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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1251911
審判番号 不服2009-12035  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-01 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2003-171568「生分解性プラスチックで被覆された球状リン酸カルシウム及び用途」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月11日出願公開、特開2004- 73849〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年6月17日(優先権主張 平成14年6月18日)の出願であって、平成21年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである、
その後、平成23年7月29日付けで、審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年9月30日付けで回答書が提出された。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年7月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容・目的
平成21年7月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1を次のように補正しようとする補正事項を含むものである(補正箇所に下線を付した)。
(補正前)
「【請求項1】 所定の空間に充填して集合体を構築したときに完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有する表面を生分解性プラスチックであるポリ乳酸で被覆されたリン酸カルシウム成形体で、(1)該成形体は1つ以上の貫通孔もしくは開口気孔を有し、(2)上記成形体の形状はビーズ状であり、(3)上記成形体表面の10%以上を、生分解性プラスチックが被覆している、ことで特徴付けられるリン酸カルシウムビーズをユニットとして、
該リン酸カルシウムビーズを、最小構成ユニットとして集合体を構築してなるビーズ集合体であって、当該集合体として完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有することを特徴とするリン酸カルシウムビーズ集合体。」を
(補正後)
「【請求項1】
所定の空間に充填して集合体を構築したときに完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有する、表面が生分解性プラスチックであるポリ乳酸で被覆されたリン酸カルシウム成形体で構成された集合体であって、該成形体は、1つ以上の貫通孔を有し、形状はビーズ状であり、表面の少なくとも10%以上が、生分解性プラスチックで被覆された、溶融することにより隣り合うビーズ同士が結合するポリマーコートCPビーズであり、表面の被覆層の厚みは、0.1μm?3mmであり、
上記集合体は、該リン酸カルシウムビーズを、最小構成ユニットとして構築してなるビーズ集合体であり、かつ当該集合体として完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有することを特徴とするリン酸カルシウムビーズ集合体。 」
とする。

上記補正事項は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「生分解性プラスチックで被覆されたリン酸カルシウム成形体で構成された集合体」について「溶融することにより隣り合うビーズ同士が結合する」ものに限定し、表面の被覆層の厚みを、「0.1μm?3mm」に限定するとともに、記載を整理したものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同第3号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そこで、上記本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているか、について以下に検討する。

2 補正の適否の判断(独立特許要件:特許法第29条第2項違反)
(1)刊行物
刊行物1:特開平11-290447号公報(拒絶査定における引用文献2)
刊行物2:特開昭64-56056号公報(同引用文献7)
刊行物3:特表平1-502642号公報(同引用文献8)

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、刊行物1には、図面と共に、以下の事項が記載されている(以下、下線は当審で付与した)。
(1a)「【請求項1】 粒子同士が高分子物質によって互いに結合された生体材料用セラミックス粒子からなり、各粒子間の間隙による連通気孔を有することを特徴とする骨補填材。」
(1b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、柔軟性を有するとともに、生体親和性に優れた骨補填材及びその製造方法を提供することを目的とする。」
(1c)「【0005】
【発明の実施の形態】本発明の骨補填材は、前記のように、粒子同士が高分子物質によって互いに結合された生体材料用セラミックス粒子からなり、各粒子間の間隙による連通気孔を有するものであり、多孔体となっている。ここで、セラミックスとしては、アルミナ、リン酸カルシウム系化合物、ジルコニア、炭酸カルシウムなどが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、生体親和性が良いことから、リン酸カルシウム系化合物が好ましい。リン酸カルシウム系化合物としては、Ca/P比が1.0?2.0のリン酸カルシウム系化合物であればよく、例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」
(1d)「【0006】これらのセラミックスは、その種類によって異なるが、リン酸カルシウム系化合物の場合、700?1200℃の温度で熱処理したものが好ましい。また、生体材料用セラミックス粒子の粒径範囲は、特に制限はないが、通常、10?1000μmであるのが好ましい。セラミックス粒子の粒径が10μm未満であると、生体が異物反応を示すことがあり、1000μmを超えると、多孔体を形成したとき、粒子同士の連結数が減り、強度が下がってしまう。」
(1e)「【0009】本発明の骨補填材を製造するには、生体材料用セラミックス粒子を互いに高分子物質で結合するため、セラミックス粒子に高分子物質を2回に分けて投入する。高分子物質は、1回目と2回目で異なる種類のものであってもよい。セラミックス粒子と高分子物質との配合割合は、1回目の投入時には1回目の高分子物質/セラミックスの体積比で0.05?1.0とするのが好ましい。1回目投入の高分子物質/セラミックスの体積比が0.05未満になると、高分子物質がセラミックス粒子全てに行き渡らなくなり、1.0より大きい場合には高分子物資がセラミックス粒子の全面を覆ってしまい、セラミックスの生体親和性が活かされなくなってしまう。また、2回目の投入時には2回目の高分子物質/セラミックスの体積比を0.1?1.4とするのが好ましい。2回目投入の高分子物質/セラミックスの体積比が0.1未満になると、高分子物質がセラミックス全体に行き渡らなくなり、1.4より大きい場合には出来上がった成形物の連通性がなくなってしまい、多孔質による生体親和性がなくなってしまう。
【0010】本発明の方法では、1回目に投入する高分子物質は、加熱して粘着性にした後にセラミックス粒子と混合し、2回目に投入する高分子物質は固形粒子として添加し、混合後に加熱するのが好ましい。また、1回目に投入する高分子物質を加熱して粘着性にした後、セラミックス粒子と混合する際に、高分子物質がセラミックス粒子と接触したときに急激に冷やされて固化してしまうのを防止するため、セラミックス粒子も加熱しておくのが好ましい。
【0011】投入する高分子物質粒子の大きさは、多孔体になったときの連通性や強度に影響がある。1回目に投入する高分子物質の粒径は、セラミックス粒子の粒度の最大径の1/2以下であり、かつ2回目に投入する高分子物質の粒径がセラミックス粒子の粒度の最小径の2倍以上であるのが好ましい。1回目に投入する高分子物質の粒径は、セラミックス粒子の粒度の最大径の1/2を超える場合は、セラミックス粒子に高分子物質が均一に付着しなくなるおそれがある。また、2回目に投入する高分子物質の粒径がセラミックス粒子の粒度の最小径の2倍未満であると、セラミックス粒子の間隙が埋まってしまい、連通性がなくなるおそれがある。」
(1f)「【0014】実施例1
ハイドロキシアパタイトを共沈法で湿式合成し、噴霧乾燥して平均粒径100μmのハイドロキシアパタイト粒子を得た。このハイドロキシアパタイト粒子と純水を1:3の重量比で混合し、型に流し込み、乾燥後、粉砕機にかけ、約10?5000μmの粒子を得た。その後、1時間に100℃の速度で1200℃まで昇温し、この温度に4時間保持し、再び1時間に100℃の速度で室温まで降温することにより熱処理し、ふるいにより100?300μmの粒子に分級した。一方、ポリ乳酸・・・を粉砕機で50?2000μmに粉砕し、粒径210μm以下のものと、粒径210?420μmのものに分級した。・・・次に、ハイドロキシアパタイト粒子(粒径100?300μm;以下、HAP粒子と略記することがある)を200℃に、粒径210μm以下のポリ乳酸は100℃に加温し、・・・HAP粒子をポリ乳酸の入った容器に入れ(配合割合;ポリ乳酸/HAP粒子の体積比=0.25)、容器を振盪することにより混合し、HAP粒子の表面にポリ乳酸を付着させた。こうして、ポリ乳酸で被覆されたHAP粒子の温度が100℃以下になったら、粒径10?30μmのハイドロキシアパタイト粒子と粒径210?420μmのポリ乳酸の混合物を投入し〔ポリ乳酸の配合割合;ポリ乳酸/HAP粒子(微粉は除く)の体積比=0.28〕、振盪して混合した。その後、型に入れ、195℃に加熱し、2時間保持し、自然冷却させた。これにより、連通性を有するハイドロキシアパタイト多孔体が得られた。この多孔体を寸法2×5×5mmの直方体に加工した。各サンプルの下面を気圧差750mmHgで陰圧にして純水をサンプル上部から滴下し、1分間にサンプルを通過した液量を測定したところ、29mlであり、得られた多孔体が連通性を有するものであることが証明された。・・・」
(1g)「【0015】
【発明の効果】本発明の骨補填材の製造方法によれば、生体材料用セラミックス粒子が高分子物質によって粒子間隙を保有した状態で互いに結合された多孔質の骨補填材を効率よく製造することができる。また、本発明の骨補填材は、セラミックス粒子が高分子物質によって粒子間隙を保有した状態で互いに結合されているため、強度及び連通性を有すると共に、生体親和性に優れ、セラミックス材料のみから成るものに比べて高い柔軟性を有する。」

上記記載事項によれば、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「表面がポリ乳酸で被覆された、粒径100?300μmのハイドロキシアパタイト粒子及びポリ乳酸粒子を所定の型に入れて形成した連通性を有するハイドロキシアパタイト多孔体であって、
ハイドロキシアパタイト粒子の表面に被覆されたポリ乳酸、及びポリ乳酸粒子が溶融することによりハイドロキシアパタイト粒子同士が結合したものであるハイドロキシアパタイト多孔体。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「少くとも1本の細管を垂直方向に貫通させた円柱状焼成ハイドロキシアパタイトを使用することを特徴とするハイドロキシアパタイト骨補填材。」(1頁左下欄の特許請求の範囲)
(2b)「・・・多孔質ハイドロキシアパタイト顆粒を、骨欠損部に充填すると、数ケ月後には充填した多孔質ハイドロキシアパタイト顆粒の全域にわたり新生骨が形成され、顆粒の微少気孔内にも新生骨の形成が認められたが、緻密質ハイドロキシアパタイト顆粒を充填した場合は、充填域の辺縁部のみに新生骨が形成され、中心部は新生骨形成のない領域になっていることが報じられている。このことは多孔質ハイドロキシアパタイトが新生骨形成に関し緻密質ハイドロキシアパタイトよりすぐれていることを示している。また、ハイドロキシアパタイトブロックにおいても同様であることが認められている。」(1頁右下欄3?15行)
(2c)「問題点を解決するための手段
物理的又は化学的に作成された垂直方向に任意の本数の貫通した細管を有する円柱状のハイドロキシアパタイトを800?1500℃、好ましくは1000?1200℃で焼成することにより、容易に機械的強度が1000kg/cm^(2)以上と大で多孔性であるハイドロキシアパタイトがえられ、骨補填材としての使用に適していることを認めた。」(2頁右上欄11行?18行)
(2d)「・・・本願使用の焼成成形ハイドロキシアパタイトの多孔率は、垂直に貫通させた細管の径及び本数と円柱状成形物とによって大よそ決定され、その機械的強度は焼成温度及び多孔率によって決定されると考えられる。然しながら骨補填材として使用する場合、新生骨はハイドロキシアパタイトの充填辺縁部及び微少気孔内に形成されるので、同じ多孔率を有する円柱状焼成々形物であっても、貫通している細管の径によって新生骨形成効果を異にする。従って目的とする骨補填材としての性質により焼成温度、多孔率及び貫通させる細管の径を任意に選択する。」(2頁左下欄1?12行)
(2e)「直径1mm、高さlmmの円柱に直径20μmの細管550本を垂直方向に貫通させたハイドロキシアパタイトを1000℃に焼成し機械的強度1000?1500kg/cm^(2)の焼成ハイドロキシアパタイト顆粒をえた。このものを犬の顎骨に穴をあけて充填し試験した。対照として細管を含まない直径1mm、高さ1mmの円柱ハイドロキシアパタイトを1000℃に焼成した焼成ハイドロキシアパタイト顆粒を同様に充填した。3ケ月後両者の充填部を電子顕微鏡で観察し対照に比し試験区で新生骨が充填部の内部にもより多く形成されていることを認めた。」(3頁左上欄5?16行)

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物3には、図面と共に、以下の記載がある。
(3a)「1.組織移植に有用な粒子であり、当該粒子は生体適合性粒子で他の生体適合性粒子との間の相互連結の手段を持つものである。
2.当該粒子が貫通孔を持つ請求の範囲第1項記載の粒子。
3.燐酸カルシウムを含む請求の範囲第1項記載の粒子。
4.ハイドロキシアパタイト、燐酸三カルシウム、及びそれらの混合物から成るグループから選択された燐酸カルシウムを含む請求の範囲第3項記載の粒子。」(1頁左下欄の請求の範囲)
(3b)「本発明は、移植片、成長基盤、あるいは他の医学、歯学、生物工学的応用で使うための生体適合性の材料の供給に係わる。この材料は柔軟な形態をとることができるので、必要な医学、歯学、獣医学、生物工学あるいは組織成長の用途に合わせて材料を容易に整形できる。本発明には連結のためのしかけを持つ粒子が含まれ、又、粒子に連結のためのしかけがあるかないかにかかわらず連結されている多数の粒子も含まれる。」(5頁左下欄13?20行)
(3c)「例えば、貫通孔のある粒子は、糸に通す、ニツトにする、複合材料に入れる、あるいは以下に詳述される他の手段によって粒子を連結するのに貫通孔を利用できるため、相互連結に適している。しかしながら、そうした相互連結が利用されないときでも粒子が相互連結の手段を持っていることは有用である。なぜなら貫通孔が有益で制御可能な内部成長の場を組織に与えるからであり、特に多孔性粒子などの相互連結の手段を欠く粒子と比較して、粒子の強度をひどく損なわずに組織内部成長の場をもたらすのに使用できるからである。」(5頁右下欄7?17行)
(3d)「相互連結は、粒子をポリマーなどのような柔軟な材料でできた型や栓の中に分散させることによっても達成できる。」(6頁左上欄4?6行)
(3e)「本発明の個々の粒子と相互連結された多数の粒子は多くの利点を持っている。これらの粒子は以前は非多孔性で貫通孔のない粒子でしか得られなかったような大きさの破砕強度を持ち、望ましい程度、浸透度、速度、種類の組織内部成長を得るために好きな大きさの貫通孔を持つことができる。外部表面と内部表面を持つこれらの粒子は組織の内部成長の場を余分に提供できるし、組織が粒子を貫通して成長することにより従来の中身の詰った粒子に比べてしつかりした塊ができ、移動しにくくなる可能性がある。」(6頁左上欄12?21行)
(3f)「本発明の1つの特徴によれば、貫通孔のあるセラミックまたは生体適合性材料の粒子で直径が約3ミリ以下のほぼ円筒形をしたものを提供する。「貫通孔のある」とは、粒子が粒子本体を貫く少なくとも一つの機械的く形成された穴又は通路を持つという意味である。貫通孔のある粒子として好ましいのはビーズ又はトーラスの形をしたものである。
貫通孔は機械的に形成されるが、機械的とはつまり、乾燥プレス、押し出し、鋳造、アイソスタチック・プレス、あるいは焼結工程後のドリルや切削の必要のないように除去可能な材料の周りに形成するなど、機械的工程によって貫通孔が作られるということである。」(6頁左下欄5?16行)
(3g)「さらに、ある人々は組織の内部成長の速度および/または組織の内部成長の浸透度が細孔サイズに関係していることを見いだした。一般に成長速度は、少なくとも細孔サイズ約100ミクロンまでは、細孔サイズが大きくなるにつれて大きくなることが見いだされた。それゆえ、本発明によれば、粒子の貫通孔及び粒子全体の大きさを選択することにより、組織の内部成長の種類、速度、及び浸透度を制御できる。」(7頁右上欄23行?左下欄6行)
(3h)「二つ以上の貫通孔をつけることもできるし、貫通孔同士が交差するようにも別々になるようにもできる。」(7頁左下欄22?24行)
(3i)「ハイドロキシアパタイトを用いる好ましい方法では、供給材料は・・・スラリーから作られる。・・・スラリーを噴霧乾燥してできる微粒子状物質は自由に流れるので金型のくぼみを簡単に満たすことが出来る。・・・この粉状ハイドロキシアパタイトから成る乾燥微粒子を金型のくぼみに入れて機械的に圧縮して形を作る。金型のくぼみには最終製品の貫通孔を形成するマンドレル又はコア・ロッドがある。」(8頁左下欄2?18行)
(3j)「粒子が柔軟な媒体で相互連結されている場合、多数の粒子として好ましいのは、少なくとも1種類の粒子が直径約3ミリ以下で当該多数粒子が好ましくは-18から+40メッシュのものから成るものである。これら多数の粒子は当該の各生体適合性粒子を少なくとも他の一つの当該粒子と相互連結する柔軟な材料と共に使うのが好ましい。このやり方によれば、・・・通常の形態の金属やセラミックのような硬い堅固な材料では不可能なやり方で整形および/または縫合が可能な粒子の塊を提供できる。こうした成形可能な製品は粒子に貫通孔がある場合貫通孔に方向性を与えることにより、前記のように望ましい組織内部成長の能力を与えたり、破砕強度に方向性を持たせるに使うことができる。」(10頁左上欄4?19行)

(2)対比
本件補正発明と上記刊行物1記載の発明とを対比する。
ア 「ハイドロキシアパタイト」はリン酸カルシウムの一種である。
また、本願明細書の段落【0016】の記載によれば、本件補正発明における「ビーズ」とは、アスペクト比(長軸/短軸)が1?3の塊状物またはこれと実質的に均等もしくは同等のものであるところ、刊行物1記載の発明の、ハイドロキシアパタイト粒子は「粒径100?300μm」に形成された塊状物である。
したがって、刊行物1記載の発明において,ポリ乳酸で被覆される「ハイドロキシアパタイト粒子」は、本件補正発明の「リン酸カルシウム成形体」又は「リン酸カルシウムビーズ」に相当し、同様に、「ポリ乳酸が被覆されたハイドロキシアパタイト粒子」は、「ポリマーコートCPビーズ」に相当する。
イ また、刊行物1記載の発明における「ハイドロキシアパタイト多孔体」は、ハイドロキシアパタイト粒子が溶融したポリ乳酸で結合されているものであるから、本件補正発明の「リン酸カルシウムビーズ集合体」に相当し、ハイドロキシアパタイト粒子、すなわちリン酸カルシウムビーズが「最小構成ユニット」となっているといえる。
ウ 刊行物1記載の発明における「ポリ乳酸」は、「生分解性プラスチック」であることは明らかである。
エ 刊行物1記載の発明における「型に入れて形成した」とは、本件補正発明の「所定の空間に充填して集合体を構築した」に相当し、刊行物1記載の発明における「連通性を有する多孔体」は、「完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有する」ものといえる。

したがって、両者は、次の点で一致する。
[一致点]
「所定の空間に充填して集合体を構築したときに完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有する、表面が生分解性プラスチックであるポリ乳酸で被覆されたリン酸カルシウム成形体で構成された集合体であって、該成形体は、形状はビーズ状であり、表面の少なくとも一部が生分解性プラスチックで被覆された、溶融することにより隣り合うビーズ同士が結合するポリマーコートCPビーズであり、
上記集合体は、該リン酸カルシウムビーズを、最小構成ユニットとして構築してなるビーズ集合体であり、かつ当該集合体として完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有するリン酸カルシウムビーズ集合体。」

また、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
リン酸カルシウムビーズが、本件補正発明では、1つ以上の貫通孔を有しているのに対し、刊行物1記載の発明では、貫通孔を有していない点。
[相違点2]
ポリ乳酸の被覆が、本件補正発明では「表面の少なくとも10%を被覆」するものであり、表面の被覆層の厚みが、0.1μm?3mmであるのに対し、刊行物1記載の発明は、表面被覆の割合いや厚さが不明な点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
相違点1について検討すると、刊行物2、3には、本件補正発明と同様に骨補填材等に使用される、リン酸カルシウムビーズに貫通孔を設けることが記載され、それにより、孔内に新生骨や組織が成長できることが記載され、さらに、貫通孔に方向性を与えることにより、望ましい組織内部成長の能力を与えることができることが記載されている。
そして、刊行物1記載の発明は、リン酸カルシウムビーズの集合体を、連通孔を有する生体親和性に優れた骨補填材とすることを目的とするものであるから、連通性を高めるために、刊行物2、3記載の発明を適用し、リン酸カルシウムビーズに貫通孔を設けることは当業者が容易になしうることである。

相違点2について検討すると、本件補正発明において、表面のポリ乳酸の被覆層は、溶融してリン酸カルシウムビーズを結合する作用を奏するものと認められるが、被覆層の厚さについて、本件明細書には「被覆層の厚みは、適宜加工条件及びビーズ直径を選択することにより0.1μm?3mmとなり得る。」(段落【0019】)と記載されているにすぎず、特に被覆層の厚さを限定した技術的意義は示されていないし、リン酸カルシウムビーズ集合体の実施例である実施例5、8には、ポリ乳酸の被覆層の厚さは記載されていない。
一方、刊行物1記載の発明も、ポリ乳酸によりリン酸カルシウムビーズを結合するものであり、実施例では、まず、リン酸カルシウムビーズを加熱したポリ乳酸粒子で被覆し、その後、改めてポリ乳酸粒子を加え、ポリ乳酸を加熱溶融させてリン酸カルシウムビーズを結合しているが、リン酸カルシウムビーズを結合するに十分な量のポリ乳酸で被覆し、被覆層のポリ乳酸の溶融によりリン酸カルシウムビーズを結合することは当業者が適宜なしうることである。
そして、刊行物1には、高分子物質(ポリ乳酸等)が少なすぎると、セラミック粒子(リン酸カルシウム粒子等)に行き渡らなくなり、多すぎると、セラミック粒子の生体親和性が活かされないことが記載されており(記載事項(1e)参照)、被覆層の厚さは、リン酸カルシウムビーズを結合し、生体親和性が活かされ、かつ集合体間に連通孔が形成できる程度に、リン酸カルシウムビーズの直径等に応じて適宜決めうることであって、0.1μm?3mmとすることが格別困難であるとはいえない。

そして、本件補正発明の作用効果である、貫通孔を有することにより、ビーズ集合体は、完全又は部分的連通孔多孔体を形成する機能を有し、上記完全又は部分的連通孔内においては、物質輸送が円滑であるため、例えば、人工骨として用いた場合、骨形成に係る細胞の分化・増殖が円滑に行われるとの効果は、刊行物1ないし3記載の発明から予測できることである。

したがって、本件補正発明は、刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
1 本願発明
平成21年7月1日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成21年2月23日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明は、上記「第2 1」(補正前)に記載されたとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)。

2 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された、上記刊行物1ないし3に記載された事項及び発明は、「第2 2(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本件補正発明から、「溶融することにより隣り合うビーズ同士が結合する」との限定、及び、表面の被覆層の厚みを、「0.1μm?3mm」とするとの限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明を特定するために必要な事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 2(3)」に記載したとおり、刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-01 
結審通知日 2011-12-05 
審決日 2011-12-21 
出願番号 特願2003-171568(P2003-171568)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小森 潔  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 平井 裕彰
内田 淳子
発明の名称 生分解性プラスチックで被覆された球状リン酸カルシウム及び用途  
代理人 須藤 政彦  

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