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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D |
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管理番号 | 1252107 |
審判番号 | 不服2010-14812 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-07-05 |
確定日 | 2012-02-06 |
事件の表示 | 特願2005-186315「機械式過負荷保護装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年1月11日出願公開、特開2007-2961〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年6月27日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は特許を受けることができないとして、平成22年3月30日付けで拒絶査定がされたところ、平成22年7月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 そして、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年6月30日付けの手続補正(平成23年7月5日付けで手続補正(方式)された)により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ドライブプレートに設けられた係合凹部とこれに対向してドリブンプレートに設けられたボール保持部との間でボールが保持されているときトルクが伝達され、前記ボールが前記係合凹部から脱け出したときトルク伝達が遮断される機械式過負荷保護装置において、 前記係合凹部の係合深さが前記ボールの半径の0.45?0.55倍であることを特徴とする、 機械式過負荷保護装置。」 2.本願出願前に日本国内において頒布され、当審において平成23年6月1日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項 (1)刊行物1:実用新案登録第2539013号公報(発行日:平成9年6月18日) (刊行物1) 刊行物1には、「電動舵取装置における過負荷防止装置」に関して、図面(特に、第2及び3図を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。 (a)「この考案は、モータの回転力を減速機構を介してステアリングギヤに伝達する動力伝達回路を備えて、上記動力伝達経路に伝わる過負荷から上記減速機構を保護するための電動舵取装置における過負荷防止装置に関する。」(第2頁第3欄第15?18行) (b)「第2図および第3図に基づいて、上記トルクリミッタ43の具体的構造を説明する。 トルクリミッタ43は、主動体45と、この主動体45に伝達する従動体46と、これら主動体45と従動体46とを連係するクリック機構47とからなっている。 主動体45は回転軸である。従動体46は底壁52を有するハウジングで、主動体45を軸心上に収納配置するためのものである。 クリック機構47は、主動体45の先端に固定され、この主動体45と一体に回転するパッド49と、主動体45の軸心を中心とする同一円周上に配置した複数(少なくとも3個)のボール48と、このパッド49に所定の押圧力を付与する押えバネ(コイルスプリング)50と、この押えバネ50のイニシャル荷重を設定するバネ受け51とを備えている。 さらに、従動体46の底壁52の内面には、各ボール48を嵌合保持する断面V字状の凹部53が形成されている。これら凹部53は同一円周上に等間隔で配置されている。各凹部53に嵌合された各ボール48は、主動体45の内端に設けたパッド49で押さえられている。 また、パッド49の外面には、各ボール48を嵌合保持する断面V字状の凹部54が形成されている。これらの凹部54は同一円周上に等間隔で配置されている。そして、第3図は上記パッド49を第2図下方から見上げた状態を示したもので、これらの各凹部54はこれよりも浅い環状のガイド溝55により結ばれている。 従動体46の開口端側には、パッド49の軸方向の移動を規制するための環状のストッパ部材56が固定されている。また、このストッパ部材56の軸心部にはバネ受け51がネジ止めされている。そして、このバネ受け51とパッド49との間に、押えバネ50を介在させている。 なお、図中符号57は、主動体45を、回転自在に、かつ、軸方向に移動自在に支持する軸受である。 このように構成されたトルクリミッタ43は、凹部53、54が対向するとともに、これら対向する凹部53、54にボール48が保持されているとき、主動体45と従動体46とが一体回転する。言い換えれば、電動モータ6の出力がラック4を形成したラック軸に伝達されることになる。 また、各ボール48が押えバネ50に抗してパッド49を押し退け、パッド49の凹部54から出ると、ボール48はガイド溝55上を転がるので、主動体45と従動体46とが相対回転する。言い換えれば、電動モータ6の出力が上記ラック軸に伝達されないことになる。 次に、この実施例の作用を説明する。 いま、動力伝達経路に作用する負荷が設定値以下であれば、前述したように、主動体45と従動体46と一体回転する。もし、その初期の段階で、ボール48が凹部54から外れていても、主動体45と従動体46との相対回転過程で、ボール48が両凹部53、54内に嵌合保持されるので、それ以後は、主動体45と従動体46とを一体回転させる。 一方、動力伝達経路に作用する負荷が設定値以上であれば、上記押さえバネ50のバネ力では、ボール48を押さえ切れなくなるので、ボール48はパッド49を押し退けてガイド溝55側に押し出される。ボール48がガイド溝55内に押し出されてしまえば、従動体46とパッド49に固定された主動体45とは相対回転自在となる。 このように、上記トルクリミッタ43は、動力伝達経路にかかる負荷が設定値以下であれば、主動体45と従動体46とを一体回転させ、設定値以上であれば、主動体45と従動体46とを相対回転させる。結局、このトルクリミッタ43は、動力伝達経路に伝わる過負荷を吸収することができる。 なお、スリップトルクの設定値は、各凹部53、54の大きさや深さと、押えバネ50のイニシャル荷重によって決まることになる。そして、押えバネ50のイニシャル荷重は、バネ受け51を回すことによってある程度自由に設定できる。」(第3頁第6欄第8行?第4頁第7欄第24行) (c)第2図から、従動体46の底壁52がパッド49の外周に対向する従動体46の側壁を有している構成が看取できる。 したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 【引用発明】 主動体45と一体に回転するパッド49に設けられた凹部54とこれに対向して従動体46の底壁52に設けられた凹部53との間でボール48が保持されているときトルクが伝達され、前記ボール48が前記凹部54から脱け出したときトルク伝達が遮断される過負荷防止装置。 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「主動体45と一体に回転するパッド49」は本願発明の「ドライブプレート」に相当し、以下同様にして、「凹部54」は「係合凹部」に、「従動体46の底壁52」は「ドリブンプレート」に、「凹部53」は「ボール保持部」に、「ボール48」は「ボール」に、「過負荷防止装置」は「機械式過負荷保護装置」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点を有する。 <一致点> ドライブプレートに設けられた係合凹部とこれに対向してドリブンプレートに設けられたボール保持部との間でボールが保持されているときトルクが伝達され、前記ボールが前記係合凹部から脱け出したときトルク伝達が遮断される機械式過負荷保護装置。 (相違点) 本願発明は、「前記係合凹部の係合深さが前記ボールの半径の0.45?0.55倍である」のに対し、引用発明は、凹部54を有するものの、その係合深さが不明である点。 そこで、上記相違点について検討をする。 (相違点について) 刊行物1には、「スリップトルクの設定値は、各凹部53、54の大きさや深さと、押えバネ50のイニシャル荷重によって決まることになる。」(上記摘記事項(b)参照)と記載されていることから、刊行物1には、スリップトルク(本願明細書に記載された「トリップトルク」に相当する。以下、本願明細書の記載に合わせて「トリップトルク」という。)の値が凹部54の深さに応じて変化することが記載又は示唆されている。 そして、刊行物1に記載されたものにおいて、凹部54の深さが小さい場合は、ボール48が早期に凹部54から抜け出す傾向となり、逆に、凹部54の深さが大きい場合は、ボール48が凹部54に掛かり過ぎる傾向となることは、技術的に自明の事項である。 また、過負荷保護装置において、所望のトリップトルク値となるように凹部を適切な深さとすることは、当業者における設計変更の範囲内の事項にすぎない。 してみれば、引用発明の凹部54の深さを適切な数値範囲(ボールの半径の0.45?0.55倍)とすることにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。 また、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明が奏する効果以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成23年6月30日付けの意見書において、「本願発明1(注:本審決の「本願発明」に相当する。以下同様。)は、『トリップトルクの実測値を理論値に近付ける』ために、『係合凹部の係合深さをボールの半径の0.45?0.55倍』にしたものであります。この係合凹部とボールの半径との関係が実測値と理論値との関係に影響を与えるということは、本願の発明者らが研究・検証を重ねて見出したものであります。 本願発明1と引用文献1(注:本審決の「刊行物1」に相当する。以下同様。)とは解決課題が全く異なることは前述した通りであります。引用文献1の本考案の効果には、『凹部の大きさや押えばねの強さによって、所期のスリップトルクを特定できるので、その設定値を正確に定めることができる。』という記載がありますが、前述の通り、設定値が凹部の大きさや深さと、押えばねのイニシャル荷重によって決まることは当業者にとって自明のことであり、この記載は、単に、既に自明である技術事項を示しているに過ぎません。従って、引用文献1のみならず、いずれの証拠にも、係合凹部の係合深さとボールの半径との関係がトリップトルクの実測値と理論値の関係に影響するというような記載・示唆は存在しません。この点に鑑みますと、『特許発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分でなく、特許発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要』であるという上記判決にも拘らず、本願発明1が引用発明1から進歩性がないとすることは、正に、根拠を欠いた、事後分析的な思考方法、主観的な思考方法及び論理的でない思考方法であり、今や、許されるものではありません。」(【意見の内容】(6)の項を参照)などと主張している。 そこで、審判請求人の主張について検討をする。 まず、審判請求人は、本願発明は、「トリップトルクの実測値を理論値に近付ける」ために、「係合凹部の係合深さをボールの半径の0.45?0.55倍」にしたと述べているが、本願の特許請求の範囲の請求項1には、「トリップトルクの実測値を理論値に近付ける」という趣旨の記載はなく、審判請求人の主張は、本願の特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。 また、本願の明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載をみても、「トリップトルクの理論値」の求め方(理論式等)についての特段の記載は見出せない。通常、理論値は、物理的な理論的誘導によってうる理論式から得られるところ、その理論式に含まれる定数は所定の使用条件における実験による実測値から得られるものであるから、上記所定の使用条件と同じ条件(例えば、係合凹部の係合深さをボールの半径の0.45?0.55倍とし、調節ナット38のねじ込み位置を所定の位置にし、出力軸の回転数を5?30rpmとするなど)で実験して実測値を得るのであれば、得られた実測値は理論値に近付くことは当然の帰結である。また、理論式を見れば、係合凹部の係合深さとボールの半径との関係がトリップトルクの理論値に影響するか否かはわかることである。なお、必要であれば、一瀬正巳著、「誤差論」、初版第30刷、株式会社培風館、昭和59年10月30日発行、第73頁第1行?第74頁第9行を参照されたい。 以上の理由によって、審判請求人の主張は採用することができない。 4.むすび 結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-03 |
結審通知日 | 2011-08-09 |
審決日 | 2011-12-08 |
出願番号 | 特願2005-186315(P2005-186315) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F16D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中野 宏和 |
特許庁審判長 |
川本 真裕 |
特許庁審判官 |
常盤 務 倉田 和博 |
発明の名称 | 機械式過負荷保護装置 |
代理人 | 木下 洋平 |