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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 D01F
管理番号 1251955
審判番号 不服2010-17999  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-10 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2004-333072「ポリアミド樹脂フィラメント及びそれを用いた工業用織物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 6月 8日出願公開、特開2006-144144〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成16年11月17日の出願であって、平成22年5月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年11月20日(受付日)の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「メタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応から得られた結晶性のポリアミド(A)5?50重量%と、その他のポリアミド(B)95?50重量%を配合してなるポリアミド樹脂組成物からなるフィラメントであって、且つ定長状態(初期荷重20mg/d)で加熱(160?200℃)後、80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しないポリアミド樹脂フィラメントを少なくとも経糸または緯糸の一部に使用したことを特徴とする工業用織物。」

第3 原査定の理由
1.平成22年2月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の内容
「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

<理由2>
発明の詳細な説明の0015を特に参照しても、配合比が確認できる程度で、請求項1等で規定する繊維を得るための具体的な手段に関する記載はなく、この程度の開示をもって、当業者が各請求項で規定するフイラメントを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」

2.平成22年5月13日付け拒絶査定の内容
「この出願については、平成22年2月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-5によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」

第4 当審の判断
本願発明は、上記「第2」に示したとおりの工業用織物に係る「物の発明」である。そして、「物の発明」について、特許法第36条第4項第1号に規定する、いわゆる実施可能要件を満たしているというためには、発明の詳細な説明は、当業者がその物を製造することができるように記載しなければならず、このためには、どのように作るかについての具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造できる場合を除き、製造方法を具体的に記載しなければならない。(審査基準「第I部 第1章 3.2.1(2)」参照。)
そこで、本願の発明の詳細な説明に、本願発明に係る工業用織物を製造することができるように記載されているかを検討する。
本願発明は、「80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しないポリアミド樹脂フィラメント」を発明特定事項とするものである。
本願の発明の詳細な説明には、上記ポリアミド樹脂フィラメントに関し、メタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応から得られた結晶性のポリアミド(A)5?50重量%と、その他のポリアミド(B)95?50重量%を配合してなる旨の記載がある(【0006】、【0007】、【0009】、【0011】)。実施例の記載としては、「サンプル1」のポリアミドフィラメント(M1)の配合が、ポリアミド(A)25重量%、6ナイロン(B)75重量%であり、「サンプル2」のポリアミドフィラメント(M2)の配合が、ポリアミド(A)5重量%、6ナイロン(B)95重量%であることが記載され(【0015】)、上記ポリアミドフィラメント(M1)、(M2)は、「80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しない」物性を備えるものであることが記載されている(【0016】、【0017】)。また、配合比を(A):(B)=5以上:95以下とすれば、降温域で熱収縮応力が低下しないモノフィラメントとなる旨も記載されている(【0017】)。
しかし、ポリアミド(A)とポリアミド(B)の配合割合を除き、上記ポリアミド樹脂フィラメントの製造方法については、紡糸条件等を含め、具体的に記載されていない。そして、請求人が、平成21年5月11日付けの意見書において提出した実験結果からも明らかなように、「ポリアミド(A)5?50重量%と、その他のポリアミド(B)95?50重量%」の範囲内で配合割合が同じフィラメントであっても、「80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しない」という物性を有するものと有しないものがある。このように、フィラメントの熱収縮特性は、フィラメントの配合のみによって決まるものではなく、フィラメントの紡糸条件によっても変化するものである。そうすると、ポリアミド(A)とポリアミド(B)の配合割合が記載されていても、それだけでは「80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しないポリアミド樹脂フィラメント」の製造方法を記載したことにはならない。なお、発明の詳細な説明には、上記のとおり、配合比を(A):(B)=5以上:95以下とすれば「80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しない」物性となるかのような記載もあるが、請求人が提出した上記実験結果に照らし、事実に反するというべきであるし、仮に事実であるとすれば、平成21年3月10日付け拒絶理由通知書の理由2のとおり、新規性が否定されることとなる。
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明には、「80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しないポリアミド樹脂フィラメント」の具体的な製造方法は記載されていない。また、具体的な製造方法が記載されていなくとも、出願時の技術常識に基づき、当業者が上記ポリアミド樹脂フィラメントを製造できるといえる根拠も無い。
したがって、本願の発明の詳細な説明に、「80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しないポリアミド樹脂フィラメント」を製造することができるように記載されているとはいえず、それゆえ、本願発明に係る工業用織物を製造することができるように記載されているともいえない。
よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明に係る工業用織物を製造することができるように記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、原査定の理由により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-07 
結審通知日 2011-12-14 
審決日 2011-12-28 
出願番号 特願2004-333072(P2004-333072)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (D01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菊地 則義平井 裕彰  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 紀本 孝
▲高▼辻 将人
発明の名称 ポリアミド樹脂フィラメント及びそれを用いた工業用織物  
代理人 小松 純  

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