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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1252246
審判番号 不服2010-5310  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-10 
確定日 2012-02-15 
事件の表示 特願2008-212979「広範囲ズーム機能を備えた超広帯域紫外顕微鏡映像システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月13日出願公開、特開2008-276272〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成10年8月7日(パリ条約による優先権主張 平成9年8月7日 米国)を国際出願日とする特願2000-506547号の一部を平成16年11月12日に新たな特許出願とした特願2004-329065号の一部を平成20年8月21日に更に新たな特許出願としたものであって、平成21年5月14日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年3月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
その後、前置報告書の内容について、審判請求人に意見を求めるために平成23年2月16日付けで審尋がなされ、同年8月19日付けで当該審尋に対する回答書が提出された。



2.本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、平成22年3月10日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「 高い開口数の広いスペクトルの領域のカタディオプトリックな光学システムであって、
紫外の範囲における少なくとも一つの波長を含む複数の波長にわたって高次の横の色の収差を変化させることなくズームする又は倍率を変化させることができる遠紫外に透明な屈折の材料で作られた全て屈折のレンズ群を含むチューブレンズセクション;及び
非ズーミングの高い開口数のカタディオプトリックな対物レンズセクション
:を備える、システム。」

なお、平成22年3月10日付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当するものであり、適法な補正である。



3.引用発明

3-1.刊行物の記載事項

3-1-1.引用例1

本願の優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された、特開昭60-156030号公報(以下「引用例1」という)には、以下の技術事項が記載されている。(後述の「3-2.引用発明の認定」において引用した記載に下線を付した)

記載事項a.第2頁右下欄第14行乃至第4頁左上欄第10行
「[実施例]
次に図面を参照して本発明の実施例を説明する。
第1a図および第1b図に本発明を放射エネルギシステムに用いた場合の二重視界光学装置10を第1の実施例として示す(放射エネルギとしては可視光および赤外線を含む)。同装置において入射放射エネルギ12(第2図ないし第5図)はドーム16(第2図)の窓部14(第1a図)を通って入射する。ドーム16は内部の光学素子その他の機器を外部の部材から保護するためのものであり、また窓部14は屈折光学素子で、赤外線システムの場合は硫酸亜鉛で形成され、球面状としてある。
窓部14近傍の光軸上にはこれと同心的に光学ハウジング20が配置され、この光学ハウジング20の一端に広視界光学素子18が固着されている。またフレーム24(第1b図)内には例えばアルミの鏡体等により構成した二次反射鏡22が退去可能に配設されている。前記フレーム24は支持板26、28に取り付けられ、該支持板26、28は前記光学ハウジング20の耳部36、38に嵌着したベアリング32、34に軸支された連結ピン30に固着されている。
このフレーム24の軸支部の反対側は対応するフランジ40、42により支持されている。
前記支持板28(第1a図および第1b図)には穴44が形成され、この穴を介してケーブル46が取り付けてある。ケーブル46は光学ハウジング20およびガイドプーリ48を経由して図外の操作機構に至っている。ガイドプーリ48は光学ハウジング20に装着され、前記操作機構によりケーブル46を牽引することにより、二次反射鏡22を回動させてこれを狭視界位置から退去させ、広視界を得るようにする。また前記連結ピン30には戻しバネ50を巻装してこれを2次反射鏡取付けフレーム24と係合させることにより、前記ケーブル46に対する牽引力が解除されたときに、二次反射鏡22が前記狭視界位置に復帰するようにする。なお、上述のような機械的2次レンズ装置の操作機構は単なる一例として示したもので、これに代えて各種公知のレンズ切替え機構を適宜選択して用いてもよい。
光学ハウジング20はさらに例えばアルミの鏡体とした有孔一次反射鏡52(第1a図)が取り付けられ、この一次反射鏡52の中心開口部内に中継光学系54がその光軸に沿って配置され、第2の焦点面56を形成している。この中継光学系54は第1の焦点面に一端60を有する接眼素子58と、ハウジング内に設けた照準レンズ62、64と、接眼素子58の前記一端60と反対側の端部に位置させたレンズ66からなる。レンズ62は凹凸曲面型の収斂レンズ(正レンズ)とし、レンズ64は凸凹曲面型の発散レンズ(負レンズ)とする。これらレンズ62、64、66はすべて屈折レンズで、かつその曲面は球曲面である。またレンズ64は例えば硫化亜鉛で形成され、62および66はいずれにもこれをカルコゲナイドガラスレンズ、例えばテキサス・インスツルメンツ社(米国テキサス州ダラス)製TI1173ガラスレンズ等とする。
次に第2図を参照して狭視界動作につき説明する。第2図には説明を簡略にするため光学素子のみを示したが、同図の状態では前記戻しバネ50(第1b図)の付勢力により二次反射鏡22は狭視界動作を行う光路に保持されている。この狭視界動作モードでは入射放射エネルギ12は窓部14を通って一次反射鏡52の反射面に向う際に屈折され、さらに二次反射鏡22の反射面で折り返し反射されるべく進む。本実施例においてはこの二次反射鏡22により広視界光路が遮断されるようにしてある。
上記窓部14、一次反射鏡52および二次反射鏡22はカタジオプトリックな(すなわち光の反射と屈折の両方を行う)対物光学系を形成するもので、この光学系により入射放射エネルギの折返しと集束を行なうことによって、二重視界光学装置10の光軸を中心として対称な第1の焦点面60を形成する。また二次反射鏡22は二重視界光学装置10の開口絞りを画定するはたらきをもつものである。窓部14に現れる被写体像(シーン)から見たこの開口絞りの像を入射眸という。
中継光学系54はその光学位置を適宜えらぶことにより、第1の視界が真空ハウジング内の窓部68および出射眸70を通って第2の視界すなわち前記第2の焦点面56に至るようにする。この第2の視界には、例えば米国特許出願第325,453(1981年11月27日出願)等の赤外線装置からなる検出マトリックス(図示せず)を配置して、これに衝突する放射エネルギの強さを電気的に検出してもよい。中継光学系54の中継光学素子はさらに出射眸を形成するのに用いられるもので、この出射眸は前記開口絞りの再集束像でであり、従って開口68を上記位置とすることにより、無用のエネルギ源に由来する不要のエネルギが上記検出マトリックスにほとんど到達しえないようにする。なお、光学系の構成をコンパクトなものとするため、中継光学系54は一次反射鏡52、二次反射鏡22の間に配置してある。」

記載事項b.第2図




3-1-2.引用例2

本願の優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由に引用された、特開平03-287147号公報(以下「引用例2」という)には、以下の技術事項が記載されている。

記載事項c.第3頁右上欄第6行乃至右下欄第14行参照
「 実施例
第1図は本発明の第1実施例の光学系の概略構成を示す斜視図である。カメラの撮影レンズ10を通過した光は反射鏡11により上方に曲げられ、焦点板12上に物体像(一次像)を結像する。焦点板12にはAF枠27が描かれており、この枠27は、後に第8図において説明するように、AF装置36が焦点検出を行う参照範囲と一致するように描かれている。焦点板上に結像した一次像は、ファインダ光学系の第1反射鏡13により一旦瞳側へ曲げられ、さらに第2反射鏡14によって物体側へ曲げられるとともに鉛直面に対しても所定角度折り曲げられてリレーレンズ15により二次像面に結像される。二次像面には固定の視野枠16が設けられており、この視野枠16内の二次像が第3反射鏡17により再び瞳側へ反射されて接眼レンズ18により拡大され、瞳面19に至る。なお、フィルム面は従来のSLRカメラと同様、反射鏡11の後方に配置されている。
この光学系を焦点板12の上から見下ろしたときの配置を第2図に示す。標準撮影状態(擬似ズームを行わない状態)では、フィルム面全面の撮影範囲が焦点板12の外側の枠25に対応するようになっているが、擬似ズーム撮影が行われるときの撮影視野(焼き付け範囲)は、点線で示した枠26内となる。しかし、後述するように、擬似ズームに伴い、リレーレンズ15がそれに応じた変倍動作を行うため、視野枠16の箇所に形成される二次像面では、その範囲26は標準撮影時と同じ大きさに拡大される。従って、接眼レンズ18から観察している限り、擬似ズームが行われても、その撮影視野(焼き上がり範囲)は常にファインダ内で同じ大きさで(画面一杯に)表されることになる。
ファインダ光学系のレンズ構成を第3図に示す。リレーレンズ15は、物体側から、正のパワーを有する第1レンズL1のみにより構成される第1レンズ群と、正のパワーを持つ第2レンズL2と負のパワーを持つ第3レンズL3により構成され、全体として正となる第2レンズ群とから成る。ここで、第1レンズ群(第1レンズL1)の焦点距離f1は第2レンズ群の焦点距離f2よりも短く(fl<f2)なるように設定されている。本光学系15の基本的考え方は次の通りである。全体を正・正の2群構成とし、前の第1レンズ群(Ll)の正パワーを強くして、これを動かすことにより変倍する。そして、後ろの正の第2レンズ群(L2、L3)で共役長が一定になるように補正をする。第2レンズ群は正・負構成とし、後ろの負レンズ(L3)によりS1(一次像面からリレーレンズ15までの距離)を長くとれるようにする。」


3-2.引用発明の認定

記載事項a及び記載事項bの記載内容から、引用例1には、

「 照準レンズ62、64、レンズ66からなり、これらのレンズ62、64、66はすべて屈折レンズである中継光学系54と、カタジオプトリックな対物光学系からなる、放射エネルギシステム。」

(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。



4.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「照準レンズ62、64、レンズ66からなり、これらのレンズ62、64、66はすべて屈折レンズである中継光学系54」と、本願発明の「紫外の範囲における少なくとも一つの波長を含む複数の波長にわたって高次の横の色の収差を変化させることなくズームする又は倍率を変化させることができる遠紫外に透明な屈折の材料で作られた全て屈折のレンズ群を含むチューブレンズセクション」とは、「屈折の材料で作られた全て屈折のレンズ群を含むチューブレンズセクション」である点で一致する。

引用発明の「カタジオプトリックな対物光学系」と本願発明の「非ズーミングの高い開口数のカタディオプトリックな対物レンズセクション」とは、「非ズーミングのカタディオプトリックな対物レンズセクション」である点で一致する。

本願の明細書の段落【0021】等を参酌すると、本願発明の「カタディオプトリックな光学システム」とは、「チューブレンズセクション」及び「カタディオプトリックな対物レンズセクション」からなる光学システムを意味するものと認められるから、引用発明の「中継光学系54」と「カタジオプトリックな対物光学系」からなる「放射エネルギシステム」と本願発明の「高い開口数の広いスペクトルの領域のカタディオプトリックな光学システム」とは、「カタディオプトリックな光学システム」である点で一致する。

したがって、本願発明と引用発明とは、

「 カタディオプトリックな光学システムであって、
屈折の材料で作られた全て屈折のレンズ群を含むチューブレンズセクション;及び
非ズーミングのカタディオプトリックな対物レンズセクション
:を備える、システム。」

である点で一致し、以下の各点で相違する。

(相違点1)
本願発明の「カタディオプトリックな対物レンズセクション」及び「カタディオプトリックな光学システム」が「高い開口数の」ものであるのに対し、引用発明の「カタジオプトリックな対物光学系」及び「放射エネルギシステム」は開口数の高さが不明である点。

(相違点2)
本願発明の「カタディオプトリックな光学システム」が「広いスペクトルの領域の」ものであるのに対し、引用発明の「放射エネルギシステム」は、そのような特定事項を有していない点。

(相違点3)
本願発明の「チューブレンズセクション」が「紫外の範囲における少なくとも一つの波長を含む複数の波長にわたって高次の横の色の収差を変化させることなくズームする又は倍率を変化させることができる遠紫外に透明な屈折の材料で作られた全て屈折のレンズ群を含む」ものであるのに対し、引用発明の「中継光学系54」は、そのような特定事項を有していない点。



5.当審の判断

5-1.相違点1について

光学系(カタディオプトリックな光学系を含む)において、一般に開口数を高くすると、光学系の明るさが増し、かつ、分解能が向上することは当然知られていることであるから、引用発明において、「カタジオプトリックな対物光学系」及び「放射エネルギシステム」を高い開口数のものとすることにより、上記相違点1に係る本願発明の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

5-2.相違点2について

本願の明細書の段落【0009】、【0022】及び【0024】の記載内容を参酌すると、本願発明において、「カタディオプトリックな光学システム」が「広いスペクトルの領域の」ものであるとは、光学系が広いスペクトル領域(波長範囲)に対応していることを意味すると認められる。
しかしながら、光学系一般(カタディオプトリックな光学系を含む)において、光学系を広いスペクトル領域(波長範囲)に対応したものとすることは、本願の優先日前に周知の技術思想である(例えば、特開平09-068646号(【0008】参照)、特開平07-128589号(【0038】参照))。
よって、引用発明において、「放射エネルギシステム」が広いスペクトル領域(波長範囲)に対応したものとすることにより、上記相違点2に係る本願発明の構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

5-3.相違点3について

記載事項cの記載内容から、引用例2には、
「リレーレンズ15を動かすことにより変倍を行うカメラ」
が記載されていると認められる。

また、ズームレンズ系一般において、ズーミングした際に高次の横の色の収差(高次の倍率色収差)の変動を抑えることは、本願の優先日前において周知の技術思想である(例えば、特開昭52-045940号(第2頁右上欄第2行乃至右下欄第7行参照))。なお、ズーミング中に収差を全く変化させない光学系を実現することは原理的に不可能であり、よって、本願発明の「複数の波長にわたって高次の横の色の収差を変化させることなくズームする又は倍率を変化させる」とは、“ズーミング若しくは変倍した際に高次の横の色の収差の変動を所定以内に抑える”ことを意味するものであると認められる。
さらに、紫外光(遠紫外を含む)に透明な硝材を用いて光学系を紫外の範囲で用いることは、本願の優先日前に周知の技術思想である(例えば、特開平09-090214号(【0001】乃至【0003】、【0007】参照))。

引用発明と引用例2に記載の発明とは、中継光学系(リレーレンズ)を備えた光学系である点で技術分野が共通するので、引用発明に、引用例2に記載の発明における“リレーレンズにより変倍を行う”構成を採用し、その際、ズーミングした際に高次の横の色の収差の変動を抑える技術思想、及び、光学系を紫外域で使用する場合に遠紫外に透明な硝材を用いて光学系を紫外の範囲で用いる技術思想を採用することにより、上記相違点4に係る本願発明の構成を得ることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。


なお、回答書において、「補正の機会」を求めているが、本件審判請求に際して本願発明は何ら補正されておらず、また補正案も提示されていないことから、補正の機会を与える必要性は認められない。



6.本願発明の効果について

本願発明による効果は、引用発明、引用例2に記載の発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものに過ぎない。


7.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-16 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-10-03 
出願番号 特願2008-212979(P2008-212979)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 勝久  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 吉川 陽吾
村田 尚英
発明の名称 広範囲ズーム機能を備えた超広帯域紫外顕微鏡映像システム  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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