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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C |
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管理番号 | 1251300 |
審判番号 | 不服2011-4114 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-02-24 |
確定日 | 2012-02-03 |
事件の表示 | 特願2005-167508「真空排気システム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月21日出願公開,特開2006-342688〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は,平成17年 6月 7日の特許出願であって,平成22年11月17日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成23年 2月24日付けで本件審判請求がなされるとともに,手続補正(前置補正)がなされたものである。 II.平成23年 2月24日付けの手続補正の却下 [補正却下の決定の結論] 平成23年 2月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は, 「【請求項1】 真空チャンバを真空に排気する真空排気システムにおいて, 気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備え,真空チャンバに接続される第1真空ポンプと, 気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備え,接続管を介して前記第1真空ポンプに接続される第2真空ポンプと, 前記接続管に設置された圧力センサと, 前記第1真空ポンプ及び前記第2真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統と, 前記圧力センサにより検出された圧力に基づいて,前記ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部と, を備えたことを特徴とする真空排気システム。」 と補正された。 上記補正は,本件補正前の平成21年 9月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備えた少なくとも1つの真空ポンプと,」を「気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備え,真空チャンバに接続される第1真空ポンプと,気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備え,接続管を介して前記第1真空ポンプに接続される第2真空ポンプと,」に,「真空排気システム中の真空領域に」を「接続管に」に,「少なくとも1つの真空ポンプ」を「第1真空ポンプ及び第2真空ポンプ」にそれぞれ限定するものであって,この限定された事項は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載しており,本件補正後の請求項1に記載された発明は,本件補正前の請求項1に記載された発明と,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから,上記補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用例及びその記載事項 (2-1)引用例1 平成21年 7月15日付けの拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2005-120955号公報(以下「引用例1」という。)には,「真空排気装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は,基板処理装置の真空チャンバを真空に排気する真空排気装置に関するものである。」 ・「【0012】 図1に示すように,真空排気装置は,ブースターポンプとしての第1の真空ポンプ1と,メインポンプとしての第2の真空ポンプ2と,第1の真空ポンプ1及び第2の真空ポンプ2を収容するハウジング(筐体)3とを備えている。ハウジング3は底板4上に固定され,この底板4の上に第2の真空ポンプ2が設置されている。底板4の下部には4つの車輪5(図1では2つの車輪のみを示す)が固定されており,これにより真空排気装置が搬送可能となっている。 【0013】 第1の真空ポンプ1は,一対のルーツ型ポンプロータ20(図1では1つのポンプロータのみを示す)を有するルーツ型真空ポンプであり,第2の真空ポンプ2は,一対のスクリュー型ポンプロータ40(図1では1つのポンプロータのみを示す)を有するスクリュー型真空ポンプである。このように,第1の真空ポンプ1及び第2の真空ポンプ2は,互いに異なる形状のポンプロータをそれぞれ有している。第1の真空ポンプ1と第2の真空ポンプ2とはハウジング3内で互いに平行に設置され,第1の真空ポンプ1は第2の真空ポンプ2の上方に配置されている。 【0014】 第1の真空ポンプ1の吸気口23aには吸気配管6が設けられており,この吸気配管6は基板処理装置に組み込まれた真空チャンバ(図1には図示せず)に接続されている。なお,基板処理装置としては,半導体ウェハや液晶パネルなどの基板にエッチング処理やCVD処理を施すエッチング装置やCVD装置などが挙げられる。第1の真空ポンプ1の下部には排気口23bが設けられており,この排気口23bは接続配管7を介して第2の真空ポンプ2の吸気口43aに接続されている。第2の真空ポンプ2の排気口43bには排気配管8が接続され,この排気配管8を介して気体(プロセスガス)が外部に排気される。このように,第1の真空ポンプ1と第2の真空ポンプ2とは直列に接続され,第2の真空ポンプ2は,第1の真空ポンプ1よりも下流側に配置されている。すなわち,第1の真空ポンプ1は第2の真空ポンプ2よりも真空側に配置され,第2の真空ポンプ2は大気側に配置されている。この第2の真空ポンプ2は大気圧下でも起動可能に構成されている。」 ・「【0020】 回転軸21の他方の端部には,互いに噛み合う一対のタイミングギヤ28が固定されている。これらのタイミングギヤ28はギヤケーシング29に収容されている。ギヤケーシング29の周壁には冷却配管25Aが埋設されており,この冷却配管25Aに冷却水を流通させることにより,タイミングギヤ28及び軸受22Aが冷却されるようになっている。なお,一対のポンプロータ20はモータM1によって同期して回転駆動されるため,タイミングギヤ28の役割としては,突発的な外部要因によるポンプロータ20の同期回転の脱調を防ぐことにある。 【0021】 軸受22Aと1段目のルーツロータ20aとの間に位置して軸スリーブ31Aが回転軸21に固定されており,この軸スリーブ31Aの外周面を囲むようにラビリンスシール32Aが設けられている。同様に,軸受22Bと2段目のルーツロータ20bとの間に位置して軸スリーブ31Bが回転軸21に固定されており,この軸スリーブ31Bの外周面を囲むようにラビリンスシール32Bが設けられている。これらのラビリンスシール32A,32Bにより,ポンプロータ20によって昇圧された気体(プロセスガス)が軸受22A,軸受22B,及びモータM1側に流入することが防止される。なお,軸受22A,22Bの潤滑剤としてはオイルが用いられている。これにより,軸受22A,22Bにプロセスガスの副生成物が付着した場合でも,軸受22A,22Bにオイルを流すことにより副生成物を除去することができる。 【0022】 軸受22A及びラビリンスシール32Aは軸受ケーシング33Aによって覆われ,同様に,軸受22B及びラビリンスシール32Bは軸受ケーシング33Bによって覆われている。ロータケーシング23,モータケーシング24,及び軸受ケーシング33A,33Bは別体として構成されており,これらはロータケーシング23,軸受ケーシング33A,33B,モータケーシング24の順に組み立てられる。 【0023】 軸受22A,22B及びラビリンスシール32A,32Bにプロセスガスの副生成物が析出してしまうことを防止するために,クリーンガスを供給する供給口35A,35Bがギヤケーシング29及び軸受ケーシング33Bにそれぞれ設けられている。吸気側の供給口35Aから供給されたクリーンガスはギヤケーシング29の内部空間を満たした後,軸受22A,ラビリンスシール32Aの順に流れ,これにより軸受22A及びラビリンスシール32Aがプロセスガスに晒されることが防止される。同様に,排気側の供給口35Bから供給されたクリーンガスは,軸受22B,ラビリンスシール32Bの順に流れ,これにより軸受22B及びラビリンスシール32Bがプロセスガスに晒されることが防止される。なお,クリーンガスとしては,空気や窒素など気体(プロセスガス)との反応に関与しない安定なガスであれば使用可能である。 【0024】 図3(a)乃至図3(d)に示すように,1段目のルーツロータ20a(及び2段目のルーツロータ20b)はロータケーシング23内において互いに対向して配置されている。モータM1に駆動されてルーツロータ20a(ポンプロータ20)が同期回転すると,吸気側の気体はルーツロータ20aとロータケーシング23の内面との間に閉じ込められて排気側に移送される。このような気体の移送が連続して行われることにより,吸気口23aに接続されている真空チャンバ内の排気が行われる。なお,本実施形態では,ロータとしてルーツ型を使用しているが,これに限らずスクリュー型やクロー型などを用いてもよい。いずれの場合でも,複数段のロータが軸方向に配列された多段型のポンプロータが用いられる。また,ポンプロータ20の段数は2段に限られず,3段以上であってもよい。」 ・「【0026】 図4は図1に示す第2の真空ポンプを示す断面図である。第2の真空ポンプは,一対のスクリュー型ポンプロータを備える点で第1の真空ポンプと異なっている。その他の第2の真空ポンプの構成は第1の真空ポンプと同様であり,その重複する説明を省略する。 【0027】 図4に示すように,ロータケーシング43内には,互いに対向する一対のスクリュー型の多段ポンプロータ40(図4には1つのポンプロータのみを示す)が配置されている。これらのポンプロータ40はモータM2(モータステータM2-1,モータロータM2-2)によって同期して反対方向に回転駆動される。それぞれのポンプロータ40は,1段目のスクリューロータ(吸気側ロータ)40aと,2段目のスクリューロータ(排気側ロータ)40bと,これらのスクリューロータ40a,40bが固定される回転軸41とを備えている。1段目及び2段目のスクリューロータ40a,40bは,互いに噛み合うように配置される。1段目のスクリューロータ40aは2段目のスクリューロータ40bに比べて軸方向の幅が広く,かつピッチも大きく設定されている。なお,本実施形態に係る第2の真空ポンプではスクリュー型のロータが用いられているが,ルーツ型またはクロー型のロータを用いてもよい。 【0028】 ポンプロータ40同士,及びポンプロータ40とロータケーシング43の内面との間には微小な隙間が形成されており,これによりポンプロータ40がロータケーシング43内で非接触で回転可能となっている。1段目のスクリューロータ40aの上方に位置するロータケーシング43の部位には吸気口43aが形成され,2段目のスクリューロータ40bの下方に位置するロータケーシング43の部位には排気口43bが形成されている。吸気口43aは,上述した第1の真空ポンプ1の排気口23b(図1及び図2参照)に接続配管7を介して接続されている。 【0029】 このような構成において,第1の真空ポンプ1から排気された気体(プロセスガス)は,接続配管7を介して吸入口43aからロータケーシング43内に導入される。気体は,1段目のスクリューロータ40a及び2段目のスクリューロータ40bの回転により圧縮され,排気口43bより排気される。なお,排気速度は,第1の真空ポンプ1の1段目のルーツロータ20a,2段目のルーツロータ20b,第2の真空ポンプ2の1段目のスクリューロータ40a,2段目のスクリューロータ40bの順に小さくなる。 【0030】 第2の真空ポンプ2は第1の真空ポンプ1よりも大気側に近いため,第2の真空ポンプ2内部の圧力は第1の真空ポンプ1内部の圧力よりも高くなる。このために,プロセスガスの副生成物は,第2の真空ポンプ2内で析出しやすい。本実施形態では,第2の真空ポンプ2にスクリュー型のポンプロータ40を採用しているため,第2の真空ポンプ2内に析出した副生成物をポンプロータ40の回転により掻き出すことができる。すなわち,1段目及び2段目のスクリューロータ40a,40bやロータケーシング43の内面に副生成物が析出した場合でも,スクリューロータ40a,40b(ポンプロータ40)を回転させることによって副生成物を排気口43bに送り出すことができる。このように,スクリューロータ40a,40bは生成物排出のために適した形状を有している。 【0031】 接続配管7には,第1の真空ポンプ1から排気された気体(プロセスガス)の圧力を測定する圧力センサ50が設けられている。圧力センサ50は制御盤(図1参照)10に接続されており,制御盤10は圧力センサ50の出力値(気体の圧力)に基づいて第1の真空ポンプ1のポンプロータ20(図1及び図2参照)の回転速度を制御するようになっている。」 ・「【0032】 次に,本実施形態に係る真空排気装置の動作について図5を参照して説明する。 図5は,第1の真空ポンプ及び第2の真空ポンプのポンプロータの回転速度,及び圧力センサによって測定された気体の圧力を示すグラフである。 図5に示すように,まず,第2の真空ポンプ2を起動させ,第2の真空ポンプ2のポンプロータ40が定格回転速度S4に到達するまでその回転速度を上昇させる。その後,第2の真空ポンプ2は定格回転速度で運転される。第2の真空ポンプ2が起動した時点から所定の設定時間PTが経過した後,第1の真空ポンプ1を起動させる。なお,第2の真空ポンプ2内の気体の圧力が当該第2の真空ポンプ2の許容排気圧力範囲内である所定の圧力P0に達した後,第1の真空ポンプ1を起動させてもよい。第1の真空ポンプ1のポンプロータ20の回転速度がS3に達すると,ポンプロータ20は一定の回転速度で回転する。 【0033】 第1の真空ポンプ1及び第2の真空ポンプ2の運転に伴い,気体(プロセスガス)の圧力は更に低下する。気体の圧力が低下してP2に達したときに,ポンプロータ20の回転速度を更に上昇させる。そして,ポンプロータ20の回転速度がS2に達したところでポンプロータ20を一定の回転速度で回転させる。更に気体の圧力がP1に達したとき,ポンプロータ20の回転速度を更に上昇させ,S1(定格回転速度)に到達させる。その後,ポンプロータ20を一定の回転速度(S1)で回転させる。ポンプロータ20が定格回転速度に到達した後,何らかの要因により気体の圧力が上昇した場合には,ポンプロータ20の回転速度をS2またはS3にまで低下させる。 【0034】 このように,真空排気装置によって移送される気体の圧力に応じて第1の真空ポンプ1のポンプロータ20の回転速度を変化させることにより,モータM1にかかる負荷を低減させることができる。なお,本実施形態においては,圧力センサ50は接続配管7内に配置されているが,第2の真空ポンプ2のロータケーシング43内の1段目のスクリューロータ40aと2段目のスクリューロータ40bとの間に圧力センサを配置してもよく,または,吸気配管6(図1参照),第1の真空ポンプ1のロータケーシング23内部,または吸気口23aに配置してもよい。」 ・段落【0020】,【0026】の記載事項からみて,図4には,「一対のポンプロータ40の同期回転の脱調を防ぐタイミングギヤ28」が示されている。 また,段落【0026】?【0029】の記載事項によれば,「第2の真空ポンプ2のポンプロータ40が気体を移送すること」は明らかである。 そして,段落【0023】,【0026】の記載事項からみて,図4には,「第2の真空ポンプ2にクリーンガスを供給する供給口35A,35B」が示されている。 これらの記載事項と図示内容を総合すると,上記引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「真空チャンバを真空に排気する真空排気装置において, 気体を移送する一対のポンプロータ20と,前記一対のポンプロータ20を回転させるモータM1と,前記一対のポンプロータ20の同期回転の脱調を防止するタイミングギヤ28とを備え,真空チャンバに接続される第1の真空ポンプ1と, 気体を移送する一対のポンプロータ40と,前記一対のポンプロータ40を回転させるモータM2と,前記一対のポンプロータ40の同期回転の脱調を防止するタイミングギヤ28とを備え,接続配管7を介して前記第1の真空ポンプ1に接続される第2の真空ポンプ2と, 前記接続配管7に設けられた圧力センサ50と, 前記第1の真空ポンプ1及び前記第2の真空ポンプ2の軸受22A,22B及びラビリンスシール32A,32Bにプロセスガスの副生成物が析出してしまうことを防止するために,クリーンガスを供給する供給口35A,35Bと, 前記圧力センサ50により検出された圧力に基づいて,第1の真空ポンプ1のポンプロータ20の回転速度を制御する制御盤10と, を備えた真空排気装置。」 (2-2)引用例2 原査定の拒絶理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-343472号公報(以下「引用例2」という。)には,「真空ポンプの軸シール構造」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 ・「【特許請求の範囲】 【請求項1】端部を軸受で回転自在に固定されたロータを持ち,該ロータを収納するケーシングを具備し,該ケーシングは,吸込ポート及び吐出ポートを備えている真空ポンプにおいて,前記軸受へ不活性ガスを送るための通気路を設けたことを特徴とする真空ポンプ。 【請求項2】前記軸受部に送る不活性ガスの流量又は/及び圧力を制御する機能を備えていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。」 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は半導体製造工程等の反応性ガスを流す工程で使用するロータを持つ真空ポンプにおいて,ロータをハウジングに回転自在に固定するための軸受が反応性ガスにより腐蝕されたり,反応性ガスにより生成された生成物が付着しない軸シール構造に関する。」 ・「【0008】 【発明の実施の形態】以下,本発明の縦置型スクリュー式真空ポンプへの適応例を図1を用いて説明する。 【0009】まず,本実施形態に係るスクリュー式真空ポンプ100の構成について説明する。 【0010】スクリュー式真空ポンプ100は,スクリュウロータ101及び102を備えている。スクリュウロータ101,102は,ハウジング103の内部に形成された排気側ロータ収納室としてのハウジング103に収納されている。詳述すると,スクリュウロータ101は軸受104及び105によってハウジング103に回転可能に支持され,スクリュウロータ102は軸受106及び107によってハウジング103に回転可能に支持されている。また,シール108,109,110及び111は軸受104,105,106及び107とハウジング103内の排気室110eとを隔離し,軸受104,105,106及び107の潤滑油がハウジング103内に漏洩することを防止するとともに,ハウジング103の排気室110eから軸受104,105,106及び107に異物が侵入することを防止している。 【0011】また,スクリュウロータ101及びスクリュウロータ102の一端部には,スクリュウロータ101及びスクリュウロータ102の一方の回転に伴ってスクリュウロータ101及びスクリュウロータ102の他方を回転させるタイミングギア112及び113が,それぞれ互いに噛み合うように固定されている。更に,スクリュウロータ102の一端部には,モータ114が一体的に連結している。 【0012】前記タイミングギア112及び113が収納されているギア室115は底部に潤滑油116が溜まっている。前記ギア室115と前期モータ114とはオイルシール117及び118でギア室115内の潤滑油116がモータ側に漏れないように封止されている。 【0013】119,120,121及び122はハウジングに形成された不活性ガスの通気路である。真空ポンプの運転中は不活性ガスをわずかに流しながら,排気室110e内から反応性ガスや反応性ガスにより生成された生成物が軸受104,105,106及び107に流れ込まないようにする。真空ポンプの停止時には真空ポンプを制御している図示していないコントローラから停止信号を受け,通気路119,120,121及び122への不活性ガスの流量調整バルブが動作し,排気室110eの圧力に対し軸受部120及びギヤ室115の圧力が常に同じもしくは,高い状態を保ちながら大気圧まで上昇するように通常より多量かつ/もしくは高圧の不活性ガスを不活性ガスの通気路119に流す。また,不活性ガスの供給を2つに分け,図示していない切替バルブで動作させても良い。さらに排気室内の圧力と軸受部の圧力を圧力センサー等の測定手段を用いて測定し,測定データをもとに排気室内の圧力と軸受部内を予め決められた所定の圧力差になるように不活性ガスの流量及び/又は圧力を制御することにより真空ポンプの性能を極力低下させることなく軸受を反応生成ガスによる腐食や生成物から守ることができる。」 ・段落【0011】の記載事項及び図1からみて,「モータ114がスクリュウロータ101,102を回転させていること」,及び,「タイミングギヤ112,113がスクリュウロータ101,102を同期させていること」は明らかである。 ・段落【0013】の記載事項からみて,「圧力センサーにより測定した測定データをもとに,通気路119-122を流れる不活性ガスの流量を制御する」ものであれば,何らかの「制御部を備える」ことは明らかである。 これらの記載事項と図示内容を総合すると,上記引用例2には,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「吸入ポート及び吐出ポートを備えている真空ポンプにおいて, 反応性ガスを流す工程で使用するスクリュウロータ101,102と,前記スクリュウロータ101,102を回転させるモータ114と,前記スクリュウロータ101,102を同期させるタイミングギヤ112,113とを備えたスクリュー式真空ポンプ100と, 排気室内と軸受部の圧力を測定する圧力センサーと, スクリュー式真空ポンプ100の軸受104-107に不活性ガスを供給する通気路119-122と, 前記圧力センサーにより測定した測定データをもとに,前記通気路119-122を流れる不活性ガスの流量を制御する制御部と, を備えた真空ポンプ。」 3.発明の対比 本願補正発明と引用発明1とを対比すると,後者の「真空排気装置」は前者の「真空排気システム」に相当し,以下同様に,「ポンプロータ20」及び「ポンプロータ40」は「ロータ」に,「モータM1」及び「モータM2」は「モータ」に,「第1の真空ポンプ1」は「第1真空ポンプ」に,「第2の真空ポンプ2」は「第2真空ポンプ」に,「接続配管7」は「接続管」に,「圧力センサ50」は「圧力センサ」に,「制御盤10」は「制御部」にそれぞれ相当する。 また,後者の「一対のポンプロータ20の同期回転の脱調を防止するタイミングギヤ28」及び「一対のポンプロータ40の同期回転の脱調を防止するタイミングギヤ28」は,前者の「一対のロータを同期させるタイミングギヤ」に相当し,後者の「接続配管7に設けられた圧力センサ50」は,前者の「接続管に設置された圧力センサ」に相当し,後者の「第1の真空ポンプ1及び第2の真空ポンプ2の軸受22A,22B及びラビリンスシール32A,32Bにプロセスガスの副生成物が析出してしまうことを防止するために,クリーンガスを供給する供給口35A,35B」は,前者の「第1真空ポンプ及び第2真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統」に相当する。 そして,後者の「圧力センサ50により検出された圧力に基づいて,第1の真空ポンプ1のポンプロータ20の回転速度を制御する制御盤10」と,前者の「圧力センサにより検出された圧力に基づいて,ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部」とは,「圧力センサにより検出された圧力に基づいて,何らかの制御をする制御部」において共通する。 そうすると,両者は, 「真空チャンバを真空に排気する真空排気システムにおいて, 気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備え,真空チャンバに接続される第1真空ポンプと, 気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備え,接続管を介して前記第1真空ポンプに接続される第2真空ポンプと, 前記接続管に設置された圧力センサと, 前記第1真空ポンプ及び前記第2真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統と, 前記圧力センサにより検出された圧力に基づいて,何らかの制御をする制御部と, を備えた真空排気システム。」 の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。 <相違点> 接続管に設置された圧力センサにより検出された圧力に基づいて,何らかの制御をする制御部において,制御部の行う制御の対象が,本願補正発明では,「ガス系統を流れる軸シールガスの流量」であるのに対して,引用発明1では,「第1の真空ポンプ1のポンプロータ20の回転速度」である点。 4.相違点の検討(当審の判断) まず,上記引用例1には,段落【0023】に「軸受22A,22B及びラビリンスシール32A,32Bがプロセスガスに晒されることが防止され,プロセスガスの副生成物が析出してしまうことを防止する」旨の課題についての示唆がある。 そして,上記引用例2には,「真空ポンプの性能を極力低下させることなく軸受を反応生成ガスによる腐食や生成物から守ることができる」ことを課題として,「排気室内と軸受部の圧力を測定する圧力センサーと,スクリュー式真空ポンプ100の軸受104-107に不活性ガスを供給する通気路119-122と,前記圧力センサーにより測定した測定データをもとに,前記通気路119-122を流れる不活性ガスの流量を制御する,真空ポンプ」が記載されており,少なくとも「排気室内」は,「真空排気システムの真空領域」に相当するから,「排気室内と軸受部の圧力を測定する圧力センサー」は,少なくとも「真空排気システムの真空領域に設置された圧力センサ」を含むものであり,「スクリュー式真空ポンプ100の軸受104-107に不活性ガスを供給する通気路119-122」は「真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統」に相当し,「圧力センサーにより測定した測定データをもとに,通気路119-122を流れる不活性ガスの流量を制御する制御部」は「圧力センサにより検出された圧力に基づいて,ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部」に相当するから,上記引用例2には,「少なくとも真空排気システムの真空領域に設置された圧力センサを含み,真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統と,前記圧力センサにより検出された圧力に基づいて,前記ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部」が開示されていると認められる。 そこで,上記引用例2に開示された圧力センサは,「接続管」に設置されたものではないものの,「真空排気システムの真空領域」である「排気室内」に設置されたものであり,引用発明の圧力センサは同じく「真空排気システムの真空領域」の「接続管」に設置されたものである。 また,本願明細書の段落【0018】には,「圧力センサ50は真空領域であればどこに取付けてもよい。」と記載され,上記引用例1の段落【0034】には,「なお,本実施形態においては,圧力センサ50は接続配管7内に配置されているが,第2の真空ポンプ2のロータケーシング43内の1段目のスクリューロータ40aと2段目のスクリューロータ40bとの間に圧力センサを配置してもよく,または,吸気配管6(図1参照),第1の真空ポンプ1のロータケーシング23内部,または吸気口23aに配置してもよい。」と記載されるように,圧力センサは真空領域内であれば,接続管(接続配管)に設けるか,排気室内(ロータケーシング内)に設けるかは,任意選択的な事項にすぎない。 そうすると,本願補正発明と同様の課題についての示唆のある引用発明1に,同様の課題を有する上記引用例2に開示された事項を適用して,「接続管に設置された圧力センサにより検出された圧力に基づいて,ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部」とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。 そして,上記相違点を併せ備える本願補正発明の奏する作用効果について検討してみても,引用発明1及び上記引用例2に開示された事項から当業者が予測し得たものであって,格別なものとはいえない。 したがって,本願補正発明は,引用発明1及び上記引用例2に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおり,本件補正は,平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。 III.本願発明について 1.本願発明の記載事項 本件補正は,上記のとおり却下され,また,審査段階において,平成22年 5月26日付け手続補正が却下されているので,本願の請求項1?3に係る発明は,平成21年 9月17日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。 「【請求項1】 真空チャンバを真空に排気する真空排気システムにおいて, 気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備えた少なくとも1つの真空ポンプと, 前記真空排気システム中の真空領域に設置された圧力センサと, 前記少なくとも1つの真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統と, 前記圧力センサにより検出された圧力に基づいて,前記ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部と, を備えたことを特徴とする真空排気システム。」 2.引用例の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記II.2.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明と引用発明2とを対比すると,後者の「真空ポンプ」は前者の「真空排気システム」に相当し,以下同様に,「スクリュウロータ101,102」は「一対のロータ」に,「モータ114」は「モータ」に,「タイミングギヤ112,113」は「タイミングギヤ」に,「スクリュー式真空ポンプ100」は「少なくとも1つの真空ポンプ」に,「圧力センサ-」は「圧力センサ」に,それぞれ相当する。 また,真空ポンプは,通常,真空に排気するためのものであるから,後者の「吸入ポート及び吐出ポートを備えている真空ポンプ」と,前者の「真空チャンバを真空に排気する真空排気システム」とは,「真空に排気する真空排気システム」において共通し,後者の「反応性ガスを流す工程で使用するスクリュウロータ101,102」は,前者の「気体を移送する一対のロータ」に相当し,後者の「排気室内」「の圧力を測定する圧力センサー」は,前者の「真空排気システム中の真空領域に設置された圧力センサ」に相当する。 そして,後者の「スクリュー式真空ポンプ100の軸受104-107に不活性ガスを供給する通気路119-122」は,前者の「少なくとも1つの真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統」に相当し,後者の「圧力センサーにより測定した測定データをもとに,通気路119-122を流れる不活性ガスの流量を制御する制御部」は,前者の「圧力センサにより検出された圧力に基づいて,ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部」に相当する。 そうすると,両者は, 「真空に排気する真空排気システムにおいて, 気体を移送する一対のロータと,前記一対のロータを回転させるモータと,前記一対のロータを同期させるタイミングギヤとを備えた少なくとも1つの真空ポンプと, 前記真空排気システム内の真空領域に設置された圧力センサと, 前記少なくとも1つの真空ポンプに軸シールガスを供給するガス系統と, 前記圧力センサーにより検出された圧力に基づいて,前記ガス系統を流れる軸シールガスの流量を制御する制御部と, を備えた真空排気システム。」 の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。 <相違点> 真空排気システムが,本願発明では,「真空チャンバを真空に排気する」ものであるのに対して,引用発明2では,「真空チャンバ」が明記されておらず,真空ポンプの吸入ポートに「真空チャンバ」が接続されているか否かが特定されてない点。 以下,上記相違点について検討する。 真空ポンプは,真空チャンバを真空に排気するためのものであることは技術常識であり(例えば,上記引用例1の段落【0001】,【0014】を参照のこと。),引用発明2の真空ポンプの吸入ポートに真空チャンバを接続することに格別の困難性はない。 そうすると,本願発明は,引用発明2及び上記技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明2及び上記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-11-24 |
結審通知日 | 2011-11-29 |
審決日 | 2011-12-12 |
出願番号 | 特願2005-167508(P2005-167508) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F04C)
P 1 8・ 575- Z (F04C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 笹木 俊男 |
特許庁審判長 |
大河原 裕 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 神山 茂樹 |
発明の名称 | 真空排気システム |
代理人 | 渡邉 勇 |
代理人 | 小杉 良二 |
代理人 | 廣澤 哲也 |