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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1251430
審判番号 不服2009-2068  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-01-26 
確定日 2012-02-01 
事件の表示 特願2002-553462「髄鞘障害に関するペリアキシンの欠損」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月 4日国際公開、WO02/51981、平成16年 6月10日国内公表、特表2004-516832〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は,2001年(平成13年)12月13日(パリ条約による優先権主張2000年12月13日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成20年10月24日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成21年1月26日付で拒絶査定に対する審判請求がなされれるとともに,同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.本願発明

本願の請求項1?9に係る発明は,平成21年1月26日付で手続補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであり,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ペリアキシンポリヌクレオチドの欠損が3775G>A,1216G>A,4075-4077d,1483G>C,3394A>G,3248C>G,2763A>G,2645C>T,306C>T,1491C>G,2655T>C,2145T>A,または247△Cである組成物。」

3.特許法第29条第2項について

(1)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,DNA Research, 2000 Aug., Vol.7, pp.271-281(以下,「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。

(ア)「未確認遺伝子のコード配列に関する配列情報を蓄積するヒトcDNAプロジェクトの中で,サイズ分割された大人及び胎児のヒト脳cDNAライブラリーの2つのセットから得られた,KIAA1544?KIAA1643と命名された未確認遺伝子100個のcDNAクローンの全体配列をここに示す。」(271頁の要約)

(イ)「表1.特定遺伝子の配列データ情報と染色体位置
遺伝子番号(KIAA) アクセッション番号 … 染色体位置
1620 AB046840 19 」
(275頁の表1)

(ウ)「表2.遺伝子産物の機能分類
表のタイトル 機能 … 遺伝子産物 … 定義
細胞構造/運動性 … KIAA1620 … ペリアキシン・ラット」
(276頁の表2)

(エ)「表3.様々なデータベースで発見された特定遺伝子のホモログ
表のタイトル データベース … 新遺伝子 … コメント
nr-aa … KIAA1620 … L-ペリアキシン・マウスのmRNA」
(278頁の表3)

イ 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に公衆に利用可能な電子的技術情報である,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accessin No. AB046840, 09-SEP-2000 uploaded, Nagase,T., et al., Definition: Homo sapiens mRNA for KIAA1620 protein, partial cds.[retrieved on 2006.11.27](以下,「引用例2」という。)には,引用例1に記載されたKIAA1620タンパク質の推定アミノ酸配列(1398残基),及びそれをコードする塩基配列(4790塩基)が記載されている。
なお,引用例2に記載されたKIAA1620の塩基配列(アクセッション番号:AB046840)の425位?4788位(ただし,3044,3054及び3598位を除く)は,本願出願後に,本発明者らによってGenBankに登録されたヒトL-ペリアキシンの塩基配列(アクセッション番号:AF321191)の295位?3455位及び3651位?4853位(ただし,2914,2924及び3663位を除く)と一致する。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,J. Biol. Chem., 1998, Vol.273, No.10, pp.5794-5800(以下,「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。

(オ)「マウスペリアキシン遺伝子のイントロン-エキソン構造
3つの異なるクローンが,ラットペリアキシンcDNAをハイブリダイゼーションプローブに用いて,マウス129SVゲノミックライブラリーから単離された。この遺伝子の5'末端を含む4番目のクローンが,逆転写PCRによって生成されたマウスcDNAプローブを用いて単離された。これらのクローンは,EcoRIで消化され,pIBI30の中にサブクローン化された。PCR及びサザンブロットにより分析され,配列決定された。それにより,これらのクローンがペリアキシン遺伝子の全体を包含していることが示された。この遺伝子は7つのエキソンに分割され,そのコード領域の広がりは約20.6キロベースであった(図1)。エキソン1-6のサイズ幅は,32(エキソン1)から197(エキソン6)塩基対であり,エキソン7は最も大きく4002塩基対である。イントロンの大きさは,制限地図及びPCRにより評価され,88(イントロン2)から7500(イントロン5)塩基対の範囲である。エキソン及びイントロンの境界が配列決定され,スプライスドナー(GC)とアクセプター(AG)の部位が特定された。これらの情報は表1にまとめられる。」(5796頁右欄15行?5797頁左欄5行)

(カ)「L-ペリアキシン及びS-ペリアキシンの推定アミノ酸配列
4.6キロベースのmRNAによってコードされるタンパク質の推定アミノ酸配列が図5Aに示される。このL-ペリアキシンと名付けられるイソ型は,ラットのペリアキシンと93%同一であり,ラットのタンパク質よりも少し大きな147.500kDaのサイズを有する。5.2キロベースの大きなmRNAに保持されたイントロンの存在は,C末側に独特の21アミノ酸をコードする配列によって先行される終止コドンを導入する。この短縮されたイソ型は,S-ペリアキシンと呼ばれ,16.2kDaのサイズを持つ(図5B)。C末端にある2つの違いを除き,ラットとマウスのS-ペリアキシンは同一である。L-及びS-ペリアキシンのN末(anti-NTerm),L-ペリアキシンに独特の反復領域(anti-170pep1),又はS-ペリアキシンの独特のC末(anti-SPeri)を認識する抗ペプチド抗体により,2つのイソ型の構造的な関係を確認した(図6)。」(5797頁右欄9?23行)

エ 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,Neuron, 2000 May, Vol.26, pp.523-531(以下,「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている。

(キ)「シュワン細胞におけるPrx遺伝子は,L-及びS-ペリアキシンをコードし,2つの豊富なPDZタンパク質は,末梢神経系(PNS)において,ミエリンを安定化させる役割を持つと言われている。機能的なPrx遺伝子を欠失したマウスでは,コンパクトなPNSミエリンは形成されるが,鞘は不安定であり,末梢神経障害により生じる苦痛な状態に関連する脱髄や反射行動を引き起こす。年老いたPrx^(-)動物は,選択的NMDA受容体アンタゴニストのくも膜下投与により逆転できる,広範囲な末梢の脱髄及び機械的な異痛及び温熱性痛覚過敏症を伴う重篤な臨床表現型を示す。ペリアキシンがシュワン細胞軸ユニットを安定化する役割を担い,ペリアキシン欠損マウスは,遅発性の脱髄疾患における神経障害の痛みを研究する重要なモデルになると結論する。」(523頁の要約)

オ 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,Genomics, 1997, Vol.41, pp.297-298(以下,「引用例5」という。)には,以下の事項が記載されている。

(ク)「Prx遺伝子は,哺乳動物の末梢神経系(PNS)においてミエリンを形成するシュワン細胞で特異的に発現しているペリアキシンタンパク質をコードしている。ペリアキシンは,最初,軸索方向の膜(軸索に並置)に濃縮されるが,ミエリン鞘の成熟ペリアキシンは軸索方向でないシュワン細胞膜(基底層に並置)に優先的に配置される。ミエリン形成のらせん化完成の後,シュワン細胞における当該タンパク質の位置がシフトすることは,ペリアキシンが,成熟した鞘を安定化させるのに必要な膜-タンパク質間の相互作用に関与していることを反映するものと考えられる。このタンパク質における欠損は,ある種のヒトの末梢神経障害の基礎をなす可能性がある。なぜなら,ミエリンを形成するシュワン細胞で発現している遺伝子に変異が生じることによって,末梢脱髄の状態を示す,シャルコー-マリー-ツース病1型のいくつかが引き起こされているからである。この新しいCMT病の分子遺伝学の理解によって,PNSの成長に関与する新しい遺伝子を探索することが強化される。」(297頁左欄1行?右欄2行)

(ケ)「PkccのヒトオルソログPRKCGは,19qテロメアに近い,ヒト染色体19q13.4に位置づけられる。D7Nds5は,マウスの染色体7のシンテニーである,ヒト19qの領域の極端な遠位端に位置づけられる。」(298頁の左欄17?21行)

カ 原査定の拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された刊行物である,Am. J. Hum. Genet., 2000 Jul., Vol.67, pp.236-243(以下,「引用例6」という。)には,以下の事項が記載されている。

(コ)「常染色体劣性のシャルコー-マリー-ツース病(CMT)4型は,遺伝的異質性を示す,脱髄性遺伝運動及び感覚神経障害の複合グループである。6個の異なる染色体位置に対応して5個の異なるサブタイプがある。既に知られた位置の連鎖を排除した,常染色体劣性のCMT4に影響を受ける広範な近親交配のレバノン家族を報告する。ゲノムワイドな探索の結果,マーカーD19S220とD19S412の間の8.5cM間隔を超えて,染色体19q13.1-13.3の位置に連鎖が証明された。組換えフラクション[θ].00におけるマーカーD19S420に対する最大ペアワイズLODスコアは5.37であり,θ=.00におけるマーカーD19S881に対するマルチポイントLODスコアは10.3であり,この部位の連鎖が強く支持された。臨床的特徴や組織病理学的な研究の結果,この家族に影響を与えている病気は,”CMT4F”として知られた,以前に知られていない脱髄性の常染色体劣性CMTのサブタイプを構成する。ミエリン関連糖タンパク質(MAG)遺伝子は19q13.1に位置され,CNS及び末梢神経系で特異的に発現しているが,CMTのこの型に関与する遺伝子としては排除された。」(236頁の要約)

(2)本願発明1の認定
本願発明は,シャルコー-マリー-ツース病(以下「CMT病」という。)を含む,髄鞘障害に関連するヒトペリアキシン遺伝子における欠損に関するものであり(要約等),そのうち本願発明1は,ペリアキシンポリヌクレオチドにおける欠損が,3775G>A,1216G>A,4075-4077d,1483G>C,3394A>G,3248C>G,2763A>G,2645C>T,306C>T,1491C>G,2655T>C,2145T>A,または247△Cである組成物に関するものである(段落【0009】)。
このような組成物の中には,例えば,髄鞘障害を持つ患者から得られたヒトペリアキシンをコードするcDNAが含まれているものと認められる(段落【0232】?【0233】及び表2)。
なお,本願明細書の表2によれば,上記欠損はアミノ酸配列に関するものであり,ヒトペリアキシンタンパク質をコードしている塩基配列に生じる変異であると認められる。

(3)対比
引用例1には,ヒト脳cDNAライブラリーからKIAA1620と命名されるcDNAが得られたこと(上記ア),このKIAA1620は,第19染色体に位置し(上記イ),ラット及びマウスのペリアキシンに対応するものであること(上記ウ及びエ)が記載されている。
そこで,本願発明1と引用例1に記載された発明とを対比すると,両者はヒトペリアキシンをコードするcDNAである点で一致するが,以下の点で相違する。

[相違点]本願発明1は,3775G>A,1216G>A,4075-4077d,1483G>C,3394A>G,3248C>G,2763A>G,2645C>T,306C>T,1491C>G,2655T>C,2145T>A,または247△Cという欠損を有するものであるが,引用例1は,このような欠損を有するものではない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
本願優先日当時の技術水準を考慮すると,ある疾患に関与していることが予想される遺伝子が発見された場合,患者と健常者との間で当該遺伝子の塩基配列を比較し,当該疾患と関連性のある変異を見いだすことは,当業者にとって周知の技術的課題である。
そこで検討すると,引用例4には,ペリアキシンがミエリン(髄鞘)を安定化させる役割を持つこと,ペリアキシン遺伝子を欠失したマウスでは,重篤な脱髄性の神経障害が引き起こされることが記載されている(上記キ)。
また,引用例5には,ペリアキシン遺伝子がシュワン細胞で特異的に発現していること,いくつかのCMT病は,シュワン細胞で発現している遺伝子に変異が生じることによって引き起こされるので,ペリアキシンタンパク質における欠損が神経障害の原因になり得ること(上記ク)が記載され,ペリアキシン遺伝子がマウスでは第7染色体に位置するため,ヒトでは第19染色体(19q)に位置するであろうことも記載されている(上記ケ)。
さらに,引用例6には,常染色体劣性のCMT病に影響を受けるレバソン家族に関して連鎖解析を行い,第19染色体の19q13.-13.3の位置に疾患関連遺伝子が存在している可能性が高いことが記載されている(上記コ)。
このような記載に触れた当業者であれば,第19染色体に位置することが示唆されるヒトペリアキシン遺伝子が,CMT病を含む髄鞘障害に関与している可能性が高いと当然に予想するものであり,また,引用例5にあるように,ペリアキシン遺伝子の塩基配列に変異が生じ,そのためタンパク質に欠損が生じている可能性があるとも予想するものである。
したがって,上記周知の技術的課題及び引用例4?6の記載に基づき,髄鞘障害との関連性が示唆されるヒトペリアキシン遺伝子(特にそのコーディング領域)について,患者及び健常者の塩基配列を比較し,髄鞘障害と関連している変異を同定しようとすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

その際,患者及び健常者からヒトペリアキシン遺伝子の塩基配列を取得する必要があるが,引用例1及び2にあるように,ヒトペリアキシンをコードする塩基配列の大部分(90%以上)は,本願優先日前に既に公知であるから,当業者であれば,患者及び健常者からヒトペリアキシン遺伝子の塩基配列を入手するのに必要なプローブ又はプライマーを容易に設計することができる。
さらに,引用例3にあるように,ヒトと同じ哺乳動物であるマウスにおいては,既にゲノムレベルでも当該遺伝子がクローニングされているから,当業者であれば,マウスの遺伝子構造を参考にして,ヒトペリアキシン遺伝子のイントロン-エキソン構造を予測することもできる。
したがって,引用例1?3の記載に基づいて,ヒトペリアキシン遺伝子に特異的なプローブ又はプライマーを設計し,患者及び健常者の細胞からヒトペリアキシンをコードするcDNAを取得することは当業者が容易になし得ることである。さらに,ヒトペリアキシン遺伝子の各エキソンを増幅するプライマーを設計し,患者及び健常者のゲノムから当該遺伝子のコーディング領域の塩基配列を取得することも当業者が容易になし得ることである。
そして,患者及び健常者から得られたこれらの塩基配列を比較し,患者で多く見られ,健常者では少ない,髄鞘障害と関連している可能性のある変異を同定することも当業者であれば容易になし得ることである。本願発明1で特定されている欠損は,このような当業者が容易になし得る同定の結果を特定しているにすぎない。

また,平成21年4月10日付で請求人より提出された審判請求書の手続補正書によれば,本願発明1に記載された欠損のうち,1216G>A,1483G>C,3394A>G,3248C>G,2763A>G,2645C>T,306C>T,2655T>Cについては,正常被験体,すなわち健常者のペリアキシン遺伝子においても見られる変異であり(甲第5号証参照),このような変異が,髄鞘障害患者の検出において有利な効果を奏さないことは明らかである。
そして,本願明細書によると,3775G>A,4075-4077d,1491C>Gについては,コントロール染色体(健常者)において見られる頻度が低いといえるかもしれないが(表2),髄鞘障害患者においてどの程度の頻度で見られる変異なのかが明らかにされていないから,髄鞘障害患者の検出において格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
さらに,残りの2145T>A,247△Cについては,ナンセンス変異を示すものであるが(実施例8),特定の患者PN-44.1,44.3及びPN-761.3において偶然に発見された変異にすぎないものであり,このような変異が髄鞘障害患者においてどの程度の頻度で見られるものなのかは不明であるから,これも髄鞘障害患者の検出において格別顕著な効果を奏するものであるとは認められない。
なお,ナンセンス変異は,ヒトの遺伝病ではよく見られる変異であり(Nucleic Acids Research, 1994, Vol.22, No.8, pp.1327-1334),本願の髄鞘障害においても当業者が当然に予想する変異の1つであり,ヘテロ接合型のナンセンス変異を同定することで,遺伝病の保因者であることが同定される程度のことは当業者が予想できる効果にすぎないものである。

したがって,本願発明1は,引用例1?6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができない。

4.むすび

以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができない。そして,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-07 
結審通知日 2011-09-08 
審決日 2011-09-22 
出願番号 特願2002-553462(P2002-553462)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小暮 道明飯室 里美  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 引地 進
冨永 みどり
発明の名称 髄鞘障害に関するペリアキシンの欠損  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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