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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B
管理番号 1251962
審判番号 不服2010-19612  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-31 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2000-371974「クリップ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年6月21日出願公開、特開2002-174210〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年12月6日の出願であって、平成22年5月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年8月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

II.平成22年8月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年8月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
パネルに貫通して形成された取付孔に挿入することにより、このパネルに取り付けられるクリップであって、基板に対して脚部およびスタビライザがそれぞれ同方向へ突出しているとともに、前記脚部は前記取付孔に挿入可能で、かつ前記パネルの裏面側で取付孔の縁に係合する係合段部を備え、前記スタビライザはその中央部に前記脚部が位置するほぼ皿形状をしており、その開放部側が前記パネルの表面に接触した後に弾性によって撓むことができ、またスタビライザは周方向に関する180°間隔の個所において開放部から切り込まれた形状のスリットを備えているクリップ。」から、
補正後の特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】
パネルに貫通して形成された取付孔に挿入することにより、このパネルに取り付けられるクリップであって、基板に対して脚部およびスタビライザがそれぞれ同方向へ突出しているとともに、前記脚部は前記取付孔に挿入可能で、かつ前記パネルの裏面側で取付孔の縁に係合する係合段部を備え、前記スタビライザは、その中央部に前記脚部が位置するほぼ皿形状で、かつ、基板の表面に対するスタビライザの外周面の傾斜角度が50°前後に設定され、このような深い皿形状のスタビライザを撓み易くするために、該スタビライザは周方向に関する180°間隔の個所において開放部から切り込まれた形状のスリットを備え、開放部側が前記パネルの表面に接触した後に弾性によって撓むことが可能になっているクリップ。」と補正された。なお、下線は対比の便のため当審において付したものである。
上記補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「スタビライザ」について、「基板の表面に対するスタビライザの外周面の傾斜角度が50°前後に設定され」と、また、同じくスタビライザの「スリット」について、「このような深い皿形状のスタビライザを撓み易くするために」とその構成を限定的に減縮するものである。
これに関して、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、基板の表面に対するスタビライザの外周面の傾斜角度が50°前後に設定されていることが図5に図示されるとともに、「これらのスリット30によりスタビライザ24の開放部28が開きやすくなり、全体としては皿形状をしていてもスタビライザ24の撓み量が大きくなる。」(段落【0010】参照)と記載されている。
結局、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当し、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に該当するものではない。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特開平9-296814号公報
(2)刊行物2:特開平11-308739号公報
(3)刊行物3:特開平10-26115号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「クリップ」に関して、図面(特に、図1?5を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(a)「本発明は、例えば、自動車トリム等の取付部品を所定パネルに間隔をおいて固定したり、同取付部品をパネルに重合して固定するためなどに使用されるクリップの改良に関するものである。」(第2頁第1欄第37?40行、段落【0001】参照)
(b)「第一実施の形態に係るクリップも、合成樹脂の一体成形品で、図1に示す如く、従来と同様に、取付部品を保持する頭部1と、パネルの取付孔に弾性的に係着する脚部2とから成るものであるが、特徴とするところは、以下の構成を採用した点にある。
まず、前者の頭部1は、頚3を介して離間する上フランジ4と下フランジ5に加えて、当該下フランジ5に連設されてパネルの表面に当接する傘フランジ6を有し、後者の脚部2は、上記傘フランジ6の下面から垂設されて下端部7のみが合体する撓み可能な6本の脚片8A・8Bを有し、当該6本の脚片中、3本の脚片8Aの外側面には、高位にあって外方へ張り出す傾斜肩9Aを形成し、残り3本の脚片8Bの外側面には、低位にあって外方へ張り出す傾斜肩9Bを形成して、この高さの異なる傾斜肩9A・9Bで、取付孔が穿設されているパネルの板厚差を効果的に吸収する構成となっている。」(第3頁第3欄第40行?第4欄第7行、段落【0013】?【0014】参照)
(c)「本クリップを用いて、今仮に、裏面に台座部22を設けた取付部品21を板厚の薄いパネルP1に固定する場合には、取付部品21の台座部22を上フランジ4と下フランジ5で挾持した状態を得て、脚部2をパネルP1に穿設されている取付孔H内に差し込むと、当該脚部2を構成する6本の脚片8A・8Bが内側に撓みながら取付孔H内に差し込まれて、その内、3本の脚片8Aに形成されている高位の傾斜肩9Aが取付孔Hを通過した時点で、傘フランジ6がパネルP1の表面に当接すると同時に、当該各傾斜肩9Aが取付孔Hの孔縁に弾性的に3点で係止するので、これにより、図4に示す如く、取付部品21が板厚の薄いパネルP1側に一定の間隔をおいてワンタッチで固定される。
尚、この場合には、別の3本の脚片8Bに形成されている低位の傾斜肩9Bは、先に、取付孔Hを通過して、何らの作用を果たすことなく、板厚の薄いパネルP1の下方に位置することとなる。又、脚部2の取付孔Hに対する差し込みに際しては、既述した如く、各脚片8Aと8Bを列方向に分離する第2スリット11が巾広で、各脚片8Aと8Bを行方向に分離する2個の第1スリット10が巾狭となっているので、各脚片の剛性を確保しながら、当該各脚片を十分に内側に撓ませることが可能となる。
逆に、同取付部品21を板厚の厚いパネルP2に固定する場合には、取付部品21の台座部22を上フランジ4と下フランジ5で挾持した状態を得て、脚部2をパネルP2の取付孔H内に差し込むと、やはり、当該脚部2を構成する6本の脚片8A・8Bが内側に撓みながら取付孔H内に差し込まれて、今度は、別の3本の脚片8Bに形成されている低位の傾斜肩9Bが取付孔Hを通過した時点で、傘フランジ6がパネルP2の表面に当接すると同時に、当該各傾斜肩9Bが取付孔Hの孔縁に弾性的に3点で係止するので、図5に示す如く、取付部品21が板厚の厚いパネルP2側にも一定の間隔をおいてワンタッチで固定される。尚、この場合には、高位の傾斜肩9Aを形成している3本の脚片8Aは、同様に、何らの作用を果たすことなく、パネルP2の取付孔Hの周面で押されて内側に撓んだ状態におかれる。」(第3頁第4欄第49行?第4頁第5欄第36行、段落【0019】?【0021】参照)
(d) 図1、4及び5から、傘フランジ6は、その中央部に脚部2が位置するほぼ皿形状をしていることが看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
【引用発明】
パネルP1,P2に貫通して形成された取付孔Hに挿入することにより、このパネルP1,P2に取り付けられるクリップであって、下フランジ5に対して脚部2および傘フランジ6がそれぞれ同方向へ突出しているとともに、前記脚部2は前記取付孔Hに挿入可能で、かつ前記パネルP1,P2の裏面側で取付孔Hの縁に係合する傾斜肩9A,9Bを備え、前記傘フランジ6は、その中央部に前記脚部2が位置するほぼ皿形状をしているクリップ。

(刊行物2)
刊行物2には、「電線束固定クリップ」に関して、図面(特に、図1?3を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(e)「本発明は、電線束を車両の壁部に固定するクリップに係り、特に、異なる板厚を有する車両の壁部に電線束を固定できるクリップに関する。」(第2頁第1欄第18?20行、段落【0001】参照)
(f)「図1において、20は、電線束固定クリップであり、バンド部21と、皿部22と、爪部23と、で構成されている。
図1に示すように、バンド部21は、図示しない電線束を結束するものであり、ベルト21aと、ベルトロック21bと、からなっている。このベルト21aは、その長さ方向に複数の図示しない溝を有し、該溝がバンドロック21bに設けられた図示しない突起に係止するようになっており、電線束の適当な締付具合で電線束を結束できるようになっている。
図1に示すように、皿部22は、バンド部21と一体に連結された皿形状のものである。詳細については後述する。図1、3に示すように、爪部23は、皿部22から突出しており、弾性変形することによって車両の壁部25a、25bに設けられた穴25c、25dに容易に挿入することができるようになっている。また、爪部23は、鍔23aを有し、爪部23を穴25c、25dに挿入したとき、皿部22と鍔23aが壁部25a、25bに係止するようになっている。
図2に示すように、皿部22は、皿部22の中心部近傍から放射状に切り欠かれた複数の切欠き22aの間に複数の羽根部22bを有している。図1、2に示すように、羽根部22bは、放射外端側で爪部23の突出方向に湾曲している。即ち、先端側のA点(図中に示す)が基端側のB点(図中に示す)より爪部23の突出側に位置することによって、取り付けできる板厚の許容範囲を広くできる。また、図2に示すように、羽根部22bおよび切欠き22aは、周方向の一方側に湾曲しており、羽根部22bは、基端より先端が細くなっている。このため、羽根部22bは、容易に変形できるとともに、羽根部22bの基端の負担を軽減できる。また、羽根部22bおよび切欠き22aは、これに限定されず、これらの数と形状によって弾性力を適宜設定できるようになっている。
電線束固定クリップ20は、図示しない電線束をバンド部21によって結束した後、壁部25a、25bに設けられた穴25c、25dに挿入して、図示しない電線束を壁部25a、25bに固定する。この電線束固定クリップ20は、図3(a)に示すように、厚板の壁部25aに取り付けた場合、羽根部22bが大きく変形し、爪部23の鍔23aと羽根部22bが、厚板の壁部25aに係止する。また、電線束固定クリップ20は、図3(b)に示すように、薄板の壁部25bに取り付けた場合、羽根部23bが図3(a)の羽根部22bの変形量より小さく変形し、爪部23の鍔23aと羽根部22bが、厚板の壁部25aに係止する。
このように、本発明の電線束固定クリップ20は、板厚の異なる壁部25a、25bに取り付ける場合、かかる異なる板厚に対応するために、電線束固定クリップ20を複数設ける必要がなく、一つの電線束固定クリップ20で異なる板厚に対応することができるとともに、壁部25a、25bに図示しない電線束を固定することができる。このため、部品点数の低減により製造コストの低減を図ることができる。また、電線束固定クリップ20の固定状態の不具合も解消することができる。」(第3頁第3欄第1行?第4欄第9行、段落【0010】?【0015】参照)

2.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「パネルP1,P2」は本願補正発明の「パネル」に相当し、以下同様にして、「取付孔H」は「取付孔」に、「下フランジ5」は「基板」に、「脚部2」は「脚部」に、「傘フランジ6」は「スタビライザ」に、「傾斜肩9A,9B」は「係合段部」に、それぞれ相当するので、両者は、下記の一致点、及び相違点を有する。
<一致点>
パネルに貫通して形成された取付孔に挿入することにより、このパネルに取り付けられるクリップであって、基板に対して脚部およびスタビライザがそれぞれ同方向へ突出しているとともに、前記脚部は前記取付孔に挿入可能で、かつ前記パネルの裏面側で取付孔の縁に係合する係合段部を備え、前記スタビライザは、その中央部に前記脚部が位置するほぼ皿形状をしているクリップ。
(相違点)
本願補正発明は、「基板の表面に対するスタビライザの外周面の傾斜角度が50°前後に設定され、このような深い皿形状のスタビライザを撓み易くするために、該スタビライザは周方向に関する180°間隔の個所において開放部から切り込まれた形状のスリットを備え、開放部側が前記パネルの表面に接触した後に弾性によって撓むことが可能になっている」のに対し、引用発明は、本願補正発明の上記構成を具備していない点。
以下、上記相違点について検討する。
(相違点について)
クリップの技術分野において、スタビライザを、基板の表面に対するスタビライザの外周面の傾斜角度を適度の角度に設定した深い皿形状とするとともに、開放部(本願の第4及び5図に記載された「開放部28」に対応する。)を具備することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物3の図3及び4には、外側のシール部21が、本体10の表面に対する外側のシール部21の外周面の傾斜角度を適度の角度に設定した深い皿形状となっているとともに、開放部を具備している構成が図示されている。特公昭48-9867号公報のFIG.1等には、円錐座金31が、ヘッド30の表面に対する円錐座金31の外周面の傾斜角度を適度の角度に設定した深い皿形状になっているとともに、開放部を具備している構成が図示されている。)にすぎない。また、上記適度の角度として、どのような角度とするかは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計変更の範囲内の事項(例えば、上記従来周知の技術手段として例示した、特公昭48-9867号公報のFIG.1等には、傾斜角度が50°前後に設定されたものが図示されている。)にすぎない。
一方、引用発明及び刊行物2に記載された技術的事項は、ともに異なる板厚に対応するクリップに係る技術分野に属するものであって、刊行物2には、「図2に示すように、皿部22は、皿部22の中心部近傍から放射状に切り欠かれた複数の切欠き22aの間に複数の羽根部22bを有している。図1、2に示すように、羽根部22bは、放射外端側で爪部23の突出方向に湾曲している。即ち、先端側のA点(図中に示す)が基端側のB点(図中に示す)より爪部23の突出側に位置することによって、取り付けできる板厚の許容範囲を広くできる。また、図2に示すように、羽根部22bおよび切欠き22aは、周方向の一方側に湾曲しており、羽根部22bは、基端より先端が細くなっている。このため、羽根部22bは、容易に変形できるとともに、羽根部22bの基端の負担を軽減できる。また、羽根部22bおよび切欠き22aは、これに限定されず、これらの数と形状によって弾性力を適宜設定できるようになっている。」(上記摘記事項(f)参照)と記載されている。
したがって、刊行物2には、皿部22を撓み易くするために、皿部22が、周方向に関する所定角度間隔の個所において切り込まれた形状の切欠き22aを備え、壁部25a、25bの表面に接触した後に弾性によって撓むことが可能になっている構成が記載又は示唆されている。また、上記「周方向に関する所定角度間隔」として、どのような角度とするかは、刊行物2の「羽根部22bおよび切欠き22aは、これに限定されず、これらの数と形状によって弾性力を適宜設定できるようになっている。」(上記摘記事項(f)参照)の記載からみて、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計変更の範囲内の事項(例えば、上記従来周知の技術手段として例示した、特公昭48-9867号公報の第2頁第4欄第17?26行、及びFIG.4等には、円錐座金31は、撓み易くするために周方向に関する180°間隔の個所において切り込まれた形状の溝孔33を備えていることが図示されている。)にすぎない。
してみれば、引用発明の傘フランジ6に、異なる板厚に対応するクリップに係る刊行物2に記載又は示唆された技術手段、及び上記従来周知の技術手段を適用することにより、下フランジ5の表面に対する傘フランジ6の外周面の傾斜角度を50°前後に設定し、このような深い皿形状の傘フランジ6を撓み易くするために、傘フランジ6に、周方向に関する180°間隔の個所において開放部から切り込まれた形状のスリットを設け、開放部側がパネルP1,P2の表面に接触した後に弾性によって撓むことが可能となるようにして、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
本願補正発明が奏する効果についてみても、引用発明、刊行物2に記載された発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
以上のとおり、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、当審における審尋に対する平成23年2月10日付けの回答書において、「本願発明(注:本審決の「本願補正発明」に対応する。)では、スタビライザを深い皿形状とし、かつ180°間隔でスリットを設けることの相乗機能により、パネルの板厚に応じてスタビライザが撓み得る領域を増加させることができる。この結果、脚部によってパネルの板厚差を吸収するのではなく、スタビライザによってパネルの板厚差を充分に吸収することが可能となる。」(「(4)本願発明と引用技術との対比」「<相違する点について>」の項参照)と主張している。
しかしながら、上記(相違点について)において述べたように、クリップの技術分野において、スタビライザを、基板の表面に対するスタビライザの外周面の傾斜角度を適度の角度に設定した深い皿形状とするとともに、開放部を具備することは、従来周知の技術手段であるし、また、刊行物2に記載されたものは、図1?3の記載からみて、皿部22の周方向に関する所定角度間隔の個所において切り込まれた形状の切欠き22aによって、壁部25a,25bの異なる板厚に対応することができることが記載又は示唆されていることから、本願補正発明は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
平成22年8月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成21年12月21日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
パネルに貫通して形成された取付孔に挿入することにより、このパネルに取り付けられるクリップであって、基板に対して脚部およびスタビライザがそれぞれ同方向へ突出しているとともに、前記脚部は前記取付孔に挿入可能で、かつ前記パネルの裏面側で取付孔の縁に係合する係合段部を備え、前記スタビライザはその中央部に前記脚部が位置するほぼ皿形状をしており、その開放部側が前記パネルの表面に接触した後に弾性によって撓むことができ、またスタビライザは周方向に関する180°間隔の個所において開放部から切り込まれた形状のスリットを備えているクリップ。」

1.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物及びその記載事項は、上記「II.1.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明は、上記「II.」で検討した本願補正発明の「スタビライザ」に関する限定事項である「基板の表面に対するスタビライザの外周面の傾斜角度が50°前後に設定され」という構成を省くとともに、同じくスタビライザの「スリット」に関する限定事項である「このような深い皿形状のスタビライザを撓み易くするために」という構成を省くことにより拡張するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定したものに相当する本願補正発明が、上記「II.2.」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1及び2に記載された発明、並びに従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-08 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-28 
出願番号 特願2000-371974(P2000-371974)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16B)
P 1 8・ 575- Z (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平城 俊雅長屋 陽二郎  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 倉田 和博
常盤 務
発明の名称 クリップ  
代理人 特許業務法人岡田国際特許事務所  

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