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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1252030 |
審判番号 | 不服2010-17476 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-08-04 |
確定日 | 2012-02-08 |
事件の表示 | 特願2006-332284「有機電界発光表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月31日出願公開、特開2008- 21629〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成18年(2006年)12月8日(パリ条約による優先権主張 2006年7月11日 大韓民国)を出願日とする特願2006-332284号であって、平成21年8月17日付け及び同年12月8日付けで拒絶理由が通知され、平成22年3月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされ、同年8月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月7日付けで手続補正がなされたものである。 その後、平成23年5月9日付けで前置報告書の内容について請求人の意見を求める審尋がなされ、同年8月9日付けで回答書が提出された。 第2 本願の請求項1に係る発明 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年12月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に複数の有機電界発光素子が形成されている基板と、 前記基板の非画素領域に塗布されたシール材と、 前記基板と対応する位置に所定間隔だけ離隔されて前記シール材により付着されているメタルキャップと、 前記メタルキャップの内側面に積層構造で形成される水分吸収剤及び酸素発生剤と を含むことを特徴とする有機電界発光表示装置。」 第3 引用例 1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-210466号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(下記「2 引用例1に記載された発明の認定」において直接引用した記載に下線を付した。) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、短絡の発生が抑制される有機EL素子、及び短絡部位を修復した後、封止する工程を備える有機EL素子の製造方法に関する。また、微小な短絡があっても発光させることができる有機EL素子の駆動方法及び特定の定電流回路を備え、微小な短絡が発生しても発光を持続させることができる有機EL素子の駆動回路に関する。 【0002】 【従来の技術】定電流駆動される有機EL素子では、陽極と陰極との短絡により、特定の画素が発光しなくなったり、電流のほとんどすべてが短絡部位を流れることによって素子全体が発光しなくなることがある(例えば、特開平11-40346号公報)。また、水分、酸素等により、特に、高温雰囲気に晒された場合、或いは長期間の使用の際に、ダークスポットが発生し、それが成長することもある。そして、これら画素欠陥及びダークスポットの発生等を抑制する、或いは短絡部位を修復するための簡便な装置、操作等が必要とされている。更に、短絡部位を修復することなく、そのまま発光させることができる駆動方法等の提供が望まれている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するものであり、短絡の発生を抑制することができる有機EL素子、及び短絡部位を発熱させ、酸化させることにより修復した後、封止する工程を備える有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。また、微小な短絡があっても、それを修復することなくそのまま発光させることができる有機EL素子の駆動方法及びそのように駆動し得る特定の構成を備える有機EL素子の駆動回路を提供することを目的とする。 【0004】 【課題を解決するための手段】第1発明の有機EL素子は、基板、該基板の表面に、陽極、有機EL薄膜及び陰極が、この順に積層され、形成された有機EL積層体、並びに該有機EL積層体を封止する封止部材を備える有機EL素子において、該基板と該封止部材により形成される空間内に支燃性ガス発生剤が封入されていることを特徴とする。この封止部材は、ガラス製、金属製等の封止材と、この封止材を基板の周縁に接合する接合層とにより形成される。 【0005】上記「支燃性ガス発生剤」としては、素子の使用時、短絡の発生を抑制することができる支燃性ガスを放出し得る化合物を使用することができる。支燃性ガスは、通常、支燃性ガス発生剤が分解して生成する酸素ガスであり、分解にともなって有機EL素子を形成する有機EL薄膜及び電極等の特性を損なう他のガス等が生成しない支燃性ガス発生剤が好ましい。また、この支燃性ガス発生剤としては、特に加熱を要することなく、一般に有機EL素子が使用される環境温度において容易に、酸素ガス等の支燃性ガスを放出するものがより好ましい。更に、封止空間に封入し、固定する際の取り扱い易さ等の観点から、支燃性ガス発生剤は粉末状、粒状等の固体であることが好ましい。 【0006】このような支燃性ガス発生剤としては、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化亜鉛等の過酸化物、並びにペルオキソ二炭酸ナトリウム、ペルオキソ二炭酸カリウム等のペルオキソ二炭酸塩、及びペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸バリウム等のペルオキソ二硫酸塩などが挙げられる。これらのうち、ペルオキシ酸塩の多くは吸湿により酸素ガスを発生するものであり、支燃性ガス発生剤として用いた場合に、有機EL素子の封止空間に含まれる水分が吸収され、且つ素子の特性を損なう分解生成物等を生ずることがないため、特に好ましい。 【0007】水分が、所謂、ダークスポットの発生及びその経時的な成長の一因であることは知られているが、吸湿により酸素ガスを生成する支燃性ガス発生剤により、有機EL素子の封止空間に含まれる水分量が低減される。そのため、場合によっては、通常、封止空間に封入される酸化バリウム粉末、酸化カルシウム粉末等の吸湿剤の封入量を減量することができる。また、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等は粉末状であり、封止空間に封入する際に取り扱い易く、吸湿剤と混合した後、、封止材の内表面に透湿性を有する樹脂フィルム等によって固定し、封入することもできる。 【0008】酸素ガスも、高濃度であったり、長期間の経時とともに、ダークスポットの発生及びその成長の一因となり得る。従って、支燃性ガス発生剤から放出される酸素ガスは、短絡の発生を抑制するために必要な最小限の量であることが好ましい。この酸素ガス量は、封止空間の容積によって支燃性ガス発生剤の封止量を適量とすることにより、容易に調整することができる。酸素ガス量は、封止空間を100体積%とした場合に、0.1?5体積%、特に0.5?2体積%とすることが好ましい。酸素ガス量が0.1体積%未満であると、短絡の発生を抑制する作用が十分に得られず、5体積%を越える場合は、経時とともにダークスポットが発生し、成長することがあるため好ましくない。」 「【0024】 【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。 実施例1 図1に示すように、ガラスからなる透明基板1、この透明基板1の表面に、ITOからなる透明電極2、少なくとも発光層を有する有機EL薄膜3及びアルミニウムからなる陰極4が、この順に積層され、形成された有機EL積層体、並びにステンレス鋼製の封止材52と、この封止材52を透明基板1の周縁に接合している接合層51とからなる封止部材5を備える有機EL素子を作製した。この素子の発光面積は7.2×3.6cm^(2)であり、封止空間53の容積は4cm^(3)である。 【0025】この素子の封止材52の内面の凹部54の周縁には、図1に示すように、透湿性の樹脂フィルム6が貼着されている。そして、凹部54には0.2gの酸化バリウム粉末と0.8mgのペルオキソ二硫酸アンモニウム粉末との混合粉末7が封入されている。このペルオキソ二硫酸アンモニウムは、素子の使用時、接合層51等から封止空間53に侵入する水分を吸収して酸素ガスを放出し、封入された0.8mgのペルオキソ二硫酸アンモニウムから生成する全酸素ガス量は4×10^(-2)cm^(3)になる。従って、封止空間53に含まれる酸素ガス濃度は約1体積%となる。これにより、素子の使用時、短絡の発生が抑制される。」 「【図1】 」 2 引用例1に記載された発明の認定 【図1】から、封止材52は「透明基板1及び有機EL積層体」と対応する位置に所定間隔だけ離れて配置されて、封止材52と「透明基板1及び有機EL積層体」との間に封止空間53を形成していること、並びに、接合層51は「透明基板1及び有機EL積層体」の非画素領域に配置されていることが明らかである。 よって、上記記載(図面の記載も含む)を総合勘案すれば、引用例1には、 「ガラスからなる透明基板1、この透明基板1の表面に、ITOからなる透明電極2、少なくとも発光層を有する有機EL薄膜3及びアルミニウムからなる陰極4が、この順に積層され、形成された有機EL積層体、並びに、透明基板1及び有機EL積層体と対応する位置に所定間隔だけ離れて配置されて透明基板1及び有機EL積層体との間に封止空間53を形成しているステンレス鋼製の封止材52と、この封止材52を非画素領域である透明基板1の周縁に接合している接合層51とからなる封止部材5を備える有機EL素子であって、 封止材52の内面の凹部54には吸湿剤となる0.2gの酸化バリウム粉末と、吸湿により酸素ガスを発生する0.8mgのペルオキソ二硫酸アンモニウム粉末との混合粉末7が封入され、ペルオキソ二硫酸アンモニウムは、素子の使用時、接合層51等から封止空間53に侵入する水分を吸収して酸素ガスを放出し、これにより、素子の使用時、短絡の発生が抑制される有機EL素子。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 第4 本願発明と引用発明の対比、及び、当審の判断 1 対比 (1)ここで、本願発明と引用発明を対比する。 引用発明の「有機EL積層体」が、複数の有機電界発光素子が形成された画素領域を備えていることは当然であるといえるから、引用発明の「ガラスからなる透明基板1」及び「この透明基板1の表面に、ITOからなる透明電極2、少なくとも発光層を有する有機EL薄膜3及びアルミニウムからなる陰極4が、この順に積層され、形成された有機EL積層体」が、本願発明の「画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に複数の有機電界発光素子が形成されている基板」に相当する。 引用発明においては「透明基板1及び有機EL積層体」と「封止材52」は「接合層51」によって接合されて封止空間53を形成していることから、上記「接合層51」はシール機能を有するものといえる。よって、引用発明の「封止材52を非画素領域である透明基板1の周縁に接合している接合層51」が、本願発明の「前記基板の非画素領域に塗布されたシール材」に相当する。 引用発明の「透明基板1及び有機EL積層体と対応する位置に所定間隔だけ離れて配置されて透明基板1及び有機EL積層体との間に封止空間53を形成しているステンレス鋼製の封止材52」が、本願発明の「前記基板と対応する位置に所定間隔だけ離隔されて前記シール材により付着されているメタルキャップ」に相当する。 引用発明の「吸湿剤となる0.2gの酸化バリウム粉末」及び「吸湿により酸素ガスを発生する0.8mgのペルオキソ二硫酸アンモニウム粉末」が、それぞれ、本願発明の「水分吸収剤」及び「酸素発生剤」に相当するから、引用発明の「封止材52の内面の凹部54に」「封入され」る「吸湿剤となる0.2gの酸化バリウム粉末と、吸湿により酸素ガスを発生する0.8mgのペルオキソ二硫酸アンモニウム粉末との混合粉末7」と、本願発明の「前記メタルキャップの内側面に積層構造で形成される水分吸収剤及び酸素発生剤」とは、「前記メタルキャップの内側面に配設される水分吸収剤及び酸素発生剤」である点で一致する。 引用発明の「有機EL素子」が、本願発明の「有機電界発光表示装置」に相当する。 (2)本願発明と引用発明の一致点 したがって、本願発明と引用発明とは、 「画素領域と非画素領域とに画定され、前記画素領域に複数の有機電界発光素子が形成されている基板と、 前記基板の非画素領域に塗布されたシール材と、 前記基板と対応する位置に所定間隔だけ離隔されて前記シール材により付着されているメタルキャップと、 前記メタルキャップの内側面に配設される水分吸収剤及び酸素発生剤と を含むことを特徴とする有機電界発光表示装置。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。 (3)本願発明と引用発明の相違点 メタルキャップの内側面に配設される水分吸収剤及び酸素発生剤の形態に関し、本願発明は、「積層構造」であるのに対して、引用発明においては「混合粉末」である点。 2 当審の判断 (1)相違点の検討 封止空間において特定のガス成分の変換(ガスの吸収又は発生)を行うための物質(ガスの吸収剤や発生剤)を複数種類配設するしかたとして、混合して配置することも別々に配置することも周知の技術的事項であり(例えば、特開平11-260256号公報【0020】参照)、また、複数種類を別々に配置する形態として、積層構造とすることも周知の技術的事項である(例えば、特開平10-290915号公報【0029】、特開2001-96693号公報【0021】参照)。 してみれば、引用発明においても、封止空間53に封入されている「吸湿剤となる0.2gの酸化バリウム粉末」(水分吸収剤)と、「吸湿により酸素ガスを発生する0.8mgのペルオキソ二硫酸アンモニウム粉末」(酸素発生剤)について、上記の周知技術を適用して、「混合粉末」の形態に替えて「積層構造」の形態で配設(封入)することとして、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。 (2)そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。 なお、請求人は、平成23年8月9日付けで提出された回答書において、 「この点について、審査官殿は、“水分吸収剤と酸素発生剤を積層構造にしても、水分吸収剤の存在により酸素発生剤が吸収する水分の量が少なくなり、結果として酸素の発生量も少なくなるものと考えられる。したがって、積層構造にすることにより、水分を吸収する役割と酸素を発生する役割とが分離できるという本願発明の効果も認めることができない”とのご見解を示されるものの、このような「水分吸収剤の存在により酸素発生剤が吸収する水分の量が少なくなる」という現象は、本願発明の場合、積層構造で形成される水分吸収剤及び酸素発生剤の積層面(又はその付近)でのみ生じるものであり、これら水分吸収剤及び酸素発生剤が積層面を介して互いに分離されているために、該積層面以外では、水分吸収剤が水分を吸収する役割と、酸素発生剤が酸素を発生する役割とが明確に維持されるものであります。・・・・・すなわち、酸化バリウム粉末(水分吸収剤)とペルオキソ二硫酸アンモニウム粉末(酸素発生物質)とが全体に混合された状態で存在する引用文献1の混合粉末よりも、水分吸収剤と酸素発生剤とが積層面を介して互いに分離かつ積層された本願発明の方が、各層にある水分吸収剤と酸素発生剤が有効に機能するものであり、このような点は、本願発明の格別なる効果に相当すると言うことができます。」と主張する。 しかし、本願の明細書(【0027】、【0029】?【0031】、【0044】、【0045】)を参酌すれば、本願発明において用いられる「酸素発生剤」は、水分と接触し、水分を吸収することにより酸素を発生するものであるといえるところ、例えば、本願発明の積層構造として内側(メタルキャップの内側面)に「酸素発生剤」を配置し、表面側に「水分吸収剤」を配置して「酸素発生剤」を覆った構造とし、「酸素発生剤」が接触し得る水分量を少なくした場合においては十分に酸素を発生することができず、「酸素発生剤」の機能を有効に発揮することができない可能性があることが予測される(なお、引用例1の混合粉末の場合は上記のような弊害は避けられる)。 このように、「酸素発生剤」及び「水分吸収剤」のそれぞれが有効に機能することができるか否かは、上記のような「積層構造」の具体的構成、並びに、その他の要因として、「酸素発生剤」と「水分吸収剤」の量的割合、酸素発生剤における分解触媒の粒径(この点については本願明細書の【0045】参照)、封入空間に含まれる水分や酸素の割合や、シール材などから侵入し得る水分やガス(酸素)の量などにも依存するものであって、「積層構造」であることのみによっては、必ずしも「酸素発生剤」及び「水分吸収剤」のそれぞれが有効に機能することができるとは認められないから、上記請求人の主張は採用できない。 (3)まとめ したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 結言 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-31 |
結審通知日 | 2011-09-06 |
審決日 | 2011-09-26 |
出願番号 | 特願2006-332284(P2006-332284) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 野田 洋平、西岡 貴央 |
特許庁審判長 |
神 悦彦 |
特許庁審判官 |
森林 克郎 吉川 陽吾 |
発明の名称 | 有機電界発光表示装置 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 佐伯 義文 |