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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01D |
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管理番号 | 1251968 |
審判番号 | 不服2010-22779 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-08 |
確定日 | 2012-02-09 |
事件の表示 | 特願2006- 19498「合成床版製橋梁構造」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-198055〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成18年1月27日の出願であって,平成22年6月24日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。 その後,平成22年12月1日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ,平成23年2月16日に回答書が提出された。 第2 本願発明 本願の請求項3に係る発明は,平成22年10月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「底鋼板を備えて、鋼とコンクリートとからなる合成床版を用いた合成床版製橋梁構造において、 前記合成床版の橋軸直角方向の両端部に配して合成床版を支持する主桁と、 前記主桁に連繋させて配し、前記合成床版の橋軸直角方向の中央部を支持する縦桁とかなることを特徴とする合成床版製橋梁構造。」 (以下,請求項3に係る発明を「本願発明」という。) 第3 引用刊行物 原審の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である,特開2002-4226号公報(以下,「刊行物1」という。)には,次のことが記載されている。(下線は,当審にて付与。) (1a)「【請求項1】 新設縦桁を二つの既設縦桁の中間部で橋軸方向に設け、両既設縦桁上縁部に差渡された緊張用ケーブルによって新設縦桁に揚力を付与することを特徴とするコンクリート床版の補強方法。」 (1b)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、既設の橋梁の鉄筋コンクリート床版の補強方法に関する。」 (1c)「【0004】 【作用】床版3の劣化は、橋梁1を通過する車両等の重量により床版3に撓み変形が繰り返し発生することに起因する。そこで本発明では縦桁を増設して床版3を下から押上げ撓み変形を軽減することによって経時的な劣化の進行を抑制する。本発明に従ったコンクリート床版の補強方法は、たとえば図2に示すように橋軸方向に伸びた縦桁2,2をもつ橋梁1に適用される。既設縦桁2,2はI型鋼等の既設主桁4,4を介して橋脚(図示せず)に支えられている。まず断面I字状の新設縦桁10を補強される既設橋梁1の縦桁2,2の中央で橋軸方向に床版3の下面に当接するように配置する。次に緊張ケーブル11が既設縦桁2又は既設の主桁4の上部から、新設縦桁10の下部に設けたケーブルサドル12を経由して他方の既設縦桁2又は既設主桁4の上部に差渡される。緊張ケーブル11は橋軸方向に所定の間隔で多数差渡される。緊張ケーブル11は強い張力が掛けられた状態で張設されるため、新設縦桁10が上方に持ち上げられる。その結果、橋梁1を通過する車両等の重量に対して床版3の撓み応力が軽減され、撓み変形の繰り返しによる床版の劣化が抑えられる。」 (1d)【図2】には,橋梁1を構成する床版3は,その幅の両端部下面に縦桁2,2を備えていることが記載されている。 上記記載(1a)?(1d)及び図面の記載からみて,刊行物1には,以下の発明が記載されているものと認められる。 「その幅方向の両端部下面に橋軸方向に伸びる縦桁2,2を備えたコンクリート床版3と, 前記縦桁2,2を介してコンクリート床版3を支持する既設主桁4,4と, 前記既設主桁4,4間に差渡された緊張用ケーブル11からの揚力により,コンクリート床版3の前記縦桁2,2の中央で橋軸方向にコンクリート床版3の下面に当接するように配置される縦桁10とかなる,橋梁構造。」 (以下,「刊行物1記載の発明」という。) 第4 当審の判断 1.本願発明と刊行物1記載の発明との対比 本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「既設主桁4,4」及び「縦桁10」が,本願発明の「主桁」及び「縦桁」にそれぞれ相当している。 そして,刊行物1記載の発明の「縦桁2,2を備えたコンクリート床版3」と本願発明の「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」とは,ともに「床版」である点で共通している。 さらに,刊行物1記載の発明の「縦桁10」の構成である,「既設主桁4,4間に差渡された緊張用ケーブル11からの揚力により,コンクリート床版3の縦桁2,2の中央で橋軸方向にコンクリート床版3の下面に当接するように配置される」という構成は,本願発明の「縦桁」の構成である,「主桁に連繋させて配し、合成床版の橋軸直角方向の中央部を支持する」という構成に相当している。 したがって,両者は,以下の点で一致している。 「床版の橋軸直角方向の両端部に配して合成床版を支持する主桁と, 前記主桁に連繋させて配し,前記床版の橋軸直角方向の中央部を支持する縦桁とからなる,橋梁構造。」 そして,以下の点で相違している。 (相違点) 本願発明は,床版が,「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」であって,全体として「合成床版製橋梁構造」であるのに対して,刊行物1記載の発明は,床版が,「コンクリート床版」であって,全体としても「合成床版製橋梁構造」とはならない点。 2.相違点についての判断 橋梁の床版として「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」は,特開2003-278112号公報及び特開2003-13410号公報等に記載されているように,周知であり,刊行物1記載の発明の「コンクリート床版」を該周知の「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」に置き換えて,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 以上より,本願発明は,本願出願前に頒布された刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 請求人の主張に対して 請求人は,概ね,以下の主張をしている。 本願発明は,ハンチ構造を採用しないものであって,橋梁を新設する際の構造である。それに対して,刊行物1記載の発明は,ハンチ構造を備えるものであって,既設の橋梁の改修に係る発明であるから,両者は,構成が全く相違するものである。 しかしながら,ハンチ構造を採用するか否かは,床版の強度等に応じて当業者が適宜決定すべき設計事項であるし,本願発明の構成が,ハンチ構造を不必要とする特別な構成であるとも認められない。 また,確かに,刊行物1には,既設の橋梁の補強の発明について記載されているが,該補強によって補強された後の橋梁構造としては,床版をその幅方向の両端部と中央の縦桁により支持するものであって,刊行物1記載の発明の認定に誤りはなく,該刊行物1記載の発明から本願発明が容易に発明できることは,上記「第4 当審の判断」のとおりである。 さらにいえば,刊行物1記載の発明の橋梁構造を,橋梁を新設する際の構造として採用することを妨げる要因はないから,刊行物1記載の発明が橋梁を新設する際の構造に係る発明でないとしても,そのことによって刊行物1記載の発明から本願発明が容易に発明できたものであるとする判断を覆すまでには至らない。 したがって,上記請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明は,本願出願前に頒布された刊行物1記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができず,本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 -付言- 上記のとおり、本願は拒絶をすべきものであるが、本願請求項1?3は、以下の拒絶理由も存する。 <請求項1について> 本願出願前に頒布された刊行物である,特開2001-32216号公報(以下,「刊行物A」という。)には,「プレストレストコンクリート床版12の橋軸直角方向の中央部に配して床版を支持する閉断面箱桁からなる橋梁構造。」(以下,「刊行物A記載の発明」という。)が記載されており,本願の請求項1に係る発明と対比すると,両者は,下記の点で相違し,その余の点で一致する。 (相違点a) 請求項1に係る発明は,床版が,「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」であるのに対し,刊行物A記載の発明は,床版が,「プレストレストコンクリート床版」である点。 (相違点b) 請求項1に係る発明は,「主桁から張り出させて,床版の端部にそれぞれ連結させたブラケット」を備えているのに対し,刊行物A記載の発明は,このようなブラケットを備えていない点。 (相違点c) 請求項1に係る発明は,「ハンチ構造を備えていない」のに対し,刊行物A記載の発明はこの点について特定されていない点。 相違点aについて検討する。 橋梁の床版として「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」は,特開2003-278112号公報及び特開2003-13410号公報等に記載されているように,周知であり,刊行物1記載の発明の「コンクリート床版」を該周知の「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」に置き換えることは,当業者が容易になし得たことである。 相違点bについて検討する。 橋梁において「主桁から張り出させて,床版の端部にそれぞれ連結させたブラケット」を設けることは,本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-23684号公報(前置報告書に引用文献1として提示済み)記載の「プレキャストストラット40」及び同じく本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-140525号公報(拒絶理由通知書に引用文献1として提示済み)記載の「斜め支持部材16」として示されているように公知であるから,刊行物A記載の発明において,「主桁から張り出させて,床版の端部にそれぞれ連結させたブラケット」を採用して,上記相違点bに係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。 相違点cについて検討する。 ハンチ構造を採用するか否かは,床版の強度等に応じて当業者が適宜決定すべき設計事項である。 したがって,本願の請求項1に係る発明は,刊行物A記載の発明及び上記公知刊行物記載の発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 <請求項2について> 請求項2に係る発明と刊行物A記載の発明とを対比すると,両者は,上記相違点a?cに加え,さらに,下記の点で相違し,その余の点で一致する。 (相違点d) 請求項2に係る発明は,主桁が,細幅箱桁であるのに対し,刊行物A記載の発明は,主桁が箱桁ではあるが,細幅箱桁であるかは明らかではない点。 (相違点e) 請求項2に係る発明は,「ブラケットを箱桁の下端部から張り出させた」ものであるのに対し,刊行物A記載の発明は,そもそもブラケットを有していない点。 相違点dを検討する。 「細幅箱桁」は,請求人が意見書において添付し,本願出願前に頒布された「添付資料1」(「新しい鋼橋の誕生 II 改訂版」7頁「2-3 細幅箱桁橋」の項 社団法人 日本橋梁建設協会 改訂版発行 2004年12月)に記載されているように公知であり,刊行物A記載の発明の「閉断面箱桁」を従来公知の「細幅箱桁」とすることは,当業者が容易になし得ることである。 相違点eを検討する。 「ブラケットを箱桁の下端部から張り出させた」ものは,上記「<請求項1>について」の項において提示した特開2005-23684号公報記載の「プレキャストストラット40」及び同じく本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-140525号公報記載の「斜め支持部材16」として示されているように公知であるから,刊行物A記載の発明において,ブラケットを設け,そのブラケットを箱桁の下端部から張り出すように構成することは,当業者が容易になし得ることである。 したがって,本願の請求項2に係る発明は,刊行物A記載の発明及び上記公知刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 <請求項3について> 本願出願前に頒布された,「新版 土木工学ハンドブック 中巻 1980年9月1日 1版 7刷」(以下,「刊行物B」という。)には,その1250頁の図-2.26,及び,1315頁の図-6.2として,以下の記載がある。 したがって,刊行物Bには,「床版を支持する二つの主桁と,これらの主桁を繋ぐ横桁と,該横桁に支持され,床版の橋軸直角方向の中央部を支持する縦桁とからなる橋梁構造。」(以下,「刊行物B記載の発明」という。)が記載されており,請求項3に係る発明と刊行物B記載の発明とを対比すると,両者は,次の点で相違し,その余の点で一致する (相違点f) 本願発明は,床版が,「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版を用いた」のに対し,刊行物B記載の発明は,合成床版であるか不明な点。 しかしながら,橋梁の床版として「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」は,特開2003-278112号公報及び特開2003-13410号公報等に記載されているように,周知であり,刊行物B記載の発明の「コンクリート床版」を該周知の「底鋼板を備えて,鋼とコンクリートとからなる合成床版」に置き換えることは,当業者が容易になし得たことである。 したがって,本願の請求項3に係る発明は,刊行物B記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 |
審理終結日 | 2011-10-12 |
結審通知日 | 2011-11-01 |
審決日 | 2011-11-25 |
出願番号 | 特願2006-19498(P2006-19498) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E01D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柳元 八大 |
特許庁審判長 |
鈴野 幹夫 |
特許庁審判官 |
仁科 雅弘 宮崎 恭 |
発明の名称 | 合成床版製橋梁構造 |
代理人 | 望月 秀人 |