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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1251947
審判番号 不服2010-12611  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-09 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2006-227441「内燃機関の可変動弁装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月16日出願公開、特開2006-312943〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件は、平成13年3月27日に出願した特願2001-90972号の一部を、平成18年8月24日に新たに特願2006-227441号として分割した出願であって、平成21年2月12日付けで拒絶理由が通知され、平成21年4月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成21年8月27日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成21年11月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたが、平成22年3月4日付けで上記平成21年11月2日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、平成22年6月9日付けで拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものであり、その後、当審において平成22年12月13日付けで書面による審尋がなされ、平成23年2月14日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成22年6月9日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年6月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成22年6月9日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前(すなわち、平成21年4月20日付け)の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対し、バルブリフト量を連続的に変更するようにバルブリフト制御を行う可変動弁機構の制御装置であって、
前記吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対して可変制御されるバルブタイミングの作動状態を入力し、該バルブタイミングの作動状態に応じて、対応する吸気弁又は排気弁のバルブリフト量の制御範囲を制限するための制限値を設定するバルブリフト量制限値設定部と、
前記バルブリフト量制限値設定部で設定された制限値に基づいて、前記バルブリフト制御の制御範囲を制限するバルブリフト制御制限部と、
から構成されることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項2】
前記バルブリフト量制限値設定部は、吸気弁のバルブタイミングが進角側に制御されるほど、吸気弁のバルブリフト量の制限値を低リフト量側に設定することを特徴とする請求項1に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項3】
前記バルブリフト量制限値設定部は、排気弁のバルブタイミングが遅角側に制御されるほど、排気弁のバルブリフト量の制限値を低リフト量側に設定することを特徴とする請求項1に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項4】
機関運転状態に応じてバルブリフト量の目標値を設定するバルブリフト量目標値設定部を備え、
前記バルブリフト制御制限部は、前記バルブリフト量制限値設定部で設定された制限値と、前記バルブリフト量目標値設定部で設定された目標値とを比較し、その比較結果にしたがって最終的に設定された目標値によって、前記バルブリフト制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項1?請求項3のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項5】
前記バルブリフト制御制限部は、前記バルブリフト量目標値設定部で設定された目標値が前記制限値より大きいときは、前記バルブリフト量の最終的な目標値を、前記制限値に設定しなおすことにより、バルブリフト制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項4に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項6】
前記バルブリフト量制限値設定部は、少なくとも前記入力されたバルブタイミングの作動状態に基づいて前記バルブリフト量を制限する補正係数を、前記制限値として設定し、
前記バルブリフト制御制限部は、前記補正係数によって前記バルブリフト量の目標値を補正して最終的な目標値とすることにより、バルブリフト制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項4に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項7】
内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対し、バルブタイミングを変更するようにバルブタイミング制御を行う可変動弁機構の制御装置であって、
前記吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対して可変制御されるバルブリフト量の作動状態を入力し、該バルブリフト量の作動状態に応じて、対応する吸気弁又は排気弁のバルブタイミングの制御範囲を制限するための制限値を設定するバルブタイミング制限値設定部と、
前記バルブタイミング制限値設定部で設定された制限値に基づいて前記バルブタイミング制御の制御範囲を制限するバルブタイミング制御制限部と、
から構成されることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項8】
前記バルブタイミング制限値設定部は、吸気弁のバルブリフト量が大きいほど、吸気弁のバルブタイミングの制限値を遅角側に設定することを特徴とする請求項7に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項9】
前記バルブタイミング制限値設定部は、排気弁のバルブリフト量が大きいほど、排気弁のバルブタイミングの制限値を進角側に設定することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項10】
機関運転状態に応じてバルブタイミングの目標値を設定するバルブタイミング目標値設定部を備え、
前記バルブタイミング制御制限部は、前記バルブタイミング制限値設定部で設定された制限値と、前記バルブタイミング目標値設定部で設定された目標値とを比較し、その比較結果にしたがって最終的に設定された目標値によって、前記バルブタイミング制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項7?請求項9のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項11】
前記バルブタイミング制御制限部は、前記バルブタイミング目標値設定部で設定された吸気弁のバルブタイミングの目標値が前記制限値を超えて進角側に設定されたときは、前記吸気弁のバルブタイミングの最終的な目標値を、前記制限値に設定しなおすことにより、バルブタイミング制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項10に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項12】
前記バルブタイミング制御制限部は、前記バルブタイミング目標値設定部で設定された排気弁のバルブタイミングの目標値が前記制限値を超えて遅角側に設定されたときは、前記排気弁のバルブタイミングの最終的な目標値を、前記制限値に設定しなおすことにより、バルブタイミング制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項10または請求項11に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項13】
内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対し、バルブリフト量を連続的に変更するようにバルブリフト制御を行う可変動弁機構の制御装置であって、
前記吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対して可変制御されるバルブタイミングの作動状態を入力し、該バルブタイミングの作動状態に応じて対応する吸気弁又は排気弁のバ-ルブリフト量の制御範囲を制限するための制限値を設定するバルブリフト量制限値設定部と、
前記バルブリフト量制限値設定部で設定された制限値に基づいて、前記吸気弁のバルブタイミングが中間の進角位置から最進角位置の範囲にあるとき、または、排気弁のバルブタイミングが中間の進角位置から最遅角位置の範囲にあるときに、前記バルブリフト制御の制御範囲を制限するバルブリフト制御制限部と、
から構成されることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項14】
前記バルブリフト量制限値設定部は、前記制限値を、機関運転状態に応じて設定されたバルブリフト量の目標値を制限する値として設定し、
バルブリフト制御制限部は、前記制限値によって制限して設定されたバルブリフト量の目標値に基づいて、バルブリフト量を制御することを特徴とする請求項13に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項15】
前記バルブリフト量制限値設定部は、吸気弁のバルブタイミングが中間の進角位置から最進角位置の範囲にあるとき、吸気弁のバルブタイミングが進角側に制御されるほど、吸気弁のバルブリフト量の制限値を低リフト量側に設定することを特徴とする請求項13または請求項14に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項16】
前記バルブリフト量制限値設定部は、排気弁のバルブタイミングが中間の進角位置から最遅角位置の範囲にあるとき、排気弁のバルブタイミングが遅角側に制御されるほど、排気弁のバルブリフト量の制限値を低リフト量側に設定することを特徴とする請求項13?請求項15のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項17】
前記バルブリフト量制限部は、機関運転状態に応じて設定された吸気弁又は排気弁のバルブリフト量の目標値が、前記制限値より大きい値に設定されたときに、前記目標値を制限値に設定しなおすことにより、バルブリフト制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項14?請求項16のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項18】
内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対し、バルブタイミングを変更するようにバルブタイミング制御を行う可変動弁機構の制御装置であって、
前記吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対して可変制御されるバルブリフト量の作動状態を入力し、該バルブリフト量の作動状態に応じて対応する吸気弁又は排気弁のバルブタイミングの制御範囲を制限するための制限値を設定するバルブリフト量制限値設定部と、
前記バルブタイミング制限値設定部で設定された制限値に基づいて、前記吸気弁または排気弁のバルブリフト量が中リフト量から前記吸気弁または排気弁とピストンとが干渉する恐れが生じる高リフト量の範囲にあるときに、前記バルブタイミング制御の制御範囲を制限するバルブタイミング制御制限部と、
から構成されることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項19】
前記バルブタイミング制限値設定部は、前記制限値を、機関運転状態に応じて設定されたバルブタイミングの目標値を制限する値として設定し、
バルブタイミング制御制限部は、前記制限値によって制限して設定されたバルブタイミングの目標値に基づいて、バルブタイミングを制御することを特徴とする請求項18に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項20】
前記バルブタイミング制限値設定部は、前記制限値を、吸気弁の最進角位置または排気弁の最遅角位置を制限する値として設定することを特徴とする請求項18に記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項21】
前記バルブタイミング制限値設定部は、前記吸気弁のバルブリフト量が中リフト量から前記吸気弁とピストンとが干渉する恐れが生じる高リフト量の範囲にないときは、前記吸気弁のバルブタイミングの制限値を最進角位置に設定することを特徴とする請求項18?請求項20のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項22】
前記バルブタイミング制限値設定部は、前記排気弁のバルブリフト量が中リフト量から前記排気弁とピストンとが干渉する恐れが生じる高リフト量の範囲にないときは、前記排気弁のバルブタイミングの制限値を最遅角位置に設定することを特徴とする請求項18?請求項21のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項23】
前記バルブタイミング制限値設定部は、前記吸気弁のバルブリフト量が中リフト量から前記吸気弁とピストンとが干渉する恐れが生じる高リフト量の範囲にあるとき、吸気弁のバルブリフト量が大きいときほど、吸気弁のバルブタイミングの制限値を遅角側に設定することを特徴とする請求項18?請求項22のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項24】
前記バルブタイミング制限値設定部は、前記排気弁のバルブリフト量が中リフト量から前記排気弁とピストンとが干渉する恐れが生じる高リフト量の範囲にあるとき、排気弁のバルブリフト量が大きいときほど、排気弁のバルブタイミングの制限値を進角側に設定することを特徴とする請求項18?請求項23のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項25】
前記バルブタイミング制限部は、機関運転状態に応じて設定された吸気弁のバルブタイミングの目標値が前記制限値より進角側に設定されたときに、該目標値を制限値に設定しなおすことにより、バルブタイミング制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項19、請求項21?請求項24のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項26】
前記バルブタイミング制限部は、機関運転状態に応じて設定された排気弁のバルブタイミングの目標値が前記制限値より遅角側に設定されたときに、該目標値を制限値に設定しなおすことにより、バルブタイミング制御の制御範囲を制限することを特徴とする請求項19、請求項21?請求項25のいずれか1つに記載の可変動弁機構の制御装置。
【請求項27】
内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対し、バルブリフト量を連続的に変更するために機関運転状態に応じて目標値を設定するバルブリフト量目標値設定部と、
実際のバルブリフト作動状態と目標値とに基づいてバルブリフト量を制御するバルブリフト制御部と、を備えた可変動弁機構の制御装置であって、
前記吸気弁又は排気弁の少なくとも一方のバルブタイミングを制御するバルブタイミング制御部において、前記バルブリフト作動状態に応じて対応する吸気弁又は排気弁のバルブタイミング制御の制御範囲を制限するために、該バルブタイミング制御部に対してバルブリフト量作動状態信号を出力するためのバルブリフト作動状態信号出力部を含んでいることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。
【請求項28】
内燃機関の吸気弁又は排気弁の少なくとも一方に対し、バルブタイミングを変更するために機関運転状態に応じて目標値を設定するバルブタイミング目標値設定部と、
実際のバルブタイミング作動状態と目標値とに基づいてバルブタイミングを制御するバルブタイミング制御部と、を備えた可変動弁機構の制御装置であって、
前記吸気弁又は排気弁の少なくとも一方のバルブリフト量を制御するバルブリフト制御部において、前記バルブタイミング作動状態に応じて対応する吸気弁又は排気弁のバルブリフト制御の制御範囲を制限するために、該バルブリフト制御部に対してバルブタイミン-グ作動状態信号を出力するためのバルブタイミング作動状態信号出力部を含んでいることを特徴とする可変動弁機構の制御装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
内燃機関に備えられた吸気弁のバルブタイミングを連続的に変更するためにバルブタイミング制御用アクチェータを備えた可変バルブタイミング機構と、
前記吸気弁のバルブリフト量を連続的に変更するためにバルブリフト制御用アクチェータを備えた可変バルブリフト機構と、を備えた内燃機関に適応される可変動弁制御装置において、
実際の前記吸気弁のバルブタイミングを検出しつつ、目標バルブタイミングとなるように前記可変バルブタイミング機構をフィードバック制御するための制御信号を前記バルブタイミング制御用アクチェータに出力するバルブタイミング制御手段と、
実際の前記吸気弁のバルブリフト量を検出しつつ、目標リフト量となるように前記可変バルブリフト機構をフィードバック制御するための制御信号を前記バルブリフト制御用アクチェータに出力するバルブリフト制御手段とを備え、
前記バルブタイミング機構の作動により実際の吸気弁のバルブタイミングが中間進角量から最進角量までの領域よりも遅角側となるバルブタイミング領域では、該バルブリフト量制限値を一定の高リフト量に設定し、
前記バルブタイミング機構の作動により実際の吸気弁のバルブタイミングが前記中間の進角量から最進角量までの間となるバルブタイミングの領域では、ピストン干渉が生じないように前記実際のバルブタイミングが進角側に変位するにつれて目標バルブリフト量を制限するために、前記バルブリフト量制限値を前記一定の高リフト量から低リフト量側に徐々に制限するように設定するバルブリフト量制限値設定手段と、
前記可変バルブタイミング機構及び可変バルブリフト機構が共に機関運転状態に応じて設定された目標値にフィードバック制御している時に、前記吸気弁のバルブタイミングの検出値に基づいて、前記バルブリフト量制限値設定手段により設定されたバルブリフト量制限値を前記目標バルブリフト量と比較し、前記目標バルブリフト量が前記バルブリフト量制限値より大きい時は、前記目標バルブリフト量を前記バルブリフト量制限値に設定するバルブリフト制御制限手段と、
を含んで構成され、
前記バルブリフト量制限値で制限した目標バルブリフト量と前記バルブリフト量の検出値との偏差に基づいて、バルブリフト量におけるフィードバック制御の制御信号を設定し、
該制御信号を前記バルブリフト制御用アクチェータに出力することを特徴とする内燃機関の可変動弁制御装置。」
なお、下線は、請求人が付した。

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項13を引用し更に、請求項14を引用する請求項15に記載された発明特定事項である「可変動弁機構の制御装置」において、「可変バルブタイミング機構」及び「可変バルブタイミング機構」を備えることを付加することで、限定することを含むものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.引用文献に記載された発明
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-65321号公報(平成13年3月13日出願公開、以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記従来の可変動弁装置の実情に鑑みて案出されたもので、請求項1記載の発明は、機関弁の少なくともリフト特性を機関運転状態に応じて可変制御する第1可変機構と、機関弁の少なくとも開閉タイミング特性を機関運転状態に応じて可変制御する第2可変機構と、前記第1可変機構あるいは第2可変機構の現在の作動位置を検出する位置検出手段と、前記第1可変機構あるいは第2可変機構のいずれか一方が故障した際に、前記位置検出手段によって検出された一方の可変機構の故障時の位置に応じて、他方の可変機構の作動を所定範囲内に制御する制御手段とを備えたことを特徴としている。」(段落【0007】)

イ.「【0024】前記制御機構19は、機関前後方向に配設された前記制御軸32と、該制御軸32の外周に固定されてロッカアーム23の揺動支点となる制御カム33と、制御軸32の回転位置を制御する電動アクチュエータである電動モータ34とから構成されている。
【0025】前記制御軸32は、駆動軸13と並行に設けられて、前述のように軸受14のメインブラケット14a上端部の軸受溝とサブブラケット14bとの間に回転自在に支持されている。一方、前記各制御カム33は、夫々円筒状を呈し、図2に示すように軸心P1位置が制御軸32の軸心P2からα分だけ偏倚している。
【0026】前記電動モータ34は、駆動シャフト34aの先端部に設けられた第1平歯車35と制御軸32の後端部に設けられた第2平歯車36との噛合いを介して、制御軸32に回転力を伝達するようになっていると共に、機関の運転状態を検出するコントローラ37からの制御信号によって駆動するようになっている。」(段落【0024】ないし【0026】)

ウ.「【0032】前記流路切換弁56は、前記第1可変機構1の電動モータ34を駆動制御する同じコントローラ37からの制御信号によって切換駆動されるようになっている。
【0033】前記コントローラ37は、クランク角センサからの機関回転数信号、エアフローメータからの吸気流量信号(負荷)及び機関油温センサなどの各種のセンサからの検出信号に基づいて現在の機関運転状態を演算等により検出すると共に、制御軸32の現在の回転位置を検出する第1位置検出センサ58や駆動軸13とタイミングスプロケット40との相対回動位置を検出する第2位置検出センサ59からの検出信号に基づいて、前記電動モータ34及び流路切換弁56に制御信号を出力していると共に、いずれか一方の可変機構1、2が故障してロックしてしまった場合に、該一方の可変機構のロック位置に応じて他方の可変機構を所定範囲内で連続的に可変制御する制御手段である制御回路を備えている。
【0034】すなわち、コントローラ37が、機関回転数、負荷、油温、機関始動後の経過時間などの情報信号から吸気弁12の目標リフト特性、つまり制御軸32の目標回転位置を決定して、この指令信号に基づき電動モータ34を回転させることにより制御軸32を介して制御カム33を所定回転角度位置まで回転制御する。また、第1位置検出センサ58により、制御軸32の実際の回転位置をモニターし、フィードバック制御により制御軸32を目標位相に回転させるようになっている。
【0035】具体的には、機関始動初期のクランキング時及びアイドリング時には、コントローラ37からの制御信号によって電動モータ34を介して制御軸32が一方向へ回転制御されて、図4に示すように制御カム33の軸心P1が制御軸32の軸心P2から図示のように左上方の回動位置に保持され、厚肉部33aが駆動軸13から上方向へ離間回動する。これにより、ロッカアーム23は、全体が駆動軸13に対して上方向へ移動し、このため各揺動カム17はリンクロッド25を介して強制的に引き上げられて反時計方向へ回動する。したがって、駆動カム15が回転してリンクアーム24を介してロッカアーム23の一端部23aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド25を介して揺動カム17及びバルブリフター16に伝達されるが、そのリフト量Lは、図4及び図7に示すように小さくなる。このため、ガス流動が強化されて燃焼が改善されて、燃費の向上と機関回転の安定化が図れる。
【0036】特に、クランキング時には、バルブリフト量を図7に示すように零または零に近い極小リフト(Lmin)になるように設定されているため、後述するように機関回転の立ち上がりが良好になる。
【0037】一方、高回転高負荷域では、コントローラ37からの制御信号によって電動モータ34により制御軸32が今度は他方向に回転して制御カム33を図2,図6に示す位置に回転させて厚肉部33aを下方向へ回動させる。このため、ロッカアーム23は、全体が駆動軸13方向(下方向)へ移動して他端部23bが揺動カム17をリンクアーム25を介して下方向へ押圧して揺動カム17全体を所定量だけ図示の位置(時計方向)に回動させる。したがって、駆動カム15が回転してリンクアーム24を介してロッカアーム23の一端部23aを押し上げると、そのリフト量がリンクロッド25を介して揺動カム17及びバルブリフター16に伝達されるが、そのリフト量Lは図6に示すように最も大きくなる(Lmax)。そして、その最小リフト(Lmin)から最大(Lmax)までのリフト量変化は、制御カム33の回動位置により図7に示すような特性(L1?L6)となる。なお、図7におけるLminは零に近い極小リフトとなっているが、制御軸を前記一方にさらに回転させれば零とすることも可能である。」(段落【0032】ないし【0037】)

エ.「【0038】一方流路切換弁56側は、前述と同じく各センサからの情報信号から吸気弁12の目標進角量を決定して、この指令信号に基づき流路切換弁56により、第1油圧通路54とメインギャラリ53とを所定時間連通させると共に、第2油圧通路55とドレン通路57とを所定時間連通させる。これによって、筒状歯車43を介してタイミングスプロケット40と駆動軸13との相対回動位置を変換して進角側に制御する。また、この場合も第2位置検出センサ59により予め駆動軸13の実際の相対回動位置をモニターして、フィードバック制御により駆動軸を目標相対回動位置すなわち目標進角量に回転させるようになっている。
【0039】具体的には、機関始動時から所定時間つまり油温が所定温度Toに達するまでは、流路切換弁56により第2油圧室50のみに油圧が供給されて第1油圧室49には油圧が供給されない。したがって、図1に示すように筒状歯車43は、リターンスプリング51のばね力で、最大前方位置に保持されて、駆動軸13が最大遅角の回転位置に保持されている。その後、油温が所定温度Toを越えると、運転条件に応じて、コントローラ37からの制御信号により流路切換弁56を駆動させて第1油圧通路54とメインギャラリ53を連通させて、第2油圧通路55とドレン通路57を連通させる時間が連続的に変化する。これにより、筒状歯車43は、最前方位置から最後方位置までを移動し、したがって、吸気弁12の開閉タイミングは、図7に示すように実線の最遅角状態から、破線の最進角まで連続的に可変制御される。
【0040】尚、前記吸気弁12は、第1可変機構1により最大リフトに制御されかつ第2可変機構2により最大遅角位置に制御された状態において、シリンダ内のピストンや対向する排気弁と干渉しないような配置構成に設定されている。
【0041】以下、コントローラ37による第1可変機構1と第2可変機構2との具体的な駆動制御を図8及び図9に示すフローチャートにもとづいて説明する。
【0042】すなわち、まず、始動後の油温との関係では、図8示すように、セクションS1では、タイマーにより機関始動後から所定時間toを越えたか否かを判断して、越えた場合はセクションS2で油温センサによる情報に基づき現在の油温が所定温度Toを越えたか否かを判別し、越えた場合はセクションS3で第1,第2の両方の可変機構1,2を駆動させるが、セクションS1及びセクションS2で所定時間toを越えず、または油温が所定油温To以下であればセクションS4で第1可変機構1のみを駆動させて第2可変機構2を駆動させない制御を行う。
【0043】したがって、低温始動時は第1可変機構1によるバルブリフト制御のみが行われ、第2可変機構2によるバルブタイミング制御が行われず、吸気弁12は前述した最遅角側に保持される。よって、この運転域での油圧駆動源に起因する可変作動不良といった問題が生じないと共に、バルブリフト制御による始動性の向上など機関性能の向上が図れる。また、油温上昇後は第2可変機構2も駆動するので、機関性能の大幅な向上が図れる。」(段落【0038】ないし【0043】)

オ.「【0052】まず、図10に示す制御では、セクションS31で各センサからの情報信号を読み込み、セクションS32で、第1位置検出センサ58から制御軸32の実際の回転位置(リフト量と対応)を読み込み、次にセクションS33では前記実回転位置と目標回転位置とを比較して第1可変機構1が故障しているか否かを判別する。ここで故障している、と判別すると、セクションS34において第2可変機構2の制御位置を吸気弁12とピストン及び吸気弁12と排気弁がそれぞれ干渉しない制御範囲(進角量)を演算し、さらにセクションS35で第2可変機構2を前記所定の制御範囲内で連続制御を行う。」(段落【0052】)

カ.「【0055】次に図11に示す制御では、セクションS21で各センサからの情報信号を読み込んだ後、セクションS22で第2位置検出センサ59から駆動軸13の実際の相対回動位置(進角量と対応)を読み込み、次にセクションS23で実相対回動位置と、目標相対回動位置とを比較して、第2可変機構2が故障しているか否かを判断する。
【0056】ここで、故障と判断した場合は、セクションS24において、第1可変機構1の制御位置を吸気弁12とピストン及び排気弁がそれぞれ干渉しない制御範囲(リフト量)を演算し、さらにセクションS25で第1可変機構1を所定の制御範囲内で連続制御を行う。
【0057】つまり、第2可変機構2が最進角制御中に故障した場合は、干渉を回避するため、第1可変機構1を図7に示す小リフト域(L_(min)?L_(1))で連続的に制御する。最遅角側で故障した場合は、干渉の問題がないから最小から最大リフトの全領域で連続制御する。さらに、中間位相で故障した場合は、最小リフトから中リフトL3の範囲で連続制御する。
【0058】このように、第2可変機構2が故障した場合も吸気弁12とピストンなどの干渉を回避し得る範囲内で第1可変機構1を連続制御できるため、機関性能の低下を可及的に抑制できる。また、多段階に連続的に制御することによっても、同様の効果が得られる。この場合、制御が簡素化される」(段落【0055】ないし【0058】)

キ.「【0064】
【発明の効果】請求項1?3記載の発明によれば、第1可変機構と第2可変機構とによって機関運転状態に応じて該機関性能を大幅に向上させることができることは勿論のこと、第1可変機構あるいは第2可変機構のいずれか一方が故障した場合は、制御手段によって一方の可変機構の故障時の位置に応じて、他方の可変機構を、機関弁とピストンとの干渉及び吸気,排気弁との間の干渉を回避し得る所定範囲内において可及的かつ連続あるいは段階的に制御することができるため、メカニカルな不具合を回避しつつ機関性能の低下を防止できる。」(段落【0064】)

(2)引用文献1に記載された事項
上記(1)ア.ないしキ.及び図面の記載を参酌すると、引用文献1には以下の事項が記載されていることが分かる。

ク.内燃機関に備えられた吸気弁12のバルブタイミングを連続的に変更するために流路切換弁56を備えた第2可変機構2と前記吸気弁12のバルブリフト量を連続的に変更するために電動モータ34を備えた第1可変機構1と、を備えた内燃機関に適応される可変動弁装置であることが分かる。

ケ.実際の吸気弁12の進角量を検出しつつ、目標進角量となるように第2可変機構をフィードバック制御するための制御信号を流路切換弁56に出力するコントローラ37と、実際の吸気弁12の実際の回転位置を検出しつつ、目標回転位置となるように第1可変機構をフィードバック制御するための制御信号を電動モータ34に出力するコントローラ37とを備えていることが分かる。

コ.段落【0039】及び【0040】の記載からすれば、第2可変機構2及び第1可変機構1が共に機関運転状態に応じて設定された目標相対回動位置及び目標回転位置にフィードバック制御している、内燃機関の可変動弁装置であることが分かる。

(3)引用文献1に記載された発明
以上、上記(1)及び(2)におけるア.ないしコ.並びに図面を参酌すると、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。
「内燃機関に備えられた吸気弁12のバルブタイミングを連続的に変更するために流路切換弁56を備えた第2可変機構2と
前記吸気弁12のバルブリフト量を連続的に変更するために電動モータ34を備えた第1可変機構1と、を備えた内燃機関に適応される可変動弁装置において、
実際の前記吸気弁12の進角量を検出しつつ、目標進角量となるように前記第2可変機構をフィードバック制御するための制御信号を前記流路切換弁56に出力するコントローラ37と、
実際の前記吸気弁12の実際の回転位置を検出しつつ、目標回転位置となるように前記第1可変機構をフィードバック制御するための制御信号を前記電動モータ34に出力するコントローラ37とを備え、
前記第2可変機構2及び第1可変機構1が共に機関運転状態に応じて設定された目標値にフィードバック制御している内燃機関の可変動弁装置。」(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)

(4)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-214207号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。
なお、表記にあたって、文中の半角数字及び(半角数字)は、すべて全角で表示する。

ア.「本発明は、このような問題点に鑑み、リフト量制御と回転位相制御とを同時に行う場合のピストンとの干渉の問題を回避できるようにすることを目的とする。
〈問題点を解決するための手段〉
このため、本発明は、第1図に示すように、機関運転条件に応じて吸・排気弁(12)とその駆動用カム(11)との間に設けられるロッカアーム(13)の支点位置を変化させて吸・排気弁(12)のリフト量を制御するリフト量制御装置(10)と、機関運転条件に応じて吸・排気弁駆動用カム(11)の回転位相を制御する回転位相制御装置(40)とを備える内燃機関の動弁制御装置において、前記カム(11)の回転位相量を検出する回転位相量検出手段(A)と、検出された回転位相量に応じて吸・排気弁(12)のリフト量を規制するリフト量規制手段(B)とを設ける構成としたものである。
〈作用〉
上記の構成においては、回転位相量検出手段により回転位相量を検出し、これに基づいてリフト量規制手段によりリフト量を規制するので、ピストンとの干渉を回避することができ、しかもリフト量制御と回転位相制御とによる利点を最大限発揮させることができる。」(公報第2ページ右上欄第5行から左下欄第8行)

イ.「第2図?第4図を参照し、リフト量制御装置10について説明すると、カム11と吸気弁12のステムエンドとに両端を当接させてロッカアーム13が設けられ、該ロッカアーム13の湾曲形成された背面13aを、後述する油圧ピボット19により一端部にて揺動自由に支持されたレバー15に支点接触させてある。また、レバー15はロッカアーム13の両側壁から突出するシャフト13bを保持部材14を介して凹溝15a内に保持しており、レバー15に形成されたスプリングシート15bと保持部材14との間には、ロッカアーム13を下方向に付勢するバネ定数小のスプリング16が介装されている。
油圧ピボット19は、シリンダヘッドに取付けられたブラケット18に形成した取付孔18a内に摺動自由に嵌挿された外筒19aと、該外筒19a内に嵌挿された内筒19bとを備え、かつ、両者の間に形成された油圧室19cにチェックバルブ19dを備えている。そして、外筒19aの半球状の下端部にてレバー15の吸気弁12ステムエンド側の一端部上面の凹陥部15cに嵌合し、レバー15を揺動自由に支持している。そして、ブラケット18内部に形成された油圧供給通路18bから内筒19b内部及びチェックバルブ19dを介して油圧を油圧室19cに供給してバルブクリアランスを一定に保つようになっている。
また、ブラケット18に対して後述する如く回動自在に取付けられたリフト制御カム20がレバー15のカムll側の他端部上面に係合して、レバー15の揺動位置を規制している。
リフト制御カム20は、多角形状で、吸気弁12のリフト量を段階的に変えるように高さが異なりそれぞれ略平らな複数のカム面20a?20eを有すると共に、中心部に後述する制御軸23を挿通する孔20gを有している。また、リフト制御カム20の両端から突出して形成した円筒部20hは、第3図及び第4図に示すようにブラケット18に形成された下部円弧溝18cと、ブラケット18上にボルト21で締結された一対のキャップ22に形成された上部円弧溝22aとの間に回動自由に保持しである。
そして、気筒数個設けたリフト制御カム20の中心部を貫通して形成された孔20gに一本の制御軸23をスキマバメ状態で挿通し、該制御軸23の各リフト制御カム20両側部分にそれぞれ嵌挿した捩りコイルスプリング24の一端を制御軸23外周面にねじ込んだ止めビス23aに係止すると共に、該コイルスプリング24の他端をリフト制御カム20の円筒部20h端面に形成した孔20iに嵌挿して係止しである。
制御軸23の一端は、継手25を介してステッピングモータ26の駆動軸26aに連結してある。ステンピングモータ26は、機関回転数N、絞り弁開度α等の機関運転条件に基づいて、制御回路27により駆動され、制御軸23を所定の回動位置に回動するようになっている。」(公報第2ページ左下欄第16行から第3ページ右上欄第9行)

ウ.「このようにして、リフト制御カム20を回動してカム面20a?20eのいずれかをレバー15に当接させることにより、吸気弁12のリフト量特性を段階的に変化させることができる。
ここで、前記リフト制御カム20の回動は、ステッピングモータ26の駆動により制御軸23及び捩りコイルスプリング24を介して行われる。
今、制御軸23が回動するタイミングで、吸気弁12がリフト中にある気筒においては、ロッカアーム13とレバー15との接触支点がカム11側に移動していて、バルブスプリング29の大きな反力がロッカアーム13,レバー15を介してリフト制御カム20に作用する。このため、リフト制御カム20は固定されたままその両側の捩りコイルスプリング24を捩りつつ、制御軸23のみが回動する。次いで、カム11が回転して吸気弁12が閉じた後は、ロッカアーム13とレバー15との接触支点が、略吸気弁12の上方近くに位置すると共に、バルブスプリング29の反力が消失するため、リフト制御カム20に作用する力は、ロッカアーム13とレバー15との間に取付けられたスプリング16の弱い力のみとなる。したがって、吸気弁12のリフト中に捩りコイルスプリング24に貯えられたトルクが前記スプリング16の弱い力に打ち勝って、リフト制御カム20を回動させることができる。」(公報第3ページ左下欄第13行から右下欄第17行)

エ.「即ち、第5図に示すように吸気弁駆動用カム11の他、排気弁駆動用カム(図示せず)を形成したカム軸37の一端にタイミングプーリ38が連結されており、このタイミングプーリ38は歯付のタイミングベルト39を介して図示しない機関クランク軸に連動する。そして、タイミングプーリ38とカム軸37との連結部(固着部)にカム11等の回転位相を制御する回転位相制御装置40が組込まれている。
回転位相制御装置40は、タイミングプーリ38内に形成された環状のシリンダ38A内を摺動自由に往復動してこのシリンダ38A内に油圧室41を画成する円環状のピストン42と、このピストン42に当接しピストン42の往復動によりコイルスプリング43の付勢力に抗してカム軸37に沿ってスライドするスライダ44と、このスライダ44の移動をコイルスプリング43を介して規制するカム軸37の端面にボルト50で固定されたストッパ部材45と、を有している。スライダ44には、第6図に示すように、その中空部内面に捩れスプライン44Aが形成され、またその一端部には前記ピストン42が当接するフランジ部44Bが、その他端部にはシリンダ38Aの内壁に形成された1条の溝38Bに摺動自在に支持される突条部44Cが、それぞれ形成されている。また、前記カム軸37の一端部には、第6図に示すように、捩れスプライン37Aが形成されており、この捩れスプライン37Aは前記スライダ44の捩れスプライン44Aと噛合するようになっている。
第5図中46はカム軸37内およびタイミングプーリ38内に形成された油圧通路であり、この油圧通路46の一端は前記油圧室41に、その他端は外部の油圧供給通路47に、それぞれ連通している。この油圧供給通路47の他端は途中で2つに分岐し、一方の通路47Aはオイルポンプ48に、他方の通路47Bは油圧制御弁49に、それぞれ連通している。この油圧制御弁49は電磁作動式で、電気信号に応じてオイルポンプ48から油圧室41へ供給する油圧を制御する。
したがって、油圧制御弁49により油圧室41への油圧の制御が行われ、この油圧に応じてスライダ44の軸方向の位置決めがなされる。すると、このスライダ44の位置に対応して捩れスプライン37A,44Aが軸方向に摺動することでカム軸37が所定量回動し、もってカム11等の回転位相が制御される。
尚、油圧制御弁49は、機関回転数N、絞り弁開度α等の機関運転条件に基づいて、制御回路52により制御される。」(公報第4ページ左上欄第1行から左下欄第6行)

オ.「本発明に係る構成としては、第5図に示すように、スライダ44の端面に相対してスライダ44の移動に伴って棒状鉄片61が移動するようベルトカバー55に固定して回転位相量検出手段としての位置センサ60を設けてある。勿論、この位置センサ60の内部には円筒状コイルを備えている。
そして、この位置センサ60からの信号を第3図に示すようにリフト量制御装置10の制御回路27に入力しである。
そして、この制御回路27において、第7図のフローチャートに従ってステッピングモータ26の作動を制御するようにしである。
第7図のフローチャートについて説明すると、ステップ1(図にはSlと記してある。以下同様)で機関回転数N、絞り弁開度α等の機関運転条件を検出し、ステップ2で検出された機関運転条件に基づいて最適なリフト量を検索により設定する。
次にステップ3で位置センサ60からの信号に基づいて回転位相量を読込み、ステップ4で読込んだ回転位相量に基づいて許容最大リフト量を検索により設定する。
次にステップ5で設定リフト量を許容最大リフト量と比較し、設定リフト量が許容最大リフト量を超えているときは、ステップ6に進んで設定リフト量を許容最大リフト量に変更する。このステップ5,6の部分がリフト量規制手段に相当する。
その後は、ステップ7で設定リフト量に対応したカム面20a?20eを選択するようステッピングモータ26を駆動する。
以上により、低速低負荷時には、第8図に示すように吸気弁のリフト量を減少させ、かつ吸気弁及び排気弁駆動用カムの回転位相を進めることにより、ポンプ損失の低減を図りつつ燃焼改善等を達成する。
また、加速時には、第9図に示すように吸気弁のリフト量を大きくして充填効率の向上などを図る。このとき、カムの回転位相量が大きく制御されているときにリフト量を大きくすると、吸気弁の開時期が大きく進み、ピストンと干渉し易くなるが、カムの回転位相量を検出してリフト量を規制し、リフト量を第9図の(イ)から(ロ)の状態にして、ピストンの干渉を回避する。
尚、第10図は高速高負荷時のリフト特性を示している。
〈発明の効果〉
以上説明したように本発明によれば、回転位相量を検出してリフト量を規制し、ピストンとの干渉を避けるので、予め最大リフト量や回転位相制御角を小さく設定したり、ピストン頭部に大きなリセスを形成する必要がなく、リフト量制御と回転位相制御とによる利点を最大限発揮させることができる。」(公報第4ページ左下欄第7行から第5ページ左上欄第18行)

(5)引用文献2に記載された事項
カ.内燃機関に備えられた吸気弁12のカムの回転位相を連続的に変更するために油圧制御弁49を備えた回転位相制御装置40と、前記吸気弁12のバルブリフト量を連続的に変更するためにステッピングモータ26を備えたリフト量制御装置10と、を備えた内燃機関の可変動弁制御装置であることが分かる。

キ.回転位相制御装置40の作動により回転位相量が加速時外の領域では、該許容最大リフト量をある設定リフト量(以下、「設定リフト量A」という。)に設定し、
前記回転位相制御装置40の作動により回転位相量が加速時領域では、ピストン干渉が生じないように前記回転位相量が進角側に変位するにつれて設定リフト量を制限するために、前記許容最大リフト量を前記設定リフト量Aから低リフト量側に制限するように設定するリフト量規制手段があることが分かる。

ク.上記オ.の記載からすれば、ステップ5、6のリフト量規制手段のうちステップ6は、回転位相量検出手段からの信号に基づいて、前記リフト量規制手段により設定された許容最大リフト量を前記設定リフト量と比較し、前記設定リフト量を許容最大リフト量に設定するリフト量制限手段(以下、「リフト量制限手段B」という。)であることが分かる。

ケ.前記許容最大リフト量で制限した設定リフト量とバルブリフト量における制御信号を設定し、該制御信号を前記ステッピングモータ26に出力する内燃機関の可変動弁制御装置であることが分かる。

(6)引用文献2に記載された発明
「内燃機関に備えられた吸気弁12のカムの回転位相を連続的に変更するために油圧制御弁49を備えた回転位相制御装置40と、
前記吸気弁12のバルブリフト量を連続的に変更するためにステッピングモータ26を備えたリフト量制御装置10と、を備えた内燃機関の可変動弁制御装置において、
前記回転位相制御装置40の作動により回転位相量が加速時外の領域では、該許容最大リフト量を設定リフト量Aに設定し、
前記回転位相制御装置40の作動により回転位相量が加速時領域では、ピストン干渉が生じないように前記回転位相量が進角側に変位するにつれて設定リフト量を制限するために、前記許容最大リフト量を前記リフト量Aから低リフト量側に制限するように設定するリフト量規制手段と
位置センサ40からの信号に基づいて、前記リフト量規制手段により設定された許容最大リフト量を前記設定リフト量と比較し、前記設定リフト量が前記許容最大リフト量より大きい時は、前記設定リフト量を前記許容最大リフト量に設定するリフト量制限手段Bと、
を含んで構成され、
前記許容最大リフト量で制限した設定リフト量とバルブリフト量における制御信号を設定し、
該制御信号を前記ステッピングモータ26に出力することを特徴とする内燃機関の可変動弁制御装置。」(以下、「引用文献2に記載された発明」という。)

3.対比
本願補正発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「内燃機関」は、その技術的意義からみて、本願補正発明の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「吸気弁12」は「吸気弁」に、「電動モータ34」は「バルブリフト制御用アクチュエータ」に、「流路切換弁56」は「バルブタイミング制御用アクチュエータ」に、「第1可変機構1」は「可変バルブリフト機構」に、「第2可変機構2」は「可変バルブタイミング機構」に、「可変動弁装置」は「可変動弁制御装置」に、「 実際の相対回動位置(進角量)」は「実際の吸気弁のバルブタイミング」に、「目標相対回動位置(目標進角量)」は「目標バルブタイミング」に、「目標回転位置」は「目標リフト量」に、「コントローラ37」は「バルブタイミング制御手段」又は「バルブリフト制御手段」に各々相当することから、本願補正発明と引用文献1に記載された発明とは、
「内燃機関に備えられた吸気弁のバルブタイミングを連続的に変更するためにバルブタイミング制御用アクチェータを備えた可変バルブタイミング機構と、
前記吸気弁のバルブリフト量を連続的に変更するためにバルブリフト制御用アクチェータを備えた可変バルブリフト機構と、を備えた内燃機関に適応される可変動弁制御装置において、
実際の前記吸気弁のバルブタイミングを検出しつつ、目標バルブタイミングとなるように前記可変バルブタイミング機構をフィードバック制御するための制御信号を前記バルブタイミング制御用アクチェータに出力するバルブタイミング制御手段と、
実際の前記吸気弁のバルブリフト量を検出しつつ、目標リフト量となるように前記可変バルブリフト機構をフィードバック制御するための制御信号を前記バルブリフト制御用アクチェータに出力するバルブリフト制御手段とを備え、
前記可変バルブタイミング機構及び可変バルブリフト機構が共に機関運転状態に応じて設定された目標値にフィードバック制御している内燃機関の可変動弁制御装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉
(1)相違点1
本願補正発明においては、「バルブタイミング機構の作動により実際の吸気弁のバルブタイミングが中間進角量から最進角量までの領域よりも遅角側となるバルブタイミング領域では、バルブリフト量制限値を一定の高リフト量に設定し、
前記バルブタイミング機構の作動により実際の吸気弁のバルブタイミングが前記中間の進角量から最進角量までの間となるバルブタイミングの領域では、ピストン干渉が生じないように前記実際のバルブタイミングが進角側に変位するにつれて目標バルブリフト量を制限するために、前記バルブリフト量制限値を前記一定の高リフト量から低リフト量側に徐々に制限するように設定するバルブリフト量制限値設定手段」があるのに対して、引用文献1に記載された発明についてはそのように特定されていない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2
本願補正発明においては、「可変バルブタイミング機構及び可変バルブリフト機構が共に機関運転状態に応じて設定された目標値にフィードバック制御している時に、吸気弁のバルブタイミングの検出値に基づいて、バルブリフト量制限値設定手段により設定されたバルブリフト量制限値を目標バルブリフト量と比較し、前記目標バルブリフト量が前記バルブリフト量制限値より大きい時は、前記目標バルブリフト量を前記バルブリフト量制限値に設定するバルブリフト制御制限手段と、
を含んで構成され、
前記バルブリフト量制限値で制限した目標バルブリフト量と前記バルブリフト量の検出値との偏差に基づいて、バルブリフト量におけるフィードバック制御の制御信号を設定し、
該制御信号を前記バルブリフト制御用アクチェータに出力する」のに対して、引用文献1に記載された発明においてはそのように特定されていない点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
上記相違点1及び相違点2について、検討する。
(1)相違点1について
本願補正発明と引用文献2に記載された発明とを対比すると、引用文献2に記載された発明における「内燃機関の動弁制御装置」は、その目的及び機能からみて、本願補正発明における「内燃機関に適用される可変動弁制御装置」に相当し、以下同様に「吸気弁12」は「吸気弁」に、「駆動カム11の回転位相」は「バルブタイミング」に、「油圧制御弁49」は「バルブタイミング制御用アクチェータ」に、「ステッピングモータ26」は「バルブリフト制御用アクチェータ」に、「回転位相制御装置40」は「可変バルブタイミング機構」に、「リフト量制御装置10」は「可変バルブリフト機構」に、「回転位相量」は「実際のバルブタイミング」に、「設定リフト量」は「目標バルブリフト量」に、「許容最大リフト量」は「バルブリフト量制限値」に、「リフト量規制手段」は「バルブリフト量制限値設定手段」に、「位置センサ40からの信号」は「バルブタイミングの検出値」に、「リフト量制限手段B」は「バルブリフト制御制限手段」に各々相当する。
また、引用文献2に記載された発明における「設定リフト量A」は本願補正発明における「一定の高いリフト量」に「あるリフト量」である限りにおいて相当し、同様に引用文献2に記載された発明における「回転位相量が加速時外の領域」は本願補正発明における「バルブタイミングが中間進角量から最進角量までの領域よりも遅角側となるバルブタイミング領域」に「相対的な遅角領域」である限りにおいて、「カムの回転位相量が加速時の領域」は「バルブタイミングが前記中間の進角量から最進角量までの間となるバルブタイミングの領域」に「相対的な進角領域」である限りにおいて相当するといえることから、引用文献2に記載された発明を本願補正発明の用語を用いて表現すると、
「内燃機関に備えられた吸気弁のバルブタイミングを連続的に変更するためにバルブタイミング制御用アクチェータを備えた可変バルブタイミング機構と、
前記吸気弁のバルブリフト量を連続的に変更するためにバルブリフト制御用アクチェータを備えた可変バルブリフト機構と、を備えた内燃機関に適応される可変動弁制御装置において、
前記バルブタイミング機構の作動により実際の吸気弁のバルブタイミングが相対的な遅角領域では、該バルブリフト量制限値をあるリフト量に設定し、
前記バルブタイミング機構の作動により実際の吸気弁のバルブタイミングが相対的な進角領域では、ピストン干渉が生じないように前記実際のバルブタイミングが進角側に変位するにつれて目標バルブリフト量を制限するために、前記バルブリフト量制限値を前記あるリフト量から低リフト量側に制限するように設定するバルブリフト量制限値設定手段と、
吸気弁のバルブタイミングの検出値に基づいて、前記バルブリフト量制限値設定手段により設定されたバルブリフト量制限値を前記目標バルブリフト量と比較し、前記目標バルブリフト量が前記バルブリフト量制限値より大きい時は、前記目標バルブリフト量を前記バルブリフト量制限値に設定するバルブリフト制御制限手段と、
を含んで構成され、
前記バルブリフト量制限値で制限した目標バルブリフト量バルブリフト量における制御信号を設定し、
該制御信号を前記バルブリフト制御用アクチェータに出力する内燃機関の可変動弁制御装置。」となる。
ところで、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明は共に本願補正発明と同様に、内燃機関に備えられた吸気弁の可変バルブタイミング機構と、バルブリフト量を連続的に変更するための可変バルブリフト機構とを備えた可変動弁制御装置であって、バルブタイミングとバルブリフト量の制御を同時に行う場合において、吸気弁とピストンとの干渉を回避するように機関性能を高めつつ制御領域を拡大するものであって、三者は解決しようとする課題において軌を一にするものである。
そして、通常内燃機関の可変動弁機構において、バルブタイミング及びバルブリフト量を制御するにあたり、連続的に徐々に変更し制御することはごく普通に行われているところであって、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された発明を適用するに際して、ピストンとの干渉と機関性能を高める等の上記課題を考慮すると、相違点1に係る本願補正発明のように相対的な遅角領域であるバルブタイミングが中間進角量から最進角量までの領域よりも遅角側となるバルブタイミング領域では、該バルブリフト量制限値を一定の高リフト量に設定し、相対的な進角領域であるバルブタイミングが前記中間の進角量から最進角量までの間となるバルブタイミングの領域では、一定の高いリフト側から低リフト側に徐々に制限するように特定することは、当業者が容易に推考し得るものである。

(2)相違点2について
吸気弁のバルブタイミングの検出値に基づいて、バルブリフト量制限値設定手段により設定されたバルブリフト量制限値を目標バルブリフト量と比較し、前記目標バルブリフト量が前記バルブリフト量制限値より大きい時は、前記目標バルブリフト量を前記バルブリフト量制限値に設定するバルブリフト制御制限手段が引用文献2に開示されており、また、目標バルブリフト量と実際のバルブリフト量との偏差に基づいて、バルブリフト量をフィードバック制御することはバルブリフト制御装置としては当然の構成であって、相違点2に係る本願補正発明のようにバルブリフト量制限値で制限した目標バルブリフト量と前記バルブリフト量の検出値との偏差に基づいて、バルブリフト量におけるフィードバック制御の制御信号を設定することは、ピストンの干渉を防止することを考慮すれば、当業者が容易に推考し得るものである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成22年6月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項15に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成21年4月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項13を引用し更に、請求項14を引用する請求項15に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.引用文献の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及び引用文献2に記載された発明は、前記第2.の[理由]2.(3)及び(6)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]3.及び4.に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-07 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-27 
出願番号 特願2006-227441(P2006-227441)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鹿角 剛二  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 岡崎 克彦
柳田 利夫
発明の名称 内燃機関の可変動弁装置  
代理人 笹島 富二雄  

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