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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1252104
審判番号 不服2010-6273  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-23 
確定日 2012-02-06 
事件の表示 特願2004-504146「顕微鏡用スライド上に位置する関心領域の様々なデジタル表示を同時に、取得して表示するビデオ顕微鏡システム及びマルチビュー仮想スライド・ビューアー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月20日国際公開、WO03/96228、平成17年10月 6日国内公表、特表2005-530225〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年5月9日(パリ条約に基づく優先権主張2002年5月10日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成21年11月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月23日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。


2.平成22年3月23日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項21は、次のように補正された。

「【請求項21】
データベースに、1つのスライドの関心のある同じ領域についての異なる走査像を表す少なくとも2つのデータ・ファイルを格納するステップであって、該走査像は、照明が異なる画像及びコントラストが異なる画像の少なくとも1つである、ステップと、
前記1つのスライド上の同じ関心領域の異なる走査像を表すデータ・ファイルを、選択に応じて取り出すステップと
を含む、1つのスライドの関心領域の走査像を2つ以上同時に表示する方法であって、さらに、ユーザが、照明及びコントラストの少なくとも1つによって互いに見え方が異なる前記1つのスライド上の同じ関心領域の走査像を同時に見ることができるように、走査像をインターフェイスに表示するステップを含む、方法。」

本件補正は、請求項21に記載した発明を特定するために必要な事項である「データ・ファイルを取り出すステップ」を「データ・ファイルを、選択に応じて取り出すステップ」と限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項21に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物
刊行物1.特表2001-519944号公報(原査定の拒絶の理由に引用されたもの)
刊行物2.国際公開02/029764号(原査定の拒絶の理由に引用されたもの)
刊行物3.特開平7-122220号公報
刊行物4.特開2001-183301号公報
刊行物5.特開平4ー251212号公報
刊行物6.特開2002-83564号公報

(2-1)刊行物1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(ア)第24頁第24行から第25頁第17行
本システムには、デュアルPentium Proパーソナルコンピュータであるコンピュータ12が含まれており、このコンピュータ12は、Zeiss Axioplan 2顕微鏡16と関係付けをしたHitachi HV-C20ビデオカメラ14と組み合わせてある。カメラ14はLUDLコード化された電動ステージ20上に位置された顕微鏡スライド16を有する顕微鏡16から光をキャプチャし、このカメラ14からの信号を、コンピュータシステム12が受信するできるようになっている。このコード化された電動ステージ20には、コンピュータ12に応答してこのステージを制御するMAC2000ステージコントローラが含まれている。顕微鏡スライド18には、顕微鏡によってビューされる生体試料21が含まれ、この生体試料のイメージは、低倍率と、ユーザによって選択された高倍率との両方の倍率でデジタル化される。この低倍率でデジタル化されたイメージには、解像度が1600×1200の21インチIIyamaビデオディスプレイモニタ22上に表示され、例えば1.25倍の低倍率イメージ24と、例えば40倍の高倍率イメージ26を含む図1ないし図3に示す種類のディスプレイスクリーンと、制御ウィンドウまたはイメージ28とが含まれている。この低倍率イメージによれば、高倍率のスクリーンまたはウィンドウ26内に高倍率で再生される領域30が、この低倍率イメージ内で識別される可能性があったかもしれない。低倍率イメージ内で領域識別が行われると、病理学者またはシステムの他のオペレータは、当該構造領域を低倍率イメージ24で検討し、同時に、当該構造領域を高倍率のスクリーンまたはウィンドウ26内に高倍率で表示し、構造的特徴(architectual feature)の一部を形成する細胞が、ガンのようなものであるかどうかをさらに検査する必要があるかどうかを判定することができる。

(イ)第28頁第8行から第10行
次に、ユーザは、ステップ209aで、マウスを使用して、マクロ・イメージ上の領域を選択し、スクリーン22上でビューされるミクロ・イメージを選択する。

(ウ)第29頁第22行から第28行
当該スライドが適正に位置決めされると、図10に示すように、ステップ250で、ステージ座標値中のX座標値およびY座標値のそれぞれについて、ステージが位置決めされ、デジタル化されたイメージがカメラによってキャプチャされ、RAMにストアされ、ハードディスク上にバックアップされる。ついで、上記米国特許出願に記載されたような種々の方法で、定量的にイメージを分析することができる。任意選択であるが、ステップ254で、当該イメージをアーカイブのためにストアすることができる。

以上の刊行物1の記載によれば、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載発明」という。)が記載されていると認められる。

「コンピュータ12が含まれており、
このコンピュータ12は、Zeiss Axioplan 2顕微鏡16と関係付けをしたHitachi HV-C20ビデオカメラ14と組み合わせてあり、
カメラ14はLUDLコード化された電動ステージ20上に位置された顕微鏡スライド16を有する顕微鏡16から光をキャプチャし、このカメラ14からの信号を、コンピュータシステム12が受信するできるようになっており、
顕微鏡スライド18には、顕微鏡によってビューされる生体試料21が含まれ、
この生体試料のイメージは、低倍率と、ユーザによって選択された高倍率との両方の倍率でデジタル化され、
この低倍率でデジタル化されたイメージには、解像度が1600×1200の21インチIIyamaビデオディスプレイモニタ22上に表示され、1.25倍の低倍率イメージ24と、40倍の高倍率イメージ26を含むディスプレイスクリーンと、制御ウィンドウまたはイメージ28とが含まれており、
低倍率イメージ内で領域識別が行われると、病理学者またはシステムの他のオペレータは、当該構造領域を低倍率イメージ24で検討し、
同時に、当該構造領域を高倍率のスクリーンまたはウィンドウ26内に高倍率で表示し、構造的特徴(architectual feature)の一部を形成する細胞が、ガンのようなものであるかどうかをさらに検査する必要があるかどうかを判定することができ、
ユーザは、マウスを使用して、マクロ・イメージ上の領域を選択し、スクリーン22上でビューされるミクロ・イメージを選択し、
当該スライドが適正に位置決めされると、図10に示すように、ステップ250で、ステージ座標値中のX座標値およびY座標値のそれぞれについて、ステージが位置決めされ、
デジタル化されたイメージがカメラによってキャプチャされ、RAMにストアされ、ハードディスク上にバックアップされ、
当該イメージをアーカイブのためにストアすることができる
システム。」

(2-2)刊行物2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(エ)第47頁第26行から第48頁第2行
During the first two scans (scan 1 and scan 2), the bladder is distended and the bladder wall is relatively thin. In this case, physiologically altered locations, such as tumors, may thin at a different rate as compared to the unaltered bladder wall and may become more apparent under these conditions. During the third and fourth scans, the bladder is substantially empty and the bladder wall is thicker. With a thicker wall, a more pronounced image contrast may result between normal tissue of the bladder wall and that of physiologically altered tissue.

〈当審訳〉
前記最初の2回の走査(走査1および2)の間、前記膀胱は膨張し、前記膀胱壁は比較的薄い。この場合において、腫瘍のような生理学上変化した場所は、変化しない膀胱壁と比べて異なった率において薄くなるかもしれず、これらの状況の下でより明らかになるかもしれない。前記第3および第4走査中、前記膀胱は実質的に空であり、前記膀胱壁はより厚い。より厚い壁により、前記膀胱壁の通常の組織と生理学上変化した組織との間に、より明白な画像コントラストが結果として生じるかもしれない。

(オ)第48頁第29行から第49頁第7行
After registration, the images from the four data sets can be viewed individually or simultaneously (step 2845). An exemplary display window is illustrated in Figures 29 and 30. Referring to Figure 29, the display is partitioned into four sub windows 2905, 2910, 2915, 2920 which correspond to scan 1, scan 2, scan 3 and scan 4, respectively. A control panel section 2925 can also be provided on a portion of the display to establish a graphical user interface (GUI) to offer display and navigation functions to the user. As an operator navigates in one of the image sub windows, such as magnifying the view, the corresponding operation preferably takes place in the other sub window views as well. A user can also select one of the views for expansion to a single window display.

〈当審訳〉
登録後、前記4つのデータセットからの画像を、別々にまたは同時に見ることができる(ステップ2845)。好例の表示ウィンドウを図29および30に示す。図29を参照し、前記表示を、各々走査1、走査2、走査3および走査4に対応する4つのサブウィンドウ2905、2910、2915、2920に分割する。制御パネル選択2925を、前記表示のある部分において与え、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)を確立し、表示およびナビゲーション機能をユーザに与えることもできる。オペレータが前記画像サブウィンドウの1つにおいてビューを拡大するようなナビゲーションをすると、好適には、対応する動作が他のサブウィンドウビューにおいても同様に起こる。ユーザは、単一ウィンドウ表示への拡張に関して前記ビューのうち1つを選択することもできる。

(2-3)刊行物3の記載
周知例を示す刊行物3には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(カ)第0011段落から第0012段落
【0011】さらに、上記従来技術では、検出器あるいはTV撮像管の蛍光体について、加速電圧200kV以上での著しい劣化や破損に対する配慮がなされていない。そのため、このような問題を解決しない限り、高加速電圧での実用的な高解像度の明視野像と暗視野像のリアルタイムでの同時表示・同時観察はできない。他方、結晶学分野における結晶構造や結晶欠陥の解析手段として、必須の明視野像と暗視野像の比較観察において、同一視野で同時表示・同時観察することは正確な構造解析上、特に重要なことである。
【0012】本発明の第一の目的は、走査電子線像観察装置において、異種の走査電子線像、例えば明視野像と暗視野像を観察する場合、煩雑な操作を軽減し、同一視野での高解像度の明視野像と暗視野像をリアルタイムで同時表示・同時観察及び記録が可能な電子顕微鏡装置を提供することにある。本発明の第二の目的は、電子線照射による試料損傷のない、正確な像観察及び記録が可能な電子顕微鏡装置を提供することにある。

(2-4)刊行物4の記載
周知例を示す刊行物4には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(キ)第0007段落
【0007】被検査物の暗視野画像は、暗視野照明下で検出した被検査物からの散乱光の強度のみを表示した濃淡画像であり、検査者が見たときに欠陥の形状等は理解しづらい反面、明視野画像に比べて微小な欠陥まで表示することができる。被検査物に明視野画像では表示できない大きさの欠陥が存在するとき、明視野画像に欠陥は現れないが、暗視野画像には欠陥が現れる。従って、請求項1又は2の発明によれば、被検査物の明視野画像と暗視野画像を表示装置に同時に表示することにより、検査者は両画像を見比べて明視野画像では表示できない微小な欠陥が存在することを確認することができる。

(2-5)刊行物5の記載
周知例を示す刊行物5には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(ク)第0003段落
【0003】また、このような光学式走査型顕微鏡において、解像度を超えた微小物体像を識別可能とするために、暗視野測光方式の適用も考えられている。

(ケ)第0004段落
【0004】ところで、走査型顕微鏡を使用するユーザーにあっては、暗視野像のみを撮像できればよいという要求はほとんど無く、暗視野像の撮像が望まれる場合でも、それに加えて、一般的な明視野像も撮像可能とすることが要求されるのが常である。

(コ)第0006段落から第0008段落
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述のように光学系をいちいち切換え使用するのは大変面倒であり、その作業は顕微鏡使用者にとって大きな負担となっていた。
【0007】また、ある瞬間の試料の状態を明視野像と暗視野像の双方で観察したいという要求も存在するが、上記のように光学系を切換え使用する場合は、その切換え作業をいかに素早く行なっても、厳密に同時点の明視野像と暗視野像の双方を得ることは当然不可能である。
【0008】本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、煩わしい光学系の切換え操作を必要とせずに明視野測光方式、暗視野測光方式の双方を実現可能で、また、厳密に同時点の明視野像と暗視野像の双方を得ることができる光学式走査型顕微鏡を提供することを目的とするものである。

(2-6)刊行物6の記載
周知例を示す刊行物6には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

(サ)第0003段落
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的は、EDX分析装置を装着した電子線装置によりSEM像及び暗視野透過像(Dark-Field STEM像/DF-STEM像)あるいは明視野透過像(Bright-FieldSTEM像/BF-STEM像)を同時に表示し、各像の各画素におけるSTEM信号量及びSEM信号量を記憶、比較する機能と、STEM信号量及びSEM信号量の差を検出、表示する機能を備えることにより達成される。また、SEM像と暗視野透過像又は明視野透過像を同時に表示し、それらの微分像を形成してSEM像とSTEM像の両方に分析対象物が明瞭に表示されているか否かを確認する機能を備えることにより達成される。

(3)対比
本件補正発明と刊行物1記載発明とを以下で対比する。

刊行物1記載発明においては、「顕微鏡スライド18には、顕微鏡によってビューされる生体試料21が含まれ、この生体試料のイメージは、低倍率と、ユーザによって選択された高倍率との両方の倍率でデジタル化され」、かつ、「デジタル化されたイメージがカメラによってキャプチャされ、RAMにストアされ、ハードディスク上にバックアップされ、当該イメージをアーカイブのためにストアすることができる」ので、本願補正発明と刊行物1記載発明とは、「1つのスライドの関心のある領域についての異なる走査像を表す少なくとも2つのデータ・ファイルを格納するステップ」を含む点で一致する。

刊行物1記載発明は、「ユーザは、マウスを使用して、マクロ・イメージ上の領域を選択し、スクリーン22上でビューされるミクロ・イメージを選択」するものであるから、本願補正発明と刊行物1記載発明とは、「前記1つのスライド上の関心領域の異なる走査像を表すデータ・ファイルを、選択に応じて取り出すステップ」を含む点で一致する。

刊行物1記載発明には、「1.25倍の低倍率イメージ24と、40倍の高倍率イメージ26を含むディスプレイスクリーンと、制御ウィンドウまたはイメージ28とが含まれて」いるので、本願補正発明と刊行物1記載発明とは、「1つのスライドの関心領域の走査像を2つ以上同時に表示する方法」である点で一致する。

そして、本願補正発明における「インターフェース」は発明の詳細に記載はないものの、技術常識からグラフィカルユーザインターフェースのことを指すと判断できるので、本願補正発明と刊行物1記載発明とは「走査像をインターフェイスに表示するステップ」を含む点で一致する。

すると、本願補正発明と刊行物1記載発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「1つのスライドの関心のある領域についての異なる走査像を表す少なくとも2つのデータ・ファイルを格納するステップと、
前記1つのスライド上の関心領域の異なる走査像を表すデータ・ファイルを、選択に応じて取り出すステップと
を含む、1つのスライドの関心領域の走査像を2つ以上同時に表示する方法であって、さらに、走査像をインターフェイスに表示するステップを含む、方法。」である点。

〈相違点1〉
本願補正発明は、データ・ファイルを「データベース」に格納しているのに対し、刊行物1記載発明はデータベースについて言及していない点。

〈相違点2〉
本願補正発明の2つの走査像は、関心のある「同じ」領域についての異なる走査像であるのに対し、刊行物1記載発明の2つの走査像は、「低倍率」と「高倍率」とのものであり、「同じ」領域のものとは言えない点。

〈相違点3〉
本願補正発明の2つの走査像は、「照明が異なる画像及びコントラストが異なる画像の少なくとも1つ」であり、2つの走査像を表示する目的は「ユーザが、照明及びコントラストの少なくとも1つによって互いに見え方が異なる前記1つのスライド上の同じ関心領域の走査像を同時に見ることができるように」するためであるのに対し、刊行物1記載発明の2つの走査像は、倍率が異なるだけで、照明もコントラストも同一の画像である点。

(4)判断

(4-1)相違点1について
刊行物1記載発明は、「デジタル化されたイメージがカメラによってキャプチャされ、RAMにストアされ、ハードディスク上にバックアップされ、当該イメージをアーカイブのためにストアすることができる」ものである。
データをアーカイブするためにデータベースを用いることは、周知技術に過ぎないので、刊行物1記載発明において、データ・ファイルを「データベース」に格納することは容易になし得る。

(4-2)相違点2及び3について
刊行物2には、顕微鏡像ではないが、腫瘍のような生理学上変化した場所を明らかにするために、同じ領域(膀胱壁)の異なる画像を同時に表示する技術が記載されている(上記摘記事項(エ)及び(オ)を参照)。
刊行物2に記載された画像は、「オペレータが前記画像サブウィンドウの1つにおいてビューを拡大するようなナビゲーションをすると、好適には、対応する動作が他のサブウィンドウビューにおいても同様に起こる」とあるので、同じ倍率の画像すなわち同じ領域の画像が表示されていると理解できる(上記摘記事項(オ)を参照)。

また、同じ領域の明視野像と暗視野像とを同時に見ようという課題及びそのための技術は、様々な顕微鏡において周知である。例えば、刊行物3には、「結晶学分野における結晶構造や結晶欠陥の解析手段として、必須の明視野像と暗視野像の比較観察において、同一視野で同時表示・同時観察することは正確な構造解析上、特に重要なこと」だという課題と、「同一視野での高解像度の明視野像と暗視野像をリアルタイムで同時表示・同時観察及び記録が可能な電子顕微鏡装置」という解決手段が記載されており(上記摘記事項(カ)を参照)、刊行物4には、明視野画像と暗視野画像とを同時に表示して見比べることにより、微細な欠陥を確認する技術について記載があり(上記摘記事項(キ)参照)、刊行物5には、暗視野像と明視野像とを同時に観察したいという課題(上記摘記事項(ク)及び(ケ)を参照)と、「厳密に同時点の明視野像と暗視野像の双方を得ることができる」こと(上記摘記事項(コ)を参照)について記載があり、刊行物6には、「SEM像及び暗視野透過像(Dark-Field STEM像/DF-STEM像)あるいは明視野透過像(Bright-FieldSTEM像/BF-STEM像)を同時に表示し、各像の各画素におけるSTEM信号量及びSEM信号量を記憶、比較する機能」(上記摘記事項(サ)を参照)について記載がある。

刊行物1記載発明が、「構造的特徴(architectual feature)の一部を形成する細胞が、ガンのようなものであるかどうかをさらに検査する必要があるかどうかを判定する」ことを一つの目的としている以上、検査及び判定の精度を上げるために同一領域の異なる画像を比較検討する上記刊行物2に記載の技術及び上記の周知技術を刊行物1記載発明に適用することで、2つの走査像を「照明が異なる画像及びコントラストが異なる画像の少なくとも1つ」とし、「ユーザが、照明及びコントラストの少なくとも1つによって互いに見え方が異なる前記1つのスライド上の同じ関心領域の走査像を同時に見ることができるように」することは、当業者が容易になし得たことである。

(4-3)効果について
また、補正発明の構成によって生じる効果も、上記刊行物1記載発明、刊行物2に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のもので格別顕著であるとはいえない。

(4-4)
上記(4-1)乃至(4-3)のとおり、本願補正発明は、刊行物1記載発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
平成22年3月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項21に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年2月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項21に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項21】
データベースに、1つのスライドの関心のある同じ領域についての異なる走査像を表す少なくとも2つのデータ・ファイルを格納するステップであって、該走査像は、照明が異なる画像及びコントラストが異なる画像の少なくとも1つである、ステップと、
前記1つのスライド上の同じ関心領域の異なる走査像を表すデータ・ファイルを取り出すステップと
を含む、1つのスライドの関心領域の走査像を2つ以上同時に表示する方法であって、さらに、ユーザが、照明及びコントラストの少なくとも1つによって互いに見え方が異なる前記1つのスライド上の同じ関心領域の走査像を同時に見ることができるように、走査像をインターフェイスに表示するステップを含む、方法。」

(1)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「データ・ファイルを、選択に応じて取り出すステップ」の限定を省いて「データ・ファイルを取り出すステップ」としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、上記刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1記載発明、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1記載発明、刊行物2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-14 
結審通知日 2011-09-16 
審決日 2011-09-27 
出願番号 特願2004-504146(P2004-504146)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 円子 英紀  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 安久 司郎
丸山 高政
発明の名称 顕微鏡用スライド上に位置する関心領域の様々なデジタル表示を同時に、取得して表示するビデオ顕微鏡システム及びマルチビュー仮想スライド・ビューアー  
代理人 森本 聡二  
代理人 松島 鉄男  
代理人 深川 英里  
代理人 吉田 尚美  
代理人 有原 幸一  
代理人 中村 綾子  
代理人 奥山 尚一  
代理人 河村 英文  

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