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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1252090
審判番号 不服2009-4534  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-02 
確定日 2012-02-06 
事件の表示 特願2004-370878「植物成長促進剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年7月6日出願公開、特開2006-176435〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成16年12月22日の出願であって、平成20年8月7日付けの拒絶理由通知に対し同年10月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年1月23日付けで拒絶査定がされ、その後、同年3月2日に拒絶査定に対する審判請求がされ、同年4月1日に手続補正(以下、「本件補正」という。)がされ、同年5月14日に審判の請求の理由が補正され、同年6月29日に上申書が提出され、平成23年3月22日付けで審尋がされたものである。

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の、
「 【請求項1】
海藻抽出物及び多孔質担体を含む、イネの成長促進剤であって、
海藻抽出物が海藻破砕物から固形物を除去することにより得られたものであり、剤中に10?50重量%含まれ、かつ
本田10アールあたり0.5?2.0kgを土壌に施用するためのものである、成長促進剤。
【請求項2】
海藻が褐藻類である、請求項1に記載の成長促進剤。
【請求項3】
海藻がエクロニア属、アラリア属、ウンダリア属、ラミナリア属、マクロキスチス属、レッソニア属、ネレオキスチス属、アスコフィルム属、フカス属、ドゥルビレア属、サルガッサム属、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の成長促進剤。
【請求項4】
コメの収量増加及び/又は品質向上のためのものである、請求項1?3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
海藻破砕物から固形物を除去することにより得られた海藻抽出物及び多孔質担体を10?50重量%含む、植物が生育する土壌又は該土壌上の積雪に、1樹あたり100?500gを施用するための、サクランボの着色及び/又は糖度の向上のための剤。
【請求項6】
海藻抽出物及び多孔質担体を含む組成物を、植物が生育する土壌又は該土壌上の積雪に散布することを含む、サクランボの着色及び/又は糖度の向上のための方法であって、
海藻抽出物が海藻破砕物から固形物を除去することにより得られたものであり、1樹あたり100?500gを施用するものである、方法。
【請求項7】
海藻破砕物から固形物を除去することにより得られた海藻抽出物を10?50重量%、及び多孔質担体を含む組成物を、本田10アールあたり0.5?2.0kg土壌に施用することを含む、イネの成長促進方法。
【請求項8】
コメの収量増加及び/又は品質向上のためのものである、請求項7に記載の方法。」
を、次のとおり補正するものである。
「 【請求項1】
海藻抽出物及び多孔質担体を含む、イネの成長促進剤であって、
海藻抽出物が海藻破砕物から固形物を除去することにより得られたものであり、剤中に10?50重量%含まれ、かつ
本田10アールあたり0.5?2.0kgを土壌に施用するためのものである、成長促進剤。
【請求項2】
海藻が褐藻類である、請求項1に記載の成長促進剤。
【請求項3】
海藻がエクロニア属、アラリア属、ウンダリア属、ラミナリア属、マクロキスチス属、レッソニア属、ネレオキスチス属、アスコフィルム属、フカス属、ドゥルビレア属、サルガッサム属、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の成長促進剤。
【請求項4】
コメの収量増加及び/又は品質向上のためのものである、請求項1?3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
海藻破砕物から固形物を除去することにより得られた海藻抽出物を10?50重量%、及び多孔質担体を含む組成物を、本田10アールあたり0.5?2.0kg土壌に施用することを含む、イネの成長促進方法。
【請求項6】
コメの収量増加及び/又は品質向上のためのものである、請求項5に記載の方法。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項5及び6を削除するものであり、この削除に伴い、補正前の請求項7及び8の項番号を繰り上げ、また補正前の請求項8(補正後は請求項6)中で引用する請求項の項番号を7から5に補正するものである。したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する「請求項の削除」を目的とするものであり、また、いわゆる新規事項を追加するものではない。よって、本件補正は、適法なものである。

第3 本願発明について
本願の発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「海藻抽出物及び多孔質担体を含む、イネの成長促進剤であって、
海藻抽出物が海藻破砕物から固形物を除去することにより得られたものであり、剤中に10?50重量%含まれ、かつ
本田10アールあたり0.5?2.0kgを土壌に施用するためのものである、成長促進剤。」

第4 原査定の理由
拒絶査定における拒絶の理由は、「この出願については、平成20年 8月 7日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、上記「理由2」は、次のとおりである。
「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・・・

理由2:請求項1-8:引用文献5,6 ・・・」

その「引用文献等:5,6」は、
「5.特開平8-99814号公報
6.大野 正夫,貫見 大輔,海藻肥料による土壌改善と農産物の増産と品質向上,藻類,日本藻類学会,2003年 3月10日,第51号,第50-54頁」
である。

また、拒絶査定には、引用文献6に記載された発明に引用文献5に記載された発明を適用する点につき、「引用文献5には、珪藻土を一定の粒状に形成し焼成したものに、植物生長調整剤を含浸させることによって、植物生長調整剤が土壌中で長く安定して植物に供給される効果があること(【0006】,【0015】)が記載されている。そして、珪藻土は微細な気孔を有する硬質粒子である(【0012】)ことが記載されているから、本願発明における多孔質担体に相当する。
そうすると、引用文献6に記載された植物生長促進剤を、多孔質担体と併用することは、当業者であれば容易に想到するものである。」と記載されている。

第5 当審の判断
本願発明は、原査定の理由2のとおり、引用文献5、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1 引用文献
引用文献5:特開平8-99814号公報
引用文献6:大野 正夫,貫見 大輔,「海藻肥料による土壌改善と農産物の増産と品質向上」,藻類,日本藻類学会,2003年3月10日,第51号,第50-54頁

2 引用文献の記載事項
(1)引用文献6について
摘記事項6-a:
「1. はじめに
海藻を作物の肥料に使うことは,昔から世界各地の沿岸で行われてきた。古くはローマ時代の文書にも海藻が作物の肥料に使われていると記録されている。江戸時代,伊豆半島ではテングサを田畑の肥料に使っていた・・・」(第50頁左欄第1?5行)

摘記事項6-b:
「海藻にはカリウムやミネラル分に富み,海藻抽出液の肥料効果は,長くミネラルによるとされていた。近年になって,海藻成分の研究が進むにつれて,植物の成長や成熟に欠かせないオーキシン,サントカイニン,ジベレリンなどの植物ホルモンが,海藻中に比較的多く含まれており,特にヒバマタ類,コンブ類の仲間の植物ホルモン含有量が注目され,これらの海藻が”海藻肥料”として世界各地で利用されるようになった。」(第50頁左欄第17?24行)

摘記事項6-c:
「最近の研究から,海藻液肥を葉面散布することにより,トマト,ホウレンソウ,ハーブ類などの軟弱野菜の早期出荷,トマト,イチゴ,キュウリ,ナス,メロン,ミカン,リンゴなどの長期出荷,バラや花木類の花色や花持ちの増進,その他いろいろの作物の品質や果実の向上に効果があることがわかった。」(第52頁左欄第31行?右欄第2行)

摘記事項6-d:
「海藻液肥には,ミネラル類,アミノ酸,ビタミン類が豊富であることと,オーキシン,サイトカイニン,ジベレリンの植物ホルモンが多いことが特徴である。これらの相乗効果によって,生育促進と品質向上に効果があるとされている。」(第52頁右欄第3?6行)

摘記事項6-e:
「海藻液肥として知られている”KELPAK”の製法は,南アフリカのケープタウン周辺の岩礁帯に繁茂する2?5mの茎を持つEcklonia maximaを,潜水作業で採取して葉を落とし,茎をよく洗い,痛んだり付着動物が付いた部分を削除して,ローラーで押しつぶす方法で絞る。絞った液は,添加物を全く入れずに瓶詰めする(図3)。このようにして生産された液は,室温で保存しても長期間腐るようなことはないと言う。この液肥の栄養的効果は,販売パンフレットには,特にオーキシンとサイトカイニンの植物ホルモンの効果があると説明されている。オーキシンは,搾り液1L当たり11mg,サイトカイニンは1L当たり0.03mg含まれている。植物の根の発達への効果が特徴的であり,対照のサンプルより根の量は平均60%以上増大する。」(第52頁右欄第11行?第53頁左欄第1行)

(2)引用文献5について
摘記事項5-a:
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、有機合成農薬の使用については、植物の成長の遅延や病虫害に対する抵抗力の低下、さらには、害虫や病原菌が耐性を獲得するなどの問題がある。また、有機合成農薬の使用による環境汚染や生態系の破壊が問題となっている。一方、肥料に関しては、それを植物の土壌等に埋め込んで使用するものであるが、大量の雨が降った場合等は肥料が流れ去ってしまうため、再度土壌の掘り起こし,施肥,土壌の埋め込み等、煩雑な作業が必要となる。植物成長調整剤等に関しても同様であり、度々植物成長調整剤の追加が必要となり、植物成長調整剤の無駄および作業の無駄が生じる。」

摘記事項5-b:
「【0004】この発明は、このような事情に鑑みなされたもので、生薬を有効成分とする植物成長調整剤を含浸させた珪藻土焼成粒から構成されていて、上記珪藻土焼成粒の微細な気孔内に保持された上記植物成長調整剤が、土壌中で長く安定して植物に供給され、植物成長調整剤の無駄および作業の無駄を生じさせない顆粒状植物活性材の提供をその目的とする。」

摘記事項5-c:
「【0011】この発明を構成する珪藻土焼成粒は、珪藻土を略一定の径および略一定の長さに押出して略均一な粒状に形成し、高温で焼成してセラミックス化したものである。ここで、珪藻土とは、淡水・海水に生じる植物性プランクトン珪藻の遺骸である珪酸(SiO_(2))質の殻が、そのまま海底や湖に沈み、積み重なってできた太古の土のことであり、無数の微細気孔(孔径1/1000?1/10000mm)を有する。」

摘記事項5-d:
「【0012】このようにして作られた珪藻土焼成粒は、セラミックス化された硬質粒子であり、その体積の約70%が微細な気孔で占められている。したがって、上記気孔内に水分等を保持できる。」

摘記事項5-e:
「【0013】つぎに、上記珪藻土焼成粒に上記植物成長調整剤を吸収させて、顆粒状植物活性材を調製する。この場合、珪藻土焼成粒100gに対して、植物成長調整剤60mlを吸収させるのが好適である。」

3 引用文献6に記載された発明
引用文献6の摘記事項6-eには、「海藻液肥として知られている”KELPAK”の製法は,・・・Ecklonia maximaを・・・ローラーで押しつぶす方法で絞る。絞った液は,添加物を全く入れずに瓶詰めする」と記載され、その「Ecklonia maxima」は「エクロニア マキシマ」と表記できる。
よって、引用文献6には、
「エクロニア マキシマを絞った液である海藻液肥」(以下、「引用発明6」という。)
が記載されている。

4 対比・判断
(1) 本願発明と引用発明6の対比
本件補正発明における「海藻抽出物」について、本願の明細書の【0010】には、「本明細書において、海藻抽出物とは、海藻から分離された組成物を指す。分離方法に特に制限はなく・・・従来公知の方法が挙げられる。・・・さらに、海藻を粉砕して粉末としたものも含まれる。」と記載されている。したがって、本願発明における「海藻抽出物」は、海藻から分離された組成物を広く対象としており、引用発明6における「エクロニア マキシマを絞った液」も包含するものと認められる。
よって、引用発明6における「エクロニア マキシマを絞った液」は、本願発明における「海藻抽出物」に相当する。
したがって、本願発明との引用発明6との一致点及び相違点は、次のとおりである。
ア 一致点
「海藻抽出物を含む物」
イ 相違点
(ア)相違点1
本願発明は「多孔質担体を含む」のに対して、引用発明6は、これを含まない点
(イ)相違点2
本願発明に含まれる「海藻抽出物」は「海藻破砕物から固形物を除去することにより得られたもの」であるのに対して、引用発明6に含まれる「エクロニア マキシマを絞った液」は、そのような特定がされていない点
(ウ)相違点3
本願発明に含まれる「海藻抽出物」は「剤中に10?50重量%含まれ、かつ本田10アールあたり0.5?2.0kgを土壌に施用するためのもの」であるのに対して、引用発明6は、そのような特定がされていない点
(エ)相違点4
本願発明は「イネの成長促進剤」であるのに対して、引用発明6は「海藻液肥」である点

(2)判断
ア 相違点1について
引用文献5の摘記事項5-aには、「肥料に関しては、それを植物の土壌等に埋め込んで使用するものであるが、大量の雨が降った場合等は肥料が流れ去ってしまうため、再度土壌の掘り起こし,施肥,土壌の埋め込み等、煩雑な作業が必要となる。植物成長調整剤等に関しても同様であり、度々植物成長調整剤の追加が必要となり、植物成長調整剤の無駄および作業の無駄が生じる。」という技術課題が記載されている。そして、この記載に続けて、「この発明は、このような事情に鑑みなされたもので、生薬を有効成分とする植物成長調整剤を含浸させた珪藻土焼成粒から構成されていて、上記珪藻土焼成粒の微細な気孔内に保持された上記植物成長調整剤が、土壌中で長く安定して植物に供給され、植物成長調整剤の無駄および作業の無駄を生じさせない顆粒状植物活性材の提供をその目的とする。」(摘記事項5-b)と記載されている。よって、引用文献5には、大量の雨の場合等に水で肥料や植物成長調整剤が流れ去ってしまう技術課題を解決するために、これらを「珪藻土焼成粒の微細な気孔内」に保持させることが有効であることが示唆されている。
その一方で、引用発明6である「海藻液肥」も、液体の肥料であるから、水に流れやすいことは当業者に自明である。
したがって、引用発明6の「海藻液肥」を「珪藻土焼成粒の微細な気孔内」に保持させることで、大量の雨の場合等に水で流れ去ってしまうことを防止するは当業者が容易になし得ることである。
また、当該「珪藻土焼成粒」は、「多孔質担体」であると認められる。そのことは、引用文献5に、「この発明を構成する珪藻土焼成粒は、珪藻土を略一定の径および略一定の長さに押出して略均一な粒状に形成し、高温で焼成してセラミックス化したものである。ここで、珪藻土とは、淡水・海水に生じる植物性プランクトン珪藻の遺骸である珪酸(SiO_(2))質の殻が、そのまま海底や湖に沈み、積み重なってできた太古の土のことであり、無数の微細気孔(孔径1/1000?1/10000mm)を有する。」(摘記事項5-c)と記載され、さらに「このようにして作られた珪藻土焼成粒は、セラミックス化された硬質粒子であり、その体積の約70%が微細な気孔で占められている。したがって、上記気孔内に水分等を保持できる。」(摘記事項5-d)と記載されていることから明らかである。
したがって、引用発明6である海藻液肥を多孔質担体の微細な気孔内に保持させることは当業者が容易になし得る。

イ 相違点2について
引用発明6は、エクロニア マキシマを絞って製造しているが、摘記事項6-eに記載されるように、エクロニア マキシマは2?5mの茎を持つ大きな海藻であるから、これを絞る前に破砕しておくことは当業者が適宜になし得ることである。そして、この海藻の破砕物から液を絞るということは、「海藻破砕物から固形物を除去すること」に相当するものと認められる。
なお、本願出願前の平成15年8月27日に公知となった特開2003-238324号公報の【0019】に、「<製造例1(海藻抽出物の製造)>エクロニア・マキシマをセルバースト法により破砕し、濾過して固形物を除去し、ほぼ100%の海藻抽出物を得た。」と記載されているように、本願発明における海藻抽出物の製造方法(より具体的には、本願明細書の【0028】中の「製造例1」として記載された方法)は、本願出願前から公知である。

ウ 相違点3及び4について
海藻抽出物をイネの成長促進剤に用いることは、下記(i)ないし(iii)に示されるとおり周知である。したがって、引用発明6の「エクロニア マキシマを絞った液である海藻液肥」を「イネの成長促進剤」に用いることは当業者が適宜になし得る。
(i)引用発明6が記載された引用文献6には、「海藻を作物の肥料に使うことは,昔から世界各地の沿岸で行われてきた。古くはローマ時代の文書にも海藻が作物の肥料に使われていると記録されている。江戸時代,伊豆半島ではテングサを田畑の肥料に使っていた・・・」(摘記事項6-a)と記載されており、海藻が田に使われていたことが示唆されている。また、「植物の成長や成熟に欠かせないオーキシン,サントカイニン,ジベレリンなどの植物ホルモンが,海藻中に比較的多く含まれており,・・・これらの海藻が”海藻肥料”として世界各地で利用されるようになった。」(摘記事項6-b)、「海藻液肥には,ミネラル類,アミノ酸,ビタミン類が豊富であることと,オーキシン,サイトカイニン,ジベレリンの植物ホルモンが多いことが特徴で・・・生育促進と品質向上に効果があるとされている。」(摘記事項6-d)、及び、「海藻液肥として知られている”KELPAK”の製法は・・・Ecklonia maximaを・・・絞る。・・・この液肥の栄養的効果は,販売パンフレットには,特にオーキシンとサイトカイニンの植物ホルモンの効果があると説明されている。オーキシンは,搾り液1L当たり11mg,サイトカイニンは1L当たり0.03mg含まれている。植物の根の発達への効果が特徴的であり,対照のサンプルより根の量は平均60%以上増大する。」(摘記事項6-e)と記載され、エクロニア マキシマ等の海藻抽出物が成長促進作用を有していることが記載されている。
(ii)また、前記特開2003-238324号公報にも、「・・・従来、水稲の発根、初期生育、収量、及び品質等の向上のために使用されてきた海藻由来の抽出物・・・」(【0004】)と記載され、海藻由来の抽出物が水稲の発根や生育の向上のために使用されてきたことが明らかにされている。
(iii)さらに、「猪野亮ら、『海藻ホモジネート剤の水稲穂ばらみ期施用の効果』、東北農業研究、1991年12月、第44巻、第75頁」には、次のとおり記載されている。
「1 はじめに
南アフリカ沖産の海藻,カジメ属の「エクロニア・マキシマ」から抽出されたエキスが,海藻ホモジネート剤として市販されている。この剤は,窒素,リン酸,アミノ酸,ビタミン及びサイトカイニンなど60種類を超える生理活性物質や植物生長ホルモンを含有し,植物の細胞活性を高め生長促進,収量増加をもたらすといわれ,野菜及び果樹などの生理活性賦活剤として利用されている。
この剤の水稲への適用性を検討するため,穂ばらみ期に施用した結果,顕著な効果が認められたので報告する。
2 試験方法
(1)試験年 平成2年(1990年)
(2)供試剤 海藻ホモジネート剤「ケルパック66(R)」
(有効成分:海藻ホモジネート)
(3)供試品種 ササニシキ
(4)供試圃場 宮城県古川農業試験場 場内水田圃場
(5)土壌条件 沖積埴壌土
(6)試験区の構成等(表1)
(7)処理方法
稚苗,中苗及び成苗を用いて、それぞれの幼穂形成期頃(出穂前24日から19日)に噴霧器による葉面散布及び水田圃場への灌水時に水口で本剤を滴下して施用する方法(以下,「水口滴下施用」という。)により処理した。」

また、上記アのとおり、引用発明6の海藻液肥を多孔質担体の微細な気孔内に保持させて、上記のとおりイネの成長促進剤として用いる場合における、当該海藻抽出液と多孔質担体の配合比率、及び、その本田10アールあたりの施要量については、多孔質担体が気孔内に含み得る量とイネの成長促進作用の程度を検討することで、当業者が適宜に設定し得る事項である。さらに、本願発明のように、「海藻抽出物」が「剤中に10?50重量%含まれ」、かつ「成長促進剤」を「本田10アールあたり0.5?2.0kgを土壌に施用する」という数値限定も、引用文献5の「珪藻土焼成粒100gに対して、植物成長調整剤60mlを吸収させるのが好適である」(摘記事項5-e)との記載、及び本願明細書の記載からみて、格別に有利な技術意義を有するものであるとは認められない。

5 審判請求人の主張について
平成21年5月14日に提出された手続補正書(方式)によって、審判請求人は、審判の請求の理由を補正した。さらに、同年6月29日には、上申書を提出した。その補正後の審判の請求の理由及び上申書において、審判請求人が主張している点について以下で検討する。
(1)本願発明がイネに適した形態であることについて
本願発明は、多孔質担体を含むことから、多量の水に曝される場合であっても液剤と比較して持続的な効果をもたらし、海藻抽出物の使用量を削減できるという利点を有し、イネの生育する土壌(水田)に対して用いるのに特に適した形態である旨を請求人は主張している。
しかしながら、上記5(2)アで記載したとおり、引用文献5にも、「肥料に関しては、それを植物の土壌等に埋め込んで使用するものであるが、大量の雨が降った場合等は肥料が流れ去ってしまう」(摘記事項5-a)という技術課題が示され、このような技術課題に基づき植物成長調整剤を多孔質担体の気孔内に保持させることが記載されている。また、上記5(2)ウに記載したとおり、引用発明6のような海藻液肥をイネの成長促進剤として用いることは周知である。したがって、引用発明6の海藻液肥を多孔質担体に保持させてイネの成長促進剤として用いることは当業者が容易になし得る。また、それによって、多量の水に曝される場合であっても液剤と比較して持続的な効果をもたらし、海藻抽出物の使用量を削減できるという利点を本願発明が有することも、引用文献5の上記摘記事項5-a及び5-bの記載から当業者が予測できるものである。
(2)イネの特殊性について
イネは、ケイ酸吸収に関して特殊であり、他の植物とは大きく異なる特徴を有していることから、本願発明によるイネに対する効果は、当業者の予測を超える顕著な効果である旨を請求人は主張している。
しかしながら、イネがケイ酸吸収に関して特殊であったとしても、そのことが引用発明6をイネに用いることを阻害する理由になるとは認められない。その一方で、引用発明6のような海藻液肥をイネの成長促進剤として使用することは、上記5(2)ウで記載したとおり、本願出願時において当業者に既に周知であった。しかも、引用発明6と同じ「エクロニア・マキシマ」から抽出されたエキスを水稲に使用した事例も公知であった(「猪野亮ら、『海藻ホモジネート剤の水稲穂ばらみ期施用の効果』、東北農業研究、1991年12月、第44巻、第75頁」)。したがって、本願発明によるイネに対する効果は、当業者の予測を超える顕著な効果であるとは認められない。

6 まとめ
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献5及び6に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 結び
本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余につき検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-05 
結審通知日 2011-12-06 
審決日 2011-12-20 
出願番号 特願2004-370878(P2004-370878)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 周一郎  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
武重 竜男
発明の名称 植物成長促進剤  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  
代理人 野▲崎▼ 久子  
代理人 社本 一夫  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  

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