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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01M |
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管理番号 | 1251177 |
審判番号 | 不服2010-19281 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-26 |
確定日 | 2012-01-25 |
事件の表示 | 特願2003-579555「地中のシロアリ用の気密に密封された餌」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 9日国際公開、WO03/82000、平成17年 7月14日国内公表、特表2005-520563〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2003年3月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年3月22日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成22年5月6日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年8月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。 その後,平成22年12月1日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,平成23年3月9日付けで回答書が提出された。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年8月26日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容・目的 平成22年8月26日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲を次のように補正しようとする補正事項を含むものである。 (補正前,平成21年7月21日付けの誤訳訂正書参照。) 「【請求項1】 気密に密封された餌容器であって、自然環境中に設置された場合に餌が環境の水分にさらされないように密封容器内の餌マトリックスを気密に密封する、シロアリが食べることのできる耐候性の密封容器内に餌マトリックスを含み、該餌マトリックスが、シロアリ用の毒物およびセルロース材料を含み、密封容器が、シロアリが好む材料で作られている餌容器。 【請求項2】?【請求項9】 省略。 【請求項10】 シロアリに齧らせる溝が密封容器に形成されている、請求項1記載の餌容器。 【請求項11】,【請求項12】 省略。 【請求項13】 フェロモンによって、シロアリをよりおびき寄せやすくなっている、請求項1記載の餌容器。 【請求項14】 密封容器にはフェロモンが含浸させてある、請求項13記載の餌容器。 【請求項15】 フェロモンが、重合情報化学物質容器によって維持可能である、請求項13記載の餌容器。 【請求項16】 重合情報化学物質容器が、フェロモンを含浸させた重合チップであり、チップが密封容器に取り付けられている、請求項13記載の餌容器。 【請求項17】 シロアリの個体群を減らすかまたは無くす方法であって、シロアリが近づくことのできる位置に、少なくとも1つの気密に密封された餌容器を配置する段階を含み、餌容器が、餌マトリックスを気密に密封する、シロアリが食べることのできる耐候性の密封容器内に餌マトリックスを含み、該餌マトリックスが、シロアリ用の毒物およびセルロース材料を含み、密封容器が、シロアリが好む材料で作られている方法。 【請求項18】 餌容器が地中に形成された穴に入れられ、埋められる、請求項17記載の方法。 【請求項19】 餌容器の位置を杭またはカバーでマーク付けする段階をさらに含む、請求項17記載の方法。 【請求項20】 餌容器が、耐久性の高い剛性のステーション・ハウジング内に配置される、請求項17記載の方法。 【請求項21】 シロアリが、ヤマトシロアリ、ヘテロテルメス、およびタイワンシロアリから成る群から選択される属のシロアリである、請求項17記載の方法。 【請求項22】 複数の餌容器が、シロアリが食べることによる被害から保護すべき地域に格子パターンに配置され、餌容器の位置が、1つまたは複数の該餌容器を見つけて除去するのを容易にするように格子パターンに基づいて判定することができる、請求項17記載の方法。 【請求項23】 地域が農業地域である、請求項22記載の方法。」 を, (補正後) 「【請求項1】 シロアリが食べることのできる耐候性の容器内に実質的に餌マトリックスからなる気密に密封された餌容器であって、自然環境中に設置された場合に餌が環境の降雨、高湿度、温度の変動、菌類の腐敗、ならびに非シロアリ地中生息有機体および木材破壊昆虫にさらされないように密封容器内の餌マトリックスを気密に密封し、該餌マトリックスが、シロアリ用の毒物およびセルロース材料を含み、該シロアリ用の毒物が、ヘキサフルムロン、ノビフルムロン、スルフルラミド、ジフルベンズロン、およびジハロアルキルアリルスルフォンから選択される1つ以上の毒物であり、該密封容器が、セルロースを含まないポリマー・ベースの材料で作られており、該密封容器にはシロアリが好むフェロモンが含浸させてあり、シロアリがトンネル形成をし易いように該密封容器にくぼみが形成されている、餌容器。 【請求項2】?【請求項9】 省略。 【請求項10】 前記くぼみが、シロアリがトンネル形成をし易いようにプラスチックまたはワイヤを用いて前記密封容器に形成されている、請求項1記載の餌容器。 【請求項11】,【請求項12】 省略。 【請求項13】 シロアリの個体群を減らすかまたは無くす方法であって、シロアリが近づくことのできる位置に、少なくとも1つの気密に密封された餌容器を配置する段階を含み、該餌容器が、餌マトリックスを気密に密封し、環境の降雨、高湿度、温度の変動、菌類の腐敗、ならびに非シロアリ地中生息有機体および木材破壊昆虫から該餌マトリックスを保護する、シロアリが食べることのできる耐候性の密封容器内に実質的に餌マトリックスからなり、該餌マトリックスが、シロアリ用の毒物およびセルロース材料を含み、該シロアリ用の毒物が、ヘキサフルムロン、ノビフルムロン、スルフルラミド、ジフルベンズロン、およびジハロアルキルアリルスルフォンから選択される1つ以上の毒物であり、該密封容器が、セルロースを含まないポリマー・ベースの材料で作られており、該密封容器にはシロアリが好むフェロモンが含浸させてあり、シロアリがトンネル形成をし易いように該密封容器にくぼみが形成されている、方法。 【請求項14】 前記餌容器が地中に形成された穴に入れられ、埋められる、請求項13記載の方法。 【請求項15】 前記餌容器の位置を杭またはカバーでマーク付けする段階をさらに含む、請求項13記載の方法。 【請求項16】 前記餌容器が、耐久性の高い剛性のステーション・ハウジング内に配置される、請求項13記載の方法。 【請求項17】 前記シロアリが、ヤマトシロアリ、ヘテロテルメス、およびタイワンシロアリから成る群から選択される属のシロアリである、請求項13記載の方法。 【請求項18】 複数の前記餌容器が、シロアリが食べることによる被害から保護すべき地域に格子パターンに配置され、該餌容器の位置が、1つまたは複数の該餌容器を見つけて除去するのを容易にするように格子パターンに基づいて判定することができる、請求項13記載の方法。 【請求項19】 前記地域が農業地域である、請求項18記載の方法。 【請求項20】 前記セルロース材料が固体で頑丈な構造をしており、管状である、請求項13記載の方法。」 しかしながら,本件補正は,下記に指摘するように,特許法第17条の2第4項各号に規定するいずれの事項を目的とするものでもない。 a.本件補正により,全体の請求項の数は,23から20に減少している。しかし,「方法」についての発明である補正前の【請求項17】?【請求項23】は,本件補正により,【請求項13】?【請求項20】に補正されており,「方法」の発明についての請求項の数は,7から8に増加している。 そして,補正後の請求項13?19は補正前の請求項17?23に対応するものであるが,補正後の請求項20は新たな発明を付加したものである。 したがって,本件補正は,「方法」の発明について,その請求項数を増加するものを含むものであり,当該請求項数を増加する補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,また,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。 b.本件補正により,補正前の請求項10に係る発明を特定するために必要な事項である「シロアリに齧らせる溝が密封容器に形成されている」という発明特定事項が削除されている。そして,補正後の請求項10においては,「前記くぼみが、シロアリがトンネル形成をし易いようにプラスチックまたはワイヤを用いて前記密封容器に形成されている」という発明特定事項が付加されているが,特定されている該「くぼみ」が上記「溝」を具体的に限定した構成であるとも認められない。 したがって,本件補正のうち請求項10に係る補正は,発明を拡張,若しくは変更するものであり,特許請求の範囲の限定的減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。 以上より,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 上記のとおり,平成22年8月26日付けの手続補正は却下されたので,本願の請求項1?23に係る発明は,平成21年7月21日付けで提出された誤訳訂正書の特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,そのうち,請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。 「気密に密封された餌容器であって、自然環境中に設置された場合に餌が環境の水分にさらされないように密封容器内の餌マトリックスを気密に密封する、シロアリが食べることのできる耐候性の密封容器内に餌マトリックスを含み、該餌マトリックスが、シロアリ用の毒物およびセルロース材料を含み、密封容器が、シロアリが好む材料で作られている餌容器。」(以下,「本願発明」という。) 第4 引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,特開平11-127753号公報(以下,「刊行物1」という。)には,以下の事項が記載されている。(下線は,合議体が付与。) (1a)「【請求項1】 シロアリが噛み破ることが可能な素材で形成された容器にシロアリ駆除用の薬剤を収容しかつ密閉してなるシロアリ駆除剤。 【請求項2】 シロアリが噛み破ることが可能な素材が、防湿性素材である請求項1記載のシロアリ駆除剤。」 (1b)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は、シロアリ駆除剤及びシロアリ駆除用薬剤の包装容器に関する。 【0002】 【従来の技術】シロアリは、木造建築物を食害してその強度や耐久性を低下させる害虫であり、その災害を予防するために、種々のシロアリ駆除剤が開発されてきた。 ・・・ 【0006】シロアリ駆除剤は、木材や木質系建築資材の表面または土壌に散布されるか、または埋設され、誘引効率の高い駆除装置内に毒餌剤として設置される場合もある。」 (1c)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0009】また、シロアリ駆除剤は、シロアリの好む湿度の高い木材内部や土壌に埋設された際に、有効成分が吸湿することによって効力が低下することがある。 【0010】実際、本願の出願人が先の出願(特願平9-33940号)で提案したシロアリ被害のモニタリング(調査)などに使用するシロアリの誘引・駆除装置においても、誘引性の駆除剤が長期間土中の容器内に放置されると有効成分の効力が低下する場合があると推定された。また吸湿した粉状の駆除剤は、シロアリの体表面に付着し難くなり、結果的に効力が低下するとも考えられる。 【0011】なお、シロアリ駆除剤を防湿性の容器に密閉すると、シロアリは駆除剤と接触し難くなり、毒餌剤の摂餌量も低下することが予想され、それでは駆除効果が低下するので好ましくない。 【0012】そこで、本願のシロアリ駆除剤に係る発明およびその包装容器に係る発明の課題は、上記した問題点を解決して、シロアリが接する以前に設置された場所から飛散することなく、さらにシロアリが摂餌行動などにより接した際には、シロアリに効率良く作用するものとすることである。 【0013】また、本願の発明は、上記した課題を解決すると共に摂餌効率を低下させないシロアリ駆除剤とすることをも課題としている。 【0014】さらにまた、本願のシロアリ駆除剤に係る発明および包装容器に係る発明の課題は、湿度の高い環境に施用されるシロアリ駆除剤を、シロアリが接触または摂餌する時まで乾燥状態に保ち、特に粉状のシロアリ駆除剤を使用した場合には流動性(散粉性)および有効成分の安定性を長時間維持することができ、しかも駆除効率が低下しないシロアリ駆除剤の包装容器または防湿性シロアリ駆除剤を提供することである。」 (1d)「【0030】 【発明の実施の形態】本願の各発明に用いるシロアリが噛み破ることが可能な素材は、シロアリが噛み破ることが可能な材質および肉厚を有するシート状の素材またはカプセルなどの容器形状に成形可能な材料であり、例えば熱可塑性合成樹脂のような防湿剤を含浸、積層(ラミネート)もしくは塗布した紙やパーティクルボードなどの木質系素材または防湿剤を含浸もしくは塗布した不織布や編織布などの繊維系素材、または発泡ポリスチレンなどの比較的軟質の発泡合成樹脂が挙げられる。 【0031】前記シート状の素材としては、紙とポリオレフィン樹脂のラミネートしたもののように、表面にシロアリが好んで食べる材料(好喫食性材料)からなるフィルム、裏面に喫食可能な防湿性材料からなるフィルムを重ね合わせたものが好ましい。」 (1e)「【0036】本願の各発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。図1(b)に示される第1実施形態のシロアリ駆除剤1は、シロアリが噛み破ることが可能な防湿性素材で形成され、かつ密閉された包装容器6にシロアリ駆除用の薬剤7を密封したものであり、前記防湿性素材は、図1(a)に示されるように、紙層2とポリエチレン樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルム層3をラミネートした積層フィルムからなる。そして、紙層2を外側にした帯状の積層フィルムの幅が半分になるように長手方向に折り目を形成し、長手方向の縁4(熱可塑性樹脂フィルム層3同士)同士を重ねてヒートシールし、密閉された袋帯状の包装容器6を形成した。なお、この実施形態では、前記ヒートシールする以前に、袋帯状体からなる包装容器6をヒートシール横断帯5で等間隔に区画しておき、マイクロカプセル化された粉状のシロアリ駆除用薬剤7をそれぞれの薬剤収容室6aごとに密封した。」 (1f)「【0037】シロアリ駆除用の薬剤7の具体例としては、フェニトロチオンもしくはフェノブカルブ20重量%を含む懸濁製剤を50重量%と、ホワイトカーボン50重量%とからなる組成物、またはこの組成物100重量部に対して、セルロース粉末100重量部を添加した混合物などが挙げられる。」 (1g)「【0039】また、図3に示す第3実施形態のシロアリ駆除剤11は、カプセル型の包装容器12に粉状のシロアリ駆除用薬剤7を充填したものであり、この包装容器は、厚さ約3mmの水透過性の発泡ポリスチレンからなる一端開口(他端閉塞)の筒型部品12と、これに被せるキャップ13からなる。 【0040】なお、上記実施形態は、包装容器12の素材として、木材や紙材または水不透過性の発泡ポリスチレンなどのシロアリが噛み破ることが可能な素材を採用してもよく、水不透過性の素材を採用することにより防湿性の包装容器になる。」 (1h)「【0041】さらにまた、図4に示す第4実施形態のシロアリ駆除剤14は、パーティクルボードの材料のような木質系素材を圧縮成形したチューブ型の包装容器に、粉状のシロアリ駆除剤7を充填したものである。包装容器は、円筒型容器本体15をシロアリが噛み破ることが可能な一様な厚さ(約1.5mm)で形成し、その両端を合成樹脂製の栓16で密閉している。」 (1i)「【0045】 【発明の効果】・・・ 【0046】また、シロアリが噛み破ることが可能な素材が、防湿性素材であるシロアリ駆除剤の発明では、湿度の高い環境に施用されるシロアリ駆除剤を長時間乾燥状態に保つことができ、特に粉状のシロアリ駆除剤の流動性(散粉性)および有効成分の安定性を維持できるという利点がある。」 上記記載事項(1a)?(1i)及び図面の記載からみて,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。 「湿度の高い環境に施用されるシロアリ駆除剤を長時間乾燥状態に保つことができ,シロアリが噛み破ることが可能な,水不透過性の発泡ポリスチレンなどの素材で形成された容器に,フェニトロチオンもしくはフェノブカルブを含む組成物にセルロース粉末を添加したシロアリ駆除用の薬剤を収容しかつ密閉してなるシロアリ駆除剤。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。) 第5 当審の判断 1.本願発明と刊行物1記載の発明との対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「シロアリ駆除用の薬剤」は,本願発明の「餌マトリックス」に相当し,以下同様に,「容器」が「密封容器」に,「シロアリ駆除剤」が「餌容器」に,「フェニトロチオンもしくはフェノブカルブを含む組成物」が「シロアリ用の毒物」に,「セルロース粉末」が「セルロース材料」に,それぞれ相当している。 そして,本願発明の密封容器の材料が,「シロアリが食べることのでき」そして「シロアリが好む」ものであるということは,該材料が,刊行物1記載の発明の容器の材料のように,シロアリにより噛み破ることができる材料であることは明らかである。 したがって,両者は,以下の点で一致している。 「密閉された餌容器であって,餌マトリックスを密閉する密封容器内に餌マトリックスを含み,該餌マトリックスが、シロアリ用の毒物およびセルロース材料を含み,密封容器がシロアリにより噛み破ることができる材料で作られている餌容器。」 そして,下記の点で相違している。 (相違点1) 本願発明は,自然環境中に設置された場合に餌が環境の水分にさらされないように密封容器内の餌マトリックスを気密に密封するものであるのに対して,刊行物1記載の発明は,湿度の高い環境に施用されるシロアリ駆除剤を長時間乾燥状態に保つことができるように密封容器内の餌マトリックスを密閉したものであるが,自然環境中に設置された場合には,どのような状態になるかは明確ではない点。 (相違点2) 密封容器の材料が,本願発明は,シロアリが食べることのできる耐候性のものであって,シロアリが好む材料であるのに対して,刊行物1記載の発明は,シロアリが噛み破ることが可能な,水不透過性の発泡ポリスチレンなどの素材であるが,シロアリが好む材料であるか否かは明らかではない点。 2.相違点についての検討 (相違点1について) 刊行物1には,刊行物1記載の発明を蓋を備えた錐台筒形のプラスチック製容器に収容して地面に埋設する使用例しか記載されていないが,刊行物1の記載事項(1e)及び(1g)の記載からして,刊行物1記載の発明は,密封容器が,外部の環境から容器内部のシロアリ駆除剤を保護するために防湿性を備えていることは明らかであり,さらに,該密封容器が,本願発明の密封容器の実施例(本願明細書段落【0017】,【0018】参照。)と同様の発泡ポリスチレンなどの素材で形成されたものであることから考えて,刊行物1記載の発明を自然環境中に設置された場合にも,ある程度は餌が環境の水分にさらされないものとなることは容易に推測できる。 そして,刊行物1の記載事項(1b)(1c)に記載されているように,シロアリ駆除用の餌容器を土壌に埋設して使用することが従来より行われていたことから考えると,刊行物1記載の発明の「シロアリ駆除剤」をそのまま土壌に埋設してもシロアリ駆除剤を長時間乾燥状態に保つことができるようにしようと考えること,及び,それに合わせて容器の強度や餌収納時の気密性を設計することは当業者にとって容易である。 したがって,刊行物1記載の発明において,自然環境中に設置された場合に餌が環境の水分にさらされないように密封容器内の餌マトリックスを気密に密封することは,当業者が容易になし得たことである。 (相違点2について) 刊行物1記載の発明の密封容器が,本願発明の密封容器の実施例(本願明細書段落【0018】参照。)において,シロアリが食べることができる材料として例示されている「膨張させたポリスチレン」と同様の素材で形成されたものであることから考えて,刊行物1記載の発明の密封容器の材料は,本願発明の密封容器の材料と同様に,シロアリが食べることのできる耐候性のものであるということができる。 そして,本願発明において,「シロアリが好む」という特定が具体的にどのような構成を想定しているのか定かではないが,刊行物1記載の発明の容器が,シロアリに噛み破らせることを目的としたものであることから考えると,刊行物1記載の発明の容器を「シロアリが好む」材料とすることは,当業者が容易に思い付くことである。 そして,本願発明全体の効果についても,刊行物1記載の発明から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということができない。 3.まとめ したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 付言 なお,ここで,上記補正の却下の決定がなされた平成22年8月26日付けの手続補正により補正された請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)の進歩性について,一応検討する。 補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,両者は,概ね,以下の点で相違している。 (相違点A) 補正発明は,容器が,シロアリが食べることのできる耐候性の容器であるのに対して,刊行物1記載の発明は,シロアリが噛み破ることが可能な,水不透過性の発泡ポリスチレンなどの素材である点。 (相違点B) 補正発明は,密封容器内に餌マトリックスを気密に密封することにより,自然環境中に設置された場合に餌が環境の降雨、高湿度、温度の変動、菌類の腐敗、ならびに非シロアリ地中生息有機体および木材破壊昆虫にさらされないものであるのに対して,刊行物1記載の発明は,密封容器内に餌マトリックスを気密に密封することにより,湿度の高い環境に施用されるシロアリ駆除剤を長時間乾燥状態に保つことができるものであるが,自然環境中に設置された場合には,どのような状態になるかは明確ではない点。 (相違点C) 補正発明は,シロアリ用の毒物が、ヘキサフルムロン、ノビフルムロン、スルフルラミド、ジフルベンズロン、およびジハロアルキルアリルスルフォンから選択される1つ以上の毒物であるのに対して,刊行物1記載の発明は,シロアリ用の毒物が、フェニトロチオンもしくはフェノブカルブを含む組成物である点。 (相違点D) 補正発明は,密封容器が、セルロースを含まないポリマー・ベースの材料で作られており,該密封容器にはシロアリが好むフェロモンが含浸させてあり、シロアリがトンネル形成をし易いように該密封容器にくぼみが形成されているのに対して,刊行物1記載の発明は,上記の点が明らかではない点。 (相違点Aについて) 上記「第5 2.(相違点2について)」に記載したと同様の理由により,当業者が容易に思い付くことである。 (相違点Bについて) 上記「第5 2.(相違点1について)」に記載したとおり,刊行物1記載の発明において,その密封容器により,「シロアリ駆除剤」をそのまま土壌に埋設してもシロアリ駆除剤を長時間乾燥状態に保つことができるようにしようと考えることは当業者にとって容易であって,さらに,密封容器による「シロアリ駆除剤」の保護を,水分に対する保護だけでなく,その他「高湿度、温度の変動、菌類の腐敗、ならびに非シロアリ地中生息有機体および木材破壊昆虫」に対しても保護できるようにすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得た設計事項である。 (相違点Cについて) シロアリ用の毒物として,ヘキサフルムロンやスルフルラミド等は周知であり(例えば,特表2000-506730号公報参照。),刊行物1記載の発明の毒物として上記周知の毒物を用いることは当業者が容易になし得たことである。 (相違点Dについて) 密封容器の材料をセルロースを含まないポリマー・ベースに限定することに技術的な意味を見いだすことができず,該材料の限定は,当業者が適宜なし得ることである。 また,シロアリを誘引させるために,フェロモンを配することは周知技術 (例えば,特開平11-193206号公報等参照。)である。 さらに,引っかかりやきっかけのために表面に凹凸を設けることは,広く一般に行われている常套手段であり,シロアリがトンネル形成をし易いように密封容器にくぼみを形成することは,当業者が適宜なし得た設計事項である。 したがって,補正発明も,刊行物1記載の発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-24 |
結審通知日 | 2011-08-30 |
審決日 | 2011-09-12 |
出願番号 | 特願2003-579555(P2003-579555) |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(A01M)
P 1 8・ 121- Z (A01M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石村 恵美子 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
宮崎 恭 仁科 雅弘 |
発明の名称 | 地中のシロアリ用の気密に密封された餌 |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 片山 英二 |