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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B23K
管理番号 1251824
審判番号 無効2010-800103  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-06-10 
確定日 2012-01-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3341114号発明「レーザ加工装置及びレーザ加工方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3341114号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成 9年 3月21日 原出願の優先権主張の基礎となる出願(特願平9-68040号)
平成 9年 6月 3日 原出願(特願平9-145013号)
平成12年 3月21日 本件分割出願(特願2000-77481号)
平成14年 8月23日 設定登録(特許第3341114号)
平成15年 4月25日 特許異議の申立て(異議2003-71057 請求項4について)
平成15年11月17日 取消理由通知
平成16年 1月22日 意見書
平成16年 2月 6日 異議決定(請求項4の特許取消)
平成22年 6月10日 無効審判請求(請求項3について)
平成22年 8月30日 答弁書・訂正請求書
平成22年11月25日 弁駁書
平成23年 1月 6日 通知書
平成23年 1月27日 請求人・口頭審理陳述要領書
平成23年 1月28日 被請求人・口頭審理陳述要領書
平成23年 2月10日 口頭審理


第2.訂正請求について
1.訂正請求の内容
平成22年8月30日付け訂正請求書において、被請求人が求めた訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は当審が付与したものである。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「レーザ光を、fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系」とあるのを「ガルバノスキャナとfθレンズを有し、レーザ光を前記fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「複数のガルバノスキャン系のうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つのガルバノスキャン系の間の距離を可変とする駆動機構を備えた」とあるのを「複数のガルバノスキャン系のうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つのガルバノスキャン系の間の距離を可変とする駆動機構を備え、水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラーとを、更に備え、前記第1のミラーと前記第2のミラーは、前記駆動機構により、前記水平移動するガルバノスキャン系と共に前記水平方向に移動する」と訂正する。

2.訂正請求についての当審の判断
(1)訂正の目的の適否について
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、ガルバノスキャン系がガルバノスキャナとfθレンズを有するものであるとして、ガルバノスキャン系の構成を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、ガルバノスキャン系にレーザ光を導くためのミラーが、「水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラー」と「第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラー」とにより構成されており、それらが、「駆動機構により、水平移動するガルバノスキャン系と共に水平方向に移動する」ものとして限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(2)新規事項追加及び訂正の変更拡大について
上記訂正事項1については、本件特許明細書の段落【0018】に「・・・本装置は、第1のガルバノスキャナ14とfθレンズ17とを一体的にして搭載した第1のスキャン系31と、第2のガルバノスキャナ16とfθレンズ18とを一体的にして搭載した第2のスキャン系32とを有している。・・・第1のスキャン系31はZ軸及びL軸方向に移動可能であり、第2のスキャン系32はZ軸方向にのみ移動可能である。」と記載されており、上記訂正事項2については、段落【0020】の「分岐レーザ光を受けるためのミラー37、38を互いに反対向きにし、反対方向から分岐レーザ光を受けるようにしている。ミラー38の反射光は、ミラー39を通して第2のガルバノスキャナ16に導入され、第1のガルバノスキャナ14においても同様に、図示しないミラーを通してミラー37からのレーザ光が導入される。」という記載、及び図3の(a)?(c)の記載から、本件特許明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)訂正についてのまとめ
したがって、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。


第3.本件発明
訂正の認容により、本件特許の請求項3に係る発明(以下、「本件発明3」という。)は、訂正された特許明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、下記のとおりのものである。

【請求項3】 ガルバノスキャナとfθレンズを有し、レーザ光を前記fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系を複数備え、該複数のガルバノスキャン系により前記ワークの加工領域を同時加工するレーザ加工装置において、前記複数のガルバノスキャン系のうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つのガルバノスキャン系の間の距離を可変とする駆動機構を備え、水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラーとを、更に備え、前記第1のミラーと前記第2のミラーは、前記駆動機構により、前記水平移動するガルバノスキャン系と共に前記水平方向に移動することを特徴とするレーザ加工装置。


第4.請求人の主張
1.主張の概要
請求人は、本件発明3を無効にするとの審決を求め、証拠方法として、以下の甲第1ないし4号証を提示し、その理由として、以下の無効理由を主張している。

無効理由:本件発明3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

甲第 1号証:特開平8-215875号公報
甲第 2号証:特開平7-32183号公報
甲第 3号証:本件特許(特許第3341114号)登録原簿
甲第 4号証:本件特許(特許第3341114号)掲載公報

なお、平成23年1月27日付け口頭審理陳述要領書と同時に提出された甲第5ないし8号証は、ミラーの移動に関する周知技術であるため、平成23年2月10日の口頭審理において、請求人同意のもと、証拠から参考資料に変更された。

2.具体的な主張
甲第1号証のレーザ加工装置に、甲第2号証に開示された複数のレーザ照射光学系として複数のガルバノスキャン系レーザ照射光学系を使用するという技術を適用することに格別困難性はない。
そして、訂正により追加された第1のミラー及び第2のミラーに係る構成は、レーザ光を光学系に適正に入射させるという具体的適用に伴って当然考慮しなければならない設計的事項である。
したがって、本件発明3は、甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。


第5.被請求人の主張
1.主張の概要
これに対し、被請求人は、請求人の提出した証拠方法によっては本件特許を無効にすることができないと主張し、その理由として概ね次のように主張している。

(1)甲第1号証には、ガルバノスキャナとfθレンズを有するガルバノスキャン系に関する記載はない。(答弁書第3ページ第1?16行)
(2)甲第2号証のCO_(2)レーザ加工装置はミラー4、ガルバノミラー5、6及びfθレンズ7を一体的に保持している保持具8を水平方向には移動可能ではない。当該装置は、仮に当該保持具8を水平方向に移動させるとミラー4がその上方にあるミラー3からのレーザ光線を受光することができなくなる構成である。(答弁書第4ページ第1?9行)
(3)甲第1号証のレーザ加工装置と甲第2号証のCO_(2)レーザ加工装置を組み合わせる動機付けはないが、仮に、甲第1号証のレーザ加工装置と甲第2号証のCO_(2)レーザ加工装置を組み合わせたとしても、
・「水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラー」と「第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラー」を備えていること(答弁書第2ページの分説における構成要件(c))、
・「第1のミラーと第2のミラーは、駆動機構により、水平移動するガルバノスキャン系と共に水平方向に移動する」こと(答弁書第2ページの分説における構成要件(d))、
という、具体的な構成が得られない。(答弁書第4ページ第21?29行)
(4)ガルバノスキャナとfθレンズを有するガルバノスキャン系を水平方向に移動させるという構成は,本件特許の出願時点においてレーザ加工装置の業界には無かったものである。(平成23年1月28日付け口頭審理陳述要領書第5ページ第23?25行)
(5)第1のミラーと第2のミラーとをガルバノスキャン系とともに移動するようにすることはレーザ光を光学系に適切に導入する必要性を踏まえると設計的事項であるとする請求人の主張は後知恵である。(平成23年1月28日付け口頭審理陳述要領書第5ページ第32行?第6ページ第4行)
(6)第1のミラーと第2のミラーとをガルバノスキャン系とともに移動するようにすることは、レーザ光の照射位置精度を確保する上で有効である。(平成23年1月28日付け口頭審理陳述要領書第6ページ第5?7行)


第6.当審の判断
1.本件発明(訂正後の特許発明)
本件発明3は、上記「第3.本件発明」のとおりである。

2.甲第1及び2号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
ア.【0003】、【0004】
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来のレーザ加工装置にあっては、被加工物の加工のため、レーザ光を照射するレーザ照射系は1つしかなく、処理能力に限界があった。
【0004】本発明は、かかる事情の下になされたもので、その目的は処理能力の向上を図ることができるレーザ加工装置を提供することにある。」
イ.【0010】
「【0010】
対物レンズの少なくとも一つが装置に固定され、残りの対物レンズは移動可能とされ、レンズ位置検出手段とレンズ間隔設定手段とを更に設けた場合には、レンズ間隔設定手段では、レンズ位置検出手段の出力に基づいて移動可能な各対物レンズを独立に駆動して固定された対物レンズと移動可能な各対物レンズとの間隔を任意に設定する。・・・。」
ウ.【0014】、【0015】
「【0014】図1には、第1実施例に係るレーザ加工装置10の概略構成が示されている。このレーザ加工装置10は、図1の紙面に直交する基準平面内を2次元方向に移動するステージとしてのXYステージ12と、このXYステージ12上に載置された被加工物14に対し加工用のレーザ光を照射する第1、第2の照射光学系(これについては後述する)と、被加工部位の観察用光学系(これについては後述する)と、・・・を、備えている。
【0015】第1の照射光学系は、レーザ光源20から射出されたレーザ光L1 を分割する光分割手段としてのハーフミラー(ビームスプリッタ)23と、このハーフミラー23で2分割された一方のレーザ光(透過光)L1'の光量調整部22Aとレーザ光L1'をXYステージ12に向けて反射するダイクロイックミラー24と、このダイクロイックミラー24で反射されたレーザ光L1'の進行方向先に前記基準平面に直交する状態でその光軸が配置された第1対物レンズ26Aと、を含んで構成されている。ここで、第1対物レンズ26Aは装置本体に固定されている。」
エ.【0019】、【0020】
「【0019】第2の照射光学系は、前記ハーフミラー23と、このハーフミラー23で2分割された他方のレーザ光(反射光)L1"の光量調整部22Bと、レーザ光L1"を順次XYステージ12に向けて反射する2つのミラー27、28と、ミラー28で反射されたレーザ光L1"の進行方向先に基準平面に直交する状態でその光軸が配置された第2の対物レンズ26Bと、を含んで構成されている。・・・。
【0020】ミラー28と第2対物レンズ26Bとは保持部材(図示省略)によって一体的に保持されており、これらによって図1の矢印A方向(XYステージ12の移動方向であるX軸方向と同じ)に移動可能な駆動部30が構成されている。この駆動部30には、図1では図示を省略したが、実際には、図2に示されるようなレンズ位置検出手段32が併設されている。・・・。」
オ.【0028】
「【0028】まず、コントローラ18では、予め内部メモリ内に記憶された設定間隔情報(加工位置データの一部である)に従って前述したレンズ位置検出手段32を介して駆動部30の移動位置をモニタしつつ、図示しない駆動機構を介して駆動部30を設定位置まで駆動し、第1対物レンズ26Aと第2対物レンズ26Bの光軸間の間隔を被加工物14上の加工部位のピッチに合わせて設定する。即ち、本実施例では、図示しない駆動機構とコントローラによりレンズ間隔設定手段が実現されている。」(下線は当審が付与したものである。)
カ.【0046】、【0047】
「【0046】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、被加工物にレーザ光を複数の対物レンズから同時に照射することにより複数箇所を同時に加工することが可能となり、これによって加工時間を短縮することができ、複数の対物レンズからのレーザ光の照射タイミングを異ならせた場合には、個々の加工箇所で加工長を変えたり、加工方向で加工箇所毎にピッチの異なる被加工物であっても同時加工が可能となるという従来にない優れた効果がある。
【0047】特に、請求項2記載の発明にあっては、被加工物の非加工方向のピッチに合せた対物レンズ同士の間隔の設定が可能となり、個々の加工箇所で加工長を変えたり、加工方向は勿論、非加工方向で加工箇所のピッチの異なる被加工物であっても加工することが可能となり、加工パターンに応じた加工を高速で行うことができるという効果もある。」
キ.図3
2つの照射光学系のうち一方の照射光学系が水平方向に移動可能なレーザ加工装置が看取できる。

ここで、摘記事項オから、図示はされていないものの、レーザ加工装置には水平方向に対物レンズを移動させるための「駆動機構」が設けられていることは明らかである。
これらの記載から、甲第1号証に記載されたレーザ加工装置の具体的な構成は、本件発明3に沿って整理すると以下のとおりのものであると認める。

「対物レンズを複数備え、該複数の対物レンズにより被加工物の加工部位を同時加工するレーザ加工装置において、前記複数の対物レンズのうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つの対物レンズの間の距離を可変とする駆動機構を備え、水平移動する対物レンズに垂直方向からレーザ光を入射させるためのミラー28を備え、ミラー28は、前記駆動機構により、前記水平移動する対物レンズと共に前記水平方向に移動するレーザ加工装置。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証に記載された発明
一方、甲第2号証には以下の事項が記載されている。
ア.【特許請求の範囲】の請求項1ないし3
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 CO_(2)レーザ発振器と前記CO_(2)レーザ発振器から出射したレーザ光線を反射し、走査させるための1対の回転動作するミラーと、前記1対の回転動作するミラーにより反射されたレーザ光線を所定の平面上に集束させる光学部品を備えたことを特徴とするCO_(2)レーザ加工装置。
【請求項2】 一軸以上の可動位置決めステージを備えた請求項1記載のCO_(2)レーザ加工装置。
【請求項3】 1台のCO_(2)レーザ発振器から出射したレーザ光線を複数に分岐し、各分岐毎にレーザ光線を反射し、走査させるための1対の回転動作するミラーと、前記1対の回転動作するミラーにより反射、走査されるレーザ光線を所定の平面上に集束させる光学部品を備えたことを特徴とするCO_(2)レーザ加工装置。」
イ.【0003】
「【0003】
図7に従来のCO_(2)レーザ加工装置の構成の一例を示す。28はCO_(2)レーザ発振器であり、29は発振器から出射したレーザ光線であり、30はレーザ光線を反射し方向を変えるためのミラーであり、31はレーザ光線を集束させるためのレンズであり、32は被加工物であり、33は被加工物32を移動してレーザ光線を照射する位置を変えるための可動ステージであり、34はCO_(2)レーザ発振器28及び可動ステージ33の制御機器である。」
ウ.【0006】、【0007】
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来のCO_(2)レーザ加工装置は、精密な加工を行う場合の加工速度が可動ステージ33の移動速度により制限される。可動ステージ33の移動速度は、ステージの慣性量、モータアクチュエータの出力、位置決め制御応答性を改善することにより高速化されるが、現状技術での高速化の上限が前述の穴加工における1回の移動・停止当たり0.1秒程度であり、レーザ光線の照射時間を無視しても、毎秒10穴以上は加工速度を進めることができない。
【0007】
そこで、本発明は高速かつ高精度な穴加工を可能にするCO_(2)レーザ装置を提供することを目的とする。」
エ.【0012】
「【0012】図1は本発明の第1の実施例におけるCO_(2)レーザ加工装置の構成を示す図である。本実施例は、樹脂を主な素材とする薄板への穴加工を目的とした装置である。図1において1はCO_(2)レーザ発振器であり、2はレーザ発振器1から出射したレーザ光線であり、3、4はレーザ光線を反射させて向きを変えるためのミラーであり、5、6はレーザ光線を偏向・走査するための一対のガルバノメーターミラースキャナー(以下ガルバノミラーと略称する)であり、7はバルバノミラー5、6により偏向・走査されたレーザ光線が常に同一平面上に集束するように光学的に設計されたfθレンズであり、8はミラー4、ガルバノミラー5、6、及びfθレンズ7を一体で保持する保持具であり、保持具8全体が上下動してレーザ光線のアライメントを損なう事無くfθレンズ7と被加工物との間隔を調整する時に生じる飛散物からfθレンズ面を保護するためのエアーカーテンを作り出すエアーノズルであり、11は加工時に生じる飛散物を吹き飛ばすためのノズルであり、12は薄板の保持具であり、薄板の加工物の下部が中空になるように加工が施されている。・・・。」(下線は当審が付与したものである。)
オ.【0014】?【0017】
「【0014】図3に、本発明の第2の実施例におけるCO_(2)レーザ加工装置を示す。第1の実施例である薄板を搭載するX、Y2軸の可動ステージ17を組み合わせた構成になっている。第1の実施例では、穴加工可能な薄板の寸法はfθレンズ7の設計により決まるレーザ光線走査領域に限定される。レーザ光線走査領域より大きな寸法の薄板を加工する必要がある場合は、図4に模式的に示すように、所定の走査領域18を加工した後、X・Y軸ステージを動かして隣接する未加工領域19にレーザ光線走査領域を移動させ、加工を行う。この動作の繰り返しにより、X・Y軸ステージの可動範囲までの寸法の薄板を加工することができる。本実施例におけるレーザ光線走査領域は50mm×50mmの矩形であり、例えば100mm×100mmの薄板を加工する場合には、4つの領域に別けて加工することになる。また、加工データは予め制御ユニット内で4つの領域に対応するように分割され、加工の進展と共に順次読み出される。
【0015】図5に本発明の第3の実施例におけるCO_(2)レーザ加工装置を示す。第3の実施例は、1台のCO_(2)レーザ発振器から出射されたレーザ光線をビームスプリッター20により分岐し、各分岐毎にガルバノミラー21、22、23、24及びfθレンズ25、26を備え、同時に2枚の薄板の加工が可能な構成にしたものである。なお、分岐数は2分野に限定されることは無く、CO_(2)レーザ発振器の出力に余裕があれば4分岐、8分岐等も可能である。
【0016】図6に本発明の第4の実施例におけるCO_(2)レーザ加工装置を示す。本実施例は、第3の実施例において2枚の薄板を搭載することができるX・Y2軸ステージ27を備えた構成になっている。2軸ステージの移動により、レーザ光線の走査領域より大きな薄板寸法を加工することを搭載するものを2分岐のそれぞれに備える構成を取っても構わない。・・・。また、X・Y2軸ステージと組み合わせることで、より広い加工領域が得られ、さらにレーザ光線を多分岐することにより同時に2枚以上の薄板の加工が可能になる。
【0017】
【発明の効果】
以上のように本発明のCO_(2)レーザ加工装置は、CO_(2)レーザ発振器とCO_(2)レーザ発振器から出射したレーザ光線を反射し、走査させるための1対の回転動作するミラーと前記1対の回転動作するミラーにより反射されたレーザ光線を所定の平面上に集束させる作用を有するフラットフィールド光学部品を備えた構成により、従来の可動ステージで被加工物の位置決めを行うCO_(2)レーザ加工装置と比較して、特に穴加工において約10倍の速度で精密な加工ができるという利点を備える。」
カ.図3
ガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させるミラー4と、該ミラー4に垂直方向からレーザ光を入射させるためのミラー3が看取できる。
キ.図6
2つのガルバノスキャン系を有するレーザ加工装置が看取できる。

これらを踏まえると、甲第2号証に記載されたCO_(2)レーザ加工装置の具体的な構成は、本件発明3に沿って整理すると以下のとおりのものであると認める。

「ガルバノメーターミラースキャナとfθレンズを有し、レーザ光線を、前記fθレンズを通して被加工物面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系を複数備え、該複数のガルバノスキャン系により前記被加工物の加工領域を同時加工するCO_(2)レーザ加工装置において、ガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光線を入射させるミラー4と、該ミラー4に垂直方向からレーザ光線を入射させるためのミラー3とを備えるCO_(2)レーザ加工装置。」(以下、「甲2発明」という。)

3.対比・判断
本件発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「被加工物」は、本件発明3の「ワーク」に相当する。
また、甲1発明における「対物レンズ」と、本件発明3の「ガルバノスキャン系」とは、「集光光学系」という限りにおいて共通している。
そして、甲1発明における「加工部位」と、本件発明3の「加工領域」とは、「加工面」という限りにおいて共通している。
さらに、甲1発明における「ミラー28」は、対物レンズにレーザ光を導入するために水平方向から入射するレーザ光の向きを垂直方向へ変える役割を有しており、駆動機構により水平移動するから、本件発明3の「第2のミラー」に相当する。
そうすると、甲1発明における「水平移動する対物レンズに垂直方向からレーザ光を入射させるためのミラー28を備え、ミラー28は、前記駆動機構により、前記水平移動する対物レンズと共に前記水平方向に移動する」点と、本件発明3の「水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラーとを、更に備え、前記第1のミラーと前記第2のミラーは、前記駆動機構により、前記水平移動するガルバノスキャン系と共に前記水平方向に移動する」点とは、「水平移動する集光光学系にレーザ光を導入するための第2のミラーを備え、該第2のミラーは、前記駆動装置により、前記水平移動する集光光学系と共に前記水平方向に移動する」という限りにおいて共通している。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

〈一致点〉
「集光光学系を複数備え、該複数の集光光学系によりワークの加工面を同時加工するレーザ加工装置において、複数の集光光学系のうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つの集光光学系の間の距離を可変とする駆動機構を備え、水平移動する集光光学系にレーザ光を導入するための第2のミラーを備え、該第2のミラーは、前記駆動装置により、前記水平移動する集光光学系と共に前記水平方向に移動するレーザ加工装置。」 〈相違点1〉
本件発明3においては、「ガルバノスキャナとfθレンズを有し、レーザ光を前記fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系」を用いて「ワークの加工領域を同時加工」するのに対して、甲1発明においては、対物レンズを用いた光学系により「被加工物の加工部位を同時加工」する点。
〈相違点2〉
本件発明3においては、「水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラー」とを備えており、「第1のミラーと第2のミラーは、駆動機構により、水平移動するガルバノスキャン系と共に水平方向に移動する」のに対して、甲1発明においては、「水平移動する対物レンズに垂直方向からレーザ光を入射させるためのミラー28とを備え、ミラー28は、駆動機構により、水平移動する対物レンズと共に水平方向に移動する」点。

まず、上記相違点1について検討する。
甲2発明の「ガルバノメーターミラースキャナ」、「レーザ光線」、「被加工物」、及び「CO_(2)レーザ加工」は、本件発明3の「ガルバノスキャナ」、「レーザ光」、「ワーク」、及び「レーザ加工」にそれぞれ相当する。
これらを踏まえ、甲2発明を本件発明3に倣って整理すると、甲2発明は、「ガルバノスキャナとfθレンズを有し、レーザ光を、前記fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系を複数備え、該複数のガルバノスキャン系により前記ワークの加工領域を同時加工するレーザ加工装置。」である。
そして、甲1発明と甲2発明とは、ともにレーザ加工の処理能力向上を課題とした複数の集光光学系を有するレーザ加工装置という点で共通している。
したがって、集光光学系として、甲1発明の「被加工物の加工部位を同時加工」する対物レンズに代えて、甲2発明の「ワークの加工領域を同時加工」するガルバノスキャン系を適用して、本件発明3の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

次に、上記相違点2について検討する。
甲2発明の「ミラー4」は、ガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光線を入射させる役割があるから本件発明3の「第1のミラー」に相当し、甲2発明の「ミラー3」は、「ミラー4」に垂直方向からレーザ光線を入射させる役割があるから本件発明3の「第2のミラー」に相当する。
そうすると、甲2発明は、本件発明3に倣って整理すると、「ガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラー」という構成を備えている。
ここで、甲第2号証の摘記事項エから、ガルバノスキャン系と第1のミラー(ミラー4)は保持具8により一体で保持されたものである。
そして、甲1発明と甲2発明とは、ともにレーザ加工の処理能力向上を課題とした複数の集光光学系を有するレーザ加工装置という点で共通している。
したがって、上記技術課題を解決するために、甲1発明において、駆動機構により水平移動する「対物レンズ」に代えて、甲2発明の保持具8により一体で保持された「ガルバノスキャン系と当該ガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射する第1のミラー(ミラー4)」を採用して、ガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射する第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向から光を入射する第2のミラーとが、「駆動機構により、水平移動するガルバノスキャン系と共に水平方向に移動する」ようにし、本件発明3の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

なお、被請求人は、平成23年1月28日付け口頭審理陳述要領書において、「『第1のミラーと第2のミラーとをガルバノスキャン系とともに移動するようにする』ことは、『レーザ光の照射位置精度』を確保する上で有効です。すなわち、甲第1号証、甲第2号証には、これらを組み合わせた上に、更に『第1のミラーと第2のミラーとをガルバノスキャン系とともに移動するようにする』に対する動機付けがなく、それによる格別な効果も予測し得ません。」(第6ページ第5?10行)と主張している。
しかしながら、上述した如く、甲1発明と甲2発明とは、同一技術分野であり、かつ同一課題を有するものであるから、2つの発明を組み合わせる上で十分な動機付けが存在すると認められ、甲1発明の対物レンズに代えて、保持具8により一体的に保持された甲2発明のガルバノスキャン系及び第1のミラー(ミラー4)を適用すれば、必然的に『レーザ光の照射位置精度』も確保されるから、被請求人の主張は採用できない。
そして、本件発明3の奏する作用効果についても、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証記載の発明より当業者が予測できる程度のものであって、格別のものではない。
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものである。


第7.補足的な検討
上記第6.においては、請求人の主張と同様に、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された技術を適用して、本件発明3の進歩性の有無を検討したが、ここでは補足的に甲第2号証に記載された発明に、甲第1号証に記載された技術を適用して、本件発明3の進歩性を検討する。

1.本件発明(訂正後の特許発明)
本件発明3は、上記「第3.本件発明」のとおりである。

2.甲第1及び2号証に記載の事項
(1)甲第1号証に記載された発明
上記「第6.当審の判断」の2.(1)のとおりである。
(2)甲第2号証に記載された発明
上記「第6.当審の判断」の2.(2)のとおりである。

3.対比・判断
甲2発明の「ガルバノメーターミラースキャナ」、「レーザ光線」、「被加工物」、「CO_(2)レーザ加工」、「ミラー4」及び「ミラー3」は、本件発明3の「ガルバノスキャナ」、「レーザ光」、「ワーク」、「レーザ加工」、「第1のミラー」及び「第2のミラー」にそれぞれ相当する。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

〈一致点〉
「ガルバノスキャナとfθレンズを有し、レーザ光を前記fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系を複数備え、該複数のガルバノスキャン系により前記ワークの加工領域を同時加工するレーザ加工装置において、ガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光線を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光線を入射させるための第2のミラーとを備えるレーザ加工装置。」
〈相違点3〉
本件発明3においては、「複数のガルバノスキャン系のうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つのガルバノスキャン系の間の距離を可変とする駆動機構を備え」るとともに、「第1のミラーと第2のミラーは、駆動機構により、水平移動するガルバノスキャン系と共に水平方向に移動する」ようにしたのに対して、甲2発明においては、ガルバノスキャン系、ミラー4及びミラー3を一体的に水平移動させる駆動機構がない点。

相違点3について検討する。
甲1発明は、複数のワークを同時に加工するために、複数の照射光学系のうちの少なくとも一つを水平移動させることにより、少なくとも2つの照射光学系の間の距離を可変とする駆動機構を有している。
そして、レーザ加工分野においては、ワークの異なる箇所を加工するために、光学系自体を水平移動可能とするよう構成することは一般的な技術課題である。
そうすると、甲2発明のガルバノスキャン系、ミラー4及びミラー3を一体的に水平移動させるために、甲1発明の照射光学系を水平移動させる駆動機構を適用して、本件発明3の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

以上のとおりであるから、主とする証拠を入れ替え、甲第2号証に記載された発明に、甲第1号証に記載された技術を適用した場合においても、本件発明3は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものであり、第6.における結論と変わりはない。


第8.むすび
以上のとおり、本件発明3は、当業者が甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明3についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
レーザ加工装置及びレーザ加工方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】レーザ光を、fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせ、照射するためのガルバノスキャン系を複数備え、前記複数のガルバノスキャン系のうち互いに隣接する2つのガルバノスキャン系を左右対称の関係で配置し、前記2つのガルバノスキャン系による走査順序が、互いに逆になるように前記2つのガルバノスキャン系を制御する制御装置を備え、前記ワークの加工領域を同時加工することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】レーザ光を、fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせ、照射するためのガルバノスキャン系を複数使用して前記ワークの加工領域を加工するに際し、前記複数のガルバノスキャン系のうち互いに隣接する2つのガルバノスキャン系を左右対称の関係で配置し、前記2つのガルバノスキャン系による走査順序を互いに逆にすることにより、前記ワークの加工領域を同時加工することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項3】ガルバノスキャナとfθレンズを有し、レーザ光を前記fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系を複数備え、該複数のガルバノスキャン系により前記ワークの加工領域を同時加工するレーザ加工装置において、前記複数のガルバノスキャン系のうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つのガルバノスキャン系の間の距離を可変とする駆動機構を備え、水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラーとを、更に備え、前記第1のミラーと前記第2のミラーは、前記駆動機構により、前記水平移動するガルバノスキャン系と共に前記水平方向に移動することを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はレーザ加工装置に関し、特に穴あけ加工を主目的とし、その加工速度を向上させることができるように改良されたレーザ加工装置及び加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子装置、例えば携帯電話機、ディジタルビデオカメラ、パーソナルコンピュータのような装置には、高密度多層配線基板が用いられている。このような高密度多層配線基板の製造に際しては、内層と外層の基板との間で信号線の導通をとるためにビアホールと呼ばれる導通用の穴を各層の基板毎に設ける必要がある。特に、配線の高密度化を達成するためには、ビアホールの穴の径を極力小さくすることが要求される。
【0003】
また、上記の高密度多層配線基板の製造に際しては、1枚のワーク(母板)から所定サイズの高密度多層配線基板用の複数の基板を、いわゆる多面取りするために、前記所定サイズの加工領域をマトリクス状に設定したワークが用いられる。そして、前記所定サイズの加工領域毎にあらかじめ定められた複数位置に穴あけ加工を行うようにされる。
【0004】
このような微小径の穴あけ加工を行う装置として、最近、レーザ加工装置が多く用いられている。そして、このような穴あけ加工を主目的としたレーザ加工装置は、ワークを搭載するステージをX軸方向、Y軸方向に水平移動可能な、いわゆるX-Yステージを備えたものが一般的である。このレーザ加工装置は、X-Yステージによりワークを移動させることでパルス状のレーザビームによる加工位置を変える。このため、X-Yステージによるポジショニングに時間がかかり、加工速度に制限がある。便宜上、このレーザ加工装置を第1の方式と呼ぶ。
【0005】
これに対し、図8に示すように、ガルバノスキャナを用いてレーザビームをX軸方向、Y軸方向に振らせることで加工速度の向上を図ったレーザ加工装置が提供されている。簡単に説明すると、レーザ発振器41から出力されたレーザビームを、エキスパンダ43、ミラー44を経由させてマスク45に導く。マスク45を通過したパルス状のレーザ光はミラー47により下方に反射される。ミラー47で反射されたレーザ光は、第1のガルバノミラー48、第2のガルバノミラー49によりX方向、Y方向に振られる。この種のガルバノミラーは200?400(Hz)の駆動周波数で応答可能であり、レーザ光はfθレンズ50を通してワーク51上に設定された加工領域52を照射するように振られる。
【0006】
なお、ワーク51はX-Yステージ53上に載置されているが、ここではX-Yステージ53の駆動系についての図示、説明は省略する。また、ミラー47の上方には、レンズ54、CCDカメラ55によりワーク51の位置決めを行うアライメント系が設けられているが、これも説明は省略する。便宜上、このレーザ加工装置を第2の方式と呼ぶ。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この第2の方式では、ワーク51上の加工領域52に対してレーザ光を振らせることで加工を行った後、X-Yステージ53により次の加工領域が直下にくるようにワーク51を移動させる。このような第2の方式によれば、第1、第2のガルバノミラー48,49とX-Yステージ53との組み合わせにより、第1の方式に比べて加工速度の向上を図ることができる。
【0008】
ところで、ワークの大きさは一辺が300?600(mm)程度の四角形であり、このようなワークに、多面取りのために通常、10個以上の加工領域がマトリクス状にあらかじめ設定される。一方、ガルバノミラーによる走査可能な領域は、通常、一辺が50(mm)程度の四角形の範囲であり、1つのワークのすべての加工領域を加工するには上記の第2の方式でも相応の時間を必要とする。
【0009】
そこで、本発明は上記の第2の方式の利点を生かして加工速度を更に向上させることのできるレーザ加工装置及び加工方法を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、レーザ光を、fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせ、照射するためのガルバノスキャン系を複数備え、前記複数のガルバノスキャン系のうち互いに隣接する2つのガルバノスキャン系を左右対称の関係で配置し、前記2つのガルバノスキャン系による走査順序が、互いに逆になるように前記2つのガルバノスキャン系を制御する制御装置を備え、前記ワークの加工領域を同時加工することを特徴とするレーザ加工装置が提供される。
【0011】
本発明によればまた、レーザ光を、fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせ、照射するためのガルバノスキャン系を複数使用して前記ワークの加工領域を加工するに際し、前記複数のガルバノスキャン系のうち互いに隣接する2つのガルバノスキャン系を左右対称の関係で配置し、前記2つのガルバノスキャン系による走査順序を互いに逆にすることにより、前記ワークの加工領域を同時加工することを特徴とするレーザ加工方法が提供される。
【0012】
本発明によれば更に、ガルバノスキャナとfθレンズを有し、レーザ光を前記fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系を複数備え、該複数のガルバノスキャン系により前記ワークの加工領域を同時加工するレーザ加工装置において、前記複数のガルバノスキャン系のうちの少なくとも1つを水平移動させることにより、少なくとも2つのガルバノスキャン系の間の距離を可変とする駆動機構を備え、水平移動するガルバノスキャン系に水平方向からレーザ光を入射させる第1のミラーと、該第1のミラーに垂直方向からレーザ光を入射させるための第2のミラーとを、更に備え、前記第1のミラーと前記第2のミラーは、前記駆動機構により、前記水平移動するガルバノスキャン系と共に前記水平方向に移動することを特徴とするレーザ加工装置、及びレーザ光を、fθレンズを通してワーク面上におけるX軸方向及びY軸方向に振らせるためのガルバノスキャン系を複数備え、該複数のガルバノスキャン系により前記ワークの加工領域を同時加工するレーザ加工装置において、前記複数のガルバノスキャン系を個別に、前記ワークに対して垂直方向に駆動する駆動機構を備えたことを特徴とするレーザ加工装置が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1を参照して、本発明によるレーザ加工装置の基本構成について説明する。図1において、レーザ発振器10からのパルス状のレーザ光をミラー11、12を経由し、所定のビームサイズを得るためのマスク(図示せず)を通してビームスプリッタ13により2分岐する。レーザ光の分岐手段としては、ビームスプリッタの他に、例えばプリズム、ハーフミラー等の光学素子を用いることができる。分岐した一方のレーザ光は第1のガルバノスキャナ14に導入し、他方のレーザ光はミラー15により第2のガルバノスキャナ16に導入する。ガルバノスキャナの構造は、周知のように、レーザ光をX軸方向に振らせるための第1のガルバノミラーとこの第1のガルバノミラーからのレーザ光を更にY軸方向に振らせるための第2のガルバノミラーとを備えている。このようにして、第1、第2のガルバノスキャナから出たレーザ光はそれぞれ、fθレンズ17、18を通してワーク20上に照射される。ワーク20は、X軸方向、Y軸方向に水平移動可能なX-Yステージ21に搭載されている。上記の各構成要素は、図示しない制御装置により制御される。この制御装置は、加工に必要な条件を数値データで入力するためのデータ入力部を備えている。
【0014】
なお、レーザ発振器10としては、炭酸ガスレーザ発振器、YAG高調波レーザ発振器、エキシマレーザ発振器等を使用することができ、この種のレーザ発振器によれば数十?数百ワットの出力パワーを得ることができる。これに対し、穴あけ加工に必要なパワーは、一般に十ワット以下であり、レーザ発振器10からのレーザ光を2分岐しても何ら問題は無い。
【0015】
図2は、多面取りのためにワーク20上にあらかじめ設定される加工領域を示し、ここでは4×4=16個の加工領域20-1がマトリクス状に設定される。図示されている加工領域20-1は、最終製品として提供される基板サイズと同じ大きさであり、これは実装される電子装置の大きさにより決まる。いずれにしても、図2のようなワーク20に対して穴あけのレーザ加工を行う場合、半分の領域Aを第1のガルバノスキャナ14とfθレンズ17とで行い、残りの半分の領域Bを第2のガルバノスキャナ16とfθレンズ18とで行う。例えば、第1のガルバノスキャナ14とfθレンズ17とが加工領域20-1aの図中左隅から加工を開始する場合、第2のガルバノスキャナ16とfθレンズ18も加工領域20-1bの図中左隅から加工を開始し、その結果、加工終了時には同じ加工パターンが得られる。そして、X-Yステージ21をX軸及びY軸方向に移動させることにより、見かけ上、ガルバノスキャナとfθレンズとの組み合わせによる同じ加工パターンのレーザ加工が図2中に実線で示す矢印方向の順序で行われる。その際、fθレンズ17、18の中心点間の距離Lが維持される。
【0016】
なお、最終製品の基板サイズによりワーク20の大きさも異なり、ワーク20の一辺のサイズは300?600(mm)である。このサイズにより、fθレンズ17、18の中心点間の距離Lも150<L<300の範囲で変化させる必要がある。このために、第1のガルバノスキャナ14とfθレンズ17との組み合わせ及び第2のガルバノスキャナ16とfθレンズ18との組み合わせの少なくとも一方を他方に対して水平方向に可動とする必要があるが、これについては後述する。
【0017】
また、ワーク20は、X-Yステージ21上のプレート(真空引きにてワークを保持する手段であるが、図示は省略している)に手動、あるいは自動ワーク交換装置にてセットされる。更に、図8でも説明したように、図1に示したビームスプリッタ13、ミラー15の上方に画像処理装置(図示せず)によるアライメント系が搭載され、ワーク20上にあらかじめ付されている基準位置マーク(通常、アライメントマークと呼ばれる)を認識して、ワーク20のセット位置を10(μm)以下の精度で検出し、加工領域20-1を設定する。その際、加工領域20-1の大きさ及び間隔等はあらかじめデータ入力部を通してオペレータにより入力されており、制御装置はこの入力データに基づいて最適な距離Lを決定してこの距離Lの間隔で第1のガルバノスキャナ14とfθレンズ17との組み合わせ及び第2のガルバノスキャナ16とfθレンズ18との組み合わせを配置すると共に、加工領域20-1の設定を行う。
【0018】
次に、図3を参照して本発明の好ましい実施の形態について説明する。図3において、本装置は、第1のガルバノスキャナ14とfθレンズ17とを一体的にして搭載した第1のスキャン系31と、第2のガルバノスキャナ16とfθレンズ18とを一体的にして搭載した第2のスキャン系32とを有している。第1のガルバノスキャナ14は、第1、第2のガルバノミラー14-1、14-2を有し、第2のガルバノスキャナ16は、第1、第2のガルバノミラー16-1、16-2を有する。第1のスキャン系31は、これをZ軸方向(ワーク20に対して垂直方向)に駆動可能な第1のZ軸ステージ33に搭載されている。第1のZ軸ステージ33は、これをワーク20の面に平行なL軸方向に駆動可能なL軸ステージ34に搭載され、L軸ステージ34は基台フレーム35に取り付けられている。一方、第2のスキャン系32は、これをZ軸方向に駆動可能な第2のZ軸ステージ36に搭載され、第2のZ軸ステージ36は基台フレーム35に取り付けられている。このことにより、第1のスキャン系31はZ軸及びL軸方向に移動可能であり、第2のスキャン系32はZ軸方向にのみ移動可能である。
【0019】
本実施の形態が図1の基本構成と異なる点は、第1、第2のガルバノスキャナ14、16の関係が左右対称となるように、第1、第2のスキャン系31、32を配置している点にある。これは、第1、第2のfθレンズ17、18の中心点間の距離Laをできるだけ小さくするためである。逆に言えば、図3(b)において例えば、第2のガルバノスキャナ16における第1、第2のガルバノミラー16-1、16-2が第1のガルバノスキャナ14における第1、第2のガルバノミラー14-1、14-2と同じ向きになっていると、第1、第2のガルバノミラー16-1、16-2の光軸は図3(b)中、右側にずれることになり、その分だけ距離Laを大きくせざるを得ないからである。
【0020】
また、ここでは、分岐レーザ光を受けるためのミラー37、38を互いに反対向きにし、反対方向から分岐レーザ光を受けるようにしている。ミラー38の反射光は、ミラー39を通して第2のガルバノスキャナ16に導入され、第1のガルバノスキャナ14においても同様に、図示しないミラーを通してミラー37からのレーザ光が導入される。
【0021】
このような構造の場合、第1、第2のスキャン系31、32による加工も左右対称のパターンとなる。例えば、第1のスキャン系31が図2の加工領域20-1aの図中左隅から加工を開始する場合、第2のスキャン系32は加工領域20-1bの図中右隅から加工を開始するが、加工終了時には同じ加工パターンが得られる。このような加工は、第2のガルバノスキャナ16による走査順序が第1のガルバノスキャナ14による走査順序と逆になっていれば良く、第2のガルバノスキャナ16に供給する走査駆動用の信号を第1のガルバノスキャナ14に供給する走査駆動用の信号と逆にすれば良い。勿論、これは制御装置により行われる。なお、加工領域の移動順序は、X-Yステージ21の駆動制御により、図2において説明した通りである。
【0022】
また、ワーク20の大きさ及び加工領域のサイズに応じて、ここでは第1のスキャン系31がL軸方向に移動されて第1、第2のfθレンズ17、18の中心点間の距離Laが変更される。なお、第2のスキャン系32もL軸ステージ34と同様なL軸ステージにより、第1のスキャン系31の移動方向と反対方向に移動させるようにしても良い。
【0023】
前述のように、第1、第2のガルバノスキャナ14,16は、制御装置により駆動制御される。X-Yステージ21もまた、制御装置によりある加工領域に対するレーザ加工の終了後に、次の加工領域に移るようにワーク20を移動させるために駆動され、X軸方向、Y軸方向に水平移動する。
【0024】
加工領域20-1に対する加工位置は制御装置から各ガルバノスキャナに与えられる回転角度の指令値によって決まり、規則正しく配列される穴にとどまらず、不規則な配列の穴加工も可能である。
【0025】
本発明装置によれば、図8で説明した第2の方式による加工速度に比べて2倍の速度で加工を行うことができる。
【0026】
なお、図4に示すように、加工領域20-1の総数が2分割できない数のワーク20´の場合には、同数の領域A、Bに分割して、これらの領域を同時に加工し、残りの領域Cについては、一方、例えば第1のスキャン系31のレーザ光の経路にビームシャッタを設けて遮光し、第2のスキャン系32でレーザ加工を行うようにすれば良い。
【0027】
次に、図5?図7を参照して、本発明の参考例について説明する。本例では、レーザ光の分岐手段として光学素子とは別の機械的な分岐手段、いわば光チョッパを備えている。この光チョッパは、図6に示されるように、回転軸61の軸回りを等分割した領域にレーザ光の反射鏡62と透過部63とを交互に配置して成る回転体60と、この回転体60を回転駆動するモータを含む駆動機構64と、レーザ発振器10からのパルス状のレーザ光が交互に反射と透過を繰り返すように駆動機構64を制御する同期制御部65とを含む。回転体60は、ここでは4つの反射鏡62をリング状のフレーム66に、レーザ光の入射方向に対して、例えば45度の角度で取り付けられている。
【0028】
同期制御部65は、レーザ発振器10に対してパルス状のレーザの出力タイミングを規定するトリガパルスを出力すると共に、この出力タイミングに同期して駆動機構64のモータの回転速度を制御して、連続するパルス状のレーザが交互に反射と透過を繰り返すようにする。その結果、図7に示すように、斜線を付したパルス状のレーザは光チョッパを通過してミラー15に至り、斜線を付していないパルス状のレーザは光チョッパにおける反射鏡62により反射されて第1のガルバノスキャナ14に至る。
【0029】
このような光チョッパを使用すると、光学素子による分岐と異なり、パルス状のレーザ1個当たりの加工面でのエネルギー密度が低下しない。言い換えれば、図1の例では、例えば50%透過型のビームスプリッタを用いた場合には、パルス状のレーザ1個当たりの加工面でのエネルギー密度も半分になる。したがって、この形態によれば、パルスエネルギーが低いタイプのレーザ発振器にも適用可能となる。例えば、前述した配線基板へのビアホールの加工の場合には、基板の材質にもよるが、加工面でのレーザのエネルギー密度は20J/cm^(2)以上が好ましい。しかるに、パルスエネルギーが低いタイプのレーザ発振器の場合には、光学素子による分岐ではエネルギー密度の低下により配線基板へのビアホールの加工が困難となるが、本形態による光チョッパを使用することで、所望のエネルギー密度でのビアホール加工が可能となる。
【0030】
以上、本発明を2つの例について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が考えられる。例えば、ガルバノスキャナ及びfθレンズを2組としているが、ガルバノスキャナ及びfθレンズは3組以上でも良い。また、加工の対象もプリント基板だけでなく、他の材料への穴あけ加工にも適用できる。
【0031】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば1つのワークの別の加工領域に対して複数組のガルバノスキャナで同時に同じ加工を行うことができるようにしたことにより、加工速度を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の形態によるレーザ加工装置の基本構成を示した図である。
【図2】本発明装置により加工されるワークの加工領域を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態によるレーザ加工装置を示した図であり、図(a)は平面図、図(b)は正面図、図(c)は側面図である。
【図4】本発明装置により加工されるワークの他の例について加工領域を説明するための図である。
【図5】本発明の参考例によるレーザ加工装置の基本構成を示した図である。
【図6】図5に示された光チョッパにおける回転体の構成を示した図であり、図6(a)は正面図、図6(b)は図6(a)線A-A´による断面図である。
【図7】図5に示された光チョッパによるパルス状のレーザの分岐を説明するための図である。
【図8】従来のガルバノスキャナによるレーザ加工装置の概略構成を示した図である。
【符号の説明】
11、12、15、37、38、39 ミラー
17、18 fθレンズ
14 第1のガルバノスキャナ
16 第2のガルバノスキャナ
20 ワーク
21 X-Yステージ
31 第1のスキャン系
32 第2のスキャン系
33、36 第1、第2のZ軸ステージ
34 L軸ステージ
35 基台フレーム
60 回転体
61 回転軸
62 反射鏡
63 透過部
64 駆動機構
65 同期制御部
66 フレーム
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2011-03-10 
出願番号 特願2000-77481(P2000-77481)
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 八木 誠加藤 昌人  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 豊原 邦雄
遠藤 秀明
登録日 2002-08-23 
登録番号 特許第3341114号(P3341114)
発明の名称 レーザ加工装置及びレーザ加工方法  
代理人 佐々木 敬  
代理人 福田 修一  
代理人 福田 修一  
代理人 佐々木 敬  
代理人 池田 憲保  
代理人 池田 憲保  

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