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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1252164
審判番号 不服2011-6813  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-01 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2006-120061「目標物認識プログラム及び目標物認識装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日出願公開、特開2007-293558〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年4月25日の出願であって、平成22年12月17日付け拒絶理由通知に対して平成23年1月26日付けで手続補正書が提出されたが、平成23年2月23日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成23年4月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成23年4月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成23年4月1日付けの補正を却下する。

[理由]

1.補正後の本願発明

当該手続補正による補正後の特許請求の範囲の記載は、次のとおりのものである。

【請求項1】
センシング画像を該センシング画像の撮影時刻及び撮影位置の情報とともに取得し、
取得した上記撮影時刻と撮影位置における太陽高度と方位についての環境モデルを算出し、
予め登録しておいた物体形状データから、上記算出された環境モデルを用いて、地表からの高さhの物体に、太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを、L=h/tanθにより算出して、物体画像を生成し、
上記センシング画像と上記生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、
前記抽出結果を出力することを特徴とする目標物認識プログラム。
【請求項2】
上記環境モデルは、更に気象モデル、又は、大気モデルを含むものであって、
上記環境モデルに基づいた画素値の調整を行って上記物体画像の生成を行うことを特徴とする請求項1に記載の目標物認識プログラム。
【請求項3】
上記物体形状データは該物体の材質情報を含み、
該材質情報に基づいて決定されるテクスチャを用いて上記物体画像の生成を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の目標物認識プログラム。
【請求項4】
画像背景モデルと、
該画像背景モデルと物体画像を重畳する画像重畳手段と、
該画像重畳手段によって生成した画像を物体形状学習手段の入力とすることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の画像処理装置。
【請求項5】
予め複数の撮像時刻、撮影位置について、上記環境モデルの算出と上記物体画像の生成を行い、
上記センシング画像と撮影時刻及び撮影位置の情報の取得を行うと、
該撮影時刻及び撮影位置に対応する物体画像を上記予め生成された物体画像中から読み出し、
前記読み出された物体画像を用いて上記抽出を行うことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の目標物認識プログラム。
【請求項6】
上記リモートセンシング画像の取得の際に該リモートセンシング画像の撮影時刻のみ取得し、
予め上記センシング画像の撮影位置を撮影時刻と対応づけて記録する記録部から情報を読み出すことで、該撮影時刻から該リモートセンシング画像の撮影位置を求めることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の目標物認識プログラム。
【請求項7】
上記生成した物体画像と上記センシング画像中の検索結果とを並べて表示部に表示させることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の目標物認識プログラム。
【請求項8】
センシング画像を該センシング画像の撮影時刻及び撮影位置の情報とともに取得する取得部と、
取得した上記撮影時刻と撮影位置における太陽高度と方位についての環境モデルを算出する算出手段と、
物体形状データを記録する記録部と、
上記物体形状データから、上記算出された環境モデルを用いて、地表からの高さhの物体に、太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを、L=h/tanθにより算出して、物体画像を生成する物体画像生成部と、
上記センシング画像と上記生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、前記抽出結果を出力する出力部とを有することを特徴とする目標物認識装置。

当該補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除し、補正前の請求項2を新たな請求項1とし、これに伴い、補正前の請求項3?8を繰り上げて新たな請求項2?7とするとともに、補正前の請求項9における「太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを算出」について、「L=h/tanθにより」という算出式を具体的にすることにより、算出を限定的に減縮して新たな請求項8とするものである。

そこで、本願補正後の請求項の内、請求項8に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
以下、該請求項8に係る発明を「本願補正後発明」という。

2.公知刊行物の記載

原査定の拒絶の理由で引用された刊行物1(特開2003-187220号公報)には、対応する図面と共に、以下の内容が記載されている。

(ア)「【要約】
【課題】 人工衛星や航空機が上空から撮影した画像から影を含む物体を検出する一般化ハフ変換を高速に実行することができる物体検出装置を提供する。」

(イ)「【請求項1】人工衛星や航空機が上空から撮影した画像から物体を位置を検出する物体検出装置において、
前記画像の入力水平エッジと入力垂直エッジを計算するエッジ抽出手段と、
前記物体に関するテンプレートから水平エッジテンプレートと垂直エッジテンプレートを抽出するエッジテンプレート計算手段と、
前記入力画像の各画素に、前記テンプレートの中心を所定の角度でずらせつつ置いて、前記各画素毎の投票値を、前記入力水平エッジと前記入力垂直エッジとに基づくベクトル及び前記水平エッジテンプレートと前記垂直エッジテンプレートとに基づくベクトルの内積を用いて計算し、前記各投票値を集計して、前記各画素における、かつ、前記テンプレートの所定角度毎の評価値を演算して、その評価値の中から最大の評価値の集合である最大評価値画像を作成する内積演算手段と、
前記作成された最大の評価値画像の画素の中から局所的最大値をとる座標を前記物体の位置として出力する位置検出手段と、を有することを特徴とする物体検出装置。
【請求項2】前記エッジテンプレート計算手段は、
前記物体の地上高さ、撮影時刻、撮影場所から計算した前記物体の影テンプレートを作成する影テンプレート作成手段を有し、
また、エッジテンプレート計算手段で用いる前記物体に関するテンプレートが、前記物体の物体テンプレートと、前記作成した影テンプレートとを重ね合わせた合成テンプレートであることを特徴とする請求項1記載の物体検出装置。」

(ウ)「【0002】【従来の技術】車両や航空機など既知の形状を持つ物体の検出は、3次元モデルなど物体の形状情報を利用してなされる。これに関して、画像から検出したエッジセグメントなど画像特徴と、3次元モデルなど形状情報を照合することにより物体を検出する方法が提案されている。
【0003】しかし、人工衛星から撮影した衛星画像では、画像中に写った物体の大きさが小さく、エッジセグメントなど形状情報と照合するに足りるほど十分な情報を持った画像特徴を画像から抽出することは困難である。
【0004】また、エッジの方向情報を利用して投票によって物体の位置を検出する一般化ハフ変換と呼ばれる方法が提案されている。この方法は、予め物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角を記録しておき、物体を検出する際には入力した画像から抽出したエッジの方向から物体中心の可能性がある座標を求め、その座標の画素に投票値を加算する。
【0005】この方法では、最も多くの投票値を得た画素が物体位置と判定され、エッジセグメントなどを抽出しなくても物体を検出することができるが、画像から抽出した全てのエッジについて、方向と座標から複数の物体中心候補を計算して、投票を行うので、大きな計算量が必要となる。
【0006】ところで、屋外にある物体を上空から撮影した画像では、画像中に物体の影が写りこむ。物体表面の明度と路面の明度が類似している場合、物体の輪郭エッジが弱く、路面に投影された影が物体を検出するために重要な情報となる。一般化ハフ変換で物体の輪郭だけでなく影の輪郭も併用する場合、物体が回転しても太陽光の方向は一定であるので、物体の向きによって物体と影を合わせた輪郭形状は変化する。一般化ハフ変換においても、物体の向きによって投票先の座標が異なるので、2次元の座標に物体の向きを加えた3次元座標に投票を行う必要があるので計算量が増加する。 」

(エ)「【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、人工衛星や航空機が上空から撮影した画像から物体を位置を検出する物体検出装置において、前記画像の入力水平エッジと入力垂直エッジを計算するエッジ抽出手段と、前記物体に関するテンプレートから水平エッジテンプレートと垂直エッジテンプレートを抽出するエッジテンプレート計算手段と、前記入力画像の各画素に、前記テンプレートの中心を所定の角度でずらせつつ置いて、前記各画素毎の投票値を、前記入力水平エッジと前記入力垂直エッジとに基づくベクトル及び前記水平エッジテンプレートと前記垂直エッジテンプレートとに基づくベクトルの内積を用いて計算し、前記各投票値を集計して、前記各画素における、かつ、前記テンプレートの所定角度毎の評価値を演算して、その評価値の中から最大の評価値の集合である最大評価値画像を作成する内積演算手段と、前記作成された最大の評価値画像の画素の中から局所的最大値をとる座標を前記物体の位置として出力する位置検出手段と、を有することを特徴とする物体検出装置である。
【0012】請求項2の発明は、前記エッジテンプレート計算手段は、前記物体の地上高さ、撮影時刻、撮影場所から計算した前記物体の影テンプレートを作成する影テンプレート作成手段を有し、また、エッジテンプレート計算手段で用いる前記物体に関するテンプレートが、前記物体の物体テンプレートと、前記作成した影テンプレートとを重ね合わせた合成テンプレートであることを特徴とする請求項1記載の物体検出装置である。」

(オ)「【0021】(ステップ1)影テンプレート作成部1では、図3に示す検出対象物体を上から見た物体テンプレートを入力し、検出対象物体の影テンプレートを作成する。
【0022】その作成方法を説明する。
【0023】まず、検出対象物体の撮影地点の緯度、経度、標高など位置情報と撮影時刻に関する情報から、撮影時の太陽の3次元方向を計算する。
【0024】次に、図4に示すように、物体中心の高さに、物体テンプレートがあると仮定し、物体中心の地面からの高さと、前記計算した太陽の3次元方向から、物体テンプレートの中心を通る太陽光が地面に投影された先の座標を計算する。
【0025】この投影先座標が物体テンプレートの影の中心座標であり、物体テンプレートを投影先座標に平行移動したものが影テンプレートとなる。」

(カ)「【0026】(ステップ2)エッジテンプレート作成部2では、図5に示すように、影テンプレートの上から物体テンプレートを重ね書きした合成テンプレートを作成する。
【0027】次に、この合成テンプレートにエッジ抽出フィルタを適用して、水平エッジテンプレート、垂直エッジテンプレートを作成する。」

これら(ア)?(カ)の記載及び図面の内容を総合すると、刊行物1には、次の(キ)なる発明が記載されていると認められる。
以下、これを「引用発明」と記す。

[引用発明]
(キ)人工衛星や航空機が上空から撮影した画像から物体を位置を検出する物体検出装置において、
前記画像の入力水平エッジと入力垂直エッジを計算するエッジ抽出手段と、
物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角が予め記録されてるデータから、前記物体に関するテンプレートに対して前記物体の地上高さ、撮影時刻、撮影場所から計算した前記物体の影テンプレートを作成し、物体に関するテンプレートと影テンプレートを重ね書きして合成テンプレートを作成するとともに、この合成テンプレートにエッジ抽出フィルタを適用して、水平エッジテンプレート、垂直エッジテンプレートを作成するエッジテンプレート計算手段と、
前記入力画像の各画素に、前記テンプレートの中心を所定の角度でずらせつつ置いて、前記各画素毎の投票値を、前記入力水平エッジと前記入力垂直エッジとに基づくベクトル及び前記水平エッジテンプレートと前記垂直エッジテンプレートとに基づくベクトルの内積を用いて計算し、前記各投票値を集計して、前記各画素における、かつ、前記テンプレートの所定角度毎の評価値を演算して、その評価値の中から最大の評価値の集合である最大評価値画像を作成する内積演算手段と、
前記作成された最大の評価値画像の画素の中から局所的最大値をとる座標を前記物体の位置として出力する位置検出手段と、を有することを特徴とする物体検出装置。

3.対比

本願補正後発明と当該引用発明(キ)とを対比する。

(1)引用発明における「人工衛星や航空機が上空から撮影した画像」「撮影場所」「合成テンプレート」は、本願補正後発明における「センシング画像」「撮影位置」「物体画像」に相当する。
また、 引用発明における「物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角が予め記録されてるデータ」は、本願補正後発明における、「物体形状データを記録する記録部」に記録されている「物体形状データ」に相当する。
ただし、相当するものではあるが、引用発明における「物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角が予め記録されてるデータ」は2次元画像としてのデータであり、本願補正後発明における、「物体形状データを記録する記録部」に記録されている「物体形状データ」は3次元画像としてのデータである点で相違がある。この点については、後に「4.相違点の判断」において詳述する。

(2)引用発明における「前記物体に関するテンプレートに対して前記物体の地上高さ、撮影時刻、撮影場所から計算した前記物体の影テンプレートを作成」することは、物体中の高さに対し、撮影時刻、撮影場所から計算した太陽の3次元方向を適用し、物体テンプレートを通る太陽光が地面に投影されたものを影のテンプレートとすることであるから、これは本願補正後発明における「算出された環境モデルを用いて」、「物体画像を生成する」ことに相当する。
この点については、本願補正後発明における「地表からの高さhの物体に、太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを、L=h/tanθにより算出して、」なる要素とともに、後に「4.相違点の判断」において詳述する。

(3)引用発明における
「合成テンプレートにエッジ抽出フィルタを適用して、水平エッジテンプレート、垂直エッジテンプレートを作成するエッジテンプレート計算手段と、
前記入力画像の各画素に、前記テンプレートの中心を所定の角度でずらせつつ置いて、前記各画素毎の投票値を、前記入力水平エッジと前記入力垂直エッジとに基づくベクトル及び前記水平エッジテンプレートと前記垂直エッジテンプレートとに基づくベクトルの内積を用いて計算し、前記各投票値を集計して、前記各画素における、かつ、前記テンプレートの所定角度毎の評価値を演算して、その評価値の中から最大の評価値の集合である最大評価値画像を作成する内積演算手段」を備え、
「前記作成された最大の評価値画像の画素の中から局所的最大値をとる座標を前記物体の位置として出力する」ことは、
は、本願補正後発明の
「上記センシング画像と上記生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、前記抽出結果を出力する」
に相当する。
この点についても、後に「4.相違点の判断」において詳述する。

(4)前項(3)のとおり、引用発明、本願補正後発明が実行していることは等価であるから、引用発明における「物体検出装置」と本願補正後発明における「目標物認識装置」とは基本機能において同一の機能を奏する装置であって、その違いは呼称の違いである。

[一致点]

(ク)センシング画像を該センシング画像の撮影時刻及び撮影位置の情報とともに取得する取得部と、
取得した上記撮影時刻と撮影位置における太陽高度と方位についての環境モデルを算出する算出手段と、
物体形状データから、上記算出された環境モデルを用いて、物体画像を生成する物体画像生成部と、
上記センシング画像と上記生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、前記抽出結果を出力する出力部とを有することを特徴とする目標物認識装置。

[相違点]

(ケ)物体形状データがどのようなデータであるか、本願補正後発明においては特に言及されていないものの、該データはそもそもの物体の形状のデータであって、実質的に3次元データであると解されるのに対し、引用発明においては、物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角が予め記録されてるデータ」であって、該データが実質的に2次元データである点。

(コ)物体形状データから、上記算出された環境モデルを用いて、物体画像を生成することについて、本願補正後発明が「地表からの高さhの物体に、太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを、L=h/tanθにより算出」するものであるのに対し、引用発明においては、その具体的算出手法について言及されていない点。

4.相違点の判断

相違点(ケ)について検討する。

引用発明は、「合成テンプレートにエッジ抽出フィルタを適用して、水平エッジテンプレート、垂直エッジテンプレートを作成」し、両エッジテンプレートを用いて評価する手法を用いることにより「前記作成された最大の評価値画像の画素の中から局所的最大値をとる座標を前記物体の位置として出力する」ものであるが、「撮影画像(本願発明における「センシング画像」に相当)とテンプレート(本願発明における「生成された物体画像」に相当)とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、抽出結果を出力することにおいて、本願発明と等価である。
すなわち、引用発明は、センシング画像と生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、前記抽出結果を出力することについて、
「合成テンプレートにエッジ抽出フィルタを適用して、水平エッジテンプレート、垂直エッジテンプレートを作成するエッジテンプレート計算手段と、
前記入力画像の各画素に、前記テンプレートの中心を所定の角度でずらせつつ置いて、前記各画素毎の投票値を、前記入力水平エッジと前記入力垂直エッジとに基づくベクトル及び前記水平エッジテンプレートと前記垂直エッジテンプレートとに基づくベクトルの内積を用いて計算し、前記各投票値を集計して、前記各画素における、かつ、前記テンプレートの所定角度毎の評価値を演算して、その評価値の中から最大の評価値の集合である最大評価値画像を作成する内積演算手段」を備え、
「前記作成された最大の評価値画像の画素の中から局所的最大値をとる座標を前記物体の位置として出力する」
ものであるが、これは、いわゆる「一般化ハフ変換」を用いて結果を求めていることであって、引用発明はそのような一具体的手法で限定されているものである。
そして、引用発明が「一般化ハフ変換」で結果を求めるものであるから、引用発明における「物体画像」は、「物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角が予め記録されてるデータ」とは、物体の輪郭を示す、実質的には2次元データである。

しかしながら、引用刊行物には上記(ウ)に示したような記載からも明らかなように、引用発明は、車両や航空機など既知の形状を持つ物体の検出を、3次元モデルなど物体の形状情報を利用してなされるものであり、画像から検出したエッジセグメントなど画像特徴と、3次元モデルなど形状情報を照合することにより物体を検出するものである。
すなわち、引用発明において検出しようとしている物体の形状は3次元モデルであって、「物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角が予め記録されてるデータ」は、3次元物体についての検出、比較をするために算出、加工されたデータであって、該データは、そもそも物体の3次元モデル(形状)から算出、加工されたものである。

一方、引用刊行物の記載からも明らかなように、この「一般化ハフ変換」自体は従来公知の技術である。

引用発明は、引用刊行物の特許出願としての発明が「ハフ変換を高速に実行することができる物体検出」(【課題】の記載)のためのものであるが、3次元モデルとセンシング(撮影)画像との照合において、「一般化ハフ変換」は必須のものではない。
そして、3次元モデルをセンシング(撮影)される位置、角度で平面図形に変換して、これをセンシング(撮影)画像と照合すること自体においては、本願補正後発明と引用発明で格別の相違はなく、引用発明は、本願補正後発明の「上記センシング画像と上記生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、前記抽出結果を出力する」点において違いを有するものではない。
そして、撮影した画像を3次元モデルと照合する、すなわち「上記センシング画像と上記生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、前記抽出結果を出力する」最も単純な方法は、「一般化ハフ変換」等の処理をせずに、物体モデルとして物体を撮影した画像、すなわち2次元画像のデータとして、センシング画像と直接比較することである。刊行物1に記載に従来技術として記載されている内容(上記(ウ))はそのようなものである。
「一般化ハフ変換」を用いる場合であっても、用いない場合であっても、2次元撮影画像と3次元モデルを対比、照合するには、3次元画像を2次元変換処理した画像を用いるのは当然のことである。次元の異なるものを対比、照合することはできない。
いかなる手法で対比、照合する場合でも、3次元モデルとセンシング(撮影)画像との照合には、3次元モデルをセンシング(撮影)される位置、角度で平面図形に変換した画像(図形)が必要となる。
3次元モデルをセンシング(撮影)される位置、角度で平面図形に変換したものがテンプレートとなるのであって、すなわち、テンプレートが3次元モデル(物体形状)を平面図形に変換することにより生成される。

してみれば、引用発明を、「一般化ハフ変換」を用いずに、そもそも物体の3次元モデル(形状)を3次元データとしての「物体形状データ」として記憶部に記憶し、この「物体形状データ」から物体画像を生成することは格別のことではない。

引用発明は、車両や航空機など既知の形状を持つ物体の検出を、3次元モデルなど物体の形状情報を利用してなされるものであり、画像から検出したエッジセグメントなど画像特徴と、3次元モデルなど形状情報を照合することにより物体を検出するものであるから、引用発明において検出しようとしている物体の形状は、そもそも3次元であり、この3次元の物体のデータを「物体形状データ」として用い、この3次元の「物体形状データ」から物体画像を生成することは当業者が容易に想到するものである。


そして相違点(コ)について検討する。

上述したように、引用発明は、認識(検出)しようとする物体の物体画像(テンプレート)の生成が、「物体形状データ」から、撮影時刻、撮影場所から算出された「環境モデル」を用いることにより、物体画像(影のテンプレート)を生成することである点において、本願補正後発明と実質的に相違しない。
そして、引用刊行物には、確かに、「地表からの高さhの物体に、太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを、L=h/tanθにより算出」という具体的記載はない。

しかしながら、記載がないとしても、物体の高さを「h」で表すこと、(撮影時刻、撮影場所から)計算された太陽の3次元方向を「θ」で表すことは、極めて普通のことであり、この2つの値から影の長さを算出する算出法として、当該計算式を用いることは、当業者であれば容易に想到することである。当該算出法以外の計算式はむしろ想定し難いことである。

なお、上記(オ)に示すように、引用刊行物の段落【0024】には、
「次に、図4に示すように、物体中心の高さに、物体テンプレートがあると仮定し、物体中心の地面からの高さと、前記計算した太陽の3次元方向から、物体テンプレートの中心を通る太陽光が地面に投影された先の座標を計算する。」
とは記載されている。
しかしながら、刊行物の【請求項2】あるいは段落【0012】の記載は「物体の地上高さ」であって、「物体中心の高さ」ではない。刊行物1に記載されている発明として認定されるのは、「物体の地上高さ」である。
引用発明は「一般化ハフ変換」を用いるが故に「物体中心の高さ」を計算に用いているが、ある物体の影の画像を作成するのであれば、影を作成する際の基準は、あくまで、「物体の地上高さ」である。ある物体の影を作成するために「物体の地上高さ」を用いることにおいて、本願補正後発明と引用発明は相違しない。

上記相違点(ケ)において検討したように、3次元の物体のデータを「物体形状データ」として用い、この3次元の「物体形状データ」から物体画像を生成することは当業者が容易に想到することであって、影はそもそも物体の地上高さに対応するものであるから、3次元の「物体形状データ」から生成される物体画像に影を付加する場合に、「物体の地上高さ」を用いることは当然のことである。

なお、当該判断についての審判請求人の主張について、別項で詳述する。

してみれば、上記相違点(ケ)(コ)には格別の想考困難性はなく、本願補正後発明は、引用刊行物1たる公知刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本願補正後発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができたものではない。

5.審判請求における請求人の主張について

請求人は、審判請求書において、次の主張をしている。
「(2)引用発明との対比
引用文献1では、影テンプレートの生成について、「物体中心の高さに、物体テンプレートがあると仮定し、物体中心の地面からの高さと、前記計算した太陽の3次元方向から、物体テンプレートの中心を通る太陽光が地面に投影された先の座標を計算する。この投影先座標が物体テンプレートの影の中心座標であり、物体テンプレートを投影先座標に平行移動したものが影テンプレートとなる」(0025?0026段落)とあるように、物体中心の高さに対する投影先座標が影の中心座標であり、その中心座標を中心として、物体テンプレートを平行移動させるものである。
一方、本願は、地表からの高さhの物体に、太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを、L=h/tanθにより算出するものであって、引用文献1の影テンプレートの生成の仕方が異なっている。これを、添付の参考図を用いて説明する。参考図は、引用文献1に倣い、航空機の影テンプレートの生成の仕方について、本願と引用文献1との相違について記載したものである。
参考図図1は、航空機の機首付近の地表にできる影についての正面からみた場合の説明図である。引用文献1では、物体中心の高さ「+」の位置の投影座標を影の中心座標とし、物体テンプレートを平行移動させるので、機首付近の影としては、胴体の幅aと同じ幅の影領域となる。一方、本願は、L=h/tanθにより算出するので、実際にできる影の範囲を正確に生成することができる。参考図図2は、機尾付近の地表にできる影についての正面からみた場合の説明図である。引用文献1の方法では、物体テンプレートを平行移動しただけなので、機尾付近では、尾翼の幅bに相当する幅の影となるのに過ぎないのに対し、本願では、実際にできる影領域を生成することができる。同様に、参考図図3は、機尾付近の地表にできる影の側面図である。引用文献1の方法では、尾翼の高さを反映した影を生成することはできないのに対し、本願では、実際にできる影領域を生成することができる。参考図図4は、物体の上にできる影の正面図である。物体自身が凹凸構造を持つ場合は、実際は、物体自身の上に影ができるが、引用文献1のような物体テンプレートを平行移動するだけでは、物体上の影は生成されない。一方、本願では、物体上にも、影を生成することができる。このように、本願では、実際にできる影に相当する影を高精度に生成できる効果があるので、結果として、物体画像の抽出精度を向上させることができる。引用文献1の方法では、影テンプレートを用いて物体検出を行うものではあるが、その影自身が正確に生成されないので、物体検出の正確性は期待できない。
なお、影の長さLを、L=h/tanθにより算出することは、補正前の請求項2に規定した要件であるが、拒絶査定書の備考欄では、この要件や効果について、検討されていない。
また、引用文献2には、0088段落に、大気状態による画像の濃度値の変換を行うことが、引用文献3の請求項12には、物体表面上の色、反射率に相当する画像データを測定し、3次元物体モデルとして登録することが記載されているが、本願の特徴である影生成に関する記載はない。 」

確かに、当該刊行物の段落【0024】【0025】には、
「【0024】次に、図4に示すように、物体中心の高さに、物体テンプレートがあると仮定し、物体中心の地面からの高さと、前記計算した太陽の3次元方向から、物体テンプレートの中心を通る太陽光が地面に投影された先の座標を計算する。
【0025】この投影先座標が物体テンプレートの影の中心座標であり、物体テンプレートを投影先座標に平行移動したものが影テンプレートとなる。」
と記載されており、ここでは影テンプレートを求めるために「物体中心の高さ」が用いられている。

しかし、当該記載は、あくまで「一般的ハフ変換」を用いた場合の一実施例にすぎず、引用刊行物の特許出願としての発明が「ハフ変換を高速に実行することができる物体検出」(【課題】の記載)のためのものであって、その際に「予め物体形状の輪郭線上の座標について、その座標から物体中心までの距離と輪郭線方向と物体中心方向の相対角を記録しておき、物体を検出する際には入力した画像から抽出したエッジの方向から物体中心の可能性がある座標を求め、その座標の画素に投票値を加算する」(段落【0004】の記載)ことを実行するために、「物体中心の高さ」から、その物体テンプレートの中心を通る太陽光が地面に投影された先の座標を計算を実行しているのであって、【請求項2】や段落【0002】に記載されているのは、あくまで「物体の地上高さ」である。
影のテンプレートを作成するために「物体の地上高さ」を用いる点は、本願発明と同様の算出に他ならない。
審判請求人は、引用刊行物1に記載の一実施例と本願補正後発明の対比をしているのであって、その主張自体は是認できるものではあるが、当業者であれば、刊行物1に従来技術として記載されているようなものにおいて、刊行物1に記載されている影を付加したテンプレートを用いることは容易に想考できることであり、かつ、刊行物1には、「物体の地上高さ」を用いることも記載されているのであって、本願補正後発明が刊行物1に記載の発明から容易に想考することができないとの主張は認められない。

6.補正却下の[理由]についてのむすび

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明の認定

平成23年4月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、平成23年1月26日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から請求項9までに記載した事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項9に係る発明は、次のとおりである。

【請求項9】
センシング画像を該センシング画像の撮影時刻及び撮影位置の情報とともに取得する取得部と、
取得した上記撮影時刻と撮影位置における太陽高度と方位についての環境モデルを算出する算出手段と、
物体形状データを記録する記録部と、
上記物体形状データから、上記算出された環境モデルを用いて、地表からの高さhの物体に、太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを算出して、物体画像を生成する物体画像生成部と、
上記センシング画像と上記生成された物体画像とを比較して、最も類似した物体画像を抽出し、前記抽出結果を出力する出力部とを有することを特徴とする目標物認識装置。

2.引用刊行物に記載の発明

原査定の拒絶理由に引用された刊行物1および、その記載事項は、前記「第2における[理由]の2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願請求項9は、平成23年4月1日付けの手続補正によって補正された請求項8に相当するものであり、その補正は上記のとおり、補正前の請求項9における「太陽高度θの太陽光が照射してできる影の長さLを算出」について、その算出を「L=h/tanθにより」という要件で具体的に限定したものである。

そうすると、本願請求項9に係る発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正後発明が、前記「第2における[理由]の4.」に記載したとおり、引用刊行物の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願請求項9に係る発明も、同様の理由により、引用刊行物1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願請求項9に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ

以上のとおり、本願請求項9に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたことにより、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。

したがって、原査定を取り消す。本願は特許すべきものであるとの審決を求める、という本願審判請求の趣旨は認められない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-05 
結審通知日 2011-12-06 
審決日 2011-12-20 
出願番号 特願2006-120061(P2006-120061)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06T)
P 1 8・ 121- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片岡 利延松永 稔  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 千葉 輝久
古川 哲也
発明の名称 目標物認識プログラム及び目標物認識装置  
代理人 井上 学  

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