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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1252308
審判番号 無効2011-800070  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-04-25 
確定日 2012-02-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第4368867号発明「スロットマシン」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許の経緯概要は以下のとおりである。

平成18年 4月 7日 本件特許出願(特願2006-106969号)
平成21年 9月 4日 設定登録(特許第4368867号)

平成23年 4月25日 無効審判請求
平成23年 7月22日 答弁書(被請求人)
平成23年 9月29日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成23年10月 3日差出 口頭審理陳述要領書(請求人)(書面には9 月29日の日付)
平成23年10月13日 口頭審理
平成23年11月14日 上申書(請求人)

第2.本件特許発明
本件特許発明は,特許請求の範囲,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのもの(以下,「本件特許発明1」,「本件特許発明2」,「本件特許発明3」及び「本件特許発明4」という。)と認める。なお,以下において,(A)?(N),(N1)?(N3),(Q)?(U)は,審判請求書において請求人が特許請求の範囲の記載事項に対して付した符号に準じて,整理のために付したものである。
「【請求項1】
(A)遊技用価値を用いて1ゲームに対して所定数の賭数を設定することによりゲームを開始させることが可能となり,複数種類の識別情報を変動表示させる可変表示装置に表示結果が導出されることにより1ゲームが終了し,該可変表示装置に導出された表示結果に応じて入賞が発生可能であるスロットマシンにおいて,
(B)ゲーム毎に前記可変表示装置の表示結果が導出されるより前に,入賞表示結果の導出を許容するか否かを決定する事前決定手段と,
(C)前記事前決定手段の決定結果に応じて,前記入賞表示結果を含む複数種類の表示結果の中からいずれかの表示結果を前記可変表示装置の表示結果として導出させる導出制御手段と,
(D)複数の遊技状態の間で遊技状態を制御する遊技状態制御手段と,
(E)所定の設定操作手段の操作に基づいて,前記事前決定手段により入賞表示結果の導出を許容する旨が決定される確率を設定値毎に異ならせる複数種類の設定値のうちから,いずれかの設定値を選択して設定する設定値設定手段と,
(F)前記設定値設定手段により設定された設定値を示す設定値データを含むゲームの進行を制御するためのデータを読み出し及び書き込み可能に記憶するデータ記憶手段と,
(G)前記スロットマシンへの電源供給が遮断しても前記データ記憶手段に記憶されている前記ゲームの進行を制御するためのデータを保持する保持手段と,
(H)前記スロットマシンの電源投入時に,前記ゲームの進行を制御するためのデータのうちの前記設定値データが適正か否かの判定を個別に行わず,前記保持手段により保持されている前記ゲームの進行を制御するためのデータが電源遮断前のデータと一致するか否かの判定を行う記憶データ判定手段と,
(I)前記記憶データ判定手段により前記保持手段により保持されている前記ゲームの進行を制御するためのデータが前記電源遮断前のデータと一致しないと判定されたときに,ゲームの進行を不能化する第1の不能化手段と,
(J)ゲームの開始操作がなされる毎に,前記データ記憶手段から前記設定値データを読み出し,該読み出した設定値データが示す設定値が前記設定値設定手段により設定可能な設定値の範囲内である場合に前記読み出した設定値データが適正であると判定し,前記設定可能な設定値の範囲内でない場合に前記読み出した設定値データが適正ではないと判定する設定値判定手段と,
(K)前記設定値判定手段により前記読み出した設定値データが適正ではないと判定されたときに,ゲームの進行を不能化する第2の不能化手段と,
(L)前記第1の不能化手段により前記ゲームの進行が不能化された状態においても前記第2の不能化手段により前記ゲームの進行が不能化された状態においても,前記設定操作手段の操作に基づいて前記設定値設定手段により前記設定値が新たに設定されたことを条件に,前記ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能とする不能化解除手段とを備え,
(M)前記事前決定手段は,前記設定値判定手段により前記読み出した設定値データが適正であると判定したときに,該読み出した設定値データが示す設定値に応じた確率で当該ゲームにおいて入賞表示結果を導出させることを許容するか否かを決定し,
(N)前記遊技状態制御手段は,
(N1)予め定められた初期化条件が成立したときに,初期遊技状態に遊技状態を制御する初期遊技状態制御手段と,
(N2)前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,遊技状態毎に滞在するゲーム数について確率的に求められる滞在ゲーム数の期待値が前記初期遊技状態の滞在ゲーム数の期待値よりも大きい通常遊技状態に遊技状態を制御する通常遊技状態制御手段と,
(N3)前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた有利表示結果が導出されたときに,前記通常遊技状態よりも遊技者にとって有利な有利状態に遊技状態を制御する有利状態制御手段とを含む
ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項2】
(Q)前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときに,該初期遊技状態に制御されている旨を報知する初期遊技状態報知手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載のスロットマシン。
【請求項3】
(R)前記遊技状態制御手段は,前記可変表示装置の表示結果として予め定められた特別表示結果が導出されたときに前記有利状態とは異なる遊技者にとって有利な遊技状態である特別遊技状態に遊技状態を制御し,所定の特別終了条件が成立したときに該特別遊技状態を終了させる特別遊技状態制御手段をさらに含み,
(S)前記初期遊技状態制御手段は,前記初期化条件として前記特別遊技状態が終了したときに,前記初期遊技状態に遊技状態を制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のスロットマシン。
【請求項4】
(T)前記特別遊技状態制御手段は,前記特別表示結果のうちの第1の特別表示結果が導出されたときに前記特別遊技状態のうちの第1の特別遊技状態に遊技状態を制御する第1特別遊技状態制御手段と,該第1の特別表示結果とは異なる特別表示結果である第2の特別表示結果が導出されたときに該第1特別遊技状態とは遊技者にとっての有利度が異なる特別遊技状態である第2の特別遊技状態に遊技状態を制御する第2特別遊技状態制御手段とを
含み,
(U)前記初期遊技状態制御手段は,前記初期化条件として前記第1特別遊技状態が終了したときに前記初期遊技状態のうちの第1初期遊技状態に遊技状態を制御し,前記初期化条件として前記第2特別遊技状態が終了したときに前記導出制御手段が前記通常表示結果を導出させる確率に対する前記有利表示結果を導出させる確率の割合が該第1初期遊技状態よりも高い初期遊技状態である第2初期遊技状態に遊技状態を制御する
ことを特徴とする請求項3に記載のスロットマシン。」

第3.本件審判事件にかかる両当事者の主張
1.請求人の主張
(1)請求人は,平成23年4月25日付けの審判請求書において,「特許第4368867号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め(請求の趣旨),以下の理由により,本件特許発明1?4は,特許を受けることができないものであるから,特許法123条1項2号の規定により無効にされるべきである旨主張(28頁)し,証拠方法として甲第1?7号証,周知慣用文献を提出した。
・本件特許発明1は,甲第1号証?甲第4号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によって特許受けることができないものである。
・本件特許発明2は,甲第1号証?甲第4号証,甲第5号証,甲第7号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によって特許受けることができないものである。
・本件特許発明3は,甲第1号証?甲第4号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によって特許受けることができないものである。
・本件特許発明4は,甲第1号証?甲第6号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によって特許受けることができないものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2004-187812号公報
甲第2号証:特許第3750947号公報
甲第3号証:特開2005-304842号公報
甲第4号証:特開2005-143931号公報
甲第5号証:パチスロ必勝ガイド 2006年3月号(2006年3月1日 発行)
甲第6号証:パチスロ攻略マガジン ドラゴン龍 2006年3月号(20 06年2月21日発行)
甲第7号証:パチスロ必勝ガイドMAX 1月号増刊 別冊パチスロ必勝ガ イドVOL.5(2006年1月1日発行)
周知慣用文献:特開2000-317043号公報

(2)請求人は,平成23年10月3日差出の口頭審理陳述要領書において,平成23年7月22日付け答弁書に反論等を行うとともに,文献1,参考周知文献1?参考周知文献4を提出している。
特に,相違点c(構成N(N1?N3))について甲第3,4号証を挙げて主張した(25?30頁)後,「さらに,上記相違点cが単なる周知技術であることについて,下記の参考周知文献4を挙げて,追加的にご説明します。」(30頁22?23行)とした上で,「以上のように,参考周知文献4には,本件特許請求項1の構成N1からN3までの全てが記載されており,本件特許請求項1の構成N(N1?N3)が全体として周知技術であることを示す文献であります。」(35頁1?3行)と主張している。
(証拠方法)
文献1:特開2000-317043号公報(上記周知慣用文献と同じ)
参考周知文献1:特開2003-159462号公報
参考周知文献2:特開2005-143550号公報
参考周知文献3:特開2001-87459号公報
参考周知文献4:必勝パチスロファン 2006年5月号

(3)請求人は,平成23年11月14日付け上申書において,参考補足文献を提出するとともに,平成23年10月13日に実施された口頭審理を踏まえ,以下の点を含む主張をしている。
・滞在ゲーム数に関しては,各甲号証には直接的な記載はないものの,スロットマシンの一般的な仕組みを考慮すると,甲第4号証には,その内容を含んだ技術が記載されている。(2頁17行?4頁4行)
・参考補足文献の記載によれば,参考周知文献4は,国会図書館の受入日と同じ日である2006年3月29日には全国の書店において販売されたことがわかり,本件特許の出願日には周知となっていた。(4頁5行?5頁4行)
・参考周知文献4は,周知技術であることを示すための参考文献に過ぎず,請求理由の要旨の変更には該当しない。(7頁1?8行)
(証拠方法)
参考補足文献:必勝パチスロファン 2006年4月号

2.被請求人の主張
被請求人は,平成23年7月22日付けで答弁書を提出し,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め」(答弁の趣旨),本件特許発明1?4について,無効理由は理由がない旨,主張している。
さらに,平成23年9月29日付け口頭審理陳述要領書において,請求人の主張している無効理由は理由がない旨,主張している。

3.口頭審理調書
平成23年10月23日に実施された口頭審理の調書には,「陳述の要領」として以下の点が記載されている。
(請求人)
1 本件請求項1に係る発明の構成(E)は,甲第1号証に記載されている。
2 甲第1号証に記載の発明は,「電源投入時」かつ「ゲーム毎」に判定を行っている。
3 甲第4号証において初期遊技状態に相当するのは,第2RT遊技状態である。
4 滞在ゲーム数については,甲第3号証ないし甲第7号証には,記載されていない。
5 参考周知文献4に記載された技術事項は,周知である。
6 請求人の口頭審理陳述要領書30頁下から8行ないし35頁末行の主張は,請求の理由の要旨を変更する補正ではない。
(被請求人)
1 本件請求項1に係る発明の構成(E)は,甲第1号証に記載されている。
2 甲第1号証に記載の発明は,「電源投入時」かつ「ゲーム毎」に判定を行っている。
3 設定値データが適正か否かを個別に行わず,データが電源遮断前のデータと一致するか否かの判定を行う事は,周知技術と認める。
4 本件請求項1に係る発明の構成(A)?(M)は,甲第1号証ないし甲第7号証に記載されているか,又は周知技術である。ただし,周知技術を甲第1号証の発明に適用するには,阻害要因があり,動機付けがない。
5 請求人の主張した「参考周知文献4に記載された技術事項は,周知である。」旨の主張は,争う。
6 請求人の主張した「口頭審理陳述要領書を30頁下から8行ないし35頁末行の主張は請求の理由の要旨を変更する補正ではない。」旨の主張は,請求の理由の要旨を変更する補正であり,仮に審判請求書に記載しなかったことに合理的な理由があるとしても,同意しない。

4.参考周知文献4に関する主張の検討
上述のとおり,請求人は平成23年10月3日差出の口頭審理陳述要領書において参考周知文献4(必勝パチスロファン 2006年5月号)を提出し,周知技術に関する主張を行っているので,検討する。

(1)参考周知文献4について
参考周知文献4(必勝パチスロファン 2006年5月号)には以下の記載がある。
A.26頁下部には,「本機最大の特徴は,30G間継続するリプレイタイム(RT)の連チャンだ。ボーナス終了後,チェリーを引く前にベルを引けばRTに突入。このRT終了後もボーナス後と同じ状態となるので,タイミング良くベルを引き続けられれば,1日中RTということもあり得るのだ。(中略)ただ,このRT機能。一番役に立つのが開店時。設定変更時もボーナス後と同様の処理をされるので,朝イチからRTに突入するチャンスあり。しかも,これを利用すれば設定変更を推測することも可能だぞ!」
B.27頁左上の「予想システムはこうなる!」の下部に次の流れ図が図示されている。

設定変更後・ボーナス終了後

RT突入抽選状態に移行
↓ ↓
ベル揃いで チェリー揃いで
30GのRTへ 通常状態へ
リプレイ確率は リプレイ確率は
1/1.38にUP 1/7.30
↓ ↓
規定ゲーム数終了orボーナス成立

最初に戻る

C.上記流れ図の下部には,「厳密に考えるならばチェリー後の通常時もRT/予想の域を出ないが,チェリー後の通常状態も実はRT。ただしほぼリプレイ確率が変わらないので,わからないだけだ。なので厳密にいえば本機の通常時はRT突入抽選状態のみとなる。」と記載されている。(なお,「/」は原文における改行箇所である。以下においても同じ。)
D.上記Cの記載の左には,「設定変更後は喫茶店ステージから始まるが,内部的にはRT突入抽選状態となっている。」と記載されている。
E.27頁右上には,「喫茶店ステージ/(通常状態)」,「バトルチャンス(BC)/(30GのRT)」と記載されている。
F.上記Eの記載の下部には,「ボーナス後&バトルチャンス後の廃工場ステージはRT突入抽選状態/バトルチャンス終了後もボーナス後と同じ状態なので,ここでベルを引けば再びバトルチャンスに突入。ボーナスとバトルチャンスが連打すればオイシイぞ!」及び「通常時に突如移行した廃工場ステージは期待薄/稀に通常時から廃工場ステージに移行することもあるが,ここでベルを引いても大抵はバトルチャンスに移行せず。/ただし通常時からいきなりBCに突入することも!?/チェリーで始まる通常状態に天井があれば(未確認),通常時でもRT突入抽選を受けられるハズ。」と記載されている。
G.27頁中央の「通常時小役出現確率(実績値)」の下部に,「ベル 9枚 1/13.29/チェリー 15枚 1/30.48/(中略)/リプレイ 1/7.42」と記載されている。

上記記載事項を総合すると,「30GのRT」は,コインが減少することなくボーナス抽選をすることができるから,遊技者にとって有利な状態であることは自明である。
そして,ボーナス終了後に「RT突入抽選状態」になり,その状態でベルが揃うと「30GのRT」となるが,26頁上部の「設定5&6/実践データ」によると,BIG,CB終了後にRTになるまでのゲーム数は,5G,4G,7G,3G・・・となっており,最大でも27Gとなっている。そうすると,「RT突入抽選状態」に滞在するゲーム数の期待値は,数ゲーム,多くとも数十ゲーム程度のものと認められる。
一方,「通常状態」はボーナス成立によって終了するが,設定1のBB確率は1/321.3,CB確率は1/431.2であり,ボーナスの成立によって「通常状態」が終了するまでの滞在ゲーム数は期待値としては数百ゲーム程度と認められる。また,「チェリーで始まる通常状態に天井があれば(未確認),通常時でもRT突入抽選を受けられるハズ。」との記載によれば,「通常状態」の終了条件として,ボーナスの成立に加えて所定ゲーム回数の消化も考え得るが,その終了回数は明記されていない。しかしパチスロ機において用いられる「天井」は少なくとも数百ゲーム以上で設けられるという常識を踏まえると,上記「天井があれば(未確認)」の記載を参酌して「通常状態」が特定の回数で終了するものとしてもその回数は数百ゲーム程度の大きなものと解するのが自然である。
したがって,「通常状態」の滞在ゲーム数の期待値は「RT突入抽選状態」の滞在ゲーム数の期待値より大きいものと認められる。
以上により,上記記載事項及びスロットマシンに関する技術常識によれば,参考周知文献4には,
「設定変更後,ボーナス終了後に,RT突入抽選状態に遊技状態を制御する手段と,
RT突入抽選状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果としてチェリーが揃ったときに,滞在ゲーム数の期待値がRT突入抽選状態の滞在ゲーム数の期待値より大きい通常状態に遊技状態を制御する制御手段と,
RT突入抽選状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果としてベルが揃ったときに,通常状態よりも遊技者にとって有利な30GのRTに遊技状態を制御する制御手段とを具備するスロットマシン。」という技術事項Aが記載されている。
ここで,参考周知文献4の「RT突入抽選状態」は本件特許発明1の「初期遊技状態」に,以下同様に,「通常状態」は「通常遊技状態」に,「30GのRT」は「有利状態」に,「チェリー揃い」は「通常表示結果」に,「ベル揃い」は「有利表示結果」に相当することは明らかであるから,技術事項Aは本件特許発明1の構成(N)に相当する。

(2)請求人の主張
(2-1)平成23年10月3日差出の口頭審理陳述要領書(以下,「要領書」という。)における主張
被請求人が,本件特許発明1と甲1発明との相違点の一つとして,
「相違点c:本件特許発明1は,「前記遊技状態制御手段が,予め定められた初期化条件が成立したときに,初期遊技状態に遊技状態を制御する初期遊技状態制御手段と,前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,遊技状態毎に滞在するゲーム数について確率的に求められる滞在ゲーム数の期待値が前記初期遊技状態の滞在ゲーム数の期待値よりも大きい通常遊技状態に遊技状態を制御する通常遊技状態制御手段と,前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた有利表示結果が導出されたときに,前記通常遊技状態よりも遊技者にとって有利な有利状態に遊技状態を制御する有利状態制御手段とを含む(N:N1?N3)」のに対し,甲1発明は,そのような構成を備えていない点」(答弁書12頁23行?13頁4行)
を挙げて,反論したのに対し,
請求人は,要領書25頁24行?30頁21行において,相違点cに対応する構成が甲第3号証,甲第4号証に記載されている旨の主張を行っている。
その後,請求人は,要領書30頁22?23行において「さらに,上記相違点cが単なる周知技術であることについて,下記参考周知文献4を挙げて,追加的にご説明します。」とした上で,
「以上のように,参考周知文献4には,(構成N1)の「予め定められた初期化条件が成立したときに,初期遊技状態に遊技状態を制御する初期遊技状態制御手段と,」が記載されております。」(要領書31頁23?25行),
「従いまして,参考周知文献4には,(構成N2)の「前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,遊技状態毎に滞在するゲーム数について確率的に求められる滞在ゲーム数の期待値が前記初期遊技状態の滞在ゲーム数の期待値よりも大きい通常遊技状態に遊技状態を制御する通常遊技状態制御手段」が記載されております。」(要領書33頁23?28行),
「従いまして,参考周知文献4には,(構成N3)の「前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた有利表示結果が導出されたときに,前記通常遊技状態よりも遊技者にとって有利な有利状態に遊技状態を制御する有利状態制御手段とを含む」点が記載されております。」(要領書34頁25?29行)とし,
「以上のように,参考周知文献4には,本件特許請求項1の構成N1からN3までの全てが記載されており,本件特許請求項1の構成N(N1?N3)が,全体として周知技術であることを示す文献であります。」(要領書35頁1?3行)と結んでいる。
したがって,これらの記載における請求人の主張は,相違点cである構成(N)(特に注記しない限り,NはN1?N3を含むものとする。)は,参考周知文献4に示される如く周知技術であるというものである。

(2-2)平成23年11月14日付け上申書における主張
上申書7頁1?8行には「以上の主張に沿って,何らかの特定図柄が停止することを契機として,ある遊技状態に制御される,例えば,発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行するように変更する程度のことは,スロットマシンの分野において,当業者が適宜設計・変更できる設計事項に過ぎないものであることを示すための技術的環境を示す周知技術例として,参考周知文献4を提示しております。/以上のように,参考周知文献4は,本件特許請求項1の構成要件(N)が単なる周知技術であることを示すための参考文献に過ぎませんので,請求理由の要旨変更には該当しません。」と記載されており,参考周知文献4は本件特許請求項1の構成(N)が単なる周知技術であることを示すためのものであって,その周知技術は,発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行するように変更する程度のことは当業者が適宜設計・変更できる設計事項に過ぎないものであることを示すための技術的環境を示すものであることを主張している。
また,上申書8頁5?21行には「上記,審判便覧の記載を参照しますと,審判請求書の第50頁17行から27行における,以下の主張,すなわち,/『この点について,甲第4号証には,審査官も拒絶理由通知(平成21年3月24日付け)で指摘しているように,「・・・ここで,特別遊技状態の種類により特別遊技状態終了後の遊技状態を変えること,遊技状態に応じて所定の表示結果の導出確率を異ならせること,及び,遊技状態の報知を行うことは,慣用されている技術である。そして,遊技状態の移行をどのような条件とするかは,適宜設計し得る事項である。 」との見解を示しているが,請求人もこの見解の通りであると考える。』(上記のうち,特に,下線部の主張は,拒絶理由を通知された審査官殿の見解と同じ見解として請求人の主張を述べたものであります。)との主張を,参考周知文献4の提示により裏付けることは,許容されるべきであります。」と記載されており,遊技状態の移行をどのような条件とするかは,適宜設計し得る事項であるとの主張を,参考周知文献4の提示により裏付けるものである,としている。

(3)「周知技術」についての検討
請求人は,「参考周知文献4は,本件特許請求項1の構成要件(N)が単なる周知技術であることを示すための参考文献」(上申書7頁6?8行)等と主張しているので,構成(N)が周知技術であるか検討する。
構成(N),すなわち,
「(N)前記遊技状態制御手段は,
(N1)予め定められた初期化条件が成立したときに,初期遊技状態に遊技状態を制御する初期遊技状態制御手段と,
(N2)前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,遊技状態毎に滞在するゲーム数について確率的に求められる滞在ゲーム数の期待値が前記初期遊技状態の滞在ゲーム数の期待値よりも大きい通常遊技状態に遊技状態を制御する通常遊技状態制御手段と,
(N3)前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて前記可変表示装置の表示結果として予め定められた有利表示結果が導出されたときに,前記通常遊技状態よりも遊技者にとって有利な有利状態に遊技状態を制御する有利状態制御手段とを含む
ことを特徴とするスロットマシン。」
に相当する技術事項Aは,上記「(1)参考周知文献4について」において検討したように,参考周知文献4に記載されている。

参考周知文献4には,「国立国会/18.03.29/図書館」の印が押されており,これによれば,参考周知文献4は本件特許の出願日(平成18年4月7日)前の平成18年3月29日に国立国会図書館に受け入れられたものと認められる。また,平成23年11月14日付け上申書に添付された参考補足文献(必勝パチスロファン 2006年4月号)の170頁下欄には丸い囲みの中に「次号/2006-5月号は/3月29日(水)/発売です!!」と記載されており,参考周知文献4が平成18年3月29日に発売されたものと認められる。以上により,参考周知文献4は本件特許の出願日(平成18年4月7日)前に国内において頒布されたものと認められるが,参考周知文献4が頒布されたものであっても,参考周知文献4に記載された技術事項Aが本件特許出願時に周知技術であったとは限らない。
周知技術とは,その技術分野において,一般的によく知られている技術又はよく用いられている技術であって,ある技術が周知か否かは,単にその技術を記載した文献数やその文献の頒布時期によって決せられるものではない。しかしながら,構成(N)の技術内容及びスロットマシンにおける技術常識、技術水準等を総合的に判断すると,本件出願前数日前に頒布された参考周知文献4のみによっては,構成(N)が,一般的によく知られている技術又はよく用いられている技術であり,本件特許出願時に周知技術であったと認めることはできない。

(4)請求人の主張についての検討
請求人の周知技術に関する主張は明確ではないが,以上を総合すれば,請求人の主張は以下の何れかと認められる。
(4-1)本件特許発明1と甲1発明との相違点の一つである相違点c(構成(N))は,参考周知文献4に示されるように周知技術であるから,(相違点cについて他の甲各号証によることなく,)当業者が容易に想到し得たとの主張。
審判請求書においては構成(N)は甲第3号証,甲第4号証に開示されたものである旨の主張がされているだけであるから,構成(N)は参考周知文献4に示されるように周知技術であるという当該主張は,「特許を無効にする根拠となる事実」を差し替えるものであって,無効審判請求理由の要旨を変更する補正である。そして,当該補正に対し被請求人は同意しない旨の意向を示している(口頭審理調書を参照)ため,特許法131条の2第2項各号に該当せず,当該補正は許可することができないものである。
また,仮に,当該補正を許可したとしても,構成(N)が周知技術とは認めることはできないから,構成(N)が周知技術であるとの前提の請求人の主張は採用することができない。

(4-2)本件特許発明1と甲1発明との相違点の一つである相違点c(構成(N))は,参考周知文献4に示されるように周知技術であるから,発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行するように変更する程度のことは,スロットマシンの分野において,当業者が適宜設計・変更できる設計事項に過ぎないものである,との主張。
構成(N)が周知技術とは認めることはできないから,構成(N)が周知技術であるとの前提の当該主張は採用することができない。

(4-3)発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行させることは参考周知文献4に例示されるように従来周知技術であるから,発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行するように変更する程度のことは,スロットマシンの分野において,当業者が適宜設計・変更できる設計事項に過ぎないものであるとの主張。
請求人は,「「・・・遊技状態の移行をどのような条件とするかは,適宜設計し得る事項である。」との審査官の見解の通りであると考える。」との審判請求書(50頁17?28行)の主張を,参考周知文献4の提示により裏付けることは許容されるべきである旨,上申書8頁5?21行において主張しているところから,上記主張を実質的に行っているものと考え得る。
「発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行するように変更する」(上申書7頁2?3行)ことは,参考周知文献4に記載されている他,スロットマシンにおいてはBB図柄が揃った場合にはBB遊技状態になるとともにRB図柄が揃った場合にはRB遊技状態になるということに例示されるごとく,スロットマシンにおいて周知技術と認められる。
そして,当該主張は,本件特許発明1と甲1発明との相違点の一つである相違点cが甲第3号証,甲第4号証に開示されたものであり,更に相違する部分について設計事項であるとの主張であるから,審判請求書(50頁17行?28行)における無効理由の要旨の範囲内ものであり,審判請求書に記載された請求の理由の要旨を変更しないものと認められる。

(5)小括り
以上のとおり,上記(4-1)及び(4-2)の主張は採用することができないが,上記(4-3)の主張については本件特許発明1の容易性の検討において検討する。

第4.本件特許発明にかかる検討
1.甲第1?7号証,の記載事項
甲第1?7号証には,それぞれ以下の記載がある。なお,「/」は原文における改行箇所である。
(1)甲第1号証(特開2004-187812号公報)
【0002】/【従来の技術】/・・・メダルを投入すると,メダルの投入枚数に応じた本数の入賞ラインが有効になる。また,メダルの投入を条件に,スタートスイッチを操作すると,ソフトウエアを用いない手段によって生成される乱数であるハード乱数が抽出され,このハード乱数に基づいて,役に当選したかハズレかの抽選が行われる。また,この抽選とほぼ同時に,3個すべての回転リールの回転が開始する。その後に,3個のストップスイッチのうちの1個を操作すると,当該ストップスイッチに対応した回転リールの回転が停止する。また,回転リールの停止制御は,役に当選したかハズレかの抽選の結果と,ストップスイッチが操作されたときの回転リールの回転位置とに基づいて行われる。そして,3個すべてのストップスイッチを操作し終えると,3個すべての回転リールの回転が停止する。このとき,有効な入賞ライン上に所定の図柄が所定の配列で揃うと,入賞となり,入賞態様に応じた枚数のメダルが払い出される。また,メダルの払い出しに代えて,あるいはメダルの払い出しとともに,遊技者に対して所定の利益が付与されることもある。
【0014】/ここで,「遊技情報値」とは,遊技の制御に係る数値をいう。遊技情報値としては,例えば,出球率の設定値や,メダルの投入枚数や,メダルのクレジット枚数や,ソフトウエアを用いた手段によって生成される乱数であるソフト乱数などがある。また,遊技情報値としては,上記したものの他に,例えば,特定導入遊技当選(BB当選)の持ち越し数を示すBBストック数や,有効な入賞ラインの数を示す有効ライン数や,遊技状態を示す遊技状態値や,特定導入遊技(BBゲーム)中の特定遊技(RBゲーム)の回数を示すBB中RB回数や,BBゲーム中の一般遊技の回数を示すBB中一般遊技回数などもある。これらの遊技情報値は,RAM(22)に記憶される。また,これらの遊技情報値は,所定の操作や遊技の進行等に応じて適正範囲内で書き換えられる。例えば,設定値は,所定の設定変更操作により「1?6」の範囲内で書き換えられ,また,メダルのクレジット枚数は,クレジットメダルの投入と払い出しとに応じて「0?50」の範囲内で書き換えられる。そして,スロットマシン(10)における遊技の制御は,これらの遊技情報値に基づいて行われる。
【0017】/また,「判定」は,例えば,スロットマシン(10)の電源の投入時に行うようにしてもよく,また,遊技が行われる毎に行うようにしてもよく,また,所定時間(例えば5分)毎に行うようにしてもよく,また,RAM(22)へのアクセス時に行うようにしてもよい。・・・
【0022】/また,「所定の操作を条件に」とは,適正判定手段(230)による判定の結果,RAM(22)上の遊技情報値に適正範囲外のものがあったときに,リセット操作等の所定の操作を待ってから,遊技情報値を変更するという意味である。/また,例えば,適正判定手段(230)による判定の結果,RAM(22)上の遊技情報値に適正範囲外のものがあると,まず,エラー表示手段(250)により所定のエラー表示を行い,その後に,遊技店の店員等により所定のリセット操作が行われると,適正変更手段(240)が遊技情報値を変更するようにしてもよい。
【0023】/また,「変更」は,例えば,RAM(22)上の遊技情報値を一旦消去又はクリアした後に改めて所定の数値を書き込むことにより行ってもよく,また,消去又はクリアせずに所定の数値を上書きすることにより行ってもよい。/また,「変更後の数値」は,例えば,適正範囲内の最小値にしてもよく,また,適正範囲内の中間値にしてもよく,また,適正範囲内の最大値にしてもよい。
【0028】/・・・/また,RAM(22)上のソフト乱数は,例えば,「アシストタイム遊技」や「押し順ナビ遊技」を開始するか否かの抽選に用いたり,「リプレイタイム遊技」を終了するか否かの抽選に用いたり,あるいは演出を行うか否かの抽選に用いることができる。
【0029】/・・・/また,「リプレイタイム遊技」とは,Replay当選の当選確率を通常遊技中よりも高く設定した遊技をいう。
【0043】/・・・/(RAM22)/RAM22には,例えば,出球率の設定値や,メダルのクレジット枚数や,メダルの投入枚数や,ソフトウエアを用いた手段によって生成される乱数であるソフト乱数や,特定導入遊技当選(BB当選)の持ち越し数を示すBBストック数や,有効な入賞ラインの数を示す有効ライン数や,遊技状態を示す遊技状態値や,特定導入遊技(BBゲーム)中の特定遊技(RBゲーム)の回数を示すBB中RB回数や,BBゲーム中の一般遊技の回数を示すBB中一般遊技回数などの複数の遊技情報値が記憶されている。これらの遊技情報値は,所定の操作や遊技の進行等に応じて適正範囲内で書き換えられる。例えば,設定値は,遊技店の店員等による所定の設定変更操作により「1?6」の範囲内で書き換えられ,また,クレジット枚数は,クレジットメダルの投入と払い出しとに応じて「0?50」の範囲内で書き換えられる。そして,スロットマシン10における遊技の制御は,これらの遊技情報値に基づいて行われる。
【0053】/・・・また,入賞には,特定導入遊技(ビッグボーナスゲーム/BBゲーム)への移行に係る特定導入遊技入賞(ビッグボーナス入賞/BB入賞)と,特定遊技(レギュラーボーナスゲーム/RBゲーム)への移行に係る特定遊技入賞(レギュラーボーナス入賞/RB入賞)と,所定枚数(例えば12枚)のメダルの払い出しに係る第1小役入賞(ベル入賞)と,この第1小役入賞よりも少ない枚数(例えば8枚)のメダルの払い出しに係る第2小役入賞(スイカ入賞)と,この第2小役入賞よりも少ない枚数(例えば2枚又は4枚)のメダルの払い出しに係る第3小役入賞(チェリー入賞)と,再遊技(Replay)の実行に係る再遊技入賞(Replay入賞)とがある。
【0054】/なお,RBゲームとは,特定入賞遊技(JACゲーム)を複数回行い得ることにより,通常遊技よりも入賞確率が高い遊技をいい,また,BBゲームとは,RBゲームの導入確率が高い遊技をいう。/そして,例えば,「7」の図柄が有効な入賞ライン上に3個揃うと,BB入賞となり,払い出しがある場合にはメダルが払い出され,BBゲームが実行される。
【0079】/この適正範囲テーブル220は,ROM23に記憶されている。/また,本実施の形態では,適正範囲テーブル220には,例えば,設定値の適正範囲を「1?6」とし,メダルの投入枚数の適正範囲を「0?3」とし,メダルのクレジット枚数の適正範囲を「0?50」とする旨などが定められている。/(適正判定手段230)/適正判定手段230は,RAM22上の遊技情報値がROM23上の適正範囲テーブル220に定めた適正範囲内にあるか否かの判定を行うためのものである。
【0080】/本実施の形態では,適正判定手段230は,スロットマシン10に電源が投入されるとき,RAM22から遊技情報値が読み取られるとき,及びRAM22に遊技情報値が書き込まれるときに,RAM22上の遊技情報値がROM23上の適正範囲テーブル220に定めた適正範囲内にあるか否かの判定を行う。/また,RAM22から遊技情報値が読み取られるときとしては,例えば,スタートスイッチ50の操作時などがある。
【0081】/また,この適正判定手段230は,例えば,RAM22上の設定値が「3」であれば,RAM22上の設定値は適正範囲内にあると判定し,RAM22上の設定値が「10」であれば,RAM22上の設定値は適正範囲外にあると判定する。/また,この適正判定手段230は,例えば,RAM22上のメダルのクレジット枚数が「30」であれば,RAM22上のメダルのクレジット枚数は適正範囲内にあると判定し,RAM22上のメダルのクレジット枚数が「60」であれば,RAM22上のメダルのクレジット枚数は適正範囲外にあると判定する。
【0084】/また,本実施の形態では,適正変更手段240による数値の変更は,遊技店の店員等による所定のリセット操作を条件に行われる。/具体的には,本実施の形態では,適正判定手段230による判定の結果,RAM22上の遊技情報値に適正範囲外のものがあると,まず,エラー表示手段250により所定のエラー表示が行われ,その後に,遊技店の店員等により所定のリセット操作が行われると,適正変更手段240がソフト乱数以外の遊技情報値を変更するのである。

(2)甲第2号証(特許第3750947号公報)
【0066】/・・・なお,副制御部160は,内蔵RAMに段階設定値の履歴情報も併せて記憶しており,履歴情報は電池でバックアップされているので主電源を切っても消えることはない。
【0077】/150は,段階設定部であり,後述する出玉率の段階設定操作を行うことにより,ホール側は,イベントや新装オープンでの放出や収益改善のための回収状況に応じて,段階値1?6の中から所望の設定値を選択することができる。
【0182】/図18は,設定変更サブルーチンを示すフローチャートである。
【0183】/主制御部100は,設定変更サブルーチンを呼び出すと,ステップS500で副制御部160に段階設定モード開始を意味する制御データを送信し,ステップS510に移行して,内臓のRAM102から現在の段階設定値「1」を読み込み,メダル払出枚数表示LED4cに「1」を表示する(図16参照)。なお,警告動作については図19を用いて詳細に説明する。
【0184】/主制御部100は,ステップS520で,エラー解除スイッチ170bによる段階設定変更操作を受け付けて,変更された段階設定をメダル払出枚数表示LED4cに表示し(図16参照),ステップS530でスタートレバー9が操作されたか否かを判断する。
【0185】/主制御部100は,ステップS530で,スタートレバー9が操作されていなければ,ステップS520に移行して段階設定変更操作を繰り返す一方,スタートレバー9が操作された場合,ステップS540に移行する。
【0186】/主制御部100は,ステップS540で,選択された段階設定値(例えば,最高値の「6」)を書き込み,RAM102に記憶しているその他の制御データを初期化(ROM101が記憶する制御データの初期値をRAM102に書き込む)するとともに,書き込んだ段階設定値を副制御部160に出力して,ステップS550に移行する。なお,副制御部160は,電池でバックアップされた内蔵RAMに段階設定値及びその履歴情報も併せて記憶する。
【0187】/主制御部100は,ステップS550で,再度段階設定変更操作が行われたか否かを判断し,操作が行われた場合,ステップS520に移行して段階設定変更操作を繰り返す一方,操作が行われていない場合,ステップS560に移行する。
【0188】/主制御部100は,ステップS560で,設定用キースイッチ170aがOFF状態(図16の設定用キースイッチ拡大図参照)になったか否かを判断し,ON状態のままであればステップS550に移行する一方,OFF状態であれば,ステップS570に移行する。
【0189】/主制御部100は,ステップS570で,副制御部160に段階設定モード終了を意味する制御データを送信して,このサブルーチンを終了する。
【0215】/次に,主制御部100は,ステップS240において,変動表示ゲームのメイン処理を実行する。例えば,遊技者が所定数のメダルを投入後,スタートレバー9を操作すると,スタートSWセンサ110からスタート信号が出力されるので,まずワークRAM領域に記憶している段階設定値のデータが0?5(メダル払出枚数表示LED4cに表示される段階設定値は各々1?6に対応する)の範囲内にあるか否かを確認する。
【0216】/主制御部100は,段階設定値が所定の範囲内になければ,表示演出装置11,スピーカ部12及び遊技状態表示LED部13により警告(「EE」エラーの文字表示,発光及び警告音)を発生させてエラー処理を行わせる一方,所定の範囲内にあれば,以下で説明する乱数抽選を行って変動表示ゲームを続行する。
【0217】/この「EE」エラーが発生した場合,パチンコホール等の店員は設定変更スイッチの操作を行って,段階設定値を所定範囲の中から1つ選択して新たにRAM102に記憶させると,その後主制御部100は,新たに記憶した段階設定値を使用して変動表示ゲームの当落を決定する。また,主制御部100は,段階設定値を新たにRAM102に記憶させる場合,段階設定値をメダル払出枚数表示LED4cに表示しない。その一方,段階設定値に応じた音や映像(例えば,段階設定値「1」の場合,「ピッ」という音又は1匹のコウモリが表示演出装置11に表示される。)により間接的に表示される。そして,RAM102に記憶している制御データは,ROM101が記憶する制御データの初期値に書き換えられてリセット(初期化)される。
【0218】/他の実施例としては,「EE」エラーが発生した場合,パチンコホール等の店員が設定変更スイッチの操作を行って段階設定値を所定範囲の中から1つ選択したとき,副制御部160は主制御部100から受信した段階設定値と内蔵RAMに記憶する段階設定値とが一致した場合,一致した旨を表示又は報知する。例えば,副制御部160は,表示演出装置11に「開店時の段階設定値と一致しました。」を表示して,及びスピーカ部12からビープ音を発生させたり,音声で「開店時の段階設定値と一致しました。」の報知を繰り返す。その後,主制御部100は,副制御部160が一致した旨を表示又は報知している状態で,段階設定部150が操作された場合,送信した段階設定値を新たにRAM102に記憶させるとともに,新たに記憶した段階設定値を使用して変動表示ゲームの当落を決定する。この様にすることで,遊技者は安心して遊技を続行できる。
【0219】/そして,主制御部100は,段階設定値が所定の範囲内にあれば,スタート信号の受信タイミングに合わせて乱数抽選を行い,乱数抽選した値と低確率状態の抽選テーブルとを比較して,入賞したか否かを判断する(図13の説明参照)。

(3)甲第3号証(特開2005-304842号公報)
【0041】/「ベル-ベル-リプレイ」の組合せは,演出用RTに制御するか否かを乱数抽選により決定する演出用RT抽選に当選し,「ベル-ベル-リプレイ」の組合せを揃えることが可能なリール制御テーブルが選択されたときに,各リール2L,2C,2Rの停止条件が成立したタイミングが「ベル-ベル-リプレイ」の組合せを構成する図柄の引込範囲内であれば有効化された入賞ラインに揃う。
【0042】/また,メイン制御部41は,BBまたはRBの終了後,当該BBまたはRB終了時に選択された発動待ちゲーム数(RT中のゲームは除く)が実行されたことを契機に,BBフラグ及びRBフラグを含むリプレイフラグ以外の内部当選フラグの当選確率は変動せず,リプレイフラグの当選確率が通常遊技状態よりも高まる通常リプレイタイム(RT)に制御する。本実施例では,前述のようにリプレイフラグが当選した際に,リプレイ入賞の組合せを引き込む制御が選択されるので,通常RTに制御されることによりリプレイ入賞の発生率も高まるようになっている。また,本実施例において通常RTは,次回BBフラグまたはRBフラグが当選するまで継続して制御されるようになっている。また,通常RTは,リプレイフラグの当選確率が通常の1/7.3から1/4.5に変動する通常RT1,通常の1/7.3から1/1.2に変動する通常RT2の2種類からなり,通常RTの発動時に振り分けられるようになっている。
【0065】/図7は,Sa3の内部抽選処理の詳細な制御内容を示すフローチャートである。
【0066】/内部抽選処理では,まず,図示しない乱数発生回路からスタートスイッチ7の検出に伴ってサンプリングされた乱数値を取得する(Sb1)。そして,当該ゲームがBBゲームであるか否かを確認し(Sb2),BBゲームであれば,BBゲームにおいて対象となる内部当選フラグ(チェリーフラグ,スイカフラグ,ベルフラグ,JacInフラグ)の当選確率が定められたBB用テーブル(図示略)を当該ゲームにおける内部当選確率テーブルとしてセットする(Sb3)。
【0071】/また,Sb12のステップにおいて通常RT中でない場合には,図8に示すように,通常遊技状態において対象となる全ての内部当選フラグの当選確率が定められた通常テーブルを当該ゲームにおける内部当選確率テーブルとしてセットする(Sb16)。
【0072】/次いで,Sb1のステップにおいて取得した乱数値と,セットされた内部当選確率テーブルとを比較し(Sb17),この比較結果に基づいて当選した内部当選フラグがあるか否かを確認し,当選していればその内部当選フラグを設定する(Sb18)。
【0088】/また,Se8のステップにおいて通常RT中でなければ,発動待ちゲーム数を1減算するとともに(Se11),発動待ちゲーム数が0か否か,すなわちBBまたはRBの終了後に選択された発動待ちゲーム数のゲームが実行されたか否かを確認し(Se12),発動待ちゲーム数が0であれば通常RT中フラグ1または通常RT中フラグ2のいずれか一方に振り分け,振り分けられた通常RT中フラグをセットして(Se13),通常RTへ移行させる。
【0111】/尚,本発明はこれに限定されるものではなく,前述した演出用RTと同様に,発動図柄の組合せが揃ったことを契機に通常RTの制御を開始するようにしても良く,このようにすることで,通常RTの発生契機を分かりやすくできるうえに,リールに導出された表示結果に応じて遊技者に対して価値が付与されるというスロットマシン本来の面白みを十分に引き出すことができる。
【0114】/また,本実施例では,リプレイフラグの当選確率(リプレイ入賞の発生確率)の異なる複数種類の通常RT,すなわち通常RT1,通常RT2に制御されるようになっており,RTの種類に応じてリプレイ入賞の発生率,すなわちメダルの減少度合いが変化するので,一層興趣を高めることができる。

(4)甲第4号証(特開2005-143931号公報)
【0048】/・・・/さらにまた,画像表示装置35は,液晶画像表示装置やドットディスプレイ等からなるものであり,遊技中に各種の演出画像や所定の情報等を表示するものである。
【0056】/(抽選テーブル)/抽選テーブル62は,抽選される役の種類と,各役の当選確率とを定めたものである。図1に示すように,本実施形態の抽選テーブル62は,通常遊技(非内部中)に用いられる通常遊技抽選テーブル62a,第1RT遊技に用いられる第1RT遊技抽選テーブル62b,第2RT遊技に用いられる第2RT遊技抽選テーブル62c,第3RT遊技に用いられる第3RT遊技抽選テーブル62d,BB遊技に用いられるBB遊技抽選テーブル62e,RB遊技に用いられるRB遊技抽選テーブル62f,及び停止制御変更遊技(BC遊技及びSC遊技)に用いられる停止制御変更遊技抽選テーブル62gとを備えている。このように,遊技状態(通常遊技(非内部中),RT遊技,停止制御変更遊技,及び特別遊技)ごとに,特有の抽選テーブル62が設けられている。
【0058】/図3は,本実施形態における抽選テーブル62のうち,通常遊技抽選テーブル62aと,RT遊技に用いられる第1RT遊技抽選テーブル62b,第2RT遊技抽選テーブル62c,及び第3RT遊技抽選テーブル62dとの概要を示す図である。
通常遊技抽選テーブル62aは,通常遊技の非内部中のときに用いられるものであり,リプレイの当選確率は,図2で示した通り,1/7.3に設定されている。/これに対し,第1RT遊技抽選テーブル62b,第2RT遊技抽選テーブル62c,及び第3RT遊技抽選テーブル62dは,通常遊技抽選テーブル62aに対して,リプレイの当選確率が高く設定されたものである。すなわち,これら3つの抽選テーブル(62b?62d)は,リプレイ高確率抽選テーブルといえる。
【0059】/また,第1RT遊技抽選テーブル62b及び第2RT遊技抽選テーブル62cは,それぞれ所定の条件を満たしたときに選択されるものであり,リプレイの当選確率は,それぞれ1/1.5及び1/2.0に設定されている。第1RT遊技抽選テーブル62b及び第2RT遊技抽選テーブル62cは,リプレイの当選確率以外の点,すなわち抽選される役の種類及びその当選確率については,通常遊技抽選テーブル62aと同一である。なお,これら2つの抽選テーブル62は,どのような条件の場合に選択されるかについては,後述する。
【0060】/また,第3RT遊技抽選テーブル62dは,通常遊技の内部中のときに用いられるものであり,リプレイの当選確率は,1/4.0に設定されている。すなわち,本実施形態では,通常遊技(内部中)=第3RT遊技である。/なお,この第3RT遊技抽選テーブル62dは,通常遊技の内部中のときに用いられるものであるので,BB,及びRBの抽選は行われない。また,BC及びSCの抽選も行われない。すなわち,第3RT遊技抽選テーブル62dは,通常遊技抽選テーブル62aに対して,リプレイの当選確率が異なること,並びにBB,RB,BC及びSCの抽選が行われないこと以外は通常遊技抽選テーブル62aと同一であって,小役の種類とその当選確率は通常遊技抽選テーブル62aと同一である。
【0062】/(抽選テーブル選択手段)/抽選テーブル選択手段63は,役抽選手段61で用いる抽選テーブル62を,遊技状態に応じて1つ選択するものであり,以下の各手段を備える。/(RT遊技抽選手段)/RT遊技抽選手段63aは,通常遊技の非内部中の遊技,又はBB遊技若しくはRB遊技の終了後の所定回数の遊技(第2RT遊技)中における役の非当選時に,第1RT遊技,すなわち第1RT遊技抽選テーブル62bを用いて役の抽選を行う遊技を実行するか否かを,抽選によって決定するものである。本実施形態では,この抽選は,ソフトウェア乱数を用いて行われ,その当選確率は,1/400に設定されている。
【0063】/また,このRT遊技抽選手段63aに当選すると,後述するリール停止制御手段64は,RT作動図柄(図2参照),すなわち「赤7」-「赤7」-「BAR」又は「青7」-「青7」-「BAR」の図柄の組合せがリール31の停止制御の範囲内において有効ラインに停止するように停止制御する。なお,当該遊技で上記図柄の組合せが有効ラインに停止しなかった場合には,次遊技もまた,リール停止制御手段64は,同じ停止制御を行う。
【0064】/(条件判定手段)/条件判定手段63bは,役抽選手段61で用いる抽選テーブル62を,他の抽選テーブル62に切り替えるための条件を満たしたか否かを判定するものである。また,他の抽選テーブル62に切り替えるための条件は,予め記憶しており,毎遊技,その条件を満たしたか否かを判定する。
【0065】/(抽選テーブル切替え手段)/また,抽選テーブル切替え手段63cは,条件判定手段63bにより,役抽選手段61で用いる抽選テーブル62を他の抽選テーブル62に切り替えるための条件を満たしたと判定されたときに,それまでの抽選テーブル62から,他の抽選テーブル62に切り替えるように制御するものである。
【0066】/例えば,通常遊技抽選テーブル62aが選択されている遊技(非内部中の通常遊技)では,条件判定手段63bは,上記のRT遊技抽選手段63aによる抽選に当選したか否か,及びその当選後に,上記のRT作動図柄が有効ラインに停止したか否かを判別する。RT作動図柄が有効ラインに停止したときは,条件判定手段63bは,第1RT遊技抽選テーブル62bに切り替えるための条件を満たしたと判定する。その結果,次遊技以降では,抽選テーブル切替え手段63cは,役抽選手段61で用いる抽選テーブル62を,第1RT遊技抽選テーブル62bに切り替える。
【0067】/また,条件判定手段63bは,役抽選手段61による役の抽選で特別役(BB又はRB)に当選したかを判定する。特別役に当選したときは,通常遊技抽選テーブル62a,第1RT遊技抽選テーブル62b,又は第2RT遊技抽選テーブル62cのいずれの抽選テーブル62を用いている場合であっても,条件判定手段63bは,第3RT遊技抽選テーブル62dに切り替えるための条件を満たしたと判定する。その結果,抽選テーブル切替え手段63cは,当該遊技から,特別役が入賞するまでの遊技で,役抽選手段61で用いる抽選テーブル62を第3RT遊技抽選テーブル62dに切り替える。
【0068】/さらに,BB遊技,RB遊技,停止制御変更遊技(BC遊技又はSC遊技)にそれぞれ移行したときは,条件判定手段63bは,抽選テーブル62を切り替えるための条件を満たしたと判定する。そして,抽選テーブル切替え手段63cは,BB遊技,RB遊技,停止制御変更遊技中には,それぞれ,BB遊技抽選テーブル62e,RB遊技抽選テーブル62f,又は停止制御変更遊技抽選テーブル62gに切り替える。
【0069】/さらにまた,条件判定手段63bは,特別遊技(BB遊技又はRB遊技)を終了したか否かを判定する。特別遊技が終了したときは,条件判定手段63bは,抽選テーブル62を,第2RT遊技抽選テーブル62cに切り替えるための条件を満たしたと判定する。その結果,特別遊技の終了後の遊技では,抽選テーブル切替え手段63cは,役抽選手段61で用いる抽選テーブル62を,BB遊技抽選テーブル62e又はRB遊技抽選テーブル62fから,第2RT遊技抽選テーブル62cに切り替える。

また,【図4】には,「通常遊技抽選テーブル62a」,「第1RT遊技抽選テーブル62b」,「第2RT遊技抽選テーブル62c」,「第3RT遊技抽選テーブル62d」の切替え状態が図示されるとともに,その下部には以下の記載がある。
(1)RT遊技に当選し,RT作動図柄が揃うことにより移行
(2)(1)スタート後,所定遊技回数(100回)に到達したことにより移行
(3)特別役に当選したことにより移行(特別役の入賞により終了)
(4)特別役に当選したことにより移行(特別役の入賞により終了)
(5)特別遊技の終了後に移行
(6)(5)スタート後,所定遊技回数(50回)に到達したことにより移行
(7)RT遊技に当選し,RT作動図柄が揃うことにより移行
(8)特別役に当選したことにより移行(特別役の入賞により終了)

(5)甲第5号証(パチスロ必勝ガイド 2006年3月号)
(ア)43頁左下部の「実は5つのRTがある!!」との見出しの下に,「リプレイ確率がアップする通常のRTの他にピョコン絵柄確率がアップするRTがある/前者は液晶に「RT」と表示され,後者は「ど根性タイム」と表示される」と記載されている。
(イ)43頁右中央部には「基本的なゲーム性のおさらい」というカコミがあり,このカコミの中には「ビッグはスーパーとノーマルがあり,スーパービッグとREG後はRT突入の期待が高まる「ど根性タイム」に突入。そこで「ピョコン絵柄」が揃えばRTに突入し,ボーナス成立まで継続する仕組みだ。」と記載されている。
(ウ)43頁右中央部の「内部数値は随所に設定間格差あり!!」の見出しに続いて,「・・・/まず,本機の出玉性能の鍵を握るRTに関しては,ボーナス成立まで続く通常のRT以外に4つのRTが搭載されていることが判明した。これはボーナス消化後に突入する「ど根性タイム(以下DT)」のことで,スーパービッグ後は30G,REG後では18Gの間,RT突入契機である特殊リプレイ(ピョコン絵柄)確率が大幅にアップ。これにより,メインのRT突入率を上げる役割を果たしているのである。」と記載されている。
(エ)44頁右下部の「DT&RT中のリプレイ確率」というカコミの中央部には「状態・設定別の特殊リプレイ確率」という表が記載されており,この表には,設定1?4において,スーパービッグ(赤7-赤7-赤7)後のDT中の特殊リプレイ確率が1/40.21であり,スーパービッグ(赤7-赤7-青バー)後のDT中の特殊リプレイ確率が1/40.18であり,レギュラーボーナス(青バー-青バー-青バー)後のDT中の特殊リプレイ確率が1/42.97であると記載されている。また,このカコミの下部には「状態別の通常リプレイ確率」という表が記載されており,この表にはスーパービッグ(赤7-赤7-赤7,赤7-赤7-青バー)後,及びレギュラーボーナス(青バー-青バー-青バー)後のDT中のリプレイ確率が1/7.30と記載され,特殊リプレイ(ピョコン絵柄-ピョコン絵柄-ピョコン絵柄)後のRT中のリプレイ確率が1/1.24?1.26と記載されている。
(オ)45頁の右中央部の「「ど根性タイム」からRTに繋がる割合」という表には,スーパービッグ(赤7-赤7-赤7,赤7-赤7-青バー)消化後の「ど根性タイム」からRTに突入する割合(40.02%?50.34%)と,レギュラーボーナス(青バー-青バー-青バー)消化後の「ど根性タイム」からRTに突入する割合(29.98%?33.43%)とが設定値1?6毎に記載されている。

(6)甲第6号証(パチスロ攻略マガジンドラゴン龍 2006年3月号)
(ア)113頁の中央部には「RT突入までの流れ」というカコミがあり,このカコミの中には「ボーナス後に突入するDT中に,特殊リプレイが成立すればRT突入となる。」と記載されているとともに,その内容を示す遷移図が記載されている。
(イ)113頁の左下部には「DT概要」というカコミがあり,このカコミの中には「DTの特徴(1) ボーナスごとに継続プレイ数が異なる!」と記載されており,その下部には,スーパーBIGの場合,「純増約300枚+30PのDT突入」と,ノーマルBIGの場合,「純増約200枚+2PのDT突入」と,REGの場合,「2PのJACゲーム+18PのDT突入」と記載されている。また,同カコミ内には,「DTの特徴(2) 特殊リプレイ確率がアップ!」と記載され,その下部には,「DT中は特殊リプレイの出現率がアップし,RTに突入しやすくなる。なお,設定5・6は他と比べて出現率がやや低い。」と記載されている。更に,「DT中の特殊リプレイ抽選確率(解析値)」の表も記載されおり,当該表には,例えば,設定1?4において,スーパーBIG(赤7-赤7-赤7)後のDT中の特殊リプレイ確率が1/40.206であり,スーパーBIG(赤7-赤7-青バー)後のDT中の特殊リプレイ確率が1/40.181であり,REG(青バー-青バー-青バー)後のDT中の特殊リプレイ確率が1/42.974であると記載されている。
(ウ)113頁の右下部には「RT概要」というカコミがあり,このカコミ内には「RT中のリプレイ確率」が「1/1.242?1.261」であることが記載されている。
(エ)115頁の右下部には「RT性能にも設定差が存在!」というカコミがあり,このカコミ内には「RT突入率」を示す表が記載されており,この表にはスーパーBIG(赤7-赤7-赤7,赤7-赤7-青バー)後の,ど根性タイムからRTに突入する割合(約42.85%?53.04%)と,ノーマルBIG(赤7-赤7-黒バー)後の,ど根性タイムからRTに突入する割合(0.02%)と,REG(青バー-青バー-青バー)後の,ど根性タイムからRTに突入する割合(31.25%?34.54%)とが設定値1?6毎に記載されている。

(7)甲第7号証(パチスロ必勝ガイドMAX 1月号増刊)
41頁には,「ど根性タイム&RTの仕組み」というカコミがあり,このカコミの右上部には「液晶の右上にど根性タイムの残りゲーム数を表示」と記載されており,カコミの右下部には「ど根性タイム中はランプも点灯!!」と記載されている。

2.甲1発明について
甲第1号証の上記記載事項を参酌すれば,甲第1号証には以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「メダルが投入されると,メダルの投入枚数に応じた本数の入賞ラインが有効になり,メダルの投入を条件に,スタートスイッチが操作されると,ハード乱数を抽出して役に当選したかハズレかの抽選を行うととともに,この抽選とほぼ同時に,3個すべての回転リールの回転を開始させ,役に当選したかハズレかの抽選の結果と,ストップスイッチが操作されたときの回転リールの回転位置とに基づいて停止制御を行って,回転リールの回転を停止させ,有効な入賞ライン上に所定の図柄が所定の配列で揃うと入賞となる,スロットマシン10において,
通常遊技,特定遊技(RBゲーム),特定導入遊技(BBゲーム)の遊技状態があり,「7」の図柄が有効な入賞ライン上に3個揃うとBBゲームが実行され,
RAM22には出玉率の設定値がメダルのクレジット枚数や,メダルの投入枚数や,ソフト乱数等とともに記憶され,
設定値は遊技店の店員等による所定の設定変更操作により「1?6」の範囲内で書き換えられ,
適正判定手段230は,スロットマシン10に電源が投入されるとき,及び,RAM22から遊技情報値が読み取られるとき(すなわち,スタートスイッチ50の操作時)に,RAM22上の設定値を含む遊技情報値が適正範囲内にあるか否かの判定を行い,
適正判定手段230による判定の結果,RAM22上の遊技情報値に適正範囲外のものがあると,まず,エラー表示手段250により所定のエラー表示が行われ,その後に,遊技店の店員等により所定のリセット操作が行われると,適正変更手段240がソフト乱数以外の遊技情報値を変更する,
スロットマシン10。」

3.本件特許発明1についての検討
(3-1)甲1発明との対比
甲1発明と本件特許発明1を対比すると,甲1発明の「メダル」,「図柄」は本件特許発明1の「遊技用価値」,「識別情報」に相当し,甲1発明について以下のことがいえる。
(3-1-1)「メダルが投入されると,メダルの投入枚数に応じた本数の入賞ラインが有効になり,メダルの投入を条件に,スタートスイッチが操作されると,ハード乱数を抽出して役に当選したかハズレかの抽選を行うととともに,この抽選とほぼ同時に,3個すべての回転リールの回転を開始させ,役に当選したかハズレかの抽選の結果と,ストップスイッチが操作されたときの回転リールの回転位置とに基づいて停止制御を行って,回転リールの回転を停止させ,有効な入賞ライン上に所定の図柄が所定の配列で揃うと入賞となる,スロットマシン10において」について
(ア)スロットマシンにおいては,メダル投入,スタートスイッチの操作,回転リ-ルの停止,入賞の場合はメダルの払い出し,という一連の流れによって「1ゲーム」が構成されることは自明である。
そして,「メダルの投入枚数に応じた本数の入賞ラインが有効にな」るということは「所定数の賭数を設定する」といいかえることができるとともに,賭数の設定が終了すると「ゲームを開始することが可能となる」ということは自明である。また,当然,回転リールには図柄が配置されているから,「回転リールの回転を開始させ,・・回転リールの回転を停止させ」ることが,本件特許発明1の「複数種類の識別情報を変動表示させる可変表示装置に表示結果が導出されることにより1ゲームが終了し」に相当する。更に,「有効な入賞ライン上に所定の図柄が所定の配列で揃うと入賞となる」ということは,本件特許発明1の「可変表示装置に導出された表示結果に応じて入賞が発生可能である」に相当することは明らかである。
そうすると,甲1発明は,本件特許発明1の「遊技用価値を用いて1ゲームに対して所定数の賭数を設定することによりゲームを開始させることが可能となり,複数種類の識別情報を変動表示させる可変表示装置に表示結果が導出されることにより1ゲームが終了し,該可変表示装置に導出された表示結果に応じて入賞が発生可能であるスロットマシンにおいて」に相当する構成を実質的に具備するものである。
(イ)「スタートスイッチが操作されると,ハード乱数を抽出して役に当選したかハズレかの抽選を行う」とともに,「役に当選したかハズレかの抽選の結果と,ストップスイッチが操作されたときの回転リールの回転位置とに基づいて停止制御を行」うということは本件特許発明1の「ゲーム毎に前記可変表示装置の表示結果が導出されるより前に,入賞表示結果の導出を許容するか否かを決定する」とともに,「前記入賞表示結果を含む複数種類の表示結果の中からいずれかの表示結果を前記可変表示装置の表示結果として導出させる」ということに相当し,甲1発明はそのような制御を行う手段を備えたものであることは明らかである。
そうすると,甲1発明は,本件特許発明1の「ゲーム毎に前記可変表示装置の表示結果が導出されるより前に,入賞表示結果の導出を許容するか否かを決定する事前決定手段と,前記事前決定手段の決定結果に応じて,前記入賞表示結果を含む複数種類の表示結果の中からいずれかの表示結果を前記可変表示装置の表示結果として導出させる導出制御手段と(を備え)」に相当する構成を実質的に具備するものである。
(3-1-2)「通常遊技,特定遊技(RBゲーム),特定導入遊技(BBゲーム)の遊技状態があり,「7」の図柄が有効な入賞ライン上に3個揃うとBBゲームが実行され」について
通常遊技,特定遊技(RBゲーム),特定導入遊技(BBゲーム)の遊技状態は,「複数の遊技状態」ということができるとともに,入賞ライン上に3個揃うと特定導入遊技(BBゲーム)が実行されるということは特定導入遊技(BBゲーム)へ遊技状態が移行することであって複数の遊技状態の間で遊技状態を移行させるということができ,このような制御を実行する遊技状態制御手段を甲1発明が具備することは明らかである。
そうすると,甲1発明は,本件特許発明1の「複数の遊技状態の間で遊技状態を制御する遊技状態制御手段と(を備え)」に相当する構成を実質的に具備するものである。
(3-1-3)「RAM22には出玉率の設定値がメダルのクレジット枚数や,メダルの投入枚数や,ソフト乱数等とともに記憶され,設定値は遊技店の店員等による所定の設定変更操作により「1?6」の範囲内で書き換えられ」について
「設定値は遊技店の店員等による所定の設定変更操作により「1?6」の範囲内で書き換えられ」るということは,本件特許発明1の「所定の設定操作手段の操作に基づいて,前記事前決定手段により入賞表示結果の導出を許容する旨が決定される確率を設定値毎に異ならせる複数種類の設定値のうちから,いずれかの設定値を選択して設定する」に相当し,甲1発明がそのような設定を行うための「設定値設定手段」を備えることは自明である。
また,「メダルのクレジット枚数や,メダルの投入枚数や,ソフト乱数等」は「設定値」とともに,本件特許発明1の「ゲームの進行を制御するためのデータ」に相当し,「RAM22」は,RAMである以上,データを「読み出し及び書き込み可能に記憶する」ものであり,「データ記憶手段」といえる。
そうすると,甲1発明は,本件特許発明1の「所定の設定操作手段の操作に基づいて,前記事前決定手段により入賞表示結果の導出を許容する旨が決定される確率を設定値毎に異ならせる複数種類の設定値のうちから,いずれかの設定値を選択して設定する設定値設定手段と,前記設定値設定手段により設定された設定値を示す設定値データを含むゲームの進行を制御するためのデータを読み出し及び書き込み可能に記憶するデータ記憶手段と(を備え)」に相当する構成を実質的に具備するものである。
(3-1-4)「適正判定手段230は,スロットマシン10に電源が投入されるとき,及び,RAM22から遊技情報値が読み取られるとき(すなわち,スタートスイッチ50の操作時)に,RAM22上の設定値を含む遊技情報値が適正範囲内にあるか否かの判定を行い」について
スロットマシンの電源投入時において,具体的な判定方法はさておき,ゲームの進行を制御するためのデータが適正であるか否かの判定を行う点において,甲1発明と本件特許発明1は共通しており,甲1発明がそのような判定を行う判定手段を具備することは自明である。
そうすると,甲1発明と本件特許発明1は,「前記スロットマシンの電源投入時にゲームの進行を制御するためのデータが適正であるか否かの判定を行う電源投入時判定手段と」を備えた点で共通している。
また,「スタートスイッチ50の操作」は「ゲームの開始操作がなされる」ことであり,その時には,設定値を含む遊技情報値が読み取られ,読みとられた設定値が適正範囲内にあるか否かを判定が行われる。そして,その適正範囲は,「1?6」であって,設定値設定手段により設定可能な設定値の範囲と同じである。
そうすると,甲1発明は,当該判定を行う判定手段を具備することは自明であるから,本件特許発明1の「ゲームの開始操作がなされる毎に,前記データ記憶手段から前記設定値データを読み出し,該読み出した設定値データが示す設定値が前記設定値設定手段により設定可能な設定値の範囲内である場合に前記読み出した設定値データが適正であると判定し,前記設定可能な設定値の範囲内でない場合に前記読み出した設定値データが適正ではないと判定する設定値判定手段」に相当する構成を実質的に具備するものである。
(3-1-5)「適正判定手段230による判定の結果,RAM22上の遊技情報値に適正範囲外のものがあると,まず,エラー表示手段250により所定のエラー表示が行われ,その後に,遊技店の店員等により所定のリセット操作が行われると,適正変更手段240がソフト乱数以外の遊技情報値を変更する」について
甲1発明は,「適正判定手段230による判定の結果,RAM22上の遊技情報値に適正範囲外のものがあると,エラー表示」を行うものであるから,エラー処理を実行しているということができ,「エラー処理手段」を具備しているといえる。一方,本件特許発明1は,「第1の不能化手段」は「スロットマシンの電源投入時に,」「前記保持手段により保持されている前記ゲームの進行を制御するためのデータが前記電源遮断前のデータと一致しないと判定されたときに,ゲームの進行を不能化する」ものであり,「第2の不能化手段」は「ゲームの開始操作がなされる毎に,」「前記設定値判定手段により前記読み出した設定値データが適正ではないと判定されたときに,ゲームの進行を不能化する」ものであるから,「第1の不能化手段」及び「第2の不能化手段」は,エラー処理を実行しているということができ,「エラー処理手段」ということができる。
そうすると,甲1発明と本件特許発明1は,「電源投入時判定手段により適正でないと判定されたときにエラー処理を実行する第1のエラー処理手段と,前記設定値判定手段により前記読み出した設定値データが適正ではないと判定されたときにエラー処理を実行する第2のエラー処理手段と」を備えた点で共通している。
また,RAM22上の遊技情報値に適正範囲外のものがない場合,すなわち,設定値に異常がない場合について甲第1号証に明記はないが,異常がなければその時の設定値に基づいて遊技が続行されることは自明であるから,甲1発明は,本件特許発明1の「前記事前決定手段は,前記設定値判定手段により前記読み出した設定値データが適正であると判定したときに,該読み出した設定値データが示す設定値に応じた確率で当該ゲームにおいて入賞表示結果を導出させることを許容するか否かを決定し」に相当する構成を実質的に具備するものである。

よって,本件特許発明1と甲1発明とは
「遊技用価値を用いて1ゲームに対して所定数の賭数を設定することによりゲームを開始させることが可能となり,複数種類の識別情報を変動表示させる可変表示装置に表示結果が導出されることにより1ゲームが終了し,該可変表示装置に導出された表示結果に応じて入賞が発生可能であるスロットマシンにおいて,
ゲーム毎に前記可変表示装置の表示結果が導出されるより前に,入賞表示結果の導出を許容するか否かを決定する事前決定手段と,
前記事前決定手段の決定結果に応じて,前記入賞表示結果を含む複数種類の表示結果の中からいずれかの表示結果を前記可変表示装置の表示結果として導出させる導出制御手段と,
複数の遊技状態の間で遊技状態を制御する遊技状態制御手段と,
所定の設定操作手段の操作に基づいて,前記事前決定手段により入賞表示結果の導出を許容する旨が決定される確率を設定値毎に異ならせる複数種類の設定値のうちから,いずれかの設定値を選択して設定する設定値設定手段と,
前記設定値設定手段により設定された設定値を示す設定値データを含むゲームの進行を制御するためのデータを読み出し及び書き込み可能に記憶するデータ記憶手段と,
前記スロットマシンの電源投入時に,前記ゲームの進行を制御するためのデータが適正であるか否かの判定を行う電源投入時判定手段と,
電源投入時判定手段により適正でないと判定されたときにエラー処理を実行する第1のエラー処理手段と,
ゲームの開始操作がなされる毎に,前記データ記憶手段から前記設定値データを読み出し,該読み出した設定値データが示す設定値が前記設定値設定手段により設定可能な設定値の範囲内である場合に前記読み出した設定値データが適正であると判定し,前記設定可能な設定値の範囲内でない場合に前記読み出した設定値データが適正ではないと判定する設定値判定手段と,
前記設定値判定手段により前記読み出した設定値データが適正ではないと判定されたときに,エラー処理を実行する第2のエラー処理手段と,
前記事前決定手段は,前記設定値判定手段により前記読み出した設定値データが適正であると判定したときに,該読み出した設定値データが示す設定値に応じた確率で当該ゲームにおいて入賞表示結果を導出させることを許容するか否かを決定する,
スロットマシン」の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
データ記憶手段に記憶されているゲームの進行を制御するためのデータについて,本件特許発明1はスロットマシンへの電源供給が遮断しても保持する保持手段を備えているのに対し,甲1発明はそのような保持手段を備えているか不明な点。
[相違点2]
電源投入時判定手段が,本件特許発明1では,ゲームの進行を制御するためのデータのうちの設定値データが適正か否かの判定を個別に行わず,保持手段により保持されているゲームの進行を制御するためのデータが電源遮断前のデータと一致するか否かの判定を行う記憶データ判定手段であるのに対し,甲1発明ではそのようなものでない点。
[相違点3]
第1のエラー処理手段が実行するエラー処理が,本件特許発明1ではゲームの進行を不能化することであるのに対し,甲1発明ではエラー表示である点。
[相違点4]
第2のエラー処理手段が実行するエラー処理が,本件特許発明1ではゲームの進行を不能化することであるのに対し,甲1発明ではエラー表示である点。
[相違点5]
本件特許発明1は,前記第1の不能化手段により前記ゲームの進行が不能化された状態においても前記第2の不能化手段により前記ゲームの進行が不能化された状態においても,前記設定操作手段の操作に基づいて前記設定値設定手段により前記設定値が新たに設定されたことを条件に,前記ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能とする不能化解除手段を備えているのに対し,甲1発明ではそのような構成を備えているか不明である点。
[相違点6]
本件特許発明1は,遊技状態制御手段は,予め定められた初期化条件が成立したときに,初期遊技状態に遊技状態を制御する初期遊技状態制御手段と,前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,遊技状態毎に滞在するゲーム数について確率的に求められる滞在ゲーム数の期待値が前記初期遊技状態の滞在ゲーム数の期待値よりも大きい通常遊技状態に遊技状態を制御する通常遊技状態制御手段と,前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果として予め定められた有利表示結果が導出されたときに,前記通常遊技状態よりも遊技者にとって有利な有利状態に遊技状態を制御する有利状態制御手段とを含むのに対し,甲1発明ではそのような構成を備えていない点。

(3-2)相違点についての検討
上記各相違点について検討する。
[相違点1]について
電源供給が遮断しても,データ記憶手段に記憶されているゲームの進行を制御するためのデータ保持するため,データ記憶手段にバックアップ電源で電源を供給することは,例えば,甲第2号証(段落【0066】),周知慣用文献(段落【0028】?【0030】),参考周知文献1(段落【0001】,【0033】,【0045】,【図3】),参考周知文献2(段落【0079】,【0152】,【0153】)に示されるように,スロットマシンにおいて従来周知の技術手段である。
そうすると,甲1発明において,上記周知技術を採用し,相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは,当業者であれば想到容易である。

[相違点2]について
スロットマシンの電源投入時に,ゲームの進行を制御するためのデータのうちの設定値データが適正か否かの判定を個別に行わず,保持手段により保持されているゲームの進行を制御するためのデータが電源遮断前のデータと一致するか否かの判定を行うことは,例えば,周知慣用文献(段落【0029】?【0032】),参考周知文献1(段落【0001】,【0063】),参考周知文献2(段落【0161】,【0171】,【0172】)に示されるように,スロットマシンにおいて従来周知技術である。
そして,甲1発明も上記周知技術もスロットマシンに関するものであり,スロットマシンにおいて,データが適正であるか否かは,遊技店に与える利益,損害及び遊技者に与える遊技価値の多寡に影響を与えるものであることから,データが適正であるか否かの電源投入時の判定が重要なものであることは常識である。そうすると,当業者であれば,電源投入時のデータの判定技術として種々の技術の採用を試みようとすることは当然に想定されるから,甲1発明において電源投入時の判定方法として上記周知技術の採用することに困難性があるとすることはできない。
したがって,甲1発明において,上記周知技術を採用し,相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは,当業者であれば想到容易である。

[相違点3],[相違点4]及び[相違点5]について
相違点3,相違点4及び相違点5は関連しているので,あわせて検討する。
甲第2号証には,主制御部100は,段階設定値が所定の範囲内になければ警告(「EE」エラーの文字表示,発光,警告音)を発生させ(段落【0216】),「EE」エラーが発生した場合,店員が設定変更スイッチの操作を行って段階設定値を新たに記憶させると,新たに記憶した段階設定値を使用して変動表示ゲームの当落を決定し(段落【0217】),次にドラム部2を一斉に回転させて変動表示ゲームを開始する(段落【0220】)旨,記載されている。
段階設定値が所定の範囲内にないという「EE」エラーが発生した場合には,その後の変動ゲームが新たに記憶した段階設定値に基づいて行われるとされている以上,店員によって新たに段階設定値が記憶されるまではゲームが進行することがないと解すべきであるから,「ゲームの進行を不能化」しているものと認められる。また,店員が設定変更スイッチの操作を行って段階設定値を新たに記憶させると,新たに記憶した段階設定値を使用して変動表示ゲームの当落を決定し変動表示ゲームを開始するということは,ゲームの進行が不能化された状態において段階設定値が新たに設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能としているということができる。
そうすると,甲第2号証には,設定値が適正でない時に「ゲームの進行を不能化する不能化手段」という技術事項B及び「ゲームの進行が不能化された状態において,設定操作手段の操作に基づいて設定値設定手段により前記設定値が新たに設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能とする不能化解除手段」という技術事項Cが記載されている。
電源投入時であってもゲーム開始時であっても,データにエラーが生じている状態で遊技を続行させることは,不正データに基づく遊技の結果,メダル払出しを異常なものとして遊技店または遊技者に不利益を生じさせる可能性があることは自明なことであるから,甲1発明に上記技術事項B,Cを適用し,電源投入時及びゲーム開始操作時のエラー処理としてゲームの進行を不能化する不能化手段,及び,ゲームの進行が不能化されている状態において,設定操作手段の操作に基づいて設定値設定手段により設定値が新たに設定されたことを条件に,ゲームの進行が不能化された状態を解除し,ゲームの進行を可能とする不能化解除手段を備えたものとし,相違点3,相違点4及び相違点5に係る本件特許発明1の構成とすることは当業者にとって想到容易である。

[相違点6]について
本件特許発明1の「初期遊技状態」の技術的意義について検討する。広辞苑第六版によれば,「初期」とは「始まって間のない時。初めの時期。」とされていることから,「初期遊技状態」とは「初めの時期の遊技状態」と解されるとともに,一般に,スロットマシンにおいて,「初期遊技状態」とは設定処理またはリセット処理等の初期化処理が行われた後,遊技可能になった段階での最初の「遊技状態」を意味することは明らかである。そうすると,本件特許発明1の「初期遊技状態」も初期化処理後の最初の「遊技状態」と解するのが至当であり,このことは,本件特許明細書の段落【0194】?【0198】のRAMクリア,設定変更後に「初期遊技状態」になる旨の記載,段落【0304】の設定値の変更操作後に「初期遊技状態」とすることの効果(チャンスを遊技者公平に与える)の記載とも整合している。
そして,甲第3号証について検討すると,図7のフローチャートにみるように,初期状態で各種フラグがリセットされている状態では,「通常テーブル」に基づいて内部当選か否かを判定(Sb17,Sb18)することとなるから,甲第3号証の「通常遊技状態」は本件特許発明1の「初期遊技状態」ということができ,当該状態から移行できる異なる「遊技状態」は「BBゲーム」,「RBゲーム」であり,本件特許発明1の「通常遊技状態」に相当するものはない。そして,「滞在ゲーム数」に関しても記載はない。そうすると,甲第3号証には,本件特許発明1の「初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,遊技状態毎に滞在するゲーム数について確率的に求められる滞在ゲーム数の期待値が前記初期遊技状態の滞在ゲーム数の期待値よりも大きい通常遊技状態に遊技状態を制御する」に相当する構成については記載されていない。
したがって,甲1発明に甲第3号証に記載された技術事項を適用しても,相違点6に係る本件特許発明1の構成に至ることはない。
また,甲第3号証に記載されている「発動待ちゲーム」は,遊技可能になった段階での最初の「遊技状態」ではないため本件特許発明1の「初期遊技状態」に相当するものとは認められないが,請求人は「発動待ちゲーム」が「初期遊技状態」に相当すると主張するので検討する。
甲第3号証の段落【0042】には「BBまたはRBの終了後,当該BBまたはRB終了時に選択された発動待ちゲーム数(RT中のゲームは除く)が実行されたことを契機に,・・通常リプレイタイム(RT)に制御する。・・通常RTは,リプレイフラグの当選確率が通常の1/7.3から1/4.5に変動する通常RT1,通常の1/7.3から1/1.2に変動する通常RT2の2種類からなり,通常RTの発動時に振り分けられるようになっている。」と記載され,段落【0111】には「前述した演出用RTと同様に,発動図柄の組合せが揃ったことを契機に通常RTの制御を開始するようにしても良く,」と記載されているが,少なくとも,発動図柄の種類に応じて通常RT1か通常RT2に振り分けて制御すること,「滞在ゲーム数」に関することは甲第3号証には記載されていない。
したがって,「発動待ちゲーム」が「初期遊技状態」に相当するものとして,甲1発明に甲第3号証に記載された技術事項を適用しても,相違点6に係る本件特許発明1の構成に至ることはない。
以上において,請求人の「発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行するように変更する程度のことは,・・設計事項に過ぎない」との請求人の主張について検討すると,仮に請求人の主張の通り設計事項であったとしても,「滞在ゲーム数」に関することが甲第3号証には記載されていない以上,甲1発明に甲第3号証に記載された技術事項を適用しても,相違点6に係る本件特許発明1の構成に至ることはない

次に,甲第4号証について検討する。
甲第4号証には,遊技可能になった段階での最初の「遊技状態」が何であるか不明であるが,スロットマシンにおける常識を参酌して,「初期遊技状態」に相当するものが「通常遊技中」であるとして検討する。図4によれば,「通常遊技中」(通常遊技抽選テーブル62aを用いる遊技中)において,RT作動図柄が揃うと「第1RT遊技中」(第1RT遊技抽選テーブル62bを用いる遊技中)(リプレイ当選確率 1/1.5)に移行し,特別役に当選したことにより「第3RT遊技中」(第3RT遊技抽選テーブル62dを用いる遊技中)(同 1/4.0)に移行するが,特別役に当選することは図柄が揃うこと(図柄が揃うことは「入賞」)ではなく,図柄が揃うことにより移行するのは「第1RT遊技中」しかないから,甲4号証には本件特許発明1の「前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,・・通常遊技状態に遊技状態を制御する通常遊技状態制御手段と,前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果として予め定められた有利表示結果が導出されたときに,前記通常遊技状態よりも遊技者にとって有利な有利状態に遊技状態を制御する」に相当する構成については記載されていない。
したがって,甲1発明に甲第4号証に記載された技術事項を適用しても,相違点6に係る本件特許発明1の構成に至ることはない。
また,請求人が主張するように甲第4号証の「第2RT遊技中」(第2RT遊技抽選テーブル62cを用いる遊技中)が本件特許発明1の「初期遊技中」に相当するとして検討する。図4によれば,「第2RT遊技中」において,所定遊技回数(50回)に到達したことにより「通常遊技中」に移行し,RT作動図柄が揃うと「第1RT遊技中」に移行し,特別役に当選したことにより「第3RT遊技中」に移行するが,特別役に当選することは図柄が揃うことではなく,図柄が揃うことにより移行するのは「第1RT遊技中」しかないから,甲4号証には本件特許発明1の「前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果として予め定められた通常表示結果が導出されたときに,・・通常遊技状態に遊技状態を制御する通常遊技状態制御手段と,前記初期遊技状態に遊技状態が制御されているときにおいて可変表示装置の表示結果として予め定められた有利表示結果が導出されたときに,前記通常遊技状態よりも遊技者にとって有利な有利状態に遊技状態を制御する」に相当する構成については記載されていない。
したがって,甲1発明に甲第4号証に記載された技術事項を適用しても,相違点6に係る本件特許発明1の構成に至ることはない。
以上において,請求人の「発動図柄の種類に応じて通常状態や有利状態に移行するように変更する程度のことは,・・設計事項に過ぎない」との請求人の主張について検討すると,甲第4号証の「第3RT遊技中」は,特別役の入賞により終了(第2RT遊技中へ移行)するものである以上,「第3RT遊技中」への移行条件として図柄が揃う(入賞する)こととすることは不可能なことであって,この点を設計事項とすることはできない。

更に,相違点6に係る本件特許発明1の構成は,請求人の提出した甲第5?7号証にも開示されておらず,かつ,周知慣用技術とも認められない。

以上により,[相違点6]は想到容易とすることができない。

(3-4)小括
以上によれば,[相違点6]について想到容易とすることができないから,本件特許発明1は,甲1発明及び甲第2?4号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到できたものとすることはできず,本件特許発明1の本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。
また,本件特許発明2?4は,本件特許発明1に限定を付したものであるから,当業者が容易に想到できたものとすることはできず,本件特許発明2?4の本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。
したがって,請求人の主張する無効理由は理由がない。

第5.むすび
以上のとおりであるから,本件特許は,請求人の主張する無効理由に理由がないから,請求人の主張及び証拠方法によっては,無効とすることができない。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,全額を請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-21 
結審通知日 2011-12-26 
審決日 2012-01-06 
出願番号 特願2006-106969(P2006-106969)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 保  
特許庁審判長 伊藤 陽
特許庁審判官 秋山 斉昭
瀬津 太朗
登録日 2009-09-04 
登録番号 特許第4368867号(P4368867)
発明の名称 スロットマシン  
代理人 平木 祐輔  
代理人 関谷 三男  
代理人 今村 健一  
代理人 中田 雅彦  
代理人 塚本 豊  
代理人 森田 俊雄  
代理人 渡辺 敏章  
代理人 深見 久郎  

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