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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1252052
審判番号 不服2009-19438  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-10-09 
確定日 2012-02-10 
事件の表示 特願2006-530817「ディスクドライブ装置、及びディスクドライブ装置においてキャリブレーションのタイミングをとる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日国際公開、WO2004/102557、平成19年 2月22日国内公表、特表2007-503674〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯の概要

本願は、平成16年5月12日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2003年5月19日 ヨーロッパ特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成19年5月11日付けで手続補正され、平成20年3月7日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日付けで手続補正がされたが、平成21年6月3日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成21年10月9日に拒絶査定不服判が請求されるとともに同日付で手続補正がされた。
その後、当審において、審査官の作成した前置報告書(特許法164条3項)の内容を利用した審尋を平成22年12月21日付けで行ったところ、平成23年7月4日付けで回答書の提出があったものである。


第2.平成21年10月9日付けの手続補正について補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成21年10月9日付けの手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.本件補正の内容
平成21年10月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前後の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
(1)本件補正前
「【請求項1】
記憶媒体から情報を読取る場合に読取り装置において再キャリブレーションプロセスのタイミングをとる方法であって、前記再キャリブレーションプロセスは、内側ディスク半径に近い領域において読取る場合よりも外側ディスク半径に近い領域において読取る場合により多く実行されることを特徴とする方法。
【請求項2】
少なくとも1つの半径に依存するパラメータが、再キャリブレーションプロセスにおいて再キャリブレーションされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
幾つかのパラメータが、スタートアップフェーズ中にキャリブレーションされ、同一のパラメータがまた、再キャリブレーションプロセスにおいて再キャリブレーションされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該方法は、各々径方向サイズを持つディスクゾーンを規定するステップを有し、外側ディスク半径に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズは、ディスクの中心に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズより小さく、当該方法はさらに、読取りプロシージャが新しいディスクゾーンに入ったかどうかチェックするステップを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
再キャリブレーションプロセスが、新しいディスクゾーンに入ると実質的に直ちに開始
されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
新しいディスクゾーンに入ると、所定の再キャリブレーション許可条件に関するチェックがなされ、実際の再キャリブレーションプロセスの開始が、全ての前記所定の再キャリブレーション許可条件が満たされる時まで延期されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
読取り動作が実際の再キャリブレーションの開始まで継続されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
記憶媒体から情報を読取るための読取り装置であって、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成される読取り装置。
【請求項9】
当該読取り装置は、記憶ディスク、例えば、光記憶ディスクから情報を読取るためのディスクドライブ装置であることを特徴とする請求項8に記載の読取り装置。
【請求項10】
当該読取り装置は、ディスクゾーンの規定に関する情報を含むゾーンメモリを有することを特徴とする請求項8に記載の読取り装置。
【請求項11】
前記ゾーンメモリは、ゾーン境界線の半径のリストを含むことを特徴とする請求項10
に記載の読取り装置。
【請求項12】
前記ゾーンメモリ内の情報により規定される各ディスクゾーンは径方向サイズを持ち、外側ディスク半径に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズは、ディスクの中心に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズより小さいことを特徴とする請求項10に記載の読取り装置。
【請求項13】
当該読取り装置は、読取りプロセス中に再キャリブレーションプロセスを実行するよう
に構成される制御回路を有し、
前記制御回路は、読取りプロシージャが新しいディスクゾーンに入ったかどうかをチェックするステップを実行する場合に前記ゾーンメモリを参照するように構成されることを特徴とする請求項10に記載の読取り装置。
【請求項14】
記憶空間の所定部分においてディスクゾーンの規定に関する情報を含む記憶媒体であって、前記記憶空間の所定部分内の情報により規定される各ディスクゾーンは径方向サイズを持ち、外側ディスク半径に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズは、ディスクの中心に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズより小さい記憶媒体から情報を読取るための読取り装置であって、当該読取り装置は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成され、
当該読取り装置は、読取りプロセス中に再キャリブレーションプロセスを実行するように構成される制御回路を有し、
前記制御回路は、読取りプロシージャが新しいディスクゾーンに入ったかどうかをチェックするステップを実行する場合に前記記憶媒体から前記ディスクゾーンの規定に関する情報を参照するように構成されることを特徴とする読取り装置。
【請求項15】
当該読取り装置は、ディスクゾーンの規定に関する情報を含むためのゾーンメモリを有し、
前記制御回路は、前記記憶媒体から前記ディスクゾーンの規定に関する情報を読取り、前記ゾーンメモリに該ディスクゾーンの規定に関する情報を記憶するように構成されることを特徴とする請求項14に記載の読取り装置。
【請求項16】
記憶媒体から情報を読取るための読取り装置であって、当該読取り装置は、請求項6に記載の方法を実行するように構成され、当該読取り装置は、読取りプロセス中に再キャリブレーションプロセスを実行するように構成される制御回路を有し、
当該読取り装置はさらに、互いにデータ通信を行うデータエンジンシステム及びデータ処理システムを有し、
前記データエンジンシステムは、読取りモードにおいて、読取り信号を受け、該読取り信号からデータ信号を獲得し、該データ信号を前記データ処理システムに通信するように構成され、
前記データ処理システムは、読取りモードにおいて、前記データエンジンシステムからデータ信号を受け、ホストシステムへの通信のためデータを処理するように構成され、
前記データエンジンシステムは、読取りプロシージャが新しいディスクゾーンに入ったかどうかチェックするように構成され、前記データ処理システムは、再キャリブレーション許可条件を決定するように構成されることを特徴とする読取り装置。」

(2)本件補正後
「【請求項1】
記憶媒体に情報を書込むまたは記憶媒体から情報を読取る場合に記憶書込み/読取り装置において再キャリブレーションプロセスのタイミングをとる方法であって、前記再キャリブレーションプロセスは、内側ディスク半径に近い領域において書込むまたは読取る場合よりも外側ディスク半径に近い領域において書込むまたは読取る場合により多く実行され、前記記憶媒体は、種々の隣接するディスクゾーンに細分され、各ディスクゾーンは、内側ゾーン半径及び外側ゾーン半径により特徴付けられ、内側ゾーン半径及び外側ゾーン半径の間の径方向距離は、ディスクゾーンのサイズとして示され、次のディスクゾーンの内側ゾーン半径は、隣接した前のディスクゾーンの外側ゾーン半径と一致し、外側ディスク半径に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズは、ディスクの中心に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズより小さく、再キャリブレーションプロシージャは、新しいディスクゾーンに入ると実行され、新しいディスクゾーンに入ると、所定の再キャリブレーション許可条件に関するチェックがなされ、前記所定の再キャリブレーション許可条件は、書込みモードにおいては、現在データをデータバッファから書込んでいて、データの流れがバッファが空になるまで妨げられないであろうということを含み、または読取りモードにおいては、ドライブが、略々空であり、ホストへのデータの妨げられないフローを確実にするために先ずは再び満たされるべきであるバッファからホストにデータを出力していることを含み、実際の再キャリブレーションプロセスの開始は、全ての前記所定の再キャリブレーション許可条件が満たされる時まで延期され、書込み動作または読取り動作は、実際の再キャリブレーションの開始まで継続されることを特徴とする方法。
【請求項2】
少なくとも1つの半径に依存するパラメータが、再キャリブレーションプロセスにおい
て再キャリブレーションされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
幾つかのパラメータが、スタートアップフェーズ中にキャリブレーションされ、同一の
パラメータがまた、再キャリブレーションプロセスにおいて再キャリブレーションされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
記憶媒体に情報を書込むまたは記憶媒体から情報を読取るための記憶書込み/読取り装置であって、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成される記憶書込み/読取り装置。
【請求項5】 当該記憶書込み/読取り装置は、記憶ディスクに情報を書込むまたは記憶ディスクから情報を読取るためのディスクドライブ装置であることを特徴とする請求項4に記載の記憶書込み/読取り装置。
【請求項6】 当該記憶書込み/読取り装置は、ディスクゾーンの規定に関する情報を含むゾーンメモリを有することを特徴とする請求項4に記載の記憶書込み/読取り装置。
【請求項7】 前記ゾーンメモリは、ゾーン境界線の半径のリストを含むことを特徴とする請求項6に記載の記憶書込み/読取り装置。
【請求項8】 前記ゾーンメモリ内の情報により規定される各ディスクゾーンは径方向サイズを持ち、外側ディスク半径に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズは、ディスクの中心に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズより小さいことを特徴とする請求項6に記載の記憶書込み/読取り装置。
【請求項9】 当該記憶書込み/読取り装置は、書込みプロセスまたは読取りプロセス中に再キャリブレーションプロセスを実行するように構成される制御回路を有し、 前記制御回路は、読取りプロシージャまたは書込みプロシージャが新しいディスクゾーンに入ったかどうかをチェックするステップを実行する場合に前記ゾーンメモリを参照するように構成されることを特徴とする請求項6に記載の記憶書込み/読取り装置。
【請求項10】 記憶空間の所定部分においてディスクゾーンの規定に関する情報を含む記憶媒体であって、前記記憶空間の所定部分内の情報により規定される各ディスクゾーンは径方向サイズを持ち、外側ディスク半径に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズは、ディスクの中心に近い領域におけるディスクゾーンの径方向サイズより小さい記憶媒体に情報を書込むまたは記憶媒体から情報を読取るための記憶書込み/読取り装置であって、当該記憶書込み/読取り装置は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成され、 当該記憶書込み/読取り装置は、書込みプロセスまたは読取りプロセス中に再キャリブレーションプロセスを実行するように構成される制御回路を有し、 前記制御回路は、読取りプロシージャまたは書込みプロシージャが新しいディスクゾーンに入ったかどうかをチェックするステップを実行する場合に前記記憶媒体から前記ディスクゾーンの規定に関する情報を参照するように構成されることを特徴とする記憶書込み/読取り装置。
【請求項11】 当該記憶書込み/読取り装置は、ディスクゾーンの規定に関する情報を含むためのゾーンメモリを有し、 前記制御回路は、前記記憶媒体から前記ディスクゾーンの規定に関する情報を読取り、前記ゾーンメモリに該ディスクゾーンの規定に関する情報を記憶するように構成されることを特徴とする請求項10に記載の記憶書込み/読取り装置。
【請求項12】 記憶媒体に情報を書込むまたは記憶媒体から情報を読取るための記憶書込み/読取り装置であって、当該記憶書込み/読取り装置は、請求項1に記載の方法を実行するように構成され、当該記憶書込み/読取り装置は、書込みプロセスまたは読取りプロセス中に再キャリブレーションプロセスを実行するように構成される制御回路を有し、 当該記憶書込み/読取り装置はさらに、互いにデータ通信を行うデータエンジンシステム及びデータ処理システムを有し、
前記データエンジンシステムは、読取りモードにおいて、読取り信号を受け、該読取り信号からデータ信号を獲得し、該データ信号を前記データ処理システムに通信し、書込みモードにおいて、前記データ処理システムからデータ信号を受け、書込み信号を生成するように構成され、 前記データ処理システムは、読取りモードにおいて、前記データエンジンシステムからデータ信号を受け、ホストシステムへの通信のためデータを処理し、書込みモードにおいて、ホストシステムと通信し、前記ホストシステムから受けた通信信号におけるデータ信号を処理し、データ信号を前記データエンジンシステムに通信するように構成され、 前記データエンジンシステムは、読取りプロシージャまたは書込みプロシージャが新しいディスクゾーンに入ったかどうかチェックするように構成され、前記データ処理システムは、再キャリブレーション許可条件を決定するように構成されることを特徴とする記憶書込み/読取り装置。」

2.補正の目的の適否
まず、本件補正における補正の目的が適法なものであるか否かについて検討する。
なお、以下の検討においては、本件補正前の請求項は、番号と共に例えば「旧請求項1」のように表記し、本件補正後の請求項は、番号と共に例えば「新請求項1」のように表記する。

(1)新請求項1では、旧請求項1において「(記憶媒体から情報を)読取る場合」とあったところに対し、「(記憶媒体に情報を)書込むまたは」との特定を加えている。このような特定の付加は、明らかに「(記憶媒体から情報を)読み取る場合」対し、新たな選択肢を付加するものである。

(2)新請求項1において、「新しいディスクゾーンに入ると、所定の再キャリブレーション許可条件に関するチェックがなされ」「実際の再キャリブレーションプロセスの開始は、全ての前記所定の再キャリブレーション許可条件が満たされる時まで延期され」との特定事項が加えられた点は、実質的に旧請求項6に基づくものと認められるものの、本件補正前の特許請求の範囲には、前記「所定の再キャリブレーション許可条件」についてさらに特定した請求項はなかったことからすると、
「書込みモードにおいては、現在データをデータバッファから書込んでいて、データの流れがバッファが空になるまで妨げられないであろうということを含み、または読取りモードにおいては、ドライブが、略々空であり、ホストへのデータの妨げられないフローを確実にするために先ずは再び満たされるべきであるバッファからホストにデータを出力していることを含み」
との特定事項を加えた点は、本件補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定したものとすることができない。
さらには、前記特定事項のうち「書込みモードにおいては、現在データをデータバッファから書込んでいて、データの流れがバッファが空になるまで妨げられないであろうということを含み、または」との許可条件は、前記(1)で指摘した「記憶媒体に情報を書き込む場合」が、新たな選択肢を加えるものであるのと同様の理由により、新たな選択肢を付加するものである。

(3)請求項4、10及び12に記載された発明において、「記憶書込み/読取り装置」は、本件補正前の請求項8,14,及び16に記載された「読取り装置」に対し、「記憶媒体に情報を書込むまたは」との新たな選択肢を付加するものである。

(4)請求項9,10,及び12に記載された発明において「書込みプロセスまたは」は、本件補正前の請求項13,14,及び16に記載された発明の「読取りプロセス」に対し、新たな選択肢を付加するものである。

以上のとおりであるから、本件補正は、上記(1)ないし(4)で指摘した請求項及び同請求項を引用する請求項、結局、全ての請求項にわたって、新たな選択肢が付加されるか、または本件補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定したものとすることができない特定事項の付加を含むので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものと認めることができない。また、同項第3号に掲げる誤記の訂正、または同項第4号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものとも認めることもできない。
したがって、上記(1)ない(4)で指摘した補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項各号のいずれの事項を目的とするものとも認めることができない。

(3)本件手続補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成21年10月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし16に係る発明は、平成20年9月11日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記「第2 〔理由〕 1. (1)」に本件補正前の請求項1として掲げたとおりである。

2.引用例
(1)第1引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2003-85760号公報(平成15年(2003年)3月20日公開。以下、「第1引用例」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(a)
「【0013】
【発明の実施の形態】図1は、本発明における情報記録装置の一実施形態を示すブロック図である。図に示されるように、本発明の情報記録装置は、具体的には、CPU、ROM、RAM、入出力ポート等からなるマイクロコンピュータ、および各種機構、回路部品によって制御されるCD-Rドライブ等であり、ここでは、機能ブロック図で示されており、光ディスク102の円周方向に略一定の線密度で情報が記録されるものとする。
【0014】ディスク状記録媒体であるCD-R等の光ディスク102は回転モータ100によって回転駆動される。ヘッド103は、光ディスク102の記録膜上に光ビームを集光させ、記録マークを形成する。また、光ディスク102の半径方向に移動可能で、光ディスク102にあらかじめ設けられた試し書き領域や、ユーザデータ領域にアクセス可能である。
【0015】ヘッド103には図示しない光源が搭載されている。光源として、通常半導体レーザ(LD:Laser Diode )が用いられる。半導体レーザは、LDドライバ104によって所定の記録パワー状態Pwに入力パルスwdata信号で変調される。半導体レーザが、記録パワー状態とスペースパワー状態の間で変調されることで、記録膜上には記録マークとスペースができる。これを読み出すことにより反射率の差が生じて、情報信号として再生することができる。
【0016】光ディスク102は、所定位置毎に複数のゾーンが設けられており、ZCLV書込み制御部109は、各ゾーンに応じて回転モータ100を制御して記録スピードを可変とする。図7に、ゾーン区分けの例が示されている。ここでは、光ディスク102に記録されているアドレスに応じて4つのゾーンを設け、内周から12倍速(12x)、16倍速(16x)、20倍速(20x)、24倍速(24x)の速度が割り付けられている。
【0017】106は記録条件設定部であり、各ゾーンに応じた記録パワー情報を保持している。この記録パワー情報は、あらかじめ決められた値でもいいが、より好ましくは、試し書き制御部105により試し書きを行なった結果に従って求められた値でもよい。試し書き制御部105による動作例を図3にフローチャートで示す。試し書きは、光ディスク102の所定の領域で行なうものとし、ステップS301で所定領域に記録パワーをいくつか変えて記録する。ステップS302でその領域を再生し、再生信号から公知の評価尺度値“beta”を得る。“beta”は、再生信号RFの低域成分を除去(AC結合)したときの上下振幅の対称性に相当する。」

(b)
「【0020】説明を図1に戻す。108は、再生信号評価部であり、記録中、ZCLV書込み制御部109によりゾーン切り替えが生じたとき、現在ゾーンの最後部を再生して“beta”を測定し、目標値“betaT”との比較結果に応じて記録条件修正部107により新ゾーンの記録パワーを修正する。図2に、ゾーン番号“n”から“n+1”への切り替えが発生したときの、記録条件修正部107、再生信号評価部108、ZCLV書き込み制御部109によるパワー修正動作例をフローチャートで示す。
【0021】図2において、まず、ステップS201で現在ゾーン“n”の最後部を再生し、ステップS202でbetaを測定する。そして、ステップS203で“beta”と“betaT”との比較結果に所定の係数Kを乗じた分だけ、ゾーン“n+1”の初期設定記録パワー“Pw opc[n+1]”を修正して“Pw[n+1]”を得る。具体的には、“beta”が“betaT”より小さいならパワーを増加させるように修正する。なお、初期設定パワーは、あらかじめ決められた値、または試し書きにより決まった値であり、記録条件設定部106に格納されているものであり、ステップS204で修正された記録パワーをゾーン“n+1”の記録パワーとしている。以上のようにして、直前に記録したところの再生信号を評価して次のゾーンの記録パワーを修正する。
【0022】図4に示すフローチャートは、ゾーン番号“n”から“n+1”への切り替えが発生したときの記録条件修正部107、再生信号評価部108、ZCLV書込み制御部109によるパワー修正動作の例を示す。ここでは、ステップS401でまず記録を中断する。ステップS402で新ゾーン“n+1”の記録パワーを初期設定パワー“Pw opc[n+1]”とし、ステップS403で新ゾーン“n+1”に記録を再開する。ここまでは従来例と同様の動作であり、以降が本発明のパワー修正動作になる。
【0023】すなわち、ステップS404で1セクタ情報を記録し、ステップS405でその1セクタを再生信号評価部108により再生し、ステップS406でそのbetaを測定する。そして、ステップS407で、“beta”と“betaT”との比較結果に所定の係数“K”を乗じた分だけ、ゾーン“n+1”の記録パワー“Pw[n+1]”を修正して新しい“Pw[n+1]”を得る。具体的には、“beta”が“betaT”より小さいならパワーを増加させるように修正する。上記したステップS404?S407の動作を10回繰り返すことにより(ステップS408)、“beta”が“betaT”と等しくなるように記録パワーが修正される。係数“K”は、収束速度を制御する係数で、大きいと1回の修正量が大きくなるため収束が速くなるが、あまり大きくすると測定誤差に敏感になるし、あまり小さいと収束が遅くなる。
【0024】なお、図2に示すフローチャートでは、ゾーンを切り替えて書き始める前に、直前のゾーンの再生評価から新ゾーンの記録パワーを修正したが、図4では、ゾーンが切り替わってから新ゾーンの再生評価を行なってパワー修正を行なっている。従って、図4に示すほうが、現在ゾーンでの評価によるパワーであるため、より正確に記録パワーを修正できるが、記録中断が比較的多く生じることからパワー修正のためのロスタイムが大きくなる。また、図2では、パワー修正のためのロスタイムがほとんど生じないという効果が得られる。
【0025】また、図2、図4に示すパワー修正動作の後、新ゾーンに情報を記録している最中に、定期的に記録を中断して、直前に記録したところを再生して再生信号を評価し、評価結果に応じて記録パワーを修正することもできる。この場合、定期的にステップS404からステップS407の処理を実行すればよい。パワー修正の動作の起動は、所定時間毎に限らず、所定の温度変化があったときなどのように、ある条件が満足される毎に行なってもよい。これによりさらに正確なパワー修正が可能である。」

(c)また、図1,図2,図4を参照
(d)第1引用例の「情報記録装置」は、記録した信号を再生評価しており、また、技術常識も考慮すると、実質的に「記録再生装置」と解することができるものである。また、情報記録装置の動作についての説明から方法に関する発明が把握されることは自明である。

摘記した引用例記載事項及び図面の記載事項を総合し、上記(d)の点も考慮すると、第1引用例には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明」という)。
「所定位置毎に複数のゾーンが設けられた光ディスクに記録時、情報記録再生装置において記録パワーを修正する方法であって、
記録中、ゾーン切り替えが生じたとき、現在ゾーンの最後部を再生し、又は、新ゾーンで1セクタ情報を記録してその1セクタを再生し、“beta”を測定し、目標値“betaT”との比較結果に応じて新ゾーンの記録パワーを修正する方法。」

(2)第2引用例
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日の前に頒布された刊行物である特開2003-68025号公報(平成15年(2003年)3月7日公開。以下、「第2引用例」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。

(e)
【0020】そこで、この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであり、ゾーンの幅を異ならせる等により、データ記録ディスクの内側のゾーンの転送速度の高速化と、記録容量の大容量化を実現したデータ記録ディスクを提供することを課題とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】この発明は、データを記録する記録領域が、同心円状の複数のゾーンに分割され、内側のゾーンの半径方向の幅が外側のゾーンの半径方向の幅よりも大きく、かつ内側のゾーンの単位データ記録長を、外側のゾーンの単位データ記録長よりも小さく形成することを特徴とするデータ記録ディスクを提供するものである。
【0022】これによれば、光ディスクの内側のゾーンのデータの転送速度を従来よりも速くすることができ、データ記録ディスク自体の記録容量を大きくすることができる。
【0023】また、この発明は、データを記録する記録領域が、同心円状の複数のゾーンに分割された光ディスクのゾーン分割方法であって、互いに隣接するk番目のゾーンとk+1番目のゾーンの境界半径位置を変化させたときの両ゾーンの合計記録容量が極大となるように、各ゾーンの半径方向の幅を最適化することを特徴とするデータ記録ディスクのゾーン分割方法を提供するものである。
【0024】ここで、前記各ゾーンの半径方向の幅が各ゾーンに含まれるトラック数に対応し、内側のゾーンの半径方向の幅が外側のゾーンの半径方向の幅よりも大きく、かつ内側の単位データ記録長を外側のゾーンの単位データ記録長よりも小さくなるような設定条件に基づいて、前記最適化が行われるようにしてもよい。このような最適化により、従来よりもデータ記録ディスクの内側のゾーンのデータ転送速度の高速化と、データ記録ディスクの記録容量の高容量化を実現できる。
【0025】
【発明の実施の形態】以下、図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳述する。なお、これによってこの発明が限定されるものではない。以下の実施例では光磁気ディスクを例として説明するが、ゾーン構成については相変化光ディスク,ROM光ディスク,磁気ディスクも適用可能である。
【0026】図1に、この発明の光磁気ディスクのゾーン構成の説明図を示す。ここでは、データの記録領域が4つのゾーン1?4に分割されている例を示す。半径方向の各ゾーンの幅を、ディスクの内側のゾーンから順にL1,L2,L3,L4とすると、最内周のゾーン1の幅L1が最も大きく、最外周のゾーン4の幅L4が最も小さくなるように、すなわちL1>L2>L3>L4となるようにする。

3.対比
本願発明と引用発明とを比較する。
引用発明において、「情報記録再生装置」は、「光ディスクに記録」し、また自明な事項として再生する装置であるから、「記憶媒体から情報を読取り(及び書き込む)読取り(及び書き込み)装置」に相当することは明らかである。
記録時、「記録パワー」が何らかの値に設定されることは自明であるから、引用発明において、「記録中」に「記録パワーを修正する」ことは、本願発明の「再キャリブレーションプロセス」に相当する。
引用発明の「記録パワーを修正する方法」は、「記録中、ゾーン切り替えが生じたとき」に実行されるので、「再キャリブレーションプロセスのタイミングをとる方法」であるということができる。
また、引用発明の「記録パワーを修正する方法」は、「現在ゾーンの最後部を再生し、又は、新ゾーンで1セクタ情報を記録してその1セクタを再生し、“beta”を測定し、目標値“betaT”との比較結果に応じて新ゾーンの記録パワーを修正する」ものであるところ、引用発明は「所定位置ごとに複数のゾーンが設けられた光ディスク」を記録再生することが前提であるから、「ゾーン切り替えが生じたとき」に実行されることは、本願発明の「ディスク半径(の所定の)領域において実行される」ことに他ならない。
すると、本願発明と、引用発明とは、次の点で一致する。
<一致点>
記憶媒体から情報を読取(り、及び書き込む)読取り(書き込み)装置において再キャリブレーションプロセスのタイミングをとる方法であって、前記再キャリブレーションプロセスは、ディスク半径(の所定の)領域において実行されることを特徴とする方法。

一方で、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明では、「記憶媒体から情報を読取る場合に」実行される再キャリブレーションプロセスのタイミングをとる方法であるのに対し、引用発明は記憶媒体に情報を書き込む場合に実行するものである点。

(相違点2)
本願発明では、前記再キャリブレーションプロセスは、「内側ディスク半径に近い領域において」「よりも外側ディスク半径に近い領域において」「より多く実行される」のに対し、引用発明ではどの領域で「多く」実行されるか不明である点。

4.判断
(相違点1について)
(1)光ディスクのような情報記録媒体に記録再生を行う場合には、記録時・再生時を問わず、制御に必要なパラメータを適切に設定する必要があることは自明な事項であるから、記録時に記録パワーの再キャリブレーションを実行している引用発明に接した当業者が再生時にも例えば再生パワーのような再生時に必要なパラメータの再キャリブレーションを実行しようと試みることはごく自然な発想であって、当業者が容易に想到しうることである。

(2)上記(1)の理由とは別に、拒絶査定時に周知例として示した特開2001-331937号公報には、「連続データの記録又は再生」(【0025】段落)「連続したデータの記録又再生を行っている」(【0088】段落)と、再生中の場合も含めて記載されており、「再生磁界」(【0180】段落)、「再生パワー」(【0203】段落)のように明らかに再生のための制御パラメータを、「媒体を複数の最適条件有効エリアに分割し、各エリアでの記録又は再生に使用する最適条件を決定する」(【0018】段落)と、明らかに再生時の再キャリブレーションを実行するものが記載さており、この他にも、特開2000-11481号公報(第2実施形態、第3実施形態【0036】以降参照)には、再生中に「再生パワー」の設定を変更すること、すなわち「記憶媒体から情報を読取る場合に」再キャリブレーションプロセスを実行することが記載されていることから明らかなように、「記憶媒体から情報を読取る場合に」再キャリブレーションプロセスを実行することは周知技術にすぎない。引用発明において、記録時の再キャリブレーションに加えて、このような周知の再生時の再キャリブレーション動作を付加することに格別困難な事情も見出せないので、相違点1については、周知技術も参酌することにより、当業者が容易に想到しうることである。

(相違点2について)
第2引用例には、「記録領域が、同心円状の複数のゾーンに分割され、内側のゾーンの半径方向の幅が外側のゾーンの半径方向の幅よりも大きく」のようにゾーンを分割した光ディスクが記載されている。
引用発明の方法は、「記録領域が、同心円状の複数のゾーンに分割され」た光ディスクを前提とするもので、当該ゾーンがどのように分割されているか、の点は前記方法の適用に特段の制約となるものでないことは明らかであるから、引用発明の再キャリブレーションプロセスを実行するに当たり、第2引用例に記載された光ディスクを採用することに特段困難な事情もなく、当業者が容易になしうることである。
そして、第2引用例に記載されたようなゾーン分割の光ディスクを採用した場合には、ディスクの外側で、ゾーンの境界が多くなるから、ゾーンをまたぐ回数も増え、引用発明の方法がゾーンの境界で再キャリブレーションを実行するものであることからすると、再キャリブレーションプロセスは、必然的に、「内側ディスク半径に近い領域において」「よりも外側ディスク半径に近い領域において」「より多く実行される」こととなることは明らかであるものである。

なお、本願発明では、「ゾーン」について特段の特定があるわけでもなく、また、「より多く実行される」根拠として、【0029】段落に、「製造工程の典型的な態様を鑑みると、ディスクの内側領域においては、ディスクの外側領域と比較してより少ない再キャリブレーションプロセスで十分であることが予測される。それゆえ、本発明の他の重要な態様によれば、ディスクの内側領域におけるゾーンの径方向サイズΔRは、ディスクの外側領域におけるゾーンの径方向サイズΔRより大きい。」との説明があるので、引用発明の方法を実施するに当たり、単に第2引用例に記載されたゾーン分割を有する光ディスクを採用することにより、必然的に再キャリブレーションが外側領域で「多く実行される」ようなものが本願発明において排除されているとすべき根拠はないことが明らかである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、各引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、第2引用例に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

5.本願発明についてのむすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-14 
結審通知日 2011-09-15 
審決日 2011-09-30 
出願番号 特願2006-530817(P2006-530817)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小山 和俊安田 勇太  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 小松 正
月野 洋一郎
発明の名称 ディスクドライブ装置、及びディスクドライブ装置においてキャリブレーションのタイミングをとる方法  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  

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