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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06K
管理番号 1252028
審判番号 不服2010-16369  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-21 
確定日 2012-02-08 
事件の表示 特願2003-579160「増強された識別器具」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 2日国際公開、WO03/81515、平成17年 7月14日国内公表、特表2005-521162〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯

本願は、2003年1月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2002年3月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年1月23日付けで手続補正がなされ、平成21年2月2日付けの拒絶理由通知に対して同年8月4日付けで手続補正がなされたが、平成22年3月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月21日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされた。
その後、平成23年3月25日付けで前置報告書(特許法第164条第3項)を利用した審尋がなされ、同年6月28日付けで回答書が提出されたものである。


2 本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成22年7月21日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。
「人に関する情報を提供するように適応された識別器具であり、この識別器具が、
人を明確に識別するための識別情報を受信し且つ記憶するように構成されたプログラムマブルデータ記憶装置、
プログラムマブルデータ記憶装置を搬送し、人によって着用されるかあるいは人に付けられるように適応された構造、
前記構造内あるいは前記構造上に配置された留め具であって、人に前記構造を付けるように適応されている留め具、および
前記構造内あるいは前記構造上に配置されていて、前記留め具に電気的に接続される回路から成り、前記留め具が閉じられると前記回路の機能が作動し、前記留め具が開放すると、前記回路が、前記プログラマブルデータ記憶装置に記憶される情報を破壊し、前記留め具が、繰り返して行われる閉鎖と開放に対応して構成されている識別器具。」

3 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2000-200315号公報(平成12年7月18日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある(なお、下線は、当審で付与した。)。
(a)「【0063】
【発明の実施の形態】(1)第1の実施の形態
以下、本発明の第1の実施の形態を図に従って説明する。この実施の形態は、図1に示すように、本発明を腕時計型の身体装着機器に適用したものであり、身体装着機器1は、時計側ケース2と、この時計側ケース2の両端部に結合されたリストバンド3、4とから構成されている。時計側ケース2には、図1(A)に示すように、一方の側面にシリアル入出力端子部5が突設されており、これに隣接する側面に無線送受信部6が設けられている。また、時計側ケース2の上面には風防ガラス7が装着されており、この上面と時計側ケース2の他方の側面には複数のキー8が設けられている。
【0064】また、時計側ケース2の内部には、図1(B)に示すように、風防ガラス7の下方にLCD9が配置され、中央部にMPUチップ&回路基板10が配置されている。また、MPUチップ&回路基板10と裏蓋11との間には、電池12が配置され、裏蓋11からは身体近接センサ13が外部に露出している。さらにリストバンド3、4の内部には電極板14、15が埋設されており、この電極板14、15は、一端部を後述するに接続され他端部をMPUチップ&回路基板10に接続されている。
【0065】前記身体近接センサ13は、図2に示すように、近接して配置された赤外線LED16と赤外線フォトセンサ17とで構成されている。そして、図示のように、この身体装着機器1を腕Aに装着することにより、赤外線LED16からの赤外光が腕Aの皮膚に反射して赤外線フォトセンサ17にて受光されることによりオンとなるように構成されている。
【0066】また、各リストバンド3、4の端部には、図3にも示すように、可動バックル19と固定バックル20とが設けられており、各バックル19、20には、前記装着センサ18を構成するスイッチ電極21、22が設けられている。このスイッチ電極21、22は、両バックル19、20の係合に伴って接触するものであって、前記電極板14、15の端部に接続されており、スイッチ電極21、22が接触することにより、装着センサ18がオンとなるものである。
【0067】図4は、身体装着機器1の回路構成及びシステム構成を示すブロック図であり、この身体装着機器1は各部を制御する機能制御回路部23を備えている。機能制御回路部23には、前記身体近接センサ13と装着センサ18とが身体装着検出回路19を介して接続されているとともに、前記キー8で構成される入力部24と前記LCD9で構成される表示部25、この表示部25のバックライトである照明部26、報知部27、個人プロファイルデータメモリ28及び時計部55が接続されている。さらに、機能制御回路部23には、前記シリアル入出力端子部5を備えた出力部29、メモリ30が接続されているとともに、認証データメモリ31、認証制御回路32、通信制御回路33、通信接続用設定データ生成部34、電源制御回路35が接続されている。
【0068】認証データメモリ31は、後述するLANへの接続に要する認証データを記憶するメモリであり、認証制御回路32は、認証データメモリ31へのデータ書き込み処理と読み出し処理とを行うとともに、認証データ生成部36を制御する。通信制御回路32は、通信接続用設定データ生成部34からのデータに基づき認証制御回路32を制御するとともに、符号器37を制御して認証データ生成部36からの認証データを符号化せしめ、前記無線送受信部6を介して無線送信する。また、無線送受信部6で受信された信号は、復号器38で復号されて、通信制御部33を介して機能制御回路部23に入力されて、報知部27による報知、あるいは表示部25での表示に供される。電源制御回路35は、電池39に接続された電源回路40を制御して、各部に電源を供給するものである。」

(b)「【0071】以上の構成にかかる本実施の形態において、身体装着機器1の機能制御回路部23は、内部に記憶されているプログラムに基づき、図5に示すフローチャートに従って動作する。すなわち、所定周波数のクロック信号を分周して時刻データを生成する時計部55から時計キャリーがあったならば(ステップSA1)、時計処理を実行して(ステップSA2)表示部25に表示時刻を修正する等の処理を実行する。引き続き、身体近接センサ13と装着センサ18の出力であるセンサーデータ取り込み(ステップSA3)、この身体装着機器1がユーザーの身体である腕に装着中であるか否かを判断する(ステップSA4)。このとき、身体近接センサ13と装着センサ18とが共にオンであると身体装着中であると判断し、さらにこの身体への装着が新規装着であるか否か、つまり後述するように非装着が所定の規定時間以上経過した後の初めての装着であるか否かを判断する(ステップSA5)。
【0072】そして、新規装着であるならば、装着時の初期設定を行った後(ステップSA6)、入力部24での操作に応じて認証データを入力させて(ステップSA7)、認証データの設定処理を行う(ステップSA8)。この認証データの設定処理により、LAN49の各種サーバー51やインターネット54等への接続に必要なデータが認証データメモリ31に記憶される。次に、正規の各機能処理を行って、送信、受信、入出力、認証、表示及び報知のための制御等、この時計1が有する全ての機能に関する処理を限定することなく実行する(ステップSA9)。
【0073】よって、このステップSA9での処理により、身体装着機器1の無線送受信部6から無線送受信部46や端末装置48に認証データを送信して、通信接続装置41を介してLAN49に接続したり、各種サーバー51やインターネット54からデータを取得する等が可能となる。そして、引き続き表示処理を行って(ステップSA10)、正規の各機能処理で発生した表示すべきデータ、すなわち各種サーバー51やインターネット54等からダウンロードしたデータ等を表示する。
【0074】また、ステップSA5での判断の結果、新規装着ではなく既に前述したステップSA6?SA8の処理が済んでいる場合には、入力部24からのキー操作情報に応じた正規の処理、すなわち何ら制限されずにキー操作情報に応じた処理を行った後(ステップSA12)、前述したステップSA9及びステップSA10の処理を実行する。
【0075】一方、ステップSA4での判断の結果、この身体装着機器1を身体装着中でなければ、非装着が所定の規定時間以上継続しているか否かを判断する(ステップSA13)。そして、非装着が所定の規定時間以上継続している場合には、認証設定を解除して、認証データメモリ31に記憶されている認証データを消去する等の認証要求等を不可能にする処理を実行する(ステップSA14)。したがって、例えばこの身体装着機器1が盗難に遭い、非装着が規定時以上となった場合には、認証データが削除される等により、セキュリティが確保される。また、ステップSA13での判断の結果、非装着が規定時間以上でない場合には、報知部27を動作させて警報報知を行うととともに、表示部25に非装着であることを警報報知する(ステップSA14)。このとき、非装着となってい時間や前記規定時間までの残存時間を表示部25に表示させるようにしてもよい。
【0076】また、ステップSA14又はステップSA8に続くステップSA15では、キー操作があったか否かを判断し(ステップSA15)、キー操作があったならば、操作されたキーに応じた限定された処理、例えば認証データの入力や送信等を除く時計機能に対する処理を実行する(ステップSA16)。さらに、限定された各機能処理、すなわち認証データを必要とせず、あるいは認証データに関連しない処理を実行した後(ステップSA17)、前述したステップSA10に進む。したがって、この身体装着機器1が装着されていない場合には、ステップSA16とステップSA17での処理により、機能が限定されることにより、これを知らないユーザー以外の者が身体装着機器1を単に所持していても、無線送受信部46や端末装置48との送受信が不可能となり、これによってもセキュリティを確保することができる。」

(c)図面第2図には、時計側ケース2内部に回路が設けられ、回路の両側に、それぞれ電極板14、14(いずれか一方の電極板の引用番号は15の誤記と解される)が接続された身体装着機器が示されている。

上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「時計側ケースと、この時計側ケースの両端部にそれぞれ結合されたリストバンドから構成され、各リストバンドの端部には、可動バックルと固定バックルがそれぞれ設けられた身体装着機器であって、
各リストバンドの内部には電極板が埋設され、電極板の他端部は、時計側ケースの内部に設けられた回路に接続され、一端部は、装着センサを構成するスイッチ電極に接続され、両バックルの係合に伴って接触することにより、装着センサがオンとなるものであり、
身体装着機器は、各部を制御する機能制御回路部を備え、 機能制御回路部には、時計側ケースに設けられた身体近接センサと、装着センサとが身体装着検出回路を介して接続されているとともに、認証データメモリ、入力部が接続されており、
身体近接センサと装着センサとが共にオンであると、身体装着機器が身体装着中であると判断し、さらに、この身体への装着が新規装着であるか否かを判断し、新規装着であるならば、装着時の初期設定を行った後、入力部での操作に応じて認証データを入力させて認証データの設定処理を行い、LANの各種サーバーやインターネット等への接続に必要なデータが認証データメモリに記憶され、新規装着でなければ、何ら制限されずに入力部からのキー操作情報に応じた処理を行い、その後、いずれの場合も、認証データを送信して、LANに接続したり、各種サーバーやインターネットからデータを取得する等が可能となり、
身体装着機器が身体装着中でなければ、非装着が所定の規定時間以上継続しているか否かを判断し、非装着が所定の規定時間以上継続している場合には、認証設定を解除して、認証データメモリに記憶されている認証データを消去する等の認証要求等を不可能にする処理を実行する、
身体装着機器。」

4 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「固定バックル」、「可動バックル」は、本願発明の「留め具」に相当する。また、引用発明の「時計側ケースと、この時計側ケースの両端部にそれぞれ結合されたリストバンドから構成され、各リストバンドの端部には、可動バックルと固定バックルがそれぞれ設けられた身体装着機器」における、「リストバンド」、「可動バックル」および「固定バックル」は、本願発明の「人によって着用されるかあるいは人に付けられるように適応された構造」に相当し、「可動バックル」および「固定バックル」は、本願発明の「前記構造内あるいは前記構造上に配置された留め具であって、人に前記構造を付けるように適応されている留め具」に相当する。

(2)引用発明の「身体装着機器」は、認証データを送信し、認証データにより各種サーバーやインターネットからデータを取得することを可能とするものであって、認証データなる情報を送信するものであるから、本願発明の「情報を提供するように適応された識別器具」に相当する。

(3)引用発明の「認証データメモリ」は、新規装着と判断されると認証データが入力されるものであって、認証データを変更し得るプログラマブルな記憶装置であるから、本願発明の「プログラムマブルデータ記憶装置」に相当する。そして、「認証データメモリ」は、身体装着機器の時計側ケース内にあって搬送することができるメモリであるから、本願発明の「プログラムマブルデータ記憶装置を搬送」するようになされていることに相当し、また、認証データについての信号を受け取るよう構成されるものあるから、「認証データメモリ」は、本願発明の「識別するための識別情報を受信し且つ記憶するように構成された」プログラムマブルデータ記憶装置に相当する。

(4)引用発明の「スイッチ電極」は、電極板を介して時計側ケース内部に設けられた回路と電気的に接続され、また、両バックルの係合に伴ってスイッチ電極が接触するものである。そして、「スイッチ電極」の構造については、バックルとは別に新たにスイッチ構造の電極を設けるものではなく(引用例1の図面第3図参照)、固定バックルおよび可動バックルの一部分をして、若しくは、バックルを構成する部材と一体化されて構成されるものと解されるから、結局、引用発明の「各リストバンドの内部には電極板が埋設され、電極板の他端部は、時計側ケースの内部に設けられた回路に接続され、一端部は、装着センサを構成するスイッチ電極に接続され、両バックルの係合に伴って接触することにより、装着センサがオンとなる」身体装着器具における「時計側ケースの内部に設けられた回路」は、電極板を介してバックルと電気的に接続されるものといえ、本願発明の「前記構造内あるいは前記構造上に配置されていて、前記留め具に電気的に接続される回路から成」ることに相当する。

(5)引用発明は、身体装着機器が身体装着中であると判断したとき、新規装着であるか否かの判断や装着時の初期設定、認証データの入力を行うようにすることができるものであるから、回路の機能が作動することは明らかであって、引用発明と本願発明とは、「回路の機能」について「(識別機器が人に装着されている)と」作動する点で共通する。

(6)引用発明の、「身体装着機器が身体装着中でなければ、非装着が所定の規定時間以上継続しているか否かを判断し、非装着が所定の規定時間以上継続している場合には、認証設定を解除して、認証データメモリに記憶されている認証データを消去する等の認証要求等を不可能にする処理を実行する」ことは、本願発明の「回路が、前記プログラマブルデータ記憶装置に記憶される情報を破壊」することに相当し、また、情報の破壊について、「(識別機器が人に装着されなくなると)、」破壊する点で、本願発明と共通する。

(7)一般に、「バックル」は開閉を繰り返すことができるものであるから、引用発明の「バックル」は、本願発明の「繰り返して行われる閉鎖と開放に対応して構成されている」、「留め具」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は次の点で一致する。


<一致点>

「情報を提供するように適応された識別器具であり、この識別器具が、
識別するための識別情報を受信し且つ記憶するように構成されたプログラムマブルデータ記憶装置、
プログラムマブルデータ記憶装置を搬送し、人によって着用されるかあるいは人に付けられるように適応された構造、
前記構造内あるいは前記構造上に配置された留め具であって、人に前記構造を付けるように適応されている留め具、および
前記構造内あるいは前記構造上に配置されていて、前記留め具に電気的に接続される回路から成り、(識別機器が人に装着されている)と前記回路の機能が作動し、(識別機器が人に装着されなくなると)、前記回路が、前記プログラマブルデータ記憶装置に記憶される情報を破壊し、前記留め具が、繰り返して行われる閉鎖と開放に対応して構成されている識別器具。」

一方、次の点で相違する。

<相違点>

(a)本願発明は、情報の提供について「人に関する情報」と特定され、識別情報について「人を明確に」識別すると特定されるのに対し、引用発明は、認証データにおいて人に関する特定がない点。

(b)本願発明は、「前記留め具が閉じられると、前記回路の機能が作動」するものであるのに対し、引用発明は、本願発明の留め具に相当する「バックル」のみが係合されると回路の機能が作動することについて特定がない点。

(c) 本願発明は、「前記留め具が開放すると、前記回路が、前記プログラマブルデータ記憶装置に記憶される情報を破壊」するのに対し、引用発明は、非装着が「所定の規定時間以上継続している場合に」「認証データメモリに記憶されている認証データを消去する」する点。

5 当審の判断
上記相違点について検討する。

相違点(a)について
引用発明は、「LANの各種サーバーやインターネット等への接続に必要なデータが認証データメモリに記憶され、」「認証データを送信して、LANに接続したり、各種サーバーやインターネットからデータを取得することが可能とな」るものである。そして、各種サーバーやインターネットからデータの取得に際し、認証データとして、人に関する情報を送信することは、例えば、引用例の段落【0085】ないし段落【0089】の第4の実施の形態において、図面第15図(指紋データを送信し、認証、照合を行い、所定のアクセス制御やサービス制御がなされる点。)に示されているように周知慣用手段であって格別の困難性を有しない。

相違点(b)について
引用発明において、身体への装着の有無の判断は、「装着センサ」と「身体近接センサ」が共にオンになるか否かによりなされているが、装着の有無の判断を装着センサのみにより行うことは、例えば、引用例の段落【0085】ないし段落【0089】の第4の実施の形態における、段落【0089】および図面第15図に示されているように周知であるから、引用発明において、本願発明の留め具に相当する「バックル」のみが係合されることをもって、身体への装着の有無を判断するようにすることは当業者が適宜なし得る事項である。また、引用発明は、身体装着機器が人に装着中されているときに、回路の機能が作動するものであり(前記4 (5)参照)、身体装着後、すなわち、バックルが閉じられると速やかに、新規装着であるか否かの判断や装着時の初期設定、認証データの入力を行うようになされると解されるから、バックルが閉じられることをもって前記回路の機能を作動させることに格別の困難性を有しない。よって、本願発明のように「前記留め具が閉じられると、前記回路の機能が作動」するようにすることは当業者が適宜なし得る事項である。

相違点(c)について
本願発明は、「前記留め具が開放すると、前記回路が、前記プログラマブルデータ記憶装置に記憶される情報を破壊」するものであり、留め具の開放に起因して情報が破壊されるものと解釈され、一方、引用発明は、身体装着装置が非装着となったときから所定時間後に情報が消去されるものの、非装着に起因して情報が消去されるから、この点において、引用発明と格別の差異はない。また、請求人が、審判請求書の請求の理由、および回答書において主張するように、本願発明が、留め具が開放すると、所定の時間待つことなく直ちに、情報を破壊するものとしても、引用発明には、身体装着機器が身体装着中でないときには情報を消去しようとする思想が示されているものであって、その消去のタイミングを、非装着となったときからどの程度の所定時間後とするか、または、直ちに消去するかについては、記憶されている情報に対して必要とするセキュリティの強さ、身体識別器具の使用状況(使用形態、使用場所等)に応じて、当業者が適宜設定し得る事項であるから、この点に格別の困難性を有しない。さらに、これに関連して、前置報告で示された特開2000-148860号公報の段落【0021】、段落【0022】には、腕時計型ID装置において、不携帯が検出されると、直ちに、副パスワード記憶部の内容をクリアする処理を行うことが記載されており、他人に知られたくない情報を直ちに削除することが知られていることからしても、「前記留め具が開放すると、」直ちに「前記回路が、前記プログラマブルデータ記憶装置に記憶される情報を破壊」することに格別の困難性を有しない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用例及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-07 
結審通知日 2011-09-13 
審決日 2011-09-28 
出願番号 特願2003-579160(P2003-579160)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 浩  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 吉岡 浩
清木 泰
発明の名称 増強された識別器具  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  
代理人 大貫 進介  

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