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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1251290
審判番号 不服2010-6917  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-02 
確定日 2012-02-03 
事件の表示 特願2005-132280「モータ制御装置およびモータ制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-271179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年4月28日(優先権主張同年2月23日)の出願であって、平成21年12月21日付けで拒絶査定がなされ、平成22年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成22年4月2日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理 由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「モータの通電相を切り替える複数のスイッチング素子と、これらのスイッチング素子を駆動する駆動制御部とを含むモータ制御装置であって、
前記駆動制御部が、モータの運転終了時にてロータが停止した後に所定の前記スイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行うと共に、モータの運転開始時にて前回のロータの停止位置に対応する前記スイッチング素子から駆動を開始してモータを起動し、且つ、モータが複数回運転される場合に、モータの起動時にて最初に駆動されるスイッチング素子の使用頻度が各スイッチング素子間で均一化されるように、前記ロータの停止位置にかかる位置合わせ信号が規定されることを特徴とするモータ制御装置。」と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「モータ制御装置」に関し、「且つ、モータが複数回運転される場合に、モータの起動時にて最初に駆動されるスイッチング素子の使用頻度が各スイッチング素子間で均一化されるように、ロータの停止位置にかかる位置合わせ信号が規定される」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-10680号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、複数のコイルを備えたステータと、複数の永久磁石を備えたロータと、コイルに通電する複数のスイッチング素子を備えた駆動回路とを含むブラシレス直流モータに関し、特にそのブラシレス直流モータの始動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ブラシレス直流モータのコイルに通電するための駆動回路はIGBT等のスイッチング素子を複数個組み合わせたインバータから構成されており、これら複数個のスイッチング素子を交互にオン・オフし、複数のコイルに交互に通電してステータに回転磁界を発生させることにより、永久磁石を備えたロータを回転させるようになっている。
【0003】一般に、ブラシレス直流モータが停止した状態で駆動回路によるコイルへの通電タイミングが固定されたとき、つまり停止状態にあるブラシレス直流モータを始動するときにスイッチング素子は大きな負荷を受けて発熱し、その耐久性が低下するという問題がある。特に、始動時に特定のコイルに通電したとき、ロータが停止している位相に応じて発生するトルクが変化するため、発生トルクが小さい位相でロータが停止している場合にスイッチング素子の負荷は最も大きなものとなる。」

・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のように駆動回路の全てのスイッチング素子の容量を一律に大きく設定すると、高価なスイッチング素子が必要になるためにブラシレス直流モータのコストが上昇するという問題があった。
【0006】本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ブラシレス直流モータの駆動回路のスイッチング素子の耐久性を確保しながら、その容量を最小限に抑えてコストダウンを図ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、回転軸の外周を囲むように固定された複数のコイルを備えたステータと、ステータのコイルに対向するように配置されて回転軸まわりに回転可能な複数の永久磁石を備えたロータと、コイルに通電する複数のスイッチング素子を備えた駆動回路とを含み、ロータの位相に応じて複数のスイッチング素子を交互にオン・オフし、対応する複数のコイルに交互に通電することによりロータを回転させるブラシレス直流モータの始動方法において、特定のコイルに通電したときに最大のトルクが得られるロータの位相を始動用ロータ位相として予め設定しておき、ロータが回転を停止するときに該ロータの位相を前記始動用ロータ位相に一致させ、ロータが回転を開始するときに前記特定のコイルに対応する特定のスイッチング素子をオンさせて始動を行うことを特徴とするブラシレス直流モータの始動方法が提案される。
【0008】上記構成によれば、ブラシレス直流モータのロータが回転を停止するときに、そのロータの位相を特定のコイルに通電したときに最大のトルクが得られる始動用ロータ位相に一致させておき、次に始動を行うときに前記特定のコイルに対応する特定のスイッチング素子が必ずオンするようにしたので、前記特定のスイッチング素子の容量だけを始動時の負荷に耐え得るように大きく設定するだけで、残りのスイッチング素子の容量を小さく設定することができる。これにより、スイッチング素子の耐久性を確保しながら、全てのスイッチング素子を始動時に負荷に耐え得るように大きく設定する場合に比べてコストを削減することができる。
【0009】また請求項2に記載された発明によれば、回転軸の外周を囲むように固定された複数のコイルを備えたステータと、ステータのコイルに対向するように配置されて回転軸まわりに回転可能な複数の永久磁石を備えたロータと、コイルに通電する複数のスイッチング素子を備えた駆動回路とを含み、ロータの位相に応じて複数のスイッチング素子を交互にオン・オフし、対応する複数のコイルに交互に通電することによりロータを回転させるブラシレス直流モータの始動方法において、複数のコイルにそれぞれ通電したときに最大のトルクが得られるロータの位相を複数の始動用ロータ位相として予め設定しておき、ロータが回転を停止するときに該ロータの位相を前記複数の始動用ロータ位相の何れかに一致させるとともに、該始動用ロータ位相をロータが回転を停止する度に順番に切り替えてゆき、ロータが回転を開始するときに、そのときの始動用ロータ位相に対応するコイルに通電するスイッチング素子をオンさせて始動を行うことを特徴とするブラシレス直流モータの始動方法が提案される。
【0010】上記構成によれば、ブラシレス直流モータのロータが回転を停止するときに、そのロータの位相を複数のコイルにそれぞれ通電したときに最大のトルクが得られる複数の始動用ロータ位相の何れかに一致させておき、ロータが回転を停止する度に該ロータが停止する始動用ロータ位相を順番に切り替えることにより、始動時に各々のスイッチング素子がオンする回数を均等化することができる。これにより、複数のスイッチング素子が不均一にオンするのを見越して全てのスイッチング素子の容量を大きく設定する必要がなくなり、各スイッチング素子の容量を最小限に抑えてコストを削減しながら耐久性を確保することができる。」

・「【0020】図5に示すように、直流電源Bに接続された駆動回路Dは直流を3相交流に変換するインバータを構成するもので、各々IGBTから成る6個のスイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-を備える。U相のコイル37(U)はU相のスイッチング素子U+,U-に接続され、V相のコイル37(V)はV相のスイッチング素子V+,V-に接続され、W相のコイル37(W)はW相のスイッチング素子W+,W-に接続される。尚、図5では各相のコイル37(U),37(V),37(W)がそれぞれ1個ずつ示されているが、実際のブラシレス直流モータMは各相のコイル37(U),37(V),37(W)をそれぞれ複数個ずつ備えている。
【0021】ブラシレス直流モータMのロータRの位相は図示せぬホールセンサにより検出され、そのロータRの位相に応じて6個のスイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-を交互にオン・オフ制御することにより、U相、V相およびW相のコイル37(U),37(V),37(W)に交互に通電し、ステータSに回転磁界を発生させてロータRを駆動する。図5には、6個のスイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-のうち、円で囲んだ2個のスイッチング素子U+,W-がオンし、U相のコイル37(U)およびW相のコイル37(W)に通電された状態が示されている。」

・「【0025】次に、図6のフローチャートに基づいて、ブラシレス直流モータMの停止時にロータRの位相を始動用ロータ位相に一致させる制御について説明する。
【0026】先ずステップS1において、エンジンEが停止する直前にクランクシャフト8と共に回転するブラシレス直流モータMのロータRの位相θをレゾルバで検出し、続くステップS2でロータRの位相θを時間微分してロータRの角速度ωを算出する。続くステップS3でロータRの位相θおよび角速度ωに応じて、ロータRを予め設定した始動用ロータ位相に一致させるためのブラシレス直流モータMの駆動トルクおよび駆動時間を算出し、続くステップS4で前記駆動トルクおよび駆動時間に基づいてブラシレス直流モータMの駆動を制御する。
【0027】そしてステップS5およびステップS6でロータRの位相θおよび角速度ωを再度求め、ステップS7でロータRの位相θが始動用ロータ位相に一致し、かつステップS7でロータRの角速度ωが0になるまで、前記ステップS3?ステップS6を繰り返すことにより、ロータRの位相θが始動用ロータ位相に一致した状態でブラシレス直流モータMが停止するようにフィードバック制御を行う。この制御により、エンジンEが停止する度にロータRの位相θを始動用ロータ位相に確実に一致させることができる。
【0028】次に、図7に基づいて本発明の第2実施例を説明する。
【0029】第1実施例では2個のスイッチング素子U+,W-をオンしてU相のコイル37(U)およびW相のコイル37(W)に通電したとき、最大のトルクが発生するロータRの位相を始動用ロータ位相としており、その始動用ロータ位相の数は1であった。それに対して、第2実施例では3つの始動用ロータ位相が予め設定される。第1の始動用ロータ位相は、2個のスイッチング素子U+,W-をオンしてU相のコイル37(U)およびW相のコイル37(W)に通電したときに最大のトルクが発生する位相であり(図7(A)参照)、第2の始動用ロータ位相は、2個のスイッチング素子V+,U-をオンしてV相のコイル37(V)およびU相のコイル37(U)に通電したときに最大のトルクが発生する位相であり(図7(B)参照)、第3の始動用ロータ位相は、2個のスイッチング素子W+,V-をオンしてW相のコイル37(W)およびV相のコイル37(V)に通電したときに最大のトルクが発生する位相である(図7(C)参照)。
【0030】ブラシレス直流モータMが停止するときのロータRの位相θは、第1の始動用ロータ位相→第2の始動用ロータ位相→第3の始動用ロータ位相の順序で切り替えられる。そして6個のスイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-の容量は全て同一とされる。
【0031】而して、ロータRが第1の始動用ロータ位相で停止した状態でブラシレス直流モータMが始動するときにはスイッチング素子U+,W-がオンし、ロータRが第2の始動用ロータ位相で停止した状態でブラシレス直流モータMが始動するときにはスイッチング素子V+,U-がオンし、ロータRが第3の始動用ロータ位相で停止した状態でブラシレス直流モータMが始動するときにはスイッチング素子W+,V-がオンするため、長期の間に全てのスイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-がオンする回数は必ず均等になる。その結果、スイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-が不均一にオンするのを見越してそれらの容量を大きく設定する必要がなくなるため、各スイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-の容量を最小限に抑えることができ、これによりスイッチング素子U+,V+,W+,U-,V-,W-のコストを削減しながら耐久性を確保することができる。
【0032】以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0033】例えば、実施例ではエンジンEのスタータモータおよびジェネレータとして機能するブラシレス直流モータMを例示したが、本発明は他の任意の用途のブラシレス直流モータに対して適用することができる。
【0034】また実施例のブラシレス直流モータMはアウターロータ型であるが、本発明はインナーロータ型のブラシレス直流モータに対しても適用することができる。
【0035】また第1実施例ではブラシレス直流モータMの始動時にスイッチング素子U+,W-をオンしているが、そのスイッチング素子の組み合わせは第1実施例に限定されるものではない。
【0036】
【発明の効果】以上のように請求項1に記載された発明によれば、ブラシレス直流モータのロータが回転を停止するときに、そのロータの位相を特定のコイルに通電したときに最大のトルクが得られる始動用ロータ位相に一致させておき、次に始動を行うときに前記特定のコイルに対応する特定のスイッチング素子が必ずオンするようにしたので、前記特定のスイッチング素子の容量だけを始動時の負荷に耐え得るように大きく設定するだけで、残りのスイッチング素子の容量を小さく設定することができる。これにより、スイッチング素子の耐久性を確保しながら、全てのスイッチング素子を始動時に負荷に耐え得るように大きく設定する場合に比べてコストを削減することができる。
【0037】また請求項2に記載された発明によれば、ブラシレス直流モータのロータが回転を停止するときに、そのロータの位相を複数のコイルにそれぞれ通電したときに最大のトルクが得られる複数の始動用ロータ位相の何れかに一致させておき、ロータが回転を停止する度に該ロータが停止する始動用ロータ位相を順番に切り替えることにより、始動時に各々のスイッチング素子がオンする回数を均等化することができる。これにより、複数のスイッチング素子が不均一にオンするのを見越して全てのスイッチング素子の容量を大きく設定する必要がなくなり、各スイッチング素子の容量を最小限に抑えてコストを削減しながら耐久性を確保することができる。」

・図6には、ロータの位相に応じてモータを駆動する点が示されているので、図5には明記されていないが、6個のスイッチング素子U+、V+、W+、U-、V-、W-を駆動する駆動制御部が設けられていることも実質上示されているといえる。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ブラシレス直流モータMのロータの位相に応じて対応する複数のコイル37(U)、37(V)、37(W)に交互に通電するために、交互にオン・オフされる6個のスイッチング素子U+、V+、W+、U-、V-、W-と、これらのスイッチング素子を駆動する駆動制御部とを含む駆動回路Dであって、
前記駆動制御部が、ブラシレス直流モータMのロータRが回転を停止するときにてそのロータRの位相を特定のコイルに通電したときに最大のトルクが得られる複数の始動用ロータ位相の何れかに一致させておくと共に、次に始動を行うときに前記特定のコイルに対応する特定のスイッチング素子が必ずオンするようにして始動し、且つ、ロータRが回転を停止する度に、始動時に各々のスイッチング素子がオンする回数を均等化するように、該ロータが停止する始動用ロータ位相を順番に切り替える駆動回路D。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)後者の「ブラシレス直流モータMのロータの位相に応じて対応する複数のコイル37(U)、37(V)、37(W)に交互に通電するために、交互にオン・オフされる6個のスイッチング素子U+、V+、W+、U-、V-、W-」が前者の「モータの通電相を切り替える複数のスイッチング素子」に相当し、同様に、
「駆動回路D」が「モータ制御装置」に相当する。

(イ)後者の「ブラシレス直流モータMのロータRが回転を停止するとき」との態様が前者の「モータの運転終了時」との態様に相当し、同様に、
「そのロータRの位相を特定のコイルに通電したときに最大のトルクが得られる複数の始動用ロータ位相の何れかに一致させておく」との態様が「所定のスイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行う」との態様に、それぞれ相当することから、
後者の「駆動制御部が、ブラシレス直流モータMのロータRが回転を停止するときにてそのロータRの位相を特定のコイルに通電したときに最大のトルクが得られる複数の始動用ロータ位相の何れかに一致させておく」との態様と
前者の「駆動制御部が、モータの運転終了時にてロータが停止した後に所定のスイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行う」との態様とは、
「駆動制御部が、モータの運転終了時にて所定のスイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行う」との概念で共通する。

(ウ)後者の「ロータが回転を停止する度」とは、複数回の運転を意味することは技術常識といえることから、
後者の「次に始動を行うときに前記特定のコイルに対応する特定のスイッチング素子が必ずオンするようにして始動し、且つ、ロータRが回転を停止する度に、始動時に各々のスイッチング素子がオンする回数を均等化するように、該ロータが停止する始動用ロータ位相を順番に切り替える」との態様が、
前者の「モータの運転開始時にて前回のロータの停止位置に対応するスイッチング素子から駆動を開始してモータを起動し、且つ、モータが複数回運転される場合に、モータの起動時にて最初に駆動されるスイッチング素子の使用頻度が各スイッチング素子間で均一化されるように、前記ロータの停止位置にかかる位置合わせ信号が規定される」との態様に相当する。

したがって、両者は、
「モータの通電相を切り替える複数のスイッチング素子と、これらのスイッチング素子を駆動する駆動制御部とを含むモータ制御装置であって、
前記駆動制御部が、モータの運転終了時にて所定の前記スイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行うと共に、モータの運転開始時にて前回のロータの停止位置に対応する前記スイッチング素子から駆動を開始してモータを起動し、且つ、モータが複数回運転される場合に、モータの起動時にて最初に駆動されるスイッチング素子の使用頻度が各スイッチング素子間で均一化されるように、前記ロータの停止位置にかかる位置合わせ信号が規定されるモータ制御装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
モータの運転終了時にて所定のスイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行う態様に関し、本願補正発明ではモータの運転終了時にて「ロータが停止した後に」行うのに対し、引用発明ではそのような特定はなされていない点。

(4)判断
上記[相違点]について以下検討する。
本願補正発明において、モータの運転終了時にてロータが停止した後に所定のスイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行うことによる技術的な意義は出願当初の明細書の【0009】の「このモータ制御装置では、モータの運転終了後(駆動信号の停止後)にて、ロータの回
転速度が所定値以下となったときにロータの位置合わせが行われるので、ロータが十分に減速(あるいは停止)してからロータの位置合わせを行い得る。これにより、ロータの位置合わせを円滑に行い得る利点がある。」なる記載によれば、ロータが停止していることから、ロータの速度の影響を考慮する必要がないことが自明であるように、位置合わせが容易に行うことができるというものであると解することができる。
原審の拒絶理由に引用された特開平11-206175号公報の【請求項1】には、「ブラシレスモータの起動に際して(起動によりモータの運転が開始されることを踏まえると、その前にモータの運転が終了していることは明らかであるので、「ロータが停止している」状態に相当するといえる)は同ブラシレスモータの回転子を予め位置決めし(「ロータが停止した後」に相当)、しかる後当該起動シーケンスにしたがって前記ブラシレスモータの電機子巻線の通電を切り替えるブラシレスモータの制御方法において、前記回転子の位置決めを複数回の通電切り替えによって行う(「所定のスイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行う」に相当)とともに、該複数回の通電切り替えにより前記回転子を通常の回転と逆方向に回転して位置決めし、しかる後前記起動シーケンスにしたがって起動するようにしたことを特徴とするブラシレスモータの制御方法(カテゴリーは異なるが、実質的に「モータの制御装置」に相当)。」と記載されているように、モータの制御装置において、「ロータが停止している」状態において、所定のスイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行うことは周知の技術にすぎない。そして、起動時も運転終了時も、共に「ロータが停止している」状態、すなわち、ロータが回転していない状態であり、ロータの速度の影響を考慮する必要がないことが自明であるように、位置合わせが容易に行うことができる点では差異があるとはいえない。したがって、ロータが停止している状態として、起動時を選ぶか、運転終了時を選ぶかは任意に選定可能であるといえる。さらに、「駆動制御部が、ブラシレス直流モータMのロータRが回転を停止するときにてそのロータRの位相を特定のコイルに通電したときに最大のトルクが得られる複数の始動用ロータ位相の何れかに一致させておく」引用発明は、ロータが回転を停止する時に位置合わせを行うものであることから、運転終了時に位置合わせを行う点が示唆されているといえる。
そうすると、モータの制御装置において、位置合わせを容易に行うという一般的な課題を解決するために、引用発明に上記周知の技術を採用することにより相違点に係る本願補正発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。

そして、本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も引用発明、及び、上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、及び、上記周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項の規定において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年11月6日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲、及び、図面によれば、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「モータの通電相を切り替える複数のスイッチング素子と、これらのスイッチング素子を駆動する駆動制御部とを含むモータ制御装置であって、
前記駆動制御部が、モータの運転終了時にてロータが停止した後に所定の前記スイッチング素子を駆動してロータの停止位置の位置合わせを行うと共に、モータの運転開始時にて前回のロータの停止位置に対応する前記スイッチング素子から駆動を開始してモータを起動することを特徴とするモータ制御装置。」

(1)引用例
引用例、及び、その記載内容は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・検討
本願発明は、「2.」で検討した本願補正発明から「モータ制御装置」に関し、「且つ、モータが複数回運転される場合に、モータの起動時にて最初に駆動されるスイッチング素子の使用頻度が各スイッチング素子間で均一化されるように、ロータの停止位置にかかる位置合わせ信号が規定される」という限定を省いたものに相当する。
したがって、本願発明を構成する事項の全てを含み、更に他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、及び、上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により引用発明、及び、上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-02 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-12-09 
出願番号 特願2005-132280(P2005-132280)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02P)
P 1 8・ 575- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天坂 康種  
特許庁審判長 仁木 浩
特許庁審判官 神山 茂樹
大河原 裕
発明の名称 モータ制御装置およびモータ制御方法  
代理人 高村 順  
代理人 酒井 宏明  

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