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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N |
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管理番号 | 1252248 |
審判番号 | 不服2010-5347 |
総通号数 | 148 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-10 |
確定日 | 2012-02-15 |
事件の表示 | 特願2000-540269「T細胞刺激タンパク質断片の同定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年7月22日国際公開、WO99/36568、平成14年3月26日国内公表、特表2002-509241〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成11年1月15日(パリ条約による優先権主張 平成10年1月19日 平成10年7月28日 ドイツ)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし8に係る発明は、平成23年6月10日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「【請求項1】以下の工程 a)タンパク質またはペプチドである抗原のアミノ酸配列を確立する工程; b)検出された該抗原のアミノ酸配列をタンパク質断片群に細分化する工程; c)アミノ酸8?30個の長さを有する少なくとも1つのタンパク質断片を合成するか、あるいは該抗原のアミノ酸配列を、アミノ酸8?30個の長さを有する少なくとも1つのタンパク質断片に開裂させる工程、ここに該タンパク質断片は該抗原の確立されたアミノ酸配列のサブ配列である; d)種々の実験において、T細胞を含む懸濁液をタンパク質断片または断片群とインキュベートする工程; e)(i)タンパク質断片または断片群によって誘導され、T細胞内で合成されて細胞内に維持されているか、あるいは細胞膜に結合している、少なくとも1つのT細胞サイトカインを同定する工程;および/または、 (ii)タンパク質断片または断片群によって誘導されるか、あるいは発現を高められ、T細胞内で発現されるタンパク質断片または断片群によるT細胞刺激のために発現され、または発現を高められた、細胞内に存在するか、あるいは細胞表面に発現されている、少なくとも1つの活性化マーカーを同定する工程; ここに、該T細胞サイトカインまたはサイトカイン群または活性化マーカーはフローサイトメトリーによって同定される;および、 f)T細胞が刺激されており、その刺激が1つまたはそれ以上のT細胞サイトカインおよび/または1つまたはそれ以上の活性化マーカーを同定することによって認識された実験の結果を、T細胞とインキュベートされた該タンパク質断片のアミノ酸配列または配列群に割り当てる工程; を含むT細胞刺激タンパク質断片の同定方法であって、インキュベーション時間は充分に長く、その結果、タンパク質断片または断片群が細胞表面に存在するMHC分子により十分に捉えられ、上記捕捉は刺激されたT細胞の不明瞭でない同定が可能である場合に十分であること;および タンパク質断片または断片群と共にT細胞を含む懸濁液のインキュベーション時間は、充分に短く、その結果、選択および増殖が起こらない、ことに特徴がある方法。」(以下、「本願発明」という。) 2 引用刊行物とその記載事項 当審における拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物1ないし3には以下の事項がそれぞれ記載されている。以下、下線は当審で付加した。 (1)刊行物1:The Journal of Immunology,1997,Vol.159,P.1012-1018、日本語抄訳 「C型肝炎ウイルスコア-特異的末梢血T細胞におけるCD30発現とサイトカインのプロファイル」と題する論文であって (1a)「ペプチド ペプチドは・・・合成された。・・・HCV-1型から単離されたものに相当する、コア領域aa1-192にまたがる7つのペプチドがデザインされた。それらは、25アミノ酸であり、隣接した15アミノ酸で重複していた。我々は、aa1-25(コントロール)、aa20-44(C.T1)、aa79-103(C.T2)、aa118-142、aa128-152(C.T3)、aa148-172(C.T4)、aa168-192(コントロール)を試験した。」(第1013頁左欄下から19?7行) (1b)「細胞と細胞培養 PBMCは、フィコール(Biochrom.Berlin.Germany)密度勾配遠心により、新鮮ヘパリン血から単離された。未分画PBMCは、10%の自己ヒト血清、100U/mlペニシリン、100U/ml100u/mlストレプトマイシン(1×10^(6)/ml)を含有したRPMI 1640(Biochrom)中に再懸濁され、37℃5%CO_(2)で、96穴マイクロタイタープレート(Nunc.Wiesbaden.Germany)中で、合成HCVペプチドの存在下、40時間インキュベートされた(最終濃度10μg/ml)。採取の12時間前に、細胞内輸送体を阻害してシグナル/ノイズ比を増強するために、カルボキシル基を持つイオノフォアが添加され(3.75μM)」(第1013頁右欄13?23行) (1c)「サイトカインの細胞質内染色による3重染色フローサイトメトリ- 表面マーカーCD3とCD30は、直接免疫蛍光法で検出された。・・・サイトカインのための細胞質内染色は、間接免疫蛍光法で行われた。・・・概要は、培養細胞はHBSS・・・で2回洗浄され、表面マ-カーCD3とCD30に対する染色が行われた(20分間、4℃、暗中)。もう一度HBSSで洗浄後、フリーのIgG結合部位がヤギ抗マウスIgG抗体(最終濃度100μg/ml;20分間、4℃、暗中)で、インキュベートによりブロックされた。さらに一回洗浄後、4%PFA含有氷冷HBSS中で5分間固定され、再度洗浄された。細胞は0.1%サポニン(サポニン緩衝液)含有HBSS中に再懸濁され、サポニン緩衝液中で二回洗浄された。その後、サポニン緩衝液で希釈されたサイトカイン特異的抗体が、2.5?5μg/mlの濃度で添加され、30分間、室温、暗中でインキュベートされた。細胞はサポニン緩衝液中で二回洗浄され、引き続き、適切な第二抗体とともに30分間、室温、暗中でインキュベートされた。最後に細胞はHBSS中で洗浄された。 表面マーカーとサイトカインのフローサイトメトリック分析は、FACSortフローサイトメーター(Becton Dickinson)の3重染色免疫蛍光サイトメーターにより行われた。・・・全ての実験は3回ずつ行われ、非刺激のコントロールの少なくとも3倍のCD30^(+)及び/またはサイトカイン発現がT細胞にあった場合に有意な刺激と推定した。」(第1013頁右欄24?60行) (1d)「図1.HCVコアの主要抗原決定基により発現したD30。4つの主要な免疫増殖性T細胞エピトープに相当する合成した25アミノ酸残基のペプチド(10μg/ml)であるC.T1、C.T2、C.T3、C.T4、及び非増殖性コントロールペプチドCP1、CP2でPBMC(10^(6)/ml)を刺激した後のT細胞上に発現したCD30の比率が、棒グラフで示される。データは、HCVコア誘導体ペプチドによる刺激後、少なくとも3倍のCD30発現の患者のパーセンテージとして示されている。無発病で健康な、抗HCV血清反応陽性(グループA、暗い棒、n=10)と、慢性C型肝炎患者(グループB、ハッチング棒、n=15)の2グループの間の違いは、フィッシャーの直接確率検定により評価され、妥当で有意なレベルを示した。」(第1014頁FIGURE 1.の説明欄) (1e)「図3.CD30^(+)Tリンパ球によるIL-10とIFN-γの同時生産。この図は、慢性C型肝炎の番号7の患者において、C.T1ペプチドによるCD3^(+)/CD30^(+)Tリンパ球の刺激試験を示す。PBMC(10^(6)/ml)は、10μg/mlのペプチドC.T1(aa20-44)と共に40時間インキュベートされた。インキュベーション時間が終わる12時間前に、タンパク質分泌阻害剤であるモネシン(3.75μM)が添加された。細胞は、CD3、CD30の表面発現とサイトカインIFN-γ(カラムA)及びIL-10(カラムB)の細胞内の存在が同時に分析された。ゲートはCD3+細胞群にセットされ、10^(4)CD3^(+)リンパ球はCD30(x軸)の発現、細胞質内サイトトキシン(y軸)として分析された。象限の統計データーは、IFN-γ及びIL-10に対するIgG2aとIgG1アイソタイプコントロールに基づきセットされた。HCV特異的抗原なしで40時間インキュベーション後では、少量のCD30の発現が見られるが、細胞質内サイトカインの有意な量はみられなかった(メジウムコントロール)。対照的に、C.T1(aa20-40)とともにインキュベートした後では、CD3^(+)/CD30^(+)T生産IFN-γ及びIL-10がともに顕著な量が検出された。」(第1016頁FIGURE 3.の説明欄) (2)刊行物2:国際公開第97/45735号、対応日本語公報である特表2000-512008号公報による日本語抄訳 (2a)「1.抗原反応性T細胞を含む疑いのある生物学的試料中の該T細胞を検出するための方法であって、該方法は以下の工程: (a)該生物学的試料中の該T細胞を、T細胞増殖を可能にするのに十分な第1の期間、該抗原で刺激する工程; (b)該T細胞を、可溶性因子の分泌を誘導するのに有効な第2の期間、該抗原と抗原提示細胞との組合せの有効量で再刺激する工程; (c)固体支持体上で該可溶性因子を捕捉することにより該可溶性因子の存在を検出する工程;および (d)該固体支持体上での該可溶性因子の存在を、該抗原反応性T細胞の存在と関連付ける工程、 を包含する、方法。 2.工程(a)における前記期間が、少なくとも4日間である、請求項1に記載の方法。 ・・・ 10.前記可溶性因子が噛乳動物リンホカインであり、そしてこれがIFN-γ、TNF-α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-10、IL-13、TGF-β、またはGM-CSFである、請求項1に記載の方法。 ・・・ 16.前記抗原が、ヒトミエリン塩基性タンパク質またはそれらに由来するペプチドである、請求項1に記載の方法。 ・・・ 35.患者の生物学的試料においてT細胞を刺激する抗原を同定する方法であって、該方法が以下の工程: (a)該生物学的試料を、T細胞増殖を可能にするのに十分な期間、疑わしい抗原へ曝露する工程; (b)必要に応じて、単数または複数のサイトカインおよび/または増殖因子を添加して、継続したT細胞増殖を促進する工程; (c)該T細胞を、前記抗原と抗原提示細胞との組合せの有効量で、アッセイされる可溶性因子の分泌を誘導するのに有効な第2の期間、再刺激する工程; (d)固体支持体上で該可溶性因子を捕捉することにより、該可溶性因子の存在を検出する工程;および (e)アッセイされる該可溶性因子の存在を、該T細胞を刺激する該抗原の能力と関連付ける工程、 を包含する、方法。 ・・・ 38.疾患または症状に関連した免疫優性T細胞エピトープを同定するための方法であって、以下の工程: (a)第1の複数の個体由来のT細胞の抗原に対する反応性を決定する工程であって、ここで該個体が、該疾患または症状と診断される、工程; (b)第2の複数の個体由来のT細胞の抗原に対する反応性を決定する工程であって、ここで該個体が、該疾患または症状とは診断されない、工程; (c)該第1の複数の個体由来のT細胞の反応性を、該第2の複数の個体由来のT細胞の反応性と比較する工程;および (d)該第2の複数の個体と比較しての、第1の複数の個体における該抗原に対する反応性のレベルの増加を、該疾患または症状に関連するT細胞エピトープの該抗原の存在と関連付ける工程、 を包含し、ここで、工程(a)および(b)における該抗原に対する反応性を決定する工程は、請求項1に記載のアッセイを用いて行われる、方法。 ・・・ 41.前記抗原が、公知かまたは疑わしい自己抗原のペプチドフラグメントである、請求項38に記載の方法。」(第43?49頁請求項1、2、10、16、35、38、41) (2b)「本明細書中に開示される方法を用いて、稀なT細胞、特に、自己抗原に反応性のT細胞および10^(5)個のPBMCあたり1個のT細胞ほどの低頻度で生じるT細胞を検出し得る。本発明の関連する局面は、アッセイを確認するための内部コントロールとして、凍結されたT細胞を用いる。 以下の目的のための方法も提供される。 (1)患者の生物学的試料におけるT細胞を刺激する抗原の同定、 (2)自己抗原に反応性のT細胞を有する患者の同定、 (3)T細胞の枯渇または不応答を誘導し得る推定薬物のスクリーニング、 (4)抗原特異的クローンの作製における使用のための潜在的な血液ドナーのスクリーニング、 (5)T細胞エピトープの同定、 (6)免疫抑制の全身状態を誘導し得る薬物/処置の、安全性または効力についてのモニタリング、および (7)単数または複数の抗原に対する経時的な免疫応答のモニタリング。」(第3頁24行?第4頁6行) (2c)「 生物学的試料は、例えば、全血、血清、血漿、鼻分泌物、痰、尿、汗、唾液、経皮浸出液、咽頭浸出液、気管支肺胞洗浄液、気管吸引物、脳脊髄液、滑液、関節由来液、硝子体液、膣分泌物または尿道分泌物などの生物学的液体であり得るが、それらに限定されない。本明細書中において、例えば、毛髪、皮膚、滑膜組織、組織生検、および爪あかのような脱凝集した細胞性組織もまた、生物学的試料とみなされる。」(第7頁22?31行) (2d)「そのような状況では、重複ペプチドの完全なセットまたは関連したMHC II対立遺伝子に強く結合するこれらのペプチドのみのサブセットのいずれかを使用することによって、PBMCは自己抗原由来の種々のペプチドで刺激され得る。さらに、PBMCは、初回の刺激での自己抗原の全体で刺激され得、そして推定の自己抗原ペプチドで再刺激され得る。このようなペプチドは、その配列が既知であるかもしくはペプチドフラグメントが化学的消化または酵素的消化、当業者に公知のすべての方法によって自己抗原から調製され得る場合、固相ペプチド合成法によって調製され得る。」(第19頁32行?第20頁5行) (3)刊行物3:J.Clin.Invest.,Vol.99,No.7,1997,P.1739-1750、日本語抄訳 「抗原特異的記憶/エフェクターCD4+のT細胞のフローサイトメーターによる頻度の検出」と題する論文であって、 (3a)「高度に制御された、CD4+T細胞によるサイトカインの放出は、サイトメガロウイルスのような病原体に対する免疫防御において重大な役割を果たす。ここで、我々は、健常とHIV+の対象中のサイトメガロウイルス-特異的CD4+記憶/エフェクターT細胞の頻度と機能的特性を、短時間(6時間)のインビトロ刺激の後、細胞内サイトカインの速い蓄積を検出する、新規であり、効果の高い、多パラメータフローサイトメトリック分析により直接比較する。この分析の応答は、感応化履歴(例えば、血清反応性)の独立した測定と相関し、1つのエフェクターT細胞中の多数のサイトカインの同時評価を可能にする。健康なHIV-個体は、平均0.71,0.72,0.38,0.06%のCD4+T細胞でありサイトメガロウイルスに応答性でγ-IFN・・・産物を生産し、最も一般的なエフェクター表現型であるγ-IFN・・・の同時生産することが明らかにされた。」(第1739頁左欄2?19行) (3b)「HIV感染患者のCD4+T細胞は、AIDSの最初の記述以来、広範囲な実験的調査を受けてきたが、これらの大半の研究に採用された技術は、正確な、機能的に明確な、病原体特異的CD4+記憶/エフェクター細胞の定量的情報の提供の可能性において限界があった。特定の病原体または抗体(Ag)に応答性の記憶/エフェクターT細胞のクローンまたはクローン群は、CD4+T細胞系統の基礎的機能ユニットを構成し、HIV病の進行の間のこの「ユニット」の運命の決定は、HIVと免疫システムとの複雑な関係についてのまた、日和見感染の発生に関してのこの関係の因果関係についての新しい洞察を提供すると我々は感じた。 この目的のために、前例のない明確さをもって、これらの細胞を定量及び定性する、抗原特異的T細胞の評価に対する新しいやり方を進展させた。このやり方は、速い(6時間)手順、高い効率、分泌抑制CD4+(記憶/エフェクター)T細胞の抗原特異的活性化を含み、これらの抗原特異的T細胞の多パラメーター(4色)フローサイトメーターを用いた定性と定量、一つ以上の細胞内サイトカインと一つ以上の、サブセット決定表現型マーカーT細胞に関連して早期活性化抗体CD69の免疫蛍光検出が続く。」(第1739頁右欄24行?第1740頁左欄4行) (3c)「細胞調製および抗原刺激。HIV-またはHIV+の患者サンプルから得られた末梢血単核球(PBMC)は、フィコール-ハイパック(Histopaque; シグマ・ケミカル社、セントルイス,MO)またはCPT血液収集チューブ(ベクトン・ディキンソンVACUTAINERシステムズ、フランクリンレイクス、NJ)を使用してヘパリン処理された静脈血から、密度勾配分画により分離された。その後、細胞はHBSS(Gibco BRL、ゲーサーズバーグ、MD)中で二回洗浄され、インビトロの刺激、あるいは新鮮に分離された細胞の免疫蛍光染色のいずれかに適切なように(以下を参照)媒体中に再懸濁された。 抗原特異的サイトカイニン反応のために、1×10^(6)PBMCは、100U/mlペニシリン(Gibco BRL)、100mg/mlのストレプトマイシン(Gibco BRL)および2mML-グルタミン(Gibco BRL)、適切に希釈された抗原調製物、ほとんどの実例(以下を参照)、1μgの抗CD28モノクローナル抗体を懸濁した、10%熱不活化FCS(Hyclone,Logan,UT)PMI1640メディア2ml(Gibco BRL)を含んでいる、16×125mmのポリスチレン組織培養チューブ(コーニングCostar社,ケンブリッジ,MA)中に置かれた。培養試験管は、最後の5時間は最終濃度10μg/mlのブレフェルジンA(比較的無毒であるが有力な、生成されたサイトカインの分泌を防ぐ、細胞内輸送の抑制剤;10)含み、合計6時間、湿った5%CO^(2)雰囲気中で37℃、5度の傾斜でインキュベートされた。インキュベート後、細胞は冷たいd(Dulbecco's)PBSで一度洗うことにより採取され、0.02%のEDTAを含んでいるdPBSの中で再懸濁され、15minで37℃でインキュベートされ、次に、冷たいdPBSの中で再度洗浄された。その後、これらの細胞は37℃で5minでdPBS中の4%のパラホルムアルデヒドに固定化され、次に、1%のBSA含有の冷たいdPBSで再度洗浄され、冷凍媒体(1%のBSAを備えたdPBS中の10%のジメチルスルホキシド)中に5×10^(6)細胞/ml再懸濁された。最後に、細胞は、冷凍庫(Nalge社、Nalgene Labware Div.,ロチェスター,NY)中で、-70℃で2mlのポリプロピレンcryule vials(ホイートン社,ミルヴィル,NJ)に入れて冷凍された。」(第1740頁左欄20?49行) (3d)「免疫蛍光染色。上記のように凍結された細胞調整物は、急速に37℃の水浴中で溶かされ、次に、冷たいdPBSで洗浄され、暗中、室温で10^(6)個の細胞/500μlで、固定化/透過性上昇溶液(ベクトン・ディキンソンImmunocytometryシステム、サンホセ(CA))(BDIS)中に再懸濁され、10分間、室温、暗中でインキュベートされた。これらの細胞(あるいは細胞表面イムノフェノタイピング用の新鮮なPBMC)は、BSAとアジ化ナトリウム含有dPBSで2度洗われ、次に、30分間、氷上で光から保護され、直接結合したモノクローナル抗体と共にインキュベートされた。いくつかの実験(例えば、CO45RA又はCO45RO染色を含む実験)では、凍結ステップは省略された、採取したての細胞は、抗原による活性化の後に、最初に細胞表面染色され、固定化/透過性上昇/洗浄さら、次に、細胞質内の抗原に対して染色された。染色後、細胞は洗浄され、dPBSの中の1%のパラホルムアルデヒド中で再固定化され、次に、分析中、4℃で光から保護させられフローサイトメーターで分析された。」(第1740頁左欄50?64行) (3e)「CMV抗原;流行性耳下腺炎ウイルス抗原、麻疹ウイルス抗原、一致したコントロール抗原、これらのウィルスは、バイオウィッタカー(ウォーカーズヴィルとMD)から得た。」(第1740頁右欄41?44行) (3f)「最初に、この分析は、抗原応答性CD4+記憶/エフェクターT細胞を、それらの最も基本的な-本当に決定的な-機能、エフェクターサイトカインの合成(T細胞サイトカインのいかなる組合せも含む可能性がある)により、同定し定量し、そして、この分析は、活性化誘発アポトーシスの開始に大いに先んじた期間でなされる。この観点から、多くの記憶/エフェクターT細胞は、抗原に対してエフェクター応答(例えば、サイトカイン放出、CD8+細胞の場合、細胞毒性)という形で応答し、それから、増殖性の応答に先立つ活性化誘発アポトーシスにより死ぬ、ということが、今や十分に立証される(20,21)。したがって、インビトロのインキュベーションに拡張されることを要求される技術は(DNA鎖破壊により測定される活性化誘発アポトーシスは、少なくとも12-18時間で開始することができる;22)、全応答細胞を低く見積もるだろう。」(第1746頁右欄30?44行) (3g)「フローサイトメトリック分析の増加した感度は、以下の要因の組合せによる(a)・・・(d)比較的短時間(6時間)の刺激時間は、上記のとおり、活性化誘発アポトーシスの潜在的なネガティブな効果を軽減する。」(第1747頁左欄3?16行) 3 対比・判断 刊行物1の記載事項(特に上記(1a)(1b)(1c)(1e))から、刊行物1には、 「HCV-1型コア領域のaa1-192にまたがる25アミノ酸からなるペプチドであって、隣接した15アミノ酸が重複した、aa1-25(コントロール)、aa20-44(C.T1)、aa79-103(C.T2)、aa128-152(C.T3)、aa148-172(C.T4)、aa168-192(コントロール)の6つの合成HCVペプチドの存在下に、PBMC懸濁液を40時間インキュベートし、Tリンパ球の細胞表面に発現した表面マーカーCD3とCD30、及びCD3、CD30発現T細胞が生産するサイトカインであるIFN-γ及びIL-10を3重染色免疫蛍光サイトメーターを用いてフローサイトメトリー分析し、各合成HCVペプチの刺激により、非刺激のコントロールの少なくとも3倍の表面マーカー及び/またはサイトカイン発現がT細胞にあった場合に有意な刺激と推定する、各合成HCVペプチドが、T細胞を刺激する程度を調べる方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。 (ア)刊行物1発明の「PBMC」は、「末梢血単核細胞」の略称であり、本願発明の「T細胞」を含んでいることは技術常識であるから、刊行物1発明の「PBMC懸濁液」は、本願補正発明の「T細胞を含む懸濁液」に相当する。 (イ)刊行物1発明の「HCV-1型コア領域のaa1-192にまたがる25アミン酸からなるペプチドであって、隣接した15アミノ酸が重複した、aa1-25(コントロール)、aa20-44(C.T1)、aa79-103(C.T2)、aa128-152(C.T3)、aa148-172(C.T4)、aa168-192(コントロール)の6つの合成ペプチド」は、アミノ酸配列が確立されいることは合成ペプチドであることからも明らかであり、それぞれ25個のアミン酸からなるサブ配列である6つの合成ペプチド群であるから、本願発明の「a)タンパク質またはペプチドである抗原のアミノ酸配列を確立する工程;b)検出された該抗原のアミノ酸配列をタンパク質断片群に細分化する工程;c)アミノ酸8?30個の長さを有する少なくとも1つのタンパク質断片を合成するか、あるいは該抗原のアミノ酸配列を、アミノ酸8?30個の長さを有する少なくとも1つのタンパク質断片に開裂させる工程、ここに該タンパク質断片は該抗原の確立されたアミノ酸配列のサブ配列である」で調製されたタンパク質断片群に相当する。 (ウ)刊行物1発明の「T細胞の細胞表面に発現した表面マーカーCD3とCD30」及び「CD3、CD30発現細胞が生産するサイトカインであるIFN-γ及びIL-10」は、それぞれ本願発明の「タンパク質断片または断片群によって誘導されるか、あるいは発現を高められ、T細胞内で発現されるタンパク質断片または断片群によるT細胞刺激のために発現され、または発現を高められた、細胞内に存在するか、あるいは細胞表面に発現されている、少なくとも1つの活性化マーカー」及び「タンパク質断片または断片群によって誘導され、T細胞内で合成されて細胞内に維持されているか、あるいは細胞膜に結合している、少なくとも1つのT細胞サイトカイン」に相当する。 (エ)刊行物1発明の「表面マーカーCD3とCD30」及び「サイトカインであるIFN-γ及びIL-10」を「3重染色免疫蛍光サイトメーターを用いてフローサイトメトリー分析する」ことは、各表面マーカー及びサイトカインは、それぞれ異なった蛍光染料で区別して染め分けられ、フローサイトメーターで区別して同定されることは、フロ-サイトメトリー分析の技術常識であるから、本願発明の「T細胞サイトカインまたはサイトカイン群または活性化マーカーはフローサイトメトリーによって同定される」ことに相当する。 (オ)刊行物1発明の、「各合成HCVペプチの刺激により、非刺激のコントロールの少なくとも3倍の表面マーカー及び/またはサイトカイン発現がT細胞にあった場合に有意な刺激と推定する」ことは、有意な刺激と推定する際に、各合成HCVペプチドの刺激を、それにより発現する表面マーカー及び/またはサイトカインを同定することにより認識し、当該ペプチドの刺激性と同定した表面マーカーとを対応付けしているといえるから、本願発明の「T細胞が刺激されており、その刺激が1つまたはそれ以上のT細胞サイトカインおよび/または1つまたはそれ以上の活性化マーカーを同定することによって認識された実験の結果を、T細胞とインキュベートされた該タンパク質断片のアミノ酸配列または配列群に割り当てる工程」に相当する。 (カ)刊行物1発明の「各合成HCVペプチドが、T細胞を刺激する程度を調べる方法」と、本願発明「T細胞刺激タンパク質断片の同定方法」とは、T細胞刺激タンパク質断片の分析方法である点で共通する。 (キ)刊行物1発明の「6つの合成HCVペプチドの存在下に、PBMCの懸濁液を40時間インキュベート」することは、刊行物1発明が、T細胞の細胞表面に表面マーカーCD3、CD30が発現し、CD3、CD30発現Tリンパ球がサイトカインであるIFN-γ及びIL-10を発現する程度を調べることからみて、これらの発現に充分な時間のインキュベートであることは明らかである。そして、T細胞がこのような発現をするに先立ち、末梢血単核細胞の一種であり、PBMCの懸濁液中に含有されていることが明らかである単球表面のMHC分子が、抗原であるペプチドをT細胞に提示することは、本願優先日前のこの分野における技術常識である(例えば、Cell,Vol.76,1994,p.287-299)。 そうすると、刊行物1発明の「6つの合成HCVペプチドの存在下に、PBMCの懸濁液を40時間インキュベート」することと、本願発明の「インキュベーション時間は充分に長く、その結果、タンパク質断片または断片群が細胞表面に存在するMHC分子により十分に捉えられ、上記捕捉は刺激されたT細胞の不明瞭でない同定が可能である場合に十分であること;およびタンパク質断片または断片群と共にT細胞を含む懸濁液のインキュベーション時間は、充分に短く、その結果、選択および増殖が起こらない、こと」とは、インキュベーション時間は充分に長く、その結果、タンパク質断片または断片群が細胞表面に存在するMHC分子により十分に捉えられ、上記捕捉は刺激されたT細胞の不明瞭でない同定が可能である場合に十分であるインキュベーションである点で共通する。 したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。 (一致点) 以下の工程 a)タンパク質またはペプチドである抗原のアミノ酸配列を確立する工程; b)検出された該抗原のアミノ酸配列をタンパク質断片群に細分化する工程; c)アミノ酸8?30個の長さを有する少なくとも1つのタンパク質断片を合成するか、あるいは該抗原のアミノ酸配列を、アミノ酸8?30個の長さを有する少なくとも1つのタンパク質断片に開裂させる工程、ここに該タンパク質断片は該抗原の確立されたアミノ酸配列のサブ配列である; d)種々の実験において、T細胞を含む懸濁液をタンパク質断片または断片群とインキュベートする工程; e)(i)タンパク質断片または断片群によって誘導され、T細胞内で合成されて細胞内に維持されているか、あるいは細胞膜に結合している、少なくとも1つのT細胞サイトカインを同定する工程;および/または、 (ii)タンパク質断片または断片群によって誘導されるか、あるいは発現を高められ、T細胞内で発現されるタンパク質断片または断片群によるT細胞刺激のために発現され、または発現を高められた、細胞内に存在するか、あるいは細胞表面に発現されている、少なくとも1つの活性化マーカーを同定する工程; ここに、該T細胞サイトカインまたはサイトカイン群または活性化マーカーはフローサイトメトリーによって同定される;および、 f)T細胞が刺激されており、その刺激が1つまたはそれ以上のT細胞サイトカインおよび/または1つまたはそれ以上の活性化マーカーを同定することによって認識された実験の結果を、T細胞とインキュベートされた該タンパク質断片のアミノ酸配列または配列群に割り当てる工程; を含むT細胞刺激タンパク質断片の分析方法であって、インキュベーション時間は充分に長く、その結果、タンパク質断片または断片群が細胞表面に存在するMHC分子により十分に捉えられ、上記捕捉は刺激されたT細胞の不明瞭でない同定が可能である場合に十分である方法である点。 (相違点1) T細胞刺激タンパク質断片の分析方法が、本願発明では、T細胞刺激タンパク質断片の同定方法であるのに対して、刊行物1発明では、6つの合成HCVペプチドのうち、非刺激のコントロールの少なくとも3倍の表面マーカー及び/またはサイトカイン発現がT細胞にあった場合に有意な刺激と推定する、各合成HCVペプチドが、T細胞を刺激する程度を調べる方法である点。 (相違点2) 充分に長いインキュベーション時間が、本願発明では、充分に短く、その結果、選択および増殖が起こらないものであるのに対して、刊行物1発明では、40時間である点。 そこで、上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 刊行物2(上記(2a)(2b)(2d))には、アミノ酸配列が既知のペプチド抗原でT細胞を刺激し、発現したインターフェロン等の可溶性因子を検出してT細胞を刺激する抗原を同定する方法及び抗原のT細胞エピトープを同定する方法が記載されている。さらに、特開平6-199894号公報(【0006】、【0008】、【0016】)、特開平5-213995号公報(第3頁左欄18?28行)、特開平8-333391号公報(【0030】、【0032】)にも記載されるように、ペプチドをワクチン等に利用するために、アミノ酸配列が既知のペプチドでT細胞を刺激して、刺激性を同定、つまりT細胞刺激蛋白質断片の同定をすることは、例えば、特開平6-199894号公報(【0008】、実施例)、特開平5-213995号公報(実施例)、特開平8-333391号公報(【0030】)にも記載されるように、本願優先日前の周知技術である。 そして、刊行物1発明は、各合成HCVペプチの刺激により、非刺激のコントロールの少なくとも3倍の表面マーカー及び/またはサイトカイン発現がT細胞にあった場合に有意な刺激と推定することからみて、合成ペプチドのT細胞に対する刺激性を評価しているといえるから、上記周知技術を知っている当業者であれば、刊行物1発明において、T細胞を刺激するかどうか不明で、アミノ酸配列が既知のペプチド用いて、その刺激性を同定することは容易になし得たことといえる。 (相違点2について) 本願明細書中で従来技術として引用されている刊行物である、刊行物3には、PBMCとCMV抗原等の抗原とを、合計6時間インキュベートし、その後、表面マーカーや細胞内サイトカインを免疫染色して、フローサイトメーターで分析することが記載されている(上記(3c))。さらに、T細胞を6時間という短い刺激時間で抗原による刺激を行うことで、増殖性の応答に先立つ活性化誘発アポトーシスによりT細胞が死ぬという、活性化誘発アポトーシスの潜在的なネガティブな効果を軽減することが記載されており(上記(3f)(3g))、刺激時間を6時間と、充分に短くすることで、刺激されたT細胞の死と死に先立つ増殖を軽減できることが示されているといえる。さらに、分析時間を短縮することは一般に求められるところであり、細胞のインキュベーション時間を、表面マーカーやサイトカインが測定に充分な量発現する範囲内できるだけ短くして、分析効率を上げることは考慮されるべきであることも考え合わせると、刊行物1発明において、40時間のインキュベーション時間を、刊行物3に記載されるように、選択および増殖が起こらない充分に短い時間とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。 (本願発明の効果について) そして、本願発明の効果は刊行物1ないし3の記載事項、及び周知技術から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。 4 むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-08-30 |
結審通知日 | 2011-09-06 |
審決日 | 2011-09-30 |
出願番号 | 特願2000-540269(P2000-540269) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山村 祥子 |
特許庁審判長 |
秋月 美紀子 |
特許庁審判官 |
杉江 渉 郡山 順 |
発明の名称 | T細胞刺激タンパク質断片の同定方法 |
代理人 | 釜平 双美 |
代理人 | 田村 恭生 |
代理人 | 山中 伸一郎 |
代理人 | 品川 永敏 |
代理人 | 森本 靖 |
代理人 | 鮫島 睦 |