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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C02F
管理番号 1251949
審判番号 不服2010-13295  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-17 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2002-341266号「含鉄酸性廃水の鉄回収リサイクル方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年6月24日出願公開、特開2004-174327号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年11月25日の出願であって、平成21年2月5日付けの拒絶理由の通知に対して、同年3月26日付けの意見書および手続補正書が提出され、同年8月13日付けの拒絶理由の通知に対して、同年10月15日付けの意見書が提出され、平成22年4月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成23年10月6日付けの当審による拒絶理由の通知に対して、同年11月24日付けの意見書が提出されたものである。

II.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年3月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「含鉄酸性廃水をロックウールとセメントの混合物よりなる廃水処理材で処理し、少なくとも鉄分を除去回収した後、得られた回収処理物を乾燥し、嵩比重を0.05?1.5とし、鉄分含有量(Fe_(2)O_(3)換算)60wt%以上に高めた後に、ダイオキシン分解剤及び脱硫剤用鉄原料のいずれか一以上から選択される材料として再利用することを特徴とする含鉄酸性廃水の鉄回収リサイクル方法。」

III.引用例記載の事項
引用例(国際公開第02/079100号)には、以下の記載がある。
(a)特許請求の範囲の請求項4
「(4)ロックウールと、アルカリ土類金属又はアルカリ金属の珪酸塩、水酸化物又は酸化物から選択される少なくとも1種を主成分とする無機バインダーとの混合物を固化させて空隙率50%以上の固形排水処理材とし、この固形排水処理材と鉄イオンを含有する排水を接触させて処理したとき、脱鉄率が80%以上であることを特徴とする鉄イオン又は鉄イオンと硫酸イオンを含有する排水の処理方法。」

(b)第1頁第4?6行
「本発明は、固形排水処理材及び酸性排水の処理方法に関し、特に、坑排水中の酸を中和し、鉄分や砒素等の重金属を除去する方法に関するものである。」

(c)第3頁下から第3行?第4頁第5行
「本発明の固形排水処理材(以下、排水処理材ともいう)は、鉱物繊維を無機バインダーで固化して得られる。鉱物繊維にはアルカリ土類金属又はアルカリ金属の珪酸塩を含有する鉱物繊維を用いる。好ましくは、・・・このような鉱物繊維としては、例えばロックウール、グラスウールなどが挙げられるが、酸性排水に対する中和性能が高いロックウールが好ましい。」

(d)第5頁第9?17行
「ロックウールを固化させるために使用する無機バインダーとしては、アルカリ土類金属又はアルカリ金属の珪酸塩、水酸化物又は酸化物の少なくとも1種以上を主成分とする無機バインダーが使用される。・・・好ましい無機バインダーとしては、セメント、水ガラス、消石灰、生石灰、マグネシア、スラグ粉、フライアッシュなどの1種又は2種以上が挙げられるが、水硬性であって、酸を中和する機能を有するものが好ましい。水硬性の無機バインダーの場合、水を存在させて硬化させる。」

(e)第5頁最終行?第6頁第6行
「かかる水硬性無機バインダーとしては、ポルトランドセメントに代表されるセメントや、スラグ粉等の潜在水硬性物質とアルカリ材料との混合物や、ロックウール等の鉱物繊維と反応して固化する消石灰等が挙げられる。セメントには、ポルトランドセメントの他、高炉セメント、フライアッシュセメント、マグネシアセメント、アルミナセメント、石灰混合セメントなどがあるが、好ましくはポルトランドセメント又は高炉セメントである。」

(f)第6頁下から第7行?第7頁下から第5行
「本発明の排水処理材の形状には制限はないが、粒状が好ましい形状の一つである。・・・他の好ましい形状の一つは、吹付け構造である。吹付け方法は、建造物の耐火被覆に適用される吹付技術を採用することができる。この吹付技術は、ロックウール粒状綿とセメントと水を混合して同時に吹付けるものであり、セメントとロックウール又はセメントと水又はロックウールと水を事前に混合しておいてもよい。・・・また、別の方法として、ロックウールと水硬性の無機バインダーの混合物を事前に作り、これを水と接触させることにより、固化させて固形排水処理材とする方法も有利である。更に、ロックウールと無機バインダーの混合物とを容器に充填し、これを水と接触させることにより、固化させて固形排水処理材とする方法も有利である。そして、この容器が排水と接触させるための反応容器であれば、より有利である。本発明の排水処理材は、その形状に係らず、空隙率が50%以上である必要がある。好ましい、空隙率は70?98%の範囲である。また、排水処理材の嵩比重を、0.1?1.5、好ましくは0.15?1.0にすると良い。」

(g)第9頁第4?7行
「本発明の酸性排水処理方法で使用する排水処理材は、上記固形排水処理材が使用でき、処理すべき排水としては、鉄イオン、好ましくはFe^(2+)イオンと硫酸イオンを含有し、pHが5以下、好ましくはpHが1?4である排水に対し特に有効である。」

(h)第12頁第6?16行
「本発明の排水処理材は、酸性排水と接触すると、アルカリ土類金属及びアルカリ金属が酸と反応し、珪酸が非晶質シリカとして残る。硫酸イオンの一部は排水処理材中のカルシウム分として反応して石膏となるが、他のアルカリ土類金属及びアルカリ金属を含むため、その石膏の量は少なく、多くは無害な水溶性の硫酸塩となって、排出される。坑排水中に含まれる鉄イオンは2価の鉄イオンであることが多いが、本発明の排水処理材と接触すると反応がゆっくり進むので、2価の鉄イオンはその間に溶存酸素等で酸化されて3価の鉄イオンとなり、3価の水酸化となって、沈澱する。また、坑排水には砒素、カドミウム等の重金属を含むこともあるが、本発明の排水処理材と接触させることによりこれらの多くも沈澱除去することができる。」

(i)第13頁第8?13行
「使用済みの排水処理材は未反応の珪酸塩の他、シリカ分を主とする反応残分と、反応で生成した多量の鉄分や少量の石膏を含有するものであるので、砒素等の有害成分を含まなければ鉄含有の土壌改良材等として使用することができ、その処理が容易である。本発明の固形排水処理材は、排水処理に使用後において、残存処理材中の非晶質シリカ分が50wt%以上を占めることが好ましい。」

(j)第14頁第2?4行
「実施例1
ロックウールとして、粒状化したロックウール(エスファイバー粒状綿 新日化ロックウール株式会社製 平均粒径30mm)を使用した。」

(k)第16頁下から第11行?第17頁第10行
「実施例4
実施例1と同じロックウールを使用し、ロックウール64重量%、ポルトランドセメント36重量%となるようにリボンミキサーで攪拌混合し、平均粒径20mm、ロックウールと無機バインダーの混合時点での嵩比重0.17の粒状混合物(未固化排水処理材)を得た。
次に、この未固化排水処理材20kgを、合成樹脂ネットの底部を有する高さ90cm、長さ120cm、幅16cmの容器内に、厚さ60cm、空隙率92%、嵩比重0.20になるように充填し、上部より同重量の水を加えて固化させ排水処理材とした。
固化完了後、この装置の上部より表3で示す水質の酸性坑排水を平均通水量14.5L/hrで50m^(3)通水した。この時の排水1m^(3)当たりの中和剤添加量は0.4kg/m^(3)に相当した。
容器下部から流出する処理水の鉄分除去率は99.9%、砒素除去率は94.2%であった。また、使用後の排水処理材中の鉄分含有率は53%、中和材成分の残存率は14%であった。その時の処理水の水質は表3に示す。
また、排水処理材の透水性能を測定したところ、当初1.0×10^(-2)cm/s、50t通水後で0.6×10^(-2)cm/sであった。また、排水処理材の体積を測定したところ、50t通水後で通水前の体積の88%であった。更に、50t通水後の排水処理材の含水率は、通水停止後30分で平均水分77.2%であり、110℃で乾燥後の嵩比重は184kg/m^(3)であった。」

(l)第17頁の表3には、酸性坑廃水の水質が
「PH 2.8
T-Fe 90.3mg/l
As 0.12mg/l
SO_(4)^(2-) 956mg/l
8.3酸度 830mg-CaCO_(3)/l
4.8酸度 768mg-CaCO_(3)/l」であることの表示がある。

(m)上記(i)(k)の記載からして、「鉄分を除去回収した排水処理材」を乾燥して嵩比重を184kg/m^(3)にした後に、土壌改良材等として使用しているとみることができるので、引用例には、「『鉄分を除去回収した排水処理材』を乾燥し、嵩比重を184kg/m^(3)とし、その後に、土壌改良材等として再使用する」ことが記載されているということができる。

上記(a)?(l)の記載事項および上記(m)の検討事項より、引用例には、
「含鉄酸性排水をロックウールとセメントの混合物よりなる『鉄分を除去回収する前の排水処理材』で処理し、少なくとも鉄分を除去回収した後、得られた『鉄分を除去回収した排水処理材』を乾燥し、嵩比重を184kg/m^(3)とし、その後に、土壌改良材等として再使用する、『鉄分を除去回収した排水処理材』の再使用方法。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が開示されている。

IV.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「含鉄酸性排水」、「『鉄分を除去回収する前の排水処理材』」、「『鉄分を除去回収した排水処理材』」、「『鉄分を除去回収した排水処理材』の再使用方法」は、本願発明の「含鉄酸性廃水」、「廃水処理材」、「回収処理物」、「含鉄酸廃水の鉄回収リサイクル方法」にそれぞれ相当する。

○引用例記載の発明の「嵩比重を184kg/m^(3)とし、その後に、土壌改良材等として再使用する」ことと、本願発明の「嵩比重を0.05?1.5とし、鉄分含有量(Fe_(2)O_(3)換算)60wt%以上に高めた後に、ダイオキシン分解剤及び脱硫剤用鉄原料のいずれか一以上から選択される材料として再利用する」こととは、「嵩比重を所定値とし、その後に、所定用途の材料として再利用する」という点で共通する。

上記より、両者は、
「含鉄酸性廃水をロックウールとセメントの混合物よりなる廃水処理材で処理し、少なくとも鉄分を除去回収した後、得られた回収処理物を乾燥し、嵩比重を所定値とし、その後に、所定用途の材料として再利用する、含鉄酸性廃水の鉄回収リサイクル方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。
◇相違点1
本願発明では、得られた回収処理物を乾燥し、「嵩比重を0.05?1.5とし、鉄分含有量(Fe_(2)O_(3)換算)60wt%以上に高めた後に」再利用するのに対して、
引用例記載の発明では、「嵩比重を184kg/m^(3)とし、その後に」再使用(再利用)する点。

◇相違点2
本願発明では、「ダイオキシン分解剤及び脱硫剤用鉄原料のいずれか一以上から選択される材料として」再利用するのに対して、
引用例記載の発明では、「土壌改良材等として」再使用(再利用)する点。

上記両相違点について検討する。
◆相違点1について
本願明細書の【0047】には、
「【実施例】
実施例1
鉱物繊維として、粒状化したロックウール(エスファイバー粒状綿 新日化ロックウール株式会社製 平均粒径30mm)を使用した。
次に、ロックウール64wt%、ポルトランドセメント36wt%となるようにリボンミキサーで攪拌混合し、平均粒径20mm、嵩比重0.17の粒状混合物(未固化廃水処理材)を得た。この化学組成は、CaO:45.31wt%、MgO:2.87wt%、SiO_(2):34.55wt%、Al_(2)O_(3):11.08wt%、Fe_(2)O_(3):1.07wt%、TiO_(2):0.45wt%、MnO:0.23wt%、Na_(2)O:0.21wt%、K_(2)O:0.47wt%、S:0.70wt%、Ig.Loss:1.31wt%であった。この粒状混合物の透水性能は4.3×10^(-1)cm/sec、水で固化後の嵩比重は0.21であった。
次に、未固化廃水処理材20Kgを、合成樹脂ネットの底部を有する高さ90cm、長さ120cm、幅14cmの容器に、厚さ60cm、空隙率92%、嵩比重0.174になるように充填し、上部より同重量の水を加えて固化させて廃水処理材とした。この装置の上部より表1に示す水質の坑廃水を平均通水量1m^(3)/日で50m^(3)通水した(坑廃水1m^(3)当たりの廃水処理材量:0.4kg/m^(3))。
容器下部から流出した処理水の水質を表1に示す。なお、鉄分除去率は99.9%であった。
得られた回収処理物は、付着水分量が通水停止後30分で平均77.9wt%、透水性能が0.6×10^(-2)cm/sec、使用前の廃水処理材に対する体積比が88%、110℃乾燥後の嵩比重が0.184であった。よって、固形で輸送し易く、取扱いも容易な材料である。
回収処理物は、鉄分量(Fe_(2)O_(3)換算)76wt%、廃水処理材の残存率14%であり、その化学組成は、Fe_(2)O_(3):76.0wt%、SO_(3):10.1wt%、CaO:2.6wt%、SiO_(2):9.2wt%、Al_(2)O_(3):1.5wt%、MgO:0.0wt%、MnO:0.1wt%、TiO_(2):0.5wt%、Na_(2)O:0.0wt%、K_(2)O:0.0wt%、Cl:0.0wt%であった。
次に、回収処理物を屋外ヤードに1ヶ月間野積みして天日乾燥し、平均水分8.5%の乾燥した回収処理物(乾燥処理物)を得た。乾燥処理物はおこし状で、粘性が低く、取り扱い性が良好であった。乾燥処理物をセメント工場のクリンカー焼成工程で鉄原料として使用したところ、問題なく使用できた。なお、クリンカー焼成工程の鉄原料の受け入れ規格は、水分10%以下、Fe_(2)O_(3)含有率50%以上、アルカリ分2%以下、SO_(3)分12.5%以下、Cl分0.1%以下であり、上記組成の乾燥処理物は、受け入れ規格を十分満たすものであった。
更に、乾燥処理物を250℃で焼成し、活性酸化鉄としたものをダイオキシン分解剤として使用したところ、問題なく使用できた。ダイオキシン分解剤用の活性酸化鉄原料の受け入れ規格は、Fe_(2)O_(3)含有率40%以上、CaO分5%以下であり、上記組成の乾燥処理物は、受け入れ規格を十分満たすものであった。ダイオキシン分解剤として使用した後の廃棄物は、そのまま製鉄原料用の鉄焼鉱としてリサイクル使用が可能であった。」との記載、および、
【0050】【表1】には、原水の水質が
「T-Fe 90.3mg/l
As 0.12mg/l
SO_(4)^(2-) 956mg/l
4.8酸度 768mg-CaCO_(3)/l
8.3酸度 830mg-CaCO_(3)/l
PH 2.5」であることの表示があり、
一方、引用例には、実施例4(上記III.(j)(k)(l))が記載されている。
ここで、本願発明の実施例1と引用例記載の発明の実施例4とは、後者の記載に即して示すと、
「粒状化したロックウール(エスファイバー粒状綿 新日化ロックウール株式会社製 平均粒径30mm)を使用し、ロックウール64重量%、ポルトランドセメント36重量%となるようにリボンミキサーで攪拌混合し、平均粒径20mm、ロックウールと無機バインダーの混合時点での嵩比重0.17の粒状混合物(未固化排水処理材)を得た。
次に、この未固化排水処理材20kgを、合成樹脂ネットの底部を有する高さ90cm、長さ120cm、幅16cmの容器内に、厚さ60cm、空隙率92%、嵩比重0.20(本願発明の実施例1では、0.174)になるように充填し、上部より同重量の水を加えて固化させ排水処理材とした。
固化完了後、この装置の上部より、水質が
PH 2.8(本願発明の実施例1では、2.5)
T-Fe 90.3mg/l
As 0.12mg/l
SO_(4)^(2-) 956mg/l
8.3酸度 830mg-CaCO_(3)/l
4.8酸度 768mg-CaCO_(3)/lである酸性坑廃水(原水)を50m^(3)通水した。この時の排水1m^(3)当たりの中和剤添加量は0.4kg/m^(3)に相当した。
容器下部から流出する処理水の鉄分除去率は99.9%であった。
また、排水処理材の透水性能は、通水後で0.6×10^(-2)cm/sであった。また、排水処理材の体積は、通水前の体積の88%であった。」という点でほぼ一致しており、これからして、引用例記載の発明(実施例4)の「鉄分を除去回収した排水処理材」(回収処理物)と本願発明(実施例1)の回収処理物とは同等のものであるということができ、そうである以上、引用例記載の発明(実施例4)の回収処理物および本願発明(実施例1)の回収処理物を乾燥した時、前者の嵩比重の184kg/m^(3)と後者の嵩比重の0.184とは、実質的に同一であり、同様に、両者の鉄分含有量(Fe_(2)O_(3)換算)は共に60wt%以上に高められている(本願発明では、鉄分含有量(Fe_(2)O_(3)換算)が60wt%以上に高められており、これと同じく、引用例記載の発明の鉄分含有量(Fe_(2)O_(3)換算)についても60wt%以上に高められている)、つまり、引用例記載の発明において、得られた回収処理物を乾燥し、「嵩比重を184kg/m^(3)とし、その後に」再使用(再利用)することは、「嵩比重を0.184とし、鉄分含有量(Fe_(2)O_(3)換算)60wt%以上に高めた後に」再利用することに相当しているということができる。
したがって、相違点1は、実質的な相違であるとはいえない。

◆相違点2について
一般に、ダイオキシン処理剤として酸化鉄を再利用(再資源化)することは、本願出願前周知の事項(例えば、特開2002-86104号公報の特に【0018】、特開2000-309718号公報の特に【0003】、特開平6-296710号公報の特に【0007】参照)であり、脱硫剤として酸化鉄を再利用することも、本願出願前周知の事項(例えば、特開2002-248452号公報の特に【0028】【0029】参照)であり、また、引用例記載の発明と上記周知の事項とは、「鉄分を再利用する」という点で共通している。
そうすると、上記「◆相違点1について」で検討したように、引用例記載の発明において、「鉄分を除去回収した排水処理材」(回収処理物)を乾燥させて再資源化(再利用)する際、「鉄分を再利用する」という点で共通する上記周知の事項を適用することで、鉄分が酸化鉄でなければ酸化鉄にした上で、ダイオキシン処理剤または脱硫剤として再利用(再資源化)すること、つまり、ダイオキシン分解剤及び脱硫剤用鉄原料のいずれか一以上から選択される材料として再利用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項にすることは、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易に想到し得ることである。

次に、請求人は、平成23年11月25日付けの意見書において、
「5.・・・したがって、酸化鉄を含みさえすればよいというものでもなく、ロックウール及びセメントから生じるケイ酸質の繊維又は粉体に酸化鉄が担持されたような構造を有する使用済み廃水処理材が、ダイオキシン分解剤又は脱硫剤用鉄原料として特に優れることを見出したことに大きな進歩性があると思料します。」
「7.・・・酸化鉄は化学物質としては豊富にあり、非常に広く使用されており、その用途には多種多様なものがあるが、本発明においては特にダイオキシン分解剤又は脱硫剤という特定の用途に使用します。多種多様な用途から、この用途を選択し、しかもこの用途において優れた性能を発揮することは容易には想到しえないことと信じます。」
「8.・・・そこで、本発明ではこの回収処理物の鉄分含有量が高いこと、鉄分以外の主な成分は廃水処理材の原料に由来するシリカであることに着目して、これをダイオキシン分解剤又は脱硫剤用鉄原料とすることに成功したものであります。・・・」
「9.酸化鉄がダイオキシン分解剤又は脱硫剤用鉄原料として有用であることは知られていたとしても、触媒や反応剤として反応に関与する場合は、それに適した性能又は性状を有する必要があるはずであり、それだけでかかる用途が容易ということにならないと信じます。そして、本発明を鉱山廃水等の廃水処理という観点から着目すると、その再利用法が開発されたことは、この廃水処理材の使用が促進され、それが大規模に使用されることにより、国内の鉱山や河川の環境改善に多大な効果をもたらし、結果として国内鉱山の発展、鉱山鉱害の防止という大きな効果をもたらすものであるので、引用文献1からは本発明は容易には想到できないものであると信じます。」等の主張をしているので、これについて、以下、検討する。

・本願明細書には、含鉄酸性廃水をロックウールとセメントの混合物よりなる廃水処理材で処理することで得られた回収処理物をダイオキシン分解剤用鉄原料として再利用することの実施例1、2があるものの、同回収処理物を脱硫剤用鉄原料として再利用することについての実施例がなく、そうである以上、脱硫剤という特定の用途において優れた性能を発揮することの根拠が示されているということはできない。
・本願明細書には、ロックウールを含まない石灰石粉末を廃水処理材として利用する比較例1(ダイオキシン分解剤用途)しか示されていない、つまり、例えば、セメントを廃水処理材として利用する場合や、ロックウールとセメントの混合物よりなる廃水処理材をダイオキシン分解剤用途以外に使用する場合などを比較例にすることが示されておらず、そうである以上、ダイオキシン分解剤という特定の用途において優れた性能を発揮することの根拠が十分に示されているということはできない。
・本願明細書には、使用済み廃水処理材(回収処理材)において、ケイ酸質の繊維又は粉体に酸化鉄が担持され、鉄分以外の主な成分がシリカであることにより、ダイオキシン分解剤又は脱硫剤用鉄原料として特に優れたものになることについての明記がなく、そうである以上、上記「ケイ酸質の・・・特に優れたものになる」旨の主張は、明細書の記載に基づくものではない。
・上記IV.で示したように、引用例には、含鉄酸性廃水(鉱山廃水等)をロックウールとセメントの混合物よりなる廃水処理材で処理して得られた回収処理材を土壌改良材等として再利用することの開示があり、そうである以上、上記回収処理材(含鉄酸性廃水中の鉄分)の再利用法がこれまで開発されていなかったということはできない。
なお、本願明細書の例えば【0047】には、「更に、乾燥処理物を250℃で焼成し、活性酸化鉄としたものをダイオキシン分解剤として使用したところ、問題なく使用できた。ダイオキシン分解剤用の活性酸化鉄原料の受け入れ規格は、Fe_(2)O_(3)含有率40%以上、CaO分5%以下であり、上記組成の乾燥処理物は、受け入れ規格を十分満たすものであった。ダイオキシン分解剤として使用した後の廃棄物は、そのまま製鉄原料用の鉄焼鉱としてリサイクル使用が可能であった。」との記載があり、これからして、ある鉄分含有物質について、これがダイオキシン分解剤として利用できるかどうかを取捨選択する受け入れ規格があるということができ、そうである以上、ある鉄分含有物質をダイオキシン分解用途に利用することは、受け入れ規格に基づく単なる取捨選択であるとみることができる。
上記より、請求人の上記主張を採用することはできない。

そして、本願発明の「有効成分(鉄)を効率的に再利用する」等の作用効果は、当業者であれば十分に予測し得ることである。
よって、本願発明は、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

V.むすび
したがって、本願発明は、引用例記載の発明および本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2、3に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-12 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-28 
出願番号 特願2002-341266(P2002-341266)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 吉川 潤
斉藤 信人
発明の名称 含鉄酸性廃水の鉄回収リサイクル方法  
代理人 中村 智廣  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 佐野 英一  

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