayers of subconfluently grown human-bone-derived cells were stretched in rectangular silicone dishes with cyclic predominantly uniaxial movement along their longitudinal axes. Strain was applied over two days for 30 min per day with a frequency of 1 Hz and a strain magnitude of 1000 μstrain.」(当審訳:ヒトの骨由来の細胞を培養したものの細胞活性について、生理学的に密となっている骨細胞において起こる力での周期的な負荷によって、機械的な刺激を与えて、研究を行った。ヒトの骨由来の細胞をある程度集密に培養した細胞の単層について、長さ方向の軸に沿った周期的な、主として単軸的な動きを与えて、伸ばした。負荷は、1Hzの周期で、1000μ負荷の強さで、1日当たり30分間、2日にわたって適用された。)ことが記載されている。したがって、ヒトの骨細胞に周期的な機械的な刺激を与えることは、この出願の優先日において周知の技術であったといえる。)

(3)本願発明の効果について
本願発明の効果については、本願明細書には明記されておらず、具体的な実施例が示されていない。
本願発明の課題については、本願明細書の段落【0006】には、「したがって、本発明の目的は、上記の欠点を回避または軽減することである。」と記載され、「上記の欠点」について、段落【0005】には、「しかし、機能的な組織を作製するために細胞を機械的に刺激する周知の方法はどれも、骨、腱および靭帯などの多数の種類の組織にはあまり満足できない。直接的な機械的方法は面倒であり、培養に必要な無菌状態を維持する際に困難を生じる。流体力学的圧縮方法は、一般に、効果がない。さらに、以前の周知の方法は全て、いずれの印加時においても、所定の大きさの応力を培養中の細胞種に印加することしかできず(一般に、細胞レベルで必要なものよりはるかに大きい応力)、印加される応力に耐えるために、細胞を増殖させている足場自体がかなりの機械的弾力性を持たなければならないという欠点がある。」と記載されている。
一方、引用発明の方法も、細胞表面に付着させた「コラーゲン被覆酸化鉄ビーズ」を介して磁力により細胞に直接に刺激を与えるものであるから、「培養に必要な無菌状態を維持」できるものであり、「所定の大きさの応力を培養中の細胞種に印加する」ことができるものであることは明らかであり、「細胞を増殖させている足場自体がかなりの機械的弾力性を持たなければならない」ということもないといえる。
したがって、本願発明の課題からみた効果は、引用発明から当業者が予測できる程度のものといえる。

また、請求人は、平成20年5月7日付けの審判請求書に対する平成20年7月22日付け手続補正書において、「出願人は、「印加される該磁性体の直線的な並列運動により機械的応力を引き起こさせる」手法を細胞や組織に適用し、これによって得られた実施例をグラフ及び図面を用いて示します。
まず、実験データ1は、本願の機械的応力を、1日3時間、3週間に渡ってヒト間葉幹細胞に与えた結果を示すグラフであります。ここで、磁性ナノ粒子は、抗TREK抗体を介してヒト間葉幹細胞のTREKチャンネルに結合されています。
次に、実験データ2は、本願の機械的応力を、1日3時間、3週間に渡ってヒト間葉幹細胞に与えた結果を示す図であります。磁性ナノ粒子は、抗TREK抗体を介してヒト間葉幹細胞のTREKチャンネルに結合されています。また、アルギン酸塩カプセル中のヒト間葉幹細胞は、ヌードマウスの皮下に移植されたものであります。
実験データ1及び2は、本願の機械的応力が、外傷または疾病により引き起こされる軟骨欠陥を治療する効果があることを示しています。
すなわち、請求項1に係る発明は、上記特徴1-Bを備える構成において、上記効果を奏するものであります。」と主張し、さらに、平成23年8月16日にファクシミリで、その結果を送付している。
しかしながら、当該実験データは、「ヒト間葉幹細胞」や「軟骨」組織に適用して培養した例であるが、本願発明は、「印加される磁場に応答して力を発生し、組織形成細胞にその力を伝達することができる磁性体が発生する機械的応力に該細胞を暴露することによって、該細胞を機械的に刺激する方法であって、印加される該機械的応力が、印加される該磁場中での該磁性体の直線的な並進運動から引き起こされることを特徴とする方法」と、単に細胞を刺激する方法に関する発明であり、対象となる細胞、組織を特定しておらず、また、培養方法であることも規定しないものであるから、当該実験データの結果は、本願発明の特定の使用態様についての効果にすぎない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余のことについて検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-08-29 
結審通知日 2011-08-30 
審決日 2011-09-13 
出願番号 特願2002-553466(P2002-553466)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
杉江 渉
発明の名称 磁気的に発生させた機械的応力を使用して組織を培養する方法  
代理人 中村 綾子  
代理人 岡本 正之  
代理人 有原 幸一  
代理人 吉田 尚美  
代理人 深川 英里  
代理人 奥山 尚一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 河村 英文  
代理人 森本 聡二  

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