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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1252012
審判番号 不服2009-23225  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-27 
確定日 2012-02-08 
事件の表示 特願2000-505132「2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼンの製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年2月11日国際公開、WO99/06373、平成13年8月21日国内公表、特表2001-512105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、1998年7月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1997年7月30日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする出願であって、平成21年2月24日付けで拒絶理由が通知され、同年6月16日に意見書が提出されたが、同年7月17日付けで拒絶査定がされたところ、同年11月27日に拒絶査定に対する審判請求がされると共に、手続補正書が提出され、平成23年4月12日付けで審尋がされ、同年7月25日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?8に係る発明は、平成21年11月27日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「式I
【化1】

で表わされ、
R^(1)がハロゲン、又は無置換もしくは置換アルキルもしくはアルコキシを、
R^(2)がシアノ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、アルコキシ、アルキルチオもしくはアルコキシカルボニルを、
R^(3)が無置換もしくは置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、無置換もしくは置換の、飽和又は一箇所もしくは2箇所不飽和の炭素環基又は複素環基、又は無置換もしくは置換アリールもしくはヘテロアリールを、
mが0、1又は2を意味し、mが1よりも大きい場合にはR^(2)が相互に異なってもよく、
nが0、1、2、3又は4を意味し、nが1よりも大きい場合にはR^(1)が相互に異なってもよい、2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼン誘導体の製造法であって、式II
【化2】

で表わされ、式中R^(1)が上記意味を有するo-ニトロトルエンを、非極性、非プロトン性溶媒の存在下に臭素化して、式III
【化3】

の臭化o-ニトロベンジルを得、得られたIIIの溶液を次いで式IV
【化4】

で表わされ、式中R^(2)及びR^(3)が上記意味を有する3-ヒドロキシピラゾールと、塩基の存在下に反応させ、前記臭素化により得られた臭化o-ニトロベンジルIIIの溶液を更にIVと、使用溶媒中で、臭化o-ニトロベンジルIIIの中間単離を行わずに直接反応させることを特徴とする、2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼン誘導体の製造法。」

なお、平成21年11月27日付けでした請求項1についての補正は、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を包含するものである。

・引用文献
1.国際公開第96/01256号
2.特開平2-4719号公報
3.Recueil des Travaux Chimiques des Pays-Bas,1988,vol. 107, No. 2,p.p. 73-81

第4 刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
この出願の出願前(優先権主張日)に頒布された「国際公開第96/01256号」(原査定における引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている(当審による仮訳)。

1a「1.下式(I)で表わされ、

かつ、=(審決注:「=」の上方の線は点線)が単一もしくは二重結合を意味し、
nが0、1、2、3または4を意味し、nが1より大きい場合には、複数の上記R^(1)は互いに異なる意味を持っていてもよく、
mが0、1または2を意味し、mが1より大きい場合には、複数の上記R^(2)は互いに異なる意味を持っていてもよく、
Xが、直接結合、OまたはNR^(a)を意味し、
R^(a)が、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルまたはシクロアルケニルを意味し、
R^(1)が、ニトロ、シアノ、ハロゲン、置換されていてもよい、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシを、
またnが2である場合には、さらに、隣接する2個の環員原子に結合されており、かつ3もしくは4個の炭素原子を、あるいは1から3個の炭素原子と、1もしくは2個の窒素、酸素および/または硫黄原子から成る3から4個の構成員を持っており、置換されていてもよいブリッジを意味し、またこのブリッジが、結合されている環と共に、部分的不飽和基もしくは芳香族基を形成してもよく、
R^(2)が、ニトロ、シアノ、ハロゲン、C_(1)-C_(4)アルキル、C_(1)-C_(4)ハロゲンアルキル、C_(1)-C_(4)アルコキシ、C_(1)-C_(4)アルキルチオまたはC_(1)-C_(4)アルコキシカルボニルを意味し、
R^(3)が、置換されていてもよい、アルキル、アルケニルまたはアルキニル、さらに環員として炭素原子のほかにヘテロ原子として3個までの酸素、硫黄、窒素原子を持っていることができる、置換されていてもよい、飽和または一もしくは二ケ所が不飽和の環、または炭素原子のほかに、環員として4個までの窒素原子、または1もしくは2個の窒素原子と1個の酸素もしくは硫黄原子、または1個の酸素もしくは硫黄原子を持っていることができる、単一もしくは二重環の、置換されていてもよい芳香族環を意味し、
R^(4)が水素、置換されていてもよい、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルキルカルボニルまたはアルコキシカルボニルを意味し、
R^(5)がアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはXがNR^(a)を意味する場合、さらに水素を意味する、
2-[(ジヒドロ)ピラゾリル-3’-オキシメチレン]アニリド。」(請求の範囲第1項)

1b「2.請求項1の式(I)において、R^(4)が水素を意味する場合の上記化合物を製造するために、
下式(II)

で表わされ、かつL^(1)が求核的に互換可能の基を、Xが直接結合または酸素を意味するベンジル誘導体を、塩基の存在下において、下式(III)

で表わされる3-ヒドロキシ(ジヒドロ)ピラゾールと反応させて、下式(IV)

で表わされる、対応する2-[(ジヒドロ)ピラゾリル-3’-オキシメチレン]ニトロベンゼンに転化し、
次いでこの化合物(IV)を還元して、下式(Va)

で表わされるN-ヒドロキシルアニリンに転化し、
この化合物(Va)を、下式(VI)
L^(2)-CO-X-R^(5) VI
(L^(2)はハロゲンを意味する)で表わされるカルボニル化合物と反応させて、目的化合物(I)に転化することを特徴とする方法。」(請求の範囲第2項)
1c「3.請求項1の式(I)において、R^(4)が水素を意味せず、Xが直接結合または酸素を意味する場合の化合物を製造するために、
下式(IIa)

で表わされるベンジル誘導体を還元して、下式(Vb)

で表わされる、対応するヒドロキシアニリンに転化し、
この化合物(Vb)を、請求項2の式(VI)で表わされるカルボニル化合物と反応させて、下式(VII)

で表わされる、対応するアニリドに転化し、
次いで、この化合物(VII)を、下式(VIII)
L^(3)-R^(4) VIII
(L^(3)は求核的互換性基を意味し、R^(4)は水素を意味しない)で表わされる化合物
と反応させて、下式(IX)

で表わされるアミドに転化し、
次いで、この化合物(IX)を、下式(X)

(Halはハロゲン原子を意味する)で表わされる、対応するベンジルハロゲニドに転化し、
この化合物(X)を、塩基の存在下において、請求項2の式(III)で表わされる3-ヒドロキシ(ジヒドロ)ピラゾールと反応させて、目的化合物に転化することを特徴とする方法。」(請求の範囲第3項)

1d「本発明化合物(I)は、種々の方法により得られる。
式中、R^(4)が水素を、Xが直接結合または酸素原子を意味する場合の化合物(I)は、例えば、下式(II)のベンジル誘導体を、塩基の存在下に、下式(III)の3-ヒドロキシ(ジヒドロ)ピラゾールと反応させて、下式(IV)の3-[ヒドロキシ(ジヒドロ)-ピラゾリル-3-オキシメチレン]ニトロベンゼンを得、次いでこの化合物(IV)を還元して、下式(Va)のN-ヒドロキシルアニリンに転化し、この化合物(Va)と下式(VI)のカルボニル化合物との反応により、目的化合物(I)が得られる。

」(2頁38行?3頁43行)

1e「上記構造式(II)中のL^(1)および式(VI)中のL^(2)は、それぞれ求核的互換性基、ことにハロゲン(例えば塩素、臭素、沃素)、アルキルスルホナートないしアリールスルホナート(例えばメチルスルホナート、トリフルオロメチルスルホナート、フェニルスルホナート、4-メチルフェニルスルホナート)である。
化合物(II)および(III)のエーテル化は、慣用のように0℃から80℃、ことに20℃から60℃の温度で行なわれる。
このための溶媒としては、トルエン、o-、m-、p-キシレンのような芳香族炭化水素、メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素、・・・エーテル類、・・・ニトリル類、・・・アルコール類、・・・ケトン類、ならびにジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン-2、1,2-ジメチルテトラヒドロ-2(1H)-ピリミジン、ことにメチレンクロリド、アセトン、トルエン、メチル-t-ブチルエーテルおよびジメチルホルムアミドが好ましい。これらの混合溶媒も使用され得る。
塩基としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物(例えばリチウムヒドロキシド、カリウムヒドロキシド、カルシウムヒドロキシド)、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の酸化物・・・、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水素化物・・・、アルカリ金属アミド・・・、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩(例えばリチウムカルボナート、カルシウムカルボナート)、ならびにアルカリ金属の炭酸水素塩(例えば炭酸水素カルボナート)のような無機化合物、金属有機化合物、ことにアルカリ金属アルキル・・・、アルカリ金属ハロゲン化物・・・、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のアルコラート・・・、さらに有機塩基、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルエチルアミン、N-メチルピリジン、ピリジン、・・・置換ピリジンならびに二環式アミンなどが挙げられる。
ことに、ナトリウムヒドロキシド、カリウムカルボナート、カリウム-t-ブタノラートが好ましい。
塩基は、一般的に等モル量、過剰量で、場合により溶媒として使用される。
また、反応のために触媒量のクラウンエーテル・・・を使用するのが有利である。
反応は、またアルカリ金属またはアルカリ土類金属またはこれらの炭酸塩の水溶液と、有機相(例えば芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素)とから成る2相混合物中において行なわれ得る。相転移触媒として、例えばアンモニウムハロゲン化物およびそのテトラフルオロボラート・・・ならびにホスホニウムハロゲニド・・・が挙げられる。
反応のためには、まず3-ヒドロキシ(ジヒドロ)ピラゾールを、塩基と反応させて対応するヒドロキシラートとし、次いでベンジル誘導体と反応させるのが好ましい。
化合物(I)を製造するための出発物質(II)は、ヨーロッパ特願公開513580号公報から公知であるか、あるいはこれに引用されている文献(Synthesis 1991、181、Anal.Chim.Acta 185、295(1986)、ヨーロッパ特願公開336567号公報)の方法で製造され得る。
3-ヒドロキシピラゾール(IIIa)および3-ヒドロキシジヒドロピラゾール(IIIb)も、同様に文献公知であるか、これらに記載されている方法により製造され得る・・・。」(3頁44行?5頁28行)

1f「合成実施例1
以下の合成実施例において反復される処理は、式(I)で表わされるさらに他の化合物を得るための出発化合物の転化に使用された。このようにして得られた目的化合物(I)をその物性と共に下表に掲記した。
1.N-(2-(N’-(p-メチルフェニル)-4’-クロロピラゾリル-3’-オキシメチル)-フェニル)-N-メトキシカルバミン酸メチルエステル(表中の番号19)
1.7g(純度ほぼ75%、約4.6mmol)のN-(2-ブロモメチルフェニル)-N-メトキシカルバミン酸メチルエステル(WO93/15046参照)、1g(4.8mmol)のN-(p-メチルフェニル)-4-クロロ-3-ヒドロキシピラゾールおよび1g(7.2mmol)のK_(2)CO_(3)から成る混合物を、15mlのジメチルホルムアミド中において、室温で1夜撹拌した。次いで、この反応混合物を水で希釈し、水性相をメチル-t-ブチルエーテルで3回抽出した。この合併有機相を水で抽出し、MgSO_(4)で乾燥し、濃縮した。この残渣を、メチレンクロリドを使用してAl_(2)O_(3)クロマトグラフィーおよびシクロヘキサン/酢酸エステル混合液を使用してシリカゲルクロマトグラフィーで処理した。これにより1.4g(68%)の表記化合物が、淡黄色油状体として得られた。」(58頁31行?59頁8行)

2 刊行物2に記載された事項
この出願の出願前(優先権主張日)に頒布された「特開平2-4719号公報」(原査定における引用文献2。以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

2a「(1)水相および有機相から成る2相反応混合物を用いてアルキルアレーン基質を臭素化する方法であつて、該基質は実質的に非反応性の有機溶媒を含んでいてもよい有機相を形成し、該水相は臭化水素を含有し、その中に過酸化水素が少なくとも10分間にわたつて導入され、過酸化水素対基質のモル比は0.1:1?0.4:1の範囲から選ばれ、そして過酸化水素対臭化水素のモル比は1:1.2?1:2の範囲から選ばれ、該反応混合物は20?80℃の温度に維持して、臭素を臭素ラジカルへ解離させるべく十分に高い周波数の光を少なくとも1時間の反応期間にわたり照射されることを特徴とする上記方法。
(2)アレーン部分は不活性化基により置換されていてもよいベンゼン基である、請求項1記載の方法。
(3)アレーン部分はシアノ基、スルホ基またはニトロ基から選ばれる不活性化基で置換されている、請求項1または2記載の方法。
(4)不活性化基はニトロ基である、請求項3記載の方法。
(5)アルキル部分はメチル基である、請求項1?4のいずれか1項記載の方法。・・・
(11)溶媒は塩素化炭化水素から選ばれる、請求項10記載の方法。・・・
(15)実施例のいずれか1つに関して本明細書中で記載した通りの、アルキルアレーンを臭素化して該アルキル基のモノ臭素化誘導体を選択的に製造する方法。」(特許請求の範囲第1項?第5項、第11項、第15項)

2b「本発明者らは、基質と臭素の混合物を臭素ラジカルを発生させ得る照射にさらすことにより、アレーンのアルキル置換基(特にメチル基)をそのアルフア炭素原子において臭素化することができることを理解している。本発明者らはさらに、アルキル置換基上の臭素置換が、種々の置換反応に対して基質を不活性化し得るニトロ基のような他の置換基がアレーン核のまわりに存在するにもかかわらず、実施可能であることを認識しており、従つてそれらはより強制的条件を必要とすることが予想される。このような強制的条件の使用は、不活性化置換基の存在にもかかわらず、複数の臭素置換がかなりの程度に起こるという危険が存在し、当然不活性化置換基の不在下では複数の臭素化の同様な危険が起こり得ることを意味している。」(2頁右上欄7行?左下欄1行)

2c「臭素化反応生成物は往々にして最終産物ではなく、対応するアルコール、アルデヒドまたはカルボン酸の製造用中間体である。後続の処理工程を容易にし、そして/また望ましくない副反応での高価な試薬の消費を減らすために、モノ置換生成物を一層選択的に製造することが大いに望まれるであろう。この後者の事柄は対応するアルコールが最終産物である場合に相当重要であることが理解されるであろう。なぜなら、アルコールの直接製造はモノ臭素化中間体からのみ都合よく進行し、ジ臭素化中間体からは進行しないからである。」(2頁右下欄9?19行)

2d「本発明方法はシアノ、スルホおよび特にニトロ置換基のような不活性化基少なくとも1個で置換されているか、又はフルオロ、クロロ、ブロモもしくはヨード基で置換されているベンゼンのアルキル置換基中のアルフア炭素原子を臭素化するのに特に適している。アルキル基以外の置換基はアルキル置換基に対しベンゼン核のまわりのどの位置にあつてもよいが、特にオルト位置が好適である。アルキル置換基は特に好ましくはメチル基である。従つて、本発明はo-ニトロトルエンの臭素化に関してここで説明するが、諸条件を必要に応じて適当に変更することにより、他の置換基質を用いる同一反応に適用することができる。」(3頁左下欄9行?右下欄1行)

2e「本発明方法においては、過酸化水素に対して反応混合物中の臭化物を不足量とする、すなわち臭化物対過酸化水素のモル比を2:1以下にすることが好適であるが、あまり大きい不足量ではなく、1.2:1以上の比を使用し、有利な範囲はしばしば約1.35:1?約1.8:1であることが分かつた。相当に過剰の基質と共に、このようなモル比を用いることにより、モノ臭化物への改善された反応度が高度に選択的に達成可能である。
この反応は過酸化水素とも臭素とも有意な程度に反応しない有機溶媒の存在下で実施することができ、例えば塩素化炭化水素、特に四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、二塩化エチレン、テトラクロロエチレンおよびテトラクロロエタンが含まれる。」(4頁左上欄4?18行)

2f「生成物はその後、溶媒(存在する場合)を減圧下で除去し、結晶化および/または再結晶することにより、過剰の出発物質および副生物から分離される。別法として、少なくとも若干の生成物の場合、モノ臭素化生成物は分離および/または生成物の精製を行う前に、例えば加水分解によりさらに反応させて、対応するアルコールへ転化することができる。」(5頁右上欄19行?左下欄6行)

2g「〔実施例〕
比較例CA?CEおよび実施例1?4
これらの比較例および実施例では、同じ装置および同じ実験方法が用いられ、そして同一規模であり、表中の1単位の試薬は0.2モルを表し、これらの実験間の主な差異は使用する反応体の割合と、反応媒体中の非反応性有機希釈剤の有無である。それぞれの差異に関係する条件を以下の表に要約する。・・・
実験方法は全部のo-ニトロトルエン(表ではONTと略記する)および全部の非反応性希釈剤クロロホルム100ml(それを用いる場合)をフラスコ中に導入し、62w/w%水溶液として全部の臭化水素を導入し、この混合物を所望の反応温度60℃に加熱し、その後65w/w%水溶液としての過酸化水素を約1時間かけて徐々に導入する、ことから成つていた。この反応混合物は上記温度に保ち、そして臭化水素と過酸化水素との反応によりその場で生成された臭素の赤色が消失するまで十分に撹拌した。全体の反応時間は一般に2?5時間であつた。その後、反応混合物を冷却し、この反応と副反応を止めるために照射をやめ、そしてもし固体の産物が存在していたら、それを分離して除いた。
この混合物はGLCにより分析して、ONTの消費量(表中に消費ONTとしてモル数で示す)を決定し、同様に産物を分析して目的生成物の臭化o-ニトロベンジル(表中に収量モノとして示す)および副生物の収量を求めた。・・・選択率のための数字は*印を付けられ、モノ臭素化産物対ジ臭素化副産物の比として表される。

上記の表から、非反応性希釈剤クロロホルムが存在する場合の比較例CA?CEのすべてにおいて、モノ臭素化産物の収量は約0.14モルのままであることが分かる。・・・
しかしながら、上記の表から、o-ニトロトルエン対他の試薬の比を3:lまたはそれ以上に実質的に増加させた場合、モノ臭素化産物の収量を0.14モルから0.18モル(基本収量の約30%増加)へ有意に高めつつ、モノおよびジ臭素化産物のモル比を比較することから分かるように高い選択率を依然として保つことができると分かつた。」(5頁左下欄10行?6頁右下欄8行)

第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「請求項1の式(I)において、R^(4)が水素を意味する場合の上記化合物を製造するため」(摘示1b。式(I)は摘示1aを参照)の製造方法が記載されており、その最初の工程として、「下式(II)

で表わされ、かつL^(1)が求核的に互換可能の基を・・・意味するベンジル誘導体を、塩基の存在下において、下式(III)

で表わされる3-ヒドロキシ(ジヒドロ)ピラゾールと反応させて、下式(IV)

で表わされる、対応する2-[(ジヒドロ)ピラゾリル-3’-オキシメチレン]ニトロベンゼン」を製造する方法が記載されており、摘示1dにもその反応式が記載されている。
ここで、上記式(III)及び式(IV)において、ピラゾール環の点線が付された結合部分は「単一もしくは二重結合を意味」し(摘示1a)、「二重結合」を意味する場合、式(III)及び式(IV)の一般名は、それぞれ「3-ヒドロキシピラゾール」及び「2-[ピラゾリル-3’-オキシメチレン]ニトロベンゼン」である。
そして、式(II)?(IV)における「R^(1)」、「R^(2)」、「R^(3)」、「m」及び「n」は、式(I)に対応するものであり、それぞれ
「nが0、1、2、3または4を意味し、nが1より大きい場合には、複数の上記R^(1)は互いに異なる意味を持っていてもよく、
mが0、1または2を意味し、mが1より大きい場合には、複数の上記R^(2)は互いに異なる意味を持っていてもよく、・・・
R^(1)が、・・・ハロゲン、置換されていてもよい、アルキル、・・・アルコキシ・・・を、・・・
R^(2)が、・・・シアノ、ハロゲン、C_(1)-C_(4)アルキル、C_(1)-C_(4)ハロゲンアルキル、C_(1)-C_(4)アルコキシ、C_(1)-C_(4)アルキルチオまたはC_(1)-C_(4)アルコキシカルボニルを意味し、
R^(3)が、置換されていてもよい、アルキル、アルケニルまたはアルキニル、さらに環員として炭素原子のほかにヘテロ原子として3個までの酸素、硫黄、窒素原子を持っていることができる、置換されていてもよい、飽和または一もしくは二ケ所が不飽和の環、または炭素原子のほかに、環員として4個までの窒素原子、または1もしくは2個の窒素原子と1個の酸素もしくは硫黄原子、または1個の酸素もしくは硫黄原子を持っていることができる、単一もしくは二重環の、置換されていてもよい芳香族環を意味」するものである。
また、式(II)中の「L^(1)」である「求核的に互換可能の基」としては、「ハロゲン(例えば塩素、臭素、沃素)」(摘示1e)等が記載されており、「臭素」を含むものである。
ここで、刊行物1の摘示1fには、合成実施例1として、式(I)の製造方法の別法(摘示1c)の最後の工程、すなわち、
「下式(X)

(Halはハロゲン原子を意味する)で表わされる、対応するベンジルハロゲニド・・・を、塩基の存在下において、請求項2の式(III)で表わされる3-ヒドロキシ(ジヒドロ)ピラゾールと反応させて、目的化合物に転化する」方法(審決注:目的化合物は「式(I)」のことである。)について具体的に記載されており、式(X)の化合物としては、「N-(2-ブロモメチルフェニル)-N-メトキシカルバミン酸メチルエステル」を使用しているので、摘示1fにおいて、「Hal」は「Br」(臭素)である。
そして、摘示1fの工程は、摘示1bにおける式(IV)の化合物を製造する方法とは、得られる化合物のベンゼン環上の置換基が「-NO_(2)」ではなく、「-N(OR_(4))COXR_(5)」である点で異なるものの、式(III)の3-ヒドロキシピラゾールと「CH_(2)-Br」が反応して、臭素が脱離し、エーテル結合を形成する点で共通するものである。
そうすると、式(II)において、「CH_(2)-L_(1)」の「L_(1)」の一つとして例示される「臭素」は、式(X)と同様に、式(III)の3-ヒドロキシピラゾールと反応するものと理解できるから、式(II)中の「L^(1)」である「求核的に互換可能の基」が「臭素」であるものは、刊行物1に記載されているに等しい事項である。
さらに、溶媒としては、「トルエン、o-、m-、p-キシレンのような芳香族炭化水素、メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素」等が記載されている。

したがって、刊行物1には、
「下式(IV)

で表わされ、
かつ、=(審決注:上方の線は点線)が二重結合を意味し、
nが0、1、2、3または4を意味し、nが1より大きい場合には、複数の上記R^(1)は互いに異なる意味を持っていてもよく、
mが0、1または2を意味し、mが1より大きい場合には、複数の上記R^(2)は互いに異なる意味を持っていてもよく、
R^(1)が、ハロゲン、置換されていてもよい、アルキル、アルコキシを、
R^(2)が、シアノ、ハロゲン、C_(1)-C_(4)アルキル、C_(1)-C_(4)ハロゲンアルキル、C_(1)-C_(4)アルコキシ、C_(1)-C_(4)アルキルチオまたはC_(1)-C_(4)アルコキシカルボニルを意味し、
R^(3)が、置換されていてもよい、アルキル、アルケニルまたはアルキニル、さらに環員として炭素原子のほかにヘテロ原子として3個までの酸素、硫黄、窒素原子を持っていることができる、置換されていてもよい、飽和または一もしくは二ケ所が不飽和の環、または炭素原子のほかに、環員として4個までの窒素原子、または1もしくは2個の窒素原子と1個の酸素もしくは硫黄原子、または1個の酸素もしくは硫黄原子を持っていることができる、単一もしくは二重環の、置換されていてもよい芳香族環を意味する、
対応する2-[ピラゾリル-3’-オキシメチレン]ニトロベンゼンを製造する方法であって、
下式(II)

で表わされ、式中R^(1)が上記意味を有し、かつL^(1)が臭素である求核的に互換可能の基を意味するベンジル誘導体を、塩基の存在下において、トルエン、o-、m-、p-キシレンのような芳香族炭化水素、メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素等の溶媒中で、下式(III)

で表わされ、式中R^(2)及びR^(3)が上記意味を有する3-ヒドロキシピラゾールと反応させる、式(IV)の対応する2-[ピラゾリル-3’-オキシメチレン]ニトロベンゼンを製造する方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

2 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「下式(IV)

で表わされ、
かつ、=(審決注:上方の線は点線)が二重結合を意味し、
nが0、1、2、3または4を意味し、nが1より大きい場合には、複数の上記R^(1)は互いに異なる意味を持っていてもよく、
mが0、1または2を意味し、mが1より大きい場合には、複数の上記R^(2)は互いに異なる意味を持っていてもよく、
R^(1)が、ハロゲン、置換されていてもよい、アルキル、アルコキシを、
R^(2)が、シアノ、ハロゲン、C_(1)-C_(4)アルキル、C_(1)-C_(4)ハロゲンアルキル、C_(1)-C_(4)アルコキシ、C_(1)-C_(4)アルキルチオまたはC_(1)-C_(4)アルコキシカルボニルを意味し、
R^(3)が、置換されていてもよい、アルキル、アルケニルまたはアルキニル、さらに環員として炭素原子のほかにヘテロ原子として3個までの酸素、硫黄、窒素原子を持っていることができる、置換されていてもよい、飽和または一もしくは二ケ所が不飽和の環、または炭素原子のほかに、環員として4個までの窒素原子、または1もしくは2個の窒素原子と1個の酸素もしくは硫黄原子、または1個の酸素もしくは硫黄原子を持っていることができる、単一もしくは二重環の、置換されていてもよい芳香族環を意味する、対応する2-[ピラゾリル-3’-オキシメチレン]ニトロベンゼンの製造法」は、本願発明の「式I
【化1】

で表わされ、
R^(1)がハロゲン、又は無置換もしくは置換アルキルもしくはアルコキシを、
R^(2)がシアノ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、アルコキシ、アルキルチオもしくはアルコキシカルボニルを、
R^(3)が無置換もしくは置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、無置換もしくは置換の、飽和又は一箇所もしくは2箇所不飽和の炭素環基又は複素環基、又は無置換もしくは置換アリールもしくはヘテロアリールを、
mが0、1又は2を意味し、mが1よりも大きい場合にはR^(2)が相互に異なってもよく、
nが0、1、2、3又は4を意味し、nが1よりも大きい場合にはR^(1)が相互に異なってもよい、2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼンを製造する方法」に相当する。
また、引用発明の「式(II)・・・で表わされ、式中R^(1)が上記意味を有し、かつL^(1)が臭素である求核的に互換可能の基を意味するベンジル誘導体」は、本願発明の「式III・・・の臭化o-ニトロベンジル」に相当し、引用発明の「式(III)・・・の・・・3-ヒドロキシピラゾール」は、本願発明の「式IV・・・3-ヒドロキシピラゾール」に相当する。
そして、両者とも反応は塩基の存在下、溶媒中で行うものである。

そうすると、両者は、
「式I
【化1】

で表わされ、
R^(1)がハロゲン、又は無置換もしくは置換アルキルもしくはアルコキシを、
R^(2)がシアノ、ハロゲン、アルキル、ハロアルキル、アルコキシ、アルキルチオもしくはアルコキシカルボニルを、
R^(3)が無置換もしくは置換アルキル、アルケニルもしくはアルキニル、無置換もしくは置換の、飽和又は一箇所もしくは2箇所不飽和の炭素環基又は複素環基、又は無置換もしくは置換アリールもしくはヘテロアリールを、
mが0、1又は2を意味し、mが1よりも大きい場合にはR^(2)が相互に異なってもよく、
nが0、1、2、3又は4を意味し、nが1よりも大きい場合にはR^(1)が相互に異なってもよい、2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼン誘導体の製造法であって、式III

の臭化o-ニトロベンジルを、式IV
【化4】

で表わされ、式中R^(2)及びR^(3)が上記意味を有する3-ヒドロキシピラゾールと、塩基の存在下に溶媒中で反応させる、2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼン誘導体の製造法。」
である点で一致するが、以下の点で相違するということができる。

A 本願発明においては、式IIIの臭化o-ニトロベンジルを、「式IIで表され・・・るo-ニトロトルエンを、非極性、非プロトン性溶媒の存在下に臭素化して」得て、かつ、「得られたIIIの溶液を次いで式IV・・3-ヒドロキシピラゾールと」反応させ、その際、「前記臭素化により得られた臭化o-ニトロベンジルIIIの溶液を更にIVと、使用溶媒中で、臭化o-ニトロベンジルIIIの中間単離を行わずに直接反応させる」のに対し、引用発明においては、式(II)のベンジル誘導体を得るための手段が特定されておらず、かつ、得られた式(II)のベンジル誘導体の溶液を式(III)の3-ヒドロキシピラゾールと、使用溶媒中で、中間単離を行わずに直接反応させることについて特定されていない点
(以下、「相違点A」という。)

3 検討
(1)相違点Aについて
ア 刊行物1の摘示1eには、出発物質である式(II)のベンジル誘導体は、「・・・公知であるか、・・・ヨーロッパ特願公開336567号公報)の方法で製造され得る」と記載されているので、式(II)のベンジル誘導体を得ようとした当業者が上記公報に記載された方法を参照するのは当然である。
そして、該公報にかかるヨーロッパ特許出願と同一の優先権主張基礎出願を有する日本国特許出願(いわゆるファミリー出願)の公開公報である刊行物2には、「アルキルアレーンを臭素化して該アルキル基のモノ臭素化誘導体を選択的に製造する方法」(摘示2a)、例えば、実施例1?4として、「o-ニトロトルエン」を、臭化水素及び過酸化水素と反応させ、「目的生成物の臭化o-ニトロベンジル」を得る方法が記載されている(摘示2g)。そして、該反応における溶媒は、「過酸化水素とも臭素とも有意な程度に反応しない有機溶媒」で、「例えば塩素化炭化水素、特に四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、二塩化エチレン、テトラクロロエチレンおよびテトラクロロエタン」(摘示2e)であるところ、本願明細書の段落【0016】には、本願発明の「非極性、非プロトン性溶媒」について、「好適に用いられる溶媒は、・・・ハロゲン化炭化水素、例えば塩化メチレン、・・・クロロホルム、・・・クロロベンゼン」と記載されているように、刊行物2記載の溶媒である「塩素化炭化水素」は、非極性、非プロトン性溶媒であるといえる。
さらに、刊行物2には、「臭素化反応生成物は往々にして最終産物ではなく、対応するアルコール、アルデヒドまたはカルボン酸の製造用中間体である。後続の処理工程を容易にし、そして/また望ましくない副反応での高価な試薬の消費を減らすために、モノ置換生成物を一層選択的に製造することが大いに望まれる」(摘示2c)と記載されており、刊行物2に記載の方法による上記実施例1?4(摘示2g)について、「モノ臭素化産物の収量を0.14モルから0.18モル(基本収量の約30%増加)へ有意に高めつつ、モノおよびジ臭素化産物のモル比を比較することから分かるように高い選択率を依然として保つことができる」と記載され、モノ置換生成物が高選択的に得られる結果が示されている。
つまり、刊行物2には、モノ置換生成物である臭化o-ニトロベンジルを高選択率で得て、これをさらなる目的化合物への製造中間体として使用することが記載されているといえる。
そうすると、引用発明の出発物質である式(II)のベンジル誘導体は「臭化o-ニトロベンジル」(n=0である場合)を包含し、式(IV)を製造するための製造中間体であるともいえるから、その臭化o-ニトロベンジルを得るにあたり、刊行物1が引用しているに等しい刊行物2に記載の製造方法を参照し、o-ニトロトルエンを塩素化炭化水素溶媒、すなわち、非極性、非プロトン性溶剤の存在下に臭素化する方法を採用することは、当業者が格別の創意を要することなく、容易になし得ることである。

イ また、刊行物2には、「アルコールの直接製造はモノ臭素化中間体からのみ都合よく進行し、ジ臭素化中間体からは進行しない」(摘示2c)こと、及び「モノ臭素化生成物は分離および/または生成物の精製を行う前に、例えば加水分解によりさらに反応させて、対応するアルコールへ転化することができる」(摘示2f)ことも記載されている。
ここで、引用発明の式(II)のベンジル誘導体を、式(III)の3-ヒドロキシピラゾールと反応させる方法も、刊行物2に記載の加水分解反応と同様の求核置換反応である。すると、引用発明の式(II)のベンジル誘導体(臭化o-ニトロベンジルを包含)を得るために、刊行物2に記載のo-ニトロトルエンを塩素化炭化水素の存在下に臭素化する方法を採用するにあたり、続く3-ヒドロキシピラゾールとの反応が、加水分解反応と同様に、「モノ臭素化中間体からのみ都合良く進行」すると考え、「分離および/または生成物の精製」を行うことなく、すなわち、式(II)のベンジル誘導体(臭化o-ニトロベンジルを包含)の中間単離を行わずに直接反応させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、刊行物2に記載の上記反応が「四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、二塩化エチレン、テトラクロロエチレンおよびテトラクロロエタン」等の「塩素化炭化水素」(摘示2e)を溶媒とするのに対し、引用発明の反応は「メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素等」を溶媒とするものであり、両反応は使用溶媒において共通するので、刊行物2記載の方法で得られた式(II)のベンジル誘導体の溶液を用い、その使用溶媒中で、直接反応させることについても支障はない。

ウ したがって、引用発明において、式(II)のベンジル誘導体、すなわち、本願発明における式IIIの臭化o-ニトロベンジルを、「式IIで表され・・・るo-ニトロトルエンを、非極性、非プロトン性溶媒の存在下に臭素化して」得て、かつ、「得られたIIIの溶液を次いで式IV・・3-ヒドロキシピラゾールと」反応させ、その際、「前記臭素化により得られた臭化o-ニトロベンジルIIIの溶液を更にIVと、使用溶媒中で、臭化o-ニトロベンジルIIIの中間単離を行わずに直接反応させる」ことは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の効果について
ア 本願発明は、本願明細書の段落【0008】の記載からみて、
「IIIの取り扱いにおける操作の困難性と安全性の問題を解決し、更に所望の生成物Iを高収率かつ高純度で得る」という効果を奏するものである。

イ しかしながら、上記(1)で述べたように、刊行物2の摘示2c及び2fにおけるアルコールが最終産物である加水分解反応についての記載からみて、式(II)のベンジル誘導体(臭化o-ニトロベンジルを包含)の中間単離を行わずに直接反応させても、モノ臭素化中間体のみ都合良く進行すると考えられるから、刊行物2に記載の方法によりモノ置換生成物が高選択的に得られている臭化o-ニトロベンジルの溶液を、臭化o-ニトロベンジルの中間単離を行わずに、引用発明の方法における出発原料として用いて直接反応を行ったときに、式(IV)の対応する2-[ピラゾリル-3’-オキシメチレン]ニトロベンゼンを高収率かつ高純度で得られることは、当業者が予測できることである。
そうすると、「所望の生成物Iを高収率かつ高純度で得る」という効果は、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるということはできない。
また、「IIIの取り扱いにおける操作の困難性と安全性の問題を解決」するという効果は、臭化o-ニトロベンジルの中間単離を行わないことによって付随する効果に過ぎず、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるということはできない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、その出願前(優先権主張日)に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 請求人の主張について
ア 請求人は、平成22年1月25日付けの審判請求書の手続補正書の(4-3-2)において、
「臭化o-ニトロベンジルを単離せずに、反応の副生成物等を含む臭化o-ニトロベンジルの溶液の状態で、使用溶媒中、直接3-ヒドロキシピラゾールと反応させることは、従来試みられることがありませんでした。すなわち、臭化ニトロベンジルの反応においては、相当量の臭化o-ニトロベンザルの生成が常に起こり、これが3-ヒドロキシピラゾールIVと反応すると式VIのビス-O-アルキル化アセタールが生成するため(明細書第[0010]欄)、臭化o-ニトロベンザルはあらかじめ除去されるべきものという認識が当業者に定着していたことによります。・・・
このような認識があるにもかかわらず、本願発明者らは、・・・臭化o-ニトロベンザルを含む状態の臭化ニトロベンジル混合物をそのまま用い、高収率及び高純度の2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼン誘導体Iを得ることに成功しました。」と主張する。
そして、その根拠として、本願明細書の比較例1及び2を挙げ、さらに、証拠資料として、「The Chemistry of the carbonyl group、ed. By Saul Patai、1966、Chapter 3、Formation of carbonyl group in hydrolytic reaction、第181?184頁」を提出して、
「求核置換反応において、・・・大幅には差異がないものの、臭化ベンザルの方が臭化ベンジルよりも高い反応性を有すること、及びこのことが出願時までに判明していたことをご説明申し上げます。
添付の証拠資料では、本願発明の求核反応の典型例とも言える加水分解反応が取り上げられています。そして、・・・塩化ベンザルの加水分解が、塩化ベンジルの加水分解よりも早く進行すること・・・、PhCH_(2)Br及びPhCHBr_(2)の加水分解の一時速度係数の比較データ・・・が記載されています。・・・
・・・この論考の内容からは臭化ベンザルが反応に関与することは必至であり、更に活臭化ベンザルが副生成物をもたらすことが当業者に公知である以上、臭化ベンザルを除去した上で臭化ベンジルを反応に用いようとすることを、当業者は思い至るものと考えます。
実際に、本件出願前には臭化ベンザルを含んだ状態の臭化ベンジルを3-ヒドロキシピラゾールとの反応に用いたことを示す事実は見あたりません。」とも主張する。

イ しかしながら、上記3(1)で述べたように、刊行物2の摘示2c及び摘示2fにも、アルコールが最終産物である加水分解についての記載があり、「モノ臭素化中間体からのみ都合よく進行し、ジ臭素化中間体からは進行しない」ので、「分離および/または生成物の精製」を行うことなく、加水分解によりさらに反応させて「対応するアルコールへ転化することができる」と記載されているので、刊行物2の記載に接した当業者であればむしろ、臭化o-ニトロベンジルの求核置換反応においては、「分離および/または生成物の精製」を行うことなく、モノ臭素化中間体のみ都合良く進行するとの思考に至るのが自然である。
他方、上記証拠資料に記載されているのは、オルト位に不活性置換基であるニトロ基が置換されていないPhCH_(2)Br及びPhCHBr_(2)の加水分解に関するものであるので、該証拠資料に基づく請求人の上記主張が、臭化o-ニトロベンジルについての技術常識であるとまではいえない。
また、本願明細書の比較例1(段落【0068】?【0071】)の臭化o-ニトロベンザル単独で反応させれば、3-ヒドロキシピラゾールと反応し得るとの結果、同比較例2(段落【0072】?【0076】)の臭化o-ニトロベンジルと臭化o-ニトロベンザルを1:1程度のモル比で反応させると臭化o-ニトロベンジルが選択的に反応するとの結果についても、上記刊行物2の記載から予測し得るところを超える結果ではない。
してみると、「臭化o-ニトロベンザルはあらかじめ除去されるべきものという認識が当業者に定着していた」との請求人の主張は採用できず、「本件出願前には臭化ベンザルを含んだ状態の臭化ベンジルを3-ヒドロキシピラゾールとの反応に用いたことを示す事実」が見あたらなかったとしても、上記3(1)で述べたように、刊行物2の記載に基づいて、式(II)のベンジル誘導体(臭化o-ニトロベンジルを包含)の中間単離を行わずに直接反応させることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、上記アの請求人の主張は、上記4の結論を左右するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-08 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-28 
出願番号 特願2000-505132(P2000-505132)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 祥平福井 悟  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 松本 直子
木村 敏康
発明の名称 2-(3-ピラゾリルオキシメチレン)ニトロベンゼンの製造法  
代理人 江藤 聡明  

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