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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1252170
審判番号 不服2011-9646  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-09 
確定日 2012-02-09 
事件の表示 特願2007-318480「積層型回折光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月 4日出願公開、特開2008-203821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願の経緯
本願は、平成19年12月10日(優先権主張:平成19年1月22日)の出願であって、平成22年5月21日に審査請求と同時に手続補正書が提出され、同年6月11日に拒絶の理由が通知され、それに対して、同年8月16日に手続補正書および意見書が提出され、さらに、同年10月25日付けで拒絶の理由が通知され、それに対して同年12月28日に手続補正書および意見書が提出されたが、平成23年2月1日付けで拒絶査定がなされ、同年5月9日に審判請求がなされたものである。

ここで、平成22年12月28日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1において特定されている「第1および第2のd線屈折率の差」に関する事項は、本願の優先権主張の基礎とされた先の出願である、特願2007-011270号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない事項である。
したがって、本願の請求項1-8に係る発明は、先の出願の願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内のものではないから、本願は適法な優先権主張の出願であるとは認められない。


2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、つぎのとおりのものであると認める。

「【請求項1】
透明基板の少なくとも片側の表面に回折格子形状を有する第1の層と、透明基板の少なくとも片側の表面に回折格子形状を有する第2の層とを備え、前記第1及び第2の層の回折格子形状が互いに対向するように空間無く積層され、前記第1の層は第1の無機微粒子を含むエネルギー硬化型の第1のアクリル系樹脂の層であり、前記第2の層は前記第1の無機微粒子とは異なる第2の無機微粒子を含むエネルギー硬化型の第2のアクリル系樹脂の層であり、前記第2の無機微粒子を含む前記第2のアクリル系樹脂は前記第1の無機微粒子を含む前記第1のアクリル系樹脂より屈折率が低く分散が高いものであり、前記第1のアクリル系樹脂の層のd線屈折率は1.54以上1.63以下であり、前記第2のアクリル系樹脂の層のd線屈折率は1.48以上1.57以下であり、前記第1及び第2の層のd線屈折率の差が0.024以上0.075以下である事を特徴とする積層型回折光学素子。」

なお、上記平成22年12月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1において下線部(当審で付与)は「第2のアクリル系有機樹脂」と記載されているが、これは「第2のアクリル系樹脂」の誤記であることは明らかであるので、本願発明を上記のように認定した。


3.進歩性について
(1)刊行物の記載
本願は、1.に記載したとおり、国内優先の利益を享受することができず、現実の出願日である平成19年12月10日を基準日として特許法第29条に係る特許要件の判断をすべきところ、当該現実の出願日前に日本又は外国で頒布された国際公開第2007/026597号(平成23年2月1日付け拒絶査定における引用文献7。以下、「刊行物」という。)には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

(a)
「[0001] 本発明は、回折光学素子とその製造方法、及びこれを用いた撮像装置に関する。」

(b)
「[0013] 回折光学素子110で用いられる材料は、大別すると樹脂又はガラスである。また、回折光学素子110の各部材の屈折率条件は、基本的には同様である。ここで、回折格子形状112が形成された基材111に、光学材料を被覆膜113として塗布、接合した場合、1次回折効率が100%となる回折格子深さd´は、下記数式2で与えられる。但し、n1(λ)は基材を構成する材料の屈折率、n2(λ)は被覆膜を構成する材料の屈折率であり、いずれも波長の関数である。
[0014][数2] …略…
[0015] 数式2の右辺が、ある波長帯域で一定値になれば、その波長帯域での回折効率の波長依存性がなくなることになる。この条件を満たし、かつ回折格子深さd´を小さくするには、|n1(λ)-n2(λ)|の値を大きく、すなわち、基材と被覆膜を高屈折率かつ低分散材料と低屈折率かつ高分散材料の組合せで構成すればよい。なお、この構成において回折格子深さd´は、数式1の回折格子深さdよりも大きくなる。」

(c)
「[0023] 本発明の回折光学素子は、回折格子形状に形成された面を含む基材と、前記回折格子形状を覆う被覆膜とを含む。そして、前記基材は樹脂を含む第1材料からなり、前記被覆膜は樹脂を含む第2材料からなり、前記第1材料及び前記第2材料から選ばれる少なくとも1つの材料は、無機粒子を含むコンポジット材料である。このような構成にすることによって、従来のガラス等を用いた場合に比べ成形性が向上する。また、被覆膜と基材との屈折率差が最適な値となるように、それぞれの材料に使用する樹脂や無機粒子を適宜選択することができる。これにより、従来の樹脂等を用いた場合に比べ材料選択の幅が拡がるため、例えば回折格子深さを浅くすることができる。よって、加工がより容易となる。」

(d)
「[0042] コンポジット材料は、特定の材料からなる1種類の無機粒子のみを含んでいてもよいし、異なる材料からなる複数種の無機粒子を含んでいてもよい。
[0043] 前記無機粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化シリコン、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ハフニウム等の金属酸化物を用いることができる。無機粒子はこれらの酸化物のいずれか1つで形成されていてもよいし、これらの酸化物の複合酸化物で形成されていてもよい。また、無機粒子の材料としては窒化シリコン等の金属窒化物や炭化シリコン等の金属炭化物、ダイヤモンドやダイヤモンドライクカーボン等の光透過性の炭素系材料を用いてもよい。また、硫化硫黄や硫化スズ等の硫化物や、金、白金、銀、パラジウム、銅、アルミニウム等の金属、シリコンやゲルマニウム等の半導体材料を用いてもよい。これらの無機粒子を適宜組み合わせて用いることによって、コンポジット材料の屈折率及びアッベ数を調整できるので、広い波長範囲で高い回折効率をもつ回折光学素子となる。
[0044] 一方、樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂といった樹脂の中で、光透過性のよい樹脂を用いることができる。アクリル樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル等)、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン等)、ポリスチレン樹脂(例えば、ポリスチレン等)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリプロピレン等)、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン等)、ポリイミド樹脂(例えば、ポリイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フルオレン系樹脂、酢酸ビニル樹脂等を用いてもよい。また、ポリカーボネート、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、非晶質ポリオレフィン等のエンジニアリングプラスティックを用いてもよい。また、これらの樹脂、高分子の混合体や共重合体を用いてもよい。また、これらの樹脂を変性したものを用いてもよい。
[0045]前記樹脂の中でも特に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、非晶質ポリオレフィン、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ブチラール樹脂は透明性が高く、成形性も良好である。」

(e)
「[0053] 第1材料がコンポジット材料の場合、回折格子形状12a,12bが形成された面11a,11bを含む基材11は、金型による成形で容易に大量生産できる。金型の加工の一例としては、金型素材の表面にメッキ膜を形成し、このメッキ膜にダイヤモンドバイトによる旋削加工を用いて回折格子形状12a,12bを模った型を形成する方法が挙げられる。前記コンポジット材料に、例えばカーボネート、シクロオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂が配合されている場合は、射出成形によってコンポジット材料からなる基材11を容易に作製できる。また、前記コンポジット材料に、例えば光硬化性樹脂が配合されている場合は、紫外線や可視光を照射して光硬化性樹脂を硬化させ離型する方法、いわゆるフォトポリマー成形によって、コンポジット材料からなる基材11を容易に作製できる。その際用いる型は、石英等の紫外線や可視光を透過する材料にドライエッチング等で階段状の形状(回折格子形状12a,12bの反転形状)を形成するとよい。」

(f)
「[0059] 前記コンポジット材料は、熱膨張係数や、屈折率の温度依存性について、樹脂と無機粒子の中間的な物性値を有する。このため、前記第1材料及び前記第2材料が樹脂である場合に、しばしば問題となる光学性能の温度依存性が低減され、信頼性、光学安定性の面で樹脂より格段に優れる。無機粒子は、一般的に、樹脂に比べて、熱膨張係数や、屈折率の温度依存性が小さいためである。」

(g)
「[0077] 第1材料及び第2材料は、少なくとも一方の材料がコンポジット材料であればよく、いずれの材料もコンポジット材料であることが好ましい。コンポジット材料の調製方法に限定はなく、物理的な方法で調製してもよいし化学的な方法で調製してもよい。例えば、以下の(1)?(4)のいずれかの方法によりコンポジット材料を調製してもよい。」

(h)
「[0118]
(実施例1)
実施例1は、上述した実施形態1のレンズ10(図1参照)の実施例である。なお、基板は両面とも凸面であり、回折格子形状は、光軸中心から同心円状となるような輪帯状である。
[0119]
以下、図1を参照しながら説明する。なお、本実施例のレンズの製造方法は、上述した実施形態2のレンズの製造方法と同様である(但し、本実施例のレンズは、反射防止膜14a,14bを製造する工程を含まない。)。
[0120]
まず、第1材料として、ポリカーボネートを主成分とする樹脂(帝人化成社製、商品名“パンライトAD-5503”)に酸化亜鉛を30体積%混合したコンポジット材料を用いて、基材11を射出成形で形成した。この際、基材11の両面には、それぞれ深さ5.20μmの回折格子形状12a,12bを形成した。なお、上記コンポジット材料は、d線屈折率1.683、アッベ数18.9であった。
[0121]
次に、第2材料として、シクロオレフィン系樹脂を主成分とする樹脂(日本ゼオン社製、商品名“ZEONEX480R”)に無機粒子として酸化ジルコニウムを50体積%で分散、混合したコンポジット材料を用いて、前記回折格子形状を覆うように、基材11の両面に被覆膜13a,13bを形成した。なお、上記コンポジット材料は、d線屈折率1.796、アッベ数41.9であった。被覆膜13a,13bを形成する際は、スピンコートで塗布を行い、これを自然硬化させた。
[0122]
図10は、実施例1のレンズの片面における波長による1次回折効率の変化を表すグラフである。図10より、波長400nm以上700nm以下の可視光の全領域において、回折効率は95%以上であることがわかった。
[0123]
なお、実施例1のレンズで用いた基材11を形成する材料と、被覆膜13a,13bを形成する材料とを入れ替えて、同様のレンズを形成しても、図10で示した特性と同じ特性が得られた。」

(i)
「[0131]
[表1]



(当審注:上記[表1]において、No.10には、第1の材料および第2の材料の両方に無機微粒子を含ませること、および、第1の材料と第2の材料とのd線屈折率差を0.046とすることが記載されている。)

(j)
「[図1


(当審注:上記図1は実施例1における回折光学素子を有するレンズを示している。図中において、11は基材を、13aおよび13bは被覆膜を、示しており、基材11と被覆膜13a(13b)とが空間無く積層されている。)


これらの記載事項によれば、刊行物には次の発明(以下、「刊行物記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

「表面に回折格子形状を有する被覆膜と、表面に回折格子形状を有する基材と、を備え、前記被覆膜の回折格子形状と前記基材の回折格子形状とが空間無く積層され、前記被覆膜は酸化ジルコニウムの無機微粒子を含むシクロオレフィン材料を主成分とする樹脂の層であり、前記基材は酸化亜鉛の無機微粒子を含むポリカーボネートを主成分とする樹脂の層であり、前記被覆膜は基材より屈折率が高くアッベ数が大きいものであり、前記被覆膜のd線屈折率が1.685であり、前記基材のd線屈折率が1.639であり、前記被覆膜と基材とのd線屈折率差が0.046である回折光学素子。 」


(2)対比・検討
(2-1)対比
本願発明と刊行物記載の発明とを比較する。

(ア)
刊行物記載の発明における「被覆膜」および「基材」のそれぞれは、表面に回折格子形状を有し、無機微粒子を含む樹脂からなるものである。さらに、「被覆膜」は「基材」より屈折率が高くアッベ数が大きいものであるが、アッベ数が大きいほど分散は低いものであるから、「基材」は「被覆膜」よりも屈折率が低く分散が高いものである。
したがって、刊行物記載の発明における「被覆膜」は本願発明の「第1の層」に、刊行物記載の発明における「基材」は本願発明の「第2の層」に、それぞれ相当する。

(イ)
刊行物記載の発明における「酸化ジルコニウム」は本願発明の「第1の無機微粒子」に、刊行物記載の発明における「酸化亜鉛」は本願発明の「第1の無機微粒子とは異なる第2の無機微粒子」に相当する。

(ウ)
刊行物記載の発明における「回折光学素子」は、本願発明の「積層型回折光学素子」に相当する。

したがって、両者は、

「少なくとも片側の表面に回折格子形状を有する第1の層と、少なくとも片側の表面に回折格子形状を有する第2の層とを備え、前記第1及び第2の層の回折格子形状が互いに対向するように空間無く積層され、前記第1の層は第1の無機微粒子を含む樹脂の層であり、前記第2の層は前記第1の無機微粒子とは異なる第2の無機微粒子を含む有機樹脂の層であり、前記第2の無機微粒子を含む前記第2の樹脂は前記第1の無機微粒子を含む前記第1の樹脂より屈折率が低く分散が高いものである積層型回折光学素子。」

で、一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明が「透明基板」を用いているのに対して、刊行物記載の発明では当該「透明基板」を用いるとは特定されていない点。

(相違点2)
本願発明は「第1の層」および「第2の層」をアクリル系樹脂で構成し、「第1のアクリル系樹脂の層のd線屈折率は1.54以上1.63以下であり、第2のアクリル系樹脂の層のd線屈折率は1.48以上1.57以下であり記第1及び第2の層のd線屈折率の差が0.024以上0.075以下」であるのに対して、刊行物記載の発明では当該「第1の層」および「第2の層」に用いる樹脂材料が異なり、それにともない当該材料のd線屈折率も異なっている点。

(2-2)検討
(ア)相違点1について
樹脂を用いた光学素子において、透明基板を用いて当該光学素子を構成することは文献を挙げるまでもなく周知慣用技術である。
そして、刊行物記載の発明において、基材を構成する際に、上記周知慣用技術に基づいて透明基板を用いることは当業者が容易になしうることである。

(イ)相違点2について
刊行物には、第1の層および第2の層を構成する樹脂材料として、特に透明性が高く成形性が良好であるものとして、アクリル樹脂が記載されている。(上記「3.(1)(d)[0045]参照」)
さらに、刊行物には、第1の層および第2の層を構成する樹脂材料として、紫外線を照射して硬化させる光硬化性樹脂を用いると製造が容易になることも記載されている(上記「3.(1)(e)[0053]参照」)当該紫外線を照射して硬化させる光硬化性樹脂は、本願発明の「エネルギー硬化型」の樹脂に相当する。そして上記アクリル樹脂は、通常、エネルギー硬化型の樹脂として用いられるものである。
刊行物記載の発明において、第1の層および第2の層を構成する樹脂として、実施例に記載されたポリカーボネートおよびシクロオレフィン系樹脂を用いることに替えて、上記刊行物において特に透明性が高く成形性が良好であるとされたエネルギー硬化型のアクリル樹脂を用いることは当業者が容易に想到しうるものである。

さらに、上記刊行物には、波長依存性のない回折格子を設計する際に考慮しなければならないパラメータは、第1の層および第2の層の各層の屈折率の大きさではなく、それらの層の屈折率差であること(上記「3.(1)(b)[0015]」参照)、および、当該屈折率差としてd線屈折率差を本願発明に記載された0.024以上0.075以下の範囲内とすることが記載されている。(上記「3.(1)(i)[表1]」参照)

よって、刊行物記載の発明において、第1の層および第2の層の材料としてアクリル樹脂を用いた際に、上記刊行物の記載に基づいて、それらの層の屈折率差を本願発明に記載された範囲内とすることに格別の困難性はなく、当該d線屈折率差を得るために、第1の層および第2の層の各層のd線屈折率を調整することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。そして、本願発明に記載されたd線屈折率に関する数値限定に臨界的意義も見出せない。

(ウ)本願発明の効果について
請求人は、審判請求書において、刊行物記載の発明および本願発明が解決する課題について、つぎのとおり主張している。

「引用文献7には、回折素子を構成する樹脂としてアクリル樹脂を用いることが記載されています。しかしながら、記載されているのは単なる一般的な有機樹脂のカテゴリーの例示であります。引用文献7の発明は、第1の層と第2の層の少なくとも1方に無機微粒子を含むものであり、実施例では、PC、COP等からなる、第1の層と第2の層の一方にのみ微粒子を含んでいる形態と、第1の層と第2の層の両方に微粒子を含んでいる形態が混在して示されています。すなわち、アクリル樹脂からなる第1の層と第2の層の両方に無機微粒子を含んでいる形態は、具体的には明示されていません。また、この形態が引用文献7の発明の課題に対してどの程度有効であるかは明確ではないため、暗示されているとも言えません。
本願発明は、第1の層と第2の層の線膨張率の差を小さくし、屈折率の変化による光学特性の変化を抑制することを課題としております。そしてこの課題がアクリル樹脂の場合に顕在化することに着目し、「第1の層と第2の層がともにエネルギー硬化型のアクリル系樹脂の層である」場合に、「第1の層と第2の層がともに無機微粒子を含んでいること」が有効であることを見出したものであります。 またこの課題は、前述しましたように、光学素子の分野において周知であるとは到底言えるものではありません。本願発明は、このような課題認識があって初めて成されたものであり、引用文献7にアクリル樹脂の記載の例示があるからと言って、当業者が容易に導き出すことができたものではありません。」

上記主張のとおり、刊行物(上記主張における「引用文献7」)にはアクリル樹脂からなる第1の層と第2の層の両方に無機微粒子を含んでいる形態は具体的に示されていない。
しかし、上記「(イ)相違点2について」で論じたとおり、上記刊行物には当該アクリル樹脂が好ましものとして記載されており、さらに、第1の層および第2の層の両方に無機微粒子を含ませた方が好ましいことも記載されている。(上記「3.(1)(g)[0077]参照」)
そして、上記刊行物には、樹脂を用いた際に問題となる光学性能の温度依存性は、無機微粒子を含む樹脂を用いたことで解決されることも記載されている。(上記「3.(1)(f)[0059]」参照)上記光学性能の温度依存性は、他の樹脂と同様にアクリル樹脂においても無機微粒子を含ませることで解決で得ることは当業者ならばすぐに気が付くものである。
したがって、上記「(イ)相違点2について」で述べたとおり、刊行物記載の発明においてアクリル樹脂を用いることに格別の困難性はない。

また、請求人は、上記主張において、上記課題が「アクリル樹脂の場合に顕在化」することを述べている。しかし、本願の発明の詳細な説明では、実施例でアクリル樹脂を用いることは記載されているが、当該アクリル樹脂を用いた積層型回折光学素子において線膨張率の差に起因する屈折率変化が他の樹脂と比べて顕著であることは記載も示唆もされておらず、また、このことが発明の詳細な説明から自明であるとも認められない。

したがって、上記審判請求書における主張は、当を得たものではなく、かつ、上記課題が「アクリル樹脂の場合に顕在化」することの根拠が不明であるので、当該主張を採用することができない。

(3)進歩性のまとめ
よって、本願発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-12 
結審通知日 2011-12-13 
審決日 2011-12-28 
出願番号 特願2007-318480(P2007-318480)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 住田 秀弘
金高 敏康
発明の名称 積層型回折光学素子  
代理人 阿部 琢磨  
代理人 黒岩 創吾  

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