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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1251969
審判番号 不服2010-23146  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-13 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2006-254676「単独運転防止装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月 3日出願公開,特開2008- 79407〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成18年9月20日の出願であって,平成22年7月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年10月13日に拒絶査定に対する審判が請求されると共に,同日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成22年10月13日付け手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「複数の分散電源装置と,これらの分散電源装置と夫々電気的に接続する電力系統と,前記各分散電源装置と通信路を介して接続する通信ネットワークとを備えた単独運転防止装置であり,
前記分散電源装置は直流電源と系統連系インバータとを有し,
前記系統連系インバータは,直流電源の直流電力を交流電力に変換するインバータと,電力系統との連系,解列を行う遮断器と,分散電源装置を特定する装置特定信号と単独運転検出信号とを,前記系統連系インバータと異なる他の系統連系インバータと双方向で送受信する制御装置とを有し,
装置特定信号を用いて,同一系統内で外乱を発生するインバータを1台だけに特定することを特徴とする単独運転防止装置。」と補正された。

上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「分散電源装置の特定信号と単独運転検出信号を送受信する制御装置」を「分散電源装置を特定する装置特定信号と単独運転検出信号とを,前記系統連系インバータと異なる他の系統連系インバータと双方向で送受信する制御装置」に,「特定信号」を「装置特定信号」に限定するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-278257号公報(以下,「引用例」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と,該直流電源に接続され直流電力を交流電力に変換する電力変換装置との組を複数含み,各電力変換装置が並列に接続されて系統電源に交流電力を供給する発電システムであって,
前記電力変換装置から,前記系統電源からの電力の供給が停止された状態である単独運転状態の検出を行うマスター機として一つの電力変換装置を設定し,それ以外の電力変換装置では前記単独運転状態の検出を行わないように設定する運転状態設定手段を備え,
前記運転状態設定手段は,動作中の電力変換装置に前記マスター機が存在しない場合,所定の条件に従って動作中の電力変換装置から前記マスター機を選択することを特徴とする発電システム。
【請求項2】・・・
【請求項3】・・・
【請求項4】・・・
【請求項5】
前記所定の条件は,出力電力の大きさであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の発電システム。」

・「【0005】
また近年,1つの太陽電池モジュール毎に,対応する容量(約100W程度)のインバータを設けて,交流電力を出力するインバータ一体型太陽電池モジュール(ACモジュールとも称する)の開発が進められており,このACモジュールを数十枚並列に接続して太陽電池アレイを構成し,太陽光発電システムを構築する例が今後予想される。このような構成でも,インバータは並列に接続される。
【0006】
一般に,太陽光発電等の自然エネルギによる発電システムを既存の電力系統と接続して系統連系運転を行う場合には,事故等で電力系統が停電した場合に,インバータが単独で運転する状態(単独運転)を回避するため,発電システム側で速やかにこれを検出して,発電装置の動作を停止させる必要がある。
【0007】
その方法としては・・・インバータの出力に常時電圧や周波数に変動(外乱信号)を与えておき,停電時に顕著にあらわれるインバータの出力変動を検出することで単独運転を検出する能動的方式がある。」

・「【0025】
単独運転状態の検出方式としては能動的方式が好ましく,直流電源としては,太陽電池を用いるのがよい。」

・「【発明の効果】
【0027】
本発明によれば,システム内の複数の電力変換装置から選択されたマスター機だけが単独運転の検出を行い,それ以外の電力変換装置では単独運転の検出を行わないので,単独運転の検出が効率的に行われる。また,動作中の電力変換装置に前記マスター機が存在しない場合には,所定の条件に従って動作中の電力変換装置からマスター機が設定されるので,システム内で単独運転状態の検出が行われない状態となるのを回避でき,安定した発電システムとすることができる。」

・「【0029】
[第1の実施の形態]
以下,本発明に係る発電システムの第1の実施形態について図を参照して説明する。・・・
【0030】
(太陽光発電システム)
図3は,本実施形態の太陽光発電システムの全体構成を示すブロック図である。本実施形態では10A?10Eで示すように発電装置として太陽電池モジュールを5つ使用し,1つの太陽電池モジュールに対して1台のインバータ(電力変換装置)20が接続されたACモジュール型の構成である。5台のインバータ20A?20Eの交流出力は,図示されたように電力線40で並列接続されて,商用系統30に連系されている。また,各インバータ20A?20Eは通信線50によって接続されており,相互に通信を行うことにより,1台のマスター機と,その他4台のスレーブ機を設定し,マスター機だけが能動方式の単独運転検出動作を行っている。」

・「【0034】
(電力変換装置の内部構造)
図2は,本実施形態に用いるインバータ20の内部構造を示すブロック図である。211は上述の太陽電池モジュール10から出力される直流電力を入力する入力端子であり,212は交流に変換された電力を系統や交流負荷に出力する出力端子である。24は平滑コンデンサ,リアクトル,ダイオード,スイッチング素子等により構成される直流/交流変換回路である。25は交流出力の開閉を行う連系リレー,232は入力端子から入力された電圧を検出する入力電圧検出器,231は入力された電流を検出する入力電流検出器,234は直流/交流変換回路によって直交変換され出力される電圧を検出する出力電圧検出器,233は出力される電流を検出する出力電流検出器,235は出力端子に接続される系統30の電圧を検出する系統電圧検出器である。26はマイクロプロセッサなどからなる制御回路である。」

・「【0047】
[第2の実施の形態]
以下,本発明に係る発電システムの第2の実施形態について説明する。第2の実施形態も上記で説明した第1の実施形態と同様な太陽光発電システムであり,以下の説明では,第1の実施形態と同様な部分については説明を省略し,本実施形態の特徴的な部分を中心に説明する。
【0048】
(制御回路)
本実施形態におけるインバータは,並列接続された他のインバータと相互に通信するために,図4に示すように9本の通信用端子を有している。・・・
【0049】・・・
【0050】
(インバータの動作)
続いて,本実施形態のインバータの動作を図5のフローチャートを参照して説明する。
【0051】
第1の実施の形態と同様に,各インバータは,太陽電池モジュールからの出力電圧が起動電圧を超えるまで待機し(ステップS501),出力電圧が起動電圧を超えた時点でマスター機設定用端子の状態を確認する(ステップS502)。この時マスター機設定用端子がLow状態である場合(ステップS203でYES)は,そのインバータはマスター権を得ることになり,接続されているマイコンのI/O端子を書き込み用の端子(Write)として設定し(ステップS504),マスター機設定用端子の出力をHigh状態とする(ステップS505)。このようにすることで,最初に起動したインバータ(以降,インバータAとする)がマスター機として設定される。
【0052】
これ以降,マスター機設定用端子はHigh状態に保たれ,接続されている他のインバータの太陽電池モジュールが動作開始電圧に達して,マスター機設定用端子の状態を確認する時にはHigh状態であるため,既に他のインバータがマスター機として設定されていることを認識することができる。
【0053】
その後,マスター機に設定されたインバータAは,プログラム内でマスターフラグを1に設定し(ステップS506),能動方式の単独運転検出動作を行うマスター機として動作することを設定し,インバータの動作を開始する。
【0054】
次に,2番目に起動したインバータ(以降,インバータBとする)の動作について説明する。
【0055】
インバータBもインバータAと同様に,太陽電池モジュールの出力電圧が起動電圧を超えた時点でマスター機設定用端子を確認する(ステップS501,S502)。この場合,すでにインバータAによりこの端子はHigh状態に設定されているため,マスター機設定用端子を読み込んだインバータBは,Highの信号を受け取る(ステップS503でNO)。
【0056】
次にインバータBは,予備マスター機設定用端子を確認する(ステップS507)。この時点では,予備マスター機として設定されているインバータはまだないので,この端子はLow状態となっている(ステップS508でYES)。インバータBは,この予備マスター機設定用端子がLow状態である場合は,予備マスター権を得たことになり,接続されているマイコンのI/O端子を書き込み用の端子(Write)として設定し(ステップS509),予備マスター機設定用端子の出力をHigh状態とし(ステップS510),インバータBは予備マスター機として設定される。
【0057】
これ以降,予備マスター機設定用端子はHigh状態に保たれ,接続されている他のインバータ(インバータC?E)の太陽電池モジュールが起動電圧を超え,予備マスター機設定用端子を読み込んだ時はHigh状態であるため,既に他のインバータが予備マスター機として設定されていることを認識することができる。
【0058】
その後,予備マスター機として設定されたインバータBは,プログラム内で予備マスターフラグを1に設定し(ステップS511),マスター機が故障したとき,あるいは影等により動作が停止した時に,マスター機に代わり能動方式の単独運転検出動作を行う予備マスター機として設定し,インバータ動作を開始する。
【0059】
また,ここでインバータBは,自身のID番号等をデータ通信用端子によりマスター機に送信し,インバータBが予備マスター機として設定されたことをマスター機に対して通知する。
【0060】
次に,3番目に起動したインバータ(以降,インバータCとする)の動作について説明する。
【0061】
インバータCも他のインバータと同様に,太陽電池モジュールの出力電圧が起動電圧を超えた時点でマスター機設定用端子を確認する(ステップS501,S502)。この場合,すでにインバータAによりこの端子はHigh状態に設定されているため,マスター機設定用端子を読み込んだインバータCは,Highの信号を受け取る(ステップS503でNO)。次にインバータCは,予備マスター機設定用端子を確認する(ステップS507)。この場合においても,すでにインバータBによりこの端子はHigh状態に設定されているため,予備マスター機設定用端子を読み込んだインバータCは,Highの信号を受け取る(ステップS508でNO)。
【0062】
この結果,インバータCは,既に他のインバータがマスター機及び予備マスター機に設定されていることを認識でき,インバータCはスレーブ機として設定されることになる。その後,インバータCはプログラム内でスレーブフラグを1に設定し(ステップS512),能動方式の単独運転検出動作を行わないスレーブ機として動作することを設定し,インバータの動作を開始する。
【0063】
さらにインバータCは,自身のID番号等をマスター機と予備マスター機にデータ通信線を用いて送信し,インバータCがスレーブ機として動作を開始したことをマスター機と予備マスター機に対して通知する。」

・「【0064】
続いて,本実施形態において,マスター機(インバータA)が停止した場合の予備マスター機の動作について図6のフローチャートを参照して説明する。
【0065】
上述のように,マスター機として設定されたインバータ(インバータA)からは,マスター機設定用端子にHigh信号が出力されている。本実施形態では,このマスター機設定用端子の状態を予備マスター機(インバータB)が常時監視してマスター機の動作状態を把握している。すなわち,マスター機が停止した場合には,マスター機設定用端子の状態がHighからLow状態に変化するため,この端子の状態を監視することで,予備マスター機はマスター機が停止したことを認識することができる。
【0066】
予備マスター機はマスター機設定用端子の状態を確認し(ステップS601),マスター機設定用端子の出力がLowであり(ステップS602でYES),マスター機が停止したことを認識したとき,予備マスター機は,まず,自身が仮のマスター機として能動方式の単独運転検出動作を行い(ステップS603),発電システムの安全性を保った後に,次のマスター機を決める動作を行う。
【0067】
本実施形態において,予備マスター機が次のマスター機を決める動作について説明する。スレーブ機は,インバータの動作を開始する時に,前述したように自身のIDを予備マスター機に送信しているため,予備マスター機は,現状の発電システムにおいてスレーブ機として接続されているインバータを把握している。
【0068】
そこで予備マスター機は,この発電システムにスレーブ着として接続されている各インバータと順番にデータ通信線を用いて通信することにより,各インバータの現在の発電電力についての情報を収集する(ステップS604)。予備マスター機は,収集した各インバータの発電電力を比較し,発電電力が最も大きいインバータと2番目に大きいインバータを特定する。この時予備マスター機自身の発電電力を比較対象に入れてもよい。
【0069】
そして,発電電力が最も大きいインバータをマスター機に選択し,マスター機として選択されたインバータに対してマスター権信号をデータ通信線を用いて送信する8ステップS605)。また,発電電力が2番目に大きいインバータを予備マスター機として選択し,同様に予備マスター権信号をデータ通信線を用いて送信する(ステップS606)。」

・「【0080】
また,本実施形態では各インバータが相互に通信を行い,予備マスター機やマスター機が次のマスター機や予備マスター機を設定したが,これに限らず,パソコンなどの管理装置を別途設けて,該管理装置が各インバータの情報を収集し,次のマスター機や予備マスター機を設定するように制御することも可能である。」

・また,上記段落【0030】の記載と第3図における通信線50の接続態様とによれば,各インバータ20A?20Eは,通信線50を介して接続する通信ネットワークとされていることは明らかである。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「複数のインバータ一体型太陽電池モジュールと,これらのインバータ一体型太陽電池モジュールと電力線40で並列接続する商用系統30と,前記各インバータ一体型太陽電池モジュールと通信線50を介して接続する通信ネットワークとを備えた単独運転を回避する発電システムであり,
前記インバータ一体型太陽電池モジュールは太陽電池モジュールとインバータ20A?20Eとを有し,
前記インバータ20A?20Eは,太陽電池モジュール10の直流電力を交流電力に変換する直流/交流変換回路24と,商用系統30に連係される交流出力の開閉を行う連系リレー25と,インバータ自身のID番号等を,前記インバータ20A?20Eと異なる他のインバータ20A?20Eと相互に通信を行う制御回路26とを有し,
ID番号等を用いて,複数のインバータ20A?20Eのうちマスター機を1台設定し,マスター機だけが系統内で単独運転検出動作を行う単独運転を回避する発電システム。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると,その機能・作用からみて,後者の「インバータ一体型太陽電池モジュール」が前者の「分散電源装置」に相当し,以下同様に,「電力線40で並列接続する商用系統30」が「夫々電気的に接続する電力系統」に,「通信線50」が「通信路」に,「単独運転を回避する発電システム」が「単独運転防止装置」に,「太陽電池モジュール」が「直流電源」に,「インバータ20A?20E」が「系統連系インバータ」に,「直流/交流変換回路24」が「インバータ」に,「商用系統に連系される交流出力の開閉を行う連系リレー25」が「電力系統との連系,解列を行う遮断器」に,それぞれ相当している。

次に,後者の「インバータ自身のID番号等」は,そのインバータが一体とされたインバータ一体型太陽電池モジュールを特定できるから,前者の「分散電源装置を特定する装置特定信号」に相当しており,後者の「インバータ20A?20Eと異なる他のインバータ20A?20Eと相互に通信を行う制御回路26」が前者の「系統連系インバータと異なる他の系統連系インバータと双方向で送受信する制御装置」に,後者の「ID番号等」が前者の「装置特定信号」にそれぞれ相当している。

続けて,前者における「装置特定信号を用いて」との態様については,本願明細書中の『装置特定信号13を出力すると同時に,他の分散電源装置からの装置特定信号を受信し,外乱発生判定部15において,外乱を発生するか否かを判定する。装置特定信号13としては,例えば分散電源装置のシリアル番号や製造年月日等,装置に固有の番号であれば適用可能である。外乱発生判定に使用する例えば条件Aの例としては,装置特定信号13を,他の系統連系インバータ6から受信した装置特定信号13と比較し,「最も数値が小さいこと」,「最も日付情報が古いこと」等,1台を決めることが可能な条件であれば適用可能である。』(【0019】)との記載からすれば,装置特定信号を「比較して」用いるものとも解釈できるが,特許請求の範囲には「装置特定信号を比較して用いて」とは記載されていないから,「装置特定信号を用いて」いれば足りるものと解釈するのが相当である。
そうすると,引用発明においても,マスター機を設定する際には,発電電力が最も大きいものを条件として,そのインバータを特定するためにインバータ自身のID番号等を用いている(引用例中の【特許請求の範囲】,【0067】?【0069】等参照。)ことは明らかであるから,結局,後者の「ID番号等を用いて」との態様は前者の「装置特定信号を用いて」との態様に相当する。
なお,装置特定信号を比較して用いるものも,周知の技術にすぎない(例えば,特開2006-230115号公報(「【0033】・・・識別番号設定回路28は,複数N0の全ての各発電設備8に対応して順次的な識別番号(「装置特定信号」に相当する。)を予め付与して設定する。」,「【0048】・・・ステップc3では,自己の発電設備の識別番号よりも,さらに上位の識別番号を有する発電設備が稼働しているかどうかを判断する。自己の発電設備8よりも上位の識別番号を有する稼働中の発電設備8が存在しないならば(「装置特定信号を比較して用いて」との態様に相当する。),次のステップc4では,自己の発電設備8を代表機として選定して(「1台だけに特定する」態様に相当する。)設定する。」参照。)。

最後に,後者の「複数のインバータ20A?20Eのうちマスター機を1台設定し,マスター機だけが系統内で単独運転検出動作を行う」態様は前者の「同一系統内で外乱を発生するインバータを1台だけに特定する」態様に相当する。ここで,特に「外乱を発生する」点については以下のとおりである。
すなわち,引用例には,引用発明の前提となる一般的技術として,次のように記載されている。
「【0006】 一般に,太陽光発電等の自然エネルギによる発電システムを既存の電力系統と接続して系統連系運転を行う場合には,事故等で電力系統が停電した場合に,インバータが単独で運転する状態(単独運転)を回避するため,発電システム側で速やかにこれを検出して,発電装置の動作を停止させる必要がある。【0007】その方法としては・・・インバータの出力に常時電圧や周波数に変動(外乱信号)を与えておき,停電時に顕著にあらわれるインバータの出力変動を検出することで単独運転を検出する能動的方式がある。【0008】しかしながら,同様の能動的検出方式を有したインバータが多数並列に接続され,系統連系する場合は,外乱信号が相互干渉を起こすことから単独運転検出の感度が低下してしまい,単独運転状態を検出できない恐れが生じる」
この記載からすると,能動的検出方式を有したインバータが多数並列に接続される場合,それぞれのインバータが外乱信号を発生していると解される。
してみると,引用例の段落【0030】の「1台のマスター機と,その他4台のスレーブ機を設定し,マスター機だけが能動方式の単独運転検出動作を行っている。」においては,マスター機が単に単独運転の検出だけでなく,外乱信号をも(マスター機の直流/交流変換回路が)発生していると解するのが相当である。
そしてこのことは,マスター機が単独運転の検出だけでなく,外乱信号をも発生することが慣用手段であることとも矛盾しない(慣用手段であることについては,例えば,特開2000-270482号公報(「【0019】更に,図3に示す如く,マスタ/スレーブ切替スイッチ14がマスタ側に設定されたパワーコンディショナ(マスタ(選択)機と称する)が,能動的単独運転検知のための周波数変動等の外乱を内部クロックで定周期に発生する機能と,電力系統の異常を判定する機能の両者を含み,マスタ/スレーブ切替スイッチ14がスレーブ側に設定された残りのパワーコンディショナ(スレーブ(選択)機と称する)は,単に,マスタ機からの発電停止指令が入力されるようにしたものである。」),前記特開2006-230115号公報(「【0042】ステップb6では,選定された代表機が,自己の発電設備8であるかどうかを判断される。自己の発電設備8が代表機であると判断されたとき,ステップb7に移り,処理回路34からライン36に導出する変動信号の値である振幅を設定するための振幅設定信号を,ライン38を介して処理回路34に与える。【0043】・・・【0044】ステップb8では,処理回路34が,設定された変動信号の振幅Bで動作するように,処理回路34を,単独運転検出動作の達成のために指示する信号を出力する。ステップb9では,自己が発電設備8の代表機であって,単独運転の検出のための動作を行わせ,単独運転が検出される・・・。」及び図4)参照。)。

したがって,本願補正発明と引用発明とは,
「複数の分散電源装置と,これらの分散電源装置と夫々電気的に接続する電力系統と,前記各分散電源装置と通信路を介して接続する通信ネットワークとを備えた単独運転防止装置であり,
前記分散電源装置は直流電源と系統連系インバータとを有し,
前記系統連系インバータは,直流電源の直流電力を交流電力に変換するインバータと,電力系統との連系,解列を行う遮断器と,分散電源装置を特定する装置特定信号を,前記系統連系インバータと異なる他の系統連系インバータと双方向で送受信する制御装置とを有し,
装置特定信号を用いて,同一系統内で外乱を発生するインバータを1台だけに特定する単独運転防止装置。」
の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点]
系統連系インバータと異なる他の系統連系インバータと双方向で送受信する制御装置に関し,本願補正発明が,「独単運転検出信号」を送受信するのに対し,引用発明は,「独単運転検出信号」を送受信するかどうか不明である点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

単独運転を検出した系統連系インバータが,同一系統内の他の系統連系インバータに,単独運転検出情報を伝えて,各分散電源装置を電力系統と解列することは周知技術である(例えば,特開2000-270482号公報(「【0020】この第1実施形態では,マスタ機のみが能動的に外乱を発生し,その時の電力系統の異常を判定する。残りのスレーブ機は,全て,該マスタ機から入力される発電停止指令により,発電を停止する。」),特開2006-230115号公報(「【0044】・・・ステップb9では,自己が発電設備8の代表機であって,単独運転の検出のための動作を行わせ,単独運転が検出されると,ステップb13に移り,処理回路34によって発生される遮断器22の遮断のための信号を受信して,通信回路31によってライン32から他の稼働中の発電設備8に送信する。他の稼動中の発電設備8は,この信号を受信すると遮断器22を遮断する。」及び図4のステップb13,b11,b12)参照。)。
また,単独運転を防止するためには,単独運転を検出した系統連系インバータの属する分散電源装置のみを電力系統と解列するのでは足りず,同一系統内の各分散電源装置を電力系統と解列する必要があることは,当業者にとっては技術的に明らかである。
そうすると,引用発明の各分散電源装置を電力系統と解列するために上記周知技術を適用して,上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が必要に応じて容易に想到し得たことである。

なお,請求人は,平成22年10月25日付け手続補正書により補正された審判請求書の請求の理由において,
『しかし,引用例1には,本発明のように,分散電源装置を特定する装置特定信号と単独運転検出信号とを,前記系統連系インバータと異なる他の系統連系インバータと双方向で送受信する制御装置を有し,装置特定信号を用いて,同一系統内で外乱を発生するインバータを1台だけに特定することについては全く記載されていない。まして,引用例1には,本発明のような構成にすることにより,同期確認トリガ信号の有無によらず安定して単独運転を検出することができるという特殊な効果は示唆されていない。この効果は,次の1),2)の理由により得られる。
1)電力系統に対して外乱を発生している系統連系インバータは1台だけであり,他の系統連系インバータが出す外乱と相殺することによる,単独運転状態の検出感度低下は無く,他のインバータも確実に停止させることが可能である。
2)故障中,停止中の系統連系インバータは外乱発生が除外されるため,外乱発生が喪失することが無く,安定して単独運転状態を検出することができる。
従って,引用例1記載の発明には,請求項1記載の本願発明と構成の点で異なるのみならず,本願発明のような構成にすることにより施工性に優れ,且つ安定して単独運転を検出できるという特殊な効果は示唆されていない。』と主張し,さらに,平成23年4月28日付け回答書において,
『(3)本発明の特許性
しかし,引用例1において,「マスター機」,「予備マスター機」,あるいは「スレーブ機」であることの設定は,「マスター機用設定端子」および「予備マスター機設定用端子」のハードウェアの入出力(I/Oポート)状態により判定する(段落0042?0044,0061,0062)ものであり,通信結果に基づいて決定するものではありません。
これに対し,本発明は,複数の系統連系インバータ間において,「双方向で送受信する制御装置」および「装置特定信号」により,同一系内で外乱を発生するインバータを1台だけに特定するものであり,通信結果に基づいて「1台だけに特定」する本発明と引用例1記載の発明とは明らかに異なるものであると思料します。』
と主張している。
しかしながら,審判請求書の請求の理由における上記主張は,上記のとおり対比できること,及び,引用例中の【発明の効果】の「本発明によれば,システム内の複数の電力変換装置から選択されたマスター機だけが単独運転の検出を行い,それ以外の電力変換装置では単独運転の検出を行わないので,単独運転の検出が効率的に行われる。また,動作中の電力変換装置に前記マスター機が存在しない場合には,所定の条件に従って動作中の電力変換装置からマスター機が設定されるので,システム内で単独運転状態の検出が行われない状態となるのを回避でき,安定した発電システムとすることができる。」(【0027】)との記載からすれば,引用発明に対する主張として失当であるし,また,回答書における上記主張も,上記のとおり対比したように通信結果に基づいて「1台だけに特定」する引用発明に対する主張としては失当である。
してみると,請求人の上記各主張を採用することができない。

そして,本願補正発明の全体構成によって奏される効果も,引用発明,上記周知の技術,上記慣用手段及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって,本願補正発明は,引用発明,上記周知の技術,上記慣用手段及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願の発明について
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,平成22年6月28日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載によれば,以下のとおりのものと認められる。
「複数の分散電源装置と,これらの分散電源装置と夫々電気的に接続する電力系統と,前記各分散電源装置と通信路を介して接続する通信ネットワークとを備えた単独運転防止装置であり,
前記分散電源装置は直流電源と系統連系インバータとを有し,
前記系統連系インバータは,直流電源の直流電力を交流電力に変換するインバータと,電力系統との連系,解列を行う遮断器と,分散電源装置の特定信号と単独運転検出信号を送受信する制御装置とを有し,
特定信号を用いて,同一系統内で外乱を発生するインバータを1台だけに特定することを特徴とする単独運転防止装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例,及び,その記載内容は,上記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は,上記「2.(1)」で検討した本願補正発明から,分散電源装置の特定信号と単独運転検出信号を送受信する制御装置に関し,「前記系統連系インバータと異なる他の系統連系インバータと双方向で」送受信するとの限定を省き,また,特定信号に関し,「装置」の限定を省いたものである。
そうすると,本願発明を特定する事項の全てを含み,さらに,他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が,上記「2.(4)」に記載したとおり,引用発明,上記周知の技術,上記慣用手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明,上記周知の技術,上記慣用手段及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-06 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-27 
出願番号 特願2006-254676(P2006-254676)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02J)
P 1 8・ 575- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 智康  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 仁木 浩
神山 茂樹
発明の名称 単独運転防止装置及び方法  
代理人 河野 哲  
代理人 峰 隆司  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 哲  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 中村 誠  
代理人 福原 淑弘  
代理人 村松 貞男  
代理人 福原 淑弘  

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