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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D01F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D01F
管理番号 1251392
審判番号 不服2009-3279  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-12 
確定日 2012-01-30 
事件の表示 特願2006-501302「ポリヒドロキシアルカノエート医療用織物および医療用繊維」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日国際公開、WO2004/101002、平成19年 9月 6日国内公表、特表2007-525601〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年4月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年5月8日(US)アメリカ合衆国、2004年1月2日(US)アメリカ合衆国、2004年2月19日(US)アメリカ合衆国、2004年4月16日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成20年11月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年2月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年3月16日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年3月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーを含み、ここで該繊維は、該繊維は、126MPaより大きい引張り強度を有し、紡糸され、一線に引かれたものである、繊維。」(補正前)
から、
「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーからなり、ここで該繊維は、該繊維は、268MPaより大きい引張り強度を有し、紡糸され、一線に引かれたものであり、該ポリマーの線維は、配向されたものである、繊維。」(補正後)
へと補正された。
ここで、補正前および補正後の請求項1の記載中の「ここで該繊維は、該繊維は、」は「ここで該繊維は、」の誤記であり、補正後の請求項1の記載中の「線維」は「繊維」の誤記であると認める。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ポリマー」について、補正前は「4-ヒドロキシブチレートモノマーを含み」であったものを「4-ヒドロキシブチレートモノマーからなり」と限定し、同じく「引張り強度」について、補正前は「126MPaより大きい」であったものを「268MPaより大きい」と限定し、同じく「繊維」について、「該ポリマーの繊維は、配向されたものである」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.本願補正発明
本願補正発明は、本件補正後の請求項1に記載された事項において、誤記を訂正した次のとおりのものである。
「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーからなり、ここで該繊維は、268MPaより大きい引張り強度を有し、紡糸され、一線に引かれたものであり、該ポリマーの繊維は、配向されたものである、繊維。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-131023号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1) 「【0005】そこで、本発明は、従来のこの様な問題点に鑑みてなされたものであって、生体内での加水分解による機械的強度や材料自体の消滅に数カ月から数年かかる分解性の埋込材料およびそれを用いた医療用具を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
【0007】本発明は、数平均分子量が200,000以下、10,000以上であるポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)を主成分とする生体内埋込材料を提供するものである。」

(2) 「【0009】ポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)が微生物を利用した発酵合成物または化学合成物であるのがよい。そしてポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)がポリ(3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(4-ヒドロキシバリレート)およびこれらの1種以上を含む共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。」

(3) 「【0019】なお、本発明の生体内埋込材料には、ポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)以外に可塑剤、柔軟化材として作用する脂質化合物を混合することができる。」

(4) 「【0021】次に本発明の材料を用いて医療用具を作製する方法について簡単に説明する。
(1)縫合糸の成形法について
本発明の材料は、融点をもつので押出し成形のような熱成形することができる。たとえば小型少量押出成形機(オオバ製作所製)にモノホールのダイをつけたもので、融点プラス5?20℃の成形温度でモノフィラメント状に成形することができる。・・・(中略)・・・各成形法で成形した糸は成形直後は非晶状態(アモルファス状態)なので、ガラス転位温度(Tg)付近から上の温度で糸の軸方向に延伸することにより、そして十分に結晶化が進むまでそのままの延伸状態で保つことにより完全に延伸配向処理が行なわれ、縫合糸として十分強度をもつ糸に仕上がる。これらの糸は、ステアリン酸カルシウムを表面にコートするなどの表面処理を行なうなどの公知の縫合糸に適用されている処理を行なうことができる。さらに縫合針を嵌合等の方法によってとりつけ、針付縫合糸とすることができる。」

上記(1)に、「ポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)を主成分とする生体内埋込材料」が記載されているところ、「主成分とする」とは、上記(3)のとおり、ポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)以外に可塑剤、柔軟化材として作用する脂質化合物を混合することができるという趣旨であって、ポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)以外のものを混合することが必須とされているわけではないから、「ポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)からなる生体内埋込材料」も記載されているといえる。そして、上記(2)に、「ポリ(β-またはγ-ヒドロキシアルカノエート)」の好ましい例として、「ポリ(4-ヒドロキシブチレート)」が記載され、上記(4)に、「本発明の材料」を用いて「糸」を成形する例が記載されていることも勘案すると、引用文献2には、「ポリ(4-ヒドロキシブチレート)からなる糸」が記載されているといえる。

よって、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「ポリ(4-ヒドロキシブチレート)からなる糸であって、該糸は、縫合糸として十分強度を有し、モノフィラメント状に成形し、糸の軸方向に延伸し、完全に延伸配向処理が行なわれたものである、糸。」

3.対比
引用発明2の「糸」は、本願補正発明の「繊維」に相当し、引用発明2の「ポリ(4-ヒドロキシブチレート)からなる糸」は、本願補正発明の「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーからなり」に相当する。
引用発明2の「モノフィラメント状に成形し、糸の軸方向に延伸し、完全に延伸配向処理が行なわれたものである」は、本願補正発明の「紡糸され、一線に引かれたものであり、該ポリマーの繊維は、配向されたものである」に相当する。
よって、本願補正発明と引用発明2との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーからなり、ここで該繊維は、紡糸され、一線に引かれたものであり、該ポリマーの繊維は、配向されたものである、繊維。」

[相違点]
本願補正発明は、繊維の引張り強度が「268MPaより大きい引張り強度を有し」と特定されているのに対し、引用発明2は、「縫合糸として十分強度を有し」とされているものの、糸の引張り強度が、具体的な数値で特定されていない点。

4.判断
本願明細書において、実施例1について記載した段落【0024】に、
「溶融押し出しした繊維の機械的引っ張り特性を、汎用機械式試験器を用いて決定し、結果を表1に示す。明らかなように、その配向性PHA4400繊維の引っ張り強度は、市販の縫合糸繊維について報告された450?560MPa(PDS^(TM)、Chu,C.C.ら、Wound Closure Biomaterials and Devices,CRC Press(1997)に匹敵する。」
と記載され、【表1】には、サンプル「2」の引っ張り強度が268MPaであることが記載されている。
そうすると、本願補正発明が、繊維の引張り強度を「268MPaより大きい引張り強度を有し」と特定した点は、いくつかのサンプルについて実測した引張り強度の一つを選択し、それよりも大きいことを特定したにすぎず、その引張り強度は、「市販の縫合糸繊維について報告された450?560MPa」に匹敵するという程度のものである。
一方、引用発明2は、「縫合糸として十分強度を有し」というものであるから、その具体的な数値が提示されていなくとも、縫合糸として十分と考えられる引張り強度を設定することは、当業者にとって通常の設計事項である。
よって、相違点に係る本願補正発明の構成は、引用発明2において、縫合糸として十分な強度を、当業者が具体的な数値によって適宜に決定した程度の、単なる設計事項である。

なお、請求人は、平成21年3月16日付け手続補正書(方式)において、引用文献2について、「製造が困難であった、268MPaより大きい引張り強度を有するポリ-4-ヒドロキシブチレートポリマーからなる繊維をどのように得るかを何ら教示も示唆もしていません。また、ポリ-4-ヒドロキシブチレートポリマーからなる繊維を配向させることについても何ら記載していません。」と主張するが、本願補正発明は、製造方法の発明ではないし、さらに、引用文献2には、上記「2.(4)」のとおり、延伸配向処理が行われることで縫合糸として十分強度をもつ糸に仕上がることも記載されているから、上記請求人の主張は理由が無い。

そして、本願補正発明の効果も、引用発明2と比べて格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年8月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項において、誤記を訂正した次のとおりのものである。
「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーを含み、ここで該繊維は、126MPaより大きい引張り強度を有し、紡糸され、一線に引かれたものである、繊維。」

第4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-336523号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1) 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、低歪みにおける初期弾性率の低さと高歪みにおける機械的強度の高さとを兼ね備え、かつ生分解性を持ち、生体の軟組織と接触させて使用する医療用器材または人工器官に適した成形品を提供する点にある。」

(2) 「【0045】参考例6
・・・(中略)・・・該菌体Bd6を用いた以外は参考例1と同様にして生分解性3HB・4HBポリエステル共重合体P6を得た。」

(3) 「【0046】実施例1
ポリエステル共重合体P1を、オリフィス径0.5mmのノズルを装着した15mmφ単軸押出機を用いてノズル温度190℃にて溶融紡糸して、単繊維繊度600デニールの未延伸糸を得た。紡糸直後の未延伸糸は透明であったが、30分後には結晶化のため白化した。未延伸糸を室温でデシケーター中に1週間放置して、結晶化を完了した。
【0047】結晶化したポリエステル共重合体未延伸糸f10を、表1に示す温度の雰囲気中でニップロール間にて延伸し、さらに延伸温度と同一温度にて張力をかけた状態で20分間熱固定処理して、延伸熱処理糸を得た。延伸熱処理糸は張力を解放すると延伸直後の長さの60?70%に収縮した。本発明の成形品である延伸熱処理糸F11、F12、F13、F14、F15の延伸条件および引張試験の結果を表1に示す。比較のために、未延伸糸(f10)および延伸せず熱処理のみ施した糸(f11)の物性も表1に示す。なお、引張試験は各糸を室温に戻した後に行った。
【0048】引張試験は、インストロン型引張試験機(TOM-200D、新興通信工業製)を用いて、引張速度200mm/min、室温で行った。」

(4) 「【0049】同様に、ポリエステル共重合体P2、P3、P4、P5、P6を各々紡糸して未延伸糸f20、f30、f40、f50、f60を得、次いで結晶化させ、延伸し、熱固定処理して、延伸熱処理糸F21、F31、F41、F42、F51、F61を得た。延伸熱処理糸F21、F31、F41、F42、F51、F61の延伸条件と引張試験の結果を表1に示す。また比較のため、未延伸糸f20、f30、f50、f60及び延伸せず熱処理のみ施した糸f41の物性も表1に示す。なお、引張試験は各糸を室温に戻した後に行った。」

(5) 【表1】に、資料No「F61」の引張強さ[B]が、145MPaであることが記載されている。

これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「3HB・4HBポリエステル共重合体P6から得られる延伸熱処理糸F61であって、該延伸熱処理糸F61は、引張強さが145MPaであり、ポリエステル共重合体P6を紡糸して未延伸糸f60とし、次いで結晶化させ、延伸し、熱固定処理して得られたものである、延伸熱処理糸F61」

第5 対比・判断
引用発明1の「延伸熱処理糸F61」は、本願発明の「繊維」に相当する。引用発明1において、「4HB」とは、「4-ヒドロキシブチレート」のことである(引用文献1【0003】参照。)から、「3HB・4HBポリエステル共重合体P6」は、「4-ヒドロキシブチレートモノマーを含むポリマー」である。よって、引用発明1の「3HB・4HBポリエステル共重合体P6から得られる延伸熱処理糸F61」は、本願発明の、「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーを含」むものに相当する。
引用発明1の「該延伸熱処理糸F61は、引張強さが145MPaであり」は、本願発明の「該繊維は、126MPaより大きい引張り強度を有し」に相当する。
引用発明1の延伸熱処理糸F61が、「ポリエステル共重合体P6を紡糸して未延伸糸f60とし、次いで結晶化させ、延伸し、熱固定処理して得られたものである」ことは、本願発明の繊維が、「紡糸され、一線に引かれたものである」ことに相当する。
よって、本願発明と引用発明1を対比すると、両者は、
「ポリマーからなる繊維であって、該ポリマーは、4-ヒドロキシブチレートモノマーを含み、ここで該繊維は、126MPaより大きい引張り強度を有し、紡糸され、一線に引かれたものである、繊維。」
の点で一致し、相違点は存在しない。
したがって、本願発明は、引用発明1である。

なお、請求人は、平成23年5月13日付け回答書において、引用文献1につき、「ここで、145MPaのものは、糸(yarn)に関する記載であって、繊維(fiber)に関するものではありません。」と主張する。しかし、引用文献1において、上記「第4(3)」のとおり、「単繊維繊度600デニールの未延伸糸」を延伸、熱固定処理して、延伸熱処理糸を得、該延伸熱処理糸をインストロン型引張試験機を用いて引張試験した結果が表1に示されていることから、引用文献1には、実質的に、繊維の引張り強度が示されているのである。よって、上記請求人の主張は理由が無い。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-05 
結審通知日 2011-09-06 
審決日 2011-09-20 
出願番号 特願2006-501302(P2006-501302)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D01F)
P 1 8・ 113- Z (D01F)
P 1 8・ 121- Z (D01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 豊島 ひろみ
紀本 孝
発明の名称 ポリヒドロキシアルカノエート医療用織物および医療用繊維  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  

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